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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
5章

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248/365

5-1-裏 おやつじかん:わいどしょーがながれる!

こういうのは割と勢いでサクサク書ける。楽しい。

 ―――15時過ぎの、あるテレビ局の、ワイドショーの、芸能コーナーの、一コマ―――

「では先ほど終了しました会見の模様をかいつまんでお伝えしますね。藤岡さんお願いします」

「はい、まずは今回の会見が開かれた経緯からお伝えします」


 藤岡という四十後半の女性芸能リポーターが、MCのフリーアナウンサー、徳島からバトンを引き継いだ形で、解説を始める。

 顔の横に視聴者にも見えるサイズのモニタがぴろん、と電子音と共に変化する。

 テレビの画面の右上に表示されたテロップは「一時復帰の元パピプ神木美緒さんに対する一部週刊誌記事への反論会見」である。


「最初のきっかけとなったのは先週発売になりました週刊誌『劇報! トクベツ!!』で先行ネット配信されたスクープ記事です。内容としては神木さんの現況として新しくできた恋人との熱愛・半同棲報道、さらには現在の健康状況などを小出しにした先行版で、詳細な内容については発売した本誌に記載されているという情報の出し方をしております。これについて、まず発売された『トクベツ!!』側の掲載内容をまとめておりますので、どうでしょう? モニタに出ますか?」


 会見後の素材を編集しながらであるせいで、少し手間取っているようだ。先ほどと同じぴろん、という音と共にモニタの左半分に「トクベツ!!」の取材内容が列挙された。


「あ、出ましたね。ありがとうございます。掲載内容によれば神木さんはレジェンド・オブ・クレオパトラ号の事件後にひどく心身にダメージを受け、一時入院生活を送っていたと。その入院生活の中で芸能活動の引退を決意し、その上で静養に入ります。その過程で親身になって公私に渡りサポートしてくれる男性A氏と恋愛関係となったということです。知人の親族だったことから以前より友人関係を続けていたところ、それが恋愛感情へとかわったということなんですね。彼女の引退後の展望が開けたのは彼の支えがあってこそだという表現になっています」

「なるほど、傷ついた神木さんをサポートする形で徐々に信頼関係が醸成されて」

「はい、そうして現在はA氏の住んでいる豊島市へと神木さんが転居してほぼ同棲に近い形での新生活を始めたと。A氏の仕事が大手飲食チェーン店の従業員でいまはお互いに支え合う関係になっているということでした」


 モニタに藤岡が言った内容が箇条書きで列挙される。


「で、逆にです」


 ここでぱん、と柏手を打った徳島がモニタ傍までつかつかと歩みより、モニタの縁をばちんと平手でたたく。

 そこでの顔はすこしばかり険しい。


「はい。今回会見を行ったパラダイス・ピクシー・プリンセス運営会社の方々と神木さんの元マネジャー。さらに急遽現場で知らされたためにスタッフも知らなかったんですが、本来の予定にはない神木さんが直接ではありませんがリモートという形で療養先からの短時間お話をされました。ではその会見とその後の神木さんの映像をご覧ください」


 藤岡もすこし顔をこわばらせてVTRをふる。

 会見時の映像が流れる、一斉にフラッシュがたかれる中で現れる派手派手しい服装に身を包んだパピプ総合プロデューサーのSHOWICIとかっちりとしたダブルのスーツ姿のグループ統括である老田という運営のツートップ。そして少し離れて芸能関係者と思われるすらりとした小綺麗なスーツ姿の男性が一人会見のテーブルに着席した。

 司会からSHOWICIと老田。さらに離れて座った男性が神木美緒の元マネジャー間島であると説明がなされ、頭を下げた彼の映像にテロップが表示さる。各局のリポーターによる質疑応答が始まった。時間にして約三十分ほどのそれは目ぼしいところ以外はナレーションベースでカットされる。

 そんなこんなで一通りの想定質問が終わり、ガラゴロと大型モニタが運ばれ、そしてそのモニタに神木美緒の腰から上の画像が映し出される。司会役から主治医の同席のもとで短時間ではあるが会見に出席したいと神木美緒本人から申し出があり、療養先のホテルからのリモートでの参加をすることとなった、と説明。

 会見場は事前の説明のなかった展開にざわめく。

 ざわめきが消えないまま、リモートで会場とホテルが繋がれ、レジェンド・オブ・クレオパトラの事件以降初めてとなる神木美緒が動く姿が映されることになった。

 接続の際のラグで少しカクカクと画面が固まったあと、映し出される神木美緒の姿。


 それを見た全員が思う。


 あまりにも、あまりにも痛々しい、と。

 最後に彼らが記憶するミオミオと今目の前に見えた画面越しの神木美緒が同一人物なのかとすら思ったものがいた。

 顔色は画面越しであっても明らかに悪く、どうにかチークやファンデーションで隠そうとしたような跡がわかる。化粧に詳しくない男性であればそうでもないだろうが、普段から化粧をする女性からすれば一目瞭然。健康状態に不安を覚える。

 目元のクマもひどい。眼鏡をすることでそこに視線を持って行かないようにと配慮したのだろうが、最初の顔色の悪さを見たことで、そういった細かなところに逆に目がいってしまう。濃く、はっきりとしたクマ。さらには腫れぼったいように見える若干赤みがかった白目。彼女の疲れがありありと感じられた。

 電波状態が安定してさらにクリアに美緒の顔が映し出される。すると恐らく視聴者側への配慮だろう。ニット帽をかぶり、その下がどうなっているかを判別困難にしたかったのではないか。だが、目ざとい人間は気づく。ところどころ隠せずに飛び出した髪の毛が幾筋かある事に。そしてその全てが痛んでおかしな方向へと跳ねている事に。

 キチンと栄養は摂れているのか。ぐっすりと眠れているのだろうか。

 人前に出る仕事で、多くのアパレルとも関係のあった美緒とは思えないほどの無頓着で統一性のない服装。色合いやトーンもバラバラで季節感も狂っている。

 少なくともバラエティや音楽番組でかかわりのあった人間は彼女のセンスを知っている。衣装に着替える前の私服であったり、スタイリストとの会話の中でのちょっとしたこだわりだったり。そんな自分への配慮が一切見られない。

 そういった余裕すらないのだろうか。

 そう考える皆の前で美緒がうっすらとほほ笑んで挨拶と今回の顛末、そしてファンに対し事件後に何も言わずに引退となったことへの謝罪を行う。

 それがまた痛々しい。

 質問も受けるということであったが数は限定して、となった。

 流石にこの状態の彼女へと強い攻めた質問はためらわれ、ある程度落ち着いた常識的な物が問われ、それに美緒がつっかえつっかえ答える。

 以前までのはきはきとした口調と強い意思を感じる輝きを持っていたはずのミオミオとは別人のような画面向こうの人物。

 そしてVTRが終わる。


「……と、いうわけで先ほど行われたパピプ側、神木さん側の会見をご覧いただきました。えーと轟さん。轟さんは何度か神木さんとはバラエティで共演されたことがあったと思いますが?」


 コメンテーター席にいる芸人、ガウチョ轟に話を振る。


「そうだねぇ。……いや、ちょっとショックだなぁ。いや、番組で共演させてもらったことは何回もあるんだけど、あんなトーンでどう話していいのかわからないってミオミオ、神木さんを見るのは初めてで……。今回彼女の希望で顔だけでも出しておきたいからリモートで、って話だけど。今回は周りの大人が少し落ち着いてからにするように口出しするべきだったんじゃない?」


 当たり障りのない、それでも彼女を気遣う台詞。ある程度は毒を吐こうか、笑いを加えようかと思ってはいたのだが、あまりにも美緒の風貌に勢いを削がれた。ガウチョも芸人である前に人間である。そういうボケをやって良い時と悪い時くらいはわかるのだ。わからない奴は早々に消えていく。

 同じく主婦代表という形の五十代会社経営者が続く。


「私の娘がちょうど同世代でして。それを思うと親世代の感情としては可哀想になりますね。第一犯罪被害者である彼女が新しい一歩を踏み出そうという時にどうして背中を押すのではなく、足元を蹴りつけようとするのか……。モラルの問題ではないでしょうか」

「その通りですよ。しかも半分以上一般人である彼女のプライバシーをつまびらかにして、しかもその内容が大分違うようじゃないですか!」


 ガウチョが憤る。


「ええ、その双方の言い分の違いを今から説明しますね。では藤岡さん」


 ガウチョからのまさに絶好のパスが飛んでくる。

 それを受けてスムーズに藤岡へと主導権を移した。


「はい、パピプ側からの反論の内容です。これに関しては『トクベツ!!』の先行配信後に、すぐにマスコミ各社へ文書での訂正をパピプ側が行っております。今回の会見もそれに準じた形の再通知という意味合いの強い物でした。では、まずそもそもあの恋人だとされたA氏はどういう方なのか」


 あの内容変更のぴろん、という音。

 モニタの右半分にパピプ側の反論が⇔で表示された。


「パピプ側からの説明によれば『トクベツ!!』ではA氏はまず事件以前からの友人関係である、としているところから間違っている。A氏の職業などの大まかには正しい情報もあるが、神木さんと知り合ったのはシージャック事件以降であると。それまでは一切の接点は無く、A氏はテレビでよくお見かけしたというだけであったそうです。治療と社会復帰の面で犯罪心理・行動学を研究する大学のゼミが事件後に神木さんのメンタルヘルスをサポートすることになったそうです。そのゼミ生の数人とその中で友人となった。そしてその友人の親族の方がA氏である、とのことですね」

「成程、まず一番最初の友人関係であるという点からして間違っていると」

「はい、パピプ側はそのように説明しています。そしてA氏との飲食店前での風景とされるツーショットの写真についてですが、この写真が撮られた際。実は同じ場所にそのゼミの関係者と元パピプの藤堂ユイさんが同席しています。これに関しては藤堂さんが元所属事務所を通して間違いないと補足しています」


 モニタに表示された「トクベツ!!」側の内容に当てはめる形で「二人きりではなく、複数人での会食」とされた。


「豊島市内の飲食店での撮影に疑問を受ける方もおられると思います。これについては先ほどのゼミの教授同席での『光速の騎士』の出現ポイントをめぐるというメンタルケアの一環として、つまり一種の対処療法“みたいなもの”として行われたものだ、と」

「つまりはこの食事会は治療と?」

「いえ、そこまでのものではなく、気晴らしに近いものだということです。部屋にこもりがちになった神木さん本人が、自発的に訪れたいと希望を出されたので、少しでも外出機会を、という考えで。さらに事件のフラッシュバックなどの万一を考えゼミ関係者や友人である藤堂さんが同席することになったということのようです。その過程で丁度同市に居住しているA氏に案内を頼んだ、というのが事実のようで。A氏が神木さんと直接会ったのはこの時が初めてであるということです。今日の会見をした時点まででA氏は神木さんと都合五回ほどお会いしていますということです」

「書面での記載時は確か三度ほどとなっていましたが?」

「はい、それに関してはこの報道の後神木さんから、A氏へと直接ご迷惑を掛けたと謝罪に伺ったりした際などに、新たにお会いした回数を追加・訂正したということです」

「なるほど」


 一つ一つについて反証していく。


「このことから足繁くA氏の元へと神木さんが訪れ、ショッピングや食事などのデートをしていたということもなく、豊島市のショッピングモールでの目撃情報も虚偽であるとしています。何度か訪れたことはあっても二人きりでお会いしたことは無い、と断言しています」

「それに加えて、半同棲に近いという報道も否定されましたね」

「はい。そちらについては書面での説明に加え、新しい情報も提示されています。まず、当然ながら同棲生活はしていない。これが一点。そして新情報として神木さんは転居して新生活を始めましたが、その住居でルームシェアをしているという新たな情報がありました」

「これは驚きでしたね」

「そのルームメイトが、先ほどの説明にも出た藤堂ユイさんであるということです。同じ経験をした友人と、回復するまでは支え合いながらゆっくりと生活をしたいということを希望されていたようですね」


 モニタに最後に残った「トクベツ!!」側の「半同棲生活」という項目に、「ルームシェアを藤堂ユイさんとはじめた」と⇔が入った。


「……いや、これからこのパピプ側の説明が正しいのかどうかの取材はすると思うんですが、藤岡さん」

「はい」


 MCの徳島が眉を顰める。


「ここまで真っ向から内容が違うとなると……。どう考えればいいんでしょうか」

「パピプ側は『トクベツ!!』側に謝罪と出版差し止め・回収まで含めた対応を求めています。逆に『トクベツ!!』編集部は独自取材に基づく信用できる情報ソースを元にしているため、受け入れられないというアナウンスが番組開始前直前に編集部管理のSNSとホームページに掲載されました」


 そのホームページの掲載された文章が画面いっぱいに映る。


「さて、これは複雑なことになってきましたね、轟さん」


 そう言って徳島はガウチョに再度話題を振る。

 実のところ事態を複雑にして、さらにぐちゃぐちゃにしているのが無責任なこの一連の流れなのだが、この日の各局ワイドショーは軒並み前日比一パーセントほどの視聴率の向上が見られたことを追記しておく。

 どこにでも下世話な話題が好きな人間はいるのものであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 人の噂も七十五日といーますし、騎士が大暴れ+㌁して記事を潰すとかしたら面白いかなぁ。
[良い点] よかった・・・リモート会見中に「騎士」がフレームイン して事態が明後日の方向に飛ぶことはなかったw 杉山氏がそばにいてトラブルが発生しない方が珍しい からねw
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