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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
4章

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196/366

6-了 直接的な胃痛を発症せしめる事案によるストレスが与える将来的な頭皮への不安について真摯に考察するに至るある深夜の一幕

※登場人物の名前を間違えていました。

ネモフィラ⇒アネモネに修正します。 R2年9月27日

「終わったぁ。……ぐ、ぉぉぉっ!」


 照明も消え、真っ暗な「森のカマド」の裏口で茂は大きく伸びをしていた。

 大きく体を伸ばしながら左右に揺らす度にぱきぱき、と大きな音がしている。


「お疲れ様ー」


 店内の火元などの最終確認と、従業員用の裏口の施錠を終えた伊藤が鍵束をじゃらじゃらと手に持って茂に話しかける。

 周りはもう真っ暗で空にはうす雲に半分隠れた月が浮かんでいる。


「ほい、じゃあサインお願いね」

「ういーっす」


 伊藤の手には用箋挟に綴られた今日の分の施錠確認のチェックリスト。

 その最後の部分の店舗の施錠確認の項目にサインする前に、従業員用の裏口のドアノブに手を伸ばす。

 ぐり、と回して鍵がかかっていることを確認。

 まず茂がボールペンでサイン、その後にダブルチェックとして、伊藤がサインを書きこむ。

 他の従業員はもう先に帰宅しており、伊藤と茂が最後の二人であった。


「さて、これで本当に本日の業務は終了。お疲れ様でした」

「あ、お疲れ様です。じゃあ、俺、今度は明後日なんで」

「ん、わかった。……しかしなぁ。やっぱり余っちゃったなぁ」


 伊藤がふう、とため息を吐いたのはチェックリストにホチキス止めされた納品の伝票の束だ。

 横から覗きこんだ茂が申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「午前のママ友系の常連も少なかったって引継ぎで聞きましたし。でも、一番は部活帰りの学生連中が来なかったってのがやっぱ痛かったですね」

「そうなんだよ。市内で「光速の騎士」関係の事件が起きた後の外出は避けようかって風潮が出たからね。学生に関しては小中高と自宅待機だし。食事系のメニューは残念な感じになっちゃったね」


 苦笑する伊藤に、居た堪れなさを感じる茂。

 完全にその原因の一つが自分であるのは間違いなのだから。


「それでも、「騎士」ブーム前のころと比べてなら、アベレージの売り上げ自体はトントンかちょっと稼いでるくらいだし。まあ、今回のコレで平常運転ってところでしょ」

「そういうもんですか」

「正直問題になるとすれば本部の固定メニューとは別の、店舗裁量で用意したメニューの物だしね。でも賞味期限自体はまだまだ先だし、明日の発注数で少し調整したからまあ、大丈夫」

「……そうですか」

「下手をするとまた「騎士」目当てで新規のお客さんが増える可能性もあるし。その辺りが読めないのが難しいんだよね。県外のお客さんの流れがわかんないからさ」


 伊藤は用箋挟をリュックサックに入れて背負うと、ポケットから車のキーを取り出してみせる。


「乗っていく? 近くまで行ってそこらで落としてあげてもいいけど」


 ありがたい申し出を伊藤がしてくれる。

 ふふ、と笑って茂が返す。


「いや、ちょっと色々コンビニとか寄るんで。今日は結構です。ありがとうございます」

「そっかぁ」

「それに、やっぱりー。店長に送り狼されるのは、怖いんでー」


 冗談っぽく、しなを作って見せる。

 一瞬きょとんとした伊藤がふふ、と微笑んでそれに乗ってくる。


「ええー。いやあ、杉山君も魅力的なんだけどー。僕の好みは君より二十センチは身長が低くてー。君みたいなひょろりとした感じより、もうちょっと柔らかそうな体型でー。髪の毛はもう少しロングでー。あと最後に言うなら僕が送り狼をするに一番大事なのは、相手は男性ではなく、女性であって欲しいかなーってとこだねー」


 伊藤に見事にタイプで無いのでお断り、とされた茂は、がっくりと肩を落として見せる。

 うなだれて下に向けられた顔がにたにたと緩み、肩が震えて来る。


「あっははははは!」

「ははははは!!」


 深夜の駐車場でいい大人が何をじゃれているのだろうか。

 とはいえ、幾つになろうとも男など結局こんなものである。

 要はバカなのだ。


「まあ、バカ話はこれくらいにして。じゃあ、気をつけて帰りなさい」

「あはは、そうですね。じゃあ、今度こそ本当にお疲れ様です。おやすみなさい」

「うん、おやすみー」


 車に乗り込んだ伊藤がクラクションをプッ、と一つ鳴らして駐車場を出ていくのを茂は軽く手を振って見送る。

 ちかちかとウインカーが瞬き、伊藤の車が遠ざかって行った。


「……帰るかぁ」


 わしわしと髪の毛を掻きながら茂が帰路につく。

 暫くの間てくてくとただただ歩く時間が過ぎる。地方の深夜、人通りどころか車すら然程通らない。

 そんなさびしい道を歩きながら家までの道中にあるコンビニのどれに寄ろうかと考えていたところであった。


 プップー


 後ろからクラクションを鳴らされる。

 何事かと振り返ると、ハイビームになったライトで良く見えない。

 眩しさに目を細める茂。

 車はゆっくりと停車し、ハザードを焚いて運転席から人が降りてきた。





「……わざわざ待ってたんですか? こんな夜遅く、というかもうすぐ日付変わりますよ?」


 助手席に乗せてもらった茂は、運転席に座る人物に話しかける。


「いろいろご連絡しておかねばならないこともありますので」

「電話でもいいんじゃないですか?」

「直に話した方が良いこともありますから」


 運転席の門倉は、そういって笑う。

 伊藤の車を断ったのに、結局人の車に乗っているのが少しばかり尻の収まりが悪い。

 ただ、門倉の方に関しては喫緊の可能性も十分以上にあるうえに、夜食代わりにテイクアウトでチーズバーガーとポテトにコーラが準備されていたぶん、断りづらい。

 実際のところ、ちょいとばかし腹は減っている。


「それで、話すことってなんすか? あの一団の件、クジョーの奴の件、それ以外になにか、……うわ、あり過ぎて絞れんな。マジか……」


 思い返そうとすると、怒涛の波の如く色々な面倒事の未解決事案が思い起こされる。

 正直、オーバーヒートしそうなくらいだ。


「取り敢えず、まずはホワイトラン博士たちの件ですね」

「はぁ」


 深夜23時まで営業中、というパチンコ店の駐車場の端っこに車を停め、どうぞ、とバーガーを勧める門倉。

 その様子から短い話ではなさそうだ、とテイクアウトの袋を開ける。

 むわっ、としたあのハンバーガーセットの独特な匂いが車内に満ちる。

 窓を半分だけ開けて車内にこもらないようにしつつ、がぶり、とチーズバーガーを齧る。


「橋での事故は運転手は道を間違え、混乱し、ハンドル操作を間違えて、スリップ・炎上したという形へ持っていきます。当日の豪雨と落雷による周辺地域一帯の電源の喪失による照明の消失、信号機の故障があり、慣れない土地でパニックになったということで。ただし、一部の動画サイトであなたの当日の映像が出ていまして。これに関しては仕方ないのであなたが運転手を救助した、という事にします。これを一応のカバーストーリーの骨子として進めています。橋の通行ができなくなったことによる損害などもありますが、今週中には補修が終わるようにこちらから手配も進めました」

「……そんなことできるもんなんですか?」


 ちゅう、とコーラを飲みながら門倉を見る。


「我々が公に動けるものではないという一方で、その在り様に一定の理解を示していただいたところもあります。雄吾様から政府筋に働きかけをおこなっていまして。「光速の騎士」が動く場合、しかも「騎士」でなくては解決にたどり着くのが難しい事案に関しては、協力体制を結んでおります。本件に関してはそれに該当するという判断ですね。まあ、それでもある程度は向こうへと引き渡す必要があるでしょうが。……これも秘密裏に、ですが」

「めちゃめちゃ警察が動いてたと思うんですが」


 あの大騒動の後、全力でケツを巻くって逃げ出したのだが、後始末に門倉含め数名が残ったわけだ。色々と事前の工作活動をしていたらしく後はお任せを、という感じだったのだが。

 ふ、とダンディな渋い笑みを浮かべる門倉。


「警察組織内で特異能力者専門のチームが創設されています。そこに他部署からのサポートメンバーを加え、ある程度の権限を持たせて、今回の案件はそこを主導にすべて移管されました。幸いにも負傷者などの人的損害は関係者、しかも加害者側のみ。一般の民間人に及んだのは経済的な被害、要はお金だけ。人的損害が無い分、補償・対話でどうにか落としどころを見つける予定です。「光速の騎士」が人命救助に関わったということに“した”ので道筋がつきました。その点、昼過ぎから拡散が始まったあの工場での迷子の動画を上手く利用出来ました」


 そう言われると困る。

 普通の迷子の動画が流されるなど、恥ずかしいだけなのだが。

 できれは削除依頼を出して欲しいくらいなのだが。

 きっとそんなことは出来ないのだろうが。


「じゃあ、捕まえた奴らは? 結構人数いましたけど、全員どうするんです?」

「雄吾様が今、北米へ出張しています。本来の目的外の別件ではありますが、そちらも交渉していただいています。……全員軍属、若しくは元軍属、及び関係者として取り扱うことになると。軍事機密の強奪、さらに国外のアウトオブコントロールでの無断使用ですから。本国へと移送、その後軍事法廷での処分となります」


 ストローから口を外し、カップを傾けるとぞぞ、と氷が動く音がする。

 茂は手につかんだそれを所在なさ気にざらざらと軽く振って、少し冷えた息を吐き出した。


「と、なるはずでしたが……」

「ん?」


 門倉が言葉を濁した。


「日本側に下駄を預けるつもりのようです。……あのアーマーについての責任者。その人物が急に、マルマルリッキーの動画が公開されたその日に無断で欠勤し、“行ったことも無いような田舎の湖で貸ボートを出して、経験のないバス釣りの最中に”亡くなったそうです。ライフジャケットを着て、湖面に浮かんでいるのが見つかったとの事です。地元警察の発表は、事故でしたが」

「……怖っ。あの時の台詞って、そのフリってことですよね?」

「ええ。そういう事です。後から聞いても唐突に何のことかと思いはしましたが、こういう形で繋がるとは……」


 何のことを言っているのかは容易に想像できる。

 茂とて、自分が来る前にクジョーたちと皆の間で、どんな会話がされたのかくらいはチェックしている。

 その田舎の地方紙が運営しているサイトから引っ張ってきたもののコピーが横から差し出された。

 見出しと本文は英字でまるで読めはしないが、にこやかに笑う軍人の写真と現地のレスキューが“何か”を担架に乗せた写真の意味くらいは分かる。


「危険物ではなく、かつ一般にも流通するような廃棄予定の備品の横流し、ということにするそうです。もちろん、厳密な誓書などは書かせるとの事です。いまから金と情報の流れを事故死した方の持ち物からサルベージして、追跡する様でして。正直、火中の栗を拾いに日本まで来るような暇は無い。日本側の窓口として白石グループが間に入ってくれるなら貸し一つ、ということにしたいと。無理をして国内に被害が発生するリスクを犯す必要性は感じないのでしょう。寧ろ同盟国内で対超人の対抗策についてサンプルを集めてくれるなら、終わった後でレポートを提出してくれれば構わないのでしょうな」

「政治……ですか」

「政治ですね」


 それを聞いていやぁ、関わりたくねえな、と身震いする茂。

 その様子を生暖かい視線で見つめる門倉。茂が何を考えているくらいは予想しているのだが、敢えてそこには突っ込まない。

 言おうが言うまいが、どっぷり頭からつま先まで関係者なのだから。


「一応、そういう事ですから“そちら”ルートの諜報活動は減っています。まあそれでも少しは残っていますし、そのルートでない者も残っていますがね。こちらでわかる限りのルートは潰していただくように情報提供しています」


 どこへ、とは言わないがまあ信じてもいいのだろう。


「そういう事で、総責任者のサンタナ・ホワイトラン博士。そしてテストパイロットの四号ジェイク・スタイン。同じく五号、アネモネ・ホワイトラン。そして帰国希望者を除く逮捕者の身柄は我々と特異専門チームに一任されます。向こうの略式での軍事法廷が結審次第、不名誉除隊・罰金刑とされる予定です。懲役刑では日本国内に滞在できなくなりますからね」

「巨大化していくとめんどくさいことになりません?」

「ですから、先にお話をしておこうと思いまして」


 ひょい、と門倉が茂の持った袋からポテトを一つ摘む。

 ぱく、と口へと放り込む。


「……朝のミーティングでお願いしましたが、こちらとして最大限の杉山さんの身分を隠せるよう、努力はしています。ですがもうそれだけではどうにもならない所まで、事態が進んでいまして。ある程度の人員までは、そこを明らかにせねばなりませんから」

「まあ、そりゃ仕方ないですけど。……少しばかりは身から出た錆、ですしね」

「ご理解いただけているようでありがたい」


 にこり、と門倉が笑う。

 茂はがぶり、と残りのチーズバーガーを咥える。

 もくもく、と噛みしめるととろけたチーズの香りが口と車内一杯に溢れ出す。


「ですので、本当に“最低限”の人員までに絞りました。いや、好都合な方がいましたので、こちらもほっ、としまして」

「……ん?」


 チーズバーガーを咥えたままで疑問符を浮かべる茂の視線にも、門倉は笑みを崩さない。

 そんな二人だけしかいない深夜のパチンコ店の駐車場の端っこ。

 そこへと、国産のSUVが駐車場に入ってくる。

 パチンコ屋のネオンに照らされたその車は、目にも鮮やかな赤。

 その車がすす、と速度を落としながら停車する。

 そう、門倉の車が止まる駐車場の端っこの所へと。パチンコ店の店舗入り口には深夜ということもあり、広々としたスペースがあるというのに、わざわざ端っこに。

 しかも、門倉の車の真正面だ。

 点灯しているライトの逆光のせいで、その運転席をうかがい知ることはできない。


「んんんっ!?」


 茂は咥えたバーガーのせいで声は出ない。

 だが、それは言葉にすれば“はぁっ!?”という疑問符だっただろう。

 特に言葉になるわけでもない。


 バタンッ!


 SUVのエンジンが切れ、ライトが消える。

 逆光でなくなり、眩しさにくらんだ眼が慣れる。


 コツコツコツ!


 ひび割れた駐車場をブーツが踏んでいる音が近づいてきた。

 その足音の主は迷うことなく、助手席側に回り込むと身を屈めて半開きの窓を軽くノックする。


 コンコンコン!


 茂は軽い音のしたそちらにぎぎぎ、と錆びついたような首ごと視線を向けると、そこには見知った顔。

 きらりとシルバーフレームの眼鏡がネオンの光を反射する。

 にこり、と笑う美女。


「お久しぶりです。杉山茂さん」


 ぱちぱち、とチーズバーガーを咥えたままの茂が固まったまま、激しく瞬きをする。


「そして、「光速の騎士」。その節は、二度もお助けいただきまして、直接のお礼も言えませんでしたね? 改めまして、ありがとうございました」


 ゆっくりとそして深々と頭を下げる美女、火嶋早苗。

 その感謝の意を受けて、「光速の騎士」こと杉山茂は、運転席の門倉に無言の助けを求めるようにぎぎぎ、と錆びついた首をまた動かした。


「ええ、彼女が向こうの担当者ですよ。いやぁ、本当にこういう好都合なことがあるものですね」


 にこりと、満面の笑みを浮かべた門倉に、茂はもうどうにでもなれとヘッドレストに後頭部を沈め、口の中のチーズバーガーを腹に機械的に落とすことに決めた。

 きりきりと急に痛み始めた胃には油気の強いチーズバーガーはきっと体に悪いことだろう。


(チーズ、胃に重いなぁ……。俺、若いんだけど。禿げたらどうしようかぁ……)


 疲れたなぁ、とどこか他人事のように茂は車の天井を見つめていた。

ビッ○○ックが大好きです。

ですが、生まれてこの方、いちども上手に食べれません。というかあれ、刻んだタマネギをあのケースにこぼさずに食える奴、この世界にいるのだろうか。絶対に取り出そうとした瞬間にこぼれるじゃん。

最後あのタマネギをケースのヘリを使って食べるときになんか悲しくなるのです。


と、いうわけで本章も終了、ありがとうございました!


終了……?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] パチンコ店は、0時閉店では?
[一言] 私は箱から出して紙ナプキンで包んで食べます。 なんで箱なんでしょうね、アレ。
[一言] > 最後あのタマネギをケースのヘリを使って食べるときになんか悲しくなるのです。 ケースを悲しみごと捨てよう(提案)
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