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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
1章

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3-8 フリーク のち 矜持



「そうかぁ、マドカは6位か。去年は4位だったのにな。そりゃあ、あそこまで言い逃れできない熱愛写真が出りゃ、順位も落ちるわなぁ」


 杉山猛は缶ビールを片手に、チータラを齧る。

 熱心に見つめる先のアイドルは近年、パピプの中でも神木美緒の後を継ぐエースとなるだろうと言われた逸材だった。

 だが、このプリンセス・オブ・プリンセスのイベントの概要が発表され、投票も中盤に差し掛かったところで、あるミュージシャンとのお泊りデートが報じられて、急激に失速したのだ。

 止めとばかりにそのスクープ記事を載せたトッカン直撃班のデジタル画像も、本誌発売と共に一斉配信され、その直撃班に言い逃れできなかった彼女は、事務所から休養という名目で、今日まで表舞台から姿を消していた。


「うわ、マジか。ここで卒業発表?いや、ネットでボロクソに叩かれるぞ、マドカ。事務所も今後の売り出し方あるんだから、考えて動けよ……」


 画面内では涙ながらに語る6位のアイドルが、今までの応援への感謝、今後は演技を中心に活動していくこと、さらにパピプへの感謝をあふれ出る想いと共に語っている。


「いやぁ、本当はいい子なのになぁ。あのミュージシャン、昔から女癖悪いのに。変なのに引っかかっちゃって。マドカ大丈夫なのかな」


 ちびちびとビールとチータラをつまみながら、感想を述べる猛。

 スクープを撮られたミュージシャンは、数カ月に1度くらいのタイミングで誰かしらと浮名を流す人物で、ワイドショーのお得意様だ。

 清純派で売っていたマドカにとっては致命的なスクープであり、結果として今回のこの凋落へとつながったのである。

 総得票数で前年より3万票近くのダウンがとても大きかったのは間違いない。

 画面ではパピプOGのタレントが彼女との活動の思い出を語りだす。

 つられてゲストが涙ぐみ、OGもつぅと一筋の涙を流していた。


「うわ、キョーコも泣いてるじゃん。昔から仲良しだったからな。……あ、今回の卒業は聞いてなかったのか。うんうん、きっとマドカも一人で悩んだんだなぁ」


 長年ともにがんばってきた仲間の卒業を喜ぶ卒業した女性タレントの姿に、なんとなく目頭が熱くなる。

 酒のせいか、どうも彼女に感情移入してしまったようだ。


「えーと、そうなると11位の子が繰り上がり?あ、卒業時期は事務所と検討するんだ。じゃあ、次のシングルは出てからにする気かぁ」


 スマホで開いていたパピプのファン交流の総合掲示板には、“応援するぞ”“俺は信じてる”と“金返せ、糞が”“その席はお前じゃねぇ”という言葉が半々で飛び交っている。

 どんどんと目で追えないくらいの速度でコメントがスクロールしていく。


「裏切られて、なおも愛を捧げるか、罵倒して憂さを晴らすか……。醜いねぇ」


 そう言いながら猛は無塩アーモンドの袋を空ける。

 ビール類と共に買い込んできたおつまみだ。


「もっとおおらかな気持ちで、推しを応援する……。それこそが真のファンというものだよ、皆さん」


 自分に酔っている風情の(実際に酔っているのだが)猛が、こりこりとアーモンドを噛みながら、スマホのコメント欄を見ながらつぶやく。

 ただ、一つ言っておくが彼は昨年のこのイベント時期に神木美緒と同時に推していたプリンセスが同じような熱愛報道をされた時、荒れに荒れた。

 それは凄い荒れようで、翌日会った友人は猛の酷い憔悴具合に、親でも死んだのか、と尋ねる程であったことを追記しておく。


「え、CM?マドカまだ話してるんじゃねーの?駄目だろその切り方!」


 MCのフリーアナウンサーが唐突に感動的なコメントの真っ最中に、CMへと放送を切り替える。

 画面にはパピプのメンバーの出演する来月公開の映画のCMが流れていた。


「うわぁ、荒れてるぅ……」


 それを見て、恐る恐る掲示板を覗くと、マドカへの批判は消え去り、テレビ局とCMへ切り替えたフリーアナへの罵詈雑言のコメントが怒涛の勢いで流れている。

 猛も一ファンとして、そうしたコメントを流す心理が判らないことは無い。

 一昨年の人気プリンセスの卒業(熱愛とかではなく、学業目的で)の際のコメントのCM挿入はそのプリンセスの好感度が高かったこともあり、一時テレビ局のサイトに繋がりにくくなるほどの批判が殺到した。

 その轍を踏むまいとテレビ局側も必死に考えていたはずなのに。


「CM明け、どうなるんだろ。この感じだと徳島さんが謝るしかないぜ。マジで」


 何でもそつなくこなすフリーアナに失態を押し付けて逃げるんだろうな、と猛は思った。

 そして、全国のパピプファンも、なんとなくテレビをつけていた多くの視聴者も。


 だが、事実は彼らの想像を超えてくる。

 その時見ていたすべての人々が、間違いなく度肝を抜かれる。



「………、「光速の騎士」の装束をまとった人物がその何かと戦っています!!!」


 テレビから流れる大音量の爆音と、それに負けない様に叫ぶ現場のキャスター。

 何よりも画面いっぱいにズームされた「光速の騎士」が、その両足で立ち上がっている映像を見てすべての視聴者が叫んだ。


「うそぉぉぉっ!!!!?」




 黒木兼繁クロキカネシゲ

 戦国時代中期~終期の地方豪族、武将。甲斐中部、蝉城の第5代城代。諱は是定、通称は定良。幼名は犬丸。変名前の家名は村井。

 齢12にて戦場にて首級を上げたと戦史にて記載が残る。

 所領の安堵を求め、有力武将黒木家に仕える。戦場では大太刀の達人として「鬼人」と呼ばれ敵に恐れられる。15にて主家の黒木元十郎の三女(名は残らず)と婚姻。黒木兼繁と名を改める。

 27の時、敵国への内通の嫌疑をかけられ、身の潔白を訴えるが、退けられる。

 城代として入っていた蝉城にて籠城。鎮圧を命ぜられた義父の黒木元十郎と袂を別つ。

 蝉城内へと討ち入った雑兵15名を単身切り捨て、最後は火縄銃の一斉射により討たれたとされる。

 愛刀の大太刀「熊潰」はその際、戦火へと消えたと伝わる。

 妻の三女は菩提を弔う為、尼寺へと出家。嫡男・子女は元十郎の養子となる。

 嫡男兼良は関ヶ原の乱にて東軍の将として活躍したと黒木軍記録に残る。

 1万石の所領を得、明治期まで徳川家を支えるが、戊辰戦争時に徳川側へと参戦。会津にて黒木の本家血筋は途絶えた。

 後年発見された近郊寺領の資料より兼繁内通の嫌疑は、敵国の策略ないしは兼繁への褒賞に嫉妬した黒木家嫡流の家臣団による権謀の可能性が示唆されている。

―検索サイト・オシラベデスネーより一部抜粋―




 ホテル・スカイスクレイパーのフロントより緊急の通報を受けて駅前交番の警察官2名が到着した。

 「光速の騎士」関連で集まった人々の整理もあり、いつもよりも多くの警察官が金曜の夜に街の各所に臨時で動員されていたのである。

 集まりが悪く最初に到着した警官2名だけで、まずはホテル内部へと踏み込もうとした瞬間であった。


「ぉぉぉおおおおおお……!」


 何かが叫びながら真上から降ってくる。


ドンッ!!


 鈍い音を立ててレンガで覆われた駅前の広場に、何かが落下した。


「な、何だ!?」

「ひ、人じゃなかったか!?」

「きゅ。救急車、救急車だ!!」


 夜の10時30分を過ぎて深夜に差し掛かろうという時刻とはいえ、ここは地方のターミナル駅。

 しかも華の金曜日である。

 酒を飲んだ帰りのサラリーマンや、合コンをしていた学生、OL。

 それらの店の従業員たち。

 多くの人間がホテルからの爆音を気にして外に出てきていた。

 その中にはうだつの上がらないテレビ局のプロデューサーと元気だけが取り柄のADにどこか枯れた雰囲気のカメラマンもいた。

 彼らは何が起きたのかわからないながらも、取り敢えずカメラを回しはじめている。


「お、おい。あの人生きてる、生きてる!」


 土煙が徐々に晴れると、薄暗いながらも立ち上がってきた“ヒトガタ”の様子が分かる。

 だが、皆知っている。

 今見上げたホテルから落下して、普通生きているなどという奇跡は起きないということを。

 しかも、おかしなことにその“ヒトガタ”は古風な武者の装束を纏い、手には大振りの刀を持っている。

 最初は性質の悪いドッキリと思った人もいたであろう。


「ひぃっ!」


 短く鋭く叫んだのは誰だっただろうか。

 タイトなスカートのOL?鍛えられた体の運動部と思しき学生たち?酔っぱらっているサラリーマン?

 いや、もしかしたら自分の口からだったかもしれない。

 ゆっくりと上げた武者の顔から翁の面が完全に砕けて脱落していた。

 丸出しになった青白く光るシャレコウベは、作り物のCGを見慣れている日本人にも、圧倒的な存在感で迫ってくる。

 本能でわかった、アレはマジモンだと。


「が、がいこつだ。骸骨だっ!!!あいつ、顔がねぇ!!」

「うわぁあああ!!!」


 パニックが起こる。

 波紋の様に広がったパニックが一気に伝染した。

 隣が慌てて全力で逃げ出すのなら自分も、と。

 酒が入っていたのもあるだろう。

 自分を律しきれず、駅前は逃げ出すもので溢れかえった。


「そ、そこのお前、ぶ、武器を捨てろ!!」

「刀を地面に置いて、両手を挙げなさい!!」


 懸命に振り絞った職業的な責任感で警察官が銃口をそれに向ける。

 市民を守らねばならぬ。

 その一念で彼らは立っていた。

 震える手の中にある拳銃が、ここまで小さく頼りなく思えるのは初めての事だった。

 一発目は空包が入っている。

 実弾を撃ったのは練習の時だけだ。

 実際に誰かに銃口を向けているストレスではない、なにか別のプレッシャーで背中がべっとりと汗でぬれていくのを感じていた。


「く、来るなっ!武器を置けっ!!!」


 首を傾げたまま骸骨武者がゆっくりと警察官たちへと向かっていく。

 運の悪いことに敵意に反応した武者にとって、彼らは明確に敵であった。

 じりじりと後退しながらも、銃口を向ける彼らに向かう武者。


「くそっ!」


パァン!


 空に向け、空砲を発砲。

 警察官となって10年。

 署内以外で拳銃を使い空砲を発砲した警官は、銃口を武者に向ける。

 その空砲でさらに広場に混乱が走る。

 悲鳴が響き渡り、警官以外が広場から逃げ出していくか、近くの建物へと避難していった。


「警告する!それ以上危険物を持って近づくなら、実弾での発砲を行う!」

「せ、先輩っ」


 縋る様に自分を見る後輩の足が震えていた。

 そうだろう、自分ですら手の震えが止まらない。


「……近づいてきたなら躊躇するな。足でいい。撃て!」

「は、はい!」


 不思議そうな視線を空っぽの眼窩で、空砲が撃たれた空に向ける武者。

 興味を失った武者が警察官に向かい歩を進める。


「撃てッ!」


 後輩へと命じると、自分も拳銃を武者へと撃つ。

 ただし、彼が狙ったのは胴体。

 生存本能が、彼に命じたのだ。

 足では決して止まらない、と。


ダンッ!ダンッ!ダンッ!……!!


 2人の警察官が放った銃弾は幾つかは震える手のせいで外れた。

 だが、しっかりと胴に2発、足の付け根に1発が命中した。


「おおおっ!!!!」


 攻撃を受けて唸り声をあげた武者から紫煙が上がる。

 火の気もない所から上がるそれは、あっという間に広場全体に広がると、電灯にまで達する。


パァン!パァン!


 電灯が爆ぜる様にして割れていく。

 居酒屋やバーなどの電光掲示や、非常用の出入口の案内板までが爆ぜて、光を失っていった。


「ひぃいっ!」


 人ではない。

 相手は人ではないのだ。

 全く痛痒を感じさせず、武者がこちらへと向かってくる。

 しかも、歩くのではなく駆け出してきた。


「うわぁっ!」


 逃げ出そうとした足がなぜかもつれて転んでしまう。

 こんなときに恐怖で足がつったようである。

 隣の後輩に至っては腰が抜けたのか、仰向けでずり下がる様にして必死に逃げようとしているくらいだ。


「ぉぉぉぉ……」


 駆け出した武者が、跳躍。

 10メートル以上の距離をバーもなく軽々と飛び越えて警官に武者が迫る。

 大上段に太刀を掲げ、その勢いのまま振りぬこうというのだろうか。

 間違いなく、あの剣で切られれば、死ぬ。


(ああああああっ)


 なにも思いつかなかった。

 走馬灯もない、恐怖もない、ただ思いにならない言葉だけが脳ミソを占めていく。


「うわぁぁ!!」


 後輩の声が聞こえた。

 だが、それも彼には判らない。

 彼の頭を占めるのは“あ”だけだから。

 ゆっくりと、太刀が振られていく。

 しかし、その太刀が彼らに届くことは無かった。


ゴキィィィィッ!!!


 瞬間移動かと思うくらいの速度で、武者に向かって“何か”が全身を使ったドロップキックをぶちかましたのだ。

 武者が体を“く”の字に蹴り飛ばされていった。


ドォォォン!


 地面のレンガを踏み砕きながら着地した“何か”が武者を蹴り飛ばした先をじっと見つめている。

 その“何か”に彼らは見覚えがあった。

 何せ昨日から何度も何度もテレビにネットに、しかも警察の連絡網で伝えられている人物だからだ。



 「光速の騎士」が首をこきこきと鳴らしながら、ゆっくりと立ち上がった。

ようやく「3-破」迄。

次回まで少しお時間を頂きますので、ご容赦を。

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