5-11 彼は僕を笑う【彼は誰】 僕は彼に慄く【僕は誰か】
ジェイクが脱落した。
あそこまで明確にわかるような崩れ方をされれば、くそ忙しい真っ只中でもなんとなく判りはする。
軽く一瞬だけ視線を飛ばすと、あのクジョーとか呼ばれた男が甲高い声で笑い声をあげていた。
嘲笑の対象となったジェイクは蹲ったまま、立ち上がれる素振りすらない。それを受けて、援護をしていたはずの向こうの護衛共も見事なくらいに困惑と戦意喪失を醸し出していた。
(主力が崩れたからって、それと一緒に全員で脱落ってのは勘弁してよ!)
マユミは鋭い舌打ちをすると、目の前のこの少女へと向き直った。
レインコートのフードが外れてしまい、月明かりの元でその表情が露わになっている。
こんな暴力と怒号の飛び交っているところにいることが相応しいとは到底思えない少女だ。
そのこの場に似つかわしくない少女と何をやっているのかといえば。
「ほらほらっ! よそ見してちゃあ駄目でしょう!?」
「く、ぅっ!?」
ずりりっ……。
がしりと、手と手を合わせる形で押し比べをしている。
距離をとろうとしたマユミに対し、逆に目の前の少女はそれ以上に詰めてきたのだ。
咄嗟に手を出したところでそれに合わされ、この押し合いの体勢に持ち込まれた。
その度胸の良さに驚くと同時に、より驚きが勝るのは、マユミと押し合いをして、押し勝つということだ。
近距離の純粋なパワー勝負で、「光速の騎士」曰く、ゴリラみてぇ、と評価されるマユミを押し込む。
がしっ、と組み合っているからこそ分かるのは、どう考えてもこの目の前の少女、何かしているわけでは無いということだ。
ジェイクやスミレのようなスーツによるアシスト、マユミのような本来のフィジカルを底上げするバフ的な能力、そういった言い方は悪いが、ズルに近いものが無い気配。
つまり、それはナチュラル・ボーン・フィジカル。
元々備わった肉体の性能ということである。
それは、つまり。
(アイツ、……茂の奴と同じタイプってことじゃない!?)
スキルや新造された装備など、所々を補ったりすることはあるが、「光速の騎士」杉山茂の戦闘スタイルは、個人の持つフィジカルに依存したものだ。
つまり圧倒する基本的フィジカル面のステータス差でゴリ押すスタイルが、「光速の騎士」の本質といえる。
一番何にでもつぶしが利く、良い言い方をすればオールラウンダー、元も子もない言い方なら器用貧乏。
どちらになるか、なるかはそれにどんなものを注ぎ込むか。
そして「光速の騎士」は、それなりの長物の近接戦闘能力。それに加え、異世界なら一般人でも使える能力のみ。
ただし後者が、この日本の中では異質であるという一点で優位を保持できる。それが「光速の騎士」が超人と呼ばれる理由となっている。
それと比べて、この目の前にいる少女はどうだろうか。
ダンッ!
「あははっ、もっとよーく狙わないと! 当たらないよっ!」
一瞬。マユミの肩越しに見えた少女のシルエットに向けて、エレーナが援護の射撃を放った。
だが、それを体をひねりなんでもないように回避すると、憎まれ口を叩いてみせる。
俯瞰で全体を見渡した上で、マユミを含めた全員を相手取って五分、いや若干ではあるが優位に立っていると言っていいだろう。
未だにその所作には余裕すら感じさせる。
援護の射撃が出来ないようにわざとマユミに密着し、超近距離での接近戦に持ち込み、にやけ面で彼女たちを相手しているからだ。
「調子に、乗るなっ!」
がっしりと両手で掴み合いをしているということは、ほとんど息のかかるような距離という事である。
ならば、とマユミが首を反らして、勢いを付ける。
ぐん、と張られた弦を弾くようにして、そのにやけ面目掛け、ヘッドバットをカマす。
それを少女はそのままの体勢で迎え撃った。
ごんっ!
「ぐっ……!」
鈍い音とともに、つかみ合っていた両手が離れ、距離ができる。
当然だが、ゴリラ扱いされるマユミのヘッドバット、チョーパン、パチキ。
要するに頭突きであるが、何もつけていない少女と、被り物有のマユミでは差が生じるはずだ。
そのはずだが、弾かれた双方がふらっ、と一歩後ずさり、片方だけがさらに一歩足を引く。
「あー。面白ッ! 面白いよ、あんた達!!」
ぶつかり合った額が割れ、そこから鼻を伝い、口元へと一筋血が流れた。それをぺろりと下を出して舐め、少女が本当に楽しそうに笑う。
一方、間に兜を挟んでいたはずの攻撃側のマユミが、あまりの少女の額の固さに怯んだ。
最も、無防備な人の頭にコンクリートも割れる頭突きをするという事に、無意識的でセーブがかかったということも有り得る。
有り得るのだが、生身と思しきそこへと叩き込んだ頭突きで、打ち負けるなどとは予想外だ。
それは一歩、体が引いてしまうのも通りだろう。
(どういう体、してんのよ!?)
明らかに現生人類の枠からはみ出ている少女。
ぐいとレインコートの袖で額を拭い、血で汚れたそれを脱ぎ捨てる。下に着ていた服もロングTシャツにジャンパースカート、無地のスニーカーとそこら辺の書店や雑貨店にでもふらりと出かけるような恰好。
細身の、幼げな、笑顔がまるで満開の夏の花のように綻ぶ、少女。
こんな場にいるべきではない風貌の人物のはずだが、拭い去った血の跡が顔に残り、笑顔を浮かべるさまは出来の悪いホラー映画のヒロインのようにも見える。
「でも、やっぱチョット痛かったんでー。お返しだよっ!」
ほほえみから、にたりと歯を剥いて笑うと、少女が一気にマユミへと迫る。頭部への若干のダメージの残るマユミはそれに、コンマ数秒だが反応が遅れた。
一足飛びに飛び込んできた少女の握りこぶしが、腕をクロスし、ガードしようとしたマユミのそれの隙間を突いて、胸部へと迫る。
(ヤバッ!?)
マユミは瞬時に障壁を展開した。
だが、模造異能者の能力の障壁いくつかだが明確に弱点といえるものを有する。
その一つが、障壁を展開するときにはその空間に“モノ”がないことが必要であることだ。
十の空間があったとして、そこに展開できる障壁の最大値は十である。だが、この空間内に五の大きさのモノがあった場合、展開できる障壁は五となる。
つまり、障壁の緊急展開が必要な、直撃寸前、という時にできるのは通常時よりも、極々薄いものになるわけだ。
そして、弱点のもう一つとして、障壁の強度はその厚さに比例することも挙げられるのだ。
ミシィッ!!
突きこまれた、それ。
速度の乗った拳がするりとガードをすり抜け、そしてその勢いのままマユミの胸部へと突きこまれる。
「ご、……ふっ!」
強く押された拳によって、肺の空気を強制的に吐き出させる。
同じ模造異能者のアキトシも、「光速の騎士」の奇襲により、脇を殴られたこともある。
だが、あの時は煙を使う奇襲で、今回のこれとは明確に違うところがある。
この少女が用いたのは武術。
一朝一夕ではなし得ない、継続の果てに手に入る技術体系。
先程の突きは、空手でいうところの刻み突きに近い。
膝をつくまではいかなかったが、大きく飛ばされる形になる。
「じょ、冗談じゃぁ、ないッ!」
打ち抜いたその構えのまま、笑みだけをその綺麗な顔に張り付かせて少女は佇む。
細身で、幼く、所謂小兵。いやそれ未満の体型だというのに。
(最悪、の上を行くわね、さっきから……)
マユミとてそこまで大柄ではなく、どちらかというと小兵である。
一般論として小兵といえば、すばしっこくそして攻撃の当たる表面積が少ない。だが、その一方で質量的な問題で攻撃の威力と耐久力が平均的な体型や大型と比べ低くなる。フレームに積み込める筋肉量も、ダメージを逃すための脂肪も低くならざるを得ないからだ。
だが、この目の前の少女は、模造異能者のマユミと互角以上のパワーを持ち、その攻撃を受けても平然とした頑健さを純粋な肉体的なポテンシャルのみで備えている。それに加え、おそらくかなりの練度の何かしらの武術を修めている。
小兵の利点はそのままに、欠点をかき消すフィジカルを有するのでは話が違う。辛うじて欠点らしい欠点を挙げろとといえば、小柄な為にリーチが短いというところぐらいか。
(漫画の主人公みたいな、バカ設定を詰め込んで、って。天狗の鼻、へし折られる悪役の気持ちがわかるわね、まったく!)
内心で舌打ちしつつ、マユミは苦々しい想いでいっぱいだった。
何故なら、目の前の少女はこういう武を以てマユミを御せるというのに、先ほどまでは脳筋のような純粋な力比べに興じていたからだ。
それはつまり、マユミ程度であれば“どうとでもできる”と遊んでいたということである。
今、見せたのは遊びで無ければこういう事も出来る、と見せつけるため。
「……趣味が悪いっ」
「えへへへ。こうでもしないと、すぐに終わっちゃうんだもの。……なーに、そんなのズルー」
距離ができたところで、今度はしっかりとした障壁を複数展開する。抜けられてしまった時を考えてである。
不可視ではあるが、空間を押しのけている関係でほんのわずかだが展開部に歪みが見える。
それを見て少女がブーたれた。
「もうちょっとさー。楽しもうって気はないの? せっかく全力で殴り合いができる機会なのにー」
「私はそんなマゾい感覚もサドっぽい趣味も無いのよ! そういうことに興味がある奴とでもやってなさいよ!」
張り巡らせた障壁の向こうで、手のひらを少女に向け掲げる。
みしみしみしぃ、と何もないはずの空間で捻じ曲げられて擦られているような異音が響く。
「へえ、そういう事も出来るんだ」
「くっ!」
危機感のない楽しそうな少女の声に、舌打ちしつつ手の中で出来上がった障壁弾とでもいうべきそれを放つ。
放たれた障壁弾は真っ直ぐに少女へと飛ぶ。
以前、普段着姿の茂の腹を抉ったあれだ。
接近戦では集中が必要で使うチャンスを作り出すのが難しいのだが、距離をとれるなら問題ない。
「当たれッ!!」
周囲の空間を捻じ曲げながら進むそれは、障壁と障壁の間を縫って少女へと迫る。
ただ、この一撃は見せ球だ。
当然、彼女が回避すると見込んでの一発。
本命は回避したところへと、エレーナ含め援護部隊の放つ一斉射撃。
それをシールド・キャリアーの裏で銃を構えるエレーナへアイコンタクトで伝えると、エレーナも頷いてくれる。
二段構えの策である。
だが、それは“普通なら”そうするだろう、という考えから発生する対応策で、今回の場合は“普通ではなかった”。
うっすらではあるが、視認可能な程度に歪みは見える。
それを避けるではなく、自らの両手を差し出して、掴みとろうとしたのだ。
みしみしみしぃ……!
「なっ!?」
マユミが声を上げるのも無理はない。
どう考えても“普通”であれば回避、若しくは何かしらを盾にした防御の二択。そこに予想外の“迎撃”。
しかも彼女は籠手やグローブ、手袋などをしているわけでは無い。
傍から見れば華奢で色白の小さな手で、マユミの障壁弾を掴んだ。
いうなれば高速回転しているエンジンの駆動部に手を突っ込んだようなものである。
怪我どころか、指ごと吹っ飛んでもおかしくはないような、イカレた所業。
「あっははははははァッ!! すっごい、すっごいよ! 面白っ!! アハハハハハッ!!」
現実は、それを超えていく。
みしみしと唸る障壁弾をその手の中で握り締めるようにして抑え込んでいく。
徐々にその音が小さくなり、最終的には少女の両手がぺたん、と閉じられる。障壁弾を抑え込んだ手をにぎにぎと握ったり開いたりとして状態を確認しているところからすると、どの指も欠けたり折れたりした様子は無く、普通に動くようだった。
だが当然だが、その両手が閉じられた接地面からは地面へとぽたぽた血がこぼれていた。手のひらは、恐らくずたずたになっているはずだが、痛みに耐えている様子も無く、逆にどこか楽しげな表情すら見せている。
雨で湿り、額に幾筋か流れてきた髪の毛をその血まみれの手でかき上げる。
先程の額からの出血も加えてべっとりと額から髪の毛に血の跡を残して微笑む少女は壮絶の一言に尽きる。
「ああ、たンのしィィィッ!! ねえ、もっと何か、何かないの?」
中と外の違いが大きすぎる。
外の華奢な見た目に騙されてはいけない。
コレは狂った、そう狂った獣。
狂獣に他ならない。
「く、っ……」
唇を噛んだマユミが一歩後ずさる。
あまりに常識のたがが吹っ飛んだ相手からの精神的なプレッシャーを受けて、怯んだのであるが、それ以上の後退が出来ないのは分かっている。
そして、一歩少女が踏み込んで来たのに合わせ、また半歩ほどマユミが後ずさる。
そんな時だ。
……トタ……タ…タッ…。
強い風にかき消されながら、途切れ途切れに地面を強く蹴った足音が聞こえてくる。
徐々に、それは強く、はっきりと聞こえてきて。
ダダダダッ!!
強くアスファルトを蹴った足音が、真正面を向いたままのマユミの後ろから近付いてきた。
吹き荒れる強風とは別の、体を押す強い風が体を包む。
ほとんど真横にまで“それ”がたどり着き、急ブレーキをかける。
十分に助走をして踏み込んだ左脚を軸に、みしみしと体が弓なりに反りかえり、振りかぶられた右腕が何もない空間から“何か”を掴むそぶりをする。
「っしゃぁ!」
全力のオーバースローで、振りかぶられた右腕が、突如として空中に現れた靄のようなところに突っ込んでいく。すると、全身が“それ”の重量を感じ、少し重心が落ちる。
「ウォォォォォッ、ッ! ッラァァッ!!」
大きく響く気合の声を上げ、黒い靄から現れる、籠手に包まれた右腕。
しっかりと右腕に掴まれたそれは、加速度を増して、右腕から放たれる。
踏み込んだ左脚が、土台となったアスファルトの地面をぴきりと割った。
マユミの横から、とんでもない勢いで飛んで行ったのは、業務用コピー複合機。冷蔵庫大のサイズの重量級のそれが、夜空をカッ飛んでいく。
「うわっ!?」
小さな驚きの声を上げて、飛んできた業務用コピー複合機を避ける少女。
どがらが、……ごごん!!
止まるすべをなくしたそれが地面に激突し、内部のコピー用紙をまき散らし、液晶パネルやら給紙トレーやらをはみ出させながら地面を転がっていく。
「き、きちぃぃぃ……! と、遠かったぁ……」
そんな惨状を形成したばかりの横の男は、膝に手を当て、ぜいぜいと荒い息を吐きながら一人ごこちる。
肩で息をしている男「光速の騎士」こと杉山茂。
腰に手を当て、大きく深呼吸をすると、隣のマユミに開口一番に言い放つ。
「いや、間に合った、よな? 結構急いだんだけど、本気で遠くって」
「……一応、ね」
「あ、そう。いやぁ、お前のビーコンの反応の見方、一回わかんなくってちょっと迷ったから、滅茶苦茶焦ったんだよ」
あはは、と兜を被った頭をぺちんと叩いて見せる。
そんな軽口を言いながらも、横のマユミを向くでもなくそのまま正面のクジョー達の方を見たまま警戒はしている。
「……なあ、アレがよくわからん横入りしてきた奴ら?」
「そうよ。ちょっと異常な感じね。少なくともあの女の子、強さも、あと話してみる限り頭の方も」
「へぇ? ん?」
軽快する「騎士」の視線の先には、業務用コピー複合機を避けてクジョーと合流する少女の姿。
当然だが、「騎士」という後詰を警戒しての事だろう。
「え? ……話したの、お前?」
「そうよ、結構どうしようもないくらいにネジがトンでたけどね」
それを聞いて少しだけ「騎士」が首を傾げる。
「何? どうしたの?」
「いや、まあ、な?」
「どうしたっていうのよ?」
歯切れが悪そうに目の前の二人と、少し離れた位置のブルー・タイプを視界に入れて警戒したままの「騎士」は、自身の疑問を口にする。
「いや、反応が“そう”だったから問答無用で攻撃したんだけど。……あの二人、っていうか二体? あれ、複合魔獣だぞ?」
「は?」
顎でくい、と示したクジョーと少女の二人を「騎士」が評する。
そしてこう付け加えた。
「人型の複合魔獣って気持ち悪いのは初めてだけどさ。普通、っていうか常識的に複合魔獣ってのは人の言葉は理解しないから。魔術師、……特に死霊術師が護衛にそういうの好んでて、大体が近くで操作してるはずなんだけど。今調べたら近くにいる気配もないし。……どうなってんだ?」
「なに? どういう事?」
次々に放り込まれる情報に頭がこんがらがるマユミの疑問に、ようやく「騎士」が顔を向けて答えた。
「だから、あの二体、反応からしてまず間違いなく複合魔獣だってこと。あれ、基本はいろんな死骸やらやら魔術素材を混ぜ合わせた人形でしかないから、お前と話なんてできるはず、ないんだけどなぁ?」
そんな疑問を浮かべた「騎士」達の会話は距離があり、当の本人達には届いていなかったようである。
警戒MAXで対峙する「騎士」達へとクジョーが声をかける。
「やあやあ、初めましてだね! 「光速の騎士」!! もしかしたら今回は会えないんじゃないかと思っていたんだけど!」
大振りな所作で「光速の騎士」を歓迎するポーズをとるクジョー。
つかつかと、援護の銃口が向けられている中を「騎士」のいる方向へと歩いていく。
それに対し、「騎士」はヘビー・シールドを取り出して体の大部分を隠し、さらに警戒を強める。
「うっわ、マジで会話できるのかよ。……でも、反応は間違いねえし。どういう事なんだよ」
「? 何を言ってるんだ?」
今度の独り言はどうやらクジョーまで届いたようである。
「あー。どうも、ハジメマシテ?」
「ふん、まあいいか。取りあえず自己紹介を。俺はクジョー・T・シズマ。あっちはスミレ・モトミヤ。そして彼女は」
「ハナって呼んでくれればいいよ! 「光速の騎士」! あはははっ!」
簡単に自己紹介をして見せた三名。ブルー・タイプだけは蹲ったジェイクのアーマー・スーツの背に手をついて何かを行っているため、少し離れている。
それを聞きながら「騎士」は考える。
(どう考えても人形っぽい感じがしないよなぁ。……複合魔獣だと、肉体のベースが混じり合うから魂が定着しないって聞いてたのに)
ものすごく雑に言えば蛇とライオンとコウモリとヤギを混ぜ合わせたモノにどの魂をくっつけるのか。
蛇だと爪を使えず、ヤギは肉を食べないし、ライオンでは空を飛べず、コウモリだと地を這い獲物に迫ることは出来ない。
つまりは、肉体を動かすのにぴったりの魂が無いわけだ。
ここでいうものは例として挙げたわけだが、複合魔獣にはそういった命の倫理を冒涜する技術がつかわれる。
そういう人倫に悖るのをやらかすのが“死を超越する禁忌”に取りつかれる頭のいかれた死霊術師であり、今回もそういうことなのか、と思ったわけだが。
(なんか、違うっぽいし)
少々面食らってしまったが、とりあえず彼らは敵というカテゴリーのはず、と気を取り直す。
まあ、どうみてもよこから正義の味方然と登場したとは思えないわけで。
「それで? どうする気なんだ、お宅ら。俺たちは正直、そこの暴行犯どもを引き渡してもらえりゃそれでいい。最悪、こっちに絡んできたのをノーカンにしてやるけど?」
「あー。こっちは目的が二つあってね。一つ目は、まあご覧のとおりそこで転がってる出来の悪いオモチャをこれ以上いろんなところに広められたくないってことだ。俺たちの持ってる物の劣化品がうろちょろするのは目障りだから」
「はは、それで? こんな大立ち回りをしでかしたって? わざわざ俺たちが動いてるのに合わせて?」
「まあな。君らがこんな動きをするかってのはわからなかったけどね。おかげでこんな悪天候の中で仕事する羽目になったんだから」
クジョーはやれやれと言わんばかりに頭を振ってお手上げだ、とポーズをとって見せる。
「それで、もう一つは君らだよ。「光速の騎士」ご一行。ま、メインは「騎士」殿、君なんだが」
「はぁ?」
急に話を振られて面食らう「騎士」。
「以前、俺たちの関係者が君にちょっかいを掛けたんだが。ホテル・スカイ・スクレイパーでの一件でね。あの骸骨、黒木定良兼繁だったか、……知り合いだろう?」
「お前、あの時の死霊術師のおっさんの関係者か? ストーキングにしちゃあどう考えてもやり過ぎだったとは思ったが」
「火嶋早苗とは色々あった昔馴染みでね。それにホテルでの一件には俺は関与していない。君が動いた後にようやく事態を把握したものでね。一応言っておくとその“おっさん”に関しては“もう”俺たちには無関係だ。そこに繋がる命令系統も含めてそのように“処理”はしてあるからな」
「あまり深入りしたくないから、正直どうでもいいんだが」
「まあ、そう言うなよ。色々疑問もあるんじゃないか?」
クジョーからの提案。
それを受けるべきかどうか。
この場についてからだが、遠くから聞こえるパトカーのサイレンの音が時折「騎士」の知覚能力に引っかかっている。
恐らく遠からずこの場に来るはずだ。
「いや、興味は無いな。俺が知りたいのは、そっちがどうするか、だけだ」
「つれないな。まあ、時間も無いみたいだしな」
ちらとクジョーも橋の向こうを首を傾げて見た。
恐らく、「騎士」と同じサイレンの音を聞き取ったのだろう。
「まあ、ここまで来て君とこのままサヨナラってのも味気ない。どうだい、一つお手合わせでも」
「嫌だって言って引き下がってくれ……」
返答途中の「騎士」の言葉を遮って、クジョーが体を走らせる。
「無理だねッ!!」
「だろうさッ!!」
ぶつかり合う両者が笑う。
片方は楽しそうに満面の笑みを。
片方は兜の下で苦々しげに。
きっと、このひと時こそが、すべての分岐点だ。
この章書くときに、一番最初に思いついたやつ。
業務用のコピー複合機をブン投げてみたい。
これ一点だけで膨らませてみたのが、この章だったりする。
ようやっとここまでたどり着いた。
うん、満足です!
……この話で最後まで終わんなかったこと以外は。




