5-9-裏 宿直勤務の運/不運
いや、本当なら書くつもりがなかった閑話なんで、あんまり出来には期待しないでほしい。
「おい! そっちの準備どうだー!?」
「オッケーっす! ブレーカー戻してくださーい!」
どるぅぅん、と腹に響くような音と共に非常用の発電機が動いている。
続けて、ぱっ、ぱっ、と敷地内の夜間照明を含め、電気系統がついていくのを作業着姿の男が外から眺めて確認する。
「おっし、中の方も電源戻った! さっさと戻ってこいよー! これで給湯器は使えるからな。シャワー浴びねえと風邪ひくぞー! コーヒーくらいは淹れとくから!」
「はーい! わかりましたー!」
壁の薄い工場の外にいる男は、中の配電盤付近で叫んでいるだろう同僚に返事をする。
運の悪いことにちょうど宿直の時に停電に出くわすというレアな経験をしたのである。
外では雨風がひどく、時折響くような雷鳴すら聞こえていた。
恐らくそのせいだろうが、一向に待っていても電力が回復するような気配がない。
嵐に近い中で外に出てみると、周囲の工場どころか街灯までも消えている。経験したことはあまりないが、これは元の辺りからやられてしまったのだろうと、非常用の発電機を動かしに出た次第だ。
昼間であれば自分たちの仕事に影響が出るだろうが、今は夜間。しかもこの荒れた天気の中である。
多少おおらかな気持ちで待ちの姿勢になっていたりもする。
そんな中、強く風が吹き付けた。
「くぉぉぉっ! さ、寒ぃ!」
取り敢えず外に出て、非常用の電源から工場内に繋ぐためのスイッチ類を入れにきたので、上から下、あとは服の下までずぶ濡れである。
本格的にすぐにでもシャワーを浴びてさっぱりしないと本当に風邪をひいてしまう。
取り敢えず工場二階の事務所まで戻ろうと、踵をかえしたときである。
……どぉぉぉぉん!!
大気を揺るがすような音と、びりびりとした衝撃がはしり、雨風ではなく、それ自体で近くのフェンスがぎしぎしと揺れる。
「な、な、な!?」
声にならない疑問符を浮かべ、音のした方へと顔を向ける。
停電で真っ暗闇の中で、その方向が明るくなっている。そしてもくもくと煙が上がっているのがわかる。
「おいおい、マジ?」
男の位置からでは高い塀や建物があり、よくは判らないが何か大変なことが起きたことだけは分かる。
ばたん!
「な、何だ今の音!」
工場は一階が搬入のシャッターがあるが、人の出入りの出来る入口は夜間については基本的に施錠してある。職員の出入りや、客を出迎え対応する事務室は錆の浮き始めた外階段から繋がる二階フロアにあり、いま大急ぎで外に飛び出してきた男は、二階から周囲の様子が確認できる。
「先輩!! 多分、橋の方向っす! すげえ爆発みたいな音したんですけど!」
「あ、ああ! すげえ、すげえぞ! 事故っぽいけど、めっちゃ燃えてんぞ、あれ!!」
二階から出てきて遠くの火元を見て、そう言いながら手元のスマホをそちらに向けている。恐らくだが、映像を撮っているのではないか。
「ちょ、ちょっと! 撮影する前に、まず119とか110に電話したんすか!?」
「あ!」
スマホでの撮影に意識が向いてしまったのか、一番大切な通報を忘れていたようだ。
そんな先輩の姿にため息を吐きながら、とりあえず消防に電話を掛けようと男はポケットの中のスマホを手に取る。
スマホ片手に現場を撮影している先輩のもとへと気持ち駆け足で移動する。
まあ、向こうにいたのが自分でこちらにいたのが先輩だったならもしかすると、双方が役割を入れ替えて、自分がアレをやらかしていたかもしれないので、強くは言えないのであるが。
実際のところ、自分だってどうなっているのか見たいのが本心だったりする。所謂、野次馬的心理という奴だろうか。
そんな男がカンカンと外階段を駆け上がり、スマホで緊急連絡をしようとしたところであった。
視界の端に、自分たちの職場と隣の会社とを隔てる高さ四メートルほどのコンクリートの壁を“何か”が飛び越えてきた。
「は?」
大口を開けてぽかんとしてしまったのは仕方ないことだろう。
どしゃぁぁぁ!
「うぇぇっ!?」
つい先ほどまで自分がいた非常用の配電盤付近に、その壁を飛び越えた勢いのまま“何か”が降ってきた。
雨でぬかるんだ砂利の地面を耕すようにして着地、そして電力が復旧して再点灯した照明の下へと駆け込んでいく。
その不審な“何か”は、手元にあるスマホ型の何かを操作しつつ、それを掲げて右、左、と体を振る。
その様はまるで。
「……迷ってるのか、あれは?」
「……ぽいっすね」
自分と同じ光景を見ている先輩が事故現場からその不審な“何か”にRECのままになっているスマホを向ける。
暗がりに小さな照明で手元のそれを見ながら周りをきょろきょろと眺める。
何というか、都会のターミナル駅で迷ってしまって地図アプリを開いているおのぼりさん、そう一言で言うと迷子のようであった。
その不審な“何か”が行先を確認しようとしたのか大きく体をこちらへと向ける。
「……アレ、「騎士」じゃね?」
「……っすね。うわ、直に見たん初めてですよ、俺」
テレビでヘビーローテーションで流される、「光速の騎士」と呼ばれる超人的な英雄の兜を被った彼であった。
そして、ぐるぐるとまわりを確認して、「騎士」は駆け出す。
事故現場とは違った方向へ。
「違う違うッ!! そっちじゃないって!!」
「あっち! あっちの明るい方!!」
思い切り迷走を始めて、間違った方向に向かって駆け出していく「騎士」をあわてて二人が必死に止める。
気付いてもらうために大声を上げ、手すりをバンバンと叩いて。
そのおかげで駆け出してすぐにこちらに気付いた「騎士」は、立ち止まると腕を事故現場である橋の方へと向けて、“こっち?”とボディランゲージで訊ねてきた。
「そう、そっち! その方向で合ってる!!」
「真っ直ぐ! そっちの方に真っ直ぐ!!」
片方はぶんぶんと首を縦に振って、もう一人は両手で大きく○を描き、「騎士」へと伝えると、「騎士」もそれをわかってくれたようで、大きく手を振って、そっちへと駆け出していく。
無論、その方向にも来た時と同じく四メートルのコンクリート壁があるのだが、壁の手前で立ち止まり、こちらへ振り返るとぺこりと頭を下げてきた。
その様子にこちらも頭を下げると、どんっ、という音が響く。
頭を上げた時には地面に靴跡を残し、彼は消えていた。
「……なんだったんだ、ありゃあ」
「聞かないで下さいよ、俺もわからんっすわ。……ただ、律儀っすね」
「だな」
何処か毒気を抜かれてしまったが、男たちはとりあえず通話しようとしていたスマホを握り直し、消防へと電話を掛けるのだった。
以下言い訳。
まあ、なんというかメイン書いてたら、ちょっとエンジン掛かって、すごいいい感じにノリノリで半分くらい一気に書き進めれたんです。
でも、落ち着いて読むと内容がうっ、って感じのバトルシーンでそのテンション……。
気持ちを一度落ち着けるために、ちょっとこういうノリの短いのを挟みます。
そう、タグにあるようにこれは”ほのぼの”を目指しています!
だから、メインはもう少しお待ち下さい。




