3-5-裏-続 報道 のち 疑念
●昼オビ帯の通常放送を中止した緊急報道番組より
「……と、いうわけで今現在判明している事実と、視聴者からの提供映像、現地取材班からの取材VTRをご覧いただいたわけですが……。君島さん、どう思われますか?」
昼の帯の時間帯という重要な枠を五年に渡り回してきたMC役のアナウンサーが、今日のコメンテーターの男性に話を振る。
地方経済に関する書籍を複数出している大学教授、とテロップの出た君島という男性が口を開いた。
「……以前から彼ら、特に「光速の騎士」に関しての映像は度々目にはしてきているのですが、こうやって事件のあるところに現れる。……なんというか国民全員が壮大なドッキリにでもかかっているんではないかと思うことがありますね。ただ、本当に彼らが実在して現実的に影響を与えているということは紛れもない事実でありますし」
「なるほど。……確かに、そうですね。一番最初の頃は何か大掛かりな映像作品のプロモーションと考えていた人もいたそうですから。ただ、今までと違い今回に関しては「騎士」の行動には疑問符が付きますね?」
そう言うとアナウンサーは隣の女性アナウンサーに目配せをする。
その言葉を受けて、女性アナウンサーは持っている指示棒で横の大型モニターを指し示した。
「はい。今回の時系列にそって確認してまいりましょう。まず、動画投稿者のマルマルリッキーのアカウントにて本日午前十時半から動画を生配信するという内容の動画が投稿されています。彼らは二人組の動画投稿者で右の坊主頭の男性がマルオさん、左の金髪にアロハシャツの方がリッキーさんです。」
指示棒で示されたのはマルマルリッキーのマルオとリッキーの写真である。どこかの動画から引っ張ってきたものなのかかなり荒い写真であった。
「そして問題の生配信の内容ですが、「騎士」が最初に現れた交差点、……はい、こちらのフリップのこの丸印の場所で実施します、内容は「光速の騎士」が現れるかもしれないよ、というものでした。所謂ネット界隈で言う“釣り”という手法です。要するにより多くの視聴回数を稼ぐための撒き餌のようなものですね。これをアップロードしています。ネットでそれが不特定多数の目に触れる機会があるのはもちろん、「騎士」関連の情報については皆さん興味があり、それをウリにした今回の動画もかなりの視聴数があったと思われます。つまりあまりよろしくない考えの人物たちの目に触れる機会もあったのではないかと。視聴者の皆さんには再度動画を一部編集したものを、ご覧いただきながら説明させて頂きます」
画面に映るのはマルマルリッキーの動画のサムネ画像。標題も『生放送にて“あの”「騎士」が登場!!!!』。確かに“釣り”と言われても仕方ないだろうし、ある程度のそのような効果もマルマルリッキーの二人は勘定に入れていたはずだ。
「では、時刻は午前十時半過ぎ。画面上の動画の視聴時間のバーからすると配信開始より三分十五秒経過したタイミングで、まずマルオさんが何かを確認し、硬直します。次にその仕草に不審なものを感じたリッキーさんが同じく“それ”を確認。そのまま撮影者に向かい、その場所を撮影するように指示を出します。そして、ここから少し画面が乱れます。恐らく混乱や動揺したせいだと思いますが、しばらくの間地面や空が映って……」
切れ切れの声が録音されている。忙しなく揺れ動き、見つめているだけで悪酔いしそうな映像が流れた後、ぶれぶれの画面が定まり、ピントも整う。
そして、映像が止まる。
でん、と画面いっぱいにアップで映ったのはジェイクの着込んでいたアーマースーツであった。
「……あまりに非常識、いえ、ここ最近ではその表現も陳腐になってきてはいますが。……これもまた新たな“超人”という事でしょうか?」
「うーん、どうでしょうねぇ。これ自体は今までのすこしばかりオカルトというかファンタジー、そういった方面の物ではなく、サイエンス、要は科学を基にしているようにも見えます。いまおっしゃられた“超人”というカテゴリーが個人に帰するものか、それ以外の概念に属するかで少し話が変わってきますよね?」
「ほう?」
少しばかりその意見がMCのアナウンサーの琴線に触れたようである。
カメラが今の発言に画面をパンすると、君島の横に座る良い言い方をすれば野性味のある、悪い言い方をすればやさぐれ感を漂わせた男のバストアップに変わった。
「四ツ田さん。これまでも色々な番組等でご意見をされてきていましたが、その経験からするに今回のこの全身鎧の人物は「光速の騎士」「骸骨武者」などの人物たちとは分けて考えるべきだと?」
問いかけられた四ツ田は鼻先を軽く指で掻くと、深く座っていた椅子から名札の乗っているカウンターテーブルへと身を乗り出す。
「あくまで私個人の見解、というか印象を述べさせていただくので確固たる信頼性は保証の限りではないことはご理解いただきたいのですけれど」
「それは、はい」
前置きとして十分に予防線を張ったうえで四ツ田が話し始める。
「まず、VTRを流していただけますか? ……ありがとうございます。ええと、とりあえずこの映っている人物を“スーツの人物”と呼びますが、猛然と加速しているこの構造などは何らかの高稼働且つ小型化に特化したエンジンと噴射システムでしょう。かなり我々の知る物より高性能であるといえますが、やろうと思えば出来ないことはない“かもしれない”ものです。かなり特異な進化をしたジェットエンジンと思うことが“できるかも”しれません」
一部にわかりやすくイントネーションを変えた部分を作って話を進める。
それが確定事項ではなく、未確定の情報であるという点を強調して。
「私はそういった分野には詳しくはないのですが、技術的に可能なものなのでしょうか? 人一人を急加速させ、まあこの後の映像では同じような恰好の“スーツの人物”が空を飛んでまで見せていますし」
君島がそこへと口を挟む。
門外漢とはいえ、コメンテーターとして呼ばれた以上意見を出す必要はあるのだ。
何せ次にまた呼んでもらわねばならないからという打算もあることながら、純粋な疑問を抱えたままというのも気持ちが悪い。
「イエスともノーとも言えない所です。ただ、人間一人を個人装備のみで“飛翔させる”のであれば八十年代半ばには技術的に確立していますし、航続距離に関しても海峡一つ無補給で飛び越えることも最近では可能です。もちろんそれらと比較し、この“スーツの人物”のような滑らかな動きや、複数回の衝突に耐える頑健さなどは段違いでしょう。重量もかなりのものでしょうから同列に考えるのは早計かもしれませんが」
そう言われて君島は昔のオリンピックの資料映像や、最近のネットニュースで話題になったものを思い出した。
それに思い至り、軽く君島は頷く。
四ツ田はその頷きを受けて話を元に戻す。
「それらに比べて、「光速の騎士」、「骸骨武者」、シージャック事件のテロリスト“トゥルー・ブルー”のヘドロ様の奇異な連中に、銀嶺学院の襲撃時の不可解な現象……。科学技術での再現はきっかけとなる物があってこそです。彼らには現行技術からそこにつなげることの出来るルートが見つからない。使い方は正しくありませんが技術的ミッシングリンク、という表現ができるかもしれませんね」
「ミッシングリンク、ですか」
ざっくりいうと生物の進化の過程上、過去に存在した種と現代にいる種との間に存在する“あるべきはずの”種のことである。
これにはまだその種が“見つかっていない”だけのこともあるが、これを今回のケースに無理矢理当てはめてみる。
“スーツの人物”の装備は、思い至るべき素材をピックアップできる。航空産業、燃料、素材開発、軍事的競争力などなど。ルートはいくらでもある。
だが、例えば「光速の騎士」の何もない所から槍や盾を取り出す権能、「骸骨武者」の歩く死者としか思えない風体、銀嶺学院を覆った雷を纏うバリアなど。
これらを説明できるようなものを空想、いや妄想に近いアイディアを下地として提案出来ないわけではないが、その間の“あるべきはず”の技術がだせない。なぜなら、そのような技術が全く出てきていないからだ。
「騎士」は質量保存の法則を無視しているように見えるし、「骸骨」の死者蘇生など気でも触れたか、おかしな宗教にハマったかと心配されること請け合いだ。
「そして、この後ですが「騎士」に似た格好の人物。今回は「騎士B」と呼称しますが、この「騎士B」が唐突に現れます。放送は生配信でありまして、録画などの映像を割り込ませているわけではありません。こちらに関しては、我々の独自取材により動画配信元に確認をさせて頂いています。「騎士B」はそのまま“スーツの人物”と戦闘を開始します。このタイミングでマルマルリッキーがカメラマンと共に退避しています。そのため、ここから少しの間はカメラから事件の映像が途切れます」
映像ではマユミがジェイクの前に現れ、マルオとリッキーへ逃げるように促している。
「おそらくですが、「騎士B」は女性、……でしょうか? 小柄で、機械による変声もされていますが私個人ではそのように感じられます。まあ、線の細い男性という可能性もありますが、あの重そうな“スーツの人物”に比べて軽く見えますね」
MCは自身の感じたままを述べる。ただ、ほぼすべての視聴者が恐らくだが「騎士B」は女性であると思っていた。
むしろ「女騎士降臨!」というスレッドが立つほどに盛り上がっている界隈もあったりする。そこに「男かもしれんぞ」といういらん茶々をいれて、「女派」「男派」に分かれ、ケンカ腰の討論がなされるまでがワンセットであるが。
「このタイミングで警察へと通報がされています。時間は警察より正式な発表が無いためおおよその推測になりますが十時四十分ごろ。この間に起こったことを撮影したものを紹介します。いくつか視聴者からのスマホ等で望遠で撮影されたものになります」
恐らく少し離れたマンションから取られたと思しき映像が数本流れる。
「そしてさらに状況は進みます。黒いワゴン車が現れます。見てわかる通り、ナンバーが外れていまして違法車両であります。そこから走行中の車両よりある人物が飛び降りるのですが」
女性アナウンサーがそこまで言ったところで映像が止まる。
「大変申し訳ありませんが、ここから先の映像が危険行為を助長するのではないか、とのスタッフ判断がありましてここではお見せできません。この先は静止画並びにイラストでの紹介となります。ご了承ください」
当然のことだが、この瞬間番組のご意見・ご感想のページは罵詈雑言であふれた。
「飛び降りた「光速の騎士」と思われる人物が手に持った鈍器、おそらくは建築用の金属製ハンマーと思われるもので“スーツの人物”を強襲します。その勢いのまま“スーツの人物”が吹き飛び、「騎士」と「騎士B」が合流します」
マユミと「騎士」が並び立つ。
「お気づきの方もいらっしゃると思いますが、「騎士」の装備が変わっています。画面の右が今回、左が銀嶺学院の襲撃事件の際の画像です」
ギンギンなヒーロー装備の左と比べ、今回の幾分地味目な鎧はインパクトに欠ける。
「僕は以前の方が好きですねぇ。……ただこんな新しい都市迷彩の装備を準備してきたとなると、やはり以前から言われていた第三者による経済的支援という事実は確定しているのではないですか?」
MCが四ツ田にそう問いかける。
「まあこのレベルの装備を独力で開発・調達は不可能に近いでしょうね。何らかのバックアップ、パトロンはいると考えるのが自然でしょう」
「その後援者は、どのような考えを持っていると考えますか? 間違いなくリスクを背負うことが確実視されますよね」
ずい、と身を乗り出したMCに苦笑しつつ四ツ田が答える。
「正直、私は経営に関しては詳しくはありませんので、コメントするのは難しいのですが。ただ、海外では軍産複合体が経済だけでなく国の政策の動向を左右しているというのは事実ではあります。「光速の騎士」に関するデータを一部でも使いこなせるようになれば、その利益は天文学的な額になっても驚きはしませんね。……それと“法を犯す者”を自らの元に置く、というリスクを背負うのは天秤に掛けられるものかは……。君島さんはどう思われます?
「ふむ……。そうですね」
親指を顎において少し考え込む君島。
「コンプライアンスという概念を念頭に置くまともな企業であればそのようなことは考えすらしないでしょうな。あまりにもリスクが大きい。もっと言えば“潔癖症”な風土を持つ日本では、到底受け入れられるとは思えません。どうやったところで「騎士」は法令関係をかなりの数違反しています。私個人の感情としては彼を好ましい人物ではあると思いつつも、それでも行為自体を“完全なる白”と擁護することはできません。……彼が法を犯した以上、当然罰するべきであるという意見は決して間違いではないのです。もちろん、彼の功績は考慮したうえで、です」
そう言った君島の表情は冴えない。
この線がテレビのニュースで言えるギリギリの線ではないだろうか。過度の称賛も非難もどちらも“正しいかもしれない”と言えるのだから。
「そうですね。……難しいところですね。では、一度今日の事件に話を戻させていただきます」
君島の様子に助け舟の必要を感じたアナウンサーが本筋に話を戻した。
マルマルリッキーの映像が最大望遠で「騎士」達の姿を捉えるものに戻る。
望遠であるため、姿を追いきれていないところもある。
「……何度映像を見直しても訳が解らない。このとんでもない大きさの、槍でしょうか? 一体どのように取り出しているのでしょう」
画面は「光速の騎士」がオーガ・ザンバーを振りぬいたところで止まる。
振りぬいた線で空間がざっくりと断ち切られ、道路標識にガードレール、街路樹がその先を失っている。
「……そして、警察が到着します。吹き飛ばされた“スーツの人物”が横たわる点を中心に機動隊でしょうか、盾を構えた警察関係者が全員を取り囲みます。先ほどの一撃でひどく傷ついたのでしょう。最初からいた方の“スーツの人物”が動けなくなっています」
何重にもなって周囲を取り囲む機動隊がテレビに映っていた。
「…………そして、ここからが最大の問題なのです。視聴者さんの中にもすでに映像をごらんになった方もいらっしゃることと思います」
居住まいを正し、テレビカメラを真正面から見つめる。
「簡潔にお伝えします。……“スーツの人物”達を残して……「光速の騎士」は「騎士B」と共に即座にこの場を離脱しました。一切警察に協力するそぶりすら見せずに、です。その後、結果として機動隊は“スーツの人物”達を取り逃します」
ふう、と息を吐く。
「私見ですが彼らは警察と協力し、“スーツの人物”を確保するべきだったのではないでしょうか? 今回の件を見て考えねばなりません。彼らが本当に我々と共にあるのかどうか。我々は、熱狂の中にいて彼らの“真実”を見ていなかったのではないでしょうか」
口調は固く、眉間にしわを刻みながら視聴者へ問いかける。
「世界は変りました。彼らを内包した“世界”。変らない我々。……本当に、本当に、弱い我々が、躊躇いなく力を行使する彼らを、信じ切れますか? あなたは、信じることができますか?」
日々を生きる人々が、目をそむけていた問いかけであった。
蛇足の続き。
まあ、流し読みでもいいかも。




