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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
1章

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3-4 報告 のち 解散

本日2話目のためご注意下さい。

耳にあてたスマホからコール音が続く。

 幾度か連絡をしているのだが、相手もなかなか忙しい役職を持っている。

 すぐに連絡が着くとは思っていないが、流石に何度も連絡するのは少し億劫になる。


『……やあ、悪い悪い。何度か連絡してたみたいだね』

「まあな。忙しいのか?都合が悪いなら後にするが?」


 早苗は周りが開けた大きな公園のベンチに腰掛け、ぐるりと周りを観察する。

 まばらにサラリーマンや子連れの主婦等公園の利用者はいるが、ぱらぱらと散らばっており、その全てからある程度の距離は保たれている。


『こっちは大丈夫。さて、連絡をくれたということは、何か新しくわかったことでも?』

「一応な。件の盾の画像についてだ」

『へぇ……。教えてくれるのかい?』

「いや、まだ8割というところだ。もう一押しだな」

『それでも1割可能性は上げてきたわけか。君、本当に優秀だねぇ』

「おだてても情報は渡さんよ。それに運が良かっただけだ。ただ、「光速の騎士」は"彼ら"ではないよ。これだけは自信を持って言える」

『……その言い方、「騎士」と会いましたってことと同義なんだけど?』

「ふふ、口が滑ってしまったな」

『ワザとだろうに。……ちなみにどんなだった?』

「ノーコメント。あと5%を埋めるまでは待て」

『そうかい。じゃあ君の発表を心待ちにするとしよう。代わりに僕から一つ情報を。……スカーレット、クジョーが日本へ戻ってきている』

「……事実か?」


 みしっとスマホが軋む音がする。


『落ち着いて欲しい。僕が知ったのは今日。本部連中は10日前に。僕らへ知らせなかったのは、そんな音をさせてスマホを壊しそうだからだと思うよ』

「今度、本部に戻ったらジジイどもを殴るかもしれん。保安要員の増員をしておけ」

『すぐに対処する。僕が知ったのも偶然で、しかも君には伝えるなと言われたけどね?むしろ君が知らない方が不利益が多そうだから。僕で動かせるサポートの人員をそっちに向かわせるよ。連絡がつかなかったのはその調整でね。明日の昼には着任予定だ』

「配慮には感謝する。そうすると学生たちへフィールドワークの中止を伝えないとな……」

『まあ、あいつはもっとスマートに事を運ぶのが美しいって、ナル気質だから。学生を巻き込むような心配はないだろう。ただ、クジョーが日本に戻ったのなら』


 早苗がこめかみを揉みながら答える。


「今まで胡坐をかいてた立場の奴らが慌てて動くか?」

『そうだね。"彼ら"の根は広いし、深い。君の首ならいいトロフィーだろ?』

「ぞっとしないな」

『同感。美人っていうのは鑑賞して楽しむんじゃなくて、くだらない話をして一緒に食事をして楽しむから良いんだよ。もったいないよね』

「ふふ、ありがとう。……そうなると「光速の騎士」調査に関しては一時中断にしたいのだが」

『喫緊の脅威は「騎士」より"彼ら"だってのは理解してる。問題ないさ。クジョーが戻ってきたタイミングが「騎士」とかぶるのは少し気になるけど』

「……それでも、私は「騎士」が"彼ら"とは関係ないと思う。今までの情報を全て聞いたうえで、そう思う」


 ぎし、と座っていたベンチから立ち上がる。


「学生に今日で解散を伝えてからホテルに戻る。……夜に連絡するが、都合が悪い時間は?」

『10時以降ならオーケーさ。美人さんの電話は24時間フルタイムで大丈夫と言いたいんだけどね?』

「軽口も程々にしておけ。可愛い妻と娘のいる男が、早々女を口説くものではない。私が本気にしたらどうするんだ?」

『ああ、そうしたら両手に花じゃないか!でも、僕の本命は奥さんだからねぇ。残念だが君は妻、娘のあとの3番手になってもらうけど』

「ふふ、謹んで辞退する。では、夜にまた」

『じゃあね』


 ぷつ、と電話を切りポケットにスマホをねじ込むと公園から歩き出す。

 いつの間にか周囲にも誰もいなくなっている。

 日が暮れて、5時のサイレンが鳴っていた。


「教授!!ここでしたか!」


 早苗を探していただろう学生の集団がこちらに向かってきていた。


「皆集まっているか?」

「はい。本日分の関係資料は集まりました!分析用にPCに取り込む必要がありますけど」


 学生たちは隣とじゃれ合ったり、スマホを覗いたりしている。

 まあ、5時のサイレンまでで片づけを含めて終わりに出来る様に指示をしていたからなのだが。


「そうか……。実は、今電話があってな?」


 早苗が集まってきた学生たちに事の顛末を話す。

 ここだけでなく他から集めた情報が膨大となっていること。情報分析の教授が仕分けし切れなくなっていること。少し分析の精度を上げたいので一度仕切り直しをしたいということ。

 すらすらと早苗の口から嘘八百が並べ立てられる。

 それを聞いた学生たちの顔が苦々しげに歪む。


「え、じゃあ。もうフィールドワークは終わりってことですか?」

「まあ、実地ではな。取りあえず週明けにゼミ室で今日まで集めた関連資料の整理を行おうと思う。来週の月曜を丸々使って資料を整理して報告。それで一旦終了だな。だから今日までの資料を使って来週は座学だ。ちょうど明日は土曜だし、東京まで帰ろう」

「「えー!」」


 学生から非難が上がる。


「まあ、そう言うな。私も急に言われたばかりでな。少し混乱してる。だが、これ以上はごねても仕方ない。こういうのも実地研修ではよくあることだ。良い経験として受入れよう」

「でも、なあ?」

「そうだよ、やっと肩があったまってきたのに……」


 せっかくやる気が出てきたのに、という学生。

 仕方ないとばかりに早苗はジョーカーを切る。


「月曜に資料の整理が終わったら、全員で飯に行こう。ギョーザの「突破」の飲み放題。金は私が向こうの教授に請求する。皆でタダ飯、どうだ?」

「「よろしくお願いします!!」」

「予約は頼むぞ」

「「おまかせください!!」」


 うむ、学生は素直が一番だ。




がさっ


「あーあ、もう。やってる内容、完璧にストーカー。俺ってば、マジでサイテー。しかもここすっごい臭いし……」


 公園の端、薄暗いトイレの囲いとして植えられた椿の木立の中から、そんな声が小さく聞こえた。


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