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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
3章

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7-3 一手 のち 負傷



 日常、車での移動が日常生活に密接にかかわる田舎の人であればわかると思うが、大きな道路の中で、ドコドコへ向かう時はナニナニを右へ、左へと説明することがある。

 他県の人間には全く通じないが、地元民には一発で理解できるという不思議な地元だけの一般常識。

 ニッパチ線の中でも比較的大きな通称「中本の交差点」という場所がある。

 「中本」という名称の地元ではよく知られた和菓子屋の本店があるその交差点は、ちょうどニッパチ線と国道をつなぐ道がぶつかる要所で、土日であれば軽く渋滞が起こるようなそんな場所だ。

 要はこの「中本の交差点」でどこへ向かうかが大きく分かれることになる。

 真っ直ぐ行けば市の中心部、右へ曲がれば隣県へと繋がっている国道へ。

 左に曲がれば、人気の無い山間部を通る山越えのルートへと。

 その運命の交差点へ向けて、黒のステーションワゴンの群れと、追跡する警察の白バイ、更にニケツの「光速の騎士」がたどり着こうとしていた。


「全車、並んで一斉に動け。タイミングは事前連絡の通りに」


 ケンショウがスマホで連絡しているのは各車両の通信担当である。

 この「中本の交差点」で一気にバラけることで、追跡の密度を薄めつつ逃走へと移ることが目的である。

 各車のうちいくつかは捕捉されるだろうが、そうなれば後は車を盾にした籠城、ないしは徒歩での逃走へと移る予定だ。

 車での逃走が成功するのであれば、そのまま逃げ切り、ある程度の場所でテンプラナンバーを外して銃器一式も放棄してしまえばいい。

 後に残るのは至って普通の黒のステーションワゴンである。

 調べられる可能性はあるかもしれないが、それでも見つかる可能性は格段に下がる。

 その先で次の逃走用の車両などに乗り換えてしまえばいいわけだ。

 本命以外の車両はそういった点でまだ簡単である。

 だが、イレギュラーはどんな時でも発生する。


(……追いかけてくるか! 「ブリキ頭」の偽善者がっ!)


 けん制しようにも顔を出せばどの車両が本命かバレてしまうかもしれない。

 かなりの速度でバイクで追跡する彼らをどう扱うかでこの先の展開が変わる可能性があるのだ。

 うかつに動くことすら危険であった。


『後方からの「騎士」のバイクについて提案が』

「何だ?」


 別車の通信係から案が提示される。


『こちらで奴らの前方へとスピードダウンし、あえてカマを掘らせるのは?』

「……可能ではある、が……」


 考える。

 考える。

 考えることしかできない。

 確かにそれで、間違いなくバイクをおしゃかにすることはできるはずだ。

 こちらから見ても、チューンされてはいるようだが、あくまでも個人の趣味の範囲で特に「光速の騎士」が乗り込むために作られているようなものではない。

 というか2輪車でそんなわけのわからない耐久力をもったものがあると考えることがすでに「騎士」の存在に毒されている。


「いや、このタイミングで不用意に近づいては、我々の車両を特定する推測材料とされる可能性がある。それは避けるべきだ。もし奴らが妨害を乗り切れば、そこから類推される」


 ここまでの戦いかたや、以前までのデータから考えるに「光速の騎士」は行き当たりばったりのプランよりも、何らかの思考を経た上でプランニングしている感が強い。

 純粋な賢さではなく経験から派生する予測といったものを重視しているとケンショウは考えている。

 いくつもの要因の正誤を積み重ねて精度を上げていく、トライ&エラー型とでも言おうか。

 それでもカードを切る適時には躊躇いなく切るところからすれば、現場での応用力は非常に高いだろう。

 この状況下で最も嫌な、基本スペックの高い現場畑の相手だ。


「……交差点で、隊を分ける予定は変えない。「騎士」が追いかけてくるかどうか。実質三分の一の確率だ。……だが少しばかり仕掛けてみるとしよう。それ次第で考えるべきこともあるだろう」


 そう言うとケンショウが黙り込んで指示を待つスマホの向こう側へと自身のプランを話し出した。

 件のポイント「中本の交差点」まで、車載のカーナビではあと400メートルを切っていた。







 4車線全てに車を並べ、そのまま走行するステーションワゴンのケツにようやく追いつこうとしている「光速の騎士」は、ぴったりと並んで走行するその様に、追い抜きの考えを除外した。

 幅寄せされれば潰されてしまうし、その狭い間を抜けるにはドライビングテクニックが必要だ。

 会ったばかりの栄治の技量を十分には把握していないのだから、仕方ない。

 巻き込んでおいて今更ではあるが、万が一にもこの気合だけで生きているような少年に取り返しのつかないことが起きてはいけないのである。


『どうするんですか!? どれを追えばいいんです?』


 耳元のボリュームをようやく下げてくれたおかげで話ができる状態になった。

 そんな中で、「中本の交差点」へと、ノーブレーキのまま車の列が突っ込んでいく。


(ここで、そのまままっすぐ? バラけるもんだと思ってたんだが?)


 距離も徐々に詰まってきており、おそらくもうすぐ「気配察知:小」の有効射程範囲に入るくらいの時だ。

 それを確認してからどちらかへと動こうとしていたタイミング。

 だからこそ、惰性で思考が停滞していた瞬間ともいえる。

 そこを突かれた。


ギャリギャリギャリッ!!!


 道路にタイヤ痕とゴムの焦げた匂いを残して、そのまま直進すると思われた襲撃者の一団が分かれる。

 少しばかり車体を浮かせるような急ブレーキ・急ハンドルを行い、反対車線にまで振った車体のケツを本来の走行車線へと強引に戻す。

 ステーションワゴンが反射板のついたポールをなぎ倒し、一部は危険を察知して停車した車の前方へと衝突しつつ中央分離帯を乗り越えて。

 しかも、一斉に行われたそれは、一瞬のことであり、3方向へと向けられた車両は、再度ドカンとアクセルを踏み込んで加速していく様子だった。


「マジかよッ!?」


 咄嗟に「気配察知:小」を発動するが、その間もバイク・車両共に動き続けている。

 ほぼ同型の車種のそれらを区別するのに必要な時間は、限られていた。

 ぐんっ、とスキルの使用と同時に自分の中にある魔力のタンクが空に近づいているのをひしひしと感じる。

 バイクの後ろでほぼ誤差と言えるほどの雀の涙ほどを回復してはいたが、それでも底はもう見えていると言っていいだろう。


(あのアホ共は……っと。……アレか!)


 左へと急旋回したうちの一台。

 その中にマユミやケンショウ、アキトシの反応を感じ取る。

 だが、それまでの間にバイクもステーションワゴンも進んでいる。

 その為、本来は左折に必要な余裕がなくなってきていた。


「左だッ!!曲がれッ!!」

『うえええっ!!?』


 急に言われて咄嗟にバイクを傾ける栄治。

 だが、速度も出ていることもあり、それは転倒必至の事故まっしぐらな急角度だ。

 言われて体が動いてしまった栄治にとっては、“終わった”としか思えない状況だっただろう。

 だが、今は違う。

 そのあきらめて、叫び声をあげた自分の後ろで、めきめきっと左拳を握る男がいる。

 日本の国内でおそらくこのような無茶ができるものなど、彼くらいだと思われる。


「舐めんなァァァァァッッ!!!」


 曲がりきれず、地面にボディを擦るか擦らないかの傾斜のそこで、一瞬早く「騎士」の左腕が道路のアスファルトを“掴んだ”。


メギボギゴギャゴリパキャゴキャ……!!!


 アスファルトを掴んだ「騎士」の左手が、その地面を削り、捲りあげ、削り、引きはがしながら、急旋回するカーブをなぞる様にしてアスファルトの地面に掌一つ分の幅で線を描いた。


『うぉぉぉっ!!!?』

「栄治、回せぇぇッッ!!」


 ABSで完全にロックがかかる前に、バイクが左折した先の走行車線へと滑りこんでいく。


ドォォンッ!!!!


 最後に思い切り全力で左腕の肘から先を地面へと叩きつけると、地面が波打つようにして砕け、その反動でバイクが元の姿勢を取り戻す。

 きゅきゅっとタイヤが軽く地面を咬む音と共に2人乗りのバイクが急加速していった。


『す、すげぇ! すげえっす!!!! マジで!? マジであり得ないっすよ!!』

「……二度とやらないけどな、こんなこと」


 興奮する栄治とは逆に後ろにまたがる「光速の騎士」のセリフは冷静だ。

 それも当然であった。


(……完璧折れたな、コレ。小指と薬指、全然動かねえ……。いってぇぇぇ……)


 出血まではいかなかったが、最後拳ではなくひじから先で地面をたたいたのはそれが理由だ。

 ちらと見れば左手首から先は籠手の中布を残してほぼ構成パーツの全損という結果になっていた。

 いくつかみすぼらしく残ってはいるが、それもひどくひび割れている。

 防御力という観点からすれば、無意味な飾りでしかない。


(右手はさっき痛めた。そんで左手は今折ったトコ……。回復、か。どちらを優先させる? 盾を持つ左か、一発ぶち込むなら右……)


 両方共から痛みを感じながら悩む。

 「光速の騎士」が使えるのはなけなしの初級回復術のみ。


(選択肢が、少ない……。勘弁してくれよ)


 悩む彼の目の前を走るステーションワゴン。

 その距離は徐々に詰まってきていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここのアスファルト削りながらカーブするの何度読んでもかっこいい脳内に映像が浮かぶ
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