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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
3章

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105/365

6-6―裏 大手コンビニ 銀嶺学院前店

「ほれ、やるよ」

「うぃっす、ありがとうございます。ゴチんなります」


 前から差し出されたほかほかと湯気の上がる、コンビニのプライベートブランドのカップみそ汁を受け取り、満面の笑みで膝の上に乗せた幕の内弁当を食べようとしている後部座席に座る金髪の少年。

 フロントガラスから駐車している大手コンビニの明かりが車内へと注ぎこんできている。

 ここは某県某市、東京から離れた地方都市のコンビニの駐車場である。

 特になにか特産品があるわけでもなく、観光に来るにも不向きな土地柄であるが、目立つモニュメントはある。

 運転席から横を見れば、夜間だというのに煌々と光る明かりの中、うすぼんやりと光るドーム状の繭のようなものが見える。

 本来であればそこにあるべきなのは有名建築家作、一般人には理解できないデザインの時計塔が見えるらしい。

 そこへと通じる4車線の道路の上には看板が設置されており、“銀嶺学院正門入り口 この先↑0.5km”となっていた。

 それを運転席から見ているのは、コンビニコーヒーを啜る加藤という名の中年刑事と助手席でミックスサンドを頬張る老刑事の石島だった。


「しっかし高尾よぉ。お前、わざわざこんなとこまでバイクで来たのか?東京から?」

「そうっす。いや、ダチに金借りて高速とガス代だけはどうにかできたんすけど、飯代だけはどうにもならなくって……。あのまんまだったら完璧どっかの公園で水ガブ飲みするくらいしかなかったんですよね」

「……本格的にアホか、無謀な奴だなお前。そんな「光速の騎士」が好きかねぇ、全く」


 金髪の少年、高尾栄治。

 以前、石島たちが追っていた町のチンピラがイケナイお薬の売人を集めようとした際に偶然通りかかった「光速の騎士」が介入して事なきを得た、あの少年である。

 その際の事情聴取やらなんやらで石島たち警察と栄治は面識があった。

 コンビニの駐車場に置かれた彼のバイクは跳ねた泥で少しばかり汚れている。


「そんで、お前はこのサイトを見てバイクでここまですっ飛んできたってわけか」

「うす!!なかなかさすがに東京からこの距離はきちぃっすね」


 加藤が掲げたスマホの画面はキラキラとした幻想的なサイトを映し出している。

 文面は“続報!現地より生配信を始めました!!”だ。

 味噌汁を後部座席のカップホルダーに差し込み、同じ画面をスマホで表示して見せてくる顔は年相応の少年のものであった。

 スマホか何かで撮影された粗い画像が今も映し出されている。

 銀嶺学院の施設占拠の事件を受け、“非”公式「光速の騎士」支援サイト「我ら光速の従士隊」が速報を流したのである。

 この事態に「騎士」が坐して見ているということはないのではないか、と。

 まあ、最初の目撃情報や「骸骨武者」との一件もあった地域と学院がほぼ同じ地区であるため、可能性としては十分にあり得たのだ。

 それを見て栄治がバイクにすぐ跨ったのは言うまでもない。

 ちなみに補足しておくが、この「我ら光速の従士隊」は以前あった怪しげな募金サイトとは別口であり、非公式であるにも拘わらず国内外の多少名の知れた企業も協賛しているというおかしなサイトになっている。

 最初に有志が立ち上げた時には素人臭さ全開のサイトだったはずが、数日中に“なぜか”某有名アニメーター描き下ろしの扉絵が使われたトップページとその無償のダウンロードページがつくられ、“なぜか”半引退状態だった特撮のテーマソングの作曲家がテーマミュージックを作り、“なぜか”先日発表されたばかりの有名クリエーターたちの作る「騎士」のコレクションアイテムが通販で先行購入できるようになっていたりもする。


「一つだけ、警察官として言わせてもらうが、今は9時30分。あの事件が報じられたのは早くても6時ってトコだ。……法定速度ってのを守ると3時間30分でここには絶対につかないんだぞ?いいか、もう一度言うが絶対に着くわけがないんだがな?」

「……俺の思いがカミサマに届いたんですよ、きっと。すごい追い風でしたから」


 視線を逸らして箸を口に咥えてそ知らぬふりをする。

 加藤と石島は顔を見合わせてお互いに頷きあうと、加藤が栄治の割り箸を奪い、間髪入れず石島が平手でその頭を叩く。

 ぱあん、となかなかいい音がした。


「いった!!痛っっってぇぇえ!!!?」

「二度とすんな、ド阿呆。自損で自分だけが体ヤられんなら自業自得だが、人を巻き込むような事故でも起こしたらどうなるかぐらい、ニュースとかでもさんざやってんだろうが」

「高尾、石島さんが丸くなってて良かったな。5年前ならグーで顔面にイかれてるからな。あとお前家族いるだろう?迷惑かけたくなきゃ、そういうアタマの弱い運転は止めとけ」

「……うす、気を付けます」

「おう、じゃあホレ」


 差し出された割り箸を受け取り半ばになっていた遅い夕食をとる少年。

 傍から何も知らないものが見ればいったい何の集まりだろうと思われる車内には沈黙が下りる。

 小さく絞っていたボリュームを上げてカーナビから流れるテレビを見ることにする。


『……という状況です。現場一帯は銀嶺学院がある以外はさほど大きな建物などもありません。密集した住宅地もあるにはあるんですが、ここからは少し離れており夜間になった現在、本来であれば人もまばらとなる、と地元の方も話してくださいました』

『なるほど、○○さんありがとうございました。気を付けて取材を続けてください』


 画面には特番編成に変わった映像が流されている。

 ここ数週にわたってこういった特番編成になり、後ろへ後ろへと放送回が回されているバラエティやドラマの視聴者にとってはいい加減にしてほしいところだ。

 ゴールデンタイムと言われる時間帯にものの見事にぶつけられる「光速の騎士」の活躍という名の重大事件。

 一部では「騎士」の自作自演説すら出始めるようにすらなっている。


「規制線張った上に、周りの道路も通行止め。高尾、残念だけどお前はここで留守番だからな」

「……駄目っすか?ほら、俺「騎士」の事件関係者だってことで」

「無理だな。飯はおごってやっただろうに。このコンビニで偶然会わなきゃお前すきっ腹だったんだぞ?」

「それにホントは事件関係者っていうなら、飯をおごるのも結構微妙なんだぞ?最近じゃ取り調べの容疑者にカツ丼おごれなくなってるって知ってるか?」

「マジで!!?」

「マジだマジ。まあお前が犯人って案件じゃないし、これに関してはお互い内緒ってことでな。ただ、スピード違反の件に関しては……」

「俺、コーツーホーキを守るってことを心に誓いますッ!」


 右手を挙げて宣誓する栄治をみて石島がはぁと息を吐く。


「じゃあ、お前は飯食ったらここで大人しくしてろ。というか家でテレビでも齧りついてた方がよかったんじゃねえか?」

「現地で空気吸うってのもいいもんですけど」

「若ぇってのはどんな無駄でも経験に変えれるってのがうらやましいな」


 再びのため息。

 しかも今度は加藤も石島と一緒にだ。

 中年のおっさんにも若さがうらやましいときはある。


「でも、なんで二人ともこんなとこにいるんです?」

「ああ、守秘義務ってのは今回あてはまらねえか。一応七狼組のクスリ関係の調査だ。「騎士」が関係してるもんで一回顔出しにって感じだな」

「そうなんですか」


 真っ赤なうそである。

 警察組織というのは、実際問題かなり優秀だ。

 写真一枚からかなりの情報を集めることもできる。

 組織としての優秀さが、ごくたまに起こる不祥事で一気に忘れ去られるだけなのだ。

 そんな警察の組織力を使い、マユミ、マサキ・ガルシアの目撃情報を集めた結果、この「騎士」ゆかりの地にたどり着いたわけで。

 しかも当地では問題が今まさに勃発したところという状況下。


(火嶋教授……。これが終わったら、いろいろとお話したいことがあらぁな、ってか?)


 内心、あの美人のグラマーなねーちゃんにこの件含め、いろいろと聞き出すために居酒屋でも誘ってみるかと石島が天を仰いだ。


 

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