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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
3章

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6-6 首魁 のち イミテーション

 首魁は接近してくる「光速の騎士」を見ながら、手に持った宝石の原石がばら撒かれ空となった袋を地面へと落とす。

 その手には、隠すようにして掌に隠れる大きさの銃がいつの間にか握られていた。

 まるで手品のように唐突に現れたそれに、「騎士」は兜の中で動揺する。


(何処から!?)


 突進時の速度を考えればブレーキを掛けることは、むしろ悪手であることは確実で、「騎士」はそのまま足を進めることにした。

 逆に加速の度合いを強め、接近を試みる。

 狙撃の影響をより少なくするのであれば、この首魁に近づいていた方が誤射を恐れ発砲率も減るはずだと踏んでのことだ。


タァン!!


 単発の手のひら大の銃から弾丸が発射される。

 その狙いは正確に「騎士」の正中線を打ち抜く軌道を描いていた。


カァァンッ!!


 あえて、なけなしの根性を振り絞りそのまま真正面からの攻勢を試みた「騎士」の鎧は、小口径ということも幸いしたのだろうが、銃弾を守る壁として見事に機能した。

 ただ、いくら小口径とはいえ殺傷能力のあるその弾丸の勢いはほんの少しだが、突進する「騎士」の足を止めるだけの衝撃と、一瞬のためらいを生む。

 そのほんの少しの時間を首魁は利用する。

 ぶっ放した銃をそのまま手から滑り落とす。

 そこに唐突に現れる、折り畳み式のバタフライナイフ。

 

(これは、俺のとは違う。何かしらの魔法とかじゃあない!!)


 何もないところから飛び出すコインやカードの延長上の技術。

 手品などに分類される純然たるトリックという技術体系である。

 先程の“手品のように”という表現は間違っているが、正しくもある。

 手品の“ように”ではなく、手品そのものなのだろう。

 先の挨拶時の狙撃銃での“ごあいさつ”にしろ今回の掌大の銃にしろ、そういったトリックプレーを好む性質だということか。


「オ、ラァァァッ!!」


 踏み込んだ勢いのままナイフを握る手の側へと地面へ並行に傾けた盾をふるう。

 後ろに逃げるか、横へと跳ねるか、地面へ伏せるか、人外に近い跳躍を見せるか。

 それのどれを選ぶかで、これ以降の戦術のチョイスが変わる試金石。

 その試金石を、首魁が真正面から“ぶった切った”。


「ハァッ!!」


 手にした小ぶりなバタフライナイフ。

 ちょっとやんちゃな不良少年でも持っているような、さほど頑丈でもないその刃物で、超人の「騎士」が振りぬいた盾を払いのける。


「ナ、ニィ!?」


 驚きの声を上げる「光速の騎士」を余所に、跳ね上げられた盾を持つ左側へと、首魁がミドルで蹴りを放つ。

 かなりの速度で放たれたそれの表面が、陽炎の向こうを覗いた時のようにほんの少し歪んで見えた。

 ほんのつい先ほど、マユミ・ガルシアが両腕に纏っていたのと同じようなものを、だ。

 その揺らぎの正体に気付いた「騎士」は、最初に踏み込んだ足へ力を込める。

 これは、マズイと。


ドゥッ!!

どがんっ!!


「ガ、ァッ!!」


 左わき腹に喰らうダメージを少しでも減らそうと後方へと思いきり跳んだつもりだったが、完全にはそのもくろみは達成できず、減衰率40%といった威力のそれを喰らってしまう。

 弾き飛ばされた先には先程隠れていた穴あきバケツのある水飲み場。

 蛇口のいくつかを巻き込んでそれらを根元から折ってしまう。

 吹き上がる水道が、何とか受け身を取った「騎士」にばしゃばしゃと掛かる。

 勢いよく吹き上がる水がぐっしょりと「騎士」を濡らす。


「自己紹介をするのを忘れていた。まあマユミもいることだし、ここで偽名を名乗っても仕方ない。改めてごあいさつを。環境保護団体トゥルー・ブルー代表者アキトシ・サーフィス・ガルシアだ」


 ピエロマスクを脱ぎ捨て、そう言い放つ真っ白な髪の男。

 手に持ったナイフには、うっすらと先程まで足に纏わせていた揺らぎが見える。


「ファミリーネームからわかると思うが、出来の悪い親族を連れ帰りに来ただけなのだよ。あの跳ねっかえりから『模造異能者』デミ・サイキッカーのことはまあ、聞いているだろうが私もそうでね。ただし、マユミたちとは違い、幾分だが年季が違う」


 そう微笑みつつ話しかけてくる男は、どこまでも余裕を崩そうとはしなかった。


「さあ、もう一度立てるかね?「光速の騎士」よ。言葉だけが強くとも、伴う強さがないと誰も救えはしないぞ?」









「ケンショウ!!」

「ははは!!マユミ!!マサキの馬鹿はどこにいる!?」


 ケンショウは指をぱちんと鳴らし、一気に近づこうとするマユミとの間に黒装束の人垣を作る。

 命知らずの傀儡兵と呼ばれる彼らを。


「放て!!」


 じゃき、と各々が構える銃火器がマズルスパークを夜の闇の中に発した。

 それをマユミは先程と同じように両手を遮るように突出し、弾丸を宙に停めると、そのまま発射方向へと捻じ曲げる。


「だから、お前は芸がないというんだよ!!」

「何をっ!」


 ケンショウの言葉に反論しようとしたマユミの背後から、一番最初にマユミが現れた時に倒されたはずの黒装束の傀儡兵が唐突に起き上がり、その距離を詰めてきた。


「くっ!?」


 振り向きざまに裏拳を傀儡兵に叩き込み、一瞬であるが前方への警戒が薄くなる。

 ざ、という地面のレンガと靴の擦れる音が耳元に届いた時にはケンショウが目の前にいた。


「ははは!!どうした、どうした!?」

「ああああっ!!」


 ケンショウの手元には特殊警棒が握られており、それがマユミへと襲い掛かる。

 先程までの勢いが嘘のように、それをいなすだけでマユミは精いっぱいになっている。


「集中力の持続がその力の肝だと教えたのは俺だぞ! さあ、さあ、集中が一度でも緩んだそれをどの程度維持できる?5分か、3分か、30秒か!? ははははっ!! 足掻け、足掻け!!」

「その言いざま、反吐が出るっ!!」


 マユミは右腕に力を込め、振りぬく。

 真正面からそれを受け止めるケンショウが、地面を穿り返しながら、後退した。

 その際、ケンショウがガードの為に腕の間に入れた特殊警棒が、捩じれて、半ばから断裂して先が転がっている。


ぱちぱちぱち


 千切れ飛んだ警棒の持ち手を捨てて、音を発てて手を叩く。

 その様はまるでピアノ発表会でよくできた小さな教え子を褒めるような、そんな優しささえ感じられる。

 出来の悪い子供がマグレで出した百点に対するもののようでもあり、底意地の悪い侮蔑にも見える。


「今のはなかなか良かった。そうだな、70点をくれてやろう。ただ、もう少し精神的に余裕を持つ必要がある。怒りは力は増すかもしれんが、精密さと状況把握には難が出る。だから、そんな無様に傷を負うのだ」


 指さされた先が何を指しているのかをマユミは正しく理解していた。

 つぅ、と頬を一筋何かが伝っていく。

 ぐいといらだたしげに右手でそれを拭うと、掌一面に「騎士」のものとは違う、新しい鉄臭さを感じる。

 恐らくこの一連の攻防の際に切れたのだろう、額から一筋血が流れていた。


「女の顔に傷をつけるな、だったか。あの男の戯言だったな。覚えていないか、マユミ。お優しい“オトウサマ”はお前にも話してくれたろう?」

「お前がっ!お前が父さんを、語るなッ!!!!」

「おいおい。何度も言うがお前こそ、だ。遺伝学的に父親と言える“かもしれない”男にどうしてそうもこだわるのか……。お前が“人を騙る”などおこがましい」


 さんざからかうだけからかったと思ったのだろう、ケンショウがその安物のパーティーマスクを脱ぎ去る。

 細めた三白眼がキツメの印象を与えてはいるが、現れた顔は言われてみればその造作にマユミと幾分か共通点を見出すことができる。

 親類であると言われれば、何の抵抗感もなく受け入れられる程度には確かに似通った顔つきだ。


「フラスコの小人が血肉通う人の温かさを求めるなど、滑稽でしかない。サンプルのお前たちに外をうろつかれると面倒でな。いい加減、檻の中に戻ってもらうぞ」

「親殺しの狂人がッ!お前の方こそ、人の温かさを失くしているでしょう!!?」

「やはり馬鹿だな、マユミ。お前の親は奴らではなくフラスコだ。私やアキトシ様と違い、人の胎を借りて出てきたお前たちプロトホムンクルス程度が人の心の機微を語るな。あの2人は私と貴様たちヒトガタを同列に見ていた。トゥルー・ブルーの思想である優れた“人”を作るという理念すら忘れて。人形に愛を注ぐなど、おぞましいことだよ」

「私も、マサキも人間だッ!!」


ドォォォン!!!

 

 かっとなった所に大きな激突音が響き渡る。

 先程まで「騎士」とアキトシが立っていた場所のあたりだ。


「ははは!マユミ、本当にどうにかできると思っていたのか?焦りや妥協もなく、十分な時間をかけて検討した結果、「光速の騎士」がアキトシ・サーフィス・ガルシアに勝てると!?……だから、お前は考えが浅いというんだよ!!この出来損ないが!!」


 侮蔑に近い声色を含み、マユミに投げつけられた言葉は、ナイフのように深く静かに、そしてどこまでも冷たく、彼女の胸に突き刺さった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] >それが本当に心の琴線に激しく触れるのだ。 琴線に触れるの琴線は本来心の奥に秘められた,感動し共鳴する微妙な心情の事を指し、怒りやネガティブな感情に対して使う表現ではないので、誤用か…
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