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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
3章

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6-4 残響 のち 彼、先ヲ歩ミテ

『お前、すごいよな』


 幾度となく言われてきた台詞だった。

 何気なく本当につい口に出してしまったのだということは、何度も何度も繰り返されれば自然とわかるのだ。

 お前は俺・私とは違って、出来がいい。

 お前は、何でもできる。

 お前は、何にでもなれる。

 だって、お前はすごいんだから。

 諦観・羨望・嫉妬、それらの絶妙なブレンドで放たれる、いつもの一言。


(この人も、そう言うのか)


 最初に会ってそう経たないうちに、彼から言われた台詞だった。

 彼も但馬隼翔という人物の特異性に気づき、そして自らとの間にくっきりと線を引くのだなと思った。

 だから、その次に発せられた言葉に挙動不審になったことを覚えている。


『そんな無理してんのに、全力で笑えるって。正直疲れないの?マジで?』


 多分ポカンと馬鹿面をしたのだろうと思う。

 隣で突っ伏すようにしてくたばりかけている、特訓中の小休止で束の間の休息を取っている平凡な男からの言葉に。

 すぐに気を取り直し、軽く彼の肩を叩きながら“何言ってるんですか”とおどけて見せた。

 そんな道化じみた動きを横目で見て、彼は何の気なしにつぶやく。


『ふーん。……そっか、じゃあ、いいか』


 そう言って興味を失ったような表情で彼は、「聖騎士」である幼馴染の少女との特訓に戻っていった。

 只々普通な、彼にとっては本当にどうでもいい世間話でしかなかったのだろう。

 だがおそらく但馬隼翔と関わる人々の中で、最も早くその内面に踏み込んできた彼は、どこにでもいる普通の一般人だった。

 そこからだったと思う。

 彼の後ろを追いかけて一緒に食事をしたり、バカ話をしたり、そんな日々を送るようになった。

 多分、3年前のあの日、あの時、あの言葉からだ。

 それだけは、どうでもいいことのはずなのに、なぜかはっきり覚えていた。







 銀嶺学院創設40周年記念事業において、卒業生有志による寄付により建設されたのが、一際目立つ時計塔である。

 私立の名門校である銀嶺学院卒業生の中には建築家やデザイナー、企業人なども片手では数えられないほど輩出している。

 そんなわけで色々と特徴的な外観をしたその建物は学院内でも非常に目立つ。

 よく言えば独創的、悪く言えばよくわからんデザインのその時計塔は、シンボルとなる鐘を備え、日々生徒や教職員へと時刻を伝える役割を果たしてきた。

 ただ、そんなものだけがあるのでは無意味ということもあり、内部には天文部の部室や、非常用の様々な資材も備蓄された倉庫としての役割を果たしている。


(……静かだね。だけど誰かはいる。この塔から間違いなく、銃で狙撃をしているはずだ)


 身を屈めてそっと建物内部に侵入すると、真っ暗な廊下を進み、清掃用のロッカーの陰に身をひそめる。

 とはいえ、「勇者」但馬隼翔はおそらく自分の侵入がばれているだろう可能性に気付いてはいた。


(いくらなんでも後方の警戒ゼロで狙撃するなんて馬鹿な奴、いないだろうし。ただブービートラップとか仕掛けられてたらアウトなんだけど……)


 映画などでよくあるピアノ線を踏んだ瞬間にドカンと爆発するトラップを心配する隼翔。

 ここまでおおっぴらに銃火器を持ち込んでいる以上、その可能性は否定できない。

 昨日妹と鑑賞したアクション映画のワンシーンをこんな時に思い出してしまう。

 階段にあるそれに引っ掛かり軽口をたたいていたSWAT隊員が、吹っ飛んでいくB級映画であったが、まさかのベストタイミングであった。


「まあ、気を付けて昇るしかないけど。エレベータ、はダメだろうしな」


 荷物搬送に使うエレベータは電源が落とされている。

 本来カゴがある場所で点灯される表示パネルは、ブラックアウトしたままである。


(仕掛けるなら階段でだろうけど、こっちが持ってるのはこれだもんなぁ)


 「騎士」からレンタルされた盾と、どこかの土産物の黒塗りの木刀1本、不審者対策用に購入されたあくまで一般流通されている鉛の板入りの防刃ベスト。

 最低でも狙撃銃を持つ相手に対し、接近戦オンリーの装備である。


(頼りない、なぁ。まあ、行くか)


 とはいえ行かないという選択肢をとってもいいのである。

 正直な話、ここに配属されている敵が何人かにもよるがこのままここに“誰かがいる”という事実があれば、容易に狙撃などできはしない。

 敵側に侵入者の排除を他に任せきるだけの人材があるとは思えない。

 人間ではなく、気味の悪い人型のナニカを使っての襲撃をしていることからも容易にそれは推測できる。

 で、あればなぜ隠れるという選択肢を除くのか。

 要は先手を取れる可能性があるからだ。


(上手く敵を排除して、その上で避難する。これがベスト。圧倒的に人の範疇を超えるナニカがいない限りはどうにかできるはず)


 ぎゅ、と握った黒い木刀。

 それにほんのわずか、うっすらと燐光が淡く瞬く。


(レベル1、はないか。せいぜいレベル0.001くらいだな。さっきの黒い変な奴らを片した時に“戻った”のは)


 茂と同じく隼翔も若干であるがレベルアップに近しい何かを経験していた。

 ほんの微々たる量の経験値を得たことで、「勇者」本来の力の更に根幹に至るパスが通じたようであった。

 ただ、一般人たる「光速の騎士」と比較して、向こうの世界で散々レベルアップしてきた「勇者」にとっては同様の経験を経たとしてもそれは圧倒的に不足していると言えるのである。

 いくら弱体化しているとはいえドラゴンやキメラなどの超生物を単身で屠る「勇者」にとっては銃火器を所持したテロリストなど、端数程度のカウントとしかならないのだ。

 レベルアップの基本は「魂の昇華」にある。

 「経験値」とは言い得て妙だが、その言葉通りその経験で“魂がいかにざわめくか”がそのポイントとなる。

 RPGなどである、敵を倒せば一定値を常に手に入れるタイプではなく、自身のレベルと敵のレベル差による修正値が常に計算されるタイプであると考えればいい。


「とはいえ、多少は動けるようにはなったか」


 床に転がる木製のドアストッパーを手にとり、本気で握りこむ。

 顔を真っ赤にするほど力を込めると、バキ、と致命的な音を発てて握りこんだ掌から木材の破片が床に落ちた。

 全盛期であれば、息を吸うように簡単であったそれが全力で辛うじて為すことができる程度。

 自嘲気味の笑みもそれは零れる。

 おそらく、この世界で元に戻るほどの経験を積むことはできないだろう、というのが「軍師」である由美の解釈であった。

 シージャックの現場にいた彼女たちも今までにない経験を積んだはずであるが、全くと言っていいほど“経験値”を積むには至らなかった。

 彼女たちも隼翔の感じたパスのようなものを感じはしたが、それも一瞬で消え去ったらしい。

 そのことと今回の0.001へのレベルアップから考えるにおそらく、生命の危機に至るレベルの戦闘をしなくてはならない。

 それは最低でも銃を所有した殺意ある敵で、その次にはそれを上回る戦力との経験が必要になる。

 これを繰り返せばレベルヒトケタには達することが可能となるはずだが、正直そこに至るまでにどれだけ、と考えるだけで背筋が凍る。

 大量殺戮者にあこがれる高校生など普通はいないはずだ。


(だが、油断はできない)


 いまの隼翔の戦力評価をするならば、茂には余裕で負ける。

 相手が片手でも厳しい。


コツコツコツ……。


 モルタルの床に靴音が響く。

 わざとらしいその誘う靴音に、ふふ、と笑い顔を浮かべて隼翔が立つ。

 若く、そして愚かで、向う見ずな子どもと思っているのだろう。

 そうであるならば。

 そう思われているのならば。


 再び彼は立つのだ。

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