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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
3章

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6-3 突破

 ガキン、とボイラー室の扉が大きな音をたてて、すこしだけ開いた。

 設備の性質上、その重厚な扉は通常の扉よりも厚みがあり、本来の用途とは違うが容易には弾丸を通すことはない。

 無い物ねだりに過ぎないが、対戦車ライフルを持ち込むべきだったかと思うのだ。

 今この状況下で必要なのは圧倒的な面制圧のできるだけの火力であった。

 そして、全員が扉の影から何かしらの姿が見えた瞬間を狙う。

 一斉射で様子を見、その上で再度の攻撃。

 前方一面からの攻撃を防げるほどの大きさの盾など持ち合わせていた映像はなく、仮に有ったとしてもその場から動かせないように釘付けにできるだろうと予測している。

 だからこそ、“扉というものは、出入りするためのもの”という認識の外にあるその一手には対応できなかった。


ギャンッ!!

ドォォンッ!!


 金属同士が鈍く擦れあう音と、そこから発せられた激突音。

 思わず、ぎょっとした一団が体を硬直させたのは仕方ないことだったかもしれない。

 わかりやすく、端的に説明するならば。

 ボイラー室の扉が、カッ飛んできたのだ。


「避けろぉぉぉっ!!」


 誰ともなく発せられたその言葉に、全員が有無を言わず従う。

 当然であった。

 もし棒立ちでそれが激突するならば、いや仮に頭の悪い誰かが受け止めようとするならば。

 ぷちっ、となる。

 間違いなく、100%の確率で。

 ぷちっ、となるだろう。


ガラガラッ!


 レンガが埋まった地面を扉がガラガラと転がる音をさせている中、回避に全力を注ぐ彼ら。

 そして彼らが1手を費やすのであれば、その相手である「光速の騎士」も1手を指す時間が生まれる。

 大きくその場から飛び跳ねた彼らにできたのは、全力で駆け抜ける銀の塊が接近してくるのを視界の端に捉えることだけだった。

 そして双方の次の一手。

 その一手を双方が取るまでのコンマ数秒の間に事態が動く。


コンッ……!


 硬質な音が周りへと響く。

 ボイラー室から、トゥルー・ブルーの一団まで約7割を駆け抜けた位置に。

 そこへと行きがけの駄賃で落とされた最後のスモークグレネードが勢いよく煙を吐き出していた。


「くっ!?」


 「騎士」に接近されているのはボイラー室から見て左翼方向。

 扉をぶつけられたのは、中央部。

 そして左翼と右翼を分断するようにして煙が上がっている。

 つまり、フレンドリー・ファイアを恐れるのであれば、右翼側からの射撃は、ない。

 ボイラー室から左翼までの間にもくもくと煙幕が発生していた。

 つまり、飛び出した瞬間からピンを抜いたグレネードを携えながら一気に煙幕の線を引いたわけだ。

 これにより、狙撃に関しても有効な位置取りが難しくなる。


(集団戦に、手慣れている!?)


 あれだけの身体能力を持つ個人が、こういった集団戦闘についての高度な知識を持ちうるのか、という疑問が走る。

 こちらは幾人かの人間が、傀儡を操るという工程を経る分、細かな点を補いきれない。

 その一方で、「光速の騎士」はそういった隙を突いてくる形の嫌な戦い方をこちらへと強いてきているわけだ。

 そうトゥルー・ブルーの傭兵が考えるのも無理はなかった。

 だが、実際のところ「騎士」はただ成功例を基にそれをブラッシュアップしただけのこと。

 ほんのつい先日どころか今日の昼前にやったことを再演しているだけに過ぎない。

 スチール机がボイラー室の扉に、閃光が煙幕に、そして訓練が本番に変わっただけのこと。

 当然、これを受けるのが白石総合物産の警備部の面々であれば、何かしらの対応ができるようにはなっているはずだ。

 だが、これを急に目の当たりにした場合、それは即ち“初見殺し”になる。


「ヌンッ!」


 駆け込んだ勢いと気合の声と共に振りぬかれた右腕が、黒装束の傀儡兵の顔面を打ち抜く。

 打点を中心にプロペラのように錐揉みしながら傀儡兵が吹っ飛んでいった。

 うっすらとゴムの溶けたような匂いと地面にくっきりとブーツの跡が残っていた。

 その立ち止まった「騎士」が向けた視線と、咄嗟に向けた銃口が交錯する。

 瞬間、発砲。


ダキュ、ンッ!!


 放たれた弾丸が、「騎士」のぶれるほどの速度で掲げた漆黒の盾に弾かれる。

 放たれる方向さえわかっているのであればそこへ盾を置いておくだけでいい。

 これをどうにかしたいのであれば、真横からの援護射撃が必要となるわけだが扉を避けたことで各部隊が、体勢を崩し、且つ煙幕で視界が遮られ、その上先程までと打って変わり、新しい鎧に身を包んでいる。

 白と銀のカラーリングの白石特殊鋼材研究所謹製「光速の騎士」専用全身鎧Ver2.0であった。

 元々の一般兵用の鎧と違い、全身の継ぎ目やフィット感を専用にアジャストしたもので外装の派手派手しさに目を瞑るならば、格段の性能アップが施されている。

 防刃防弾絶縁処理耐熱耐衝撃………等々、考えうるものについて平均的に底上げを行ったベーシックプラン。

 尖った所の無いモデルだった。

 ちなみにこの次のVer2.1は地味目に現在作成中である。


「傀儡兵っ!!」


 叫ぶと同時に周りの黒装束が、傭兵と「騎士」の間に割って入ろうとする。

 防御を一切考えず、身を挺そうとするのは傀儡というこれもまた人ではない存在の使い道である。

 あくまでヒトガタ、人を模った模造品。


「疾ッ!」


 忽然と「騎士」の右手に槍が現れる。

 間に入ってこようとした2体のうち1体の胸を槍で突き刺し、もう1体を盾で強かに打つ。

 槍で刺された側は当然として、もう一方の傀儡兵も首がぐるんと100度を超える回転をして、足元から崩れ落ちた。


(だが、これで!!)


 その2体の傀儡を生贄に、傭兵は距離を稼ぐ。

 そして直接相対していた左翼以外の部隊も煙幕を回り込んで「騎士」を直接狙える位置取りへと移動を完了しようとしていた。

 完全に「騎士」を中央に置いてぐるりとまわりを取り囲む形である。

 いわゆる包囲殲滅の形と言えるだろう。


(行ける!これならば、射殺すことが、できる!!)


カラァァァァン……!


 そのとき遠くから、本来は鳴る筈の無い時計台の鐘の音が一度だけ、強く鳴り響いた。

いつもの半分なので「のち」はない仕様です。

ちょっとシリアスと戦闘シーンは苦手なのですね、はい。

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