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あえて鈍感なフリをしてみた  作者: 山田太郎
6/8

第5話


〈春視点〉


兄さんは実は私がお腹空いてたことに気づいてたんですね。

カラオケを選んだのは単に私と久しぶりに歌いたかったからだけでなく、さりげなく私にご飯を食べさせるためなんでしょうね。

普段鈍感な兄さんですが、こういう所は敏感で、しかも気配りもしてくれます。そんな所に私は惚れたのでしょうね。


「兄さん、ありがとうございました。」


「ん?あぁ、奢ったこと?別に気にしなくていいよ。春休みにバイトしてたし、これからもバイト続けるし。」


兄さん、私の今の感謝の本当の意味、気づいているんでしょうね。その上で敢えてそのことに触れないでいようとしてくれています。

あくまで今回のカラオケは昼食のためではなく、楽しむためとでも言うかのように。


「でも春前よりすごい歌うまくなったね。普通に俺と同じくらいの点数でびっくりしたよ。」


「まあ、友達とけっこう行っていたので。」


だいたい私たちの点数は90前後くらいです。

テレビに出てる歌上手い人並みには歌えませんが、けっこう取れてる方だと思います。


「そっか。じゃあ今度また2人で一緒に行こっか。今回あまり歌えなかったし今度はフリータイムで。」


「そうですね。今回は2時間でしたしね。もっと歌いたいですし。」


また2人きりで行けるんですか!すごい楽しみです!

あぁ、でももう私は受験生だからそんなに遊んでいる暇はないんですよね…


たわいもない会話をしながら帰っている途中、少し兄さんとの思い出が浮かんできました。

こうして話せるのも兄さんが私のことを嫌がらずに何よりも優先してくれるからなんですよね。


初めて会ったあの日から兄さんにずっと良くしてもらって、私が兄さんに理不尽なことを言って怒ったことはあっても、兄さんから私に怒ることは滅多にありませんでした。

何不自由なく暮らしていけたのも兄さんが気を遣ってくれたからなんですよね。


「ん?春?どうしたの?」


「…いえ、なんでもありません。」


「そう?ならいいけど。」


「……本当に、ありがとうございます。」ボソッ


本当に感謝です。この人が私の兄さんでよかったです。

常日頃から思っていましたが、やはり水野裕太以外の人が私の兄さんなのは考えられません。

そして、ここまでよくしてもらえなかったと断言します。


「ねぇ春、大丈夫?さっきから俺の顔めっちゃ見てるけど。」


「別に、兄さんの顔なんか見てませんよ!あれです!奥のビルとかお店とかを見ていたんです!」


「お、おう。それならいいけど…」


兄さんが鈍感なのもあれですが、私も素直になりたいです。もっと素直になって「兄さん大好き」と言えたらどれだけ楽なんでしょうか。

今はそんなこと無理でも、少し前に進んでみましょう。


「…手。」


「え?」


「手…握っても…いいですか?」


言えました!やりましたよ!


「え、俺と?いいの?」


むぅ、なんで色んなこと察してくれるのにこういうことは察してくれないんでしょうか…


「いいんです!ほら!さっさと繋いでください!」


「え…う、うん。」ギュ


「ふわぁ…」


幸せです…えへへ。


「春ー、変な声出てるけど。」


「ふぇ…え?声出てました?」


「うん。ばっちり。」


最悪です。絶対変な目で見られます。

私は顔を真っ赤にしながら、でも手はしっかりと握ったまま家に帰りました。


その後、母さんに私の顔が真っ赤なのと手を握ってることを見られてニヤニヤされながらいじられたのは別の話です。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



〈裕太視点〉


まず始めに…今回のカラオケ、春が可愛すぎてもう死にそうでした。


「兄さん、ありがとうございました。」


「ん?あぁ、奢ったこと?別に気にしなくていいよ。春休みにバイトしてたし、これからもバイト続けるし。」


いや、もうむしろ俺にお金を払わせて下さいって感じ。天国だわここ。

あと多分春気づいているんだよな。さすがに色々頼みすぎたか?まあいいや。


「でも春前よりすごい歌うまくなったね。普通に俺と同じくらいの点数でびっくりしたよ。」


「まあ、友達とけっこう行っていたので。」


あぁ、その友達が羨ましい。春の歌声を聞けるなんて…なんか俺やばいやつみたい。今更か。


「そっか。じゃあ今度また2人で一緒に行こっか。今回あまり歌えなかったし今度はフリータイムで。」


「そうですね。今回は2時間でしたしね。もっと歌いたいですし。」


よっしゃあ!!俺勝ち組!

閑話休題(それはおいといて)

なんか春の様子がおかしいんだけど。なんかあったのかな?


「ん?春?どうしたの?」


「…いえ、なんでもありません。」


「そう?ならいいけど。」


「……本当に、ありがとうございます。」ボソッ


ん?なんか言っていたみたいだけど聞こえなかった。

なんて難聴系主人公じゃないので。俺は今の聞こえちゃったので!ほんと可愛すぎるしょ!!

はぁ、落ち着こう。calm down …OK。よし。

うん、春の視線すごい気になる。もうすごいうっとりとした目で俺のこと見てるもん。自意識過剰?んなわけ。


「ねぇ春、大丈夫?さっきから俺の顔めっちゃ見てるけど。」


「別に、兄さんの顔なんか見てませんよ!あれです!奥のビルとかお店とかを見ていたんです!」


「お、おう。それならいいけど…」


いや、その言い訳はちょっと無理があると思う。まあ俺得だからいいけど。


「…手。」


「え?」


「手…握っても…いいですか?」


え!なにそのラッキーイベント!ふぅ、即答いいねするとこだった。鈍感のフリ鈍感のフリ。


「え、俺と?いいの?」


「いいんです!ほら!さっさと繋いでください!」


いいよね!?いっちゃっていいよね!?


「え…う、うん。」ギュ


「ふわぁ…」


なにその声可愛すぎるんだけど。


「春ー、変な声出てるけど。」


「ふぇ…え?声出てました?」


「うん。ばっちり。」


春はめっちゃ顔を赤くしてそのままなにも喋らずに帰った。

でも、こういう風に帰るのもいいな。少しは俺からも誘ってみようかな?


この後母さんと一緒に春をめちゃくちゃからかった。

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