1 プロローグ 旅立ち
初めての投稿です。がんばって、ぼちぼち投稿します。
「止めときゃよかった、ああ大失敗だよ」
今年53歳、定年1年前の陸上自衛官池田正志は汗を拭いながら一人つぶやく。池田は生い茂るジャングルの真ん中で一人辺りを見回す。
「解からん、ここはどこ私は誰?なんちやって、はああああ~誰かあ~どうしてこうなったあああ」
叫んでみたが返事はもちろん無い。聞こえてくるのはよく知らない鳥の鳴き声らしきものだった。
(あの時断っておけば今頃はのんびり訓練でもして、定年前の就職準備でもしてたのにあの時イイイ!) 池田は3ヶ月前の事を思い出していた。
「えっ、大隊長が俺を呼んでる?」
隊長の副官から電話を貰い慌てて大隊長室へ急ぐ。部屋の前で制服のネクタイをチョイと直し、ノックし声を掛ける。
「池田曹長です」
なかから隊長の声で入れ~と、返事がある。
「おお、池田曹長ご苦労さん、さあ座って」
大隊長がソファに座ると反対側に腰かける。大隊長は防衛大出身のエリートで、将来は師団長間違いなしと言われているいるが、気さくな性格で下の隊員にも気軽に話しかけえらぶった態度が無いので人気がある。
(ハア~同じ年には見えんな~、白髪は無いし腹も出ていないしおまけにハンサムだ。俺とは180度逆だな)ちらりと自分の突き出た腹をみて溜め息をつく。
「いや~急がしいのに呼び出してすまんね」
「いえいえ定年前なんでボチボチやらしていただいています」
はははと、技とらしい笑い声をだす。
「うんうん、定年後の仕事は何か考えているのかな?」
「ええ、まあ、そのハイぼちぼちとハイ」
はっきりいってノープランだった。どうにか成るさぐらいの考えしかないし、最悪日雇いのアルバイトでも良いやと思っていた。なんせ53歳独身、親の残してくれた小さな持ち家があるし、退職金で2、3年はどうにかなるさとそんな考えだった。
「まあいいか、池田曹長定年前に最後の思い出としてPKOはどうかな?」
「ぴ、PKO、う~んPKOですか」
池田は迷った。PKO(国連平和維持活動)は紛争地域での民間人保護やら公共工事だが、池田は体力と長期任務に不安がありこれまで希望した事が無かったのだ。それに普通は体力バリバリの優秀な隊員が行くはずなのに何故自分がと不安になった。
「ハハハ、なぜ指名されたか不安かな?」
大隊長が笑いながら聞いてくる。
「ハイなんで自分なのでしょう、はっきり言って自信ありません」
PKOに行けば半年は外国で暮らさなければならない。言葉の通じない国なんか行きたくも無かった。
「いやね、参加予定の曹長が1名怪我で参加できなくなってね、それで同じ階級の池田曹長なら良いかと思ってだよ」
「いやあの、その、あんまり体力にその自信無いんですけど」
何とか断ろうと言い訳する。
「ああ、いや体力は関係ないよ、やるのは後方任務の糧食勤務、つまり飯炊きだよ」
「なるほど飯炊きですか、それだったら、自分でも出来そうです」
池田は若い頃から料理好きで、部隊での糧食勤務も10年近くした事があり、調理師免許もその時取得した。
「ハハッいいね!うん良かった。細部の予定については副官に聞いてくれ。では頼むよ池田曹長」
大隊長が妙に嬉しそうな顔で握手してきた。
「はあ頑張ります」
なんかよく解からないけど笑顔で手を握り返すその横で、副官が苦笑いを浮かべていた。
「出国は来月の三日です、準備期間が一ヶ月チョイしかありませんので、早めの準備をお願いします」
副官は30台位の若い幹部でメガネの奥の目が怖い。如何にも出来そうな感じがする。
「何か質問はありますか?」
準備に必要なリストが書かれた書類を渡しながら聞いてくる。
「はあ、まあこの書類に書かれたものを準備しておけば良いんだな?」
よく解からん表情で聞く。
「そうです、他に何か質問は?」
「ああそうだ、そういえばどこの国に行くんだ?」
肝心な事を忘れていた。
副官がメガネの中央を中指でくいッと押し、下から見上げニヤリと笑い言った。
「ガンザニア共和国・・・・デス」
「が、ガ、ガンザニーーーアーーーーー」
(やられた、ああやられたぁあああ、よりによってガンザニアかよ~)
アフリカ大陸最後の独裁国家ガンザニア、大統領がクーデターにより失権し内政が悪化、内戦状態の国である。
(はあ、まあ良いか飯炊きだし危険は無いだろう)
こうして、おっさん自衛官はアフリカに向け旅立った。
自衛官はしゃべる時なんで「自分」て言うのかな。