一年後。そして新作脱出ゲーム セーブ【1】
その手紙は、約一年ぶりに中学時代の友人から送られてきたものだった。その封筒は大きく、中にはパソコン用のディスクが入っている。そのディスクには『新作・脱出ゲーム』とラベルがされており、添えられている手紙には、『テストプレイよろしく』とだけ軽い言葉が書かれてある。
まじかよ。などと呟きながら、さっそくディスクをパソコンに挿入し、中に入っていたゲームを起動する。
見覚えのある画面、見覚えのある始まり方。それは、紛れもなくその友人が作ったゲームだとわかる。以前、彼が作った脱出ゲームをテストプレイさせてもらったことがあったのだが、その時僕はそれをボロクソにけなしてしまった。その友人が、それに対して怒ったことはなかったのだが、こうして送ってきたということは、やはり悔しかったに違いない。
ゲームの始まりは脱出ゲームの定番通り、密室から主人公が目を覚ますところから始まる。それも、前作通りだった。もしも何も変わっていなければ、その密室には脱出するための謎解きがあるはず。その部屋は誰かの寝室なのか、ベッドや机、その上にパソコンなどが置かれていた。
だが、そんな部屋の中をいくらクリックしてみても、なんの反応も何もなく、主人公は茫然とするしかない。
……なんだよこれ。あまりにも何もできない部屋に、クソゲー臭が漂い始める。どうやってここから脱出しろというのか。
そう思いゲームを閉じようとした時だった。突然、主人公が喋り始めたのである。どうやら、イベント待ちだったらしい。
――僕は、自分でこの部屋に閉じこもった。この部屋から出たくない。外は怖い!
……はっ?
そして、画面に大きな文字が出てくる。
――引きこもりからの脱出。
「なっんでやねんっ!」
思わず、画面に向かってコテコテのツッコミを入れてしまう。部屋で一人叫んでいるのは、少し頭のおかしな人みたいで恥ずかしくなったが、それ以上にゲームの方がおかしいのだから仕方ない。
僕は、そのままそっとゲームを閉じた。
「駄作臭が芳ばし過ぎるだろ……」
序盤があまりにも悲惨だったからと言って、今後の展開も悲惨だとは決して限らない。だが、それを臭わせてしまうこのゲームは、多くのプレイ者たちを諦めの気持ちへと引きずり込むに違いない。
何でもそうだが、やはり最初とは肝心だ。小説においても、それは言える。
例えるなら、タイトルとあらすじを読みワクワクした気持ちで開いた一ページ目。にも関わらず、まるでそれを嘲笑うかのような、全く違った世界観が現れた瞬間。
おそらく、読者は絶望することだろう。いわゆる出オチというやつだ。
……まるで、『青春モノ』を読もうとしていたのに、いきなり『脱出ゲーム』が始まってしまったかのような。
だが、事実は小説よりも奇なりという言葉があるように、現実ではそういったことが多々起きる。
僕が高校へと入学した時もそうだった。胸に希望を膨らませて入学したにも関わらず、現実は想像の遥か下を這いずり回った。それを出オチと呼ばずなんと呼ぶか。そして出オチの多くは、環境などではなく、自分から引き寄せてしまうことが多い。
周りが期待を裏切ったのではない。
自分が、過剰に期待していただけなのだ。
そこを理解した途端、心とは驚くほどに冷めていく。それ以前の、熱の籠った自分を思いだし、それこそが異常であったかのようにさえ思えてくる。
そう、僕の高校生活はそんな事態に陥っていた。そして、それこそが普通なのだと思い始めていた。
諦め始めていたのだ。
何もかもを。
だからこそ僕は友人の脱出ゲームに対し、すぐに閉じてしまったのだ。
一年前の僕なら、そんなことはなかっただろう。文句を垂れながらも、ゲームを続行していたに違いない。
だが、今はそうではなかった。
それが善いことなのか悪いことなのかは分からない。ただ、そうやって下を這いずり回っていると、時に何かとぶつかることがある。それはただの『石ころ』かもしれない。もしかしたら、誰かが落とした『ダイアモンド』かもしれない。
もしかしたら――。
この底辺を脱するための、『鍵』であるのかもしれない。
作者の成長の為、忌憚のない意見をもらえると有難いです。




