ゲーム セーブ【5】
はい。待ちきれず更新
暗い部屋。そこで静かにそのゲームを起動する。無論、友人の『脱出ゲーム』である。
葉加瀬から不思議な話を聞いたあと、この世に存在するはずのない幽霊について考えていたのだが、不意に、その存在を忘れようとしていたこのゲームのことを思い出したのだ。
前回は、選択肢を間違えてしまいゲームオーバーとなった。その事自体は、別に気にするようなことではないのだが、そのゲームオーバーの過程があまりにも気に入らず、忘却の彼方へ追いやろうとしていた。
もちろん幽霊とゲームは違う。だが、このゲームは現在僕しかプレイしていない。ということは、エンディングも僕しか見ることが出来ないということになる。そう考えると、なんとなくプレイせずにはいられなかった。
データをロードする。すると、前回挫折した選択肢の画面が写し出された。
そこで、『ネット探偵に依頼する』という選択肢をクリック。
――ネット探偵に依頼をした。依頼達成を達成するまでの期間は三日。その間、相手が自殺をしてしまわないように時間を稼げ!
瞬間、ゲーム画面がバトル画面へと変わる。
「……は?」
軽快な音楽と共に、ドット絵で映し出される自殺サイトの相手。
その下には、四つの選択肢が現れた。
『たたかう』
『行動』
『アイテム』
『みのがす』
「……なんだよ、これ」
それは、脱出ゲームの枠をぶち抜いたあり得ない展開だった。まるで、バトル要素が需要あるからといって『無理やり』闘技大会編をねじ込んでくる駄作小説かのような……。
いや、敢えてそこは問題視しないでおこう。需要があるなら供給するのは至極当然の流れ。だが、このゲーム画面は、もう一つの重大な問題を抱えている。
「これ……某ゲームのパクりじゃ……」
それは、いつか友人が興奮ぎみに話していたPCゲーム。ストーリーは、モンスターの世界に落ちてしまった主人公の冒険RPG。
その友人があまりにも興奮しながら話すため、暇潰しにと始めたゲームだったが、悔しいことに友人の言葉通り、それは正しく神ゲーと呼ぶに相応しいクオリティだった。
その神ゲーと酷似した画面が、今、目の前に映し出されている。言い逃れなど出来まい。これは、パクりだ!
そして、そのゲームと全く同じ選択肢。そのゲームをプレイした感覚から、『たたかう』ではなく『行動』をクリック。
『未来の希望を話す』
『自殺の原因を追求する』
『自殺の計画を話し合う』
『世間話を話をする』
取り敢えず、最初の選択肢『未来の希望を話す』をクリック。
すると、ドット絵の相手から吹き出しが現れた。
――そんな未来、私にはないっ!
次の瞬間、画面に弾幕攻撃が現れ、こともあろうか相手は自らを攻撃し始めた。
相手の体力がみるみる減っていく。
違ったか。次のターン、『自殺の原因を追求する』を選択。
――どうしてそんなこと知りたがるの? 死んだらそんなの関係ないでしょ?
不規則に迫り来る弾幕攻撃を掻い潜り、もう一度同じ選択肢をクリック。
――どうして? もしかしてあなた、私を救おうとか高慢なこと考えてるの?
そして――相手は『逃げだした』。
――あなたは、相手を救えなかった。ゲームオーバー。
「……ワケわからん」
だが、諦めずにもう一度コンテニューをする。元ネタのゲームでも、選択肢が案外難しく、これだと思う選択肢でもクリアに至らなかった経験があった。そこら辺はよく出来ていると思う。……パクりだけど。
取り敢えず、『自殺の計画を話す』は論外だと結論付けて『世間話を話す』をクリック。
だが。
――引きこもりだから、世間を知らなかった。ゲームオーバー。
「……世知辛過ぎるだろぉぉ」
もはや、なんでゲームオーバーになったのか意味不明なレベル。仕方なく、というか疑心に満ちながら残った最後の『自殺の計画を話す』を選択。
すると。
――山奥での自殺を提案した。
――ごめんなさい。私、山には登れないの。
全くこちらを傷つける様子のない弾幕攻撃が襲う。それを掻い潜り、もう一度同じ選択肢をクリック。
――海での飛び降り自殺を提案した。
――ごめんなさい。私、遠出が出来ないの。
尚も、次のターンで同じ選択肢をクリック。
――薬での心中を提案した。
――それなら……近くに薬ならたくさんあるから。でも、揃えるには少し時間がかかりそう。
すると、弾幕攻撃は止んで、新たな吹き出しが表示される。
――準備が出来たら連絡するから、LINEのIDを教えて。
そして、『行動』の中に、『連絡先を教える』という選択肢が現れる。
これが正解かよ……。
ようやく、正規っぽい選択肢をクリックした。
――LINEのIDを教えた。相手に怪しまれず、時間を稼いだ!
そしてようやく、既視感のあるバトル画面が消える。
「いや、良くできてるんだが……」
何だろう。この納得のいかない感じは。物凄くモヤモヤする。その原因はきっと、ゲームのギミックがパクりだったから。
それならそれで別に構わないのだ。同人ゲームなどネット上には幾つもあり、それを楽しむのも一つのゲーム性だとは思う。
しかし、だからと言って、いきなりそういった要素をねじ込んでくるのはどうなのだろうか……もしや、この考え自体が間違っているのだろうか……。
わからん。
分からないから、もうそのまま保留することにした。ゲームをセーブして画面を閉じる。
気が向いたらまた、やるか。
そんな気持ちを捨て台詞にして、僕はパソコンをシャットダウンさせた。
作者の成長の為、忌憚のない意見をもらえると有難いです。




