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91話

【巨人の貴族】

 ステワから巨人と聞いて、広間の貴族と騎士たちが『壁の花』状態だったサムカに一斉に視線を向けた。サムカが曖昧な笑みを浮かべ、白い手袋の右手を振って否定する。

「私ではないよ。もっと優秀な探検家だろうな」

 そして、新当主に『祝福』を授けに向かった。


 まさしく巨人そのものの頑丈そうな手の甲に、手袋を外したサムカが右の人差し指の先で触れる。サムカが山吹色の瞳を細めて、見上げるような巨漢に微笑んだ。

「成人おめでとう。13世か。私の後継者は、まだ時間がかかりそうだよ。同期となっていれば、良かったのだがね。今後ともによろしく」


 ステワ13世が大きく膝を曲げて、サムカに頭を下げた。

「こちらこそ、今後ともよろしく頼みたい、テシュブ殿。武芸の稽古を、心より楽しみにしておりますぞ」


 サムカがうなずいて、次の騎士に順番を譲った。貴族からの『祝福』は、サムカが最後だった。騎士の魔力は大した事ないので、事実上これで『成人誕生の儀式』が終了したことになる。


 サムカが再び『壁の花』に戻りながら、肩のハグ人形に告げる。

「かなり良い状態の巨人素体だな。あれなら、長持ちするだろう。魔力の蓄積も効率よく進むはずだ。将来は、我が師匠の後継者になる可能性もあるかもな」

 ハグ人形がドヤ顔のままで、何度もうなずいている。

「そうだろう、そうじゃろう。ワシが直々に地雷を解体して、中の巨人ゾンビを〔補修〕したのだからな。500年くらいは、乗り換える必要もないだろう」


「おお……」と感心しているサムカ。

 サムカの体のような人間型は100年ほどしか維持できない。長寿で知られるエルフの体は、アンデッドとの親和性がほとんどないので使われない。ドワーフやセマン、ノームの体は、小さすぎて魔力の蓄積面で不都合だ。

 戦乱の世界として知られている亜人世界の住人である、オーガやトロルなどの鬼族は、素体としては充分といわれている。しかし、どうも角が魔族を連想させてしまうようで、貴族の間では評判が悪い。同様に、オーク族も人気がない。


 巨人族はその点で、人間型をそのまま巨大化させたような姿なので人気がある。しかし、彼らの住む世界は、ドラゴンや魔神も住む世界だ。死体探しに出かけて、戻ってこない貴族やリッチー、魔族は後を絶たない。

 巨人でも〔イモータル化〕して『絶対の不死』になる以前の死体は、とりわけ人気だ。しかし、捕獲できたという話は、あまり聞いたことがない。

 現に、このファラク王国連合で巨人の素体を使っている貴族は、サムカの師匠のトラロック・テスカトリポカ右将軍と、アックカル・ナラシュ左将軍ぐらいだ。どちらも成人巨人の死体ではないので、この新当主よりも身長が低い。


「我が城の巨人ゾンビも、騎士シチイガの次の素体に使うことができるのかね?」

 サムカの問いに、ハグ人形がジト目になって頭を振った。

「あんな面倒な補修作業は、もうやらんぞ。お断りだ。誰か別のリッチーにしてもらえ」


 そんな知り合いがいるわけがない。サムカが軽くため息をついた。もうすっかり『壁の花』に戻っている。

「……地道に堅実に育てるのが、私には合っているのかな。騎士としては、すでに王国連合でも上位の実力と魔力であるし。そう時間も長くはかかるまい」



 騎士からの『祝福』も終わり、最後に騎士見習いからの『祝福』の番になった。ステワがほっとしたような顔になって、早速あくびを始めているのを見て、微笑ましく思うサムカだ。肩のハグ人形に小声で告げた。

「さて、我々もそろそろ退散しようとするかね」


 しかし、ハグ人形からの反応が数秒間ほど遅れた。唐突に慌てているようで、軽く手足をパタパタ動かしている。

「あ、そ、そうじゃな。急いで退散した方が良かろう」

「?」

 不審に思って、肩に乗っているハグ人形にサムカが怪訝な視線を向ける。『嫌な予感』が、急速に膨らんでいくのを感じる。

「……何か起きたのかね?」


「へへへ……」と、イタズラがばれた子供のような仕草をするハグ人形。

「巨人に見つかった……逃げるぞ! サムカちん」




【巨人にバレ】

 状況が把握できないサムカである。ハグ人形が次第に焦り始めていく。今や校長のパタパタ踊りにそっくりになっていた。

「おい、サムカちん。どこか逃げ場候補はないか? このまま捕まると危険だぞ」

「ちょ、ちょっと待てコラ……」

 まだ事情が把握できていないサムカだが、かなりの危険が迫ってきているのは勘で分かった。『成人誕生祝い』の和やかな談笑が続いている広間を、急いであちこち見回す。

「とりあえず、この場から急いで離れた方が良いな。ステワの居城まで破壊されては申し訳ない」


 そして、〔指向性の会話〕魔法で直接ステワに告げた。サムカとステワをつなぐ直線上に、ピグチェン卿を含めた数名の貴族と騎士がいるが、構わず告げる。

「ステワ。私とハグはこれで失礼する。巨人が怒ってこちらへ向かっているようだ。ハグによると、巨人の目標は私たちのようだから、ここから離れる。では、後でまた会おう」


「は!?」

 目が点になっているステワ親子と、ピグチェン卿たち。

 彼らを後にして、サムカがハグ人形を肩に乗せたまま〔転移〕してどこかへ去った。ステワ12世が、ジト目になってため息をつく。

「……まったく。サムカと一緒にいると飽きないな。さて、我が息子よ、少し下がっていなさい。客人が来るようだ」

 ステワ12世が13世をかばうように、壇上を一歩前に進む。



 広間内が薄暗くなり、気温が数度ほど下がった。ハグ本人が出現する前に似ているが、規模は遥かに大きい。

 ざわめく貴族と騎士たちに、どこからかウィザード語で野太い声がして広間に響いた。音が反響して壁が《ピリピリ》と振動する。

「そこにリッチーはいるか?」


 ステワが壇上から広間に向かって答えた。さすがに貴族だけあって、気後れもなく堂々としている。

「先程まで、使いの人形がいたが、もうどこかへ失せたぞ。我々は今、重要な儀式を執り行っている最中である。部外者の入室は、儀式に支障が出る恐れがある。速やかに退出せよ」


「おお……」と何か感動したのか、ピグチェン卿が壇上のステワの直下に立ち、ステワと同じ方向に顔を向けた。腰の儀礼剣の柄に手をかける。

「魔力から察するに、リッチーと同等以上の怪物であるな。我ら貴族を侮ると痛い目を見ることになるぞ。不審者よ、速やかに立ち去れい」

 やや芝居がかったような口調と仕草で、声だけの不審者に威嚇するピグチェン卿だ。


「確かに、逃げたようだな。小賢しいリッチーめ……」

 声の主が、やや悔しそうな口調になった。そして、突如巨大な人間型の頭が広間に出現した。


 サムカら旧人系の頭ではなく、もっと前の猿人系が独自進化したような、独特な頭の造形だ。上手な例えではないのだが、獣人世界の森に棲む猿型の原獣人族が、知的進化を極限まで遂げた……そのような姿だ。

 空間に出現した頭は巨大で、貴族や騎士たち20名余りいる広間が一杯になる。「ギョッ」とする貴族や騎士たちであったが、その巨大な頭は実体のないゴースト状態と分かり、落ち着きを取り戻したようだ。ざわめきが収まっていく。

 ちょうど、広間を満たすような大きさの人型の頭の立体映像の中に、貴族や騎士たちが入り込んだかのような印象になっている。


 ステワが13世を背中にかばいながら儀礼剣を抜いて両手で持ち、切っ先を正眼に構えた。蜜柑色の瞳が怒りのせいか鮮やかな黄色に変わり、鉄錆色で肩上までの癖のある短髪が静電気を帯び始めている。

「何だ、この化け物は。どこかの魔族か?」


 壇の下で、体の前半分ほどを巨大な頭映像に飲みこまれているピグチェン卿が、儀礼剣を抜いて下段に構えた。そのまま低い声で背後のステワに告げる。

「いや。魔力量から見て魔族ではない。我も見たことはないが、恐らくは巨人族だろう」


『巨人族』という単語を聞いて反応する貴族は、ステワも含めて数名もいなかった。反対に怪訝な表情になっている。

 壇上のステワが構えを変えないままジリジリと巨大頭の立体映像に摺り足で迫りつつ、声を低めて重ねて聞く。

「巨人族だと? 異世界の者か。稀人まれびとを歓迎するのは我ら貴族の習慣ではあるが、今は重要な儀式中だ。何か緊急の要件があるのかね?」


 巨大な頭映像が更に拡大して、ピグチェン卿を飲みこみ、ステワの眼前にまで迫った。

 慌ててピグチェン卿がステワに振り返ったが、いきなり彼の体が硬直して停止する。広間にいる他の貴族や騎士たちにも、同じ事が起きた。硬直してピクリとも動かなくなっていく。


 鮮やかな黄色の両眼をギラつかせて警戒を最大限にするステワに、巨大頭映像が目を細めた。

「危害を加えるつもりはない。貴様の友人アンデッドどもの時間を止めただけだ。死んではおらぬよ」


 〔時間停止〕魔法は非常に高度なものだ。貴族で使える者は聞いたことがない。リッチーでも成功の報を聞かない。因果律崩壊を起こして、時間停止をした空間ごと、この世界から排除されてしまうからだ。しかし、目の前の頭映像は易々とソレを行使していて、なおかつ因果律崩壊も引き起こしていない。


「魔神の眷属か? 要件は手早く済ませてくれ」

 巨大な頭映像が更に目を細めた。糸目のようになっている。

「魔神の『眷属』と同列にされたか。ははは」


(思ったよりも紳士的な奴だな……)と思うステワ。目の色がいつもの蜜柑色に戻っていく。それを察したのか、頭映像が自己紹介を始めた。かなり低音の声だが、威圧感は不思議と感じられない。

「我は、貴様たちが言うところの巨人族だ。ドラゴンや魔神どもと同じ世界で暮らしておる。我の名前は知らぬ方が貴様のためだろう。好きに呼ぶと良い。繰り返すが、我は貴様たちに用はない。リッチーの行方を……ん? 何だ、その後ろの者は」

 いきなり、半端ない威圧感が巨人頭映像から溢れ出た。


 ステワが大よその事情を察したようだ。

(なるほど、そういう事か。ハグめ……)

 ジト目になって胸の内で毒づいたが、すぐにいつものシレッとした表情に戻る。儀礼剣を鞘に収めて、一息ついた。同時に、背中に控えている13世が剣を抜こうとしたのを、〔念話〕を介して止める。


 13世が剣の柄から手を離したのを気配で察したステワが、蜜柑色の瞳を眼前の巨大な頭に向けた。

「そのリッチーから買い取った巨人族の死体を、我が子息の成人用の器にした。何か不服があるかね? 巨人」


 巨人頭が数秒間ほど停止画像になった。仲間と何か相談でもしているのだろう。そして、再び穏やかな物言いに戻った。威圧感も嘘のように消えている。

「あるメイガスから、『死者の世界で、巨人の死体の取引が行われている』という密告があったのだ。その首謀者がリッチー協会理事のハーグウェーディユだという事もな。確かに我が同胞の波動ではあるが、これは300万年前のモノだな。しかも、量産型の使い捨て〔分身〕だ。誰がコレを製造したのかも、貴様の記憶を介して把握した」


「ギョッ」とするステワである。彼自身は墓所の連中と直接的な関わりはない。サムカやハグから聞いた程度の情報だけだ。記憶を〔走査〕された覚えは全く感じられなかったのだが、正確に読まれてしまったようだ。

 しかし、さすがは貴族と言うべきか。血色の全くない白い鉛白色の顔には、動揺の色を出していない。

「死体の所有権はすでに我にある。たった今、我が息子の所有物として譲渡したばかりだ。文句を言われる筋合いはないと思うが」


 巨人頭が意外にも素直に、糸目のままで肯定した。

「うむ。300万年前に消息不明になった巨人の使い捨て〔分身〕だな。今や、その巨人は戸籍が抹消されておる。好きにすれば良かろう。この死者の世界にいくつかある、同じような巨人ゾンビも問題はないな。使い捨て〔分身〕の製造元は、獣人世界の引き籠りどもか。特段の問題点はない……やれやれ、メイガスにしてやられたか」


 ステワが警戒を緩めながら、巨人頭に聞いた。

「誰だね、そのメイガスとやらは。我らも苦情を入れておきたいのだがね」

 巨人頭がニヤリと微笑んだ。ようやく糸目状態から通常の目に戻る。

「止めておけ。ヤツの世界が先日の世界〔改変〕で大被害を受けてな。星の半分ほどが溶岩に包まれた。今はもう元通りに戻ったが、その犯人捜しの一環で色々とやっておるのだろう。下手に関わると、貴様も犯人の一味と見なされて報復されるぞ」

 巨人頭の口調がドヤ顔風味になっていく。

「我ら巨人族も、メイガスに関わるつもりはない。今回の情報も、奴には知らせぬよ。メイガスふぜいが我らを利用するなど、片腹痛いのでな」


 ステワがいつもの表情に戻った。また1つ、サムカとハグを『いじるネタ』ができて満足のようだ。

「大人の対応だな。ふむ……せっかくの機会でもあるか。おい、巨人。我の息子に何か『祝福』していけ。この騒動の詫びとしてちょうど良いだろう」

「ギョッ」としている背中の息子の足先を、ステワが無言で剣の鞘の先で小突く。


 巨人頭が素直にうなずいた。

「そうだな。我らイプシロンの民である巨人族には、貴様らの儀式の価値は到底理解できぬが……まあ良かろう」

(よりにもよって魔神と同等のイプシロン級かよ……)と内心で呆然としているステワである。まあ、魔神の性格が意味不明であるのは、半ば常識だ。この世界の創造主である同じイプシロンの魔神ミトラ・マズドマイニュも放任主義で有名である。


 巨人頭が消えたと同時に、今度は巨大な『足の裏』の映像が天井から落ちてきた。先程の頭よりも大きく、壇上まですっぽりと収まるほど巨大だ。足の指が5本なので、明らかに人間型の足である。


「げ」

 ステワが息子を抱き寄せて、再び儀礼剣を抜き放った。切っ先を天井から迫りくる巨大な『足の裏』に突き立てる。しかし案の定、剣には何の手応えもなかった。

 そのまま、あっという間に踏み潰されるステワ親子……ではなかった。何の衝撃も感じられない。幻覚のようでもある。


 その、『足の裏』の映像がステワ親子を素通りして、そのまま壇上と広間の床に投影された。それが、あっという間に広間の中央に向かって縮小していく。そして、壇上を除いた広間の床面積の8割ほどの大きさにまで縮小した。


 ステワ親子が壇上から、その床に投影された大きな『素足の足跡』を見下ろした瞬間、猛烈な重力と地響きが発生した。床が砕ける音が広間に響く。


 硬直してその場に突っ立っていた20名余りの貴族と騎士たちが、一斉に床から衝撃で浮き上がった。同時に硬直が〔解除〕されて驚愕の表情になる。〔時間停止〕状態も解けて正常に戻っているようだが、何が起こったのか理解できていない様子だ。


 ピグチェン卿も一緒に空中に浮かび上がってから正気に戻って、軽い悲鳴を上げてワタワタ手足を振り回して着地した。

「な、何が起きたのだ!? おい、大事ないかステワ卿っ」

 壇上に飛び上がってステワ親子に駆け寄るピグチェン卿だ。ステワが息子の状態を素早く確認して、ゆっくりと立ち上がった。抜刀していた儀礼剣を再び鞘に収める。

「大丈夫だ。私も詳細は分からなかったが、異世界の巨人族が訪問してくれたようだな。息子の体の素材となった、巨人族の体について調査に来たようだ。判定の結果、お咎め無しだったよ」


 簡単な説明を受けたピグチェン卿が安堵の表情になった。まだ少しオドオドして、膝を立てて座っている13世の肩を「ポン」と叩く。

「巨人族は人口が少ないと噂で聞いた事がある。まあ、連中にも認められたという事だな。胸を張れ新成人」


 そして、まだザワザワしている広間の貴族と騎士たちに、振り返って顔を向けた。すっかり堂々とした貴族の表情になっている。

 肩下までのウェーブかかった赤銅色の髪を優雅にかき上げて、刈安色で緑がかった鮮やかな黄色の瞳を力強く輝かせた。

「聞いての通りだ。巨人からも認められた我らの新しき仲間を、歓迎しようではないか!」


「おお!」

 声が返ってきて、再び賑やかな雰囲気に戻っていく。その広間の床に何か記されているのを発見するピグチェン。首を軽くかしげたが、すぐに理解したようだ。目を輝かせてステワ親子に振り返った。

「おい! 床を見てみろ」


 ステワがピグチェンと肩を並べて壇上から見下ろすと、砕けてへこんだ大理石製の床面に、巨大な『足跡』が刻まれているのが見えた。5本指の『右の裸足の足跡』だ。やはり形状が猿人由来のようで、ステワたちのような足型ではない。

 それを見下ろしたステワがジト目になる。

「……大雑把で野蛮な置き土産だな、オイ」


 ピグチェンはステワの肩に腕を回して含み笑いをしている。2人が身につけている装飾品や、宝剣の鞘などから涼やかな音が鳴った。

「……まあ、考えようによっては話のネタになるさ。『巨人の足跡』なんて、このウーティ王国連合のどこにもないからな。客を呼ぶ前に、床の掃除は必要だろうがね」


 ステワが少し困ったような表情になって腕組みする。

「せっかく新調した床だったのだが。こうなってしまっては、仕方あるまいな。せいぜい、観光資源として活用するさ」


 実際は床面だけではなく、柱や壁、それに天井にも大小のヒビや損耗が見られる。この広間自体の補修工事を、早急に始めなくてはならないようだ。サムカの旧居城のような有様にならずに、ほっとするステワ。


 13世が目を白黒させながら立ち上がって、駆け寄ってきた。

「ち、父上。私の魔力がかなり大きくなっておりまする。確認していただけませぬか」

 身長がかなり高いのでステワとピグチェンを見下ろすと分かって、慌ててまた膝と腰を曲げる13世だ。


 苦笑しながらステワとピグチェンが13世を立たせ、そして、改めて魔力を確認してみる。今度はステワとピグチェンの目が点になり始めた。ステワの声が動揺と喜びとで震えている。

「お、驚いたな。確かに我が息子の魔力量が跳ね上がっているぞ。ど、どういう……あ」

 ステワがすぐに思い至ったようだ。

「……あの巨人か。小癪な事を」


 隣で同じく目を点にしていたピグチェンも、巨人と聞いて何となく理解したようだ。

「『成人誕生の儀式』を邪魔した詫びか。ざっと見て、沐浴500年分の魔力が増えたとみて良かろう。いきなり魔力が増えてしまうと、暴走しやすい。扱いに慣れるまで、数ヶ月間ほどは行動を自重した方が良いだろうな」

 素直にピグチェンの助言に従うことにする13世。

「はい、そう致します」


 パラパラと天井から石の粉が降ってきているので、ステワが壇上から貴族と騎士たちに告げた。

「済まぬが、この後は別室にて続きをしよう。こうも破壊されてしまっては、『成人誕生の儀式の場』としてふさわしくない」

 とりあえず別室の準備が整うまでの間、外の中庭に出ることにする一同である。談笑している参加者たちを見送って、様々な指示をオークの執事や小間使い、アンデッド兵と彼の騎士たちに下す。

「やれやれ……後でサムカに、どのような仕返しをしてやろうかね」



 一方その頃。サムカとハグ本人は獣人世界の中性子星に避難していた。相変わらずの山も谷もない、土も海も岩石すらない、中性子だけでできた平たい星だ。空気もなく、代わりにプラズマがガス状に渦巻いている。


 ハグがその星に立って、上空をしばらくの間見上げていたが……ようやくほっとした表情になった。サムカと彼の隣で寛いでいる中性子星の妖精に顔を向けて、慣れないウインクをする。

「危機は去ったようだな。イプシロン相手に、ワシが敵う訳がないからのう」


 間もなくして、ハグ人形が残してきた銀色の毛糸の髪の毛から、〔念話〕形式で映像情報が送られてきた。それを見て、ステワの居城広間で起きた一部始終を一通り視聴するハグ本人とサムカに星の妖精である。


 50秒ほどで大よその事を理解したサムカが、ややジト目になってハグ本人を見つめた。

「こうなる事を〔予想〕していたな、ハグ。だがしかし今回は、私もハグを責めることはできないな。ゾンビとはいえ、巨人族に相談する事を失念していた」

 ハグがニヤリと微笑む。

「巨人が棲む世界に出向くのかね? それこそ自殺行為だな。ともあれ、これでオマエさんの貴族王国にいる巨人ゾンビの事は、これで心配無用だ。ワシに感謝しろよ。テシュブ領主殿」


 サムカがジト目のままで肩をすくめる。

「巨人が怒って攻め込んできたら、大変な事態になっていたのは容易に想像できる。それだけに少々、腑に落ちない点もあるが……一応は感謝しておくよ、ハグ」


 中性子星の妖精はニコニコしながら2人の話を聞いている。

「客人は大歓迎ですよ。その巨人族とやらも呼んでみてはどうですかね? この星であれば、少々運動しても壊れませんよ。あまり暴れるとブラックホールにまで成長してしまいますがね」

 その申し出については、サムカが両目を閉じて遠慮した。

「妖精殿は恐らく大丈夫だろうが、私はイプシロン級の大魔力の塊と相対するだけで、消し飛びかねないのだよ。ハグ本人と対峙することすら、実は危険だ。私の魔力が弱くて申し訳ない」


 サムカの言葉に、ハグも神妙な顔になった。

「……ワシでも、イプシロンと顔を合わせたら、消し飛ばされる恐れがあるぞ。ワシはサムカちんと違って〔復活〕できるが、できれば会いたくない存在だな」

 少し残念そうな顔になる妖精に、サムカが山吹色の瞳を向けた。

「その代わり、いつでも我が領地や、学校へ遊びに来ると良い。大した力にはなれないだろうが、協力は惜しまぬつもりだ」


 再びニコニコ笑顔になった妖精から、視線をハグ本人に移す。

「ステワと巨人との会話記録を確認すると、今回も『メイガス』という単語が出てきているな。墓所の事を嗅ぎ回っている奴だろうか」

 ハグが肩をすくめた。

「別人かもしれないがね。だが、星の半分が溶岩で埋まったという話は、聞いたことがない。ワシの知らない異世界なのか、嘘なのか。まあ、リッチー協会を通じて調べてみよう」


「うむ」とうなずいたサムカが、はたと何か思い至ったようだ。ハグに質問した。

「今になって気がついたのだが、この星には大気がない。どうして普通に会話ができているのだ?」

 ハグがジト目になった。

「オマエさんな……ワシを誰だと思っておるのかね。プラズマガスを疑似的に空気と見なすような魔法くらい、ワシなら使えるわい」

 そして、サムカを突っついた。

「さて、ここに長居しても良いが、その前に、オマエさんの悪友貴族に会って、何か謝った方が良くないかね?」


「いや、それは私では無くてハグの仕事だろう」と、口に出しかけるサムカである。しかし、考え直したようだ。ハグに任せると、さらに面倒な事態に陥りかねない。整った眉をひそめたままで渋々うなずく。

「……まあ、そうだな。私から奴に説明した方が、効率的だろうな」




【魔法学校】

 学校では、寄宿舎が地下の食堂を残して全て消滅してしまっていた。教員宿舎も基礎ごと消えてしまっている。さらに、運動場地下の教室も、地下1階部分がかなり泥だらけで使えない状況に陥っていた。今はゴーレムが入っていて、地下2階のサーバーへ向かう通路の補強工事を突貫で行っている。

 サーバーは全て機能しているので、各種魔法や法術も使うことができる状況だ。ただ、大魔力を消費するような魔法は、なるべく使わないように取り決められているが。


 地下階ではようやく瓦礫の除去が一段落して、応急的な補強工事が進められていた。落盤防止のためだ。

 一方で寄宿舎地下の学生食堂は、ほとんど被害が出ていなかったようである。そのため、今はもう通常営業に戻っていた。今も、食材搬入と、生ゴミや調理ゴミの回収業者が出入りしていったばかりである。

 魔法工学のベルディリ級長と、幻導術のウースス級長、それに招造術のクレタ級長が、これら業者の人と何か話している姿が見える。

 別の場所では、リーパットと側近2人が業者に何か怒っている。ムンキン党やアンデッド教徒らも、色々と物品の補充をしたがっているようで、業者を呼び寄せて何か交渉している。


 その業者の荷車を見送りながら、校長が疲れた表情で教育研究省と様々なやり取りをしていた。彼専用の〔空中ディスプレー〕を使用しているのだが、これは魔法具である。

「……はい、復旧状況は順調に工程表に沿って進んでいます。教育指導要綱の教育項目も、先生方のご協力のおかげで進捗率が回復してきています。夕方には、その進捗率の最新情報を報告いたします」


 校長は墓が着ている様な作業服姿のままであった。作業服も、あちこちが土や油で汚れている。普通、狐族は裸足で靴などを履かないのだが、今は魔法で強化された作業靴を履いている。

 一応、作業用のヘルメットも頭に装備しているが、これは身体機能が俊敏な獣人族には、あまり意味はない。しかし、毛皮で包まれている狐頭とヘルメットの内側には大きな空間があるので、直射日光を避けるためにはちょうど良い具合だ。


 〔空中ディスプレー〕画面に映っている省の偉い人が校長を労わって、一言二言ほど声をかけてから定期連絡を終了した。「ふう……」と一息つく校長。運動場の半分ほどを占有しているテント群を眺めて、白毛交じりの尻尾で地面を掃いた。

(大ダコによる攻撃、予想以上の破壊力でしたねえ。招造術のナジス先生に、もうこのような実験動物の逃亡事件を起こさないように、重ねて要請しておきましょう)

 本当は、墓所の仕業だったのだが記憶〔改変〕魔法により、『大ダコによる大規模テロ事件』という事に置き換わっていた。


 学校に配備されていた軍と警察部隊は、帝都の重点警戒の『応援』という名目で、完全に撤収してしまっていた。今や、この学校を警備する者は誰もいない。軍や警察の施設も先の泥水騒動で完全に消滅しており、最初から無かったかのような錯覚まで覚える。


 事務職員の仕事割りと勤務のローテーション状況の確認を、校長が行う。その後で、地下食堂の食材備蓄表も確認した。

(今のところは、上手く回っていますね。これまでの騒動で鍛えられたおかげでしょうか)


 そして、森の上空を飛び交っている風や光の精霊群と、『化け狐』の群れを見上げた。精霊は50体ほど。狐族くらいのサイズの小型『化け狐』群は10体が飛んでいる。

 校長が次に地面にも目を向ける。手元の〔空中ディスプレー〕画面を介して、土中を魚のように自在に泳ぎ回っている大地の精霊群も確認する。パリーが森の結界を緩めたので、こうした連中がやってきていた。

(当面はパリー先生のおかげで、警備の質を落とさずに済みそうですね。まさか、精霊が学校警備をしてくれるなんて、考えも及びませんでしたよ)

『化け狐』だけはパリーの影響外なので、彼らはただ遊びに来ているだけであるが。まあ、賑やかな方が良いだろうという校長の判断である。


 これに加えて、夜間にはサムカ熊が墓と一緒に巡回警備をしている。おかげで、狼族や牛族、ワニ族などの盗賊団や力自慢を、学校に近づけないことに成功していた。

 森の中には、パリーの許可を得たワームゾンビも巡回して警備をしている。

 現在、軍や警察と教育研究省が協議中だと聞いている。それが決まれば、再び学校へ軍と警察の警備隊が派遣されてくるだろう。それまでの一時しのぎである。


「やはり、森の妖精さまに、このような雑務を押しつけるのは心苦しいですからね。早く警備が復旧すれば良いのですが。ああ、良かった、サラパン主事。やっとつながりました」

 校長の手元の小さな〔空中ディスプレー〕画面に、冬毛で丸々になったサラパン羊の仏頂面が現れた。

「……なんですか、校長。今、私は昼寝で忙しいのですがね」

 相変わらずの羊である。


 予想通りの反応に頬を緩めた校長が、すぐに真面目な表情に戻る。

「お昼寝の最中でしたか。どうもすいません、主事。召喚ナイフのスケジュール案を最新版に更新する事になりました。主事のご予定の調整を、またお願いいたします」


 羊が心底面倒くさそうに、手元の小さな〔空中ディスプレー〕画面を操作して確認し始めた。大きなあくびをして、両目に浮かんだ涙を丁寧にハンカチで拭く。

「この日は、私は買い物と、ケーキ屋巡りで埋まっていますが……ですが、分かりましたよ。善処しましょう。上司と相談しますので、夕方には返答できると思います。では」

 そのまま一方的に通信を切る羊であった。すでにサラパン主事の上司にも手を回していて、了解を得ている校長である。従って主事の予定は、実はもう確定事項になっている。


(ケーキですか。後で調べておきますかね。〔召喚〕を快く実行してもらうためには、食べ物の後悔を解消しておいた方が良いでしょう)

 早速、部下の事務職員に、サラパン羊が行く予定のケーキ屋の調査を命じた。同時に彼の好みの最新情報と、それに基づくケーキの好み推定、当日のケーキ屋で限定商品があるのかどうかも。事務職員も慣れているようで、二つ返事で引き受けている。



 《ドカン!》

 不意に、運動場の一角で爆発音と、生徒たちの歓声が上がった。校長が指示済みのディスプレー画面を一斉に閉じて、音がした方向を見る。


 地下の教室が使用不能になっているので、全ての授業がここ運動場で行われていた。いわゆる青空教室だ。

 地下2階の魔力サーバーや法力サーバーは、特に問題なく稼働している。そのため、授業で使う魔力や法力については、不足の心配はない。精霊魔法についても、周囲の森を含めた環境から適時魔力の供給を受けているので、これも問題なさそうだ。ソーサラー魔術ついては自身の魔力を使うので、そもそも問題ない。


 しかし、サーバーの本格稼働にはまだ至っていないのも事実だ。従って魔力の節約をするために、生徒全員の足や膝にはドワーフ製の魔力変換器が装着されていた。見た目は万歩計のような形である。

 これは、生徒が歩くなどの運動をした際に発生した衝撃エネルギーを、魔力へ自動変換する魔法具だ。サーバーが本格稼働するまでの間、試験的に導入されている。


 爆発元は、ウィザード魔法力場術のタンカップ先生の選択科目クラスだった。冬だというのに相変わらずのタンクトップシャツに半ズボン、スニーカー靴の、季節感台なしの服装である。生徒たちは冬服のブレザー制服を着ているので、なおさらタンカップ先生の異様さが強調されている。

 プラズマの生成と操作関連の魔法だったようで、コントーニャがプラズマ制御を誤ったらしい。尻尾や両耳まで黒焦げになって、運動場に転がって気絶している。しかし、〔防御障壁〕を展開していたおかげで、黒焦げながらも見た目ほどは重傷ではなさそうだ。


 すぐに、法術クラスのスンティカン級長がマルマー先生と共に駆けつけてきた。黒焦げのコントーニャに、罵声を浴びせながらではあるが。タンカップ先生や、他のクラスの生徒たち30名ほども特に慌てている様子ではない。


 校長も見慣れた風景になりつつあるのか、パタパタ踊りなどは始めていなかった。

「リーパット君のお仲間ですね。彼らへの補習授業も組まないといけませんね。そろそろ、先生方から授業案が上がって来る頃でしょうから、それを見て考えましょうか」

 校長の口調も通常通りだ。実際、すぐにスンティカン級長から法術をかけられて〔回復〕するコントーニャであった。一言、礼を法術使いたちに述べて、何事も起きなかったかのようにスキップしながら自身の席へ戻っていく。


 一方、別のクラスでは、授業を受けていたリーパットが突然席から立ち上がって何か演説し始めた。距離が遠いのと、他のクラスの生徒たちの声もあり、校長がいる場所にはほとんど聞こえてこない。


 タンカップ先生は『爆発は当たり前』というような態度で、平然と授業を再開している。彼の生徒たちも、もう慣れてしまったようだ。当然のように真面目な表情で授業を受けている。

 法術のマルマー先生も、幻導術の授業へ向かった級長と別れて、自身の選択科目クラスへ駆け戻っていった。隣の幻導術や招造術クラスの先生と生徒たちは、この爆発騒動でジト目視線を投げかけていたが……彼らもすぐに授業に復帰していく。


(このような風景は、魔法学校特有のものでしょうねえ……)と白毛交じりの頭をかく校長である。


 今度は、パリー先生のクラスで悲鳴が上がった。

 校長が視線を向けると、彼女のクラスの中央に、いきなり高さ10メートルほどの大木が生えている。その緑の葉が茂る樹冠の上に、全長1メートルほどの巨大蝶が鎮座していた。パリー先生の担当科目は『生命の精霊魔法』なので、それが少し暴走してしまったようだ。

 すぐに大木と巨大蝶が〔分解〕して、無数の綿毛と手の平サイズの蝶の大群に変化した。ニヘラ笑いをしているパリー先生が、それらを森の中へと飛ばして逃がしていく。


 授業に参加している生徒たち30名には、この綿毛と蝶がそれぞれ1つずつ分配された。生徒たちが落ち着きを取り戻して、綿毛を発芽させて苗にしたり、蝶の色を変えたりと実習をしている。

 生徒の中には、まだ不慣れな者がいて、ニクマティとスロコックを含めた数名が失敗して綿毛を爆発させたり、蝶を灰にしている。

 そのたびに、生徒の間から悲鳴が上がっているが……パリー先生はニヘラ笑いをしたままで、何もせず眺めているだけだ。


 他のクラスを見ると、ソーサラー魔術クラスでは〔石化〕魔術の様々なバリエーションの実習をしていた。単純に目標物を石筍にする他に、ガラスのように半透明にしたり、ダイヤ結晶のようにしたり、さらに金属状に相転移させたりしている。

 校長には〔石化〕魔術というのは、よく理解できない。しかし、石ころが宝石のように色づいたり、ダイヤみたいに輝くのを見て、素直に感動している様子だ。

 バワンメラ先生がその相変わらずのヒッピースタイルの服装に、無駄に過剰に付いている装飾品を振り回して、何か言っている。先生が簡易杖を振るうと、石筍がドロドロに溶けて樹脂状に変化した。


「ほう……」と感心した校長が腕組みをする。

(無機物を有機物に〔変換〕する魔術ですかね。ああでも、〔石化〕といっても、生き物が無機物になるのではなかったのでしたっけ。この魔術は、疑似的に無機物化させるだけなので、有機物の樹脂にするのも可能というとこでしょうか。後で正しいかどうかバワンメラ先生に聞いておきますか)


 半分程度は正解している校長だ。本格的な〔石化〕魔術というのは、かなり高度な部類になる。まともに使えるのは、大地の精霊や妖精くらいだろう。

 そのために、一般の魔術使いが使用する〔石化〕魔術が『ニセモノ』であるという指摘は正しい。特に生徒たちが使うような低レベルの魔術では、〔石化〕とは名ばかりのものだ。単純に体の組織を石のように硬直化させるだけである。血流が完全に途絶えるので、血色が失われて石のような見た目になる。

 元が有機物なので、これを樹脂に魔術で〔変換〕することは容易い。


 もう少し高度な魔術では、触媒を使うようになる。

 ムンキンやミンタが使うような〔石化〕魔術は、以前学校を襲った、魔法生物のバジリスク幼体の体組織を触媒にした魔術だ。この幼体は本物の〔石化〕魔術を使いこなしていたので、『その魔力を借りる』という仕組みになる。もちろん、かなりの魔力を術者が負担することになるので、ペルやレブンのような者には使えない。

 この場合、有機物を構成する原子を、無機物の原子に強制的に〔変換〕する。そのために、因果律崩壊を起こす恐れが生じる。それを予防するために、〔結界〕内や〔防御障壁〕内部といった、一般の物理化学法則があまり機能していない空間で行使することが一般的だ。


 大地の精霊魔法を使った〔石化〕魔法もある。こちらの場合は、契約した精霊や妖精に頼んで、対象物に強制的に大量の無機物を〔テレポート〕して〔同化〕させてしまう手法だ。従って、体積が急激に膨張してしまう。

 有機物を無機物で薄めてしまうので、化石化とも言える。

 しかしながら、この魔法を使える生徒は残念ながらおらず、ノーム先生とサムカ熊だけだ。なお、〔精霊化〕による〔石化〕は、また別の原理なので誰も使えない。


 校長は魔法適性が低いので、いずれも使えない。なので、〔石化〕魔術や魔法各種について正確な理解に至らないのは仕方がないだろう。



 そのミンタたちなのだが、先生不在になっていた。先日のスライム玉騒動でエルフとノームのゴーレム先生が共に破壊され、泥水になって消滅したためだ。

 ミンタが2つのクラスの『臨時先生』役をしているが、やはり慣れない様子である。精霊魔法だけは、まだ完全に修得を済ませていないので仕方がない。


 校長が手元の〔空中ディスプレー〕画面を操作して、白毛交じりの両耳を数回パタパタさせた。ミンタに応援メッセージを送信している。

(すいませんね、ミンタさん。カカクトゥア先生とラワット先生の復帰が明日からですから、今日だけ頑張って下さい)




【ミンタ先生】

 ミンタは教育指導要綱を片手にして、2つのクラス60人ほどの生徒相手に善戦していた。

 専門クラスではなく選択科目なのでペルとレブンも授業に参加しているが、ジャディはいつものように逃亡してしまっている。ラヤンは招造術の選択科目クラスの授業中なので参加していない。

 受講する生徒たちは、主にウィザード魔法の生徒が占めていた。残りが魔法工学の生徒という構成になっている。従って教える内容は、精霊魔法の魔法適性が低い者を対象にした『基礎的なもの』になる。


 ミンタが大きな〔空中ディスプレー〕画面を見上げて、光の精霊魔法についての術式の解説をしている。

 ミンタは精霊語が使えるのだが、一般の生徒は無理だ。なので、ここではウィザード語を使っての解説になっている。大量の分子模型の羅列のようなウィザード語の文章が、画面一杯に表示されてスクロールしている。

「エックス線だけど、一般的には『水平方向の直線偏光』なのよね。これでも当然良いんだけど、術式の記録密度を上げるために『らせん状の円偏光』に〔変換〕すると、もっと便利になるわよ。これが、その基礎的な術式ね。これを基にして、用途に応じて術式を修正加筆するという感じ」

 多少緊張しているようだが、それでも堂々とした態度である。


「円偏光にすると記録密度が少なくとも100倍になるから、習得しておくべき術式だと思うわよ。円偏光も、右回転と左回転があるし、周波数の幅もそれなりにあるから、用いる術式に応じて最適なエックス線を選択する事。もちろん放射線だから、被曝対策の〔防御障壁〕は万全にしておく事。いいわね?」


 60人ほどの生徒たちが返事をして、一斉に簡易杖を〔空中ディスプレー〕画面に向けた。そのまま術式の習得を始める。ペルとレブンはすでに習得済みだったが、復習も兼ねて他の生徒と一緒に簡易杖を向けている。


 受講生の中には魔法工学のベルディリ級長もいて、熱心にミンタの話を聞いている。しかし、所々理解できない点があるようだ。近くに座っているペルに、〔指向性の会話〕魔法で聞いてきた。

「ちょっといいかな、ペルさん。分かりにくい単語がいくつかあるのだが、教えてもらえるかい?」

 ペルが振り向いて微笑む。同じく〔指向性の会話〕魔法で返した。

「はい、いいですよ。私も、それほど得意じゃないんですけど……分かる範囲であれば」


 そう言いながら、ベルディリ級長に精霊魔法用の辞書を送信する。彼女なりに追記や註釈を入れてあるので、ベルディリ級長も理解の助けになったようだ。理知的なクルミ色の瞳を細めて、狐の耳をパタパタさせている。

「ふむふむ……これは分かりやすいね。ありがとう。3年生にもなって、1年生から教えてもらうとは少々気恥ずかしいものなんだが、聞いて良かったよ」

 ペルも両耳をパタパタさせてニッコリと微笑み返した。

「魔法工学の成績はトップじゃないですか、先輩。今度、教えて下さいね」


 そんな2人の様子をペルの隣で見ていたレブンが、ミンタに〔念話〕でコメントした。

(ミンタさん。もう少し、専門用語を使わずに簡易な表現で教えた方が良いと思うよ)

 ペルも〔念話〕で参加してきた。ベルディリ級長との会話を終えたようだが、黒毛交じりの両耳が交互にパタパタしているままだ。

(私もそうだけど、光の精霊魔法の適性が低い生徒ばかりだから、いきなり高度なエックス線魔法を学ぶのは厳しいかも)


 しかし、ミンタはドヤ顔だ。金色の毛が交じる尻尾を優雅に振っている。

(大丈夫よ。後で私が精神の精霊魔法を使って、全員の脳に直接覚え込ませるから。どうせ、この後は昼食休憩だし、脳神経が高負荷でダウンしても問題ないでしょ)

「おいおい……」と、顔を見合わせるペルとレブンである。しかし、特に反対はしないようだ。


(選択科目で指定されているのは、もっとエネルギーの低い紫外線とか青色光だったと思うけど……まあ、僕もエックス線での魔法には賛成だな。これを習得すれば、いくつかの魔法を省略できる。授業が遅れがちの僕たちにとっては良い事だろうね)

 レブンの感想に、ペルも同意する。

(私もそう思う。でも、ミンタちゃん。あんまり大量の〔強制記憶〕魔法を使わないでね。多分、この生徒の中では、私が最も光の精霊魔法の適性が低いから。昼休みを通り越して、翌朝まで気絶しちゃうかもしれない)


 ミンタがペルにウインクした。

(大丈夫よ。ペルちゃんとレブン君用には、『特製の』〔強制記憶〕魔法を編んであるわ。昼休み中だけの気絶で済むはずよっ)

「うへえ、お昼食べられないのかあ……」と、諦め顔になる2人だ。サムカから、「様々な魔法を学んで、自身の魔力のバランスを高度にとるよう」に指導されているので、素直に従っている。


 ミンタが簡易杖を振って、〔空中ディスプレー〕画面の表示を切り替えた。

「さて、次ね。光って便利だけど、杖に貯蔵したり、魔法回路上を走らせたりするのは、あまり適さないのよね。光を電気に〔変換〕して、それを使うのが一般的」


 ディスプレー画面上に新たなウィザード語の術式がスクロール表示された。

「大地の精霊魔法の1つなんだけど、どこか適当な地面にこの魔法陣を描くの。これは見ての通り、地面の水分や土類元素、有機物の炭素なんかを使った、膜状の『太陽光発電パネル』ね。実際のパネルとは違って、魔法で疑似的に作り上げてるから丈夫よ」

 つまり、太陽光発電する魔法陣である。

「似たようなのに〔テレポート〕魔術刻印があるけど、それと同じね。光の精霊魔法の専門クラス生徒だったら、10キロ四方の大きさが標準になるかな。これを必要に応じて増やしたりするのよ。アンタたちはそこまで魔法適性がないから、500メートル四方でやってみるといいわね」


 10キロ四方と聞いて、「おお……」とどよめく生徒60人だ。ベルディリ級長もクルミ色の瞳を丸くしている。

 ペルとレブンも知ってはいたが、改めてその巨大さに感心している。2人は魔法適性が低いので、ミンタが言ったように、せいぜい500メートル四方の魔法陣しか描けない。


 そんな2人にチラリと栗色の瞳を向けたミンタが新たな術式を表示して、先程の太陽光発電用の魔法陣術式に組み込んだ。

「巨大な魔法陣って、作成も大変だけど機能させるのも大変なのよ。なので、この魔法陣の性能を高める術式の改良を行ったのがコレね。術式の文章量が増えるけど、その見返りはあるわよ」


 確かに、先程の術式の量よりも2割ほど増えた印象だ。しかし、分子模型のようなウィザード語が単純に増えただけで、分子模型そのものに修飾や重合などは起きていない。単純な分子模型のままだ。

「太陽光を電子に〔変換〕する『効率』を上げるわけ。この疑似パネルを構成している原子や分子には、量子穴がたくさんできるんだけど、その穴の間隔をこの術式が物凄く近づけてくれるのよ」


 量子穴というのは、疑似パネルを構成している原子が抜けた穴の事だ。この穴を利用して発電を行っている。ちなみに、この穴に光子が当たると、電気を発した際に色が変わる。


「パネルが持つ波動のバンドギャップより、少なくとも2倍以上の光が入射すると、1つの光子から複数の電子が発生する。でも、放置しておくと、数十から数百ピコ秒の間に、1つの電子に『再結合』してしまうのよ。でも、こうすることで、『再結合』が起きる前に電子を回路に流すことができるってわけ。発電量も7桁くらい増えるわね」


「そのくらい知ってる~」と、魔法工学クラスの生徒たちがツッコミをミンタに入れた。ベルディリ級長とペルも、得意科目なので一緒にニコニコしている。一方のウィザード魔法クラスの生徒たちは、関連情報を同時に記憶中なので反応が乏しい。

 レブンは何とか理解できている様子だ。以前のヒドラ騒動で、ノームのラワット先生が教えてくれた魔法なので経験済みという事もある。それでも反応は乏しく、口元が魚に戻ってしまっているが。


 生徒たちが簡易杖を〔空中ディスプレー〕画面に向けて、術式を簡易杖に導入していく。それを見守りながら、ミンタが話を進める。

 冬の日差しが雲間から伸びて、金色縞模様が2本走っているミンタの毛皮をキラキラと輝かせた。他の狐族の生徒たちも、毛先がキラキラと反射する。一方のペルはやはり闇の精霊魔法場の影響だろうか、かなり影が薄くて地味にキラキラしているが。

「電子だけど、これって光ほど速くないのよね。魔法回路の電気抵抗のせいなんだけど。魔法って、膨大な情報量の術式を高速で処理しないといけないから、光速にさせるように魔法をかけてあげることが必要なのよ。その条件って何かしら? レブン君」


 ミンタにいきなり質問されて、たじろぐレブン。とりあえず席から立ち上がって、口元を魚からセマン型にした。

「ええと……超電導ってことですか? ミンタ・ロコ先生」


 ベルディリ級長を筆頭にして、魔法工学の生徒たちから一斉にブーイングがレブンに浴びせられた。ペルも隣で顔を背けて、肩を細かく震わせている。

 ウィザード魔法クラスの生徒たちと同じような仏頂面をして、黒髪をかいて席に座るレブンだ。ミンタが魔法工学の生徒たちを鎮めてから、「コホン」と上品に咳払いをする。

「電子の質量を『見かけ上ゼロ』にする事よ。その方法は色々あるけど、魔法回路の材料で多く使われている炭素素材のグラフェンで説明するわね」


 〔空中ディスプレー〕画面が切り替わって、蜂の巣状の平べったいシートの構造図が表示された。それを見上げてミンタが解説する。

「これがグラフェンの原子配置と構造模型。安い魔法具の魔法回路で使われているわね。安価だし、燃えるゴミに出せるし、使い捨ての魔法具としては最適。でも、グラフェン上では電子の質量はゼロにならないのよ」


 質量ゼロというのは、あくまでも『見かけ上』の話である。本当に電子の質量がゼロになってしまうと、因果律崩壊が起きやすくなるので危険だ。


「理由は簡単で、グラフェンの性質上、電子のバンドギャップが生じないせいね。流れのない池みたいな感じ。だから、一般向けの魔法具って魔力が弱いのよ。その分、安全でもあるけど。もちろん、一般の金属回路よりは高速で電子が走るわよ」

 バンドギャップというのはエネルギーの高低差のようなものだ。


 ペルがニコニコしているので、ミンタが両耳をパタパタさせた。

「グラフェンでも光速にする方法はあるけど、これはちょっと面倒な術式が必要なので、授業ではしないわよ。さて、電子の見かけ上の質量がゼロになるような素材って何かしら? ペルさん」


 ペルが「スッ」と音もなく席から立ち上がった。音が聞こえなくてちょっと驚いている、近くのベルディリ級長に微笑む。

「私の魔法場の影響です。気にしないでね。ええと、ミンタ・ロコ先生。シリセンです。シリカ原子で構成された、デコボコのシート状の魔法回路用素材です」


 再び音もなく「スッ」と席に座ったペルに、ミンタが微笑んでうなずいた。

「正解。私たちが今使っている、この簡易杖の魔法回路の初期の素材でもあるわね。改良前はグラフェンで、今はシリセンになってる。シリセンはグラフェンと違って、電子のバンドギャップがあるのよ。だから、電子の見かけ上の質量がゼロになって、電子が魔法回路上を光速で走ることができるってわけね」


 そうして、ミンタが自身の簡易杖を取り出して生徒たちに見せた。

「シリカ製だから、脆くて壊れやすい欠点はあるけどね。それと、質量ゼロになる電子は、シリセンの表面でしか生じない。シリセンの内部では普通の電子なのよね。だから、強力な魔法を連続で使うと、表面を走る電子だけでは足りなくなって、術式がエラーを起こす事になるわ。杖も割れたり砕けたりするし」

 多くの生徒が、「うんうん」と大きくうなずいて同意している。


 ミンタの手元にタイマー表示が出た。それを見て、ミンタが〔空中ディスプレー〕画面を消去する。同時に何かの魔法の遅延発動キーを入れた。

「魔法工学の授業みたいになったけど、光の精霊魔法から見た魔法回路の説明はこんなところね。光と電子とを上手に〔操る〕ことが重要ってわけ。今回教えた術式と関連魔法は、今から送るわ。倒れても大丈夫なようにしなさい」

 ミンタが簡易杖を振り上げたので、60名ほどの生徒たちが慌てて机の上を片付ける。


「ほい」

 ミンタが簡易杖を容赦なく振り下ろした。

「ぐお……」

 呻き声を上げて、机の上に突っ伏す生徒たち。ベルディリ級長も例外ではなく突っ伏していた。ペルとレブンも目を回している。


 それでもまだ気絶していないペルに、ミンタがニコニコして歩み寄って来て耳打ちした。

「マライタ先生の都合がついたわ。放課後つき合いなさい。杖の改良実験をするわよっ」

「ええ~……」と、言い残して目を閉じるペルであった。(今日の学生食堂の昼食メニューは、ウズラのスープとバナナだったっけ、食べたかったなあ……)と思ったところで、プツリと意識が飛んだ。


 すっかり静かになった60人ほどの生徒たちを見下ろして、ミンタが栗色の瞳を細めて、金色の毛が交じる尻尾をパサパサと振っている。ご機嫌のようだ。

 授業時間終了のチャイム音が運動場に流れ始めたのを、両耳を立てて聞く。

「思ったよりも、しっかり効いてるわね。ついでに、精神の精霊魔法の授業も代行してみようかしら」


 そして、手元に手の平サイズの小さな〔空中ディスプレー〕画面を出して、微笑んでいた口元をきゅっと引き締めた。そこには、ミンタの故郷の街……だった一面の更地が映っている。


 先日の墓所主催のテストでは、ミンタの街の上空にも水玉が発生していた。それに街の自警団や軍と警察が攻撃して、水玉からの反撃を受けてしまったのだ。結局、街の建物が全て〔液化〕されて消滅してしまった。

 墓の言った通り、死傷者は出なかった。しかし、街は城壁や堀も含めて全て消えてしまい、真っ平らな更地に変わっていた。


 ミンタが家族からのメールを読んで返信し、校長からのメッセージを読んで、尻尾と両耳をパタパタする。

「私って、やっぱり偉大な魔法使いになる運命なのかしらね。いつか、墓所に引き籠っている連中を叩き起こしてあげるわ」

 机に突っ伏して気絶している60人ほどの生徒たちに、日焼け止めの簡易〔防御障壁〕をかけてやる。

「さてと。お腹すいたな」


 食堂へ向かおうとしたミンタに、リーパットが10人余りの党員を引き連れてやって来た。ミンタを見下したような余裕の笑みで、ガハハ笑いをしている。

「ミンタ1年生、先生役ごくろう。だが、我が学校の生徒への教練は、やり過ぎぬようにしたまえ」


 ミンタが露骨に表情を険悪にした。

 全身の狐毛皮が微妙に逆立っている。特に紺色のブレザー制服と、魔法の手袋の間から見える両手首は、巻き毛の先が鋭利なドリルのようになっている。

「はあ……これはこれは、学校を大ダコの魔の手から救った英雄様。ご機嫌よう」


 ミンタのトゲだらけの口調にも、全く動じないリーパットである。取り巻きのパランとチャパイが代わりに突っかかって行ったが、その背中を抑える。

「我の有難みが、ようやく分かったようだな。生徒主席にあるまじき失態だが、我は寛大だ。見逃してやろう。ガハハ」


 そのまま、ミンタの金色の縞模様が2本ある頭を、新品の手袋をした左手で「ポンポン」叩く。ミンタの殺気が鋭くなったが、口元と鼻先の細いヒゲ群が大暴れ気味に四方八方へ向いただけで収まった。

 その頃にはムンキンとラヤンが近くまで歩いてきていたが、ミンタが暴れなかったので安堵している。ニヤニヤ笑いも少し口元に浮かべているようだが。


 リーパットがムンキンにも鷹揚に挨拶をして、豪傑笑いを浴びせる。そして肩で風を切りながら、食堂へ向かって党員を引き連れていった。ムンキンもミンタのような表情に変わってしまったが、彼も特に何も言わない。柿色の尻尾で、地面を《バシバシ》叩き続けてはいるが。


 代わりにラヤンがニヤニヤしながら、ミンタの肩を「ポンポン」叩いた。

「ぶっ殺しても良かったのに。私がスンティカン級長にお願いして、きちんと〔蘇生〕させてあげるから心配ないわよ。法力サーバーも、その程度までなら余裕だし」


 ムンキンは憮然とした表情のままで、ラヤンとは別の方のミンタの肩を「ポンポン」叩いた。リーパットのせいで不機嫌なのか、少々力が入っているようだ。

「まあでも、この60人の気絶風景を背負ってケンカしても、ミンタさんには利が無いだろうな。反省文の山を書かされるだけだろ。我慢して正解だよ。僕も我慢したし」


 ミンタがようやく気持ちを落ち着かせて、顔のヒゲ群の緊張が和らいだ。眉に相当する上毛も、ピリピリと震えなくなっている。

「記憶〔改変〕されてるから、可哀そうにと思っただけよっ。真実なんか言ったところで意味ないし。さあ、私たちも食事にしましょ」


 机に伏せて気絶しているペルとレブンの後頭部をムンキンが眺めて、ペシペシと魔法の手袋をした手で叩く。

「そうだな。こいつらには気の毒だけどな。ミンタさん、2人分の弁当を食堂で用意しておこう」

 ミンタが当然とばかりにうなずく。

「ぬかりないわ。〔結界ビン〕は2つ用意してあるから。リーパット党が食い散らかす前に、お弁当を確保しておきましょ」


 いつの間にか、レブンの席の周囲にスロコックと6人のアンデッド教徒が影のように立っていた。揃いの真っ黒なフード付きのローブを頭から被り、ミンタとムンキンに拍手し始める。

 ペット扱いの小さなゴーストも、彼らの頭上にフワフワと浮かんでいるのが見えた。スロコックのゴーストは魚型だった。他の教徒はトカゲや狐型のようだ。以前の小さなペットのような状態ではなくなり、少し大きくなっている。

「レブン殿に幸あれ。彼の弁当は我らが用意するので心配は無用だぞ、ミンタさん」


 ラヤンがジト目になって尻尾を数回地面に叩きつけた。

「アナタたち、学校に秘密結社なんか作らないでよね。いつか、法術専門クラスと正面衝突を起こすことになるわよ」

 そんなラヤンの警告を完全に無視して、アンデッド教徒たちが拍手をし終える。そして、足音を立てずにリーパット党とは別ルートで食堂へ向かっていった。


 気絶しているままのレブンの後頭部を、ラヤンが≪パシン≫と音を立てて叩く。

「この魚頭が。ある意味、鳥頭よりも面倒なんだけど」

 ムンキンとミンタが顔を見合わせて、軽く吹き出す。

「そう言うなよ、ラヤン先輩。レブンは頑張ってるさ。こんなにマトモな死霊術使いは、僕の知る限り歴史上1人もいないぞ」


 ミンタもその点はムンキンと同意見だ。ペルの後頭部を、魔法の手袋をした両手でクシャクシャして遊んでいる。

「そうよね。私もペルちゃんとレブン君のおかげで、色々と勉強できているし。考え方も、少し変わったような気がするわね」

「そうか?」と、今度はムンキンとラヤンが顔を合わせて首をかしげた。

 ジト目になるミンタである。

「いつまでも、おしゃべりしない。さっさと食事に行くわよっ」


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