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53話

【クレーター湖】

 彼らの退避完了まで1分ほどかかるので、その間に、現地の状況を画面越しに調査するエルフ先生とノーム先生であった。

 大きなクレーターがそのまま湖になっている。カメラは湖畔から湖を映しているのだが、湖の直径はおよそ1キロほどだろうか。

 湖畔の森には被害らしき影響が見られないので、相当前に生じたクレーターだろう。樹種も、亜熱帯性のものではなく、雪が積もるような冷温帯の落葉樹だ。樹高の高いモミの木も散見される。

 小窓で表示されているタカパ帝国の地図によると、東北部の国境辺り。その北には国もなく、豪族の村が点在する程度になる。住民も羊族や狼族、牛族などに変わる。竜族や魚族はいない地域である。


 その丸い湖の中央には小島があって、木々に覆われていた。どうやらその島にドワーフとセマンの違法施設があるらしい。

 マライタ先生が赤いモジャモジャヒゲを適当に手に絡ませながら苦笑いする。

「大昔に魔法か何かが炸裂したんだろうな。その跡地だ。島の周囲は見ての通り湖で、見通しが良い。これまでは、この湖上に何重もの〔ステルス障壁〕を張り巡らせて、気づかれないようにしていたんだけどな。いきなり解除されて丸裸にされてしまった。今じゃ、森の中よりも目立ってしまう有様だよ」

 まさにその通りなので、素直にうなずくサムカだ。エルフ先生も呆れた表情になっている。

「そうね。目立つわね、これじゃ」


 マライタ先生が「たはは……」と恥ずかしそうに笑った。

「違法施設内は空なんだが、それでも燃料やらの爆発物が残っている。島にいると、爆発に巻き込まれる恐れがあるんだ。申し訳ないが、この湖の岸辺から何とか破壊してくれないかな」


 しかし、エルフ先生とノーム先生が同時に首を振った。エルフ先生の腰まで伸びた真っ直ぐな金髪から、数本の静電気の火花が走る。

「残念だけど、遅かったわね。手遅れよ……もう」


 画面上空の空が急激に分厚い雲で覆われてきて、突風が吹き始めた。雷の音が連続して聞こえ始め、それが加速度的にひどくなってくる。すぐに、突風に大粒の雨が混じり始め、ノーム先生が深いため息をついた。

「『化け狐』の中ボスが降臨したようだな。さっさと我々に知らせてくれれば、連中に気がつかれる前に対処できたんだが……ちょっともう、手遅れだな。幸い、森の動物や原獣人族を避難させたから、二次災害は抑えられたが」


 画面では、物凄い豪雨になってきた。ものの1分ほどで視界が悪くなって、島影が見えなくなる。それに同調するように、マライタ先生の顔が硬直していく。

「まじかよ、オイ」

 ショックを受けているマライタ先生と、諦め顔になっていくティンギ先生を一時放置して、ノーム先生がミンタを呼んだ。


「何ですか? ラワット先生」

 怪訝な表情のミンタに、あごヒゲを片手で撫でながらノーム先生が提案する。

「作戦は前提条件から崩壊して白紙になってしまったな。もう、打つ手はないんだが……ノームとしては現地映像を残しておきたい。ドワーフ製のカメラも、間もなく全滅するだろう。そうなっては、現場からの映像情報は得られなくなる。そこで、今のうちに水の精霊魔法による〔監視〕魔法をかけておいてくれないかな。私は、今はただの『使えないノーム』なんだよね」


 ミンタが軽くジト目になってノーム先生を見据える。

「校外での魔法の使用が禁止されているんでしたっけ、今。分かりました。じゃあ、何か適当な〔監視〕魔法をかけてみます」

 そう言ってミンタが簡易杖を掲げ、精霊語で水の精霊魔法を発動させた。この場合は、湖の水を観測カメラにする魔法である。すぐに、新しい〔空中ディスプレー〕画面が生まれて、そこに現地の映像が映し出された。

 入れ替わりに、黒板型ディスプレーの画面表示が砂嵐状態になる。ドワーフ製のカメラが全て壊れてしまったようだ。


「間一髪で切り替えが間に合ったわね、ミンタさん。可視光線での撮影は、この豪雨では難しくなります。違法施設の状況を観察する目的だから、遠赤外線に切り替えてみて」

 エルフ先生の指示には素直に従うミンタである。ノーム先生やマライタ先生に対する態度とは大違いだ。当然、可視光線での映像ではなくなるので、白黒映像になる。


 その白黒映像を見たエルフ先生の顔に緊張が走った。

「うわ……どんどん気温が低下しているわね。今はもうマイナス20度くらいかな。雨じゃなくて雹に変わっています。これでは、湖も間もなく凍結してしまいますね」

 ノーム先生が少し冷や汗をかいている。垂れ眉が汗を吸い取ってしまうので、両手で眉をぬぐいながら肩をすくめた。

「危うかったな。我々が現地へ〔テレポート〕しておったら、今頃は凍死して全滅しておったぞ」


 〔凍結〕魔法の恐ろしさは、サムカからある程度教わっている。そのため生徒たちも冷や汗をかいて、白黒画面をかたずを呑んで見ていた。講習生たちはよく理解できていないようで、首をかしげているが。


 サムカも、改めて説明するつもりはなさそうだ。10秒間ほど画面を見ていたが、やがてノーム先生と同じように肩をすくめた。

「私が南極大陸で遭遇したほどではないが、それでもかなり巨大な『化け狐』だな。ざっと見て、全長1キロというところか。魔力は、〔召喚〕状態の今の私よりも上だ。私も太刀打ちできない相手だよ。さて、ではどうしようか。作戦を変更して、我々も『化け狐』に魔力支援をしてみるかね? 違法施設を破壊するという目的は、恐らく我々と同じだろう」

 遠赤外線の白黒画面を見ていたエルフ先生が、最後に肩をすくめてサムカに振り返る。

「どうやら、余計なおせっかいになりそうです。今、豪快に違法施設を食べていますよ」


 白黒の解像度が低い画面なので、よく分からないのだが、エルフ先生には現地の状況が認識できているようだ。

「爆発物やら燃料やらが引火して爆発しているようですね。その熱が手掛かりになって、違法施設の形状がおおよそ分かります。違法施設自体はもう、10分の1ほども残っていません。間もなく、全部食べられてしまうでしょう」


 それを聞いて、気を持ち直したマライタ先生とティンギ先生である。

「おう。そうかね。じゃあ、結果オーライだな。それで、湖を凍らせるような『化け狐』さんは、食事が終われば巣へ帰るのかい?」

 ノーム先生が腰に両手を当ててうなずく。

「そうなるかな。餌がなくなると帰るよ。でも、魔法場がかなりの濃度で残るから、湖はしばらくの間、凍りついたままだろうね」


 そして手元で、何か演算をするノーム先生である。再び肩をすくめて、ため息混じりで口元を緩めた。

「2年くらいかな。自然に魔法場が拡散して希釈消滅するまで、そのくらいかかる。この地域には今後、ドワーフとセマンは立ち入らない方が良いだろうね。森の妖精から無差別攻撃されてしまうよ」



 サムカが教室の壁にかけられている時計を見上げた。

「私も、そろそろ帰還する時間だな。では、私の代理となるようなゴーレムかゾンビを、後ほど送ることにしよう」

 エルフ先生とラヤンが口をそろえてサムカに注文する。

「アンデッドはダメです」

 マライタ先生も、ガハハ笑いをしながら同意している。

「だな。学校の保安上、アンデッドは少ない方がいいな。ワシもプログラム作成の手間が省ける」


 錆色の短髪をかいたサムカがマライタ先生の顔を見て、もう1つ思い出したようだ。

「そうそう。死霊術や闇の精霊魔法の実習授業の場として、金星を考えている。教育指導要綱の進捗状況を見ながら、実施してみるつもりだ。マライタ先生の期待にも応えられるかも知れぬな」

 マライタ先生がニッコリと笑った。

「おう。タカパ帝国も金星の地下資源には興味があるからな。良い情報を待ってるぜ」


 一方エルフ先生は、やや諦め顔で微笑んでいる。両手を腰ベルトに引っかけて、小さくため息をついた。

「金星ですか……地球と環境が違いますから、充分に注意して下さいね。でもまあ、学校で実習をするよりは被害は少ないでしょう。ですが、金星にも現地の妖精や精霊がいるはずですよ。怒らせないように配慮して下さいね」

 ノーム先生も不安と期待の両方を顔に浮かべている。

「左様。金星で好き放題して、現地の妖精を怒らせてしまっては、その後のタカパ帝国の資源採掘も出来なくなりますからな。羽目を外さないように頼みますぞ」


 サムカが再び錆色の短髪をかいた。実習場所を確保するのは、金星といえども簡単ではなさそうである。

(ファラク連合王国軍が頻繁に金星で軍事訓練と精霊狩りをしているのは、黙っておいた方が良さそうだな)

 金星の大気中には酸素がほとんどないので、生命がいない。海もないので荒涼とした死の世界だ。そういった環境はアンデッドにとって都合がいい。

 しかし、オークや魔族にとっては暮らせない環境なので、開発されずに放置されている。今は軍の訓練場だ。




【サムカの居城】

 サムカが城に戻って2日後には、ドワーフの違法施設を襲った『化け狐』の続報がハグ経由で知らされた。サムカは執務室で『追加』の詫び状をしたためていたが、その手を休めてハグの報告を聞いている。

「……そうか。あの『化け狐』は居座ってしまったか。それでは、あの一帯は湖を含めて、森ごと凍結して真っ白になっているのだろうな」


 ハグが床から浮かびながら、ゆっくりと一回転する。

 相変わらずの、廃品回収でも引き取ってくれないようなボロボロの服装である。ただ、つば付き帽子とサンダルは新調している。つばが帽子から外れかけてダラリと垂れ下がり、サンダルも左右別物で10年くらい履き潰したようなものだが。

「オマエさんの想像の通りだよ。さすがに、あの大きさの『化け狐』になると、現地の森の妖精でも逃げ出すしかなかったようだ。ノーム先生の予想が外れてしまったわい。あの湖は2、3百年ほどは凍りついたままだろう。さて……」


 ハグが話題を変えた。執務室の石壁と天井、床までが《ギシリ》と軋む。3体の置物ゾンビもサムカによって防護シートを頭から被せられているが、痙攣したような動きを見せている。

「オマエさんが希望したゴーレムだが、これで良いかね?」

 ハグが左手を差し出して、『手の平』を上に向けて開いた。一瞬の後、『手の平』の上に大きさ10センチほどの熊型人形が出現する。大量に南のオメテクト王国連合から輸入された、あの『ゾンビ熊』がモデルなのは一目瞭然だ。


(まあ、そうなるだろうな……)と思うサムカであるが、口には出さなかった。ガーゴイルやネズミでないだけマシだろう。

「ワシの手縫いだ。これにオマエさんの意識を〔憑依〕すれば動く。自律型だ。獣人世界と死者の世界との間での通信は、オマエさんでは難しいからな。遠隔操作型ではない。1日に1回、定時に〔同期〕して、人形の行動記録を回収できる。オマエさんからの指令も同じく、1日に1回が原則だ。人形が出せる魔力は、〔召喚〕されたときのオマエさんの魔力の、半分程度というところだな」


 熊人形を受け取ったサムカが意識を熊に向ける。すると、すぐに熊人形が動き出した。その熊の口がパクパク動いて、サムカの声が出てきた。

「あー、発声テスト発声テスト……ほう。かなり自由に動かせるのだな。会話も特に問題はなさそうだ。魔力は、新人の騎士と同じくらいか。うむ。これだけあれば、かなり使い勝手が良いだろう」


 一通り喜んだサムカが、再びハグに視線を戻した。両手にしっかり熊人形を抱いている。今度は、サムカ本人の口が開いた。

「しかし、ハグ。これでは小さくないかね? 剣などを振るう際に支障が出そうだが」

 ハグがウインクして微笑む。

「大丈夫だ。獣人世界で巨大化させるさ。オマエさんと同じく、身長180センチまで大きくすれば問題ないだろう」


 サムカがハグに熊人形を渡して、呆れたような笑みを口元に浮かべた。部屋着の裾がゆったりと揺れる。

「まったく……何でもありだな、さすがリッチーというところか」




【教員宿舎】

 それから数時間後の獣人世界では、夜食を終えたノーム先生が珍しく浮かない表情でカフェの席を立って、運動場の隅に出てきていた。すっかり日が暮れて夜になっている。今夜は新月で星明りだけだ。

 校舎も消灯しており、教員宿舎も事務員が仕事を終えているのでかなり暗い。おかげで、満天の冬の星空が、ノーム先生の見上げる上空一面に広がっている。亜熱帯だが、今は冬の乾燥時期なので、ほとんど雲は見当たらない。


「やれやれ。確かに今夜は月明かりもないし、闇の精霊場が強くなる晩だが……『命令』とあれば行かねばならんなあ」

 相当に嫌そうな表情と声色のノーム先生が、夜空の冬の大三角形の中の星を数えながらつぶやく。


 その時、ニュースが手元の小さな〔空中ディスプレー〕画面に表示された。狐語がすぐにノーム語に自動翻訳されていく。それを斜め読みしたノーム先生が、さらに顔を曇らせた。

(寒気は相当に強いようだね。後続の北方調査隊も消息不明か。凍りついて全滅だろうな、かわいそうに)

 どうやら、タカパ帝国の北方に広がる荒野で資源探索を行っていた調査隊が、寒波から逃げ損ねて全滅してしまったようだ。前回も全滅していたので、かなり過酷な環境なのだろう。


 後ろのドアが開いて、エルフ先生が顔を出した。

「あら。ラワット先生も、もしかして後始末の『命令』を受けたのですか?」

 彼女もノーム先生と同じような、浮かない表情をしている。


 ノーム先生が力なく微笑みながら振り返った。自慢の口ヒゲやあごヒゲを触る余裕もない様子だ。

「ああ。カカクトゥア先生もかね。処分が確定して執行された1時間後に、この命令だよ。ええと……うん、公開しても問題ないか。実は、ノーム世界もドワーフみたいに違法施設を設けていてね。それがついに大地の精霊に見つかってしまった。その『後始末をするように』という命令だよ」


 エルフ先生が固い笑みを口元に浮かべながら、両手を後ろに組んで軽く横ステップをする。

「まあ、奇遇ですね。私も、先ほど本国から命令を受けました。ライバル国であるトリポカラ王国が秘密裏に設けていた違法施設が、森の妖精たちに見つかって襲撃を受けています。人道的支援ということで、そこの不法滞在エルフたちを救出する事になってしまいました」

 淡々とした口調で言うエルフ先生だ。

「実際は、森の妖精たちに協力して、トリポカラ王国の違法施設破壊の支援をする命令ですけどね。タカパ帝国の軍情報部と警察にも話をつけてあるそうですし。とりあえず、密入国しているエルフをタカパ帝国に逮捕されては、ブトワル王国としても都合が悪くなるという判断です。それで、私が身柄を拘束してトリポカラ帝国へ送りつける手筈……みたいな事になってしまいました」


 ノーム先生がさすがに吹き出して、エルフ先生に注意する。

「おいおい。そこまでの詳細な話は、さすがに機密事項だろ。また処分を食らうぞ」

 エルフ先生は「どうでもいい」と言わんばかりのジト目を返すだけである。

「構いませんよ。ブトワル王国のエルフは、ここでは私だけなんですから。ブトワル警察上層部も真剣に考えていません。それどころか反対に、森の妖精たちがそのエルフ共々、違法施設を破壊してくれたら良いのに……という雰囲気でした。私への命令も、『緊急』とか『重要』ではなくて、『下位一般』という分類タグですしね。後回しでも良いという命令です。先にラワット先生の命令を手助けしますよ」


 ようやく、ここでノーム先生が銀色のあごヒゲを右手でかいて、曖昧な笑みを浮かべた。

 エルフの非情さというかドライな思考には、ノームの目から見ても(容赦がないな)と思えることが多い。守護樹という植物モンスターに存在を委ねている種族なので、どこか何かが違う。最終的に木の一部になって同化するのを善しとする思想のせいだろうか。

「うん、それは感謝するよ。実際、助かる。僕の仕事が終わる頃には、その密入国エルフたちも最終局面になっているだろうしね。それで、魔力制限は解除されているのかい?」


 エルフ先生がニッコリと微笑んだ。

「ええ。制限どころか、さらに強化されていますよ」

 ノーム先生もそれは予想していたようだ。つられるように微笑み返す。

「そうかね。僕もだよ。それは良かった」


 エルフ先生が、ノーム先生の手元に浮かんでいる小さな〔空中ディスプレー〕画面をのぞき込んだ。まだノーム語表示のニュースが表示されている。もちろん、エルフなのでノーム語は読めないのだが、ニュースの雰囲気は敏感に感じ取ったようだ。整った眉をひそめる。

「ラワット先生。このニュースは……」


 ノーム先生が表示をウィザード語に再翻訳しながら、悲しそうにうなずいた。

「左様。北方の資源調査隊の消息不明ニュースだよ。恐らくは、この寒波で全滅したのだろうな。ドワーフ政府との交易材料としての鉱脈や油田を探しているのだろうが……困難な様子だな。しかし夏場は冷涼なので、ジャガイモや野菜栽培に適しているみたいだけれどね」


 翻訳されたニュース文章を斜め読みしたエルフ先生が、空色の瞳に憂いの色を浮かべる。

「そうですね。エルフやノーム政府相手でしたら、森の妖精や精霊との友誼を取り持つだけで良いのですが。これは大変そうですね。パリーによると、北方の森の妖精たちが気候調節に失敗したそうです。それで、こんな寒波が発生しているのでしょう」



「どうも、それだけじゃないみたいだよ。カカクトゥア先生、ラワット先生」

 いつの間にか、ティンギ先生が目をキラキラ輝かせながらやってきていた。「ぎょっ」とするエルフとノーム先生である。全く気がつかなかったようだ。

 まだ混乱している2人の先生に、ティンギ先生が構わずに話を続ける。

「先日の、ドワーフとセマンの違法施設の破壊の件で、決定的に怒ったらしい。あ。作戦は失敗だったようだね、残念に思うよ」


 エルフ先生とノーム先生が、苦虫を噛み潰したような表情で顔を見合わせた。

 どうして、こうも簡単に情報が漏れているのだろうか。いくら隠密行動が得意なセマンといえども早すぎる。そんな2人の顔を愉快そうに眺めたティンギ先生が、軽く補足説明してくれた。

「タカパ帝国軍や警察って、派閥争いが色々とあるからね。こういう情報も、安値で取引されているんだよ。気をつけなよ」


(安値なのかよ……)

 再び苦虫を噛み潰したような表情で、顔を見合わせた2人の先生であった。実に愉快そうにニヤニヤしているティンギ先生が、黒い青墨色の瞳をキラリと光らせる。

「そうそう。『化け狐』の降臨で凍結した森だけどね、そこの森の妖精がかなり怒ってるぞ。現地の原獣人や獣から情報を集めた所、エルフのカカクトゥア先生が関与しているって、勝手に思っているらしいな。注意しろよ」


「は!?」

 思わず声を上げて、目を点にするエルフ先生だ。混乱気味になって、腰まで真っ直ぐに伸びている金髪が一斉に静電気を放って逆立ってきた。

「ちょ、ちょっと待って。何をどうしたら、そんな結論になるのよっ。私は彼らの保護をしただけなのにっ」


 しかしティンギ先生は、実に愉快そうに微笑むばかりだ。

「妖精に我々の常識が通用すると思うのかね? エルフなら分かるだろ。まあ、実際のところは、森から追い出された腹いせに、指名されただけだろうな。ご愁傷様」


 ショックを受けて呆然としているエルフ先生だ。隣のノーム先生が銀色の垂れ眉をひそめて、ティンギ先生に顔を寄せた。

「僕も、腹いせの対象にされているのかい?」

 ティンギ先生が晴れやかな笑顔でうなずいた。

「というか、この学校そのものが『腹いせの対象』にされているようだよ。この寒波で北の森の妖精が、庇護下にある動物や原獣人族から、突き上げを食らっているようでね。その不満の矛先にちょうど良かったのかもな」

 さらにとんでもない話をするティンギ先生であった。


 ノーム先生もショックを受けている。

「妖精を怒らせると、まずい事になるんだが……何とか誤解を解く方法はないかね、ティンギ先生」

 ノーム先生がティンギ先生に相談する。エルフ先生も心配そうな表情だ。


 しかし、ティンギ先生はにこやかに微笑み続けている。

「まあ、そんなに心配する必要はないでしょう。北の森は、ここ亜熱帯から遥か遠くです。庇護する者たちを放置して、ここまでケンカしに来るほど愚かではありませんよ。それに、この森はパリーさんの縄張りですからね、妖精大戦争になってしまいます。春になるまで、北へ行かなければ済む話だと思いますよ」


 エルフ先生とノーム先生が、焦り顔のままで顔を見合わせた。

「……考えれば、そうですね」

「うむ……春まで気を付ければ済む話だな。ここは亜熱帯なので、季節感が乏しくなっていたよ」


 2人の先生が、急速に気分を落ち着かせていく。ここまで全て計算通りだったようで、嬉しそうに微笑んでいるティンギ先生だ。

「良い情報を提供できたようだね。それじゃあ、その対価として、私も参加しても良いかな? カカクトゥア先生、ラワット先生。エルフとノームの違法施設を見てみたいんだよ」


 ティンギ先生が黒い青墨色の瞳を細める。大きなワシ鼻と両耳が彼の顔で存在感を増していく。ちなみに、彼の今の服装は、スーツではなく長袖シャツとズボンのシンプルなものだ。靴は相変わらずのスニーカー靴だが。

「スリルがある任務は、魔神様がお喜びになるんだよ。他の先生も連れていけば、さらにスリルが増すんだけど、どうかな?」


「ダメですよ、ティンギ先生」

 両耳をピコピコさせながらも、エルフ先生がジト目でピシャリと拒絶した。先程まで散々不安がっていたのだが、さすが警察官である。規則には厳格だ。

「これは、同じ警察組織だから話ができているのです。他の先生と協力するなんて想定もされていませんよ」

 ノーム先生も同意見だ。

「左様。今回の敵は、大深度地下の大地の精霊群と、エルフだよ。精霊魔法戦になる。特に、エルフの光の精霊魔法は、ウィザード魔法使いでは防御できない。大地の精霊も、闇の因子を多く含んだ精霊魔法を使ってくる。残念だけど、相性が悪すぎるよ」


 2人の先生にそこまで言われても、ティンギ先生はヘラヘラ笑っているだけである。さらに、物陰に隠れている連中に手招きした。

「……ということだが、どうするかね?」

 教員宿舎の雨よけ通路の柱の陰から、ミンタとムンキン、ペルとレブン、それにラヤンが一斉に顔を出した。 ジャディは姿が見えない。鳥目なので当然と言えば当然だ。一応それでも見える事は見えるようだが。


 やはり、真っ先にミンタが口を開いた。金色の毛が交じる尻尾が45度の角度で上を向いている。さらに、両耳を含めた顔のフワフワ毛皮が、逆立って膨らんでいる。巻き毛も増えているようだ。その様子から、かなり感情が高ぶっていると分かる。

「カカクトゥア先生! 私たちも連れて行って下さい! ラヤン先輩の〔占い〕では、かなり危険なことになるって出ました。〔蘇生〕や〔復活〕の準備も済ませてあります。今なら強力な法力サーバーが使えますので、副作用も、それほど心配ありません」

 ミンタが珍しく切羽詰まった表情で、エルフ先生に訴えかけた。彼女は占道術を履修し終えているので、それなりに〔予知〕や〔占い〕ができるせいもあるのだろう。


 そんな彼女の後ろに立つラヤンもこれまでになく真剣な表情で、半眼がかなり据わっている。尻尾も微動だにしていない。こちらはミンタよりも専門家に近いので、なおさら真剣な顔をしている。

「私の〔占い〕の的中率は1%もない程度ですが、的中した場合の予想が過酷です。〔精霊化〕されてしまいますよ。ミンタさんが言った通り、学校地下の法力サーバーもちょうど稼働率5割に達しました。〔蘇生〕や〔復活〕法術が使えます」


 隣のムンキンも頭の柿色のウロコが膨らみ切って、いつもよりも1割増しで横方面で増量している。そのせいで、制服も内側から膨らんで、ウロコの縁で切れて破れそうだ。

「僕は占道術はそれほど詳しくありませんが、それでも悪い予感がします。僕たちも何かお手伝いをしたいのです」


 レブンもムンキンに同意して、明るい深緑色の瞳をエルフ先生とノーム先生に向けた。夜中なので、瞳が発光しているようにも見える。魚族特有の目の構造のせいだろう。

「僕も喜んで先生方に協力しますよ。闇の因子が強い地下であれば、なおさら死霊術や闇の精霊魔法が使いやすくなります」


 最後にペルもオドオドしながらも薄墨色の瞳を、しっかりと先生たちに向けた。黒毛交じりの尻尾や両耳に鼻先のヒゲが、緊張で細かく震えている。

「レブン君の言う通りです。私も微力ながらお手伝いします。土中深くは未知の世界だと聞いています。使える手は全て使った方が、成功の確率が上がるはずです」



 しかし、エルフ先生の態度は全く変わらなかった。両手を腰のベルトに当てて、髪から数本の静電気が走る。

「では、なおさら私たちだけで作戦を遂行します。あなたたち生徒はタカパ帝国の財産です。同時に、エルフ世界やノーム世界との懸け橋になる貴重な人材です。このような『くだらない命令』で、あなたたちの身を危険に曝すことはできませんよ」

 ノーム先生も同意見のようだ。あごヒゲを右手でつまみながら、垂れ眉を交互に上下させている。

「左様。我々のこれまでの教育の成果を、『こんな作戦』で失うわけにはいかないよ」


 先生2人の頑固な拒絶に、大いに不満の表情になって声を上げる生徒たち。それでも、先生たちの言い分も理解はできるので、「ぐぬぬ……」と最後には黙り込んでしまった。



 そこへ、<パパラパー>とラッパの音が雨よけ屋根の上から鳴り響いた。同時に、<ポン>と水蒸気の雲が1つ発生しハグ人形が出現して、石張りの通路に「ポテ」と落ちた。着地は失敗した模様である。

「さっさと行ってこい。またドワーフとセマンの違法施設のように手遅れになるぞ」

 相変わらずのひどい服装センスを、惜しげもなく披露するハグ人形である。さすがにもう見慣れてきたのだろう、指摘する者はもう誰もいない。

 ハグ人形も構わずに話を始めた。エルフ先生とノーム先生を床から見上げながら、偉そうな態度でぬいぐるみの腕を振り回して、ビシビシと先生たちに指し向ける。

「何も、君たち本人が、わざわざ現場まで出向く必要なんかないだろう。『代理』を送り込めば良いじゃないか」


 そう言いながら早速、『熊のぬいぐるみ』をポケットから取り出して巨大化させた。あっという間に身長180センチの熊に成長する。

「なんだよ、この邪魔なぬいぐるみは」と言いたそうな生徒と先生たちを無視して、ハグ人形が「ポンポン」と熊の足を叩く。

「ワシが魔法を使うわけには、いかないからな。代理を用意した。紹介しよう! 『サムカ熊』だっ。ほら、ご挨拶をしないか」


「は?」

 先生と生徒たちがキョトンとなった。ペルとレブンが、視線を交わして険しい表情になる。これは、まさか、人工生命体ゾンビの、「よきにはからえ」サムカなのでは……

 家庭訪問時の出来事を思い起こしたようで、赤面する2人である。レブンの顔が急速に魚に戻っていき、ペルがパタパタ踊りを始め出した。


 そんな生徒と先生から注目される中で、熊人形が動いて首を回した。

「私だ。テシュブだ。先日話していた、私が不在中の『代理』だ。自律型で、毎日1度、死者の世界の私本人と〔同期〕する」


「うわあ……」という反応が、先生と生徒たちから返ってきた。レブンの顔が魚からセマンになる。

 ペルが涙目になりながら、サムカ熊に指摘する。心底、ほっとした様子だ。パタパタ踊りも終了している。

「テシュブ先生……限りなくダサいです」


 ショックを受けて、機能が半分停止しているサムカ熊である。その熊人形から視線を逸らしたエルフ先生が、話の続きをハグ人形に促した。

「……それで、ハグさん。つまり、私たち自身ではなく、代理を送って作戦を行えと言う事ですか?」


 ハグ人形が、石張りの床から雨よけ屋根を支える柱を伝い、猿のような動きでよじ登り、振り返った。ドヤ顔をしているつもりらしいが、人形なのでよく分からない。

「常識だろう。どうして、わざわざ危険な場所へ出向く必要があるのだね」


 代わりにノーム先生が固い笑顔になって答えた。銀色の口ヒゲを数回ねじる事も忘れない。

「残念だが、ハグさん。土中深い場所では、通信ができないんだよ。大地の精霊は〔吸着〕する性質を強く持つ。遠隔操作の術式や通信信号も、途中で〔吸着〕されてしまって届かないんだよ。どうしても、我々本人が、現場まで出向かないといけない。しかも、今回は相手が大深度地下の大地の精霊だ。闇の因子を強く持っているから、なおさら魔法が消されてしまいやすいんだよ」

 エルフ先生が冷静な表情になってうなずいた。

「そういうことです。では、私たち2人だけで作戦を開始します。生徒たちは、もう寄宿舎へ戻りなさい。いいですね」

 そう言って、エルフ先生とノーム先生の姿が消えた。現地へ〔テレポート〕したようだ。



「カ、カカクトゥア先生ー! ど、どうしようっ! 先生が死んじゃうよおっ」

 ミンタが石造りの通路床に崩れ落ちて泣き出した。腰が抜けたようになっていて、両手足には全く力が入っておらず、だらんと冷たい床に投げ出されている。尻尾も同じく床に這いつくばってピクリとも動かない。両耳も伏せられて、顔のヒゲ群もだらりと垂れてしまっている。

 星明りだけの夜なので、余計に彼女の金色の縞模様が浮き出て見えて、儚さを増幅されていた。


 慌ててペルが抱きついて、ミンタが床に倒れ伏すのを支えて防いだ。ペルもかなり混乱しているようで、涙目のまま尻尾を不規則に振って床を掃いている。

「テ、テシュブ先生! どうしよう!? 私たち、何かできないの!?」


 ペルの必死の視線を受けるサムカ熊だが、「うーむ……」と唸って腕組みをしたままだ。

「場所が悪すぎる。地下深くでは、ラワット先生が指摘したように遠隔魔法が非常に使いにくい。我々自身が現場へ出向く必要があるのは事実だ。大深度地下の大地の精霊どもが凶暴なのは、君たちも見て知っているだろう。この教員宿舎ごと飲み込んで破壊してしまうような連中だ。いわば、奴らの口の中に飛び込んでいくような行為になる。君たちが行かないのは正しい選択ではあるな」


 その時、《ゴオオオ……》と、地鳴りが地面から響いてきた。そのすぐ後に震度2程度の横揺れがやってくる。


 ハグ人形が、サムカ熊のぬいぐるみの頭の上までの登頂に成功した。早速小さな旗を何本か突き刺しながら、他人事のような口調でコメントする。

「大地の精霊どもに発見されたようだな。運悪く、というかエルフとノームが〔テレポート〕して違法施設に到着したせいで、見つかってしまったようだ。土中に陸上の生物反応が2つも出たら、そりゃあ目立つわな。だが、この学校には向かってきておらん。学校のシステムが効いているようだ」


 ミンタのパニック状態がさらに加速してひどくなる。もう、ほとんど号泣だ。ペルもどうしてよいのか分からなくなって、一緒に泣き出した。


 ラヤンは泣いていないが紺色の両目を閉じて、厳しい表情をさらに厳しくする。内心は相当に動揺しているのだろう、尻尾がかなり不規則に床を叩いている。変則の4ビートから8ビートの間をさまようようなリズムだ。

「私の〔占い〕って1%も的中しないのに、どうしてこんな時に限って当たりそうなのよ」

 そこで口調を少し変えた。

「法力サーバーが稼働しているから、死んでも〔復活〕できるわよ。だけど真教の規則で、カカクトゥア先生とラワット先生の死亡が確定されないと、〔復活〕法術を開始できないけれど。それが問題なのよね。地下深いと確認できない」


 ミンタが涙目で、ラヤンを睨みつけた。

「そうなのよね……確認できないまま1週間も経ってしまうと、保存血液サンプルが劣化して使えなくなる。そうなれば事実上、〔復活〕できない。いざとなったら、私だけでも土中を潜航して確かめに行くわ」


 ティンギ先生がようやくミンタとペルが泣いていた理由を理解できたようだ。「ポン」と膝を打つ。

「なるほどな。〔蘇生〕〔復活〕法術の規則の壁があるのか。自動〔蘇生〕法術は、その場で〔蘇生〕するだけだからね。またすぐに大地の精霊に食べられてしまう。まあ、エルフとノーム世界でも〔蘇生〕や〔復活〕の手段を用意していると思うぞ。そう、心配する事はあるまい」


 ペルが残念そうにリボンをポケットから取り出して、白い手袋をした手で握りしめた。

「この緊急用のリボンも、〔テレポート〕できない場所では使えないんだね。悔しいな」

 ミンタが涙を拭いて、リボンを見つめた。

「そうね……大地の精霊に魔法が〔吸着〕されてしまうのよね。要改良だわ」


 一方のムンキンはイライラ度合いが急上昇しているようだ。床を叩く尻尾のビートが、どんどん速くなっている。ラヤンと正反対に頭と尻尾のウロコが膨らんで、濃藍色の両目が見開かれてギラギラした光を放ち始めた。星明かりしかない夜なので、これは彼自身の持つ光の精霊場が漏れているのだろう。

「俺は行くぞ。ここで先生を見殺しにしたら、俺は一生後悔する。竜族の名にかけて助っ人に行く」


 〔テレポート〕術式を走らせはじめたのを、レブンが慌てて阻止した。レブンもかなり動揺しているようで、顔が半分以上魚に戻っている。

「ダメだよ。闇雲に行っても無駄に死ぬだけだ。何とかして、僕たちのシャドウや〔式神〕、精霊を送り込んで遠隔操作できる方法を見つけないといけない。ムンキン君が1人で現地へ行っても、土中では光の精霊場なんかない。大地の精霊場だけだ。ムンキン君の得意な魔法が使えないよ」

 その通りである。

「ゴーレムを現地へ送り込んで、君がここから魔力供給して、ゴーレムに光の精霊魔法を使わせる戦法じゃないと効果は期待できない」


 ムンキンが両目を青い鬼火のように光らせた。

「そんなの分かってる! オレが行っても何もできない。だけど、先生の盾にはなれるだろっ」

 叫びながらレブンに詰め寄り返し、胸ぐらをつかみ上げた。が、レブンの顔はそれ以上魚には戻らない。じっと深緑色の瞳でムンキンを見つめ返し、あくまで冷静な声で諭していく。

「それこそ悲劇だ。例え先生が君の犠牲で助かっても、その後、先生は1000年、2000年を後悔しながら生きることになる。いくらエルフでも、精神が耐えられるわけがないだろ。僕たちなら100年弱だけで済む。精神が崩壊しても、君なら月の『化け狐』に快く迎え入れてもらえるさ」


「うおおおおっ」と雄叫びを上げて、仁王立ちのまま天を仰いで泣き始めるムンキンである。レブンが彼を力強く抱いて支えながら、サムカ熊とハグ人形に顔を向けた。レブンも両目が完全に魚のそれに戻っている。

「テシュブ先生……何か方策はありませんか」

 サムカ熊もお手上げ状態で、熊の腕を組んで考え込むしかできなかった。


 しかし、その頭の上で最後の記念旗を突き刺して記念撮影し、ご満悦状態のハグ人形は少し違うようだ。

「つまり、土中深くまで魔力を供給できる通信回路を組めば良いだけだろ。このサムカ熊を適当にバラして、中継器に仕立て上げれば良いだけじゃないか」


「おお……なるほど」

 サムカ熊が反応して頭を上げたが、ムンキンは涙目のままで首を振って否定した。

「それは無理だ、ハグさん。土中では無線通信は1キロぐらいしか飛ばせない。大地に〔吸収〕されてしまうんだ。さっきの地震波を〔逆探知〕して、違法施設の場所を特定したけどさ。地下200キロの地中にある。そのテシュブ先生熊をバラしても量が足らない」

 レブンも潤んだ魚の目のままで、ムンキンに同意する。

「それに、テシュブ先生では光の精霊魔法を中継できませんよ」


「うむむ……」

 サムカ熊も再び腕組みをしてしまった。しかし、頭の上でふんぞり返っているハグ人形は、態度を全く改めていない。それどころか、さらにふんぞり返っている。

「おいおい、ワシを誰だと思っている。この熊人形は、ただの綿の人形だぞ。サムカちんの意識を乗せているだけだ。このハグ様人形と仕組みは同じなんだがね。ぬいぐるみ自体には魔力なんかない」

「コホン」と咳払いをする。かなり尊大な態度になってきた。

「それにだな、ワシがウィザード魔法招造術の〔分身〕魔法を使えないと決めつけてくれるなよ。こんな熊のぬいぐるみ、200でも2000でも増殖できるんだが」


「え……?」

 泣き止む生徒たちである。まだ、ミンタとムンキンのしゃっくりは止まっていないが。


 構わずにハグ人形がサムカ熊の頭に刺さっている記念旗を足で踏んで、そのままズブリと頭に埋めこんだ。同時に、〔空中ディスプレー〕が1つ発生する。

 そこに映し出されているのは、エルフ先生とノーム先生、それにもう1人のノームの姿であった。狭い室内で何事か議論をしている。違法施設の奥には、さらに2名ほどのノームらしき人影も見えた。


 生徒たちとサムカ熊が呆然として、理解が追いつかない中、ハグ人形がサムカ熊の頭の上で仁王立ちをした。

「ホレ。1キロごとに『サムカ熊コピー』を埋め込んで、通信回線をつないだぞ。双方向の直通ラインの開設完了だ。光の精霊場も使えるようにしておいた」

 サムカ熊から、サムカの感心したような声が発せられた。

「本当に200体を〔分身〕で生み出したのか。まったく、リッチーは何でもありだな」


 先程まで大泣きしていたミンタ以下の生徒たちが、一転して歓喜の歓声を上げた。ペルが早速、簡易杖を〔空中ディスプレー〕に向け、さらに表情を明るくする。

「わ。本当に現地まで私の魔力が届く! これなら私のシャドウ、『綿毛ちゃん2号改』を送り込めるっ」

 レブンも顔をセマン状態に急速に戻しながら、ペルに同意する。

「うん。僕のシャドウ、『深海1号改』も送り込めるよ」


 ラヤンはまず法術を使ってみたが、これは当然ながら拒否されてしまった。アンデッドが構築したネットワークなので当然である。が、すぐにウィザード魔法幻導術の〔念話〕通信に切り替える。これはうまくつながったようだ。顔のウロコが興奮で膨らんで、尻尾が力強く石組の床を叩く。

「いけそうね。これなら、術式を法術からウィザード魔法へ自動〔変換〕しながら、〔式神〕を送り込めるわね。悔しいけど、やるじゃないの。このアンデッド」


 ミンタとムンキンも涙を拭きながら、光の精霊魔法を使ってみる。涙に濡れている両目が、確かな希望の光を放ち始めた。ムンキンの瞳の光も先程の鬼火のような発光ではなく、清浄な光になっていく。

「うん! これなら〔オプション玉〕を直接送り込める。いけるぞミンタさん」


 ムンキンの歓喜の言葉を聞いて、ミンタもやっと笑みを浮かべた。

「うん。これなら、援護できるわね。私も〔オプション玉〕を送り込むことにする。ん?」

 ミンタが小首をかしげた。

「……大出力の光魔法は使えそうもないわね。アンデッドが作った通信回路だから当然か。回線も赤外線光だけで、激遅ね。青色光の回線ですらないわよ」


 ムンキンもミンタに言われて気がついたようだ。すぐに不満そうな表情になる。

「オイ! ハグ人形。高速回線にできないのかよ。これじゃ、遅すぎて有効な攻撃魔法が使えないじゃないか」


 サムカ熊の頭の上で、そっくり返って高笑いをしていたハグ人形が、呆れたような声を出した。

「オマエな……文句を垂れるとは、図々しいにもほどがあるぞ。死者の世界では、基本的には赤外線光による通信が標準なんだよ。お前らのような青色光や紫外線光回線は、アンデッドに有害なんだ。使うわけがなかろう」

 サムカ熊もさすがに今は、ハグの肩を持つことにしたようだ。

「我慢してくれ。青色光通信は、まだ実用化されて間もないんだよ。不具合もまだまだ多いのだ。赤外線光であれば、確実に情報通信できる。この回線では、攻撃用の光の精霊魔法は使用に耐えないのかね?」


 ムンキンが仏頂面になりながら肯定する。尻尾で床を強く叩くのも忘れない。

「ああ、そうだよ。攻撃魔法も重要だけど、それ以上に光の〔防御障壁〕が必要だ。これじゃ、せいぜい石つぶて程度に対してしか防御できないよ。教員宿舎を砕いたような、巨大な牙状の攻撃には耐えられない。仕方がないな、ここは光の精霊魔法は通信用に限定して、〔防御障壁〕や攻撃魔法はウィザード魔法にするか」


「ちょっと待って」

 ミンタが右手をムンキンの肩に当てて制した。口調も態度も普段のミンタにかなり戻ってきている。まだドヤ顔ではないが。

「私が木星で試している魔法を使ってみる。素粒子のミュオンなら、200キロくらいの地下でも貫通するわ。サムカ熊さんのおかげで、現地が精密測量できるようになったし、これなら届く。この〔空中ディスプレー〕画面を見ながら、ここから私がミュオンを放って光の精霊魔法に〔変換〕してみる。土中でオーロラを発生させるような感じね」


 ムンキンが「おおっ」と膝を打って、ついでに尻尾でも床を叩く。

「『ポンプ光』か。なるほど。赤外線光の弱い魔法でも、現地でポンプ光を当てて、共振させて増幅させればいいってことか」

 ミンタがようやくドヤ顔で微笑んで、ムンキンにウインクした。

「そういうことね」


 サムカとハグのアンデッド組だけは、よく分かっていないようだが、他の生徒たちには理解できたようだ。一気に場の雰囲気が好転していき、さらに照明のない通路も薄く発光し始めた。


 サムカもその様子を見て、「なるほど、これが光の精霊場というものか……」と改めて実感している。サムカやハグほどの高位のアンデッドになると太陽光も克服しているので、この程度の光や生命の精霊場では特に不快に感じることもない。反対に、新月の夜でただでさえ暗い中、明かりもない雨どい屋根付きの通路が、ほのかに明るくなったのを快く思うくらいである。




【ノームの違法施設】

 その頃。土中深くのノーム違法研究所の中では、エルフ先生とノーム先生が研究所所長のノームと口論を続けていた。ハグの闇の魔法による通信回線の構築ができているのだが、闇の魔法の特性であるステルス性能のおかげで、まだ〔察知〕できていないようだ。


「先ほどの地震は、大深度地下の大地の精霊群が、私たちを発見したという合図でもあるのですよ。もう、一刻の猶予も残っていません。さっさと撤退しなさい! さもないと逮捕して〔結界ビン〕の中に強制収監しますよっ」

 エルフ先生が両耳を斜め上45度の角度に上げて、違法研究所の所長ノームを指さした。腰までの真っ直ぐに伸びた金髪からは、盛大に静電気が放たれている。

 手にはライフル杖がしっかり握られていて、既に錠剤型の魔力カプセルが上限一杯まで装填されていた。おかげで杖も青白く発光して、エルフ先生の髪のように静電気を放って≪バチバチ≫と音を立てている。本当に強化されているようだ。


 隣で大きな三角帽子をしたノーム先生も同様だ。ただ、さすがに静電気を放ってはいないが。

「ノーム警察からも、あなたたちの逮捕権を与えられています。これは違法施設なのですよ。その点を自覚してほしいものですな。タカパ帝国も傍観すると譲歩してくれています」

 逮捕状を空中ディスプレー画面で表示する。現地担当者であるラワット先生がサインすれば発効する状態だ。

「その代償として、今後ノーム政府が支援する無償事業が増えることは、間違いないでしょうな。我々の税金が、余計に使われることになる原因を作った側の1人なのですよ、あなたは」


 違法施設それ自体は、意外にも小さいものだった。地下200キロもの深さに設けているので、いくらノームとはいえども巨大な施設にすることはできなかったのだろう。直径10メートルほどの球形の潜水艇のような構造で、直径20メートルほどの球形の空洞の中に収まっている。 


 空中に浮遊しているのではなく、天井から何本ものワイヤーで吊り下げられている。

 そのワイヤー群に囲まれるように数名乗りのエレベーターシャフトがあり、それが地上へ向けて伸びていた。もちろん地上からこの違法施設へ出入りするためのものである。いちいち〔テレポート〕魔術を使っていては、大地の精霊に感づかれる。エレベーターを設けるのは合理的だ。


 先生たちもここへ〔テレポート〕してくるまで、その情報を知らなかったようだった。おかげで、違法施設所長との口論にも、余計な熱が加わっている。


 その所長はどこかの大学教授だそうだが、研究以外のことにはまるで関心が持てないタイプのようである。典型的な研究バカだ。

 服装も、ハグ人形ほどではないが風味はある。下着を含めて洗濯は月イチ、洗顔も月イチ、食事はカロリーと栄養摂取のための『エサ』であると認識している人たちである。魔法で適当に体の〔浄化〕を行っているので、洗濯や洗顔などは意味が乏しいということなのだろう。


 そういう人たちは、やはり結構香ばしい体臭持ちであることが多いのだが、彼もその同類であった。

 ノーム先生はさすがに『この手のタイプ』に慣れているのだが、エルフ先生は2メートルほど距離をとって離れたままで、近づこうともしない。当然、悪臭は2メートル程度離れていても余裕で届くので、あからさまに不快な表情になっている。


 その所長が、あご周りの無精ヒゲに埃のようについているフケを左手でかいて落としながら、弁明してきた。 

 当然ながらノームなので、口ヒゲ、あごヒゲ、垂れ眉はセットになっている。身長もノーム先生とほとんど同じの120センチほどだ。

 他に2名のノームの助手がいるが、彼らの服装も似たようなものである。彼らも、先生たちに全く関心を持てないようで、自身のデスクに座ったまま、一心に情報処理作業を進めている。

「警察はどいつもこいつも頭が悪い者ばかりじゃな。この研究所がどれだけ重要なものなのか、全く理解できておらんとは。実に、実に、実に嘆かわしいことか。これだからワシは、ゆとり教育や、週休二日制や、一芸入試や、スポーツ推薦や、文化祭や、運動会や、社会奉仕や、オンライン査読の博士号取得コースなどに反対じゃったんじゃ。バカばかり増えおって。ノームとして恥を知れ恥を」

 言いたい放題である。その所長がエルフ先生を見据えた。不燃ゴミを見るような目だ。

「エルフは元々バカだから、バカはバカと自覚してさっさと帰れ。説明するだけで100年かかるわい」


 エルフ先生が眉間に怒りのシワを寄せながら、それでも表面上は警察官の威厳を維持している。

「御託は『避難してから』いくらでもして下さいな。こうしている間にも、確実に危機的状況になってい……」

 話をまるで聞いていないノームの所長である。エルフ先生の警告を途中で遮って、同じノームのラワット先生に向けて声を張り上げた。

「そこのノーム警官。よいか、ここで研究しておるのはだな、地上では決して得られない希少土類や金属の回析と合成方法の確立じゃ。大深度地下になるほど、大地の精霊の性質は変化していくのじゃ。それに伴って、土類や金属のみならず、原子構造にまで劇的な変化が起きる。それを……」

 《どおおおん!》

 ひと際大きな地震が発生し、違法施設が大きく揺れた。ノーム先生がライフル杖の状態を再確認しながら、窓の外を一目見る。

「講義は別の時間にして下さい。もう、『奴ら』が来たようだ」


 窓から見える数メートル先の岩盤から、無数の牙状のトゲが生えてきていた。ノーム先生が険しい表情になる。

「研究所が展開していた〔防御障壁〕を突破されてしまいましたな。見覚えのある牙だね、しかし」

 以前に教員宿舎を襲って、噛み砕いて吸収した形状だ。それらが全て光の〔防御障壁〕に押し戻されて、岩盤にめり込んでいく。


 それと同時に物凄い轟音が鳴り響き始めた。先程の地震の比ではない振動も発生して、天井から吊るされている球形の研究所を大きく揺らし始める。

 轟音は、すぐに違法施設の遮音シールドが下ろされたので何とか収まったが、揺れはどうしようもない。遮音シールドは透明な材質でできているようで、外の様子はしっかりと目視できる仕様だ。


 しかし、この酷い揺れで研究所員たちはパニックに陥って、目視どころではなくなっていた。先程までの威厳はどこかへ消え失せてしまい、悲鳴を上げて頭を抱えてうずくまっている。


 机の上の観測機器類や演算装置なども、一斉に床へ落ちてしまった。たちまち火花を上げて、機能停止する。それでも、所長を含めた研究所員たちは、最重要な機材だけはしっかりと抱き抱えて守っている。


 そんな姿を見て、少しだけ両耳の角度が下がったエルフ先生であった。さすがに先生2人は動揺せずに、しっかりと仁王立ちしている。

 エルフ先生がライフル杖を垂直に立てて術式を発動させながら、ノーム先生に不敵な笑みを投げかけた。

「最初から全力全開でいきますよ。予想通り、光の精霊魔法は有効ですね。魔力供給は、エレベーターシャフト経由でできませんか?」


 ノーム先生もライフル杖を垂直に立てて、光の精霊魔法の〔防御障壁〕を発生させながら、所長に聞く。

 しかし、返事は見事なまでにそっけないものだった。床にうずくまって機材を抱きかかえているので、先程までのような威厳はなくなってしまっているが。

「そ、そんな魔力回線なぞ、作っているわけなかろう。研究上、余計な魔法場や精霊場はノイズにしかならん」


 ノーム先生がジト目ながらも銀色の口ヒゲの先を弾いて、微笑んで納得している。

「でしょうな。いかにもノームらしい答えですよ」

 そのままの笑顔で、エルフ先生に顔を向けた。揺れが次第に大きくなってきているが、まだしっかりと両足を踏ん張って立っている。しかし(そろそろ、姿勢制御の関連魔法を使用しなくてはならないかな……)と思い始めるノーム先生である。

 今や、ブランコに乗っているような状態になりつつある。当然、エレベーターシャフトに過大な負荷がかかって、嫌な音が天井からし始めた。

「光の精霊場を含めた、全ての魔法場の補給はできませんな。そういう構造の違法施設です。我々の手持ちだけの魔力が全てですよ」


 エルフ先生も予想していたようだ。しかし、対策は当然ながらできていない。姿勢制御に関する魔法はソーサラー魔術やウィザード魔法の力場術の分野なので、エルフ先生にとっては苦手なのだろう。少しよろめいた。

「では、そうですね……おっとっと。この〔防御障壁〕を維持できる時間は、残り3分もありません。その間に、研究員の皆さんは避難して下さい」


≪バキバキ≫と金属が砕けて折れる音が、天井から大きく響き始めたので見上げる。エレベーターシャフトは違法施設内からでは見えない構造なのだが、そう長くはもたないような派手な音だ。 


 所長が機器を抱えて床にうずくまったままで、子供のように駄々をこね始めた。

「嫌じゃ、嫌じゃあ! まだ観測情報の分析が終わっておらんのだっ。ここで逃げ出しては、2年間の観測が無駄になるんじゃあ!」

 他の2人の助手も似たような這い回りダンスを始めている。



「うるさいな」

 エルフ先生が、ついにキレた。

 ライフル杖を垂直に立てたままで、右手人差し指を向けて、警告なしで光の精霊魔法を指先から撃つ。


 たまらず、もんどりうって床に転がって、動かなくなる3人のノーム。ピクリとも動かない。そのままジト目になりながら、ノーム先生に命令した。

「ラワット先生。この3人の要救助者を至急、地上へ送りつけて下さい」

 ノーム先生が銀色の垂れ眉を上下させて敬礼した。エルフ警察方式の敬礼だ。

「は! 上官の命令のままに!」


 そう言いながら、ノーム先生がエルフ先生と同じように、右手を振り上げてソーサラー魔術の〔飛行〕魔術を起動させる。


 その瞬間。ひと際大きな断裂音が鳴り響いて、違法施設全体が大きく揺れた。


 ノーム先生がジト目になって、天井を見上げる。

「……エレベーターシャフトが折れてしまったようですな。残念だが、地上へ送りつけるのは、もう無理だな」

「やれやれ仕方がない……」と独り言をつぶやきながら、ノーム先生が懐の内ポケットから親指サイズの大きさの〔結界ビン〕を取り出した。

「この中に〔封入〕しておきますよ。我々が助かれば、彼らも助かるでしょう」


 エルフ先生も軽くため息をついて了承した。

「……そうですね。考えてみれば、長さ200キロもあるエレベーターです。途中で大地の精霊に襲われて食べられてしまいますよね。〔テレポート〕させようにも、土中では魔力が足りません」


 ノーム先生が早速、〔結界ビン〕に3人の気絶ノームを〔封入〕するのを見守りながら、再び軽くため息をついた。

「ふう……ラヤンさんの〔占い〕が当たりそうですね。そろそろ魔力切れです。今となっては、もう地中に潜って地上まで泳いで避難することもできません。まったくもう……長話なんかするから」



「それは心配無用だ。ヒーロー見参!」

 聞き慣れ過ぎたハグ人形の声がして、同時にサムカ熊が違法施設内に出現した。身長180センチの胴体には、大きなディスプレー画面が埋め込まれていて、ミンタたちの姿が映し出されている。

「カンラカンラ」と高笑いをしながら、ハグ人形がサムカ熊の頭の上に出現した。

「学校と通信回線を結んだぞい。これで地上から魔力供給が受けられるはずだ」


 まだ少し、状況が理解できていないエルフ先生とノーム先生である。

「え? ここって地下200キロですよ。いったいどうやって……え?」

「お、驚いたな……ノームの私ですら、できないのに」


 ハグ人形が両手で顔のあちこちを引っ張って、『ドヤ顔らしき』表情をつくる。その土台になっているサムカ熊は、困惑しているが。

「ワシはリッチー様だぞ。こんなことぐらい……あっ、コラ」

 熊の腹に埋め込まれているディスプレー画面に映っているミンタが、地上で何かしたようだ。ハグ人形の動きが一時停止した。代わりにミンタの声が画面を通して聞こえる。

「黙ってろ、このアンデッド。あ。やっと調整が終わった。カカクトゥア先生! 遅れてしまってすいません。地上からその違法施設へ、魔力を送ることができるようになりました。今から、シャドウと〔オプション玉〕、〔式神〕を送って援護します!」


 その1秒後に、2つの光球と1つの紙製の〔式神〕、それにペルの子狐型シャドウと、レブンのアンコウ型シャドウが狭い違法施設内に出現した。

「今、先生方の魔法場と〔同期〕して、双方向の魔力回線を起動しました。術式と魔法場のやり取りができますよっ」

 再びミンタの明るい声がして、違法施設内に光の精霊場が充満し始めた。


 シャドウは早速〔防御障壁〕を自身の周囲に展開して、ステルス状態になって見えなくなった。精霊場の性質上『対立』する関係なので、風や氷などの精霊魔法を間に挟んで緩衝材にしている。

 そうしなければ、最悪の場合、爆発を起こしてしまうからだ。アンデッドに紫外線レーザーを照射した際の爆発のような事が起きてしまう。


 〔式神〕には特に変化は出ていない。法力場は精霊場と〔干渉〕しやすいので、ラヤンからの法力供給だけに依存する術式構成になっているのだろう。しかしシャドウと違い、間に別の魔法を挟むような工夫は不要である。


 ともあれ、光の精霊場に法力場、闇の精霊場に死霊術場の濃度が一気に跳ね上がり、それぞれが〔防御障壁〕を展開していく。大深度地下の大地の精霊群が更に押し戻されて、岩盤に埋め込まれていった。それにつれて、轟音と振動も弱くなっていく。


 外の空間にはミンタによるオーロラらしき現象も発生し、さらに光の精霊場の強度が跳ねあがった。ほとんど太陽光並みの精霊場強度に達している。


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