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召喚ナイフの罰ゲーム  作者: あかあかや & Shivaji
魔法学校へようこそ
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4話

【魔法場】

「あの……テシュブ先生。すいません」

 狐族のペルが右手を上げて質問してきた。頭頂部にある黒い縞模様が外から差し込む秋の日差しを吸い込んで、彼女の存在感を薄く見せている。

 先日のようなオドオドした雰囲気は、今日はかなり減っているようだ。薄墨色の瞳も墨成分が強まり、落ち着きが見られていた。


「なんだね」

 サムカが一通りのシステムと術式を把握し終えて、ペルにその藍白色の白い顔を向けた。本当に全く血の気がない。生徒達もそれに気がつき、ざわざわと動揺しはじめている。バントゥ狐も警戒の視線をサムカに向けてきていた。

 その空気をいち早く察したのだろう。ペルが両耳をパタパタせわしなく動かしながら、努めて明るい声でサムカに質問してきた。

「あの。テシュブ先生の世界の魔法場とこの世界とは、どのくらい違いがあるのですか?」


 サムカが軽く腕組みをし、少しだけ首を傾けた。

「魔法場の強弱は、単純に比較できる物ではないが……そうだな。私の実感としては、この世界の100倍以上といったところだろう。もう少し具体的にいうと、生ある君たちが何の対策もせずに訪れると、数時間で精神異常をきたす程度だ。そのままで居ると、死んでしまうだろうな」


 生徒達の間にどよめきが走った。(うわ、しまった……)という表情になるペルだ。それっきりパニックになったのか黙ってしまった。

 隣のレブンの顔にも緊張が走って、口元が魚のソレになる。代わりに今度は彼が質問した。

「テシュブ先生。記録上にある、これまでのアンデッドの先生ですが……その差による影響を受けてしまったので、お辞めになることになったのでしょうか?」

 彼の明るい深緑色の瞳も動揺しているのか、微妙に揺れ動いている。人化した姿はセマンそのもので細身ながら筋肉質であるのだが、それも緊張で型崩れを起こしているようだ。


 サムカが腕組みをしたままで、平然と答えた。

「それも単純には比較できないが……そうだな、大きな影響は受けただろう。空気が薄いとでも例えれば、分かりやすいかね?」

「ああ、なるほど」

 と、レブン。バントゥ狐の一党を除いた、他の生徒達も納得したようだ。


 それを機にして、サムカがすらすらと死霊術に関しての基礎知識を話し始めた。教育指導要綱にきちんと目を通していたらしい。

「死霊術や闇の精霊魔法も、どちらも他の系統の魔法や精霊魔法に対抗するものだ」


 それぞれの魔法には、互いに相性がある。親和性を持つ組み合わせもある。しかし死霊術と闇の精霊魔法は、他の全ての魔法と相性が悪い。

 法術や精霊魔法、それにウィザード魔法にソーサラー魔術は、多かれ少なかれ生命や、秩序立った魔法場を対象としている。

 ところが死霊術は、生命を喪失した抜け殻を扱う。そして、その抜け殻を起動させるエンジンとして、残留思念を使う。エンジンを動かす燃料は死霊術場とでも呼べるものだ。全てが非自然的な組み合わせである。


 この辺りの知識は生徒も予習しているようなので、そのまま話を進める事にするサムカだ。

「諸君らの中で、アンデッドやそれに類似する物を見かけたことがあるならば、それは、この3つが全て揃った空間に入り込んだせいだ。では、どうするか? 答えは簡単だ。その場から離れれば良い」


 燃料を供給する死霊術場を離れたアンデッドは、何の対策も施されていないと燃料切れで停止する。停止してしまえば、何も恐れることはない。

 肉体を破壊すれば、死霊術場が再びそのアンデッドを包んでも動くことはできない。


「破壊するのが嫌ならば、手足を縛るだけでもいい。通常の低級アンデッドは、単純な命令しか実行できないのだよ。戒めを解くような複雑な作業を終えるには、数か月ほどかかる。非常に手こずるはずだ」

 サムカの話を聞いて、生徒の間から低いどよめきが広がっていく。

「諸君らの中にも知っている者がいると思うが……アンデッドは基本的に墓や依代に縛りつけられてるので、行動可能な範囲は狭いものだ。ゴーストなどの実体を持たないアンデッドも同様だ。野原を自在に駆け回るようなアンデッドは通常では生まれないので、とりあえず逃げて離れることも良い対処方法になる」

 そう言って、サムカがレブン魚の顔をその山吹色の瞳で見た。

「おお」と、大きくどよめく生徒たち。バントゥ党もようやく、敵意を和らげて授業を聴く態勢に戻ってきたようだ。


 この最初の講義の時間だけは、教室を巡り歩いても構わない。いつの間にか人数が定員を超えて膨れ上がっていた。教室への生徒達による出入りも起きているので人数も絶えず上下しているのだが、平均すると40人というところだろうか。


「もちろん」

 サムカが不敵に微笑んだ。

「このような欠点を修正した死霊術は、たくさんある。慢心はしない事だな」

 と、次の話題に移った。


「さて、闇の精霊魔法だが……この指導要綱にある内容では、体系立てて記述されていない。どちらかというと、ソーサラー魔術に近い内容だな。無理もないことだ」

 エルフやノームといった精霊魔法の専門家も、死霊術や闇の精霊魔法は苦手とする。となると、ソーサラー魔術使いの経験に頼る部分が多くなる。そのせいで理論ではなく、少数の者の経験則や我流の方法が幅を利かせてしまいがちになるものだ。


 サムカが山吹色の瞳を細めて微笑んだ。

「しかし私の授業では、体系立てた魔法を教えることにしよう。その方が理解しやすいし、応用も利く。その分、濃い目の魔法場を使うことになるから、各自で対策は立てておかねばならんがね」


 そしてペル狐の顔を見た。ペルがすかさず質問する。緊張の度合いは、今はかなり低くなっているようだ。

「テシュブ先生。系統ということは、精霊魔法の互いの相性のようなものでしょうか?」

 サムカがうなずいた。

「そうだな。一般的な精霊魔法の相関が適用される」


 精霊魔法では、大地は水に影響を及ぼし、水は火に、火は風に、そして風は大地に影響を与える。

 これら4つを1つの水平な平面とすると、これに垂直な平面がある。光、闇、そして精神と生命の4つで構成される面だ。

 ここでは光は生命に影響を与え、生命は闇に影響を与え、闇は精神に影響を与え、そして精神は光に影響を与える関係となる。


 この互いに垂直に交差する2つの平面によって、それぞれの精霊は平面状態から立体状態に状態が変わる。つまり、情報量が飛躍的に増大する事になる。これらの立体的な相互作用を用いることで、精霊魔法がより高度で強力なものになるのだ。


 この辺りの知識は精霊魔法の専門クラス生徒では常識だが、他の専門クラス生徒では、そうでもなかったようだ。バントゥたちも真面目な表情でサムカの話を聞いている。


 サムカが生徒の反応を伺いながら、口調を少しだけ柔らかくした。

「ただ、私のようなアンデッドは、光や生命の精霊との相性が悪い。そのため色々な工夫を凝らす必要があるがね。君たちのような生者であれば、満遍なくこれらの精霊群と交流することができるだろう」


「おお」と反応が強く返ってきたのは、やはり精霊魔法の専門クラスの生徒たちからであった。特に、1人の狐族の男子生徒が黒茶色の瞳をキラキラさせている。早速、手を挙げてきた。

「歓迎します、テシュブ先生。私たち精霊魔法の専門クラス生徒には朗報ですねっ」


 ペルとレブンも同じような表情をしているので、思わず口元が緩むサムカであった。

「私の講義では、この闇の精霊魔法と死霊術について教えることにしよう。他の精霊魔法については、エルフやノームなどが詳しいだろうからな」


 先程の男子生徒が、紺色の制服のベストを白い魔法の手袋でポコンと叩いて胸を張った。よく手入れがされた狐の尻尾も、優雅に床を掃いている。

「ノームのラワット先生は、尊敬できる素晴らしい先生ですよっ。私は級長をしているビジ・ニクマティです。合同授業も歓迎しますよっ」

 サムカが鷹揚にうなずいた。

「うむ。考えておこう」


 バントゥらは再び険悪な雰囲気を放ち始めているが、全く無視するサムカだ。

 契約上では、ペルとレブン2人の教師ということなので割り切っているのだろう。先生としては、あまり良くない態度なのだが。

「さて。闇の精霊魔法だが……指導要綱では暗黒物質と、そのエネルギーを使う精霊魔法となっているな。まあ、確かに間違いではない。が、正解でもない。少々特殊なのだよ」


 詳しい話は、後日の講義でするとサムカが断ってから話し始めた。

 暗黒物質とは、どのような物質や力とも反応しない物質だ。しかし例外として、重力と闇の精霊場には反応する性質がある。

 反応させる事で、暗黒物質から魔力を引き出す事ができる。この場合は闇の精霊場という魔力で、活性化とは真逆の作用をもたらす。あらゆる物質やエネルギー、魔法場を暗黒物質化させる作用だ。

 暗黒物質化すると、あらゆるものに反応しなくなる。見かけ上は無になるとも言える。結果として、物が消滅したり、魔法が無効化されたりする現象が起きる。


 精霊場に〔干渉〕すると、精神は静まり、生命は眠り、大地は滞り、水は凍り、火は鎮まり、そして風は遅くなる。

 他の魔法や法術に対しては、その術式が機能しなくなる。魔法や法術の効果が弱くなったり、消失したりするのだ。


「実際には、術者が作成した術式と、魔法場や精霊場、法力場等の魔力源との連絡路を、闇で〔阻害〕したり〔遮断〕する事になる。これは、自身の魔力を使うソーサラー魔術や妖術でも作用する。魔法具でも同様だ。術式を用いる点では同じだからな」

 さすがに、この辺りの話になると生徒には初耳のようだ。40人ほどにまで増えた聴衆が、静まり返ってサムカの話を聞いている。レブンはメモをガシガシ取り始めていた。


 そのレブンを見ながら、サムカが話を続ける。

「しかし、死霊術だけは例外でね。闇を〔干渉〕させると、アンデッドはその活動を活性化させるものだ」

 生徒達が一斉に首をかしげたり、腕組みをし始めた。

 サムカが「コホン」と軽く咳払いをして、説明を続ける。

「アンデッドは動く死体だな。死体が動くという事象は、本来起きてはいけない事だ。世界の理とも言うべき物理化学法則が、死体が動かない方向で機能しているためだな。しかし、その理を闇で〔阻害〕すると、死体が動くようになる」


 ここでバントゥが怪訝な表情のままで手を挙げて発言した。

「テシュブ先生。でもその理屈は、僕たちが日々学んでいる魔法や法術にも共通しますよね。魔法という現象は、因果律と呼ばれる一般の物理化学法則を、一部壊す事で具現化する行為を指します」

 バントゥ狐の取り巻き生徒が色めき立って、バントゥを称え始めた。その様子をジト目で見るペルとレブンだ。


 サムカは全く気にしていない様子で、素直にうなずいた。

「うむ、その通りだな。魔法とは『ありえない事象を起こす行為』と定義しても問題ない。そういう意味では、この闇の精霊魔法や死霊術も魔法の1つなのだよ。闇の精霊魔法については、以上で終わろう。次は死霊術について、若干の補足説明をしておくとするか」


 生徒からは特に質問はなさそうなので、サムカが再び軽く咳払いをした。

「では、次に死霊術について、簡単に追加の補足説明をする。意外かもしれないが、死霊術はウィザード魔法の一種だ。つまり、魔神との契約によって魔力を得る。死霊術場という魔法場だな。これは、我が死者の世界の創造主が作り出したものだ」


 魔法を行使するには、魔法場という魔力が必要になる。精霊魔法では精霊場、法術では法力場、ソーサラー魔術やウィザード魔法でも魔法場を使う。

 それぞれ固有の魔法場だが、ある程度は互いに変換できる特徴がある。


 精霊魔法では、契約した妖精や精霊から提供される精霊場が魔力源になる。法力では、信者の信仰力だ。ソーサラー魔術では、自身が高めた魔力を使う。ウィザード魔法では、契約した魔神等からの魔力を使う。

 死霊術はウィザード魔法の1つなので、魔神からの魔力提供を受ける事になる。その魔神が、サムカの世界の創造主であるようだ。


 しかし、魔法が基本的に現行の因果律を乱す行為である以上、強固で安定したものではない。従って、魔法の炎はすぐに消え、土製のゴーレムはメンテナンスを怠ると土に戻ってしまう。

 そのように儚くて影響を受ける空間も限定されている魔法だが、同じ場所で使い続けると、魔法場のカスが蓄積して次第に魔法場が強くなる傾向がある。最終的にはその魔法場だけが強く働いて、一般の物理法則が働かない空間を形成してしまう。


「『魔法場汚染』とよく呼ばれる、一種の〔結界〕だな。この〔結界〕の中では、一般の物理化学法則が機能していないので、君たちは存在できずに消えてしまうことになる」

 この事は生徒の間でよく知られているようだ。特に反論は出てこない。サムカが話を続ける。

「もしくは、その魔力を提供している魔神の住む世界につながってしまう。この場合も魔神の発する強烈な魔法場の影響で、君たちはその生命を終えることになるだろう」


 ウィザード魔法を専攻している生徒が、大真面目にうなずいている。一方のソーサラー魔術専攻の生徒はピンとこない様子だ。そんな反応の違いを興味深く見ながら、サムカが告げた。

「だから魔法を使用した後は、残留している魔法場のカスを〔排除〕したり、〔希釈〕したりする処置を怠らないことだ」


 実際、魔法使いが住む魔法世界では、住民が日常的に魔法を使いすぎている。そのために、魔法世界そのものが様々な魔法場に汚染されているのだ。結局5000年ごとに逃げ出して、別の異世界へ引越しをする羽目に陥っている。


 サムカが口調を、また少し和らげた。

「君たちの住むこの世界では、そこまでの魔法場汚染は起きることはないだろう。別の世界へ引っ越す心配はない。安心しなさい」

 ちなみに、サムカの住む死者の世界では貴族の人口が少なすぎるので、引っ越し騒動には至っていない。局所的な因果律崩壊は起きるので、それに巻き込まれる者はいるようだが。


「さて……魔神の話が出たが、彼らの使う古代語魔法については私もよく知らない。質問があれば古代語魔法の先生のクモ氏に聞いてみたほうが良いだろう」

 しかし多くの生徒はクモ氏の授業を選択していない様子であった。魔法使いも含めて、ほとんどの人は古代語魔法を使う事ができないので仕方がない。クモ氏に同情しながらサムカが話を続ける。

「ちなみに古代語と呼んでいるが、便宜上そう呼んでいるだけだ。我々が知っている古代語魔法は、はるか300万年前の民族分化で多く使用されたからだね。実際は、現在も進化発展し続けている……らしい」

 サムカも詳しく知らないので、さすがに口調にキレが無くなった。

「なお、古代語魔法への〔干渉〕については、通常は起きないと考えてよい。古代語魔法はウィザード魔法よりも高度な術式を使うし、魔法場の概念が適用されないのだよ。より複雑な次元を使用しているからだね。紙に描いた絵が、我々と握手できない状況に似ている。古代語魔法では、世界間転移ゲートで使われている魔法が代表的だな」


 そしてサムカがツカツカと教室の真ん中へ行き、生徒たちの中に進み出た。山吹色の瞳で、教室を満席にしている生徒達の目を見つめる。バントゥたちにも視線を向けたが、彼らは視線を逸らしてしまった。

「ここまで説明しながら、君たちの反応を〔読心〕していたが……どうやら初めて聞く事ばかりだったようだな。これまでの先生は、こういった説明はしなかったらしい」


 軽く腕組みをする。磁器のような藍白色の白い顔の眉間に軽いシワが現れた。

「……ではこれまでに、死霊術や、闇の精霊魔法を経験したことがある者はいるかね?」

 サムカが腕組みをしたままで生徒達を見回した。短く切りそろえた錆色の前髪がゆらりと揺れる。

「うむ。ペルとレブンが、自身で思わず発動させた経験があるだけ……か。他の皆は、マスコミや雑誌などのメディア経由だな。つまり、君たちは見た事が『まだない』という訳か」


 そう言って、腕組みをしたままのサムカが教壇に戻っていきながら口を開いた。

「よろしい。では、参考例を見せてあげよう」




【サムカの居城】

 その頃。サムカの居城では、主人が〔召喚〕されて消えたという報告を受けた執事のエッケコが、シチイガを再び城門から見送ったところだった。


 と、城門の空間がいきなり暗くなった。同時にどこからか冷気が入り込んでくる。

「すまぬな、執事よ。異世界間では、なかなか時間の同期が難しいものでな。迷惑をかける……」

 ハグが執事の前に出現した。相変わらずのファッションである。


 執事は微笑んだままで、ハグの謝罪を不問にするようだ。

「いえいえ。ハグ様。このような事態は予想しておりましたので、お気遣いはご無用でございますよ」

 それを聞いたハグが、さらにバツの悪そうな表情になった。淡黄色の瞳も少し濁る。

「サムカ卿との契約前に、他の貴族でも召喚ナイフ契約を、これまでいくつか行っておったのだが……やはり時間の同期が難しくてな。皆、怒って契約終了になってしまったのだ。ワシもできる限り術式の修正と改良を続けてはおるのだが、なかなか難しい」


 執事の柔和な笑顔は全く変わっていない。ハグの弁明にも穏やかに対応し続けている。

 しかし、さすがに城門とその周辺施設がハグの出現によって浸食されて軋み始めたので、ハグを案内して城の外の森の中に入る事にしたようだ。

「ハグ様が努力なされていることは、そのお話から充分に伝わりますし、旦那様も特に何もご不満を漏らされておられません。ですので、本当にご心配は無用でございますよ」


 そう言われて、ようやくハグも少し安堵してきたようだ。淡黄色の瞳と表情に余裕が出てきた。森の木漏れ日に当たりながら目を細める。

「そうか。できうるならば、今後も契約を続けてもらいたいものだよ。本格的な貴族の契約者は、実は初めてでね。これまではカルト派とか厳格派貴族の少数派ばかりだったのだよ。そのせいか、この召喚ナイフを商品化しても、あまり売れないと製造元のウィザード連中から文句が来ていてね……困っていたのだ」

 同じ木漏れ日の中で、執事がここでようやく苦笑した。確かに利益を追求するのであれば、それでは問題がある。

 宗教で例えると、人口のほとんどが信仰している宗派の信者向けなのに、異端のカルト教団の信者で商品テストをしているようなものだ。売れるわけがない。

「分かりました、ハグ様。わたくしも微力ではございますが、旦那様の補佐を全力で行う所存でございます」


「そうかね、そうかね。心強いな、ワシからも頼むよ」

 ハグが予想外に喜んで、うなずいている。


 その時、執事の柔和な顔が険しくなった。ハグを身を挺して守るように、森の中で素早く位置を変える。

 その杏子色の鋭い視線の向こうには、数名の野良着姿のオークの姿があった。ハグも気がついたようだ。


 少し首をかしげたハグに向けて、そのオークが地面に膝をついて背を丸め、深く礼をする。

「ハーグウェーディユ理事殿ですな。我々はヴィラコチャ王国とケルコアトル王国の合同旅団の者でございまする。召喚ナイフの契約を、ぜひ我ら両オーク王国とも締結して下さるよう、お願いに参りました」


 執事の表情が決定的に険しくなった。ハグとオークたちの間に入って、仁王立ちになる。

「何かと思えば、南部の反逆オーク国のならず者どもか。貴様らが足を踏み入れて良い土地ではない。既に騎士殿に緊急事態発生の報を流した。すぐに貴様らは成敗されることだろう、覚悟しろ」

 が、そんな彼の警告には全く動じていないようだ。微動だにせず、頭を伏せたままでハグに話を続ける。

「アンデッドにおもねる愚劣な者など、我らの同胞でも何でもないわ。ハーグウェーディユ理事殿、ぜひ契約をお願いしたい」


 ようやくハグが、執事の後ろから顔を見せた。

「ふむ……残念だが、魔力が弱すぎる。オークでは〔召喚〕されたとしても、何もできぬであろう。需要がない者に契約を勧めるつもりはない」

 執事もその点には同意する。確かにそうだ。魔法が使えない者を〔召喚〕しても意味がない。筋力が強い者であれば、普通に市販のゴーレムを使えば事足りる。


 ハグが不快な目になった。〔読心〕したようだ。

「『移住』か……別の異世界へ召喚ナイフ契約で同胞と共に移動し、移動後に契約を破棄して、その異世界に居つくつもりかね。愚かな……」

「その通りでございます。どうか、どうか召喚ナイフ契約を!」

 オークたちが必死な形相で顔を上げた瞬間、全員が〔消去〕された。

 得体の知れない衝撃波がハグの体から発せられて、周囲に広がっていく。空間が蜃気楼のように揺らいだが、それっきり何事もなく収まった。


 変化と言えば、森の枝に留まっていた1羽のツバメが驚いた様子で鳴きながら、森の奥へ飛んで逃げていっただけだ。ツバメに続いて、数羽のスズメやツグミも一緒に森の奥へ飛び去っていった。

 一方の、鹿や猿といった獣はキョトンとしてハグ達を遠目から見ているだけだ。


 ハグが深いため息をついた。死体なのでポーズであるのだが、執事や、たった今到着したばかりの騎士シチイガにも自身の考えを示すためだろう。

「やれやれ……不法移民の手段にされては、ワシの面目丸つぶれだよ。騎士よ、わざわざ来てもらったのに済まなかったな。こいつらオークの不届き者は、ワシが責任を以って〔ロスト〕した。もう、いかなる手段でも〔蘇生〕や〔復活〕はない。存在した記憶も歴史も、すぐに永久に消えるだろう」


 実際、すぐにその効果は現れた。執事と騎士が、なぜ今ここに居るのか不思議がっている。それを特に何もコメントせずにハグが執事に顔を向けた。

「では、ワシはこれで。領主殿によろしくな」

 そのまま姿が消えた。

「は、はい。ハグ様」

 執事も少々混乱していたが、すぐに冷静になってハグを見送った。騎士シチイガも頭をひねっていたが、巡回業務に戻る事にしたようだ。




【西校舎の教室】

 満席になった教室では、いよいよ闇魔法と死霊術の実演が見られると期待して、生徒たちがサムカの血の気のない顔を注目していた。

 それを見てサムカは、これらの魔法が本当に珍しいものであること、そして、恐らくは法術使いを筆頭にして、魔法使いや他の精霊魔法使いたちによって、愉快な方向へ歪曲されて伝えられているのだろう、という事を実感した。


 しかし、先ほどサムカが説明した通り、たとえ使うことができなくても、闇の精霊魔法は他の精霊魔法を理解するうえで重要な要素であり、死霊術は立派なウィザード魔法の一分野である。また、サムカやハグが使うような闇魔法の構成要素でもある。


 サムカは領主であるので、これまで数多くの戦闘を経験してきており、魔法罠の仕掛けや解除もしてきている。その経験の中で、ぼんやりと疑問に感じていたことが理解できたような気がした。

「ふむ……魔法と一口にいえども真に理解して使いこなす者は、やはり少ないようだな」

 そう、独り言をつぶやくサムカである。


 実際にサムカの城への侵入者には、闇の精霊魔法や死霊術を使う魔法使いが多くいた。だが、死者の世界の貴族の城内なので充分な魔法場があるにも関わらず、彼らの魔法が不発に終わったことが度々あった。魔法使いといえども、こうした魔法には詳しくない者が多いのかもしれない。

 もちろんサムカも光や生命の精霊魔法には詳しくないし、法術に至っては理解の外なので、自身の魔法への理解というものも大したものではない……ということは重々承知している。


「すいません、テシュブ先生。1つだけ質問して構いませんか?」

 魚族のレブンが手を挙げた。今は完全にセマン族を模した姿である。好奇心の輝きが彼の明るい深緑色の瞳の中に見えるのを、微笑ましく感じながらサムカがうなずく。

「なんだね?」

「先ほど、ドラゴンや巨人、魔神という単語が出てきましたが、彼らについて何かご存じなのでしょうか? 他の先生方は知らないそうで、古代語魔法の先生もあまり話して下さらないのです」


 レブンの質問に、サムカが2、3秒間ほど軽く両目を閉じて、腕組みをした。

「残念だが……私もほとんど知らない。連中は、いわゆるイモータルとかイプシロンと呼ばれている。ドラゴンや巨人はイモータルが多いそうだ。『完全なる不死』という存在だな」


 イモータルやイプシロンと呼称される者は、俗にいう第6世界の住人である。彼らは元々300万年前の魔法戦争で開発された魔法兵器で、独自進化を続けて今の姿に至っている……と言われている。実際に第6世界へ行って、そこから無事に戻って来た者がほとんどいないので、あくまでも憶測に過ぎないのだが。

 それでも分かっている事は、魔力が非常に強いので絶対に死ぬことはない、という点だろう。完全なる不死とサムカが例えた通りの存在である。


「ゆえに我々がいる世界に来る事も、ないと言ってよい。出現するだけで、その膨大な魔力によって世界〔改変〕を起こし、因果律崩壊を引き起こしてしまうのだよ。自分で落とし穴を作って、それに落ちるようなものだ」

 完全なる不死という存在自体が、普通の世界の物理化学法則に反するためである。世界との接点を失い、自動的に排除されてしまう。


 サムカが気楽な口調になった。

「まあ……私も、そんなに目にしたことはないから、詳しい生態については知らない。イモータルについては、幼体の段階では普通の魔法生物だしな。数百年かけて成長する間にイモータル化を遂げるのだよ。それほど多くの、魔力の蓄積を必要とするということだろうな」


 サムカが何か知っているような口調になったので、教室を埋めている40人余りの生徒たちが、好奇心の光を満たした視線を集中させてきた。

 特に死霊術の魔法適性を持つ教え子のレブンは興奮気味だ。明るい深緑色の瞳がキラキラと輝いている。隣の席のペルもまた、薄墨色の瞳を輝かせている。


 一方で、バントゥとその党員は微妙な表情になってきていた。ウィザード魔法を専門としているので、魔力の源である魔神の悪口に聞こえたのかも知れない。基本的にウィザード魔法は、魔神との魔法契約を結んだ者が行使できる仕組みだ。

 他方、ノーム先生の精霊魔法の専門クラスの級長と自己紹介をした狐族の3年生は、あまり関心はなさそうな表情をしていた。彼の場合は、妖精や精霊と契約をして精霊魔法を行使するので、魔神とはそれほど縁がない。


 そんな様々な反応を示している生徒をサムカが興味深く眺める。再びレブンに山吹色の瞳を向けて、話を続けた。

「そのイモータル化を果たした奴だが……一度、死者の世界に時空の亀裂を辿って襲撃してきたことがあった。戦闘しても傷を負わせることは難しかったよ。戦闘している間に、勝手に因果律崩壊を起こしてどこかへ飛ばされて消えてしまったから、それほど危険な相手ではなかったかな」


 サムカが経験談を話し出したので、教室の中が一転してざわめいた。サムカも少し驚いたが、構わずに話を続ける事にする。

「ただ、攻撃魔法は全く効果がなかったし、魔法剣や弓槍による直接攻撃もそれほど効果がなかった。せいぜい表皮を削ることができる程度で、希少金属や合金製であっても、ことごとくガラスのように粉砕されてしまった。強度や弾性が圧倒的に不足しているのだろう。法術や他の精霊魔法については苦手なので、使って効果を確かめたことはない。リッチーの話では、大した効果は期待できないそうだ」


 レブンがメモ帳にガシガシとメモを取り始めた。隣の席のペルも、手元に小さな空中ディスプレー画面を呼び出して、サムカの話を記録している。見ると、他の全ての生徒達も、今やペルと同じように熱心に記録していた。

(なるほど、学校なのだなあ……)と改めて思うサムカだ。


 いつもはオーク住民が相手なのだが、彼らはメモや記録を録らない。領主の眼前なので、不敬に当たると思っているせいだ。そのためか記憶間違いが度々起きて、サムカが再指導を行う事につながっているのだが。


 そんな事を思いながら、生徒達の記録の手が止まったのを確認する。次の話題に移っても良さそうだ。

「さて。イプシロンに至っては、世界を自在に創造破壊できるほどの魔力の持ち主だな。君たちや先生が住む多様な世界を作った張本人だ。彼らも、その強大すぎる魔力のせいで我々の目に触れることはない……はずだ。いくつか目撃情報は文献に残っているがね。私も会ったことはない」

 サムカが改めて自身の記憶をたどってみるが、やはり会った経験はなかったようだ。

「恐らくは対峙した段階で、魔力差が大きすぎて私の存在が消滅してしまうだろうな。文字通り吹き飛ばされて消し飛ぶか、吸収されてしまうかだろう」


 バントゥとその党員の表情が、決定的に険しくなった。ウィザード魔法の魔力源である魔神はイプシロンだからだ。他の生徒でも十数名が微妙な表情に変わってきているので、この話はここまでにする事にした。イモータルの話題に戻る。

「イモータルはイプシロンほど魔力は強くないのだが、それでもイプシロンの魔力をもってしてもイモータルを殺すことはできないらしい。イモータルは絶対の不死という自身だけの世界法則を確立しているからね。だから、よく伝説や神話で聞くところの『封印』という手段しか効果はない」


 生徒たちの間からは、思ったよりもどよめきが上がらなかった。この情報はある程度知っていたようだ。サムカがその点を確認しながら、頬を少しだけ緩めて錆色の短髪をかく。

「かくいう私も、この話はリッチーからの伝聞だ。リッチーはイモータルやイプシロン以外では、世界最強の魔力を持つ連中で、第6世界へも探検に出向くことがあるのだよ」

 リッチーの話題になったので、ついでに説明を加える。

「リッチー自体も魔力が強い。長時間同じ場所にいると、それだけで周辺環境を魔法場汚染で破壊してしまう。召喚ナイフの術式制作者でもあるな。ナイフ自体はよくあるウィザード世界製のものだが。世界間移動魔法を操ることができるほどなので当然だが、貴族よりもはるかに強力な魔力の持ち主だよ」


 そして再びレブンの顔に視線を移した。

「私が知っていることは、だいたいこの程度だ。すまないね。しかも、この情報が正しいかどうかも怪しいのだよ。確認する手段がないからね。鵜呑みにしてしまうことは避けた方が賢明だろう」

 レブンは好奇心の輝きを瞳にきらめかせて、サムカの話を聞いていた。隣のペルが、やや引いているくらいである。

「いえ、とんでもありません、テシュブ先生。貴重な話でした。ありがとうございます」


 サムカが再びうなずく。そして、改めて山吹色の視線を教室にいる生徒達全員に向けた。

「ちなみにイプシロンやイモータルは、とある魔法禁止世界の言語からの拝借だ。リッチーもそうだな。魔力が高い者には、その名称にも魔力が込められている事が多いのだよ。うっかり、正式名称を口にしたり聞いたりすると、それだけで魔法場汚染を受けてしまう危険性がある」


 そして、少し考えてから、いたずらっぽい表情になった。

「そうだな……参考までに、私の公式名を『死者の世界の言語』で聞かせてあげよう。私の名前にも若干ではあるが、魔力が込められている。先ほどの狐語では問題は生じないがね。同様に貴族という単語や、テシュブ先生でも、何ら悪影響は出ないが……」

 一呼吸の間をあけるサムカ。貴族が使う魔法言語で自身の名前を告げる。

「サムカ・テシュブ」

 低く落ち着いた響きの声が、教室に行き渡った。


「うげ……」

 真っ先に、バントゥが吐きそうな声を上げた。それをきっかけにして、一斉に40名余りの生徒達が不快な表情になって、ジト目に変わる。

 慌てて表情を平常に戻すペルとレブンに、サムカが微笑む。

「聞いての通り、不快感を覚えたはずだ。名前に込められている魔力が、君たちの精神へ〔干渉〕したためだな。私よりも魔力の強いリッチーやイモータル、イプシロンに至っては、この程度では済まない。安易に本名や魔法言語を使っての呼称は避けた方が安全だ。今こうして授業で使用しているウィザード語は、魔法言語だから特に注意だな」

 今サムカが話しているのはウィザード語だ。死者の世界の言語ではない。


 生徒達の表情が、十数秒ほどかかって元に戻った。最後に仏頂面に戻ったバントゥ狐を横目で確認したサムカが教壇に戻る。

「では、授業を再開しよう。これからすることは君たちにとって初めて体験することだから、怪我をするかもしれない。イスに正しく座り、机の上には何も置かないようにしなさい」

 そう指示を出す。と、同時に教室の全ての窓と扉が自動的に閉じた。早くもあちこちから悲鳴めいた声が上がる。先ほどの話でリッチーなどの名前が挙げられたことも関係しているのかもしれない。


 一般にはリッチーなどという強力な魔力を有するアンデッドに対しては、危険極まりないモンスターという印象が先行しがちである。似たような印象は、貴族であるサムカに対しても向けられているだろう。

 特に、バントゥたちの警戒と混乱の度合いは教室の中でもよく目立っている。彼らを核にして、教室中にパニックが広がっていきそうだ。


 サムカが錆色の短髪をかきながら、説明する。

「私の『使い魔』が閉めたのだよ。外から覗いた生徒達がパニックになると困るだろう。外からは我々の姿はきちんと見えるが、死霊術や闇の精霊魔法由来の事象は見えないようにしてある。さて、まずは死霊術にしよう」

 教壇の上に置いてある教育指導要綱を手に取った。

「この指導要綱では、ゾンビとスケルトンしか登場していない。それは後日紹介することにして、今日は別のモノにしよう。今は手持ちの死体や骨がないのでね」


 そう言ってサムカが指導要綱を教壇の上に戻すと、その指導要綱が消えてしまった。恐らく、先に消えている赤茶色マントの中か、同じく消えた作業服のポケットに戻ったのだろう。

 2年生以上の上級生では既に〔結界〕作成の魔法を学んでいるので、特にこれといった反応は出ていない。かなり便利な収納魔法といったところか。

 一方で、1年生はまだ履修していないので興味津々の様子である。これもソーサラー魔術や、ウィザード魔法の力場術の1つなのだが、この魔法高校では2年生への進級試験に出題されるほど一般的なものである。


「先ほどの説明では、アンデッドは死体がないと動くことができない……と説明した。しかし、それはつまりエンジンを入れる『入れ物』が必要というだけの理由だ。別に死体でなければいけない、という規則はない」

 何もなくなった教壇の上から、サムカが生徒たちを見回しながら話を続ける。

「入れ物さえあれば、死霊術は起動する。物でもいいし」

 と、サムカが一呼吸置いて……

「むろん、『生身の君たち』でも構わない」

 一瞬で教室の空気が硬直した。

 これでサムカが高笑いでもしようものなら、確実にパニックになっていただろう。しかし、サムカの表情も声も穏やかなままで、何の変化もない。


 それでも狐族のペルと魚族のレブンが、体を緊張で震わせているのが誰の目からも明らかに分かる。

 特にペルは全身の毛皮が逆立っているようだ。黒毛が交じる尻尾も含めて、あのサラパン羊みたいにフワフワになって制服が膨らんでいる。レブンも口元がセマン状態から、魚のそれに近くなっている。


 バントゥたちも警戒レベルを最大にまで引き上げているのがよく分かる。リーダーのバントゥに至っては、既に簡易杖の先をサムカに向けていた。

 ノーム先生の精霊魔法の専門クラスのニクマティ級長も、さすがに警戒している。彼が学んでいる精霊魔法には生命の精霊魔法が含まれる。これと死霊術は相性が最悪なのは、指摘するまでも無いだろう。


 そのような生徒達の警戒感を満足そうな表情で見回したサムカが、外の景色が見えている窓ガラスに視線を向けた。窓からは、地平線まで緑の森が延々と続いているのが見える。

「では、まず残留思念を採集してみよう。これは通常は君たちには見えないし、故に感じることもない。経験していない魔法は〔察知〕できない。基本だな。これは意識ある生命から絶えず漏れ出て、周辺の魔法場に混ざって流れているのだよ。もしくは、殺されたり死んだりした際に、最後の生命活動として放出されるものだな。『これ』だ」

 指を空中で動かした。


 同時に生徒たちから悲鳴が沸き上がった。

 油光りしたガス状のモヤが縦横に教室の中を流れているのが、いきなり現れたためだ。気味の悪い色彩を放つ風船のようにも見える。死者の世界の森の中で、当たり前のように漂っているアレである。

「何だコレは!」

「うわ、気持ち悪っ」

 思わず小さく悪態をついたバントゥとニクマティ級長が、簡易杖を向けた。ペルとレブンが慌てて席から跳び上がって、2人の生徒に両手を挙げてパタパタ振る。

「ちょ、ちょっと待って下さい。バントゥ先輩、ニクマティ先輩っ」

 ペルが目を白黒させてパタパタ踊りを始める横で、レブンも明るい深緑色の瞳を濁った色合いにして、魚顔に戻っている。

「こ、これは残留思念です。だ、大丈夫ですからっ」


 他の生徒も騒ぎ始めたので、サムカが穏やかな声で制した。〔魅了〕魔法は使わない事にしているようだ。

「この程度であれば、君たちに害は出ないよ。安心しなさい」

 それでもブツブツ何か言っているバントゥとニクマティ級長であったが……渋々、席に座って簡易杖を机の上に置いた。


 蝶が飛んでいるのを眺める程度の視線で、サムカが残留思念を見上げながら説明を続ける。

「生き物から漏れ出ている物だから、しばらくすると拡散して数日で消滅する。元々は、君たち生者が危険を発見共有するために放出している検知器のようなものだ。特に、死んだ際には大量に放出されて、他の仲間に危険を知らせる役割を果たす」


 次第に生徒たちが興味を抱き始めたのを感じて、サムカが口調を少し柔らかくした。

「特段の理由がなくとも危険を〔察知〕したりする、いわゆる第六感や直観といったものに関わる魔法場だな。この程度の魔力であれば、君たちには何の害もないはずだ」


 バントゥが鋭い視線をレブンに投げかけた。ニクマティ級長も好奇心の光に満ちた視線をレブンに向けてくる。

「……分かりましたよ、先輩方」

 ジト目になったレブンが代表して、席から立ち上がった。

 そして、虹色の油膜状の袋にしか見えない残留思念に、白い魔法の手袋をしたままの右手で触れる。一瞬、レブンのセマン顔が魚に戻りかけたが、すぐにセマン顔になった。

「!……テシュブ先生。ちょっとビリビリします」

 手袋をした手でモヤ状になった残留思念をつかんだまま、レブンが微妙な表情でサムカに報告する。


 サムカが頬を少し緩めてうなずく。

「静電気を帯びているから、少しピリピリするかもしれないがその程度だな。君たちが皮膚表面に展開している生体静電気の方が強いから、普通は気にすることもない。当然、アンデッド用のエンジンとしても使い物にはならない。もっと、高出力な残留思念が必要だ」

 レブンが残留思念のモヤから手を離して、席に座った。後遺症などは起きていない様子だ。


 ふと、サムカが教室の外窓越しに上空を見上げた。先ほどから何度か上空を見上げている。何か飛んでいるようである。

「……まあ、あれでも良いが。しかし初心者向きではなさそうだな」

 独り言のようにつぶやいてから、生徒達に視線を戻した。レブンの状態を念のために確認してから、教室内を浮遊している虹色油膜の残留思念のモヤを手元に呼び寄せる。


「では、この」

 無造作に白い手袋をした左手を伸ばして、油光りするモヤを鷲づかみにした。サムカの表情には、特に変化は出ていない。

「どこにでも漂っている残留思念に細工をして〔強化〕してみよう。これは、初心者向きの魔法ではないから、今は真似をしないように」

 一応、生徒に断りを入れる。

「そうだな……私が通常使役している、ゾンビ程度のエンジンにまで出力を上げてみよう。むろん、無理をかける訳だから、この残留思念は短時間で崩壊してしまうがね」


 サムカが左手に意識を集中する。とたんに、今までぐったり、のったりしていたガスが、生き物のようにもがき始め、すぐに暴れ始めたといっていい状態にまで活性化した。

 ガスの色もドス黒く変色し、中で放電をし始め、唸り声のような音を立て始めた。ちょうどサムカが死者の世界の森の中で仕留めた、空飛ぶ大ワニが末期に噴き出した残留思念の黒いガスに似ている。


「うむ。このくらいの出力で良かろう」

 サムカがそう言って、手に握った黒い雷雲を見る。そして、凶悪な雰囲気になっているそれを生徒達に見せた。

「このようになった残留思念を使う。ゾンビ程度にはこれで充分だ。別の見方をすると、このようになっている残留思念以外は害はないということだ。俗にいうところの怨念や執着、殺意といった強い感情の塊だな。実際は見ての通り、ただの思念エネルギーなのだがね。恐らくは、法力と同じ理屈だ」

 レブンがガシガシとメモを取っている。ペルを含めた他の生徒達は、目を丸くして見つめているばかりだ。


 暴れている黒い残留思念を、手袋をした左手でサムカが持ち直した。

「だが、これも見た経験がないと、生者の視覚では認識されないことが多いようだ。魔力の低いゾンビ程度だからな、認識できなくても当然だが」

 ここでようやく生徒たちが、互いに顔を見交わし始めた。


(どうやら、ここに居る生徒全員にはコレが見えているようだな)と確認するサムカ。

「君たちは今こうして視覚で認識できているから、今後は注意すれば、何とか見る事ができるようになるはずだ。魔法使いにとって、『見た』ということはそのまま、その魔法回路が形成されたということだからね」

「いつもやっていること」と言わんばかりの穏やかな声のままで、サムカが生徒達に説明する。


「さて……次は『入れ物』だが、今は死体がないから入れ物はこれにしよう」

 そう言って、渋い色合いのズボンの後ろポケットの中から手鏡を取り出した。手の平にすっぽり収まるほどの、小さな携帯用のありふれた手鏡である。特に装飾が施されていないので、使い捨ての安物だ。

 恐らくは先日の隊商が主催した雑貨市で、エッケコが買ってきたものだろう。


「この鏡に、残留思念を死霊術を用いて〔憑依〕させる。術式はここでは説明しないよ」

 サムカが雷雲と鏡を接触させると、たちまち鏡の中に黒雲が吸い込まれてしまった。いつの間にか立ち込めていた息苦しさもウソのように消え去る。

 それを教壇の上に置いて、サムカが一言発した。

「燃料として、私が魔力供給しよう。では起動」


 突然、教室内の気温が一気に5度は低くなり、薄暗くなった。バントゥとその党員が、反射的に簡易杖を手に持ってサムカに向ける。バントゥが両耳を混乱でパタパタさせながらも、サムカを非難した。

「な、何をしたのですかっ! 生徒を危険にするような行為は、許せませんよっ」

 なおも何か叫ぼうとしたようだったが、その声が悲鳴に変わった。党員たちも同時に悲鳴を上げた。


 鏡の中から長さ3メートルはあろうかという、巨大な半透明のゴーストが飛び出してきたのだ。獣型ではあるが、獅子のように大きく裂けた口が3つほどあり、鋭利な牙がズラリと並んだ奥からは炎が漏れ出ている。

 目は爛々と赤く輝いており、たてがみが暴れ放題になびいて、悲鳴じみた高音で何事かを叫び続けているようだ。しかし獣なので威嚇の吼え声かも知れないが。


 生徒たちも悲鳴を上げてイスから立ち上がる者もいたが、その音さえかき消されてしまうほどだ。しかしサムカの穏やかな声は、はっきりと聞こえる。

「ゴーストだ。近くの森から漂ってきた残留思念だから、これは森ネズミやトカゲなどの複合体だな。本体の森ネズミらは生きているから、これは生霊ゴーストに分類される」


 次々に生徒が悲鳴を上げて席から立ち上がってくる中、平然と話を続けている。

「見ての通り半透明で実体はないから、君たちを傷つけたりはできない。が、精神攻撃はできる。元々、残留思念が危険の察知や、早期警戒の目的で使われている。そのため、出来上がるアンデッドもこうして攻撃的になって騒がしくなる。ちなみにこの程度では、まだ意識も自我も芽生えていないから話し相手にはならないよ」

 サムカがそこらへんの野良犬でも扱うような口調で説明する。実際ネズミやトカゲなので当然ではある。


 バントゥが目を怒らせながら席から勢いよく立ち上がり、サムカを指さして怒鳴った。

「テシュブ先生! こんなものは授業とは呼びません! 生徒を脅すような真似は許されませんよっ」

 が、そんなバントゥと党員達の必死の抗議には、全く耳を貸さないサムカであった。

「そうだな、〔麻痺〕にしてみよう。触れられるという、独特の感覚を体験するには、いいだろう」


 そう言ったかと思うと、いきなりゴーストの戒めを開放した。体長3メートルもの巨大ゴーストが、それこそ鎖から放たれた野犬のような勢いで生徒に襲い掛かる。

 悲鳴が沸き上がり、逃げようとする生徒達だったが……次の瞬間にはゴーストが体内を通過して、体を硬直させられて1歩も動けなくなってしまった。


 ニクマティが大地の精霊魔法を何か発動しようと、簡易杖をゴーストに向けた。しかし、そこまでだった。彼も、あっという間にゴーストに体を通過されて動けなくなる。ペルとレブンも簡易杖を掲げたが、そこまでで硬直してしまった。

 バントゥたちも怒声と悲鳴をサムカに向けていたが、ゴーストが飛び回るせいでそれも強制的に途絶えてしまった。


 巨大なゴーストは、〔麻痺〕して動けなくなった40名余りの生徒たちの体を、何度も何度も容赦なく通り抜けて悲鳴じみた高音を浴びせる。どう見ても悲惨な現場風景なのだが、サムカの口調は穏やかなままだ。

「兵器級の死霊術ではないから安心したまえ。この感覚がアンデッドに触れた際によく起きる〔麻痺〕だな。五感も急激に弱まる。墓場などで誰かが倒れて、このような〔麻痺〕状態であれば、アンデッドに触れたためだと思ってよい。私は苦手だが、法術をかけて〔治療〕する際の診断の手立てになるだろう」


 もはや生徒たち全員が〔麻痺〕状態で授業どころではないのだが……サムカは気にしていない。

「先ほど、生体も入れ物になりうると話したが、これも体験してみなさい。そうだな……1人につき10秒間ずつ、そのゴーストが〔憑依〕ようにさせよう。急速に意識が消失して、体がゴーストに乗っ取られていく感じが分かるだろう」

 そう言って、サムカがゴーストにとんでもない指示を出した。


 そうして、合計400秒ほどの地獄体験が強制的に始まった。その時間を使って、当たり前のようにサムカが授業を続ける。硬直して身動きが全く取れないままの生徒たちに、果たして授業を聞く余裕があるのかどうか……


「次は、闇の精霊魔法だ。詳しい仕組みについては今後の授業で教えることにして、今日はごく簡単にどのような魔法なのかを紹介しよう」

 サムカが空中に指で円を描く。すると、そこに球形の真っ黒い空間が出現した。ガスでも物質でもない、純粋に何もない空間。

「見ての通り、光も消滅してしまう。〔闇玉〕だ。これを攻撃魔法や罠や仕掛けとして使うとどうなるか、体験してもらおう」

 サムカが〔闇玉〕を指で押し出した。〔闇玉〕がゴーストの胴体を貫いて飛んでいく。大きな穴が開けられて、苦悶の絶叫をあげるゴースト。

「見ての通り、ゴーストのような実体化していない存在でも侵食する。むろん、君たち生身の体でも同様だ。痛くはないから安心したまえ。存在感覚が丸ごと無くなるという感覚を体験してみなさい」


 サムカが〔闇玉〕に、またもやとんでもない指示を出した。とたんに生き物のように、闇の球体が空中を躍るように飛び回り始める。そのままの勢いで硬直した生徒達の体を貫通し、その体にいくつもの大穴を開けていく。不思議と音も血も出ないようだ。



 そして400秒後。ゴーストが全員の体に〔憑依〕して回り、〔闇玉〕が全員の体を穴だらけにしたのをサムカが確認した。もちろん、ペルとレブンも穴だらけになって硬直している。

 机やイスも派手に穴だらけにされているが、天井や床に壁は無事であった。サムカが当たらないように調整したのだろう。

「うむ……これで全員が体験できたようだな。では、〔解除〕しよう」

 硬直したままの姿で、ほっとする生徒たち。声も出すことができない状態だが、目だけは動かせるようだ。その目が皆、恐怖と緊張の色を発している。特にバントゥは気絶寸前にも見える。

 ペルとレブンも死んだような目をしていた。逆にニクマティだけは、目を好奇心の光でキラキラさせているようだが。


 サムカが穏やかな声のままで、説明を続ける。

「しかしながら、君たちの体は穴だらけだ。ここで法術や精霊魔法などを使って、〔闇玉〕を分解してしまうと……どうなるか分かるね。君たちも死体の仲間入りになるかもしれない。少なくとも、重傷だ」


 それを聞いて生徒たちの顔から、血の気が急速に引いていくのが見て取れる。さらにサムカが、トドメを刺す様な発言をした。

「同様にゴーストが君たちの体に〔憑依〕したから、いきなりゴーストを分解してしまうと、その反作用が君たちの精神に発生することになるだろう」

 無言のパニックが生徒たちにさらに広がっていく。

「〔憑依〕したということは、君たちの持つ精神に〔干渉〕して、相互につながりができていることを意味するからね。無理にゴーストを破壊すると、精神異常をもたらす病気が起きやすくなる。よく起きるのはウツ症状や、性格の凶暴化だな」


 サムカが右手を上げた。

「そう。だから、ここで死霊術と闇の精霊魔法の仕組みを理解しておく必要がでてくる……という訳だ」

 そして、ただ一言。

「〔解除〕」

 緊張の一瞬が生徒達の臓腑に走った。


 しかし次の瞬間にはゴーストと〔闇玉〕がかき消されて、生徒たちも元の五体満足な姿に戻っていた。


 〔麻痺〕も解けたようで、硬直していた生徒全員が机の上に倒れ伏す。その机やイスも元に戻っている。立ち見の生徒はヘナヘナと床に尻もちをついて、しゃがみこんでしまった。気温も日差しも元に戻り、窓も扉も開け放たれた。さわやかな風が教室の中に吹き込んでくる。


 心底ほっとしたような顔で、机の上にうずくまる生徒たち。サムカが念を押した。

「ウィザード魔法の幻導術ではないので、混同せぬように。君たちは実際に侵食されていたのだよ。ゴーストと闇の精霊魔法の活動〔ログ〕を基に、修正魔法をかけたので君たちは生還できたという訳だ。さて……」

 サムカが山吹色の瞳を細めた。

「退出したい者は、出なさい。止めたり何かしたりしないから」

 と、恐慌状態の生徒たちに促す。


 悲鳴が巻き上がって、我先にと、一斉に生徒達が教室から脱出していく。ちょっとしたパニックになった。バントゥと十数名の党員も、一斉に文字通り尻尾を巻いて先を争うように教室から逃げ出していく。もう、怒声や非難に文句すらもサムカに投げつける余裕がない有様だ。


 それを見送りながら、反省するサムカ。

「うむ……少々、初心者には刺激が強かったか」

(そうだな。これでは、ますます召喚ナイフの評判が悪くなるなあ、テシュブ先生)

 どこからか、ハグが〔念話〕を送ってきた。サムカも〔念話〕で返す。

(むう。これでも安全には気を使ったのだぞ)

 が……

「結果は結果だよ。商売と同じさ」

 ハグの笑いが混じった声が教室に響いて、それから言い放った。

「お仕置きだな」


「うお?」

 いきなりサムカの頭が締めつけられ、突然の激痛に苦悶する。ハグが気楽な声で、どこからか説明してくれた。

「1分間ほど苦しんでくれ。なーに、体を痛める技ではないよ。君の意識に直接関与しているから」

「お、おい、こら……」

 サムカが何か言おうとするが、余りの激痛に思考が途切れてしまった。


 その様子をどこからか見ているのか、ハグが鼻歌を歌いながら――

「あと20秒~、15秒~」

 ……と、カウントダウンする。

 やがて。

(よし、終了~。気をつけろよ~じゃあね~)

 そう、嬉しそうな声色で〔念話〕を残して、ハグのお仕置きが終わった。


 どうやら本来の彼は、この様な性格のようだ。今までネコをかぶっていたのだろう。執事のエッケコに申し訳なさそうにしていたハグとはまるで別人である。確かにこんなことをしては、召喚ナイフ契約者が怒って契約解除してしまうのも納得だ。


 たまらず床に膝をつくサムカ。かなり悔しがっている。死体なので呼吸をしておらず、冷や汗も出ていない。しかし血色の全くない磁器のような白い顔には、苦悶の影が色濃く見られる。きれいに揃っていた錆色の髪も乱れがひどい。瞳も濁った辛子色になっている。

「あ、あの腐れ魔法使いめ……世界屈指の魔力を、こんなことに使用するかね。むう、〔防御障壁〕も対抗魔法も一切無効化されてしまったか……罰ゲームでなければ、罰則を受けてでも、とっくに契約解除するところだぞ」


「あの、テシュブ先生? 大丈夫ですか?」

 いつの間にか、狐族のペルと魚族のレブンが心配そうな顔でサムカのそばにやってきていた。

 サムカが片膝をついて背を丸くしていても、まだペルとレブンよりも背が高い。手袋をつけた小さな手がサムカの肩に伸びてきたが、それを優しい動きで制する。

「あ、ああ。召喚親元から苦情が来てな。もう大丈夫だ」


 ようやく苦痛が和らいで、起き上がるサムカ。短く切りそろえている髪に、無造作にさっと手櫛を入れて整える。

 見渡すと教室の中は、ガランとして他に誰もいなくなっていた。

「……うむむ。これは想像以上だな。ここまで死霊術と、闇の精霊魔法は嫌われているのかね」

 サムカが失望が混じった声でペルとレブンに語った。さすがに瞳が曇っていて、辛子色の瞳がさらに濁っている。


「いえ。先生のあの授業が原因かと」

 レブンがツッコミを入れた。魚みたいな顔になっているのを見ると、変化が維持できなくなるほど混乱していたのだろう。冷や汗も大量にかいていて、まるで陸に水揚げされたばかりの魚のようだ。

「僕、もうだめだと思いましたよ」

「私も」

 ペルも相づちを入れる。涙目になっていて、口元や鼻先の極細のヒゲの先には冷や汗の雫がまだ残っている。 黒毛交じりの尻尾の先もまだ逆立ったままだ。

「ごめんなさい、お母さん、お父さんって最期の挨拶しちゃった」


 さすがに考え込むサムカである。再び背筋が猫背になった。

「うむむ……そうか、そうかね。新兵の訓練のようには行かぬ……か」

 レブンがジト目になった。

「兵隊じゃ、ありませんよ。僕たち」

 レブンの顔はかなり人のそれに戻ってきているが、冷や汗はまだ乾いていないようだ。「コホン」と軽く咳払いをするサムカ。

「いや。新兵訓練では、あんな生易しいゴーストや闇魔法は使わないがね」

 一応註釈をつけてから2人に向き合った。


「まあいい。君たちはどうするかね? 私の講座に登録するかね?」

 レブンがジト目がまだ残っている顔のままで、申請用紙を取り出した。

「はい。先日のカフェテリアでの授業がなければ、登録する気にはなりませんでしたが」

「うん。今日だけの授業じゃ、一生、絶対に闇の精霊魔法なんかに関わらないって心に誓ったと思う」

 ペルもレブンと同じようなジト目のままで、同じく申請用紙を取り出して、2人一緒にサムカに差し出した。

「テシュブ先生。承認サインを、お願いします」


挿絵(By みてみん)


 サムカが2枚の申請用紙を受け取った。

「うむ。確かに受け取った」

 そのまま申請用紙に承認のサインを入れる。

 選択科目としてではなく、2人とも専門科目としての授業登録を選択している。これでサムカの専門クラスの生徒ということが確定したことになった。

「これで、私の1年間の『召喚契約』が確定したということだな」


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