45話
【とある疑問】
エルフ先生が関係各所とやり取りをしている間、ペルとレブンも復帰を果たして、顔がそれぞれの〔空中ディスプレー〕に表示された。その後で、敵が帝都に集結しつつあることを知って唖然としている。
少し落ち着いてきたミンタが疑問を口にした。
「あれ……? 森から出てきた敵、〔テレポート〕魔術でも使ったの? こんな短時間で、帝国の辺境の森から帝都へ集結するなんて。辺境の森から帝都まで、直線距離でも1000キロ以上は楽にあるんだけど」
ラヤンも頭の回転が回復してきたようだ。すぐに同意して、軽く尻尾を床に打ちつけた。
「そうね……〔テレポート〕してる。でも熊やフクロウには、そこまでの魔力も統率力もないはず。特に100万ともなると、行動を指示する者がいないと不可能ね」
再び尻尾を床に打ちつける。
「基本的に熊もフクロウも、餌を求めて移動することしかできないのに。なぜか軍隊も顔負けの一斉行軍をして、〔テレポート〕までこなして『一直線に』帝都へ向かっている。しかも、最大の障害となる帝都近郊の軍施設を、最初の攻撃目標に『設定』してる。熊やフクロウの思考ではないわね」
ムンキンがジト目になって、全身の柿色のウロコを膨らませた。
「カルト派貴族の差し金か?」
ハグ人形が含み笑いの声色になって、口をパクパクさせた。
「さあな。抜け道は様々にあるがね。カルト派も個人では世界間移動をして、このような騒動を起こすことは無理だが、結社のようなグループ、もしくは国ぐるみであれば方法はある。しかし現時点では、まだ断定はできぬよ」
口調が少しだけ真面目になっていく。
「これだけの行動を実現するには巨大な魔力を必要とするが、カルト派ごときでは自前で用意するのは困難だ。加えて、ワシも墓も何者かによって〔ロスト〕させられた。これも大量の魔力を必要とする。なのでカルト派と断定するには、ちょっとまだ証拠が乏しい」
つまり……カルト派への協力者がいるかも知れない。メイガスかリッチーか、それとも魔神か何かか……
ハグ人形が後ろを振り返って、校舎の復旧作業をしている先生たちを見る。
「ここの先生たちも、救援には行けないだろうな。それぞれの魔法場サーバーの警備だけで精一杯のようだ」
軍の基地からの生中継映像は、基地の上空100メートルほどから見下ろした空撮映像だった。それでも無数の熊と大フクロウの大群が、基地を取り囲んで蹂躙していく様子が見て取れる。見たまま、地平線まで熊と大フクロウの大群で埋め尽くされている。
基地の軍警備隊が全力で迎撃しているのだが、熊と大フクロウの〔防御障壁〕に阻まれて大した効果を上げていない。1つまた1つと砲台や戦車が、熊や大フクロウに八つ裂きにされて粉々に分解されていく。
普通なら獣の爪では、魔法で強化された合金製の兵器には傷一つ付けることができない……はずなのだが。紙をナイフで切るようにあっけない。
歩兵も小隊単位で高速で駆け回りながら、的確に熊と大フクロウに実弾や〔マジックミサイル〕を当てている。しかしこれも、大した効果を上げていないようだ。大フクロウであれば〔マジックミサイル〕を2発直撃させないと撃墜できないし、熊に至っては数発当てないと倒せていない。
幸い、敵はソーサラー魔術の〔回復〕魔術を使えていない。そのため、攻撃で与えた傷が回復されてしまう事態にはなっていなかった。というよりも、負傷して動けなくなった熊や大フクロウは、あっという間に仲間に食われてしまっている。
タカパ帝国軍の歩兵は竜族の自警団よりも高機能な防護服で、外骨格付きの追加装甲装備だ。そのため大フクロウや巨大熊の爪や牙に切り裂かれてはいない。
しかし、それでも怪力パンチや、空中高くからの叩き落としの衝撃で、動けなくなる者が続出している。そのまま、熊の大群に踏みつけられている。
ハグ人形が気楽な声を発しながら、エルフ先生の頭の上から観戦している。
「なんだ~。戦車や自走砲の正面装甲よりも、歩兵の服の方が丈夫なのかね。これまた、バランスの欠けた武器調達をしておるな~。魔法世界の武器商人どもの言うままに買っているだろ、こいつら」
ミンタたちは既に攻撃魔法を〔テレポート〕させて、この熊と大フクロウの大群に当てていた。
ペルとレブンはシャドウを送り込んで、熊と大フクロウを次々に発狂状態にして同士討ちをさせている。ペルは併せて闇の精霊魔法も使用して、子狐型シャドウから波状攻撃をし、敵を穴だらけにして体を削っていた。
ムンキンは光の精霊魔法を放って〔レーザー光線〕で焼き払っている。ミンタも同じく〔レーザー光線〕を放ち、500頭単位で消し炭にしている。
ラヤンは強力な攻撃魔法はまだ使えないので、負傷している兵士を探しては、法術で遠隔〔治療〕を施している。
皆、故郷を今、離れるわけにはいかない状況なので、遠隔魔法しか使用できていない。当然、魔力も法力も弱くなる。
ムンキンが毒づいた。
「ちい! 敵の数が多すぎる。100頭単位で倒しても追いつかないぞ。どうするミンタさん」
ミンタも難しい表情になっている。
「どうもこうも。他に手段が思いつかないし……困ったな。カカクトゥア先生、何か方法ありますか?」
エルフ先生もようやく警察長官と帝国軍情報部大将との話が終わったようだ。〔探知〕情報の〔共有〕と〔解析〕を再開しながら、首を軽く振る。
「私も、現状では魔力を全部使い切ってしまったから、手助けできないのよ。救護所で心的外傷の手当をするくらいしか魔力がないの。攻撃魔法はちょっと無理ね」
少し考えてから、否定的に首を振る。
「パリーから魔力支援受けても良いけど、絶対に制御できなくなって暴走させることになるだろうし。大暴れした森の後片付けがまだ終わっていないし、森の外に出たがらないのよね……他の先生は、ちょっと今それどころではなさそう」
ムンキンとラヤンが画面の向こうで両目を閉じて、ウロコで覆われた顔をしかめた。ラヤンがため息をつきながら、画面向こうで色々と操作している。
「確かに、学校の中だけで精一杯の様子ですよね。担任のマルマー先生も、救護所に張りついたままだし」
レブンが魚頭になりながら、うなだれた。アンコウ型のシャドウの動きも止まっている。
「軍の基地、制圧されちゃいました……」
その通り、基地の敷地が熊と大フクロウで覆い尽くされている。管制塔などの建物も全て切り刻まれて崩壊して瓦礫の山になっていた。戦車や砲台も金属片の山に変わっている。
兵士たちは熊の足元で丸くなっているのだろう、姿は見えないが生命反応は残っている。ケガ人ばかりのようであるが。
少しして、熊と大フクロウの大群が向きを変えて移動し始めた。
ムンキンが地団駄を踏んで唸る。
「くそ。帝都へ向かい始めたぞ」
ハグ人形がエルフ先生の頭の上であぐらをかいて頬杖していたが、口をパクパクさせた。
「ふむ……仕方がないな。ワシが魔法を使うしかないかね。魔力の微調整などできないから、広域殲滅の闇魔法で、帝都は誰も住めない更地になるが。まあ、他の重要都市は残るからいいか」
ミンタが頭の金色の縞を鈍く光らせて、肩をすくめる。
「ひどい選択肢ね。重要都市が残っても、内乱が起きて大変なことになるわよ。予算なんか出なくなるから、学校も閉鎖かな……」
「ええー!?」と、悲鳴を上げるのはペルである。他の生徒も難しい表情になっている。そんな中、ミンタが熊と大フクロウに攻撃を続けながら、首をかしげた。
「ん? 誰、あの人間」
〔空中ディスプレー〕画面には、熊と大フクロウの大群のど真ん中に、場違いな服装の人間が1人立っていた。しかも、こちらに顔を向けてカメラ目線を送っている。その服装は……
「貴族か」
エルフ先生がため息をつきながら言い当てた。ハグ人形が無言になり、動きが止まる。
貴族は古代中東風のスーツ姿で、刺繍がぎっしりと入った豪華なマントを肩にかけて仁王立ちをしていた。こちらに白い手袋をした左手を出して、ドヤ顔で指差して自己主張している。
熊の群れの中にいるのだが、勝手に熊が貴族を避けて移動していた。闇魔法の〔認識阻害〕魔法か何かだろう。その彼の周囲にくすんだオレンジ色のガスが生じている。この色付きガスも熊には〔認識〕されていない様子だ。
「我は、死者の世界のオメテクト王国連合の領主貴族、トロッケ・ナウアケなり。旅先で貴帝国の危機を聞き、こうして人道的理由により駆けつけた次第である。この害獣どもの跳梁跋扈を看過するわけにはいかぬ。全て駆除して差し上げよう!」
そう言い放つや、豪華なマントの中から貴金属や宝石の装飾がゴテゴテと付いている宝剣を一振り抜いて、頭上に振り上げた。左手だけで持つその宝剣の刀身からは、洪水のように闇の魔法場が溢れ出している。しかも、これは……
「死霊術だ。ペルさん、とりあえず退避しよう」
レブンがペルに呼びかけた。ペルも即座に同意する。
「分かった。戻っておいで『綿毛ちゃん2号改』」
エルフ先生の頭の上のハグ人形は動かないままで、独り言を漏らしている。
「うぬぬ……ワシの見立てでは全治1ヶ月の重症だったのだが、根性で治してきおったか。もしくは、大量の魔力支援を受けたか。それに、奴の行動制限はかけているはずなんだが。……そうか。『人道上の理由』では、行動制限が解除されるのか。うかつだったな」
エルフ先生が軽いジト目になって、頭の上のハグ人形に小声でささやいた。
「規約は、よく読まないといけないわよ。ハグさん」
〔空中ディスプレー〕画面の中では、ナウアケが舞台役者のような大袈裟な動きをしながら、数秒間ほど不思議な踊りをしていた。そして――
「逆賊害獣どもよ! 我が正義の剣を受けてひれ伏すのだ!」
オペラ歌手か何かのように、歌うように叫んだナウアケが、もったいぶった動きで宝剣を振り下ろした。
同時に、まるでドミノ倒しでも起きたかのように、ナウアケを中心として同心円状に巨大熊が崩れ落ちるように倒れていく。上空でも大フクロウが空中ドミノでもしているように、ナウアケを中心として次々に墜落していく。
再び通信障害が起きて、生徒たちが映っている〔空中ディスプレー〕画面が砂嵐に変わった。無事なのは、カルト派貴族を映している画面だけである。
エルフ先生の目が険しくなり、眉間に深いシワが刻まれた。
「うわ……何という量と濃度の死霊術場なのよ」
ハグ人形もエルフ先生の頭の上に正座して座りながら、ただ1つ残った画面を見下ろし、口をパクパクさせた。
「おいおい。こんな派手な魔法を使ったら、『化け狐』どもが喜び勇んで飛んでくるぞ」
実際、すでに30匹以上もの『化け狐』が呼び寄せられて集まり始めている。
が、そんなことを見越したような余裕の表情で、ナウアケが画面越しにドヤ顔を向けてきた。ハグ人形が舌打ちする。
「ち。狐対策はワシに丸投げしよったか」
エルフ先生の頭の上で地団駄を踏むハグ人形である。
〔空中ディスプレー〕画面では熊群と大フクロウ群の制圧状況が、地図表示され始めた。それによると、急速に数万頭単位で精神支配を完了しているようだ。この勢いであれば、あと数分で100万頭の熊と大フクロウ全てを支配下に置くことができるだろう。
その様子を凝視していたエルフ先生が、空色の瞳を何度も瞬かせた。ガックリと肩を落として、頭の上のハグ人形に聞く。
「さすが貴族ですね。魔力が巨大だわ。これほどとは思いませんでした。これでは、私の武装ではまだ対抗できませんね……残念です。ハグさん。貴族の魔力は、これほどなのですか?」
ハグ人形が銀色の毛糸の髪をかきながら、無念そうな口調で答えた。
「うむ。正規ではない世界間移動をしておるから、ここに出現しておるのは本体魔力の半分程度だがな。それにしても、カルト派貴族にしては魔力が強いがね。魔力支援をしている奴がいるのだろうさ。やれやれ。奴の作戦勝ちか」
ハグ人形が手足をバタバタさせる。エルフ先生の頭の上なのだが、お構いなしだ。
「しかしこれで、騒動は収まりそうだな。仕方がない。奴の援護をしてやるか」
ハグ人形が手をプラプラと振る。エルフ先生の顔が、再び驚愕のそれになった。
「うわ……死霊術場が一掃されていく。これなら、『化け狐』たちも餌がないので興味を失って消えますね」
ハグ人形が少し得意げな声で、エルフ先生に答えた。
「『化け狐対策』はワシも考えておるさ。さて。ナウアケ卿よ、これからどうするつもりかね」
画面の中のナウアケが再びカメラ目線になって、大仰な仕草で剣を頭上に掲げた。
「知れた事、害獣どもを〔消去〕してやろう! 食らえ、正義の鉄槌っ」
宝剣を再び振り下ろすナウアケである。彼を中心にした同心円状に倒れ伏している熊と大フクロウ群が、かき消されるように姿を消していく。同時に、ただ1つ残っていたこのディスプレーも砂嵐に変わって映像が届かなくなった。
ハグ人形がゲームに負けたような口調で、エルフ先生に告げる。
「ははは。奴め、これが目的であったか。熊とはいえ『傭兵』として使えるのでな。これで奴は100万の軍勢を得たことになる。恐らくは、死者の世界で売りさばくのだろうよ。獣人族の生体情報も、恐らくこの騒動に紛れて収集しておるであろうな。やられたよ」
エルフ先生もジト目ながら口元を緩めている。そして、砂嵐しか映していない〔空中ディスプレー〕を消去した。
「そうですね。今回は、カルト派貴族の勝ちですね」
そして、少し考えてハグ人形を頭の上から下ろした。足を救護所に向けて歩き出す。
「結果論ですが、これで死者の世界の評判が良くなったのではありませんか? ハグさんやサムカ先生にとっても、悪いことばかりではない気がしますよ」
ハグ人形がエルフ先生の両手の中でうなだれた。
「……ぐぬぬ。そうなりそうな流れじゃな」
【森の酔っぱらい】
エルフ先生が再接続して、警察長官と帝国軍情報部大将との通信を終了し、〔空中ディスプレー〕画面を消去した。そのまま救護所テントの中へ入ろうとする。
そこへ背後から酔っぱらいの声が2つした。
「よお、エルフ先生。熊どもは退治できたのかよ? 酒は死守したぞ。大勝利だ! がははは」
マライタ先生が体中に木の葉や土埃をつけて、顔を真っ赤にさせながらヨタヨタとこっちへ歩いてきている。その隣にはノーム先生もいて、やはり顔を赤くして千鳥足だ。肩を互いにぶつけなから、ご機嫌な声で歌を高らかに叫んでいる。
「左様。酒を死守する戦いは、それはもう熾烈を極めましたぞ。酒樽に群がってくる熊どもを、ちぎっては投げ、蹴り飛ばして、大地に飲み込ませ、我が子孫に代々伝承させるべきほどの戦場働きであった」
ノームのラワット先生も、相当に酔っぱらっているようだ。マライタ先生と熱い抱擁を交わす。
「おお、我が戦友よ! 酒樽防衛戦の勇者として称えようぞ!」
エルフ先生はコメントをする気にもならないようだ。ただ、壊れている校舎を見上げて、マライタ先生に一言。
「マライタ先生。酔いが引いてからで構いませんが、校舎の復旧と機器の修理をお願いします。それさえしてくれたら、後は勝手に酒でも何でも飲んでいて構いませんよ」
マライタ先生が赤いクシャクシャヒゲで覆われた顔を笑顔で破顔させて、大きな白い歯をズラリと見せた。
「おう、任せとけ! んじゃ、勝利の祝いだ。ラワット先生、次の酒樽に突撃するぞー!」
「おお! 心得た」
千鳥足のまま、小人2人が「ダバダバ」と小走りで森の中へ入っていく。
さすがにハグ人形も呆れた様子だ。エルフ先生の頭の上でうつ伏せになって寝転んで、頬杖をついてあくびの仕草をする。
「『酒は人を狂わせる』か。ワシは飲食の欲求が絶えて久しいから、今はもう何の感慨もないが……ワシも生前は、あんな生き物だったのだろうな」
そして本題に入った。頬杖はそのままだが。
「それで、だ。エルフ先生よ。帝国の上層部は、あのカルト派貴族と懇談するつもりなのかね」
エルフ先生が救護所テントの入口に手をかけて、うなずく。
「彼らの口ぶりから推測すると、そうでしょうね。茶番で、騒動を仕込んだ犯人とはいえ、帝国の危機を救った勇者であることには変わりありませんし」
ハグ人形がエルフ先生の髪の中で、ジタバタと背泳もどきの動きをする。
「うむむ。そうか、そうなるのか……まあ奴については、死者の世界に戻ってからリッチー協会を通じて、より厳重な拘束罰を科せばよい。それでもう、今回のような真似はできなくなるだろう。が、しかし……」
珍しくハグ人形が口ごもった。
「闇の魔法による世界間移動ではなく、生徒たちが指摘したようなドワーフ科学による世界間移動であれば、厄介なことになるな。間違いなく、外交問題に発展するだろう」
いつの間にか、ティンギ先生が戻ってきていてハグの疑問に答えてくれた。
「どうでしょうかね、それは。うやむやにされて終わりになると思いますよ。リッチーさん」
エルフ先生はノーコメントだった。その代わりに、ティンギ先生の姿を見て思わず首をかしげる。
「……ティンギ先生。どうしたんですか? 服がボロボロじゃないですか」
確かに、ティンギ先生の服は見事なまでにボロ布と化していた。靴も底が剥がれて傷だらけの素足が見えている。体中には無数の切り傷や打撲跡が見える。そんなひどい有様なのだが、ティンギ先生は至って気楽に微笑んだ。
「いやははは。あの熊とフクロウの群れの中で、連中と一緒にフォークダンスをしていたんだよ。なかなかのスリルだった」
思わず目まいがして、救護所テントの天幕にすがりつくエルフ先生である。
「……何をやっているんですか、この大変な時に」
しかし、頭の上のハグ人形は意外に真面目になって、ティンギ先生に顔を向けた。
「外交問題にはならないと? どういうことかね? 死者の世界とドワーフ世界とは交流があまりないが、それでも正規の世界間移動ゲートを通じた交易や人的交流はあるぞ」
口調が弱くなっていく。
「それに、我がリッチー協会も一枚岩ではない。過激派というか、融通が利かない連中もいるのだよ。我々が開発中の、この召喚ナイフの強力なライバルとなりうるならば、連中が何を仕出かすか分かったものでは無いのだがね……ゴニョゴニョ」
ティンギ先生は、それでもヘラヘラと微笑んだままである。
「ドワーフ科学の中枢技術の中身は多分、リッチーでも〔解析〕することは無理だよ。メイガスや魔神たちが過去何度も挑戦したけど、全て失敗してる。我々セマンもね。証拠がつかめない以上、どうしようもないと思うよ」
そして声の調子を少し変えた。
「今回の騒動で、ドワーフ世界とセマン世界の関係団体が慌てているのは間違いないけどね。私程度の〔探知〕魔法では、大したことは分からなかったけど。今後は反省して、少し大人しくなると思うよ。同じドワーフやセマンの中で、今回の事件を『真似する』不届き者が出ない、とは限らないからね」
エルフ先生が深くうなずいた。
「そうですね。模倣犯が出ることは避けて欲しいですね。まあ、カルト派貴族さんのような強力な魔力を持つ人なんて、メイガス以外にはほとんどいないでしょうけれど」
そして、ティンギ先生に改めて視線を投げた。
「まだ、概算なのですが、帝国情報部の試算結果を大将から教えてもらいました。今回の事件による死傷者は数十万人に達する見通しです。田舎を中心に、生命反応が絶えた村も数多く出ています。竜族独立派やクラーケン族、狼族などの、盗賊の活動が活発化する恐れも出てきました」
口調が沈んでいく。
「他にも情報をまとめてありますので、後で貴方の上司に渡して下さい。抑止力の材料にしてもらえると、エルフ世界としても助かります」
ティンギ先生が肩を少しすくめながらも、丁寧にうなずく。
「仕方がないな……分かったよ、被害情報を上の人たちに見せてみる」
「ぐう……」とティンギ先生の腹が鳴った。
「お腹がすいたな。何か食べてくるか。それじゃ、エルフ先生とハグさん、後でまた」
そのまま、校舎そばの炊き出し所に向かっていった。
両手を腰ベルトに引っかけて見送るエルフ先生である。頭の上のハグ人形もあぐらをかいて、ティンギ先生の背中を見送っている。
「やれやれ……どいつもこいつも、リッチーという厄介な存在を軽視し過ぎだろ。これは、リッチーの過激派どもを、何とかして説得する必要が出てきてしまったな。過激派リッチーにとっては、ドワーフの重要技術や証拠なんてものは意味がないのだよ。単純に『暴れる口実』が欲しいだけだからな」
また物騒な話を始めたハグ人形だ。エルフ先生も怪訝な表情になる。しかし、特に話を遮るつもりはない様子だ。
ハグ人形がやや自慢げな口調になって、話を続けた。
「前にも話したが、リッチー単独でこの地球を焼き尽くすことなど造作もないんだよ。高温のマントル層を地表へそのまま〔テレポート〕させて、天地返しにして、この地表をマントルで埋め尽くせば済む話でな。ついでにマントルを中抜きした衝撃で地球も割れる。さて、ワシもちょっと死者の世界へ戻るか。ではな、エルフの先生。パパラパー」
<ポン>と水蒸気の煙が発生して、<パパラパー>とラッパ音が鳴り、ハグ人形の姿がエルフ先生の頭の上から消えた。まさに言いたい放題だ。
「さて……私も今は〔治療〕に専念しますか」
エルフ先生が軽く背伸びをする。両耳の先を軽く上下させて、救護所テントの中へ戻っていった。たちまち、法術のマルマー先生から、「遅いじゃないか、何を遊んでいるんだ」と文句が飛んできたが……当然のように無視するエルフ先生である。
【サムカの居城】
「……なるほどな。そんなことになったのかね」
サムカが城の執務室の机に書類を広げて、万年筆を掌の上でクルクルと回しながらハグの話を聞いている。
サムカはいつものガウンを羽織った部屋着で、ハグもいつもの古着ファッションである。部屋の隅には、置物と化したゾンビが3体、直立不動の姿勢で立っている。ハグが来ているので、防護シートですっぽりと覆われており、本当に置物のようだ。
ハグがうなずきながら、〔空中ディスプレー〕画面を出現させて、タカパ帝国国営放送の録画映像を流した。白黒映像で、しかもノイズがかなり入っての音声なしという酷いものだが。
「うむ。結局ナウアケ卿は、タカパ帝国皇帝と公式会談までこなして、感謝状までもらったようだな」
確かに、サムカも見知っている顔のナウアケ卿が、にこやかな笑顔で皇帝と会談している様子が映し出されている。ちなみに皇帝が一段高い位置でイスに腰かけての会談である。
「ほう。彼が皇帝かね。確かに狐族としても品位が高そうな、たたずまいだな」
サムカが素直に感想を述べる横で、ハグが微笑んだ。
「そうだな。皇帝ロバック・ラマイ。先進的で公平な名君という評判だ。魔法教育にも熱心だよ。残念だったな、サムカ卿。皇帝への謁見を、『先に』越されてしまったな」
サムカは特に何も思っていないようで、書類を読んでいる。(さすが、引きこもりの田舎貴族だな……)と思うハグだ。
やがて、書類を読み終えたサムカがハグに視線を向けた。
「カルト派貴族の退治用に、魔法を生徒たちに授けたが……使う機会はなかったようだな。残念ではあるが、ナウアケ卿の策が我々を上回っていた……という事にしておくか。それよりもだな、ハグ」
次にハグが画面に表示した報道発表記事に関心を寄せる。〔空中ディスプレー〕の機能で、狐語からウィザード文字に自動〔翻訳〕されているが、ノイズのせいで翻訳精度は高くないようだ。
「熊ゾンビ兵が100万か。扱える武装や魔法がかなり限定されるが、それでも守衛や門番程度には使えそうだな。オメテクト王国連合では、これで死者不足がかなり緩和されたのではないかね?」
ハグもその話題にしようと思っていたらしく、素直にサムカの質問に答える。
「うむ。確かに熊だから、いまだに不足している需要分野も残っているようだが、輸出も企画しているらしいぞ。その宣伝も兼ねて、君のファラク王国連合に5000の熊ゾンビを寄付することになった、という記事だな」
藍白色で白い顔のサムカの眉間のシワが少し深くなった。腰をかけているイスが《ギシリ》と軋む。
「カルト派の思うように事が進んでしまったか。これで今までの悪評も帳消しになるだろうな。寄付された熊ゾンビに対する感謝状を、こうして私も、したためる羽目になった」
ハグが木蓮の花の色の瞳を細めて、ふっと微笑んだ。
さすがに執務室の石壁から、石の粉が噴き出す。慌ててサムカが万年筆を机の上に置いて、3体の直立不動ゾンビに被せられている防護シートを確認した。大丈夫なようだ。
ほっとしているサムカを見ながら、ハグが話を続ける。
「その熊ゾンビなのだがね。ワシがちょっと〔解析〕した範囲では、残留思念は元のアウルベアだけではない。この騒動で死んだ、森の動物や原獣人の残留思念もかなり多く含まれておる」
サムカがイスに座り直した。更に《ギシリ》と軋む音がする。
「まあ、そうだろうな。1つの思念体を2つに強引に分けているから不安定だ。生前の、あの凶暴性もそれが理由だしな。ゾンビ化するためには、追加の残留思念があった方が安定する。というか、その程度のことなら、いくら私でも知っているぞ」
ハグがうなずいて、手をかざした。
「ワシの話の途中で口を挟むでない。問題はこの後だ。残留思念の中に、獣人族由来のものがかなり含まれていた。推定できっちり50万人分だな」
さすがにサムカの目の色が厳しくなった。イスから立ち上がりかけて顔をうつむかせ、改めて座り直す。魔力のせいか、イスの軋み音が先ほどよりも強くなっていく。
「うむむ……そういうことか。このことは、先方のタカパ帝国には伝えてあるのかね?」
ハグが淡黄色の木蓮の花の色の瞳を細めて、肩をすくめる。
「いいや。伝えたところで、普通の獣人族には残留思念は見えないからな。そのまま放置していても、そのうち希釈されて消滅するものがほとんどだ。中には運よく野良ゴーストになるものもあるだろうが、それでも死んだ場所に縛りつけられるから、せいぜい幽霊屋敷や心霊スポットになる程度だ。国として取り組むような案件ではないだろう」
サムカが天井を見上げて、軽く目を閉じた。
「……そうだな。だが一応、私の教え子には伝えておこう。知って残留思念や野良ゴースト退治をするのと、知らないのとでは……多分、何かが違うはずだ。死者である私では、うまく言葉にできないが」
ハグが、再び〔空中ディスプレー〕の白黒画面で、ノイズだらけの無声映像を見る。
タカパ帝国の国営放送のニュースのようで、海賊に制圧された魚族や人魚族の村や町に、帝国軍を派遣するという内容だ。タカパ帝国軍が新たに発足させた『帝国海軍』の、お披露目も兼ねている印象だ。
40万トン級の空母の甲板に、50機以上もの円盤型攻撃機が配置されている。魔法駆動で標準型の〔防御障壁〕とステルス装備、対クラーケン族用の自動追尾式ロケット砲を多数搭載しているのがサムカにも見えた。
少し首をかしげる。
「かなり大掛かりだな。海賊とやらは、それほど強大な勢力を有しているのかね?」
ハグもよく知らないようだ。(単に調べていないだけだな……)と思うサムカである。それを察したのか、「コホン」とハグが軽く咳払いをした。
「治安の悪化はまだまだ続いておるから、山賊や海賊のみならず周辺王国への『示威行為』も兼ねておるのだろう。いくつもの町や村が賊どもに屈して占領されたようだから、属国が反旗を翻す機会になり得る。が、その属国や周辺王国も等しく被害を受けておるから、そんな余力は実際ないだろうがね」
素直に納得するサムカ。しかし、1つ疑問点が生じたようだ。万年筆を手の中でクルクル回しながらハグに聞く。
「かなりの町や都市が崩壊しているという事は、難民も大勢発生しているという事か。難民キャンプを設ける土地が確保できれば良いのだが。森の妖精が殺気立っているであろうから、難しいだろうな。かといって、外国へ攻め込んで領土を広げるには、国内の混乱が支障になる」
ハグが腕組みをして、軽く頭をひねった。
「まあ……ワシらのように死者になれば、食料やら住処やらの心配は無くなるのだがね。それこそ、海中に沈んで住処にしても構わないわけだし」
サムカが頬を緩めた。
「海中にも妖精がいるから、そうそう簡単にはいかぬだろう。新天地がどこかあれば良いのだが……あ」
サムカの表情が険しくなった。
「タカパ帝国がこのところ、北方への調査隊を派遣していたな。西の国へも侵攻していたはずだ。まさかとは思うが……」
ハグが少しだけ肩をすくめて見せた。
「今の段階では、推測に過ぎぬな。続報を待って判断した方が良かろう」
サムカがうなずいた。
「そうだな。しかし……しばらくの間は混乱が続くと見てよいだろう」
ハグも同意見のようだ。しかし、この話題はこれまでにして、別の話題を提示してきた。キナ臭い話はリッチーも嫌いなようである。ハグの木蓮の花の色の瞳がキラリと輝いた。
「そうそう、学校の復旧は終わったらしいぞ。明日から授業の再開だそうだ」
サムカがようやく山吹色の瞳を細めて笑みを浮かべた。ナウアケ卿宛の感謝状にサインを入れて、それをハグに手渡す。
「そうかね。私もまた〔召喚〕されるという事だな。大きな戦闘をくぐり抜けてきた、我が教え子たちに会える時を楽しみにしておくか」
【魔法学校】
マライタ先生による迅速な復旧工事のおかげで、事件の翌日には既に学校が再開されていた。
(それ自体は喜ばしいことですが……)
校長が教育研究省との〔空中ディスプレー〕会議を終えて、机に座りながら窓の外を見やる。浮かない様子なのは一目瞭然だ。画面は通常の国営放送の定時ニュースに切り替わっていた。もちろんトップ記事扱いで、死傷者50万人という大災害の復旧関連の情報だ。
(故郷を失った生徒も少なからずいますし……復旧作業の手伝いで一時帰省している生徒も、全校生徒の半数近くに上りましたからねえ。事実上の休校ですね)
校長が手元に小さな〔空中ディスプレー〕を表示させて再確認する。
(全校生徒の帰校予定から見て……数日間は、希望者のみ対象の特別授業とすることにしましょうか)
そして、その旨を校長指示として全教師と事務職員に通達し、机の引き出しに鍵をかけた。
(では、私も被害生徒たちの実家を回って参りましょう。こんな私への処罰が減給半年だけというのも、正直にお伝えしなくてはなりませんし……念のため、私の〔蘇生〕〔復活〕用の生体情報と組織サンプルを最新版に更新しておきましょうか。殺されても構わないようにしておかないと)
ペルとレブンも数日間帰郷していた。故郷でゴーレムを10体ほど作って瓦礫処理などをさせていたが、それも目途が立ったようだ。今朝、学校に戻ってきたばかりである。おかげでサムカの〔召喚〕も中止になってしまった。半日早ければ、まだ中止にならない可能性もあったのだが。
ムンキンとラヤンの故郷はさすが竜族の城塞都市だけあって、復旧も自力で行っているようだ。彼ら生徒たちが帰郷する必要は特にないということで、通常通りに学校で勉強をしている。
4人とも共通して、帝国からの『復旧支援がない』のは仕方がないと思っているようだ。
実際、帝国の首都である帝都のすぐ近くまで100万の敵が押し寄せてきたので、建物や道路、水道などの生活インフラに重大な損害が出ていた。あの強靭な爪でザクザクと切り刻まれては、ひとたまりもない。
ミンタはテロ実行犯たちが逮捕されて故郷の治安も回復したので、事件の2日目に戻ってきていた。それでも、しっかりとパーティはやってきた様子である。
ペルは寄宿舎の1階ロビーで、肩を落としてソファーに座っていた。
(ミンタちゃんからも聞いたけれど、本当に生徒数が半分くらいになっちゃたな……)
実際、ロビーを行き交う生徒の数が明らかに減っている。生徒でもアクセスできる、寄宿舎の生徒の部屋の『在不在』を示すシグナルを見ると、やはりまだ半数近くが『不在』表示だ。ただ、帰校予定をしている生徒もかなりいる。
ペルが続いて、これからの当座の授業予定表を表示する。先生たちは皆そろっているので、授業を行うこと自体は問題なさそうだ。大方の生徒の今後の予定が決まるまでの数日間は、教室の生徒数を見ながら講義実習を行うことになっている。
さすが帝国というか、普通であれば半年間ほどは休校になりそうなものだが、違うようだ。
「テシュブ先生の〔召喚〕は、もう少し学校が落ち着いてからになりそうかな」
ペルが軽くため息をついて、〔空中ディスプレー〕を消した。
サムカの授業は、登録上は3人しか生徒がいないので復旧の優先順位は最下位なのである。人気のあるエルフ先生やノーム先生の精霊魔法授業、マライタ先生の魔法工学授業、ソーサラー魔術、法術、ウィザード魔法の力場術授業といった人気が高い。選択科目を含めて受講生徒数が多い科目から、復旧が優先されるのは仕方がない。
ロビーの一角で不意に泣き出して抱き合い始めた生徒たちの姿が、ペルの目と耳に飛び込んできた。
(また1人、学校を去ることになった生徒が出たのかな)
ペルが自然な仕草で、自分の黒毛交じりの尻尾を引き寄せて自身の胸に抱き、鼻先と口元のヒゲ群と両耳を伏せた。ただでさえ存在感が薄いのに、おかげでさらに印象が弱くなる。
(私は今までずっと独りぼっちだったから、悲しんでくれるお友たちがいるだけでも羨ましいけどな……あ。いけない。こういう思考は良くない良くない)
ブンブンと頭を左右に振るペル。ロビーのソファの背もたれに頭を預けて、天井を見上げる。学校の寄宿舎ということもあるが、非常にシンプルな天井だ。ウィザード魔法による永久灯しかない。
(……ミンタちゃんは有名人だから、お友達も多くて、お別れが悲しそうだったなあ。少し泣いてた)
昨日、帰ったばかりのペルの目に最初に映ったのは、ミンタが大勢の生徒たちと一緒に、数名の生徒を見送る場面だった。
「魔法を学ぶことは、私たちの義務だからねっ。難民キャンプで腰を落ち着けたら、すぐに復学の手続きを始めるのよ! 帝国教育研究省の補助制度もたくさんあるから利用しなさい。遅れた分は、私がしっかり教えてあげるから取り戻せるわ。いいわね!」
ミンタが涙目になりながらも、去っていく生徒仲間に叱咤している姿と口調が、ペルの記憶に鮮烈に焼きついている。
(……さすが、ミンタちゃんだよね。かっこ良かった)
ふう……
ため息を天井に向けて吐く。
次いで思い出したのは、ムンキンであった。
彼はミンタ以上に1年の男子生徒のボス的な立場なので、別れの場面は、どこのドラマか映画かと錯覚するようなものだった。殴り合うわ、肩を組んで抱き合うわ、喚き散らして暴れるわ……最後に男泣きして無言で見送る様は、ペルにとっては少々刺激の強いものだったようだ。
(男の子だよね。ちょっと理解できない行動が多すぎるけど)
なぜか、笑みがこぼれるペルである。
胸に抱いていた自分の尻尾を手放して、両手を膝の上に置いた。ソファーの背もたれに預けていた頭も起こす。
そして、視線をロビーの外に向けた。前庭の広場が視界に映る。そこにも生徒の姿が多く見え、荷造りしている生徒も数人ほどいた。
ラヤン先輩については彼女の冷徹な言動のせいなのか、いつも通りである。友人も少ないようだが、学校を去ることになった彼女の友人はいなかったようだ。(本当に強い人だなあ……)と思うペルである。
「レブン君とも昨日再会したけど、いつも通りだったな。学校に残るようだし、良かった」
そうつぶやくペルに、レブンの声がかかった。彼もロビーに来ていたようだ。
「やあ。ペルさん。魚族は熊や大フクロウの襲撃を受けなかったからね。クラーケン族の海賊騒動だけだったから、被害もそれほど大きくなかったんだよ。それよりも、ペルさんの故郷が大変な事態だと聞いたけど、大丈夫なのかい?」
いつもの口調とセマン顔でレブンがやって来て、向かいのソファーに座った。
ペルが少し肩をすくめて、固い笑みを浮かべる。
「うん。ゴーレムをいくつか提供したら用済みだって。まだまだ村の中に入らせてもらえないから、学校で勉強するよ。後で、合同葬儀には参列するつもり。葬儀場には入れないけど」
レブンの口元が魚に変わったが、それもすぐに人の形に戻った。何か言おうとしたようだったが、止めたようだ。
「……そろそろ、今日の一時限目が始まるな。ジャディ君の新居を、その前に見に行かないかい?」
バントゥ党がロビーにやって来た。さすがに疲れた表情だが、バントゥの顔には何か異様な高揚感が伺える。いつもの側近取り巻きの竜族のラグと魚族のチューバもいて、総勢は10人余りというところだろうか。
一時帰省する生徒たちに、バントゥが声をかけて励ましている。
「金銭面を含めて、困ったことは遠慮なく我がペルヘンティアン家に申し出てくれ。僕も可能な限り協力するからね」
バントゥへの感謝の言葉が生徒たちの間から湧き上がるのを満足そうに聞きながら、ペルとレブンの姿を見つける。
「やあ、これはアンデッド先生の専門クラスの皆さんではないですか。ご活躍はニュースで見たり、警察から聞いていますよ。大したものだ」
ペルが《びくっ》と黒毛交じりの尻尾の毛を逆立てた。レブンのセマン顔も人形の面のようになっている。
バントゥは構わずに、堂々とした足取りで歩み寄ってくる。彼の口元が若干緩んでいるように見えるペルとレブンだ。一方のラグとチューバの表情には、思いつめたような迫力が出ている。
バントゥがペルとレブンが座っているソファーまでやって来て、見下ろしながら微笑んだ。
「君たちの故郷も、かなりの被害を受けたのだろう? 遠慮なく僕に申し出てくれ。支援するよ」
そして、左右に立つラグとチューバの肩に手を回した。
「ラグ君とチューバ君も、『僕の口添え』で難民キャンプ送りにはならずに済んだ。ラグ君の故郷は残念ながら消滅してしまって、生存者は彼だけだからね。チューバ君の故郷は海賊に占拠されてしまった。それもこれも、宰相閣下の対処の甘さが招いた悲劇だ。ペルさん、レブン君。君たちの故郷も帝国からの援軍は来なかったのだろう? 悔しくはないのかな」
ラグが青藍色の瞳を烈火のような怒りで燃え上がらせて、黄赤色の細かいウロコを逆立たせた。
「そうだ! 帝国の仕打ちは『絶対に』忘れない。何が何でも、糞宰相に復讐してやる。下級生どもよ、逆らうならば容赦しないからな」
有無を言わせない怒声に、竦み上がるペルとレブンだ。ソファーから思わず立ち上がってしまい、そのまま立ちすくんでいる。
チューバはセマン顔のままだが、その黒い紫紺色の瞳にはラグに劣らないほどの怒りの炎が燃え盛っているのが見て取れる。
「レブン君。僕の故郷の町は、聞いての通りクラーケン族に制圧されたままだ。自治軍も自警団も、僕を残して壊滅してしまった。一刻も早く僕の町を海賊どもから奪還して欲しいのだが、どの魚族の町も閉じこもって軍を出さない。レブン君、君の町もそうだ。このまま見捨てるつもりなのか?」
そう言われても、一介の学生であるレブンやペルにはどうしようもない話である。少しずつ後ずさりながらペルとレブンが、先輩たちに上目遣いで愛想笑いを浮かべる。
「わ、私のような異端の学生じゃ、何の力にもなれませんよ。ね、レブン君!」
「う、うん。ただでさえ、僕たちは毛嫌いされている魔法使いですから。だよね、ペルさん!」
『確かにその通り』だと、バントゥ党全員も思ったのだろう。バントゥが話題を切り上げて視線をペルとレブンから外し、他の生徒たちを見渡した。チューバだけはレブンを睨みつけているが。
バントゥが声を張り上げた。赤褐色の瞳がギラギラ輝いていて、両耳と鼻先のヒゲがピンと立っている。
「皆さん! この未曾有の大被害をもたらしたのは、宰相閣下です。何もできずに、危うく帝都を熊どもに破壊されるところでした」
実際はミンタの故郷の地方都市であっても撃退できているのだが、その点については言及していない。
「それを救ったのは、たまたま立ち寄って下さった、死者の世界の貴族『ナウアケ様』でした。我々ペルヘンティアン家の『全面協力』の元、こうして危機は収まったのです」
ドヤ顔になるバントゥ。
「ですが今もなお、帝国の治安状況は『最悪』の状態が続いています。海賊どもの跳梁跋扈や、テロ組織などの暗躍も現実の脅威としてそこにあります。宰相閣下の派閥が役に立たない今、我らペルヘンティアン家にお任せあれ! 必ず平安を取り戻してみせましょう」
バントゥ党の10人余りが「わあああっ」と喝采すると、それが呼び水になったのか、他の生徒たちも拍手をし始めた。ペルとレブンはそれを聞きながら、一歩一歩ゆっくりと後退していく。
今度はラグが雄叫びを上げた。かなりドスが利いた低音だ。
青藍色の瞳をギラつかせて、黄赤色のウロコで覆われた尻尾でロビーの床を叩く。やはりまだ負傷した右腕は、動かしにくいようだ。自動〔治療〕の魔術を使用したのだったが、不具合が出てしまったようである。
「宰相は俺の故郷を『熊ごと攻撃して』焼き尽くした。まだ、数十人の生存者が残っていたにも関わらずだ。今や俺の町は、瓦礫すら残っていない。全て溶岩になって溶けて、ただの岩盤になってしまった。住民もだ。俺の家族も親戚もだ。絶対に許さないぞ!」
チューバもようやくレブンを黒い紫紺色の瞳で睨みつけるのを止めて、聴衆に顔を向けた。かなり魚顔に戻ってしまっている。
「僕の故郷の町は、海賊に制圧されたままです。ですが、いまだに帝国や他の魚族の軍は『町の奪還』に向かっていません。このまま見捨てられれば、僕の町もラグ君の故郷と同じことになるでしょう。君たちの故郷も、いつそうなるか分かりませんよ」
生徒たちの間に動揺が走っていくのを、口元を緩めて見据えるバントゥである。顔は非常な悲しみに包まれているような印象だが。
「そういうことだ。皆さん。宰相閣下などは見限り、我らペルヘンティアン家に合力して欲しい。我らにはナウアケ様という、力強い味方がいるのだ。この混乱をすぐに収めてみせましょう」
聴衆の生徒たちから再び拍手が上がる。満足そうな笑みを浮かべたバントゥ。
そこへリーパット主従が血相を変えて、寄宿舎ロビーへ駆けこんできた。
「貴様ら、何をやっているかァ! 帝国への反逆は重罪だぞっ」
彼らもバントゥ党のラグやチューバに負けず劣らず、憤怒の凶悪な形相だ。尻尾も見事に逆立って45度の角度で固定されている。特にリーパットは怒りのあまりなのか、瞳の色が赤いザクロ色に染まっている。普段は黒茶色なのだが。
「バントゥ! 内乱誘致をするつもりかっ。死者の助けを得るなど、我が栄光ある帝国を汚すだけだ。宰相閣下もそうだったが、貴様らペルヘンティアン家の息がかかった警察の、今回の不甲斐なさを見ろっ。まずは、そいつらの責任を追及して処断すべきだろう!」
すかさず、腰巾着のパランが腕を振り上げた。
「そうだ、そうだ! リーパットさまの仰る通りだ」
リーパット主従の怒声抗議にペルとレブンがいよいよ逃げ腰になっていく一方で、バントゥは余裕の笑みを口元に浮かべた。赤褐色の瞳がキラリと輝いて、尻尾が優雅に振られる。
「ふふ。その警察の予算を、『削減せよ』と騒いでいたのは君たちだろう。そのせいで、多くの村や町に武装警官を展開できずに、50万もの尊い命が失われたのだ」
そうらしい。
「それに、ラグ君の故郷を破壊した帝国軍部隊には、宰相閣下の派閥の部隊も含まれていたようだが……その主力は君たちブルジュアン家の兵だ。この機に乗じて、内乱を企てているのではないのかね? 逆賊はどちらだろうな。なあ、リーパット・ブルジュアン君」
リーパットがブチ切れた。ザクロ色に燃えたつ瞳で、奇声を上げてバントゥに飛びかかっていく。
真っ先に怒声を上げて迎え撃ったのは、当然ラグとチューバだ。他に、バントゥ党のクレタ級長やウースス級長、それにベルディリ級長まで参戦して、取っ組み合いの大ゲンカに発展し始めた。コントーニャは、ケンカに参加せずに、他のバントゥ党員と一緒になって、リーパット主従を非難し続けている。
さらに、ムンキン党のバングナン・テパまで、第三勢力として乱闘に飛び入り参加してきた。
「おいおい! 楽しそうな事やってるじゃないかっ。俺たちも混ぜろや!」
仲間の党員数名と共に、リーパットとバントゥ党の双方へ殴り込んでいく。褐色の瞳が、実に嬉しそうにキラキラ輝いている。彼は力場術の級長でもあるので、専門クラスの生徒も何名か加わっているようだ。
一方で、うんざりした表情を浮かべているのは、法術専門クラスのバタル・スンティカン級長とその仲間だ。
手にしていたコーヒーのカップを近くのテーブルにおいて、頭の渋い柿色のウロコを逆立てながら、《バシバシ》と尻尾で床を叩いている。
「君ら、余計な仕事を増やすなよ! ただでさえ、今は法力場サーバーがパンク寸前なんだぞ。やっと、小休止してコーヒーを飲んでいる俺たちを、過労で追い込む気かよっ」
しかし、『時すでに遅し』であった。この騒動で生徒たちもかなり不満が高まっていたようで、一気に大乱闘に発展していく。あっという間にスンティカン級長たちも、騒乱に巻き込まれてしまった。コーヒーカップが宙を舞って飛んでいく。
生徒の悲鳴と怒号が渦巻く中、アンデッド教徒のライン・スロコックが占道術専門クラスの生徒数名と、そそくさと騒乱の輪から脱出してきた。レブンに手を振ってにこやかに笑う。青緑色の瞳が嬉しそうにキラキラしている。
「レブン殿はここから逃げた方が良いぞ。我らは絶好のスリルを体験する機会なので、ご同行できぬ。お許し願いたい。では後ほど!」
そのまま、再び騒乱の渦の中へ飛び込んでいった。魚顔に戻っていないので、至って正常なのだろう。占道術恐るべし、である。
レブンが反射的にペルの手を引っ張ってロビーから逃げ出した。ロビーで怒声と物が壊れる音が立て続けに起きている。攻撃魔法まで使っているようだ。
「ぺ、ペルさん! 巻き添えを食らう前に、屋上のジャディ君の新居へ行こうよ。ここにいたら、僕たちまで停学処分を食らいそうだ」
早くも駐留警察署から、数名の完全武装した警官たちがこちらへ駆けてくる様子を、寄宿舎の外に確認する。軍警備隊詰所からも、数名の兵士が出てきた。
屋上へ向かう階段をレブンに引っ張られて上っていきながら、ペルが尻尾と両耳の先の毛を竹ホウキのように逆立てている。口元や鼻先の細いヒゲ群も、不安定な挙動をしている。生徒たちが悲鳴を上げて右往左往している中、一気にレブンと2階まで駆け上がっていく。
屋上へ出る扉に手をかけたところで、ようやく落ち着いた2人であった。レブンが顔を魚状態からセマン型にしながら、安堵の息をつく。
「はあ、はあ。やっぱり警察と軍が駆けつけたみたいだね。危なかった」
一方のペルも息が完全に上がっているが、彼女の動揺はそれだけではないようだ。レブンに真剣な視線を向けた。その薄墨色の瞳の奥が、驚きと恐れで揺れている。
「レ、レブン君。リーパット先輩、恐ろしくなかった?」
「え?」と目を瞬かせるレブン。
「う、うん。凄い剣幕だったね。驚いたよ」
ペルが更に深刻な色合いの瞳になった。口元の細いヒゲ群が、四方八方に勝手に向いている。
「そ、そうじゃなくてね。狐族の雰囲気じゃなかった。何かもっと別の……」
まだよくわからない様子のレブンである。
「え? 僕もテシュブ先生も、ハグさんも墓さんも、リーパット先輩には死霊術をかけていないよ? 僕が見ても、『ごく普通のリーパット』だったと思うけど」
そうレブンに言われて、ペルも首をかしげた。両耳が交互にパタパタ動く。まだ少しだけ毛皮が逆立っているが。ロビーでは、まだ怒声と破壊音が続いている。警官と軍人らしき声も混じっているようだ。
「あ、ああ……そうか。そうだよね。〔魅了〕魔術でもなかったし。私の勘違いだね、きっと。リーパット先輩の目が一瞬だけ赤くなった気がしたけど、見間違いよね。『普通のリーパット』よね」
1人で自身を納得させている様子のペルに、レブンが明るい深緑色の瞳を細めて微笑んだ。若干まだ口元が魚のままだが。
「ペルさんが気になるなら、僕も注意して観察しておくよ。パリーさんとか変な連中もいるしね。何か〔憑依〕しているかどうか、カカクトゥア先生にも相談して調べてみる」
「うん、ありがとう」
ペルの気持ちが落ち着いてきたので、クスリと微笑むレブンだ。屋上へ出る扉を開けた。
「じゃあ、ジャディ君の新居を冷やかしに行こうよ」
【ジャディの部屋】
ジャディは、寄宿舎屋上の倉庫を見事に『鳥の巣』に改造してしまっていた。校長の指示通りに水道やトイレも完備されているので、まんざらでもない様子である。倉庫の屋根には彼専用の『止まり木』を備えつけている。
それに乗って周囲を見下ろすジャディの琥珀色の鋭い目に、屋上へ上がってきたレブンとペルが映った。
レブンがセマン顔のままで、倉庫屋根の上のジャディを見上げる。
「やあ、ジャディ君。新しい故郷はどうだった? ゴーレムが必要だったら遠慮なく言ってよ」
ペルもレブンの隣で同じようにジャディを見上げている。
「ご家族や、親戚、お友達は大丈夫だった? 私じゃ法術とか、生命の精霊魔法が下手だから、あまり役に立てないと思うけれど……ゴミ片付けくらいならできるからね」
ジャディが文字通りの上から目線で、凶悪な形相のまま「フン」と鼻を鳴らす。しかし内心は嬉しそうなのは、鳶色の尾翼がピコピコとリズムよく上下運動していることだけでも分かる。
「うるせえよ。オレたちは誇り高い飛族だ。他の種族の手助けなんか要らねえ。まあ、死んだ奴は出なかったし、ケガ人も大したことはない。故郷といっても、大空が棲み家の飛族だ。100キロ程度移動したくらい、誤差みたいなもんだぜ」
ペルがほっとした表情になって微笑んだ。頭の黒い縞模様が日に当たってよく目立つ。
「そうなんだ。ほっとしたよ。私の故郷もレブン君の故郷も、亡くなった方がかなり出たから心配してたんだ。さすが強い種族だね」
ジャディがさすがに「口が滑ったか……」とでも言いそうな表情になった。尾翼のピコピコ運動が見事に停止する。そんなジャディを労わりながら見上げるレブンである。
「僕たちが一時帰省していたせいで、テシュブ先生の授業が1回中止になって流れてしまっただろ。ジャディ君には悪かったと思ってるよ。寄宿舎の学食を1回おごるから、それで許してほしい」
ジャディがジト目気味になって、レブンにその凶悪な顔と鋭い瞳を向けた。そのまま止まり木から飛び降りて、レブンとペルの立つ屋上に降り立つ。
「おごるって、学食は無料だろうが。殿に会えなくなったことは、確かに怒っているけどな。だけど、故郷の復旧作業の手伝いじゃあ、仕方がねえよ。まあ、熊とかフクロウとか、オレだったら瞬殺で片付けただろうけどなっ」
それには意外に反論しないレブンとペルである。
「確かにそうかもしれない。あの時は、航空優勢がなかなか確保できなくて苦戦したからね。僕たち生徒や先生も〔飛行〕魔術や魔法を習得しているけれど、ダメだった。空を飛ぶことはできるけれど、とても大フクロウの大群を相手に、空中戦をするような技量は持ち合わせていなかったよ。ジャディ君だけでも飛行の得意な仲間がいてくれたら、かなり楽になったと思う」
またもや「しまった!」とでも言いそうな表情になったジャディである。あの当時、彼は茫然自失状態で、飛ぶことすらできない物体だったことを思い出したようだ。
そんな心中を見透かして、ペルも微笑んだままである。
「私もあの時、私の故郷が壊滅して、村人全員が安否不明だって聞かされたら……パニックになって何もできなかったと思う。それと、レブン君は苦戦したって言ったけれど、学校では基本的に防衛戦だけだったし。それほど大変じゃなかったよ。でも、ミンタちゃんやムンキン君、ラヤン先輩が怒り出すから、他の人にはあまり言い回らないでね。あ。小鳥になった白昼夢も、エルフ先生にはあまり言わない方が良いかも。機嫌がかなり悪くなるのよ」
ペルのフォローに感心しながらレブンが、少し口よどんでいるジャディに冷やかし口調で追撃をした。
「下手したら、また撃たれるぞ。それで、これから一限目の選択授業が始まるんだけど、用意をしないとい……」
ジャディが「バサッ」と大きな翼を羽ばたかせて、空中高く舞い上がった。やっぱり凶悪そうな顔である。
「うるせえよ。殿がいねえし、一限目は役に立たねえウィザード魔法の招造術だろ。誰が行くかっ! 俺のシャドウや風の精霊魔法を、強化するわけでもねえしな!」
ペルが微妙な顔をしながら同意した。
「そう言われちゃうと反論できない……」
レブンもジャディの返事と行動は、想定済みだったようだ。それでも一応呼びかけてみる。
「ゴーレム作りや操縦方法を扱うウィザード魔法だよ。とりあえず習っておいても、損にはならないと思うけれどな」
もう、そんな声も届かないようだ。ジャディがあっという間に森の上空へ飛んでいって、米粒大の大きさになるほどの距離になっている。レブンが少しだけ肩をすくめてみせて、ペルに顔を向けた。
「……これでジャディ君も故郷へ顔を出すだろう。まだ1回しか帰省していないっていうからね」
ペルもジャディを見送りながらうなずく。
「そうだね。あの方角には移転した飛族の巣があるのよね。私はこれから法術の授業だけど、レブン君は何だったっけ?」
「ジャディ君とこれから行くはずだった、招造術だよ。多分、今回はゴーレム作成の関連授業だと思う。バジリスク幼体騒動の時、そんな授業をしていたみたいだし」
レブンがため息混じりで答えると、ペルが少し不安な表情になった。
「不吉だね……ジャディ君と一緒に受けたくなる気持ちも分かるよ」
ペルの不安に同意しつつ、レブンがカバンを肩にかけ直した。口元が微妙に魚に戻っている。
「まあ、さすがに2回連続で、バジリスク幼体なんかを誤〔召喚〕することはないと思うけれどね。さて、じゃあ行くか。そろそろ予鈴が鳴る頃だ」




