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34話

【酒の恨みとか何とか】

 討伐部隊による初撃が森のあちこちで炸裂したことで、ヒドラ側も敵の襲撃を〔察知〕したようだった。たちまち、森じゅうに散らばっている仲間ヒドラが、彼ら独自の情報ネットを駆使して敵の情報を〔収集〕する。

 しかし、その間に容赦ない第二撃が行われて、50余りいたヒドラは30余りまで一気に減らされてしまった。


 平均して10の頭を持つヒドラなので、それぞれの頭が術式を詠唱して各種魔法を発動させる。

 まずは、物理攻撃用の〔防御障壁〕を1つの頭が展開し、特に大地の精霊魔法による狙撃をまず〔無効化〕する。

 この、石や岩石を秒速2キロの速度で放つ魔法は、その物理的な運動エネルギーの大きさでもって敵を破壊する。金属と違って普通の石なので、衝突すると細かい破片になって爆弾のように炸裂する。〔防御障壁〕を展開して、この魔法攻撃を〔無効化〕していないと、この狙撃でヒドラの頭でも粉砕されてしまう破壊力を有しているのである。


 ヒドラが展開した〔防御障壁〕は、この運動エネルギーを熱エネルギーに強制〔変換〕する術式で動いている。そのため、膨大な熱がヒドラの至近距離で発生してしまうという欠点がある。


 高速〔飛行〕して接近したムンキンが濃藍色の目を鋭く輝かせた。同時に、ヒドラから5メートルの至近距離で、この大地の精霊魔法を放つ。

「1発や2発だったら、『熱』も大したことないだろうけどな」

 〔飛行〕して敵ヒドラとすれ違う、その瞬間に一度に500発の石の弾丸が撃ち込まれた。1個平均で100グラム程度の石だが、それが全て熱に〔変換〕されていく。

 50キロの火薬が爆発したかのような巨大な爆発が起きて、ヒドラが〔防御障壁〕の中で燃え上がった。物理障壁なのでエネルギーである熱を防ぐことができなかったのである。


 秒速100メートルほどの速度で〔飛行〕しているので、燃え上がったヒドラの姿はムンキンにはもう見えない。はるか後方の森の木々の隙間から、爆発の閃光が漏れてくるだけである。

 が、その爆音と閃光で、猫顔の原獣人の群れが悲鳴をあげて逃げまどっている。すぐに、ムンキンを見つけて狐語で文句を言い始めた。当然のように無視するムンキンである。竜族には狐族のように、原獣人族を保護する義務はない。


 次の目標を探しながら森の中を旋回するムンキンが、簡易杖を爆発したヒドラに向けた。

「炭になったか。じゃあ、大地に飲み込ませよう」

 ペルと同じように大地の精霊魔法を使用して、炭と化しているヒドラを処理する。


 《ビシビシ、ビシ!》

 ムンキンが展開している〔防御障壁〕に、数発の結晶弾が命中した。水晶のようで指先ほどの大きさであったが、すぐに砕かれて粉になる。森の中からの狙撃だ。

 猫顔の原獣人が数頭ほど木の枝から落下した。撃たれたようだ。「他の森の獣にも被害が出ている」と、ムンキンのそばにある〔空中ディスプレー〕画面で報告を受ける。


 しかし、ムンキンは平然としたままで狙撃された方向を睨みつけた。同時に自動〔迎撃〕魔法が発動して、ムンキンの足元から30発もの拳大の結晶弾が、瞬時に発生して発射された。こちらは水晶というよりは金属のような色合いと質感である。


 ムンキンと狙撃した敵の間には、森の木々や草が生い茂っている。そのせいで敵の姿は全く見えないのだが、迎撃弾は風が木々の間をすり抜けるように飛んで森の中へ消えていく。大地と風の精霊魔法の同時使用である。

(灌木の葉が何枚か吹き飛ばされたから、後でパリーから文句が出るかもな)と思うムンキンの耳に、弱々しい苦悶の声が聞こえてきた。すぐに〔空中ディスプレー〕を出現させて、観測するムンキンである。

「なんだ、マンティコラの群れだったのか。生命反応は……よし、消えたな」

 そして、次の標的ヒドラを探す。近くに1匹いるという反応が返ってきた。ムンキンの濃藍色の瞳が鋭く光る。

「じゃあ、次はコイツにするか」


 そのヒドラの断末魔の情報は、瞬く間に他のヒドラに〔共有〕された。すぐに、物理障壁の術式が〔変更〕される。

 アウルベアやマンティコラにはそこまでの〔共有〕能力はないので、動きに変化は出ていない。野鳥の群れや、猿顔や猫顔の原獣人族の群れが大騒ぎしているので、「何か起きた」という程度の認識だろう。


 その頃。ノーム先生も生徒たちと同じように結晶弾によるマシンガン掃射を行っていた。

 そのヒドラが熱に〔変換〕せずに、敵弾の軌道を変えて、受け流すように〔防御障壁〕を変更したのを知り、小豆色の瞳を細めた。

「もう、気づいたか。早いね」


 そう言って、ライフル杖をヒドラに向けた。彼も高速〔飛行〕しているので、ヒドラとすれ違いざまの攻撃になる。

 本来ならば射程が1キロ以上あるので、これほど接近する必要はない。しかし今回は、パリーの管理する森への被害を最小限度に抑えるよう優先しなければならない。


 そうして、ヒドラから2メートルの至近距離に飛び込んだ瞬間、ノーム先生の杖から膨大な炎が噴き出した。炎の精霊魔法である。

 ヒドラの物理障壁では、魔法攻撃なので防ぐことはできない。しかし、別の頭が術式を詠唱して展開していた、対炎用の魔法障壁が発動した。ソーサラー魔術による〔防御障壁〕なので、『炎の精霊魔法』やウィザード魔法による『炎魔法』でも、両方防ぐことができる優れものである。

 それで防御できたと判断したヒドラが、別の8つの頭を飛び去りつつあるノーム先生に向けて、詠唱していた攻撃魔法を発動しようとする。


 その頃にはノーム先生はヒドラから200メートル離れて、森の木々の中を〔飛行〕していたのだが、感心したような声を出した。

「ほう。〔ロックオン〕されたよ。ええと、ソーサラー魔術の〔熱線ビーム〕が8本か。高速で〔飛行〕する敵に対する迎撃手段としては良い判断だけど……」


 ヒドラが防いだとばかり思っていた、ノーム先生が放った炎が〔変形〕した。あっという間にトカゲのような姿になって、体長20メートルにも成長する。そのまま大きな口を開けて、ヒドラを〔防御障壁〕ごとひと呑みにしてしまった。

「炎の精霊魔法には、用心しないといけないよ。蛇さん」


 炎のトカゲはそのまま森の大地にダイブして、沈み込んで消えてしまった。呑み込まれたヒドラの姿も消えている。さらに、周辺への延焼も起きていない。


 ノーム先生がシャドウからの更新情報を〔参照〕して、次の目標を捕捉する。数頭のアウルベアとマンティコラが近くにいたので、ついでに焼いて炭にした。

「さて。これも既に他のヒドラに情報〔共有〕されただろうから、次は使えないな。何にしようかなー」


 実際は、集合したことで知能が高まったとはいえ、そこまで機敏な対応ができるほどヒドラは賢くないのだが……確実に仕留めることを信条とするノーム先生らしい。彼も酒を飲み干されたことを怒っているようである。



 ヒドラがこの炎の精霊魔法に対処し終わるまでに時間がかかったので、残りヒドラの数は10体にまで減らされていた。アウルベアとマンティコラ群は、この時点までに全滅している。


 エルフ先生は炎の精霊魔法が苦手なので、代わりにソーサラー魔術やウィザード魔法による炎攻撃をしていた。しかしこれも今は、ヒドラの〔防御障壁〕で完全に防御されてしまった。それを確認してつぶやく。

「ようやくか……意外に対応に手間取ったのね。でも、炎だけじゃないのよ」


 高速〔飛行〕しながら、シャドウが捕捉している敵ヒドラがいる方向にライフル杖を向けた。

 これまでと違って、ヒドラが目視できるような至近距離での魔法発動ではない。マップの位置情報のみに基づく、森の中での遠距離射撃である。

 たちまち、ヒドラの生命反応が2つ消された。エルフ先生からの直線距離は500メートル程度だろうか。当然ながら森の木々に視界が遮られて、当のヒドラ2体は見えない。

「光の精霊魔法もあるのよね」


 それを合図にでもしたように、ミンタとムンキンも光の精霊魔法の遠隔射撃に切り替わった。〔レーザー光線〕が簡易杖の先から発射されるのだが、ヒドラのいる場所へ〔テレポート〕されている。

 森の中に散布されたドワーフ製の中継器によるものだ。いつの間にかヒドラの周囲を取り囲むように、泥団子の中継器が配置されていた。

 慌ててヒドラが光魔法用の〔防御障壁〕を展開するが、既に残り数は4体までに減らされてしまっていた。


 法術クラスのラヤンが感心しながら森の中を〔飛行〕している。彼女も一応、精霊魔法やソーサラー魔術、ウィザード魔法が使える。

「ヒドラって、そんなに弱くないモンスターなのに。まるで、害虫駆除するみたいに気軽にやっちゃうのね。アウルベアやマンティコラも一応、恐れられている魔法生物なんだけど、瞬殺か」


 簡易杖を生き残りヒドラに向ける。リーパット主従は赤点ギリギリの成績で魔力も弱いのだが、バントゥ党は上位の成績を有する。それでもアウルベアやマンティコラに叩き潰されたので、強力なモンスターという表現は正しいだろう。ミンタたちが強すぎるだけである。ラヤンはラヤンで〔運〕が良すぎる。


 森の中では動物たちや原獣人族がパニックになって、右往左往しながら悲鳴をあげたり、狐語で文句を叫んだりしている。かなり騒々しくなってきた。が、ムンキン同様、ラヤンも一顧だにしていない様子である。


「〔物理障壁〕と、〔索敵〕魔術、〔炎魔法の障壁〕、〔光魔法の障壁〕、〔大地の精霊魔法の障壁〕、〔情報共有の回線〕、〔飛行〕用のソーサラー魔術、自身の〔高速化〕を常時発動中か。攻撃に回せる頭は残り2つだけしかないのね。これはもう、勝負あったかな」

 ラヤンの突入に気がついたヒドラが迎撃に頭2つを向けた。ソーサラー魔術の熱線が、1つの頭の口から放たれる。が、それを難なく〔防御障壁〕で受け止めるラヤンである。

「その魔術は、もう〔解析〕されているわよ。残念ね」


 が、残るもう1つの頭が別の術式を発動させた。黒い霞のようなものがヒドラの周囲に発生して、それがラヤンに襲い掛かってきた。森の虫を〔召喚〕して敵を襲わせる、ウィザード魔法の招造術である。

 が、魔神との契約を果たしていないので魔力は桁違いに弱い。それでも、哀れラヤンは虫に食い尽くされてしま……わず、そのまま虫の黒い雲の中を突っ切って、ヒドラのウロコに覆われた表皮に『タッチ』した。

「残念ね。私は〔運〕が良いのよ」


 その『タッチ』は一瞬で、そのまま森の中へ飛び去っていくラヤンである。すぐさまヒドラが2つの頭を向けて、追撃の〔ビーム〕魔法を放とうとした。が、その動きが唐突に止まる。

 ヒドラが苦悶の絶叫を上げた。激しくのたうち回り、集合が解除されて10匹の蛇になる。そして、断末魔の痙攣を数回繰り返して動かなくなった。


 ラヤンが森の中を〔飛行〕しながら、後方の状況を〔空中ディスプレー〕で確認した。虫の群れは、猿顔の原獣人の群れに襲い掛かっているようだ。当然のように無視する。

「法術もね、〔治療〕だけじゃないのよね。全身の細胞をガン化させるのもできるのよ」


 その頃。マライタ先生も1匹のヒドラを単純にパワーで殴り潰して、酒の恨みを晴らしていた。

 最後に残ったヒドラの頭が周辺に毒を霧状に吐き出しながら、マライタ先生の腕に咬みついた。が、マライタ先生は容赦なく最後の頭を殴り潰す。

「馬鹿だな。そんな毒なんかとっくに解析して、ワシの免疫システムが解毒しているというのに。栄養剤をわざわざ注射してくれているようなものだぞ」

 そして、空中ディスプレーを出して戦況を確認した。

「ふむ。残り1匹か」


 その最後に残ったヒドラは、仲間が全て殺されてしまったのでパニックに陥っているようだ。〔飛行〕魔術を全力で発動させて、高速で森から脱出しようとしている。  

 木々の枝がヒドラの体に突き刺さって、かなりの出血が起きていた。


「その脱出ルートは〔予測〕済みだよ。残念だったね」

 レブンが冷静な声と顔で、〔空中ディスプレー〕に表示されているヒドラの位置情報を見ながらつぶやいた。

 そのヒドラの目の前に、死んだ仲間のヒドラたちが〔テレポート〕して出現した。

「ヒドラのゾンビだよ。大地に飲み込まれず、黒焦げの炭にされなかったヒドラは6体しかいなかったんだ。少ない出迎えになってしまって申し分けない」


 3分後。8名の討伐部隊全員が、レブンのいる場所へ〔飛行〕してやってきた。パリーもひょこひょこスキップしながら来て、ゾンビヒドラを見上げて不快な表情になっている。


 エルフ先生がレブンに懐いている7匹の巨大なヒドラのゾンビを空色の瞳で見上げて、困ったような顔をしていた。

「レブン君。どうするの? これ」

 レブンも明るい深緑色の瞳を閉じて、黒髪をかいている。

「どうしましょう。調子に乗ってしまいました。すいません。手足がないので、用務員の仕事は任せられませんし、警備員にするには巨体すぎますよね。アウルベアでしたら熊の手足がありますけど、全部跡形もなく粉砕されていたのでゾンビにできませんでした」


 ラヤンも紺色の瞳をゾンビ群に向けて、不快そうな表情をしている。

「ゾンビだものね。巨人用務員ゾンビと違って、禍々しさが強烈だわ。学校に置くのは難しいと思うわよ。法術の先生も、さすがにこの蛇を黙認することはできないでしょうね」


 ペルがパリーに、遠慮がちに聞いてみる。

「あの……パリーさん。ヒドラというか、この蛇たちって、元々どんな場所をねぐらにしているものなんですか? もしかして、地下洞窟とかですか?」


 パリーがヘラヘラ笑いを浮かべる。

「そうよ~。蛇だしね~。でも、これだけ大きいと、大きな洞窟になるけど~」

 そして、少しの間思案してペルに話を続けた。

「この辺りの森だと~1つだけあるかな~でっかい洞窟~」


 エルフ先生がうなずいた。

「なるほど。そこがヒドラたちの渡り先、というか『越冬地』なのね。じゃあとりあえず、その大きな洞窟にゾンビヒドラを収納しておきましょうか。聞いての通りよ。もうしばらくの間、魔力支援をお願いね」


 運動場の支援部隊から〔念話〕で即座に反応が返ってきた。リーパット主従とバントゥ党はようやく〔治療〕を終えて、ほっとした表情で運動場にうずくまっている。それでも、10メートルほど双方離れているが。


 ムンキン党のバングナン・テパが狐耳をパタパタさせながら代表して答えた。法術のスンティカン級長は〔治療〕法術を使いまくったので、今は疲れ果てて運動場で寝ている。

(了解です。カカクトゥア先生。戦闘モードから通常警戒モードに下げても良いですか? 魔力場サーバーへの負担を、少しでも減らしたいので)

 エルフ先生とノーム先生が顔を見合わせてうなずいた。

(そうね。敵は殲滅したから、構わないわよ)


 そして、討伐部隊員に視線を向ける。

「それでは、皆でその大きな洞窟に向かいましょうか。収納場所の情報を〔共有〕しましょう」

「はい。先生」

 レブンが簡易杖を振って、7匹の巨大なゾンビヒドラを空中に浮かべた。かなりの重量のはずだが、問題ない様子だ。

「さすが、魔力支援されていると楽だなあ。じゃあ、このまま空中を飛ばして、その洞窟の座標に向かわせますね」


 まるで紙飛行機を飛ばすような気軽さで、レブンが簡易杖を振ってヒドラ群を飛び立たせた。あっという間に、森の木々の向こうへ飛んでいって見えなくなる。エルフ先生がその操作を確認して皆に告げた。

「じゃあ、私たちも飛んで後を追いましょう」




【ヒドラの洞窟】

 その巨大洞窟は、森の奥深くに口を開けていた。森の中もようやく静かになったようだ。

 レブンが着地して、周辺を見回す。

「学校から直線距離で4キロちょっとか。まあ、この距離だったら管理も楽かな」


 そんな事をつぶやきながら、洞窟入り口付近の木の幹に、〔テレポート〕用の魔術刻印を描いた。これで次回からは、わざわざ飛んで来なくても〔テレポート〕するだけで気軽に往復できる。全員がその刻印の情報を簡易杖に記録する。


 洞窟内部を外から伺っていたノーム先生が、残念そうな表情になった。

「こりゃあ、いかんな。土砂崩れが洞窟の中で起きておる。7匹全てを収納するには狭すぎるぞ」

「え?」

 他の7人がノーム先生の肩越しに簡易杖を向けて、洞窟内部を調査する。パリーだけは相変わらずヘラヘラ笑いをしている。


 レブンが落胆した表情になった。深緑色の瞳が曇る。

「そうですね。入り口から5メートルの場所で土砂が崩れて、洞窟が埋まっていますね……つい最近崩れたんですね。大深度地下の大地の精霊が暴れたときに起きた、地震のせいかなあ」

 パリーの顔を見るレブン。

「パリーさん。他に大きな洞窟はありませんか?」


 パリーが首を振った。枝毛の多い赤い髪が腰の辺りでヒョコヒョコ跳ねる。

「ないわね~。ここは石灰岩の大地じゃないからね~。北へ600キロくらい行けばあるけど~。まあ、だからこそ、蛇が渡り先に選ぶんだけどね~。この地域で越冬するには、ここが1番大きいから~」


 さらに落胆するレブンの横で、妙に感心しているノーム先生である。

「さすが森の妖精ですなあ。地形にも詳しいとは。しかしこの洞窟、石灰岩が溶けてできた類のものではありませんぞ。溶岩が通り抜けた跡でもない」

 そして、銀色のあごヒゲを片手で整えながら首をかしげ、言葉を継いだ。

「巧妙に『偽装』されておるが、何者かが意図的に掘った洞窟のように感じますなあ」


 それを聞いて、にわかに厳しい顔になるエルフ先生とマライタ先生である。

 しかし、エルフ先生がライフル杖を洞窟内部へ向けてスキャンしたが、特に異常は認められなかった。

「……何も魔法の類は仕掛けられていないわよ」

 マライタ先生も胸ポケットから出して顔にかけたサングラスを外して、その太い首をひねった。

「警戒装置もないな。気のせいじゃないかね? ラワット先生」


 そう言われたラワット先生も、迷っている様子だ。

「うむ。少なくとも、数万年は誰も入り込んでいないようだね。セマンを除いてだけど」

「は?」

 目が点になる一同であった。


 ラヤンがジト目ながらも口元に笑みを浮かべながら、ノーム先生に聞く。

「それって、セマンの冒険家が昔、この洞窟に入り込んでいた。ということですか?」


 ノーム先生が首をかしげて考えながらうなずく。

「セマンの生命の精霊場の痕跡が、ごく微量だけど残っているね。数万年前に1人のセマンの男が、この洞窟に入っていたという痕跡だな」

 そして、ライフル杖を洞窟内部に向けて再度スキャンした。

「しかし、洞窟探検はその1度きりだったようだな。痕跡に年差による濃淡が見られないからね。つまり、金になりそうな物や、冒険記で自慢できそうな光景はなかったということだろう」


 ライフル杖をもう一度軽く振る。

「……うむ。冒険日記がデータベースで見つかった。6万23年前の今の季節、セマンの冒険家ルンパ・プリ・ケサン氏が1人でこの洞窟に進入している。何も発見はなかったと書かれているな」

「正確な冒険の日付や詳細がない。『ハズレ』冒険だったから、他のハズレと合わせて名前だけ挙げているだけだな。この後、彼は行方不明になってそれっきりだ。まあ、セマンの冒険家によくある最期だよ」

 さすが、ノームのデータベースである。


「コホン」と軽く咳払いをしたエルフ先生が、情報をとりあえずまとめてみる。

「ええと……この洞窟には『不自然な点』があるのですね。ですが、魔法や機械装置は見られませんので、特に害になるような事はないと思います。セマンの冒険家の記録でも、何も中になかったようですし」

 洞窟の入り口を改めて見つめる。

「もしかしたら、このヒドラが長い年月をかけて掘って、作り上げた洞窟なのかもしれませんね。『越冬地』としての価値は高いのですから」


 パリーが首をかしげながら、エルフ先生の話を聞いている。

「う~ん。ヒドラは確かに知能が高いから~ありえるかな~でも~そんな話~聞いたことないけど~」


 レブンが何か考えついたようだ。落胆していた表情が、いつものセマン顔に戻っている。

「では、このヒドラたちに洞窟の復旧作業を命じてみます。経験があれば、素直に従うはずですよ」

 レブンが指示を与えた。

 しかし、ヒドラたちは頭をゆらゆらと振るばかりで動かない。レブンが再び落胆して魚顔になった。

「うーん……穴掘りの経験が『ない』ですね。つまり、ヒドラがこの洞窟を掘ったのではありません。ただ、利用していただけですね」


 パリーがニヤニヤしている。

「そりゃ~蛇にはドリルも爪もないものね~ワームじゃないから土を食べて穴を掘ることもできないし~」

 エルフ先生がジト目になってパリーを見た。

「パリー……知ってて、からかったわね」

 パリーがケラケラと笑い始めた。

「ばれたか~。でも~ここ以外には~こんな大きな蛇を~押し込める場所なんか~ないわよ~」


 ちょっとの間、思案している様子だったが、やがてエルフ先生にヘラヘラ笑い顔を向けた。

「じゃあ~蛇じゃなくしてしまう~。ワームにする~」


(ちょっと何を言っているのか分からない)という表情をする一同だ。やがてエルフ先生が、少々冷や汗をかきながらパリーに聞く。

「パリー……もしかして、魔法で姿を変えてしまうというの?」

 それを聞いて、魔法に疎いマライタ先生を除いた全員の目が点になった。


 聞かれたパリーは、相変わらずのヘラヘラ笑いを浮かべたままである。

「そうだよ~。ゾンビだけど関係ないし~。ちょっと生き返って~すぐまた死ぬから平気~あー、でも、本当に生き返らせてもいいけど~。ど~する? レブンちゃん」

 さすがにレブンが呆れた顔になった。

「机から新芽を生やしたりしたアレですか。生き返らせるだけじゃなくて、種族まで変えてしまうなんて、とんでもない魔力じゃないですか……ええと、『死んだまま』で、お願いします。生き返ると食欲が戻りますから、また酒を『盗み飲み』しますよ。死んでいれば、僕の命令通りに動きます」


 死んでいる状態のゾンビを生き返らせることなど、サムカですら無理なのだが、この妖精には造作もないことのようだ。そのパリーがニヘラッと笑った。

「わかった~。じゃあ、ちょっと離れててね~。魔法の巻き添え食らうと~一緒にワームになっちゃうから~えい!」


「ちょ、ちょっと待て」と全員が言いかけたが、さっさとパリーが無詠唱で術式を展開し始めたので、慌ててヒドラゾンビの群れから走って逃げる。同時に、生命の精霊魔法用の〔防御障壁〕を展開した。


 それは、かなり異様な光景だった。ゾンビヒドラたちがミミズ状の巨大なワームに急速に〔変化〕していく。同時に、ヒドラ周辺の草木や虫までもが〔ミミズ化〕していった。好奇心からか森の木の枝にぶら下がって、じっと観察していた猿顔と猫顔の原獣人族も、逃げる間もなくミミズになった。他の小鳥やトカゲ、猿やリスなどの動物もミミズになってしまう。気がつくと、ミミズだらけである。


 エルフ先生がマライタ先生を同じ〔防御障壁〕の中に入れて保護しながら、冷や汗をかいてつぶやいた。

「あ、危なかったわ。〔防御障壁〕を張り損ねていたら、一緒にミミズにされるところだった」

 そして、急いで他の面々の状態を確認し、ほっとした。

「良かった。魔力支援のネットワークが、まだ機能していて助かった」


 ペルとレブンが顔を真っ青にして、エルフ先生のつぶやきに感謝してきた。

「カ、カカクトゥア先生、ありがとうございます。こんな強力な生命の精霊魔法、とても私だけの〔防御障壁〕では防ぎきれませんでした」

 ペルに続いて、レブンも滝のような冷や汗をかきながら感謝する。

「僕もです、先生。ミミズになるところでした」


 ミンタやムンキン、そしてノーム先生やラヤンは、何とか自力で凌いだようだ。このあたりは、魔法適性のおかげだろう。それでも、やはりエルフ先生の魔力支援を受けなかったら危なかったようだが。


 ひとしきり、エルフ先生がパリーに説教を行う。その後で、レブンがワームと化したヒドラゾンビ群を崩れた洞窟の中へ進ませた。

「さすがにワームですね。穴掘りは上手だな」


 ノーム先生がミミズ化している周辺の草木や虫を、大地の精霊魔法を使って大地に沈めて〔分解〕させながら、レブンに提案する。

「なあ。レブン君。せっかくだから、この崩れた洞窟を復旧させてみてはどうかな? この地域には、他に渡りヒドラたちの『越冬地』がない。崩れたままで放置しておくと、後から渡ってきたヒドラがまた森の中を徘徊して悪さをしかねないからね」


 マライタ先生も同意する。

「そうだな。ワシたちが酒を仕込んでも、また飲まれてしまうと敵わん。こいつらヒドラにはさっさと、この洞窟の中で冬眠してもらわないとな」

 エルフ先生とパリーも目と目を交わして、うなずいた。

「そうね。私たちも可能なら、再びお酒を仕込みたいし。レブン君。ワームたちに命令してもらえないかしら」


 レブンも異存はない様子である。

「はい。そうですね、分かりました。ゾンビワームたちに、そう『命令』しておきます」

 マライタ先生が満足そうに笑い、空中ディスプレーを表示させて時刻を確認した。

「そろそろ学校へ戻ろう。夕食の時間に間に合わなくなるぞ」




【ウーティ王国王城】

 洞窟の復旧作業を、レブンが指揮するゾンビワーム部隊がせっせと行っている間、死者の世界のウーティ王国では、まだパーティが続いていた。


 王立劇団による歌劇が終わり、劇場から貴族や騎士たちが談笑しながら出てきた。

 皆、見事に着飾っている。金糸銀糸で華麗に刺繍された模様や文様が、劇場ロビーの天井から降り注ぐ照明にキラキラと輝く。宝石や貴金属でできた装飾具も、まばゆい光を反射してキラキラ具合を盛り立てている。

 別の公演が予定されているようだ。豪華な縁取りが施された案内板には、次の公演題目がこれまたキラキラと輝いて表示されている。カウントダウンがされているが、これは開演時刻までのものだろう。貴族が闇の魔法で使う魔法文字で表示されている。ウィザード文字ほどではないが、これも相当に複雑怪奇な立体文字だ。


 カフェやバーに向かう貴族たちに交じって、ステワの姿も見えた。やや退屈だったようで、あくびをしている。

「さて、眠気覚ましにカフェでも行くか、ルトゥ」

「そうだな、ステワ」

 ルトゥと呼ばれた貴族は、ステワの友人だろう。青いテーマカラーでコーディネートした衣装だが、観劇用のためか、ややゆったりした装いになっている。彼のウェーブがかった金髪も、ややくだけた感じでセットアップされている。ただ、灰白色の瞳は眠気を訴えているので、今一つな印象だ。


 一方のステワも眠そうな顔なので、つり合っているといえばいえる。その蜜柑色の瞳を気だるげに動かして、貴族の群集に誰か探そうとした。

「なんだ。サムカはさっさと退席していたが、それっきり戻って来ていないのかよ」

 ルトゥが灰白色の瞳を少し輝かせて、ステワに答えた。

「カフェの調理場にいるだろ。ほら」


 サムカが観劇用の衣装のままで、カフェの調理場で調理人のオークと何か談笑しているのが見えた。それを見て、呆れるステワである。

「まったく……いくら歌劇が退屈だからといえ、何をやっているんだ。あの芋貴族は」

 早速、ちょっかいを出しに、カフェへ向かう悪友貴族の2人である。すっかり眠気も覚めたようだ。

「おい、サムカよ。こんなところで何をやっている」


 ステワが開口一番にサムカに文句を言う。サムカがそれに気がついて、短く切りそろえた錆色の前髪を片手でかいた。なぜか調理用のゴム手袋をしていたので、それを〔消去〕した。代わりに白い事務用の手袋をする。

「ははは。我が領地からも多くの産物を出荷しているからね。調理方法なんかを教えていたのだよ」


 オークのシェフが慌てて調理場の奥へ逃げていくのを目で追いながら、ステワがサムカにジト目で告げた。

「調理方法って……お前な。カフェは、香をかいだり、紅茶やコーヒーの香りをかいで寛ぐ場だぞ。物を食べたりする場じゃない。第一、我々貴族や騎士には食物は無用だろうに。今回、卿が出荷した生鮮果物も、潜在魔力を味わうだけで食したりはしないぞ。オークどもの、まかない食事の助言なんかしてどうする」


 確かにステワの指摘した通りで、カフェで寛いでいる貴族や騎士たちは皆、食事は全くしていない。香りをかいだり、果物に牙を突き立てていたりしているだけである。隣のバーでも同様の光景だ。


 サムカが頭をかきながら、口元を緩めた。

「うまい食事をとれば、オークも勤勉に働いてくれるものだよ。王都の食料品の物流状況もある程度分かるし、まるっきり無意味でもないさ」


 ルトゥはステワとは反対に、サムカに感心している様子である。

「大した理屈だな。我々も見習った方が良いぞ、ステワ。効率的に、つまらない観劇を退席できる」


 ステワもそれを聞いて、考えを改めたようだ。大げさに、「ハタッ」と自分の膝を左手で叩く。その拍子に合わせて、彼が身に着けている装飾品や帯剣の鞘などが鈴のような音を立てた。

「そうか! オークどもの士気が高まれば、カフェのコーヒーや紅茶の淹れ方にも気合が入って、より良いものになると言う訳だな。それは確かに重要な気配りだ。貴族の鑑だな、サムカ卿は」


 サムカがジト目になっている。

「お前らな……それほどまでに公演が退屈だったのかね」

 オークのシェフから、コーヒーが注がれたカップをサムカが3つ受け取った。かなり濃い目のブラックコーヒーである。香りだけを楽しむのだから、こうなるのだろう。

「我が領地の産ではないが。まあ、2人とも受け取れ」

 ステワとルトゥが、ニコニコしながらカップを手に取った。

「受け取ろう」


 オークのシェフが淹れたブラックコーヒーのカップから、湯気が緩やかに立ち上がる。パーティなので、全て無料である。

 3人でその湯気の香りを楽しんでいたが、サムカが少し厳しい表情になってつぶやいた。

「死者の世界の産では高級品だが……獣人世界の魔法学校の教員宿舎内のオープンカフェで出されるコーヒーと比べると、確かに厳しいものがあるな。輸入が本格化すると、我が方の産地が劣勢に立たされる恐れがある。このコーヒーもオークの努力の賜物であるだけに、微妙な心持ちになるよ」


 ステワがコーヒーの香りを首を軽く振りながら楽しんで、サムカに反論した。

「まあ、そう心配することはなかろう。宰相殿が産地を軽視するはずはないさ」

 サムカもそれに同意する。

「そうだな。ついつい悪い方向へ考えが及んでしまうな。宰相閣下が国力を下げる政策を行うことはありえないな」

 ルトゥがサムカにニヤニヤしながらツッコミを入れた。

「もう、すっかり農家だな。引きこもりも程々にしろよな」



 ステワとルトゥがコーヒーを飲みながらサムカをからかっていると、先日の隣国の貴族、ピグチェン・ウベルリがやってきた。彼も観劇中に半分居眠りをしていたらしく、表情に締りがない。

 それでもピグチェンが、肩下まで優雅に伸びている赤銅色の髪を一振りして、気合いを入れなおした。切れ長の目がピシッときまる。そして、雪色の真っ白い顔に映える黄色い刈安色の瞳をステワに向けた。

 体中を飾っている宝石や貴金属製の装身具が、彼の所作にキラキラと同調して輝く。

「ステワ卿。次の公演までしばらく時間がある。御前試合に向けて、卿の実力を見てみたいのだがよろしいかな。いくら脚本に沿った『引き分け前提の茶番試合』とはいえ、同胞の技量は知っておきたくてね」


 ステワがサムカと顔を見合わせて少しの間思案していたが、すぐに承諾した。

「構わぬよ。退屈な観劇のせいで緩んだ気分を、新たにするには丁度良いだろう」

 そう言いつつも、ステワが少し挑発的な表情になる。

「しかしピグチェン卿も、サムカ卿と同じく訓練不足なのではないかね? 誤って怪我をしてしまうと本末転倒になるが」


 ピグチェンが図星を突かれたような笑みを浮かべた。豪華なマントの中で、鈴の音のような音がいくつも鳴る。

「そうだな。我の領地は金融業が盛んでね。カジノもあるから、なかなか忙しい。運動不足であるのは否定しようがない」

 そしてサムカの顔を一目見て、話を続ける。

「そこの領主が農作業に精を出すので、我が領地のオークどもが出稼ぎで流出していてね。人手不足もなかなかに深刻なのだよ。おかげで人員配置に頭を悩ませる毎日だ」


 サムカはピグチェンの文句を聞きながら、呑気にコーヒーをすすっている。

「それは大変だな。まあ、我が領地も収穫の最盛期は過ぎたから今後は、それほど悩む事はなくなるだろう」

 ピグチェンのこめかみがピクピクと波打つが、表情は変わらず穏やかである。

「そうかね。それは良い知らせだ」


 そしてサムカとの話を打ち切って、再びステワに顔を向けた。

「私は見ての通り、魔法剣士だ。剣技自体は専門の剣士に比べるとそれほど上手ではない。御前試合では魔法の使用も大きく制限されるであろうから、余計に不利なのだよ。見栄えだけの魔法を多用して、観客を楽しませることはできそうだがね」


 ルトゥが腕組みをして首をかしげる。

「ふむ。御前試合の目的は観客を喜ばせる事だからな。今日の歌劇と同じで、勝ち負けは重要じゃない。しかし、実戦に裏打ちされた技は『機能美』に秀でているものだ。それはそれで観客の心に響くよ。まあでも、カウンター技や小手先の変化技は、動きが鋭すぎて見栄えという面では良くないだろうね」


 ステワもルトゥの意見に賛同する。

「そうだな。魔法も目くらまし目的ならば、見栄えが良いだろうな。1対1の対戦試合をするよりも、まずは各々が『咬ませ犬』を相手にして、大きな動きで見栄えの良い技を試し、それを皆で見て、御前試合用に調整した方が良かろう」

 そして、サムカの顔を見た。

「そういうわけだ、サムカ卿。『咬ませ犬』の役をやってくれ」


「は?」

 キョトンとしているサムカに、ルトゥが説明を加える。

「この中では、サムカが一番魔力が高いだろ。耐久力も一番高い。うってつけじゃないか」

 意図を理解したピグチェンも、ニヤリと笑みを浮かべた。

「そうだな。私も異存はない。卿の師匠が出場する御前試合を円滑に行うためだ、名誉なことじゃないかね」


 サムカがコーヒーを飲み干して、カップをカフェのカウンターの上に戻し、ジト目になってニヤニヤしている3人を見据えた。

「お前らな……まあ、いいよ。私も暇を持て余していたし」


 ステワがニヤニヤしたままでツッコミを入れてきた。

「なんだ、やっぱり公演が退屈だったのかよ。さて、次の公演開始まで休憩時間はそれほど長くない。さっさと始めようか」




【咬ませ犬のサムカ】

 劇場の中庭の中央にサムカが棒立ちになって、まずはステワが立ち会うことになった。

 即席で描いた円形の魔法陣の中を練習場所にするようだ。その魔法陣の魔力供給源ポイントに、他の2名が立つ。

 見物している他の貴族や騎士も数多くいるので、試合場所を更に〔結界〕で囲んで、周囲に土埃や流れ弾が及ばないようにする処置もしている。

 劇場建物は城砦と異なり、あまり強度重視の設計ではないので、2人が慎重に〔結界〕の強度と術式を調整している。もちろん、劇場の中庭も荒らして良いわけではない。


 衛兵から巻き上げた剣を、ステワが片手でブンブン振り回しながら〔結界〕を張っている2人に聞く。

「どうだい? 調整は難しいか? 私が披露する技の概要は見ての通り、それほど魔力は強くはないから適当で良いぞ。使用する剣も、量産品の衛兵用だしな」


 ルトゥがややジト目になりながら、ステワの気楽な話に突っかかった。

「音速を超える剣速のくせに何を言っているんだか。衝撃波が起きまくって、中庭の植木が全部吹き飛ぶことになるのを、無理やり〔結界〕で押さえつける我々の身にもなれ。断熱圧縮の熱で剣先が溶けて飛び散る恐れもあるしな。爆音も発生するから、その〔遮断〕もしないといけないんだぞ。この劇場の窓ガラスは、戦地仕様じゃないから割れやすいんだ」


 ピグチェンも〔結界〕操作に没頭していたが、やがて完了したようで、ほっとしたような表情をステワに向けた。

「これで大丈夫だろう。始めても構わぬよ。万が一の時の〔復元〕ポイントも作成済みだ。ステワ卿が予定以上の魔力を開放して、中庭が消滅しても〔復元〕できる。だが、〔結界〕の外まで破壊するような事態には対応できないがね」


 そんな注意事項を聞いたステワが蜜柑色の瞳をキラキラさせて、衛兵の剣を肩に担いだ。

 剣は確かに量産品のようで、安っぽい作りである。装飾品や彫刻も全くない。しかし、貴族が持っても崩壊したりしていないので、それなりの魔力は帯びているのだろう。


 ちなみに現在、劇場警備をしている衛兵は全て『騎士見習い』である。騎士の衛兵は、貴族と共に観劇客になっているせいだ。当然、貴族と騎士見習いとの魔力差は相当なものになる。


「まあ、この剣だったら、大きな魔力や速度を乗せることは不可能だから、〔結界〕の外まで迷惑をかけるようなことにはなるまいよ」

 そして、彼も〔結界〕の術式を〔解析〕して、その強度を確認する。

「うむ。この強度なら問題なかろう。では、サムカ卿。御覚悟」

 歌舞伎役者のように派手なキメポーズをして、サムカに仕掛ける合図を送る。


 サムカも苦笑いを浮かべながら、うなずいた。

「よかろう。打ってこい三下」


 その瞬間。結界内の空気が丸ごと『火球』と化した。ステワが振り下ろした衛兵の剣が音速を軽く突破したため、打線上の空気が逃げられずに圧縮過熱されて3000度を突破したせいである。

 当然、衛兵の量産打ちの剣の材質では、そのような高熱と加速度に耐えられるはずもない。瞬時に蒸発して気体になり、次の瞬間、凝結して灼熱の雨粒になった。

 そして3000度の空気はそのまま爆弾と同じように派手に爆発して、溶けた灼熱の金属雨粒をその爆風に乗せた。


 しかし〔結界〕の外には爆風も雨粒も出ていかず、それどころか爆音すら聞こえてこない。完全に〔遮断〕されているようだ。まるで〔空中ディスプレー〕に表示された動画映像のような錯覚すら覚える。


 ルトゥが〔結界〕の状態をリアルタイムで確認しながら、ジト目になって文句を言った。

「ほら、言わんこっちゃない。前情報とは出力が違っているじゃないか」

 ピグチェンも〔結界〕の状態を確認しながら、黄色い刈安色の細目をさらに細めた。

「想定範囲内ではあるよ。しかし、衛兵の剣を容赦無く蒸発させるとは。安いから、私が後で弁償することにしよう。しかし、そうか。安い剣か。なるほど。確かに溶けて爆発するから、見た目は派手だな。参考になる」


 〔結界〕内部の爆炎がようやく収まって、中の様子が視認できるようになってきた。ステワが自身の衣装の汚れを確認している。

「ふむ……土埃はついていないようだな」

 あれほどの爆発の中心地にいたのに、衣装も髪も何ともない。〔防御障壁〕のおかげだろう。

「で、サムカよ。どうかな? 見世物としては、そこそこいけると思うのだが」


 サムカも2呼吸ほど遅れて、その姿が土埃の中から見えてきた。彼も全くの無傷である。

「確かに派手だな。その割には、威力は無きに等しい。剣も打ち下ろす途中で蒸発して消えてしまって、相手に当たらないので安全だしな。面白い芸当を知っているな、ステワよ」


 土埃も完全に鎮まり、結界内部の中庭の植栽もよく見えるようになった。これらにも全く影響が出ていない。 

 植栽が占めている空間を精密に範囲指定して、〔防御障壁〕を被せているおかげである。焦げているのは、通路の表面だけだ。さすがに爆心地だけは土壌が溶けて再結晶化したせいで、小さな水晶が集まったガラス状になっている。


 ステワがニヤニヤしながらサムカに背を向けた。

「遊びも、たまには役に立つものさ。御前試合では二刀にしてみるかな。さすがに口でくわえて三刀にすると悪乗りだと思われるかね」

 サムカが頬をかなり緩めて腕組みをする。

「そうだな……そこまですると御前試合の雰囲気が悪くなるだろう。そういうのは貴族ではなく、芸人がやるものだぞ」


 そして、入れ替わりにやってきたピグチェンに視線を向けた。

「さて。次はピグチェン卿か。お手柔らかに頼むよ」

 ピグチェンがニヤリと笑う。

「そうしよう」

 そうして、両手で剣を持つような構えをとった。剣は持っておらず素手で、右八双の構えに似ている。ちょっと構えの見た目を調整してから、サムカに「コホン」と咳払いした。

「剣そのものは『ここにはない』。が、空気を剣の形に固めてある。これで立ち会ってみてくれ、サムカ卿」


 サムカが感心した様子で答えた。

「ほう。さすがは魔法剣士だな。そのような技があるとは。しかし、そのままでは見えないし、地味ではないかね?」

 ピグチェンが苦笑する。さすがは魔法剣士だけあって、右八双の構えが堂々としていて美しくも見える。

「その通りだな。しかし、先ほどのステワ卿の技を拝見して、真似てみたくなったのだ。空気を固めた剣を高速で振り回せば、それ自体が断熱圧縮されて爆発するはずだからな」

 サムカがうなずく。

「なるほど。理屈ではそうだ。では、やってみるが良かろう」


 ピグチェンが気合を込めて、空気でできた不可視の剣を振り回し始めた。見えない剣が次第に赤く輝き始め、プラズマも帯び始める。振り回す軌跡、それ自体も加熱されて、まるで光の剣を振り回しているようにも見えてきた。当然、音速は軽く突破した速度になっているので、衝撃波や爆音も当たり前のように発生する。


「では、サムカ卿。いくぞ!」

 ピグチェンが力を入れた声で叫んだ。その瞬間。光の軌跡が4つ生まれて、同時にサムカに襲い掛かった。そして、サムカの〔防御障壁〕にぶち当たり、同時に爆発した。


 ルトゥが首をかしげる。

「おや? 何で1本しか剣がないのに、同時4撃になっているんだ?」

 ステワも首をかしげていたが、彼なりに答える。

「恐らく、空気を固めた剣自体が『魔力の塊』だからだろうな。高速で振り回したせいで因果律に〔干渉〕してしまったんだろう。空間が重なってしまって、4つの剣になってしまったのかもな。まあ、大した〔干渉〕ではないから問題あるまい」


 サムカも同意する。相変わらず、全くの無傷である。

「そうだろうな。面白い技だが、これも空気を固めた程度なので威力は皆無だ。だが我々貴族は、光の精霊魔法を使えないから、この見た目には驚くと思うぞ」


 一方ピグチェンは、やや不満そうである。全身を彩り飾っている宝石や貴金属の装飾品が、動きに合わせて揺れて、涼やかな音を立てた。

「……むう。時間がかかり疲れる割には、派手さに乏しいか。といって空気ではなく、実体の剣ではこの効果は期待できないだろうな。再考の余地があるようだ」


 ステワが腰に手を当てて少し首を傾け、ピグチェンに気楽な笑みを向けた。

「ピグチェン卿。まだ御前試合までには時間がある。何か思いつくかもしれぬさ。私の見る限りでは、そのままでも充分注目を集めるに足る技だと思うぞ」

 そして、そのまま視線をサムカに向けた。

 中庭の通路は、これまでの高熱で土壌が融解して再結晶化し、小さな水晶が無数に散らばるガラス質の大地に変わっていた。素人が工作したガラスタイルの床面にも見える。

「サムカよ。どうだったかね? 何か感想を頼むよ」

 サムカが微笑んだ。

「うむ。悪くないな。目も耳も楽しませてもらったよ」


 そして〔結界〕を解除し、魔法陣を〔消去〕する。日差しが回復し、そよ風も吹いてきた。少し遅れて、羽虫や蝶などの虫も中庭に戻ってくる。

「卿らはどうかね?」


 ステワが最初に口を開いた。

「そうだな。ピグチェン卿の技だが……もう一工夫すれば、かなり見栄えが良くなるだろうな」

 ルトゥも同意する。

「うむ。ついでに空気や水蒸気をプラズマ化させても良かろう。磁場を操って、簡易的なオーロラを帯びるように工夫すればどうかな」


「なるほど」と、素直にうなずくピグチェンだ。そんな彼を微笑ましく見つめながら、サムカがガラスタイル化した中庭の通路を〔ログ〕を基に元の土に戻している。その作業を続けながら、ステワに聞いた。

「ステワよ。卿は、どちらかと言えば剣戟よりも魔法の方が得意だろう。どうして、わざわざ苦手の剣戟だけの技にしたのかね?」


 ステワが少し呆れたような表情になった。

「あのな、サムカ。得意な技を使うと、思わず高出力になってしまう傾向があるんだよ。不得手な技であれば、意識的に慎重になるから出力調整を行いやすいんだ。だが、サムカよ。腕がなまっている卿は真似をするなよ。不得手な技を使うと、かえって制御できずに暴走する羽目になるからな」

 ステワがズケズケと遠慮なくサムカに指摘する。サムカもジト目ながらも甘んじて受けたようだ。

「なるほどな、ステワ。卿の言うとおりだ、分かったよ」


 中庭の派手なパフォーマンスを楽しんでいた観客たちは、いつの間にか40名余にまで増えていた。〔結界〕が完全に解除されて、ガラス床も元に戻されたのを合図にして、一斉に拍手が巻き起こる。

 貴族や騎士たちがニコニコしながらステワとピグチェンに歩み寄って、パフォーマンスの出来を称える。


 この場にいる貴族や騎士たちは、サムカと同じく王都周辺や穀倉地域に領地を構える者ばかりだ。そのために戦闘経験も乏しく、稽古も怠けているので、このようなパフォーマンスにも大いに満足しているようだ。

 サムカの師匠であるトラロック将軍は、残念ながらこの場には居合わせていなかった。王族との付き合いは、公演の合間の時間でも色々あるのだろう。

 40名余もの貴族と騎士たちの、談笑の輪の中に飲み込まれてしまったサムカが、ふと首をひねった。

「ふむ。この程度でも意外と好評なのだな」




【ナウアケ卿】

「テシュブ殿。充分、我々も楽しめましたよ。ご心配は無用かと存じますが」

 声がした方向にサムカが顔を向けると、群集に交じって見慣れない異国の衣装をまとった貴族が1人、微笑を浮かべて歩み寄ってきた。しかし、顔と固有の魔法場には覚えがあった。


 細目の吊り目で、辛子色の沈んだ茶色がかった黄色の瞳。枯草色の茶髪は直毛で癖が無く、七三に分けている。肌の色は白銅色の陶器のような白い肌だが、やはり何となく違和感がある。

 身長は170センチなのでサムカよりも10センチほど背が低い。衣装は礼服なのでかなり豪勢なのだが、替えの服はそんなに用意していないようで、あちこち年季が入った状態だ。


「初めまして……ではありませんな。ごきげんよう、テシュブ殿。私は、トロッケ・ナウアケと申す者。ナウアケとお呼びください。南のオメテクト王国連合の代表団に加わっております」


 サムカが思わず険しい目つきになった。が、すぐに平常の何食わぬ顔に戻る。

「ああ。死者のセリ会場で一度見かけた御方ですな。それと、我が契約召喚先の学校で少々いたずらを為されたと聞き及んでおるが。抗議文書は届いておりますかな?」


 ナウアケ卿がにこやかに微笑みながら、うなずいた。それでも、『化け狐』に浸食された後遺症がまだ残っているようだ。足元がおぼつかない。

「おかげで、リッチー協会の理事から大目玉を食らいましたよ。この通り、獣人世界で重傷を負いました。ははは。巨人族ゾンビは大変魅力的なのですが、リッチーには逆らいたくありませんからな。残念至極ですが、手を引きますよ」


 サムカが厳しい視線に戻り、ナウアケを見つめた。

「……ふむ。本心かどうかは分からぬが、私からも改めて警告を出しておこう。あの巨人ゾンビだが、我が王国連合が独占買取することに決まった。横槍を入れても、もう無意味だぞ」

 ナウアケが大げさな身振りで両腕を広げて、軽く天を仰いで嘆いた。腰にまだ力が入らないのか、大きくふらついている。

「残念です。まことに残念至極」


 そのような演技に飽きたサムカが、話題を変えた。〔空間指定型の指向性会話〕魔法にして小声で聞く。

「その顔の色は、化粧かね? 〔偽装〕して見た目では分かりにくいようにしているが、卿は体温があるようだな。以前、対面した際に違和感を覚えたのだが、それか」

 ナウアケが演技を終えて、辛子色の瞳を細めながら枯草色の茶髪頭をかいた。彼もサムカと同じ会話魔法に切り替えて答える。

「分かりましたか。私たちの一派は、『生者のままで解脱』することを目的としております故、アンデッドながら体温があるのですよ。血液も温かいものが全身を流れております。ただ、私たちの派閥は少数派ですからね。不必要に驚かさぬようにこうして、〔偽装〕を施しているのですよ。何かと気を遣うのです」


 サムカが機械的にうなずく。

「うむ。確かに、体温がある貴族や騎士は、奇異の目で見られるだろう。そのことは、私も黙っておこう」

 ナウアケが鷹揚に礼を述べた。

「感謝いたしますぞ、テシュブ殿」


 サムカの山吹色の目が好奇心の光を帯びる。

「つかぬことを聞くが……ナウアケ殿は食事をするのかね?」

 ナウアケが気楽な表情で微笑んだ。

「左様ですね。食物を消化することができますから。しかし、体の維持は普通に魔力で行っておりますから、食事は必須ではないのですよ。趣味の範囲でしょうかね」


 サムカが素直にうなずく。

「失礼な質問をした。いや、卿を我が城へ招待した場合、トイレの問題があることに気がついてね。私はトイレには無縁なので、全てのトイレはオーク専用なのだよ。卿にオークのトイレを使わせるわけにもいかぬ故、新築する必要があるかと思案していたのだ」


 ナウアケの表情が更に崩れて朗らかになった。化粧で隠しているが、確かに肌が生きているのが分かる。

「携帯トイレを用意しておりますから、ご心配なく。しかし、テシュブ殿は柔軟な思考の持ち主ですな。普通の貴族は、そのようなこと考えもしませんよ。獣人世界で教鞭をとっておられるだけのことはある。これまで普通の貴族に聞かれたことは、せいぜい「血を吸うのかどうか」程度でした故」

 口調から推察するに、血を吸うのだろう。サムカはそのことを聞かずにじっと話を聞いているので、ナウアケも吸血についてはそれ以上説明しなかった。


 そんなナウアケの目に何かの意思の光が宿った。通常の音声会話に復帰する。

「先ほどの試合、興味深く拝見いたしました。やはりテシュブ殿は噂通りの強力な魔力の持ち主ですな。私などでは、あの攻撃を無傷でやり過ごすという事は不可能ですよ」

 サムカも通常音声に戻した。しかし特に表情や声色に変化を見せず、淡々とした口調のままでナウアケの褒め言葉に答える。

「私などは、まだまだだよ。我が師匠の足元にも及ばない。兄弟子たちにも見下される程度なのだよ。その上、鍛錬を怠って土いじりばかりしておるから、技量も鈍るばかりでね。今回の御前試合も、師匠から直々に出場するなと下命されたばかりだ」


 しかし、ナウアケのサムカ持ち上げトークは終わらない。

「トラロック・テスカトリポカ右将軍閣下は、ファラク王国連合屈指の武名ですからね。彼に敵うような貴族は、まず、おりますまい。その弟子であるだけで、充分に武勇が優れていることを意味するものですよ。私は魔力が弱いので憧れます」

 ナウアケが、少し大袈裟な仕草を交えてサムカを褒めるが、当のサムカは平然としている。


 反対にサムカが何か思い出したような表情になって、ナウアケに質問してきた。

「そう言えば、ナウアケ殿。死者のセリには、あれ以降参加しておられなかったと聞いた。卿の領地では充分な死体や素体が確保できているのかね? 私の領地では、なかなかに苦労しているのだよ」


 サムカが真剣そうな表情と口調でナウアケに質問してきたので、少し面食らうナウアケである。サムカの器を計りかねている様子だ。しかしすぐに、にこやかな表情に戻った。

「そうですね。おかげさまで、私の領地では最近になってようやく、死体と素体不足から解消できそうな目途が立ち始めておりますよ。ですので、今後は卿の〔召喚〕先の学校には、手を出すことにはならないでしょう。ご安心下さい」


 サムカがほっとした表情になった。

「うむ、そうかね。助かるよ。実は制裁措置として、卿の所属するオメテクト王国連合向け輸出をしばらくの間停止しようかと考えていたのだよ。だが、そうすると我が方の貿易収支にも大きな損害が出るのでね、思案していたのだ。うむ、そうか。であれば、制裁措置は不要だな」


 ナウアケが困惑気味に微笑んだ。彼の所属するオメテクト王国連合は熱帯高原にあるので、サムカの所属するファラク王国連合よりも農産物には困らない環境である。サムカのような一領主が禁輸措置をとったところで、ナウアケ側には何の影響も出ない。

 しかし当然ながら、そんな無粋な指摘をするようなナウアケではない。

「それは、我らも大いに助かります。さて、そろそろ次の公演が開始される時刻ですな。私はこれで。有意義な時間でしたよテシュブ殿。また、いずれどこかで会えることもあるでしょう。話の続きはその際に。では……」


 優雅な物腰で、劇場建物の中へ入っていくナウアケの後姿を見送るサムカである。

 悪友貴族のステワとルトゥが少し離れた木陰から盗み聞きをしていたが、何も起きなかったので落胆している。無言でサムカをなじるような視線を2人して送りつけ、そのまま劇場の中へ入っていった。ピグチェンも既に劇場に戻ったようだ。


 サムカがジト目になり、そんな悪友貴族たちを見送る。そのくせ、口元は緩んでいるのだが。

「騒動が好きな連中だな、まったく」

 再びナウアケの後ろ姿を見ようとしたが、彼は既に劇場の中へ入った後だった。小首をかしげるサムカ。

(彼の魔法場が、最初に会った際と異なっていたのだが……『化け狐』に食われた後遺症のせいなのか、それとも……)

 カルト派について詳しくないので、思考はそこまでで止まった。それよりも、彼の魔力量を心配する。

(かなり減少していたな……騎士と同等くらいではないか。私も『化け狐』に食われないように注意するとしよう)


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