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32話

【秋の亜熱帯の森】

 獣人世界の魔法学校を取り囲む広大な亜熱帯森林も、秋の色づきが強くなってきた。とはいっても亜熱帯なので、紅葉はハゼの木の類が一部の葉だけを赤く染める程度であり、当然ながら一斉紅葉も落葉も起きない。緑の色が夏のような勢いをなくして落ち着いた色合いになり、黒っぽくなるくらいである。

 しかし、気温や水温は確実に下がっている。風も熱を失って心地よく、湿度も下がって過ごしやすい気候になってきていた。空の雲も巨大な積乱雲の姿はなくなり、綿雲ばかりになっている。


 教員宿舎の建物も、すっかり元通りに再建されていた。しかし、さすがに建物周囲を飾る観賞木や花壇の花は、植えられたばかりなので小さいままである。パリーの手にかかればすぐに大きく生長するのだが、あいにく怠けているようだ。


 その昼休み。すっかり回復したドワーフのマライタ先生とノームのラワット先生が、スキップをしながら仲良く運動場を横切って奥の森の中へ駆け込んでいくのが見えた。

 作業服姿ではあるが、足ごしらえは漁港で水揚げ作業をするような完全防水のブーツ一体型のツナギである。手袋をはめた両腕には、これでもかという程の大量の素焼きの壷や袋を抱えている。そのため一目見ただけでは、壷と袋がスキップしながら移動しているようにしか見えない。マライタ先生は自力で運び、ノーム先生はソーサラー魔術の〔浮遊〕魔術を壷にかけているようだ。


 それを教員宿舎へ戻りながら眺める、機動警官の制服姿のエルフ先生である。少し改良が施されたようで、ブーツを中心にして厳つい印象は抑えられている。その分、腰ベルトに固定されている若草色の草で編んだポーチの可愛らしさが、正統性を帯びてきたようだ。

「まったく。どれだけ仕込む気なのよ」


 結構離れているのだが、マライタ先生とノーム先生とが抱えている大量の大型素焼きの壷が互いにぶつかり合って、くぐもった鈍い音を立てているのが余裕で聞こえる。結構厚手の壷のようで、スキップ程度の衝撃では何ともないようだ。


 立ち止まって呆れた顔で見ているエルフ先生の後ろから、授業を終えてオヤツの時間にやってきたセマンのティンギ先生が、ニヤニヤしながら歩いてやってきた。彼はいつもの先生らしいスーツ姿である。 

 変わった点といえば、明るい褐色に変わった革靴ぐらいか。散歩のし過ぎで靴の傷みが早いのだろう。

「ドワーフとノームは酒好きですからなあ。毎年そうですが今年も、とんでもない量を仕込むと思いますよ。カカクトゥア先生」


 エルフ先生がセマンの先生に顔を向けてうつむき、こめかみに指を当てた。そういえば、去年もやっていた気がする。当時は赴任して間もない頃でまだ周囲に気を配る余裕がなく、記憶があいまいだ。

「まったく。酒に弱いのに、どうして飲みたがるのか理解できないわ」


 ティンギ先生もエルフ先生の隣で立ち止まり、一緒に森の中を眺める。

 秋の乾いたそよ風を受けて、エルフ先生の長い、べっ甲色の金髪がなびく。隣のティンギ先生の癖の強い赤墨色の短髪の先も、ヒョコヒョコと揺れる。風に混じって、森の中から綿毛で包まれたタンポポの実がいくつか飛んできて、2人の間を通り過ぎて行った。

「エルフ以外の種族は、基本的に酒に弱いですからな。酩酊するのが好きなんですよ」


 エルフ先生の呆れた目が少し厳しくなった。細長い両耳がピコピコと上下に動く。

「私たちエルフは酔わないので、その酩酊状態が想像できませんが……まあ、良い事ではありませんよね」

 ティンギ先生が声を出して笑い始めた。大きな耳の先がピクピク動き、同じく大きなワシ鼻が自己主張する。

 唯一元気だったティンギ先生もライカンスロープ病騒ぎ以降、耳がちょっと動くようになってしまった。エルフ先生もである。さすが獣人世界の病気だ。

「そうですな。カカクトゥア先生。悪いことほど止めづらいものですからね」


 そんな立ち話をしていると法術先生や、ソーサラー先生、そしてウィザード魔法の先生たちも校舎から出てきて、教員宿舎へやってきた。相変わらずソーサラー先生以外は、ツンケンしてエルフ先生とセマンの先生の会話には参加してくれない。ただ、一言二言の挨拶を交わすだけで、そのまま通り過ぎて教員宿舎の中へ入っていく。


 とりわけ、ウィザード魔法幻導術のウムニャ・プレシデ先生は斜めに構えたような気取った歩き方で、鼻と顎を上向きにして、エルフ先生とティンギ先生の横を通り過ぎた。

 エルフ先生と同じように、彼も腰までの黒い煉瓦色でかなり癖のある髪をそよ風に揺らしている。しかし、エルフ先生と違い、美しさが微塵も感じられないのは才能だろうか。

 服装はティンギ先生並みにきっちりとしたスーツ姿で、黒系統の革靴を履き、マントを肩からかけている。


 これまでとあまり変わらないが、彼も衣装替えを済ませたようだ。マライタ先生によると、彼の給料が増えているはずなので、衣服を新調したのだろう。


 彼からちょっと離れてこちらへ歩いてきている、同じウィザード魔法力場術のタンカップ・タージュ先生は、筋肉で盛り上がった体を揺らしながらの、トレーニング用のジャージ服である。靴も運動靴であるが、彼も一応衣替えを済ませている。

 しかし、それでも汗の臭いが漂ってきそうで、眉を少しひそめるエルフ先生とティンギ先生であった。


 ソーサラー魔術のバワンメラ先生は、完全にヒッピースタイルのボロボロ服で、軽くステップを刻みながら歩いている。彼も力場術のタンカップ先生に迫るような筋肉質な体躯なので、こうしたスタイルでもそれなりにサマになっている。手入れをサボっている盗賊ヒゲと、すり切れてヨレヨレのサンダルだけは頂けないが。


 法術のマルマー先生は2つの〔空中ディスプレー〕画面に映っている他宗派の神官と睨みあっていて、互いに口論を続けながら通り過ぎていった。まさに文字通り『眼中に入っていない』ようだ。ただ服装だけは、他の先生と比較しても豪勢で気品のある法衣なので、遠くから見ている分には目の保養になる。

 ここ最近の騒動で豪華な法衣も汚れが目立っていたのだが、クリーニングに出したのだろう。今はすっかりピカピカに戻っている。


 こうして見ると、先生らしい服装をしている者はウィザード魔法幻導術のプレシデ先生とティンギ先生くらいしかいない。しかし、生徒や職員たちは当然のように受け入れている。

 エルフ先生とティンギ先生も別に気にしていない様子だ。先生たちと挨拶を交わして、そのまま森の中に視線を戻した。


 ティンギ先生がパイプに火を点けて、紫煙を一筋吹き出した。エルフ先生の空色の目の色がさらに厳しくなったが、それだけで特に何も言わない。

 火の精霊はエルフにとっては気に食わないものであるが、タバコ吸いのセマンにとっては友人だ。ちなみに火の精霊は、金属を使った魔法具を製作する上で必須の精霊ともいえるのでノームもよく契約をしている。


 そんなティンギ先生が吐き出した紫煙が、ドーナツ型になって風に流されていった。

「ふう……そういえば、森の妖精のパリーさんも、森の中に大量に酒を仕込んでいましたね。そろそろ熟成してくる頃じゃありませんか?」

 エルフ先生の目の色が、ここでようやく和らいだ。

「そうですね。今日、明日というところでしょうか。一次発酵が終わって、香りが強くなってきています。私もせっかくですので、味見をしに行こうかなと考えていますよ」


 ティンギ先生の大きな青墨色の目が、好奇心の光で満たされていくのを確認しながら、エルフ先生が話を続ける。

「ですが、木の洞などで仕込んでいますから衛生的ではありませんよ。虫や鳥にコウモリたちも、酒の香りに誘われて集まっていますから。〔運〕の強いセマンの貴方でも、何もせずに直接飲めば腹痛になると思いますよ」


 セマンの先生が、紫煙をもう一筋吹き出して微笑んだ。

「ははは。そうですか。かといって煮沸消毒したり、ろ過すれば風味が失われてしまうでしょうなあ。エルフ先生は、直接口にしても問題ないのですか?」

 エルフ先生の空色の瞳が、いたずらっぽく光った。ちょっとドヤ顔になる。

「エルフですからね」


 遅れてやってきた、もう一人のウィザード魔法の招造術のスカル・ナジス先生が、ヘラヘラと笑みを浮かべながらエルフ先生たちに会釈して追い抜いていった。

 彼は白衣に似た薄手のジャケット姿で、その下はジーパンとTシャツぽい何かの服装である。足は短めのゴム長靴だ。両手を白衣風ジャケットのポケットに突っこんでいて、少し猫背になって歩いている。

 その白衣風のジャケットの裾をパタパタと扇いだ。

「酒の匂いか。そうだな……次の授業は、嗅覚ネタでいってみるかな」




【ウィザード魔法の招造術】

 ウィザード魔法使いは研究職の色合いが強い。そのため学校の先生も内向的で、しかも性格に問題のあるような者が多い。力場術のように実戦向きな魔法であれば、まだ体育会系のノリの者もいるのだが、招造術ともなると望み薄になる。


 招造術というのは、人工生物を〔製造〕したり、人体〔強化〕や〔改造〕、ゴーレムなどを〔設計製造〕する分野の魔法を『総称』した分野のことである。

 さらに〔召喚〕契約魔法も扱うのだが、ハグが使用しているような〔召喚〕魔法には遠く及ばない。せいぜい同じ世界にいる獣や虫、植物や菌類を呼び出して、『ある程度従わせる』くらいが関の山である。魔族や貴族といった魔力を持った知性のある存在を〔操作〕できるような魔法ではない。と、いうことになっていて、教育指導要綱にもそう書かれている。


 もちろん魔法世界では、その程度しかできない魔法には需要などない。軍事利用や商業利用されている魔法は向こうの世界では無数にあり、しかも高度に体系化もされている。

 実際、300万年前の魔法大戦を主導した戦略破壊魔法兵器の一角を占めており、その名残が巨人や魔神にドラゴンなどの強力な『魔法生物』群の誕生につながっている。もちろん、軍用ゴーレムといったような、現在の魔法世界の軍事力も構成している。


 軍事に転用できてしまう魔法であるために『無害な魔法』だけを選別してしまった結果が、この教育指導要綱であった。慈善事業に近い発展途上世界への援助は、しょせんこのようなものである。

 出稼ぎとして使える程度の教育をし、関連インフラの整備を行って、物やサービスを買わせて資源を確保する……という、先進世界の常套戦略に過ぎない。


 そのような背景なので、招造術を教える先生であるスカル・ナジスも、あまりやる気がない様子だ。いつもヘラヘラと薄笑いを浮かべており、細い垂れ目で紺色の瞳の持ち主である。

 薄い杏子色の白い肌は、単に外に出ずに自室に引きこもっているためだ。しかも、適当な生活のせいで肌荒れしている。褐色で焦げ土色の髪は肩上まで無造作に垂れており、枝毛と切れ毛だらけ。鼻をすする癖も相まって、見た目の印象が芳しくない。


 生徒を前にして教壇上から講義をする際でも、生徒たちを正面から見ずに斜に構えている。それも加わって、生徒たちからの評判もそれほど好ましいものではない。猫背気味なのも、不人気拍車をかけることに資しているようである。


 一方で失態続きによって、法術のマルマー先生が再教育を受けて少しマシになったので、生徒たちからの人気も少し良くなっているとかいないとか。

(……という噂を聞いたなあ)と思うナジス先生である。そんな彼もまた、再研修やら色々と忙しくなってはいるが……やる気が出ていないのは変わらない。


 お昼休みが終わり、午後からの授業が始まった。サムカの〔召喚〕は毎週1回で、それぞれ1時間半ほどしかない。サラパン羊が面倒がるのと、サムカの領主としての仕事に支障が出るためで、これ以上は〔召喚〕時間を増やせない。

 そのため、サムカのクラスの生徒たち3人は、普段の授業時間では別々のクラスに参加している。

 ジャディは気に入った授業以外は、サボってどこかへ飛んでいってしまっているが。それでも、サムカに推薦されたノーム先生の選択クラスには、せっせと出席しているようだ。大地の精霊魔法を集中して学んでいるのだろう。




【教育指導要綱】

 3学年あるこの学校では、能力別の専門クラス分けになっている。


 例えば、エルフ先生が担任をしている専門クラスでは、30名のクラスの生徒は1年から3年生まで一緒になっている。授業で分からないことがあれば、もちろんエルフ先生が生徒に教えるが、上級生が下級生の面倒を見ることも併せて行われている。


 本来であれば学年ごとに担当の先生がつくべきであるが、辺境の獣人世界に来るような先生は少ない。従って、こうして1人の先生が1年から3年生まで、まとめて担任しているのである。


 ちなみに、エルフ先生が教えるのは、光、水、風、精神の精霊魔法だ。ノーム先生は、生命、大地、炎の精霊魔法を担当している。サムカが闇の精霊魔法を担当するので、これで教育指導要綱に規定されている全ての属性の精霊魔法を網羅する事ができている。

 しかし、先生にも得手不得手の科目がある。水と生命、炎に関しては、それほど詳しく教えていない様子だ。


 このように、専門と学年によって生徒の習熟度の差が大きくなるのは避けられない。そのため実際は、30人を相手にした個別授業になっている。先生側としてはかなり面倒で、作業量の多い授業のやり方であるが仕方がない。


 もちろん、エルフ先生の授業だけを受けても、その特定の精霊魔法を学ぶだけだ。それでは教育指導要綱の方針に沿わない。

 エルフ先生の専門クラスの生徒たちは『指導要綱に従って』、他の魔法もバランスよく学ぶ必要がある。そのため魔法適性や希望に応じて、それぞれ別の先生のクラスの選択授業に参加する。


 これは他の先生の専門クラスの生徒も全く同じである。いわば、義務教育的な必須の専門授業と、生徒たちの希望に応じた選択授業との『組み合わせ』といったところだろうか。


 エルフやノーム、サムカのような貴族と異なり、獣人族の大多数は魔力や魔法適性を『持たない』者である。ドワーフみたいなものだ。

 ただ、ドワーフと異なるのは、ある少数の獣人族には魔力や魔法適性が『生まれつき備わって』おり、中にはそれが強力だったりすることがある点だろう。ペルやミンタが良い例である。


 そういった例外的な獣人は意識的に訓練をしないと、魔力のバランスを崩しやすい。

 放置しておくと特定の系統の魔力だけが強くなって、最終的には制御できなくなって暴走し、社会に迷惑をかける。そのため、魔力を有する獣人の生徒たちは、努力して自身の魔力のバランスをとる必要があるのである。

 これは獣人族に特有の性質で、エルフやノーム等の亜人種や、魔法使いの人間種では起きない。


 魔法は特に精霊魔法で顕著だが、対立して打ち消しあう属性がある。その両方の属性の魔法を学んで身につけることで魔力のバランスを保つという考えで、この教育指導要綱が成り立っている。


 特にペルの場合は、闇の精霊魔法が突出して強いので、バランスを取るのも一苦労というわけである。これは、なぜか獣人族だけは、どんな系統の魔法であっても身につけることが比較的容易という種族特性を利用した対処方法だ。


 なぜ、このような特性を有しているのかは、魔法使いやノーム、ドワーフの研究でも明らかにされていない謎だったりする。その汎用性の高い魔法適性が次第に注目されて、こうして魔法学校が設立されたという経緯だ。

 今のところは、魔法世界や亜人世界への『出稼ぎ育成機関』にもなっているようだが。


 このような獣人族とは違い、光や風の精霊力を強く受けているエルフの場合には、こうはいかない。闇の精霊魔法や死霊術、炎の精霊魔法の修得は、ほとんど不可能である。ウィザードやソーサラーといった魔法使いが、精霊魔法の修得を苦手としているのも同じである。


 魔法使いが使うウィザード魔法では精霊魔法に比べると、こういった対立は比較的起きにくい。異世界の魔神やドラゴン、巨人などと契約を交わして、彼らの魔力の一部を行使するという形だからである。

 ただもちろん、魔神たちも生活しているわけで、彼らの世界での近所付き合いや村社会の慣習というものは厳然と存在している。そのため、ウィザード魔法の行使に関しても、彼らの暮らしに支障が出そうな場合には往々にして制限がかかる。


 ただ、その度合いは精霊魔法に比べると非常に軽いので、魔力のバランスを取る意味では重要になってくる。

 例えるならば、強酸を強アルカリで中和するのが精霊魔法を用いた魔力バランスであるが、それはちょっとしたことでバランスを崩しやすいし安定性も悪い。

 これをウィザード魔法やソーサラー魔術などを修得することで、中性や弱酸性、弱アルカリ性のものを多く使えるようになり、より安定した魔力バランスが期待できる……という理屈である。

 実際、ペルやレブンはこうすることで効率的に自身の魔力バランスを保とうとしていて、実際に効果も出ているようだ。


 一方のミンタやムンキン、法術のラヤンにとっては、闇の精霊魔法や死霊術は強烈な異物である。これらを使えないまでも見たり体験したりすることにより、自身の魔力バランスに強い刺激を与える。その結果として、全体の安定性を強めることに役立てている。

 もちろん、見たり体験することで、シャドウなどステルス性能が高い危険なアンデッドの存在を〔察知〕できるようになる。魔法適性が多様な、獣人ならではの特技とでも言えようか。言い換えれば『野生の勘が鋭い』ということなのだが。


 エルフやノームといった亜人種は当然ながら獣人ではないので、彼らほどすぐに〔察する〕ことができるようになるわけではない。

 シャドウが発する特有の魔法場をサンプル〔採集〕して、それを共有と個人の情報バンク双方で〔参照〕、その照合結果を基にしてシャドウの存在を〔察知〕する、という手法を採用している。

 ちなみにサムカも同様である。情報バンクはかなり旧式であるが。


 ドワーフのマライタ先生は、身につけている魔法場センサー器具を経由して察知している。セマンのティンギ先生は〔運〕で〔察知〕しているようだ。


 法術やソーサラー、ウィザード先生たちは、こうした手法は苦手だ。どうしても〔察知〕に手間取り、場合によっては気がつかないことも多い。そのため、指輪や杖の中などにドワーフ製のセンサー部品を組み込み、個人別にカスタマイズしている。さらに感度を上げるために、ノームによる〔調整〕を受けている場合も多い。


 さて。そういったせいで精霊魔法に比べて印象が薄いウィザード魔法であるが、5つの分野に分けられている。




【ウィザード魔法の力場術】

 最も人気があるのは『力場術』である。魔神シベ・トテクと契約して魔力を得ることが代表的で、重力場と電磁場、原子や素粒子の間に作用する力場などを契約に応じて〔操作〕できる。攻撃的な魔法が多く、見た目も精霊魔法の光や炎、爆発や凍結に似ている。

 ただ、精霊魔法とは異なり、その場所の精霊場の強さに『依存しない』。そのため、どんな環境でも一定の出力が得られるのが特徴である。

 例えば、炎の精霊魔法は水中では制限を受けて使いにくいものだが、力場術であれば問題なく水中で火球を発生させることができる。魔法の炎なので空気中の酸素も必要なく、水中でも燃やせるのが強みだ。


 精霊魔法では見られない分野としては、『重力』を〔操作〕するものが代表的だろう。見た目は、相手を吹き飛ばしたり、押しつぶしたり、動けなくしたりする魔法である。 

 重い物体を軽々と持ち運んだりすることにも使われる。原理的には、重力が作用する『力のベクトル』つまり方向と強さを魔法によって自在に変えることで、上記の現象を引き起こすことができる。吹き飛んでいるように見えるが、実際は吹き飛んでいる方向へ『落下』しているのである。


 他には、原子や素粒子の間で働いている、様々な力を〔操作〕する魔法も特徴的である。被害が甚大になるので契約することはまずできないが、原子核分裂や核融合もその範疇に含まれている。


 ちなみに、契約できる魔神は他にも大勢いて、ドラゴンや巨人とも契約可能だ。そして当然ながら、契約した魔神たちの得意不得意分野もあるので、力場術と一口に言っても多様性に富んでいる。




【ウィザード魔法の占道術】

 次いで人気があるのは、セマン族のティンギ先生が教える『占道術』である。ティンギ先生が契約している、魔神ヨルカイ・エスツァンを生徒たちも使っている。

 これは、力場術と比べて、契約に応じてくれる魔神が極端に少ない。実質、この魔神の他に数人ほどしかおらず、ドラゴンや巨人では見かけない。


 この魔法では基本的にまず様々な〔占い〕を学ぶ。それと並行して〔運〕を強化していくことで、罠や魔法の素性を明らかにし、敵の攻撃方法や方向を予測し、ウソや敵意を発見し、これらを回避することもできるようになってくる。


 実際、ティンギ先生の攻撃回避能力は、その〔運〕の強さのおかげで驚異的なものになっている。危険物の〔察知〕、〔解除〕のみならず、相手の〔読心〕ができるようになるので、就職する上でも便利な魔法になっている。また、土砂崩れや落雷といった、自然相手の〔予知〕も可能だ。


 ただ、ティンギ先生を見れば分かるように、あえて危険の中にその身を置くことを『推奨』している。なので、なかなか占道術を深く追求するような者は現れないようであるが。




【ウィザード魔法の幻導術】

 3つ目の『幻導術』は、相手の知覚器官に偽りの知覚を〔刷り込んだり〕、〔自覚させない〕ようにし、さらに相手の感情、知覚、思考、記憶を〔操作〕するウィザード魔法である。〔念話〕や〔通訳〕もこの魔法の中に含まれる。ウムニャ・プレシデ先生がこの幻導術を担当していて、魔神ティラ・ウと契約している。


 この魔法は様々な場面で最も多く使われているため、対処方法も確立されている。

 つまり、わざわざ魔法を学ばなくても、ドワーフ製の器械を装備すればそれで間に合ってしまうのだ。その器械を装備しているような相手には、まず効かない。

 そのため実際に使用されているのは、自動〔通訳〕や〔念話〕程度しかない。そればかりか、魔神との契約すらも必要ではなくなってしまっている。それほど一般化してしまっている魔法である。


 当然ながら、生徒たちの人気も高くない。光の精霊魔法による記憶〔操作〕魔法の方が、エルフやノーム以外の者によく効くので、生徒たちの間では人気がある状況だ。




【ウィザード魔法の死霊術】

 4つ目の『死霊術』は、魔法適性の条件が厳しいために使える人が元々少ない。この魔法学校でも、はっきりとした魔法適性を示したのは、レブンとペル、そしてジャディくらいのものである。

 それは魔法使いでも同じで、ウィザード魔法使いでもとりわけ修得者の数が少ない。そのために研究もあまり進んでおらず、結果としてサムカを先生として呼ぶことになっている。


 死体や霊体を〔操る〕ことができる魔法なので、男子生徒を中心に興味を持つ者が非常に多いようだ。しかし、魔法適性がほとんどないために、涙を飲んで専門クラス入りをあきらめているのが現状であったりする。


 なので、レブンが一種のカリスマみたいな状況になりつつあるようだ。占道術専門クラスのライン・スロコック級長が中心となって、『秘密結社』を作り上げているとかいないとか。『アンデッド教』とでも言えようか。

 もちろん、レブンはそのような事には興味を持たない性格なので、冷たくあしらっているが。




【ウィザード魔法の招造術】

 そして、最後の5つ目のウィザード魔法が『招造術』である。この魔法は、魔法生物やゴーレムを〔製造〕したり、体組織の〔複製〕を行ったりする事が主だ。その他には、契約したり調教した生物を、遠隔地からテレポートさせて〔召喚〕したりもする分野である。


 軍事や医療、商業利用に応用されやすい魔法なので、制約が多すぎて『無難で無害な』魔法しか教えることができない。一般化されている幻導術とは真逆の、機密だらけの魔法分野である。


 従って、授業もごく基本的な内容に留まり、実習も初歩的なものばかりである。当然、生徒たちには面白くない授業の筆頭になっている。



 この魔法学校で招造術を教えているのは、魔法使いのスカル・ナジス先生である。契約している魔神は、ごく一般的なツァジグララルなので、汎用性はあるが、これといった特徴のない魔法だ。まさに教育指導要綱にふさわしい魔神といえる。基礎は広く浅く学ぶことができるが、商業利用されているような魔法には遠く及ばない。

 ナジス先生の身長は150センチで、魔法使いの中では背が低い。さらに、いつもヘラヘラ笑っているせいで、生徒からの印象もかなり悪い。


 今の時間は他のクラスの生徒たちが『選択』で選ぶ科目の時間なので、教室にいるのは全員が他の専門クラスの生徒たちであった。それでも定員30名のところ、座っているのは半分ほどだ。

 その中に、ペルとレブン、ミンタとムンキン、そしてラヤンの姿が見える。真面目に講義を聞いているのは、ペルとレブンだけのようであるが。


 ナジス先生がやはりヘラヘラ笑いを口元に浮かべながら、教壇の上で授業をしている。鼻をすする癖のせいで、何となく聞き取りにくい話し方である。

 白いが結構荒れている顔に埋まっている青く細長い垂れ目は、生徒たちを直接見ておらず、教室の後ろの天井辺りをさまよっているようだ。

 斜に構えた体は運動不足がありありと伺え、彼の腹筋と背筋は体重を支えるのに難儀しているようである。決して肥満体型なわけではないのだが。


 服装も先日までは、何週間も洗濯していないヨレヨレで変色が進んでいるシャツに、ジーンズみたいな生地のズボンをはいていた。今は衣装替えを果たしたおかげで少しまともになっている。

 靴も先日までは、かかとを踏み潰したヨレヨレの革靴で、スリッパのようにして足にはめていた。これも今は短めのゴム長靴に置き換わっている。こんな身なりを白衣風のジャケットで覆い隠している先生である。


 褐色で焦げ土色の髪も、全く手入れや洗髪がされていない。それを適当に首の後ろでくくりつけて、だらしなく肩の上まで垂らしている。一応『ポニーテール』と呼べばいいのだろうか。

 さすがにフケは出ていないところを見ると、洗髪や入浴はせずとも魔法で適当に清潔を保っているようであるが。悪臭もないのだが、生徒に人気がないのは当然かもしれない。


「現在、学校周辺の森の中で、ずず」

「妖精パリーやドワーフのマライタ先生、ノームのラワット先生が大量の酒を仕込んで発酵させています。ずず」

「この発酵臭の成分は、様々な匂い分子が複雑に絡み合ってできています。ずず」

「個人、種族によって、これらの匂いを感知できる程度は、ずず」

「大きな差があるのです」

 ナジス先生が鼻をすすりながら、今日の講義の導入話を始めた。淡々と話しながら、手元の〔空中ディスプレー〕に匂い分子のモデルと、それらがゴチャゴチャに絡み合っている様子を映像化して見せている。


「さて、我々の細胞の中にあって、生命活動を司っている遺伝子ですが、ずず」

「たまに有害な突然変異が起きて、その遺伝子の機能が失われてしまうことがあります。ずず」

「特に、魔法をよく使う人に起こりやすいですね。ずず」

「そのために、〔蘇生〕や〔復活〕魔法で参照する生体情報の遺伝子健全性が、ずず」

「何よりも重要視されているわけです。言い換えれば、定期的に情報を〔更新〕して、自身の遺伝子の状態を、最新かつ良好に〔維持〕できない場合には、ずず」

「魔法を使用することは極力控えた方が良い、ということですね。ずず」


 レブンが手を挙げて質問してきた。

「ナジス先生。では、その〔蘇生〕や〔復活〕用の生体情報の『更新頻度』は、どのくらいが目安となるのでしょうか」

 ミンタとムンキンは既に知っているようで、あくびをしている。ペルも知っているようで、ちょっと苦笑して両耳を軽くピクピクと前後に動かしている。レブンが自らの眠気を払うために、あえて質問しているのだと理解しているようだ。


 ナジス先生がようやく視線をレブンに向けた。が、顔ではなく、レブンの右肩あたりを見ているようだ。相手の目を見ない主義なのだろう。

「そうですね。ずず」

「できれば毎日1回が望ましいですが、週に1回の頻度でも、日常生活を送る上では充分でしょう。ずず」

「生体情報の『バグ取り』は必須事項ですので、週に1回程度が限度でしょうね。ずず」


 淡々と答えて鼻をすすり、話を続ける。右足にかけていた体重を左足に移したので、体の傾きが変わった。

「私のような人間と、あなた方のような獣人とは、見た目はかなり異なりますが、ずず」

「遺伝子で見ると、それほど差異はないのです。ずず」

「では、どうして魔法適性を含めてこうも違うのか。それは、機能している遺伝子が異なるからですね。ずず」

「世界分化後、300万年が経過していますし、その間に新たな人類の参入も何度かありました。ずず」

「その間に、有害な突然変異が、かなり起きてしまったのです。ずず」

「もちろん、新たな遺伝子が加わった影響もありますが、遺伝子の機能が、かなり失われてしまったことの方が大きいですね。ずず」


 ミンタとムンキンは既に居眠りを始めていた。他の生徒たちもウツラウツラし始めている。まともに聞いているのはペルとレブンだけのようだ。それでもナジス先生は注意もせず、淡々と話を進める。

「このように、ずず」

「かつては機能していたのに、現在では失活してしまった遺伝子の残骸を、『偽遺伝子』と呼びます。ずず」

「さらに、この偽遺伝子は、長い時間が経過すると、やがて、その存在そのものが消えてなくなってしまいます。これを、『遺伝子の欠損』と呼びます。ずず」

「この差によって、我々の姿や能力に大きな差異が生じているというわけですね。ずず」

「それでも遺伝子全体の量からすれば、数パーセント程度ですが」


 レブンが再び手を挙げた。

「ナジス先生。では、魔法などで新たに導入された遺伝子と、この欠損したり偽になったりした遺伝子との比率は、どのくらいなんでしょうか」


 ナジス先生が再び視線を天井から、レブンの左肩の先に向けた。

「そうですね。ずず」

「一概には言えませんが、参考程度までに言うと、新規遺伝子導入による差異と、偽化や欠損による差異とは、1対1万程度でしょうかね。ずず」

「魔法によって獲得した遺伝子も、個人や種族によって、その定着率が大きく異なりますから、1万という数字も非常に大雑把なものです。ずず」


 そして、再び視線を教室の後ろの天井辺りに向ける。

「酒の匂いなどを識別する『嗅覚』の場合ですと、受容体遺伝子の数はですね、ずず」

「私のような旧人の人間で400程度です。偽遺伝子の数を含めても800余り。ずず」

「一方で、あなたたち獣人では、700余りあります。偽遺伝子を含めると1000ほどありますね。ずず」

「人間は魔法に頼った生活を長く続けていますから、これほどの喪失になっているのですよ。ずず」

「ちなみに、偽遺伝子を魔法で〔修復〕して、800余りまで回復できれば、病気の初期症状を『匂い』で判別できるようになりますよ。医者を目指すのも良いでしょうね。ずず」


 だらだらと抑揚のない話し方をするナジス先生だ。ここで一呼吸休んだ。

「ちなみに、魔法学校へ参加していない獣人種族には、もっと多く残っています。ずず」

「ネズミ族では1200ほどですね。これほどあれば、匂いで相手の性別を判断できます。ずず」

「ゾウ族になると2000ほどあります。ここまでくると、魔法適性による差異まで、匂いで判別できるようになります。ずず」


 レブンが再び手を挙げた。

「ナジス先生。では、〔アンデッド化〕させた場合、この能力も喪失すると考えてよいのでしょうか」


 ナジス先生がレブンの喉元あたりに視線を向けた。あくまで視線を合わせないようだ。

「死霊術については、僕は詳しくありませんが……ずず」

「細胞が死ぬと、遺伝子の発現も無くなりますから、喪失すると考えて差し支えないと思いますよ。ずず」

「もちろん、死霊術の中には、それを〔回避〕する魔法もあるでしょうから、それはテシュブ先生に教えてもらうことですね。ずず」


「なるほど。そうします」と、うなずいたレブンの喉元をヘラヘラ笑いで見つめながら、ナジス先生が講義を進める。

 既に、生徒たちの半数は熟睡していた。もちろん、ミンタとムンキンもその中に含まれているのは言うまでもない。

「ずず」

「さて、民族分化は、わずか300万年前の出来事です。我々の祖先は、当然ながらそれよりも、はるか以前から生きています。ずず」

「その長さは1億年ほどに達すると見られています。それほどの長い期間ですと、様々なウイルスや細菌、寄生虫などに感染して、中には我々と同化したものも数多くいます。ずず」


 あくまでも、マイペースな口調で話し続ける先生だ。聞きようによっては『睡眠導入歌』のようにも聞こえる。

「実際、我々の遺伝子には、ウイルス由来のものが多く含まれています。ずず」

「その1つ、あるレトロウイルス由来の遺伝子を活性化させると、その細胞が幹細胞に初期化されます。ずず」

「その幹細胞を、魔法を使いながら目的の細胞へ分化させることで、魔法生物を作り出したりできますし、ずず」

「自身の補修用の臓器や組織などを用意することができるようになります。招造術の代表的な分野の一つですね。ずず」

「ですが、具体的な術式は、『特許や機密事項』に属するので、ずず」

「こういった授業では教えることは認められていません」


「またそれかよー……」と、眠っていない生徒たちがジト目になった。

 そんな生徒たちの反応を、天井を見上げながら無視するナジス先生だ。枝毛と切れ毛だらけの焦げ土色の髪の先が、肩の上で気だるげに揺れている。

「まあ、後でタコを用いて実習してみましょう。ずず」

「姿の改造は無理ですが、研究用に『神経組織』の〔改造〕は認められています。ちょっと知能が上がる程度ですけれどね。ずず」


「またタコかよー……」という雰囲気が教室の中に漂った。

『医療用の実習につながる』という魔法世界からの難癖のせいで、マウスやラットのような哺乳類のみならず、ヒヨコやメダカを使った実験もできないのである。結局、タコになる。

 タコは獣人や人と違い、心臓が3つもあるし、遺伝子も半数以上が染色体の上を自由に移動放浪している。従って、タコで実現できた魔法が獣人族にそのまま適応できることは、まず『ない』。つまり、意味のない実験動物である。


 そんな生徒たちの落胆も、淡々と受け流すナジス先生であった。

「同じ説明を繰り返しますが、聞いて下さいね。これも指導要綱に書かれていますので。ずず」

 ナジス先生もやる気が出ないのか、口調が一気に適当になった。

「各種族の固有ゲノムに存在する、2万から3万の遺伝子が、各々独立性を保ちながら秩序立って働くには、『遺伝子間の相互干渉』を防ぐ仕組みが必要です。ずず」

「相互干渉を防ぐ仕組みとして、区切り壁が作成されていて、その主力たんぱく質が『コピオ』ですね。人間や獣人のゲノム中には1万ヶ所以上もあります。このタコも同様ですね。ずず」


 ナジス先生が一息入れた。

「遺伝子治療や、今回の『神経組織の改変』では、新たな遺伝子を目的の遺伝子上に導入して、発現させなくてはなりませんが、ずず」

「導入された遺伝子が、どうしても導入先の周りの環境の影響を受けてしまう、遺伝子間の干渉が発生してしまいます。ずず」

「これでは、導入した遺伝子の機能が阻害されて発揮出来ません。ずず」


 ナジス先生が一息入れた。

「そこで、招造術の〔コピオ挿入〕魔法を使い、遺伝子を発現単位ごとに区切ります。ずず」

「こういった周りの配列からの干渉を最小限に抑制し、多数の遺伝子を同時に安定的に発現させることが重要です。ずず」

「この基礎魔法が、魔法生物の製造やメンテナンス、医療現場などで使われています。ずず」

「これ以上は、『特許や機密事項』に該当するので説明できませんが。ずず」


 ナジス先生が一息入れた。

「ちなみにコピオですが、これはリング状の構造で、リングの穴の中にゲノム遺伝子が通るような形でゲノムと結合しています。ずず」

「4つのサブユニットから構成されていまして、その構造と機能は、酵母から人間、獣人まで共通しています。ずず」


 ナジス先生が一息入れた。

「さて。今回はタコの『脳の神経組織の改変』を行います。ずず」

「そのため、神経の配列を整えるたんぱく質『ミロコソン』も併せて使います。ずず」

「これは、少なくても多くても、神経組織の配列が絡まって均一に広がらなくなるので、正確に分量を計量して使って下さいね。ずず」

「特に、視細胞で受け取られた情報は、長いコードのような網膜神経節細胞を通じて脳へ伝えられます。ずず」

「これは種族で異なる上、12種類以上のコードが互いに分担して膨大な視覚情報を伝達するという、ずず」

「やっかいな構造です。作業マニュアルをよく読んで、その通りに作業して下さいね。ずず」


 ナジス先生が一息入れた。

「それと、我々やタコのような真核細胞の遺伝子は、複数の染色体から構成されていて、複数の『複製開始点』が存在しています。ずず」

「それら複数の開始点すべてから、1回の細胞周期で1回のみ複製が起こるように厳密に制御しているシステムが、『ライセンス化』です。ずず」

「そのライセンス化因子と阻害因子の2つを適切に機能させないと、正常な遺伝子の複製ができませんので、これも注意して下さいね。ずず」


 ナジス先生が一息入れた。

「今回もタコだけを取り扱いますが、ずず」

「複数の魔法生物を〔合成〕して1つの『キメラ』にする場合、異なる品種の動物を、かけ合わせるために招造術の魔法を使います。ずず」

「ですが、できたキメラは、そのままでは無菌状態なので感染症などに弱いものです。ずず」

「そのために腸内細菌や皮膚表面で生息する細菌を導入します。これに適合する細菌種は、ずず」

「かけ合わせる動物の遺伝子の相違が大きいほど少なくなる傾向があります。残念ながら、ずず」

「このような実習は認められていませんので、あしからず」


 ナジス先生が一息入れた。

「幹細胞を〔操作〕する上で使用する遺伝子〔改変〕魔法ですが、教育指導要綱に基づいた手法を用います。ずず」

「ですが、塩基欠損や挿入を引き起こしてゲノムを改変する手法であるために、遺伝子の機能自体を壊す変異が起きやすいのです。ずず」

「ですので、手順に従って確認しながら進めて下さいね」


 ここまでほとんど様式美にように、毎回同じ説明をするナジス先生である。おかげで、生徒たちのほぼ全員が熟睡してしまった。起きて授業を聞いているのはペルとレブンの2人だけである。それでも、かなり眠そうにしているが。



 続く実習も、生徒たちが『その手で直接行う』ことは認められていない。先生が教壇の上で見せるだけである。


 今回も、いつもの水槽に入っている1匹のタコをナジス先生が教壇の上に置いて、簡易杖をかざして術式を展開、発動させる。

 生徒たちはこれを見て、使われた術式を自身の簡易杖にコピーして習得するだけである。何とも味気ない授業であるが、そういう規則なので仕方がない。人気がないのも当然だろう。


 実際、ミンタとムンキンは居眠りして机に突っ伏したままである。他の数名の生徒たちも居眠りしているが、ナジス先生は一向に気にしないようで、注意もせず起こしもしない。


 ペルがミンタの寝顔を横目で微笑んで見ながら、そっとレブンにつぶやいた。

「ミンタちゃんとムンキン君はもうこの術式を習得し終わっているから、眠っていても問題ないのかな」

 隣のレブンも、あくびを堪えながら同意する。

「ミンタさんの場合は、もうほとんどの科目を修了し終わっているからだけどね。ムンキン君たちはそうじゃないから、後でノート見せと術式説明を僕からやっておくよ」


 レブンやムンキンは個人用の小型〔空中ディスプレー〕に、光の精霊魔法による高速高密度での〔記録〕魔法ができるようになっていた。自身の脳への〔記憶〕も、光の精霊魔法によって簡単にできている。

 おかげで今や、ノートに書くという作業は不要になっている……のだが、レブンは相変わらず、手書きにこだわっているようだ。


 ペルもつられて一緒にあくびを堪えて苦笑していたが、その笑顔が一瞬で凍りついた。

 全身の毛皮が逆立ち、鼻先のヒゲもピンと一斉に天井を向く。薄墨色の瞳からは、軽いパニック状態になっていることがありありと見て取れる。

「レ、レブン君っ……向かいの校舎で……!」


 しかし、レブンは異変に気がついていない。キョトンとした深緑色の視線をペルに返して、眠そうな目を制服の袖でこすった。

「? ど、どうかした? ペルさん」


 ペルが一瞬、挙動不審な動きになったが、すぐに厳しい視線をナジス先生に向けて告げた。

「せ、先生! 闇の精霊場の〔暴走〕が起きています! む、向かいの東校舎です」


 ナジス先生も異変に気がついていない様子で、怪訝な眼差しをペルに向けた。ちょうど自身の簡易杖を使って、水槽の中の1匹のタコに魔法をかけ終わったところだ。タコの動きが俊敏なものに変わってきて、水槽の水がしぶきを上げて波打ってくる。


 相変わらずの教室奥の天井に視線をさまよわせたままで、ナジス先生がペルを諌めた。声の調子も全く変わっていない。

「これ、ペルさん。授業中は静かにしなさい。ずず」

「さて、術式が発動しました。成功です。タコの遺伝子情報を〔改変〕する、所定の魔法ですね。ずず」

「ちなみに、この魔法の術式には、改変内容を一時的なものに留めるスイッチと、永続的なものに固定するスイッチが備わっています。ずず」

「今回は、永続的な方ですね。どうせ、この後すぐに殺処分しますので、教育指導要綱に従ってこうしています。ずず」

「これで、このタコは知能が急激に上昇して、魔力と運動能力も上がります。ずず」

「遺伝子情報は、個性の拠り所ともなる、生体情報とも密接に関わりますので、今のタコは先程のタコとは別の個体です。ずず」

「固体認証を〔更新〕しておきなさい。では、この術式を皆さんの杖にコピーしましょう」


 そういって視線はそのままに、ナジス先生が自身の杖を生徒たちに向けた。

 一呼吸ほどしてから、ナジス先生の簡易杖の先がボンヤリと鈍く光り始める。同時に、机の上で突っ伏して寝ている、生徒たちの杖の先も反応して光り始めた。

「術式の文章量が小さいですから、すぐに〔転送〕し終わります。ずず」

「常駐している余計な術式を発動しないようにして下さいね。ずず」

「術式の導入作業に支障が出る恐れがありますから」


 慌てているペルを放置して、のんびりとした口調でナジス先生が注意事項をいつも通り伝えた。

 ほとんどの生徒が寝ているので、術式の導入と入力に最適化も『自動』で行われている。いつもの光景なので、支障が出るようなことにはならないはずだ。


 まだ眠っているミンタとムンキンたちを、レブンが今度はしっかりと明るい深緑色の両目で見ながら、腕組みして注意した。ようやく眠気が覚めたようだ。

「こら。さすがに先生が術式を渡している間は、眠っていては失礼だろう。起きなよ」


 それでも、「むにゃむにゃ」言って机の上に突っ伏している生徒たちに、ナジス先生がようやく口を緩ませる。

「ああ、別に構いませんよ。ずず」

「教科書に記されている通りの術式ですから、予習をしていれば寝ていても理解できます」


 不服そうなレブンに軽く微笑んで、ナジス先生が話を続ける。視線は決して合わそうとしないが。

「はい。術式の転送と導入が無事に終わりましたね。ずず」

「後は、各自でこの術式に習熟しておくようにして下さい。ずず」

「習熟を確認するようなテストは実施しませんが、次に学ぶ術式と、一部重複する部分がありますので」


 ナジス先生が一息入れた。

「さて。この術式ですが、ずず」

「いったん発動すると、その生物が持ちえる可能性の上限まで一気に神経回路が複雑化します。ずず」

「この別個体となったタコは、最終的には我々と意思疎通ができるようになるでしょう。ずず」

「ですが、この水槽は小さいですからね。空気ポンプもないですから、水中の溶存酸素不足で、すぐに死んで……」

 唐突にペルが席から立ち上がって叫んだ。薄墨色の瞳が白っぽくなっていて、黒毛交じりの両耳と尻尾が逆立っている。

「先生! みんな! 闇の精霊魔法が炸裂起動するわ! 〔防御障壁〕を展開してっ」


 さすがに皆、叩き起こされた。寝起きの呻き声や唸り声が、教室の中に広がっていく。

 ようやく、ナジス先生が視線をペルに向けた。さすがに不快感を顔に出している。目が細いので、少し分かりにくいが。

「ペルさん。何を言っているのですか。授業妨害で教室から追い出しますよ。そもそも……」

 全てを言い終わらないうちに、運動場を挟んだ向かいの東校舎の2階が突然、視界から消えうせた。光が吸収されて、真っ黒い穴に変わる。


 同時に闇の精霊場が爆発的に発生した。

 衝撃波が発生して、こちらへも襲い掛かってくる。音速を超えているので、ものの数秒で衝撃波が運動場を渡りきって、ペルたちのいる西校舎に衝突した。


 幸いだったのは、闇の精霊魔法に対する自動『防御障壁』生成機械が、学校の敷地全てで一斉に発動したことだろう。狼バンパイアとカルト貴族襲来の後で設置されたものだ。

 これによって、闇の精霊魔法の爆発衝撃波が相当に低減されたのは幸運だったといえる。そのまま直撃を受けていれば、この西校舎もかなり〔消失〕していたかもしれない。




【魔法事故】

<どおおん!>

 西校舎が大きく揺れた。教室の中の先生と生徒たちが、イスから浮き上がって空中に投げ出される。

 ペルも一瞬、自身の五感が消失したが、次の瞬間には自動〔治療〕法術のおかげで元通りに戻っていた。すぐに、衝撃波が通過したばかりの教室で立ち上がって、周囲を確認する。


 先生も含めて、全員が見事に気絶して倒れていた。レブンは完全に魚に戻っている。どう見ても制服を着たクロマグロだ。ペルが急いで自分の簡易杖を手にとって、彼ら全員の状態をスキャンしていく。

「……よかった。気絶しているだけだね」

 水槽の中のタコも見る。タコもぐったりしているがエラ呼吸はしているので、気絶しているだけのようだ。

「タコさんも大丈夫そうね」

 最後に自身の状態をスキャンした。特にケガ等はしていないようでほっとする。しかし、床に転がってしまったせいで、制服が埃まみれになってしまっているが。白い長袖シャツも紺色のベストも、茶色がかっている。


 やがてレブンが起き上がり、次いでミンタとムンキンの目が覚めた。ペルが安堵して微笑む。黒毛交じりの尻尾が、埃だらけの教室の床を掃く。

「無事で良かった」


 とりあえず外の様子を伺おうと、廊下に出てみる。意外にも窓や天井等は破壊されていないようだ。その窓から運動場を見下ろした。

「良かった。校舎に設置されていた、闇の精霊魔法用の障壁発生装置が作動したんだね。直撃を受けなくて良かった」


 レブンがややフラフラしながら、ペルの隣に歩いてやってきた。彼も制服が埃にまみれていて、スリッパに刺さった机やイスの破片を引っこ抜いている。

「闇の精霊魔法の爆発だよね、これって。凄い破壊力だなあ」

 ペルが固い笑みを口元に浮かべた。

「うん。テシュブ先生の仰る通り、扱いには注意しないとね」


 廊下の床一面に破片が散乱しているので、それを避けて、一緒に窓から運動場を見下ろす。〔防御障壁〕が発生した跡が幾重にも筋になって、運動場の土の上に刻まれている。それは、ペルたちがいる校舎の外壁も同様だった。

「……〔防御障壁〕は正常に機能したようだけど、それでもあまり効果は出ていなかったかな」

 レブンのため息混じりのつぶやきに、ペルもうなずいた。

「そうだね……私も一瞬だけだったけど気絶しちゃったもの。要改良よね」


 そして、衝撃波が駆け抜けた跡をさかのぼって、向かいの東校舎を見た。

「2階、マライタ先生の教室が『爆心地』みたい」

 レブンがジト目になった。口元も魚のままだ。

「はあ……それって間違いなく、先日に運動場から採集した大深度地下産の希少鉱物や土類のせいだ。であれば、闇の精霊場の爆発も説明がつくよ。マライタ先生、ズサンな管理してたんだろうな。きっと」


 教室内の生徒たち全員と先生がヨロヨロしながらも起き上がったのを見て、ペルがほっとした表情になった。

「もう一度検査したけど、異常は見られないな。良かった」


 そして、再び向かいの東校舎に顔を向け、簡易杖も向けた。東校舎も対策が施されていたようで、大きな破壊は見られない。真っ黒い穴に東校舎が飲み込まれた際は、どうなる事かと冷や汗をかいたが。

「うーん……距離が遠いから、正確な状況が分からないなあ。大丈夫かな、みんな」


 そこへ、ようやく回復した法術クラスのラヤンが簡易杖を東校舎に向けながら、ペルとレブンのそばへ歩いてやってきた。木片が散乱している廊下の床にペルとレブンが風の精霊魔法をかけて掃除する。竜族と狐族は裸足なので、その気遣いだろう。


 ラヤンが制服を「パンパン」叩いて埃を払いながら、礼を述べた。彼女の足の裏には、木の破片やトゲ等は刺さっていないようだ。

「ありがと。さすが耐性が違うわね」

 そして、ペルたちと一緒に窓から外を見た。

「……うん。東校舎の生徒たちは大丈夫そうね。死者は出ていない。〔防御障壁〕のおかげで気絶だけで済んでいるわ」


 ラヤンが簡易杖を軽く上下左右に振って、人命救助用の〔探索〕法術を向かいの東校舎にかけてみる。厳しいながらも、ほっとした表情になった。

「大ケガをした人はいないわね。これなら法術で対処できるわよ。それと、うちのマルマー先生とスンティカン級長たちが救急活動を始めたわ。もう、心配無用よ」


 確かに、向かいの東校舎の中にマルマー先生の姿が見えた。スンティカン級長と、彼の専門クラス生徒15名ほどを引き連れている。

 マルマー先生が次々に指示を飛ばし、それを的確にスンティカン級長が法術専門クラスの生徒たちに割り振っているのが見えた。

 さすがは法術専門クラスの生徒だけあって、迅速で的確な応急措置を施している。並行して、気絶している生徒や事務職員たちを〔浮遊〕魔術を使って運動場へ運び出し始めた。

 その中には、気絶して泡を吹いているリーパット主従の姿もある。彼らは魔法適性が弱いので、直撃を受けてしまったのだろう。


 上空には何を勘違いしたのか、ソーサラー先生が竜族のラグたちを引き連れてグルグルと飛び回っている。時折、森の方向へ〔電撃〕魔法や〔レーザー光線〕を無差別発砲していて、騒ぎを余計に大きくしているようだが。


 そんな運動場と上空の有様を半眼で睨みつけて、尻尾を数回床に叩きつけるラヤン先輩だ。

「何をやってるのよ、あのソーサラー先生はっ」


 レブンが容赦のない指摘を、大丈夫だと太鼓判を押したばかりのラヤンに入れた。

「マルマー先生が、画面2つとケンカしているように見えるんだけど。ラヤン先輩」

 ペルもジト目気味になって無言でうなずいた。

 法術先生が2つの〔空中ディスプレー〕と、校舎の隅で言い争いを始めていた。足元には数名の気絶した生徒が寝ているのだが、手当もせずに放置されている。


 これをバントゥたちが非難して、マルマー先生に突っかかっていった。それを見た法術クラスの生徒たちまでもが救助を中断して、バントゥ党との言い争いを始めた。スンティカン級長が率先して、バントゥ党の側近2人と口論している。

 先程までは迅速で的確な救助を行っていたのだが……


 レブンが手元の〔空中ディスプレー画面〕を操作して、側近2人の名前を検索した。まず、竜族の男子生徒を調べる。

「ええと……うわ。招造術専門クラスのレタック・クレタ級長じゃないか。バントゥ党員だったんだ」


 クレタ級長は、渋柿色の少し荒いウロコで覆われた頭と尻尾を、日差しに反射させながら、尻尾を地面に≪バンバン≫打ちつけて、スンティカン級長を威嚇している。

 距離が離れている上に、まだ闇の精霊魔法場が残っているので、何を叫んでいるのかは聞こえない。ラヤンも頭のウロコを逆立て始めたので、レブンが慌てて諫める。


 次に、クレタ級長の隣でスンティカン級長とマルマー先生を非難している、竜族の男子生徒を検索した。同じように、尻尾を地面に叩きつけている。橙色の少し荒いウロコが、同じように日差しを反射していた。

「彼は、幻導術専門クラスのプサット・ウースス3年生。あ。彼も級長なんだ。バントゥ党って優秀なんだね」


 他には、魔法工学専門クラスのベルディリ級長の姿もあった。彼もまたウースス級長とクレタ級長に加わって、スンティカン級長との口論に参加している。彼は狐族なので、尻尾が興奮のせいでホウキ状態だ。

 彼の成績も学内上位なので、改めて驚いているレブンとペル。ソーサラーのソーサラー先生と一緒に上空を飛び回っている竜族のラグも含めると、バントゥ党は確かに皆、成績優秀者ばかりだ。

 その場所にいないのは、魚族のチューバ2年生だけのようだった。彼はこちらの西校舎にいるのだろう。


 ペルがジト目になりながら、つぶやいた。

「でも、今は口論なんかしている場合じゃないと思うの」

 実際、救助されるべき気絶した生徒がそれ以降、校舎から運動場へ運ばれてこない。


「コホン」と、咳払いをしてごまかすラヤンである。尻尾が1回だけ《パシン》と床を叩いた。掃除をしたばかりなので、今はもう埃が立たない。

「ええと……何か重要な理由があるのよ、きっと」

 レブンがジト目のままラヤンに告げた。少々呆れているのか、口元が魚に戻っている。

「今は派閥争いや、主導権争いをやっている場合ではないと、僕は思いますけどね」


「ぐぬぬ……」と、苦虫を噛み潰したような顔をしているラヤンであった。


 そこへ、ようやく回復したミンタが廊下にやって来た。ムンキンはまだ後ろで頭を振って、ふらついている。

「まったく……しょうがないなあ、もう。じゃあ、私が『気付け用』の法術をかけてあげるわよ」

 そう言って、簡易杖を無造作に向かいの東校舎に向けて、術式をいきなり発動させた。法術特有の暖かい波動が大量に杖の先から放出されて、それが衝撃波のようになって向かいの校舎に飛んでいく。


「きゃん!」

「うがっ」

 ペルとレブンが卒倒して、廊下の床に倒れてしまった。法術の巻き添えを食らってしまったようだ。


 ラヤンはさすがに平気だったのだが、慌ててミンタに抗議した。驚きのあまり赤橙色の尻尾が、斜め45度の角度でピーンと伸びている。

「ちょ、ちょっと! いきなり全体魔法なんか使わないでよ! 気絶の程度や種族に応じて〔調節〕しないと、かえってショック状態になってしまうわっ。見なさいよ、この可哀そうな2人を」


 が、ミンタ狐は鼻で笑う。口元のヒゲが同調してピコピコしている。

「『気付け』目的なんだから、別に構わないでしょ」

 ムンキンも平気だったようで、ミンタと一緒になってニヤニヤしていた。

「体内に闇の精霊魔法場が残っている恐れがあるんだよ。これなら、手っ取り早く〔除去〕できるだろ」


 口をあんぐりと開けてパクパクしているラヤンの横で、床に倒れていたペルが顔を上げた。法術の影響を受けたせいだろう、薄墨色の両目がまだグルグル回っている。

「……あうう、ミンタちゃんてば、やりすぎだよう」


 そして、床に倒れたままで、ラヤンに顔を向けた。

「すいません、ラヤン先輩。ムンキン君の言った通りです。さっきの闇の精霊魔法の爆発の残りカスを、急いで〔除去〕しないといけないんです。気絶していると無防備になっているから、精神〔侵食〕される恐れがあるんです」

 ケホケホと軽く咳込んでから、話を続けるペルだ。

「光や生命の精霊魔法でも良いんですけど、同時に〔治療〕ができる法術が、この場合一番適しているんですよ。ショックとかの副作用の処置は、後でラヤン先輩にお願いします。重ね重ねすいません」


 ラヤンも頭では理解していたようで、ペルの話を聞いて渋々うなずいた。レブンがようやく気絶から回復したのを横目で確認する。

「分かったわよ。こら、ミンタ。あんまり調子に乗って、強力な法術を使わないでよね。ショックの〔治療〕が面倒になるから」


 ミンタが早くも簡易杖を下ろして術を終了させながら、ラヤンに視線を向けてうなずいた。かなりのドヤ顔である。

「はいはい。もう、終わったわよ、先輩。この短時間だったら、大丈夫でしょ」

 ムンキンはそんな会話を聞いて、上機嫌に尻尾を廊下の床に打ちつけながら、向かいの東校舎を見ていた。

「でも、ミンタさんの法術の衝撃波を、モロに食らっているぞ。みんな」


 確かに、運動場に出てきていた法術先生と、その生徒たち全員が『なぎ倒された』ようになって運動場に倒れているのが見える。

 先程まで、つかみかかりそうな勢いで口論をしていた、スンティカン級長と法術専門クラス生徒十15名ほどがバッタリ倒れて痙攣している。その横では、バントゥと党員のベルディリ級長、ウースス級長、クレタ級長が揃って倒れて気絶している。他のバントゥ党員も10名余りが薙ぎ倒されて痙攣していた。


 それに、なぜかラワット先生の精霊魔法専門クラスのニクマティ級長や、アンデッド教のスロコック占道術級長も倒れていた。騒ぎに乗じて何か仕出かそうと考えていたのだろうか。スロコック級長は、頭が完全にマグロに戻っている。


 ムンキンが愉快そうに濃藍色の大きな瞳を細めた。彼の友人も倒れているようだ。

「おいおい……バンナまで気絶したのかよ。鍛え方が甘いな」

 バンナとムンキンが呼んだ竜族の男子生徒は、いつも一緒につるんで悪ふざけをしている悪友だ。リーパット党やバントゥ党と対抗したのか、最近は『ムンキン党』とか何とか名乗っているようである。

 バンナは愛称で、本名はバングナン・テパ。狐族の1年生だが、成績優秀で力場術の級長を任されている。


 ミンタも窓から向かいの校舎の惨状を眺めているのだが、特に反省はしていないようだ。ムンキンと同じように、頬を緩めている。

「あらら。コンニーも倒れちゃったのか~。後で冷かしてやろっと」

 コンニーとミンタが呼んだ狐族の女子生徒も、やはり昏倒して痙攣していた。本名はコントーニャ・アルマリー。幻導術専門クラスの1年生だ。彼女はバントゥ党員のようで、他の党員と一緒に倒れている。ミンタとは親が商売上の付き合いがあるので、幼いころからの友人だ。


 森の方を見ると、ソーサラー先生とラグたち生徒が撃墜されていて、木の枝に引っかかっているのが見える。ラグ先輩の黄赤色の尻尾が、枝から垂れ下がって痙攣していた。彼の顔は、木の葉に隠れて見えない。


 ラヤンがその有様を一望してから、かなり呆れた表情でミンタを見据えた。

「まったく……法術で群衆を『殲滅』できるなんて、初めて知ったわよ」

 〔空中ディスプレー〕も、法術の影響で魔法場の〔混線〕が生じたせいで消失していた。


 この教室で、まともに立っているのはミンタとラヤン、そしてムンキンの3人だけだ。ラヤンは運よく、ムンキンの〔防御障壁〕の中に入っていたので無事だったようだ。さすがに占道術の成績が良いだけの事はある。


 ペルは床に伏せたままで軽いパタパタ踊りをしていたが、何とか落ち着きを取り戻してきつつあった。

(多分これ、向こうの校舎の人たち全員が、白目むいて口から泡を吹いているんだろうな)

 その通りである。しかも、負傷した生徒数は、ミンタの法術のせいでかなり増えている。


 レブンも法術を食らってフラフラして尻餅をついていたが、間もなくペルと共に回復して立ち上がった。窓の外を見て、目元が魚になっている。

「多分、校舎内も同じ光景が広がっているのだろうな。そういえば、警察部隊と軍の警備隊も姿が見えないな。闇の精霊魔法の爆発衝撃波で気絶中なのかな。まあ、僕たちと違って〔防御障壁〕とか使えないし、仕方がないか」

 冷静に分析しているレブンである。


 ようやく回復して元気になったレブンにムンキンが駆け寄ってきた。

「回復したばかりなんだから、もう少し休んでろ。ちょっと待ってな。調べてみるから」

 レブンの肩に腕を伸ばしながら、向かいの東校舎に簡易杖を向けて〔探査〕する。彼の濃藍色の目が、すぐに軽く閉じられた。

「……警官と軍人もレブンの予想通りだな。全員が気絶してる。さらに法術攻撃も無防備で食らったから、倍の被害か。これはさすがに申し訳ないな」


 ラヤンがムンキンと同じように、簡易杖を向かいの校舎に向けたまま再度スキャンした。

「重症者はいないようね。放置していても、すぐに回復しそう」

 頭と尻尾を覆う赤橙色の細かいウロコが逆立っていたが安堵したようで、それが通常の状態に戻った。続いて、鋭い視線をミンタに投げつける。

「加減して法術をかけなさいよね。まあ、ショック症状に陥った人は出ていないから、良かったけど」


 そして、ミンタが放った法術の術式跡を探って首をひねった。

「あれ? この学校の『法力場サーバー』を使わずに法術を使ったの?」


 ミンタがドヤ顔になった。

「光と生命の精霊場を、法力場に〔変換〕したのよ。ラヤン先輩がこれから大量に法術を使うんだから、法力場サーバーには接続してないわよ。節約よ、節約。感謝しなさいよね、先輩」


 ミンタがニヤニヤしながら、教室内でまだ倒れている生徒たちに無差別法術攻撃をかけていく。悲鳴を上げて気絶から〔回復〕していく生徒たちである。でも、腰が抜けてしまっているが。

 ついでにナジス先生にも杖を向けるミンタであったが、さすがに先生は回復していた。舌打ちして残念がるミンタである。



「あ」

 レブンとミンタが同時に天井を見上げた。同時に、生徒たちの悲鳴が上の2階から上がる。

 天井の照明器具が一斉に切れ、教室の中が薄暗くなる。この照明は電気を使用しておらず、ウィザード魔法の力場術を使用したものなのだが、それが消えた。

 つまり、力場術の魔法場が、他の魔法場によって〔干渉〕を受けて、途絶えてしまったことを意味する。それも強力な干渉を受けて。


 ミンタがため息をつきながら、まだ状況を把握できていないナジス先生とクラスの生徒たちに忠告した。

「上の階で、水の精霊場が暴走してるわ。多分カカクトゥア先生が気絶したか、何かしたせいだと思う。すぐに大量の水が下の階にも流れ落ちてくるわよ」


 ミンタが言い終わらないうちに、早くも洪水のような水が廊下に押し寄せてきて、そのまま教室の中に流れ込んできた。廊下側にいた生徒たちが水に飲まれて悲鳴を上げる。同時に火花があちこちで上がり、またもや悲鳴を上げて水中に倒れる生徒が出た。


 ペルとレブンが慌てて闇の精霊魔法の〔防御障壁〕を展開して、電撃から身を守る。間一髪だったのでペルがまたパタパタ踊りを始めている。レブンも完全なマグロ顔だ。

 ムンキンは前もって各種の〔防御障壁〕を展開していたようだ。自動的に電撃を〔遮断〕して無事だった。近くにいたラヤンもその障壁で包み込んで守っている。ラヤンは紺色の目を驚愕で見開いたままで、感謝する余裕は全くなさそうだ。


 ミンタも〔防御障壁〕を自動で展開しながら、空中に浮かび上がった。キョロキョロと周囲を見回して、状況把握に努めている。

「どこかで漏電してるのか。あ。そうか。ドワーフ製の器械は電気駆動だったっけ」

 そして、水から逃げて右往左往している仲間たちに大きな声で命令した。

「電気を遮断する〔防御障壁〕を展開しなさい! 早く!」


 結局、辛うじて間に合ったのは教室の生徒の半数程度だった。

 残りの生徒たちは悲鳴を上げて感電して倒れて、洪水に飲み込まれていく。

 ナジス先生も例外ではなかったようで、短い悲鳴を上げて倒れてしまった。そのまま洪水の流れに押し流されて、廊下とは反対側の森に面した窓際に、気絶した生徒たちと一緒にぶち当たる。

 大電流が流れているままなので、気絶しながらも全身が激しく痙攣している。まるで網にかかった魚が跳ねているようだ。


 洪水の水はそのまま教室を満たして、窓から森と運動場へ流れ落ちていく。まるで大きな滝のようだ。結構な急流になっているが、感電気絶を逃れたミンタたちが〔防御障壁〕を展開しつつ救助を開始した。


 手早くソーサラー魔術の〔浮遊〕魔術をかけまくって、ナジス先生を含めた全員を水の上から空中に浮かべていく。水中で感電して《ピチピチ》と激しく痙攣して跳ねているので、本当に一本釣りをしているようだ。

 それでも、ものの10秒ほどで全員を教室内の空中に退避させることに成功した。


 廊下には次々に他のクラスの生徒が流されてきた。

 その中には、バントゥ党の取り巻きの1人であるチューバの姿もあった。感電して痙攣しながら洪水に流されてくる。流れのせいなのか教室内へ流れてこずに、廊下を流れていく。

 まだ意識は残っているようだ。完全に魚に戻った顔をパクパクさせて、濁流の中からレブンに何か訴えてきた。

「が、がご、ご、ぎ……げ、ぐ」

 怒りの表情と視線をレブンに向けながら、チューバが廊下の窓枠から外へ流れて、運動場へ落ちていった。


 幸い、この教室は1階にあるので、運動場までの落下落差は1メートルほどで済んでいる。それを空中に浮かんで見送るレブンである。

「魚族といえども、電撃を食らっては流されるしかないか。すいませんね、チューバ先輩。ここはもう定員一杯なんですよね」


 ずぶ濡れのミンタが一緒に空中に浮遊しながら、一息ついた。

「ふう。すごい水の量ね、まったく。さすがエルフの精霊魔法だわ。暴走すると、こんな大変なことになるのね」

 そのまま空中に浮かびながら、気絶している先生と生徒たちを見る。

 結局、ラヤンも感電してしまったようだ。ムンキンの〔防御障壁〕の中で気絶していて、まだ微妙に痙攣している。よく見ると〔防御障壁〕の外にラヤンの尻尾が飛び出ていた。それが洪水の水に浸かってしまったようだ。


「ほら、起きなさいよ!」

 容赦なくミンタとムンキンが、『気付け用』の法術を無差別にぶっ放した。再び悲鳴が上がる。

「あ、あんららねっ……」

 悲鳴を上げて意識を〔回復〕させられたラヤンが、ろれつが回らない口調でミンタとムンキンに抗議する。ナジス先生も意識を取り戻したが、呆然としていて反応がない。気絶から〔回復〕させられた生徒たちの数名も、まだ意識がはっきりしていない様子だ。


 他のクラスからは、生徒たちがまだまだ流されてくる。が、教室内へ流れてくることはなく、そのまま廊下を流れて運動場へ落ちていく。


 ラヤンのそんな抗議には全く耳を貸さずに、ミンタがムンキンに相談した。

「どうしよっか? 暴走した水の精霊は、どこかの川か池に投げ込めば落ち着いて安定するはずだけど。溺れて水中に沈んでいる生徒や先生もいるはずだから、早くしないと魚族以外、窒息して死んじゃうわね」


 ムンキンが濃藍色の目をパチクリさせて呻く。

「そうだけど、かなり暴走しているから、学校近くの川や池では不充分だな。思い切って海に〔テレポート〕させるか?」

 ミンタもその案に賛成した。明るい栗色の瞳と、頭の金色の縞が輝く。

「そうね。これだけ暴れていたら川に〔テレポート〕しても、その川が洪水になりかねないか。でも、海だったら問題ないわね。そうしましょう」


 教室内の空中に浮かびながら、気絶から回復したばかりの生徒たちの手当てを続けているペルやレブンたちに顔を向けた。

「魔力支援をお願い。ここから海まで100キロ以上あるから、私とムンキン君だけでは不安だわ」


 しかし、レブンが残念そうな表情で、かぶりを振って拒否した。

「僕とペルさんは、別の仕事があるから無理だよ」

 廊下に視線を向けて、簡易杖を掲げる。


 その瞬間。廊下から教室へ、何か透明なものが侵入してきた。一気に教室内の気温が下がり、薄暗くなる。

 その半透明の何かがレブンとペルの闇の精霊魔法を受けて、穴だらけになって〔消去〕された。残りが廊下へ逃げ戻っていく。


 ミンタとムンキンが顔を見合わせた。これは……

 レブンが残念そうな表情になって答える。

「ティンギ先生のクラスで使っているシャドウが、制御を失って逃げ出したみたいだ。ティンギ先生もさすがに気絶してしまったんだろうね」


「また、あのセマンの先生かよ……」

 ジト目になって文句を言い放つミンタとムンキン。


 その2人をペルがなだめながら、レブンの予想に同意した。

「そうかも。さっきの闇の精霊魔法の衝撃波は、回避できる隙間がなかったものね。ティンギ先生って〔防御障壁〕を張らない主義みたいだし」

 そう言いながら、レブンとペルが封印解除の命令を出す。彼らの杖の先から、半透明の何かが姿を現した。


「ミンタちゃん、手伝えなくてごめんね。シャドウ退治をしなくちゃいけないの」

 ペルが申し訳なさそうにミンタに謝った。黒毛交じりの尻尾がクルンと丸まり、リスみたいになる。

 ミンタが微笑む。

「分かったわ。じゃあ、アンデッド退治はお願いね。残りのみんなは魔力支援をお願い。さっさと海に捨てるわよ! ドワーフ製の器械も、まだ漏電し続けているし」


 まともに行動できる10名余りの生徒たちが、一斉に簡易杖をミンタとムンキンの杖の先に向けた。ラヤンも加わっている。ナジス先生は、まだ呆然としたままなので使えそうもない。


 ……が。すぐにムンキンとミンタの顔が曇った。尻尾をグルグル回して、ミンタが空中で地団太を踏む。

「あー、もう! 魔力が足りないじゃない。アンタたちが気絶なんかするから」

 ラヤンが速攻でミンタに反論してきた。同じく尻尾をグルグル回して激高している。

「アンタが勝手に法術をぶっ放したせいでしょうがっ。普通の人は、気絶から完全回復するには時間がかかるのよ、そのくらい知っておきなさいよ、この優等生!」


「はあ!? なんだと。もう1回言ってみろコラ」

 ミンタのいきなりのケンカ口調に、ペルとレブンが目を白黒させている。どうやらミンタの本来の口調は、このようなものなのかも知れない。


 対するラヤンはさすが竜族という事もあるのか、平然としている。

「狐の耳は毛深いものね。時々、難聴になるのかしら? この、クソ優等生さまは!」

 ラヤンが尻尾をピタリと静止して、半眼になった。

 対するミンタも目が据わっていく。頭の巻き毛の先が、みるみるうちに尖っていく。

「耳のないトカゲの癖に、なにホザいてんだ。ああ?」


 ミンタとラヤンが一戦交えそうになってきた。それをペルとレブンが慌ててなだめる。ムンキンは万全の臨戦態勢でミンタに協力する気のようだが。

 レブンがラヤンの尻尾に抱きついて、彼女の動きを抑えながら提案する。

「ま、ま、魔力だったら、運動場に落ちている生徒たちから助力を得れば良いですよ! 特に魚族は水の精霊魔法が得意だから、成績上位のチューバ先輩を呼べば魔力不足は補えるはずっ。うわわ、ラヤン先輩、尻尾ごと僕を振り回さないでっ」


「なるほど」と素直に納得するミンタとラヤンである。意外と2人とも冷静だったようだ。

 早速、運動場でまだ感電して痙攣しているチューバを〔テレポート〕で呼びつけて、強制的に正気に戻した。法術使いが2人もいるので、あっけなく問答無用で正気に戻るチューバである。


 説明を受けて、青磁のような銀色の魚顔のままで同意する。理不尽な事をされているので相当に頭に来ているようだが、今は我慢することにしたようだ。それでも黒い紫紺色の瞳には、怒りの炎が渦巻いている。

「……分かった。魔力支援しよう。この感電地獄を終わらせるにはそれが一番だな」


 ペルが2人に代わってチューバに頭をペコペコ下げながら、電気の火花が散る水面を見下ろして尻尾を抱いた。

「お願いします……ドワーフ製の警戒システムって、バッテリー稼働が長時間できるような設計なんですよ。放置していても、1週間は電池切れにならないはず」


 それを聞いて、チューバも協力する気持ちを決めたようだ。ミンタに簡易杖を向けた。

「そうだったね。了解したよ。さて、早くやってしまおうか。ミンタ」

 再び教室の生徒たちが簡易杖をミンタに向ける。今度はミンタとムンキンの両目がキラリと輝いた。


 ミンタがチューバに微笑みかける。鼻先と口元のヒゲが上機嫌でピコピコ動いた。

「へえ……さすがね、やるじゃないの。チューバ先輩。これなら魔力は充分だわ」

 チューバがセマン顔に戻りながら、軽いドヤ顔になる。

「当たり前だ。僕は魚族だぞ」


 ミンタがムンキンとアイコンタクトをして、同時に〔テレポート〕魔法を発動させた。自分の魔力だけを使うソーサラー魔術なので、参加人数が多いと更に強力になるのである。

「飛んでけー!」

 ミンタが元気な声で叫ぶ。同時に、あれほどあった水が全て消え去った。水溜りも残っていない。


「よし!」

 ガッツポーズを空中でとるミンタとムンキンである。他の生徒たちも喜んでいるが、ラヤンだけは渋い顔をしている。

「水と一緒に、色々な物が〔テレポート〕されてしまったわよ。どうするの」


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