104話
【ムンキンの故郷の城塞都市】
テロは、ムンキンの故郷の城塞都市でも、ほぼ同時に起きていた。大きな爆発音が城塞都市の中心部地下で起こり、その振動が床を2度3度ほど揺らす。
すぐにムンキンの手元に〔空中ディスプレー〕画面が発生して、現場へ急行する彼の紙製ゴーレムからの映像が表示され始める。城塞都市のマップも同時に表示されて、この紙製ゴーレムが爆発現場に到着するまでの時間もカウントダウン形式で画面隅に出ている。
それを見たムンキンの顔が少し険しくなった。
「現場到着まで1分ほどかかるか……犯人はもう逃げているだろうな」
バングナンの事が心配になったが……通信手段が閉ざされている以上、ここからではどうしようもない。彼と他のムンキン党員の無事を祈って、気持ちを切り替える。
「さて。僕も今回初めて部下を持つ事になったし、今はこちらに集中だな」
ムンキンの隣には5名の自治軍兵士が控えている。服装は戦闘向きではなく、個人警護のような印象だ。
拳銃や大ナタを腰の専用ホルダーケースに収めていて、防弾防刃ジャケットを着こんでいる。肩には突撃銃がかかっていて、手榴弾が数個入ったバッグも腰ベルトに付いている。
しかし、フルフェイスのヘルメットや無反動砲、それにステルス機能を持つ戦闘服などは装備していない。足ごしらえは、頑丈な軍用のブーツで厳重ではあるが。
すぐに全館放送でサイレンが鳴り渡り、一気に緊張が増す。その5名の兵士の小隊副長がムンキンに聞いた。さすがに自治軍の兵士だけあって、顔つきが精悍で目つきも鋭い。
「小隊長。何が起きたのでありますか」
彼ら5人の手元にも、ムンキンと同じ映像が流れている〔空中ディスプレー〕画面が生じている。しかし、彼らには魔法適性が乏しいので、こういった魔法具の取り扱いには詳しくない。
ムンキンが素直に答えた。あと15秒で、彼の紙製ゴーレムが爆発現場に到着するのを横目で確認する。
「地下の自家発電区画を狙った爆破テロが起きたようだ。津波とアンデッド群がここへ襲来する隙を突かれた。でも、電気供給には異常ないみたいだけれどな。ここの照明も消えていないし」
確かに、ムンキンたちがいる部屋の照明は点灯したままだ。停電にはなっていない。
今度は城塞都市の外壁に設けられている砲台から、次々に砲火が上がり始めた。砲撃の爆音が連続して轟き始め、窓ガラスが《ガタガタ》と割れそうな音を立てて振動する。
ムンキンが手元の〔空中ディスプレー〕画面を操作して、城外の攻撃地点の映像を呼び出す。
城塞都市を囲むように流れている大きな川の両岸には、高さ4メートルの土製の堤防が出来上がっている。津波がその川を遡上して来ているのが見えた。その真っ黒い津波は、瓦礫とアンデッド群も引き連れている。
津波の高さは今のところ1、2メートル程度なので、土製の堤防を越える事はできていない。アンデッド群だけが堤防を乗り越えて、城塞都市へ向けて駆けて来ているだけだ。ミンタの時と同じく武器は持っておらず、棒切れを振り回している。今のところは、棒切れの先からの放水攻撃をしていないようだ。
城壁の砲台からの攻撃は、これらアンデッド群には向けられていなかった。砲弾が堤防を破壊しないようにするためだろう。
代わりに城壁の上にズラリと展開している自治軍部隊の〔紫外線レーザー〕魔法兵器が対応していた。堤防を乗り越えたゾンビやスケルトンが、次々に爆発して灰の山に変わっている。
爆発で堤防が破壊されないように、攻撃するのは堤防を乗り越えて少しこちらへ向けて走った後にしているようだ。おかげで、爆発で生じたクレーターが、堤防の手前の農地や道路に次々に発生している。
砲台の攻撃は、もっと遠距離の敵を狙っていた。地平線上に土煙が巻き上がっているのが見える。津波は河川沿いだけでなく、直接平野を飲み込んでこちらへ向かってもいる。その津波の最前線で巻き上がっている土煙である。
この津波にも当然ながら瓦礫やアンデッド群が大量に含まれている。
ここに配備されている〔紫外線レーザー〕魔法兵器は、レブンのところと違い真っ直ぐにしか飛ばない仕様のようで、遠距離攻撃には不向きだ。地球の丸みが影響するし、何よりも空気中の水蒸気や埃などによって光線が減衰してしまう。
そこで、この対策として砲撃が採用されていたのだった。砲弾は魔法兵器ではない炸裂弾で、広域を火炎で包み込み、内包された散弾を周囲に撒き散らして、多数のアンデッドや瓦礫を粉砕する。
これらの敵の測位を、ムンキンの紙製ゴーレムや〔オプション玉〕群が行っていた。ラヤンの〔式神〕よりも広範囲を飛行できるので、地平線際の敵にも砲撃が良い精度で命中しているようだ。
これらは、全自動処理で自律稼働中なので、特にムンキンが手動で操作する必要はない。敵軍にゴーストなどの飛行部隊がいなかったのも幸いしていた。内陸なので、ここまで飛んでこれないという、敵側の事情もあるのだろう。
簡単に部下たちに状況を解説しながら、敵アンデッド群が手に手に持っている棒切れや板切れにムンキンが注目する。
「レブンやミンタさんからの報告にあった、〔海水化〕攻撃の魔法具がアレだな。放水攻撃を始められたら、ここの城壁も溶かされて突破されてしまう。自治軍本部へ、あの棒切れを持っている敵を最優先で破壊するように提言しておいてくれ」
ムンキンにいわれて、兵士の1人がすぐに本部向けに送信を始めた。
同時に、城塞都市地下の爆発現場に到着して各種の観測をしていた彼の紙製ゴーレムから、観測結果が次々に上がってきた。
「やはり犯人は逃げた後か。さて……魔法場汚染が観測されてるなあ。魔法使いの仕業だな、これは」
ムンキンは学生の身分なのだが、これまでの活躍が自治軍に評価されて軍属の地位も与えられていた。とはいえ、後方支援部隊の独立小隊の小隊長なのだが。
現在アンデッド群に攻撃している前線部隊には配属されていなかった。彼の部下は5人で、いずれも自治軍の正規兵である。
普通であれば、学生の小隊長の下で働くような事は嫌がるものだ。そのため、わざわざ志願兵を募っての編成になっている。つまり、この5人はかなりの『物好き』という事になる。その甲斐あってか、ムンキンの命令に従順に従う部下になっているが。
「テロ組織も優秀だな。いくら津波とアンデッド群に自治軍の戦力が割かれているといっても、重要施設の警備は怠っていなかったはず。許可を受けた関係者しか、立ち入りできない場所での爆破テロを実行している。でもまあ、僕が設けた〔防御障壁〕の前で爆破したのが不運だったな」
紙製ゴーレムからの情報では、爆発が起きたのはムンキンが設置していた〔防御障壁〕の前だった。おかげで発電設備本体への被害は出ていなかったようだ。
ここでムンキンの表情が険しくなり、濃藍色の瞳が半眼になった。外の砲撃の連続音も、小口径の砲が加わったようで、一層激しさを増してきている。
「……ちょ、ちょっと待てよ。もしかして、僕に化けて侵入したのか!?」
外で砲撃とは違う爆発音が鳴り、衝撃波が窓ガラスを強く叩いた。
ここの部屋の窓ガラスは無事だったが、他の部屋や建物のガラスは割れたりしたようだ。道などにガラスが落ちて砕ける音があちこちで起きている。悲鳴も起きている。
ムンキンのいる部屋からでは爆発元が見えないのだが、すぐに彼の紙製ゴーレムからの映像情報が届いた。
それによると、城壁の一部になっている砲台の1つが爆破されていた。ムンキンがマップを見ながら唸り、数回ほど尻尾で床を叩く。
「川から一番近い砲塔を狙ったのか。犯人は、また逃げてしまっているなあ……仕方がない、申し訳ないけれど、死ぬ前にのぞかせてもらうよ」
ムンキンが紙製ゴーレムに命じて、砲塔の中と周辺で瀕死の重傷を負っている自治軍兵士たちの、爆破攻撃を受ける直前の記憶を調べる。
すぐにムンキンの顔が険しくなった。
「やはり、俺に化けているか。〔防御障壁〕の再調整とか何とかいって接近してきたようだ」
死ぬ直前なので調査して引き上げた記憶も、白黒でノイズだらけの無音映像ばかりだ。しかし、ムンキンの姿が映っているのが分かる。
兵士たちは爆発によって、四肢が吹き飛ばされていたり、頭が割れていたりしているために、30秒後にはそのまま死んでしまった。深く哀悼の目礼を捧げるムンキンだ。
すぐに部下に命じて、この映像と共に、警戒情報として自治軍本部へ送信させる。
ムンキンの独立小隊がいる場所は城壁ではなく、城内のとある物流会社の社屋の最上階の部屋だ。「ガタガタ」と振動して割れそうな窓ガラスからは、北の城壁とその向こうに広がる城外の田園と養殖池の風景が見える。
今は、そこを走ってやって来る敵アンデッド群が狙撃されて、次々に爆発している様子が見えているが。走るといっても、筋肉組織が痛んでいるゾンビなので大した速度ではない。魚族の死体が多いので、足もヒレ付きだ。
部下は、ムンキンのサポートをする位置づけになっている。自治軍本部への連絡や情報のやり取り、それにムンキンの護衛になるのだろう。
紙製ゴーレムからの調査結果が次々に上がってくるのを、ムンキンが目で追っていたが……再び顔を険しくした。
「ステルス仕様の〔テレポート〕魔術刻印がある。それに、自動起動の〔召喚〕魔法陣も。あ。起動したな」
土製のゴーレムが15体ほど〔召喚〕されて、破壊されて瓦礫だらけの砲台に降り立った。素手だが身長が3メートルほどあり重量も1トンほどはありそうだ。
それらが列を組んで砲台に発生した〔テレポート〕魔法陣を守るように円陣を組んだ。
たちまち、その城壁部分を担当する前線部隊との激しい戦闘になる中、紙製ゴーレムが離脱する。戦闘用ではないので土製ゴーレムを攻撃する手段がないのと、紙なので燃えてしまう恐れがあるためだ。
ムンキンが半眼のままで、イライラした様子になり始めている。
「考えたくはないけれど、敵は、魔法学校の生徒か卒業生だな。〔テレポート〕魔術刻印の術式が、ソーサラー魔術で習う物と一致している」
その推測を、部下に命じて本部へ送信させる。1年生のムンキンに化けている事から見て、在校生徒だろう。
《ドドン!》
2度めの爆発音が城塞都市地下から鳴り響いた。
爆炎に巻き込まれて燃えてしまったようで、ムンキンが放っていた紙製ゴーレムからの送信が「プツリ」と途絶える。ムンキンが柿色の尻尾を数回、床に叩きつけて、頭から首にかけてのウロコを逆立てた。
「ち。執念深い連中だな」
すぐに、ムンキンの手元の〔空中ディスプレー〕画面に、自治軍本部の後方支援部隊長の顔が映った。かなり憔悴している様子だ。
「ムンキン・マカン小隊長。テロ実行犯の捕捉を命じる。赤外線や音波探知などで追っているのだが、全く反応がない。敵は何らかの魔法具でステルス化しているようだ。津波到達までに何としてもテロ実行犯どもを捕捉せよ。その後、敵の無力化や排除については、警備部隊に任せるように。以上だ」
すぐに拝命するムンキン。いったん、〔空中ディスプレー〕画面を消去してから、5人の部下たちに顔を向けた。
「これから、強めの魔法を色々と使う。魔法場汚染が起きるから、その対処をするように。具合が悪くなったら、すぐに僕に申し出てくれ。いいな」
「はい!」
一斉に返事が返ってくる。
ある程度の訓練は積んでいるようで、部屋の窓を全て叩き割って、電動の組み立て型の扇風機を割った窓に向けて設置した。排気ダクトの代わりだろう。
さらに、ベルトにつけている魔法場汚染の測定器を再確認する。部下たちが頭をすっぽりと覆う、簡易型の防御マスクを被り、目の部分に水中メガネ型の防護ゴーグルをつける。
その作業を手早く終えて、互いに目視と手信号で装備状況を確認し合った。その報告をムンキンに済ませてから、質問する。
「ムンキン小隊長。この場所で魔法を使うのでありますか? 地下の現場に向かう必要は無いのですね?」
ムンキンが当然という風な表情でうなずく。彼は学校から直接〔テレポート〕してきて、そのまま小隊を指揮しているので学生服のままだ。一応は軍属の身分証明書を自治軍本部でもらってはいるが、この場の雰囲気には全く似合わない服装である。
しかし、各種〔防御障壁〕を展開しているので、防御面や機動面では引けを取らないどころか、最前線の兵士の装備をも上回っているが。
「わざわざ近接戦をする必要はないよ。全ては、このゴーレムに任せる」
そういって、ムンキンが〔結界ビン〕をポケットから取り出して開けた。15体の紙製ゴーレムが飛び出てきて、<ポン>と音を立ててムンキンほどの大きさになる。彼らに作戦を入力し、起動させる。
「対炎の〔防御障壁〕を機能させたから、もう燃えない。電気が通っていて助かったよ。おかげで大魔力が使える」
自治軍本部の許可を得て、ムンキンが前もって発電ユニットに魔力〔変換〕の魔法陣を貼りつけていたのであった。
これはノーム先生がヒドラの越冬洞窟の前と中で構築している、魔法陣と魔法回路の応用である。発電された電気の一部を魔力に自動で〔変換〕する魔法陣と、それをムンキンに自動で送る魔法回路を構築している。おかげでラヤンとは異なり、魔力の供給源がある強みがある。
もちろん、発電ユニット本体が破壊されてしまっては、魔力の供給も停止してしまう。2度の爆破攻撃に耐えた事は、ムンキンにとって好都合であった。厳重に〔防御障壁〕で守っていたおかげである。
15体の紙製ゴーレムを一斉に地下施設へ向けて放つ。軽量であるために、風切り音しかしない静かな飛行だ。しかも、壁をすり抜けて去っていった。
「生身の僕たちが行って、敵を探す方が非効率なんだよな。壁のすり抜けも生身だと面倒だし」
津波到達まで残り5分という表示が、ムンキンたちの手元の〔空中ディスプレー〕画面に点滅した。
「テロ実行犯の捜索はゴーレムに任せておけば良い。僕たちは、津波の中の敵の調査を続行するぞ」
本来の津波であれば、河川を遡上する津波と、陸上を飲み込みながら進む津波とは、ほぼ一致する津波高になる。そのために、河川を遡上する津波の方が若干先行する程度で、同じ海抜の陸地と河川が同時に津波に飲まれて水没していくものだ。
しかし、今回は海の精霊の魔法がかなり強く作用している津波なので、この一般原則が適用していなかった。先に、河川を遡上する津波が襲い掛かってきている。
幸い、この津波に対してはムンキンが大地の精霊魔法を使った土製の堤防を築き上げていたおかげで、河川からの氾濫は起きていない。
さらに、河川を支配するのは淡水の精霊であるので、力を大きく削がれている状態だ。防波堤を〔海水化〕攻撃で溶かすだけの魔力は出せないようである。
一方で、陸上を進む津波の方は、淡水の精霊の邪魔が入らない分だけ魔力が高いままだった。それでも、水に対して優位な相性である大地の精霊の邪魔を受けているが。
死霊術でもそうだったが、大地の属性の特徴は魔力の〔吸着〕である。怒り成分がほとんどを占める海の精霊といえども、〔吸着〕の例外とはなり得ない。時間の経過と共に弱体化して、最終的には大地に吸収される運命にある。
「それまでの時間稼ぎが、僕たちの仕事だ」
精霊は不死なので、ムンキンの魔力ではいくら攻撃したところで殺せない。大地の精霊が処しやすい様に、敵を弱体化する事が目的になる。
目下するべき事は、敵アンデッド群の破壊だ。そのため、紙製ゴーレム軍による味方の〔ロックオン〕支援が、ムンキン指揮する独立小隊の重要な任務になる。
現在、河川を津波と共に遡上してやってきた敵アンデッド部隊は、城塞都市への攻撃を一時中断して、ムンキンが巡らせた堤防の破壊に専念していた。
堤防さえ破壊すれば、河川から〔海水化〕攻撃をしながら城塞都市へ攻め込むことができると読んだのだろう。500体ものゾンビやスケルトンが、棒切れや板切れを振り回しながら、海水を堤防の上辺に振り撒いている。堤防の土を〔海水化〕して溶かす作戦だ。
「そんな事は予想済みだ、バカめ」
ムンキンが手元の〔空中ディスプレー〕画面越しに不敵な笑みを浮かべる。溶けて〔海水化〕した堤防の上辺が、あっという間に盛り上がって〔修復〕されていく。
「大地の精霊魔法を甘く見るなよな、アンデッドども」
ゾンビやスケルトン群は、なおも機械的に棒切れを振り回して海水を撒き続けている。しかし、城壁からの〔紫外線レーザー〕攻撃を受けて、次々に爆発して灰の山になっていた。このまま推移すれば、数分で全てのアンデッド群を灰にできるだろう。
ムンキンの城塞都市は、川を引き込んだ水堀で囲まれた構造ではない。洪水がよく起きる土地なので、そうすると城塞都市が洪水に囲まれて孤立してしまうからだ。
川は城塞都市からある程度距離をとって大きく蛇行して流れていて、堤防で両岸が保護されている。城塞都市の北から東へ蛇行し、南へ流れていく構造だ。西は川が流れていない田畑になっている。
ムンキンはその堤防を精霊魔法で強化しただけであったが、有効に機能したようだ。それでも、海に接する河口までは城塞都市から直線距離で数キロ程もあり、それなりに長大な堤防に仕上がっているので大仕事ではある。
一方の、陸地を飲み込みながらこちらへ進んできている津波については、等高線に沿って進まなくてはならない物理的な制約がある。城塞都市へ向けて一直線に津波を向かわせることはできない。等高線に沿った形で、広大な陸地を飲み込みながら向かわないと因果律に触れてしまうのだ。
津波が陸地を進むにつれて、広大な面積を魔力で覆う必要に迫られる。そして、そこにムンキン側が付け入る隙があった。
砲撃を継続している城壁の砲台からの連絡が、自治軍本部との共有回線を通じてムンキンに届いた。
「陸を進む津波の中に潜んでいた敵アンデッド群の殲滅を確認。瓦礫の粉砕もほぼ完了」
それを聞いたムンキンが、ニヤリと笑みを浮かべる。
「よし。上出来だぜ」
すぐに、次の段階の攻撃に切り替えるように具申する。これは、前もって打ち合わせがされていたようで、すんなりと受理された。軍本部から砲台へ命令が飛ぶ。
「冷凍弾の使用を許可する。各砲台は砲弾の変更を行え」
これもまた事前に準備がされていたようで、数秒ほどで交換が完了し、砲撃が再開された。
砲撃音が再び轟き始めたのを満足そうに聞くムンキンだ。今は全ての部屋の窓ガラスが割られて全開状態なので、非常に風通しが良い。外向け設置の扇風機のせいもあるが。
紙製ゴーレムからの観測報告がすぐに上がり始める。「おお……」と声が上がるムンキンの部下たち。
「ムンキン小隊長。凍結魔法とは凄いものですなあ」
映像では、津波があっという間に凍りついていく様子が映し出されていた。
「僕も、専門じゃないんだけどな。まあ、力場術の〔分子運動制限〕魔法が効いて良かったよ」
ムンキンが素直に答える。彼は氷の精霊魔法が得意ではないので、代わりにウィザード魔法の力場術を使用している。分子運動を抑える事で冷却を図る魔法だ。
このような冷却系の魔法は、どちらかというと闇の精霊魔法や死霊術に親和性がある。そのために、アンデッドには効果が薄い。せっかく凍った津波をアンデッドに破壊されては意味がないので、先にアンデッド群を殲滅する必要があった。
もちろん、津波の海水の量は膨大だ。この凍結魔法でも津波の先端部分の表面しか凍らせることができない。それでも、津波の進行を遅らせる事は充分にできる。
津波の進行速度が、時速20キロから一気に5キロに落ちたのを確認して、尻尾で床を叩くムンキンだ。
「よし。上手くいきそうだな。敵は今まで散々、津波攻撃を繰り返してきてたからな。よほどのバカじゃない限り、こうした対抗策を講じるもんだぜ。初見でこの津波攻撃を受けたら、ヤバかっただろうけどな」
同時に、テロ実行犯を追っていたゴーレム群から、敵発見の知らせが入った。瞬時に〔ロックオン〕されて、それを含めた情報が自治軍本部へ送信される。
「2人か。やはり僕の学校の生徒みたいだなあ。まだ、誰なのかは分からないけれど」
数秒後。〔ロックオン〕された2人の生命の精霊場が消滅した。警備隊からの死亡確認が続き、身元調査が始まった。
「津波攻撃に便乗すれば、竜族の街を制圧しやすいと思うのは理解できるけれどな。しかし、残念だったな。この街には僕がいるんだよ」
ムンキンが寂しく笑う。
その次の瞬間、部屋が真っ暗になった。扇風機も停止したので停電だ。そして、間髪おかずに爆発音が地下から鳴り響いた。身元確認を行っていた警備隊の生命の精霊場が消滅している。
ムンキンが濃藍色のジト目になった。
「自爆かよ……」
【自爆テロ】
この爆発で、城塞都市の半分の区画が停電になった。部屋の外も真っ暗になっていて、城壁の砲台からの砲撃の閃光だけがまぶしく見える。
津波への砲撃には影響が出ていない事を、すぐに確認する。部屋の中の魔法場汚染の濃度が徐々に上がり始めている。この調子だと、数分後には別の場所へ移動しなくてはならなくなるだろう。
地下の自家発電ユニット自体は無事で、爆破されたのは分電盤だったらしい。自治軍本部でもテロ実行犯の別動隊が急襲して、銃撃戦の最中になっているという知らせが入ってきた。しかし、応援の警備隊が多数向かっているので、間もなく制圧できる見込みだ。
「しかし、かなり優秀なステルス魔法だな。幻導術の専門クラス生徒かな、これは」
ムンキンが想像していると、テロの首謀者と思われる者からの勝利宣言が館内放送を通じてなされた。音声は幻導術で加工されていて、機械音声のようになっている。
「我らは竜族独立派である。今現在を以って、この都市の制圧を宣言する。投降する者は歓迎する。我々に加わり、憎きタカパ帝国に立ち向かおう」
ムンキンが暗闇の中でジト目になって聞いている。部下5人も同じような態度だ。マスクをしているので表情までは分からないが。
「本気で、この国を内乱状態にしたいのかよ、このバカどもは」
吐き捨てるようにムンキンが独り言を漏らす。そして、すぐに紙製ゴーレムからの報告を受け取った。
「フン。居場所がやっと分かったぜ。これで終わりにしてやるよ」
ムンキンがポケットから〔結界ビン〕を取り出して開け、中から強化杖を引き抜いた。すでに術式が用意されている。最後の術式の修正を手早く済ませて、杖の先のダイヤ単結晶を青く光らせた。
一気に魔法場汚染が強まっていくが、お構いなしだ。
手元の〔空中ディスプレー〕画面で表示されている区画には、テロ実行犯と思われる生命の精霊場が3つあった。〔ロックオン〕しようとしたが、幻導術を使われているのか出来ない。
ムンキンがギラリと濃藍色の瞳を光らせた。
「甘いぜ、幻導術使いさんよお。精霊魔法を舐めるな」
地響きが床に伝わってきて、何か重量物が衝突するような重低音を含んだ音が城塞都市に響いた。ムンキンが確認のために紙製ゴーレムを送り込む。それからの映像を確認して数秒間ほど黙祷をする。
隣で魔法場汚染を食らってフラフラになっている部下たち5人が、ムンキンに聞く。
「ムンキン小隊長。どうなったのでありますか?」
暗闇の中で、ムンキンが窓の外に顔を出した。それを見て、慌てて部下たちも全員が窓から顔を出して、魔法場汚染から逃れようとする。
そんな部下たちを横目に見ながら、強化杖を振って風の精霊魔法を発動させた。扇風機の代わりにするつもりのようだ。風が起こり始めて、室内の空気が外に排出されていく。その風に制服の襟を正すムンキン。
「大地の精霊魔法を使って、立てこもっている部屋ごと押し潰した」
それでも今ひとつ理解できていない様子の部下たち。砲撃の閃光が彼らの顔を照らしている。
間もなくして、自治軍本部を急襲したテロ実行犯の3名が全員射殺されたという知らせを受けた。彼らのステルス魔法を、ムンキンが送った紙製ゴーレムが暴いたおかげで、倒すことができたという内容だ。
ムンキンが事前許可を得てから〔側溝攻撃〕を仕掛けたため分かったのだが、今は黙っている事にする。
そのムンキンの表情が、少し曇った。押し潰したテロ実行犯の死亡確認を紙製ゴーレムにさせていたのだが、1人いない。しかし、ムンキンには彼の逃げ先は自明だった。すぐに別の紙製ゴーレムからの映像に切り替える。
そこは先程のテロ攻撃で破壊された城壁の砲台だった。ようやく、敵方のゴーレム守備隊が全滅したばかりである。
そこへ、〔テレポート〕してきていたのは、1人の竜族の男子学生だった。彼もまたムンキンと同じく学生服を着たままだ。見覚えのあるその彼を画面越しで見たムンキンが鼻を鳴らす。
「魔力切れで、俺に化ける事ができなくなったかよ。ウースス先輩」
ムンキンの放った紙製ゴーレムからの観測情報を基にして、ようやく生体情報が特定された。それでもまだ、映像では顔の輪郭や体型が曖昧で、ぼかしが入っている。
「さすがは、幻導術専門クラスの級長だな。しかし、ようやく特定したぜ」
ムンキンの手元の〔空中ディスプレー〕画面では、ウースス先輩の情報が断片的に表示されている。今は、学校の魔力サーバーが機能停止状態なので、ムンキンの杖に保存している簡易情報のみしか参照できていない。
ウースス先輩とムンキンが呼んだが、彼はウィザード魔法幻導術の専門クラスの3年生なので、直接の面識はない。旧バントゥ党の主要メンバーだったので、よくリーパット党と口論をしているのを見ていた。その程度の関係だ。
その彼は紺色のブレザー制服のままの姿で、数発ほど被弾しているようだった。足と胴体から出血していて制服が赤く染まっている。普通であれば、動く事ができないほどの重傷なのだが、そこはラヤンのように、法術を詰めた〔結界ビン〕を使用して〔治療〕しているのだろう。
〔防御障壁〕を何枚か重ねて、自身を自治軍からの銃撃やレーザー攻撃から守っている。
しかし、魔力切れのようで、1発、また1発と命中して血吹雪を上げていた。その都度、〔結界ビン〕を開けて〔治療〕しているようで、なかなかのタフさを見せている。
その彼が、崩壊した砲台の外縁まで走っていき……そして立ち尽くした。胃痛が起きたのか、背中を丸めている。
映像越しで見ているムンキンが軽いジト目になった。
「残念だったな、ウースス先輩。津波はまだ到達していないぜ」
そして、飛び降りるには高すぎる城壁の上でオロオロしている先輩に向けて、紙製ゴーレムを通じて呼びかけた。口調はかなり固く、高圧的になっているが。
「プサット・ウースス3年生だな。もう、貴様の身元は判明している。逃げても無駄だ。諦めて投降しろ。そのままでは間もなく〔防御障壁〕や法術が尽きて、撃たれて死ぬぞ」
ムンキンの呼びかけに応えて、紙製ゴーレムに顔を向けるウースス先輩。その竜族の顔には、露草色の強い瞳が爛々と光を放っている。
あちこちに血糊が付着している橙色の少し荒いウロコを膨らませて、尻尾を瓦礫で埋まっている砲台の床に、1回だけ≪バシン≫と打ちつけた。この間にも、自治軍からの容赦ない攻撃が続いている。
その彼が憎悪に満ちた笑みを浮かべた。ただ、元々気が弱い性格なので、それほど迫力ある表情にはなっていないが。
「その声はムンキン・マカンか。ラグ・クンイットを殺した恨み、決して忘れないぞ。リーパット党の手下に成り下がった貴様を殺す、絶好の機会だったんだがなあ……臆病者め。ここへ出てきて、正々堂々、私と勝負しろっ」
ムンキンが画面越しにウースス先輩の決闘申し込みを見て、鼻で笑った。
「バカかよ。テロ実行犯相手に正々堂々なんかする必要があるか。もう一度だけ聞いてやる。投降するなら、今すぐ杖を捨てて床に伏せろ」
そして、紙製ゴーレムに、記憶読み取りの精神の精霊魔法の術式を用意させた。
ウースス級長が高笑いをして、再び城壁の下を見た。まだ津波は到達していない。彼の露草色の瞳が異様な光を帯びた。
「ペルヘンティアン家に栄光あれ! バントゥ党に栄光あれ! バントゥ様、今、そちらへ向かいますっ。ラグ! 待ってろ、今行くぞっ」
〔防御障壁〕が消えた。魔力が尽きたようだ。
たちまち、城壁上に展開している自治軍の前線部隊からの十字砲火が、彼の体に届いた。膝から上の全身が衝撃で破裂してミンチになり、続く榴弾の爆炎で燃えて炭の粉になる。
真っ黒い残留思念が炭の粉から噴き上がり、軽く静電気を放った。それが津波の方向へ吸い込まれるように流れていくのを、ムンキンの紙製ゴーレムが包み込む。
ウースス級長がいた砲台跡に、すぐに自治軍の兵が駆け込んで状況確認を行っている。すぐに彼の死亡が確認されて、攻撃部隊が本来のアンデッド群攻撃と、津波への攻撃に復帰していった。
それを画面越しに眺めていたムンキンに、紙製ゴーレムからの〔解析〕結果が届いた。それを一目見て、顔をしかめる。
「……残留思念からの記憶〔探査〕だったから、ほとんど情報は拾えなかったか」
とりあえず、調査結果を自治軍本部へ送信して、軽くため息をつく。死んでしまった後なので、直後といえどもウースス級長の記憶は消失している。
サムカやハグであれば、ゾンビやスケルトンやゴーストにする際に、記憶を魔神に預ける形で保存する事が可能なのだが……あいにく彼らはここにいない。黒い残留思念は風に希釈されて、すぐに消えてしまった。
しかし、大よその仕掛けを推察する事はムンキンにもできた。彼も幻導術の授業を受けている。
「『蘇生復活システム』を悪用したんだろうな。何が栄光あれだよ、バカが。知らねえよ、貴様なんか」
やや憤っていたムンキンであったが、すぐに落ち着いたようだ。半眼になって、「フン」と鼻を鳴らした。
「……シーカ校長がまた悲しんで、白毛が増えるじゃないかよ」
死亡後に〔蘇生〕や「復活」をするために、学校の法力サーバーには全校生徒の生体情報が、常時最新版で保存されている。
その情報の更新時に、テロ実行関連の情報を全て除外しておけば、本人も含めて誰にも〔察知〕できない。テロ関連の情報を含めた生体情報は、別途、テロの首謀者に渡しておく。
今回は恐らく、ウースス先輩が故郷へ〔テレポート〕して一時帰省した際に、故郷に潜んでいたテロ組織の一員から、この生体情報を受け取ったのだろう。そして、それを読み込んで、憎悪に溢れたテロリストのウースス先輩に『復元』された、と思うムンキンだ。当たらずとも遠からずだろう。
(それにしても、幻導術というのは侮れない魔法だな……)と痛感する。ムンキンに化けて、重要施設の近くまで侵入し、さらに情報操作でその痕跡を消している。
ムンキンに化けたウースス先輩が、地下の自家発電ユニット前へ来た事実が、記録から抹消されていた。恐らくは、当時そこで警備していた自治軍兵の記憶にも〔干渉〕しているだろう。
さらに、爆破テロ後にステルス化して、追手から完全に逃れている。ムンキンが放った紙製ゴーレムでも、当初は〔検知〕できていなかったほどだ。
(それもこれも、幻導術のプレシデ先生が、調子に乗って色々と教えてしまったせいだよな。まあ、先生のせいだけでも無くて、幻導術魔法協会の読みの甘さも大きな要因になったんだろうけど)
ここで、もう1つ、小さな小窓表示で紙製ゴーレムからの城塞都市内部の観測情報が更新された。それを見て、大いに不満そうな顔になるムンキン。
「帝国軍情報部が動き出したか。早すぎる。こいつらだけは知ってたな。その上で、黙っていたという事か」
帝国軍や警察は今のところ弱体化していて、帝都や重要都市だけを重点的に守っている。ムンキンやラヤンの街は見捨てている状況だ。
戦力のバランス上、竜族の自治軍が反乱を起こして帝国に刃向かう事態になると内戦状態に陥る。それを未然に防ぐには、竜族の軍事力を削っておく必要がある。削り過ぎると、これはこれで不安定化する要因になるので、そのサジ加減が難しい。
(そのためにテロ組織を煽ったのかもしれないなあ……)と漠然と思うムンキンであった。これも正しいかどうか確かめる術はないので、さっさと思考を切り替える事にした。
ムンキンの小隊は、相変わらず商館最上階の一室に陣取っている。そのために、前線の様子は直接目視して確認する事ができないので、紙製ゴーレムや〔オプション玉〕からの各種観測情報を総合して把握に努めていた。
窓ガラスを全て割って、更に風の精霊魔法で排気しているので、室内はかなり体感温度が低くなっていた。それでも、不満一つ漏らさない部下5人だ。幸い今は、頭からマスクを被っていて肌の露出部分がない姿なのも良かったといえそうだ。
その部下の間から、明るい声が上がった。
「ムンキン小隊長。川の堤防を越えてくる敵が確認されなくなりました。殲滅できたようです」
「おお……」と低く声が上がる中、ムンキンも手元の〔空中ディスプレー〕画面で確認する。それでもまだ、表情は険しいままだ。
「確認した。念のために数体ほど僕のゴーレムを向かわせて、状況を確定してみるよ」
簡易杖を頭上に掲げて、指令を担当の紙製ゴーレムに送った。これで、すぐに分かるはずだ。
陸上を凍りながら迫ってくる津波の中には、すでにアンデッド群がいなくなっている。そのため、これが確認できれば、敵のアンデッド部隊を殲滅して退けた事になる。
「敵の大将も、その事を知ったはずだ。さあ、出てこいよ」
ムンキンがつぶやいた瞬間、堤防の一角で、クラゲのような物体が川の中から姿を現した。同時に、陸上を迫ってくる津波の中からも、同じ形状の物体が飛び出して地面に着地した。素早く、紙製ゴーレムと〔オプション玉〕で観測し、確信するムンキン。
その情報を自治軍本部へ送信しつつニヤリと笑った。
「海の精霊本体のお出ましだ。待ってたぜ。2匹もいたのかよ」
川に送り込んだ紙製ゴーレムから、調査結果が送られてきた。それもすぐに自治軍本部へ送信する。
「川のアンデッド群殲滅を確認。凍結弾の使用を提言します」
間髪おかずに、砲台から砲撃音が連続して鳴り響き始めた。画面で確認すると、川が急速に凍結していくのが分かる。もちろん陸上の津波と同じく水面部分しか凍結できていないのだが、海の精霊を抑える目的としては、それで充分だ。
ここでムンキンが強化杖を取り出した。すでに術式を走らせているようで、ダイヤ単結晶が青く輝いている。
「死ぬまで走り続けろっ」
ムンキンが強化杖を掲げると、2つの海の精霊の真下の地面が「ベコリ」と1メートルほど沈下して、溝のような形状になった。海水の精霊は飛行できないので、一緒に溝の中へ落下する。
それでも怒りに任せて、海水の精霊が溝の中をこちらへ向けて爆走し始めた。もちろん足などは無くクラゲ型なので、大きな透明のスライムが地面を高速で這っているように見える。
溝の向きは、正確にこちら城塞都市へ向いている。そのために、海水の精霊は溝を脱出する事もなく、真っ直ぐに溝の底を這って突き進んでいた。
しかし、見た目の位置はほとんど変化していない。ムンキンの大地の精霊魔法によって、海水の精霊直下の地面が高速のベルトコンベアになっていたのだった。
海水の精霊が這い進む速度とほぼ同じ速度で、逆方向へ大地のベルトが回転していた。そのために、相対速度がほぼゼロになり、見た目上は進んでいないように見えている。
もちろん、背後から迫りくる凍った津波に飲み込まれては意味がない。そのため、陸上の津波から飛び出た海の精霊が這い進む速度は、時速5キロ強に相対的になるように調節されている。川から飛び出てきた海水の精霊に対しては、その心配はないので、ほとんど進めない様にしていた。
城壁上に展開している〔紫外線レーザー〕魔法具を構えた部隊から、歓声が上がり始めていた。アンデッド群が消滅したので、彼らの仕事は終了している。
砲台からは相変わらず凍結弾が雨のように撃ち放たれているので、その砲撃音が凄いままだが。試しに、海の精霊に向けて数発ほど凍結弾を撃ち込んでいるが、命中しても瞬時に氷から海水に戻ってしまっている。
しかし、魔力を削るには良い作戦なので、ムンキンも紙製ゴーレムを送って、測位支援をする命令を受けた。
城塞都市内の電力網が復旧したようで、ムンキンの小隊がいる部屋に電気の灯が戻った。同時に、城壁を含む周辺の建物の窓からも灯が点いて明るくなった。
「さすがは自治軍の工兵部隊だなあ」と感謝しながら、ムンキンが手元の〔空中ディスプレー〕画面で魔力の供給状況を確認する。停電前の状況にほぼ戻ったようだ。
次いで、紙製ゴーレムと〔オプション玉〕群から、河川の水位が下がり始めた事と、陸上を進んでいる津波が低くなり停滞し始めた事が報告された。
それを、すぐに自治軍本部へ送信し、ムンキンが尻尾を数回ほど床に叩きつけて、全身のウロコを膨らませる。
「海の精霊が衰え始めた。よし、勝てるぞっ」