100話
【シャドウ限定解除】
ジャディが仏頂面ながらも落ち着いたので、サムカが他の生徒たちを見回した。今回はジャディの他に、ペルとレブン、それにミンタとムンキンにラヤンのいつもの面々だ。さらにエルフとノーム先生の〔分身〕が教室の壁際に並んで立っている。その反対側のロッカーの横には、墓スペクターがひっそりと気配を消してたたずんでいた。
ロッカーの中に熊人形が収まっていることを、手元の〔空中ディスプレー〕画面を通じて確認する。
サムカが黒板型ディスプレーの隅に顔を向けた。
「今回からは、休暇を終えた我が使い魔とシャドウも復帰する。役割は、これまで通り『教室の安全維持』だ。ちょうど良い機会だ、姿を見せなさい」
気温が少し下がって、若干室内が暗くなる。同時に、〔ステルス障壁〕を一時解除した魔族が1人、姿を現した。ルガルバンダを半分に縮めたような姿で、背中にはジャディをも圧倒するような巨大な翼が4枚生えている。
「うわわっ」と思わず声を出したムンキンとラヤン、それに2人の先生〔分身〕が、簡易杖を魔族に向けた。
サムカが錆色の短髪を左の軍手でかきながら、戦闘態勢の4人に謝る。
「済まないね。いきなり登場したのは良くなかったか。ペルさんとレブン君も含めて、本体を見るのはこれが初めてかな。これまでは、幻術などで〔偽装〕した姿だったからね」
ペルとレブンは以前に姿を見た事があるのだが、その際に見た姿とは違っていた。素直にうなずいている。サムカが穏やかな口調で話を続ける。
「今後は、授業で使う魔法が強力なものになる。〔偽装〕したままでは、魔力の行使に支障が出る恐れもある。従って今回、正体を見せる事にした。君たちがこの魔族の正体を見た事で魔法回路が強化されたから、『教室の安全維持』も行いやすくなるだろう」
そして、まだ警戒を解いていない4人に山吹色の瞳を向けて細める。
「だが、見た目が怖いと授業に集中できないだろうな。この魔族にはこれ以降、高度な〔ステルス障壁〕を常時展開させる。知覚することは、今後ないはずだから安心しなさい」
そして4枚羽の魔族に、領主らしい威厳に満ちた顔を向けた。
「うむ、ご苦労。今から任務復帰を命じる。今後は気配を消して『教室の安全維持』に当たれ」
魔族が立礼のままで恭しくサムカに頭を下げた。
「は。領主様の御意のままに」
そして、姿が消えた。気配も魔法場も完全に消えたので、驚いている先生と生徒たちだ。
サムカが残ったシャドウを肩に留まらせて顔を向ける。
「〔隠遁〕魔法だ。術式は残念ながら教える事はできないぞ。こら、ムンキン君。〔側溝攻撃〕も無駄だ」
「くそ~……」と席に腰かけたままで悔しがるムンキンとミンタである。ちゃっかりと、帝国警察からの許可も得ている用意周到さであったのだが……エルフとノーム先生の〔分身〕も、険しい表情をしたままだ。
「サムカ先生。こういう魔法は、貴族の軍では標準装備されているのですか?」
エルフ先生〔分身〕の質問に、鷹揚に答えるサムカ。
「そうだな。この程度は常識の範囲だ。田舎の領主でも、この程度は使える。将軍閣下の直属軍の貴族であれば、もっと強力だ。恐らくは私も〔察知〕できないだろう」
そして、肩をすくめて両手を肩まで上げた。サムカの肩に留まっているシャドウが形を成して、鷹のような鳥型に変わる。
「だが、ここまでしても、セマンの盗賊や冒険者には及ばぬがね。アレは異常だ」
鷹シャドウを左の軍手の甲に留まらせて、レブンとペル、それからジャディを見た。ピンと背筋を伸ばす3人の生徒たち。
「長期休暇をさせた理由の1つは、シャドウなどのアンデッドを大地の精霊の縛りから解放して、長期間の自律行動をするための情報収集だった。今回、帰還した事で新たな術式が完成したな。君たちの所有するシャドウや、新たに作成するアンデッドの行動範囲の制限を〔解除〕できる」
「おおっ」
目を輝かせて顔を見合わせる3人。ムンキンとミンタにノーム先生〔分身〕も目を輝かせている。その一方で、ジト目になっているのはラヤンとエルフ先生〔分身〕だ。
しかしエルフ先生〔分身〕が腕組みして、簡易杖を「コツコツ」額に当てながらも渋々認める。
「……仕方ありませんね。軍や警察が混乱状態ですから、有効な戦力は多い方が良いでしょう。ですが、私とラワット先生の指揮に従ってもらいますよ。いいですね」
「はーい」
素直に同意する3人である。珍しくジャディも素直だ。
ノームのラワット先生は意外に嬉しそうに銀色のあごヒゲを手袋をした右手でいじって、口元と目元を緩ませている。
「勝手な行動をしなければ、僕も歓迎するよ。妖精も結構な数が、君たちのこれまでの活躍を評価している様子だからね。条件反射でシャドウを攻撃するような事態にはならないだろうさ」
ラヤンだけは大いに不服そうな表情だが……特に抗議する気はなさそうだ。
サムカが「コホン」と軽く咳払いをして、肩に留まっている鷹型のシャドウの頭を軍手で撫でた。
「では、早速だが、術式を渡そう。シャドウを出しなさい」
言われたままに、ペルとレブン、ジャディが自身のシャドウを机の上に出現させた。ペルは子狐型、レブンはアンコウ型、ジャディはカラス型である。どれも、かなり魔力が高まっているようで、視認しにくい。
3体共に、周囲に青白い鬼火のような付随オプションを浮かべている。
サムカが山吹色の瞳を満足そうに細める。
「うむ。良い成長を続けているな。では、術式を渡すが、これは教育指導要領には書かれていない。脳への負荷がそれなりにあるだろう。万一昏倒してもケガをしないように、きちんと席に座りなさい」
3人がいそいそとイスに座り直して、机に突っ伏す形になる。簡易杖がアンテナのように立っているようにも見える姿だ。サムカが今度は、ミンタたちと先生〔分身〕2人に顔を向ける。
「君たちは、残念ながら魔法適性が乏しいので、この術式を習得する事はできない。しかし、見る事で、ある程度の魔法回路が形成されるはずだ。同じように脳に負荷がかかる恐れがあるから、万一倒れても大丈夫なようにしておきなさい」
こちらも、緊張した様子でうなずく。
サムカが皆の準備が完了した事を再確認して、肩の鷹型シャドウの頭を再び撫でた。
「では、いくぞ」
《ゴト……》
ペルとレブン、ジャディの頭が机に落ちる音がした。そのまま、気絶して軽く痙攣している。
ミンタたちも目が回ったようだ。頭をゆっくりと揺らして意識が薄らいでいる。先生の〔分身〕2人も、床に尻餅をついてへたり込んでしまった。
いきなり静かになった教室内で、サムカが腕組みをして整った眉をひそめる。
「むう……予想以上に負荷がかかっているな。習得までもう少しの間、頑張れ。そろそろ術式の導入と、個別最適化が完了する頃だ」
2分後。意識を回復するペルたちと先生〔分身〕。先生〔分身〕は、床に座り込んだままで授業を聞く事にしたようである。2人ともに警官制服だ。丈夫な素材のズボンに革靴なので、床の汚れも気にしていない。
レブンが魚頭をセマン頭に変えながら、深呼吸をした。机の上のアンコウ型シャドウは異常行動を起こしていないようだ。これまでの騒動で、対処を積み重ねてきたおかげだろう。
「……凄い負荷だったあ。あ。術式が正常に起動している。良かった」
ジャディも気絶状態から復帰して、すぐに琥珀色の瞳を爛々と輝かせでサムカを見た。思わず、背中の黒い鳶色の翼が広がる。カラスの羽のように黒光りしている風切り羽は、まだ垂れたままだが。
「と、殿っ。これでオレも自由に、この『ブラックウィング改』を飛ばす事ができるんスかっ!?」
サムカがうなずく。
「うむ。この世界の裏側まで飛ばす事が可能だ。魔力も自動で補給する」
「うおおおおおおっ」と雄叫びを上げるジャディである。レブンも珍しく魚顔に戻って興奮しているようだ。ペルは子狐型のシャドウの頭を撫でてニコニコしている。
ミンタが頭を軽く振って意識をはっきりさせながら、ため息をついた。
「ふう……相変わらず、テシュブ先生の授業は大変よね。『見るだけ』で、ここまで消耗するなんて。どれだけ危険なのよ、まったく……」
ムンキンはサムカの話を聞いて、悔しそうに尻尾を「バタバタ」床に叩きつけている。
「ぐぐぐぐ……地球の裏側まで飛ばせる、だと? くっそー」
ラヤンは紺色のジト目のままで不動の姿勢のまま座っている。
「テシュブ先生。死者の世界でも、この魔法はよく使われているのですか? だとすると、法術使いにとっては大変な脅威になるんですが」
エルフ先生〔分身〕も、深くうなずいている。
「そうね。術者が地球の反対側にいるとなると、かなり厄介ね」
意外な反応だったようで、サムカが藍白色の白い頬を軍手の指でかいた。中古の赤茶けたマントの裾が少し動く。
「この魔法にも、既に様々な対策が貴族や騎士によって講じられている。実際には、さほど使えぬよ。シャドウではなく、使い魔を飛ばした方が確実だな。もちろん、上空を飛行する『許可』を貴族から得ているという条件付きだがね」
「そうなんだ……」と、聞き入る生徒と先生たちに、サムカがもう1度頬を指でかく。
「加えて、この世界では死霊術場が弱い。飛行や観測程度であれば良いが、戦闘行為までするとなると、魔力が足りなくなるだろうな」
ノーム先生が銀色の口ヒゲの先を左手の指でつまんで引き伸ばして、垂れ眉を上下させた。
「ははは。まあ、普通はそうなるだろうね。それで、テシュブ先生。今日の実習は、この更新シャドウの運用かい?」
サムカが穏やかに軍手を振る。
「いや。それは生徒たちに宿題としてやってもらう。地球の裏側まで飛んで、証拠の映像を撮影して、戻って来る事にしよう」
「ええ~……」
ペルが薄墨色の瞳を閉じて、ガックリと肩を落とした。一方のジャディとレブンは意気揚々だ。早くもハイタッチして前祝いまでしている。
ミンタがニヤニヤしながら隣のペルを簡易杖の先でつつく。
「体力勝負になるわね、ペルちゃん。その子狐シャドウの飛行速度はどのくらいなの?」
ペルが力なく微笑みながら顔を上げた。黒毛交じりの両耳と、鼻先のヒゲが垂れたままだ。
「時速800キロかな。音速以上は出せないの、ヤバイいい……」
ミンタがざっと暗算で計算して、さらにニヤケ顔になる。両耳がピコピコ動いて、上毛も連動してピコピコしている。
「ヤバイわね、それ。裏側に着くまで、少なくても丸2日は眠れないわよ。それに、ここから地球の裏側ってなると、普通に海の上じゃない? 何か証拠になりそうな目印なんかないと思うけれど」
サムカが山吹色の瞳を細めて、軽く咳払いをした。
「海上だと看破されてしまったか。まあ、良い。それ故に先程、私の使い魔の正体を見せたのだよ。彼の〔分身〕が海上にいる。もちろん、少し変装しているがね」
ジャディが琥珀色の両目を爛々と燃やしながら、サムカに食らいつくような勢いで聞いてきた。
「殿っ! その魔族〔分身〕と戦っても良いッスか? オレの『ブラックウィング改』結構強くなってるんスよ」
レブンも明るい深緑色の両目をキラキラさせている。
「ぼ、僕の『深海1号改』も、その魔族〔分身〕と試合しても良いですか?」
サムカが嬉しそうな笑みを口元に浮かべて腕組みする。
「うむ。許可しよう。魔力から見て、まだ勝てるとは思えないが……良い実習になるだろう。戦闘前に、君たちのシャドウの〔分身〕を設けておきなさい。本体シャドウが戦闘で破壊されても、その〔分身〕を用いれば宿題の継続ができるだろう」
「よっしゃあ、やったあ!」と再びハイタッチの前祝いをするレブンとジャディである。
サムカがペルに視線を向けた。ペルの両耳が見事に前に伏せてしまっている。
「ペルさんは、試合をしなくても構わないよ。私の使い魔〔分身〕を地球の裏側で発見して、その映像を撮影して戻れば充分だ」
「はい。すいません、テシュブ先生。往復だけで力尽きてしまいそうなので……」
ミンタがペルの丸まった背中を「ポン」と叩く。
「魔力量は、ずば抜けて多いのにね。問題は体力よね。トレーニング手伝ってあげるわ」
ペルがミンタに抱きついた。
「うえ~ん。ありがとう、ミンタちゃん~」
実際に飛んでいくのはシャドウなので、それについては体力が必要になる事はない。探索や戦闘も含めて、魔力が必要になる。しかし、不眠不休で2日間起き続けるためには、体力が必要だ。学校を休むわけにもいかない。
話が一区切りついたようなので、サムカが教室の後ろのロッカーの隅に、ひっそりと佇んでいる墓スペクターにチラリと視線を投げた。
「では、今日の授業を始めるとするか。天気が良いので、運動場へ出て行おう」
【運動場】
この辺りは亜熱帯性の気候なので、冬でも直射日光を浴びると暑い。サムカの領地と違い、高地ではないので湿度もそれなりにある。
今年の冬は世界〔改変〕の影響を受けて、強い寒波が発生していた。そのために、いつも以上に北からの季節風が強くなっている。ただ、そのおかげで天気自体は良く晴れて、筆でさっと描いたような薄い筋雲が空を覆っているだけだ。
運動場では、すっかりテントが片付けられていて広く感じられる。その運動場の周囲では、木製ゴーレムやアンドロイド群が、せっせと地下階へ降りる階段や排気口などを掘っているのが見える。先程、校長と一緒に運動場を歩いた際にはいなかったのだが、さすがの高効率作業だ。
花壇も作り始めているようで、目を細めるサムカである。
早速、パリー先生とバワンメラ先生、それにタンカップ先生が、サムカ一行を見つけて元気に手を振ってきた。3人の先生に手を振り返すサムカと生徒たちだ。
生命の精霊魔法とソーサラー魔術、それに力場術は生徒の間でも人気が高い授業になってきていた。そのために、受講している生徒数も定員の30人をそれぞれ若干数超えている。
ソーサラー先生が早速、空中戦を生徒たちと再開した。
それを運動場から見上げるムンキンとジャディ。体がウズウズしているようだ。ジャディが黒い冬羽毛で覆われた顔を、両手で「パンパン」と何度も叩いている。
「今は、殿の授業に集中だ、集中、集中っ。空中戦はいつでもできるだろ、ジャディ・プルカターン!」
ムンキンも尻尾を8ビートで地面に叩きつけながら、柿色のウロコが逆立っている頭をブンブン振っている。
「たまには良い事いうじゃないか、バカ鳥。授業が終わったら、あの連中を撃ち落しに行こうぜ」
「おう!」と互いの肩をぶつけ合って、さらに肘と拳を数回重ねる。
ミンタとペルが肩を並べて歩きながら、好戦派の2人を冷ややかな視線で見つめている。ミンタが金色の毛が交じる頭を軽く振りながら、両耳をハエを追い払うようにパタパタさせた。
「まったく。仲が良いのか悪いのか、よく分からない2人よね」
ペルも遠慮がちに同意している。
「うん。これがケンカ友達っていうのかな」
そう言ってから、今度はパリー先生の実習現場に薄墨色の瞳を向けた。こちらも、少し呆れたような色合いの瞳の色になっている。
「パリー先生も相変わらず、よく分からないけど」
ジャディに南洋杉の巨木を1本与えたのが気に入ったのか、運動場に勝手に木を何本も生やしている。これらも、つい先程までは無かったものだ。
それを生徒たちに分担させて、花を咲かせたり新芽を生やしたりさせて遊んでいる。さらに、森から羽虫の大群を呼び寄せて曲芸飛行をさせている。
ミンタもペルと同じように呆れた表情になって見つめた。
「そうよね。あんなの教育指導要綱に書かれてないわよ。ペルちゃん。賭けても良いけど、授業の後でペルちゃんを捕まえて、あの木々を〔消す〕ように脅してくるわよ」
生命の精霊魔法を使えば、木を別の生き物に〔変換〕させることができる。しかしそうすると、今度は森の中に居場所を用意してあげる必要が生じる。面倒を嫌うパリー先生の事なので、パリーに強制して闇の精霊魔法で〔消去〕、つまり『殺させる』つもりだと、ミンタが予想している。
ペルも両耳を伏せて、鼻先のヒゲを顔にペタリと貼りつかせながらミンタの予想にうなずく。
「……ありうるよね。私は清掃獣の代わりじゃないんだけどな」
2人の後ろを歩いているラヤンが、紺色の瞳をジト目にしている。赤橙色のウロコで覆われた頭をギラリと冬の日差しで反射させて、前を歩く狐2人に告げた。
「そんな事よりも、タンカップ先生の動向に注意を払いなさいよ。確か、今日から〔プラズマ操作〕の授業に入るはずだわ」
〔プラズマ操作〕と聞いて、思わずミンタが険しい表情になった。後ろを振り返ってラヤンに栗色の瞳を向けて聞く。
「え? そうなの? 素人が軽々しくやって良い魔法じゃないわよ、それ」
ラヤンの後ろを歩いているエルフとノーム先生〔分身〕が、視線を交わしてからミンタに穏やかな声で話しかける。
「一応はウィザード魔法力場術の先生ですよ。教育指導要綱の通りに行えば危害はありませんから、心配は無用です。隣にパリーもいますから、森まで巻き込むような無茶な魔法は使いませんよ」
ノーム先生も、銀色の垂れ眉を上下にピョコピョコ動かしながら、大きな三角帽子を被り直した。
「左様。タンカップ先生は見ためと違って意外に慎重だからね。テシュブ先生に完膚なきまでに何度も叩きのめされたおかげだな。ははは」
確かに、そういわれれば、タンカップ先生は最近比較的おとなしい。サムカ熊への新規魔法の不意打ち攻撃の趣味も、最近は頻度が減っている。
その分、法術のマルマー先生が調子に乗ってきていて、攻撃回数を増やしているのだが、その点には言及しないラヤンであった。
結構距離があり離れているのだが、しっかりとタンカップ先生の耳に届いているようだ。明らかに不機嫌な表情に変わっている。
服装は、いつも通りの季節感を全く無視したタンクトップと半ズボンである。日焼け具合も相変わらずで、むしろ最近はずっと運動場での実習授業ばかりしているせいか、黒くなっているような気がする。
木彫りの彫刻のような見事な筋肉も相変わらずで、トレーニングは欠かしていないようだ。
ミンタがペルを茶化す。
「ペルちゃんも、あのくらい鍛えれば良いんじゃない?」
「ええ~……」と、薄墨色の瞳を閉じるペルだ。しかし、彼女の存在感が若干増したので、少しだけ、やる気になっているのかも知れない。闇の精霊魔法の特性が強いので、存在感も消えてしまいがちなペルである。
エルフ先生〔分身〕が「コホン」と軽く咳払いをした。
「万一の事もありますから、対プラズマ用の〔防御障壁〕を自動で展開できるようにしておきなさい。パリーが怒ったら急いで森の中へ逃げ込む事。いいですね」
「はーい」
いつもの事なので、生徒たちも言われた通りに術式を起動させていく。
緊急避難用のリボンも、ポケットの中から引っ張り出して、手袋をした左手に巻きつける。このリボンは、死んだ場合に強制的にヒドラの越冬洞窟の入口広場まで〔テレポート〕させる自作の魔法具だ。
タンカップ先生が「フン」と大きく鼻息を漏らしてから授業を再開した。きちんと教育指導要綱に従っているようで、簡易杖の先から放射されている〔火炎〕や、赤い色の〔ビーム光線〕は出力の小さいものだ。
ノーム先生が銀色のヒゲの先を手袋をした左指で軽く弾いて、興味深そうに眺めているサムカに解説した。
「〔プラズマ操作〕はアンデッドには馴染みが薄い魔法だろうね。気体の原子や分子から、電子がある程度剥ぎ取られて活性化している状態のガスだよ。ああやって魔法で〔操作〕することで、炎やビーム状態に〔変換〕できるんだ。ウィザード魔法では〔磁場操作〕が基本だから、炎と光の両方が一度に〔操作〕できるんだよ。そこが僕らの精霊魔法とは異なる点だね」
「なるほど」と素直にうなずくサムカに、ノームのノーム先生が微笑む。
「まあ、光の方は、電波の性質が強い波長領域のものを〔操作〕する事になるけどね。だから、ビームの色が赤いんだ。青いビームやレーザー光線は、別の術式を使っているようだね。プラズマは奥が深いから、色々と研究されていて面白いよ」
サムカが腕組みをして、山吹色の瞳を冬の日差しで輝かせた。
「そうかね。では、熊人形のスケジュールを見ながら、タンカップ先生の授業も後日見学するとするか。うむ、この辺りが実習に適しているようだな」
サムカが運動場の一角で立ち止まった。ちょうど、パリー先生ら3人から等距離で離れている。旧寄宿舎のそばだ。
古着のポケットから、ボロボロに錆びた銅製の『鍵』を取り出した。それをレブンに手渡す。
「鍵を入手するまでの過程は省略した。まあ、様々な罠や仕掛けがあったと考えてくれ。今回の授業は、こういった何もない広場で鍵を見つけたという『設定』だ。前回は建物の中だったからね、少し趣向を変えてみた」
とか言いつつも、結局最後は運動場で授業をしたのだが……
「金星で実習をしても良かったのだが、今回は学校の保安警備システムとの摺り合わせも行っておきたくてね。運動場で行う事にした」
レブンが鍵に簡易杖を当てて、色々と調べ始めている。その様子を横で見ながら、ペルがサムカに質問した。
「テシュブ先生。鍵が広場に落ちていたのでは、誰かに拾われてしまいませんか?」
ジャディが大きく背中の翼を広げて同意した。今は、真っ黒い風切り羽がピンと張っている。
「だよな。オレが〔旋風〕の1つも起こしたら、それだけで行方不明になっちまうな」
サムカが赤茶けた中古マントを森から吹く涼しい風になびかせて、山吹色の瞳を鈍く輝かせる。
「そうだな。例えば、この鍵は、ここに配置したアンデッドに持たせるというのが、よくある手法だ。ゾンビの上位種のリベナントを1小隊配置するとかだな。もちろん完全武装させるよ」
『リベナント』と聞いて、顔を険しくするエルフとノーム先生〔分身〕だ。さすがにもう条件反射的に、サムカにライフル杖を向けたりはしないが……簡易杖は向けている。
「完全武装のリベナント小隊って……どんな戦力ですか? テシュブ先生」
エルフ先生〔分身〕の問いに、サムカが軍手の指で錆色の短髪を数回かく。
「そうだな……リベナントは見かけが悪いせいでオークに歓迎されないため、私は使わないのだが。6体構成で、各種〔防御障壁〕を組み込んでステルス処理された戦闘服の姿が多いかな。まあ、魔力は大して強くはない。貴族や騎士にとっては、脅威になる存在ではないよ。完全武装といっても、低い魔力を補うための攻撃型魔法具を携帯しているだけだ」
エルフとノーム先生〔分身〕の表情がさらに険しくなった。呆れたような表情も出ているようだ。
「はあ……私たちがあれだけ苦労したというのに。しかも6体の小隊ですか。本当に、ナウアケ卿は手を抜いていたのですね」
サムカが腕組みをしながら、少しだけ首をかしげる。錆色の短髪の先が風に揺れて、冬の日差しをキラリと反射した。
「そうかね? 今の先生方の魔力であれば、余裕で破壊できると思うが。まあ、格闘戦にこだわるというのであれば、その通りだろうがね。普通は撃つだろう?」
エルフ先生〔分身〕がジト目になった。その隣のノーム先生〔分身〕も微妙な表情で、銀色の口ヒゲを手袋をした左手でつまんでひねっている。
「まあ……そうだな。特に、こういった見通しの良い広場で、わざわざ殴り合いをする物好きはいないだろうね。安全を確保して、100キロ先から狙撃するだろうなあ」
「ですよねー」と笑顔をエルフ先生〔分身〕と、ノーム先生〔分身〕に向けるミンタとムンキンである。ジャディも同意見のようだ。サムカを真似て腕組みして、首を鳥のようにクイクイと曲げてうなずく。
「だよな。オレもそうするぜ。シャドウに任せて運動場を爆撃するのが手っ取り早いな。リベナントを粉々にしてから、シャドウに命じて鍵を拾ってくれば良い」
サムカが素直にうなずく。
「そうだな、それが簡単な処理方法だ。セマンの賊であれば、造作もなく盗むことも可能だろう。そのくらいにリベナントの能力は低いのだよ。攻撃用の魔法具も、複雑な術式の物は使用できないしな。私が帯びている様な剣ですら、リベナントでは装備できない。今の帝国軍や警察でも、充分に破壊できるだろう」
そして、サムカが少し肩をすくめる。
「私が使わない理由が理解できたかな? オークの村を収奪するには使えるだろうが、そんな事をしても無意味だからね。オークを住民として扱えば、普通にゾンビとスケルトン兵で間に合う。この鍵は、見つけやすい状態にしているのだよ。ここが前回と異なる点だな」
ジャディが首をさらにかしげる。首の可動域はさすが飛族ならではだ。
「殿。盗まれても、行方不明になっても構わねえ……って事ッスか?」
サムカが肯定する。
「うむ。その通りだ。こういった広い場所で発見される鍵には、そういう物が多い。前回とは目的が違うという事だな」
運動場を一回り見回して、パリー先生たちの授業の様子を確認する。特に騒動は起きていないようだ。
「校長には申し訳ないが、こういった何もない場所では『何か』建てたくならないかね?」
レブンが理解したようだ。明るい深緑色の瞳がキラリと輝く。顔も完全にセマンになって少々ドヤ顔になっている。
「分かりました、テシュブ先生。この鍵の目的は、『建築技能の高い人』を探し出して使役する事ですね」
サムカが満足そうにうなずいた。ミンタも含めた生徒と先生〔分身〕も、「そうか、なるほど」という表情になっている。
「貴族は闇魔法場の放出が高いからね。長期間同じ施設にいると、〔浸食〕が進んで修理が必要になる。ところが、建築の技能がある貴族や騎士は少ない。アンデッド兵では能力不足だ。使い魔でも詳しくない者が多い。そこで、技能のあるオークを、この鍵を使って探すのだよ」
レブンが手に持っているボロボロな鍵に、サムカが視線を向けながら話を続ける。
「領地内にオークの自治都市を設けていれば、技能を有するオークも定職に就けるし、後継者の育成もできる。しかし、それを面倒に思う貴族が多いな。オークが増えると生命の精霊場が強くなるから、我々貴族や騎士には居心地が悪くなる。そのせいだな。まあ、慣れれば良いのだがね」
ラヤンがジト目になって、赤橙色のウロコが光る頭をかいた。ついでに数回ほど尻尾で地面を叩く。
「信じられないほど面倒ね。普通にオークの求人広告を出せば済む話じゃないの」
サムカがラヤンの指摘に何度もうなずいて同意しながら、それを否定する。
「合理的な指摘だが、貴族社会は面倒なものなのだよ。オークの技能工を求人募集しただけで、社交界での冷やかしのネタになる」
そんなサムカは領地に引きこもっていて、社交界には出てこないのだが……
「想像できないかも知れないが、求人広告をオークの人材業者を通じて非公開で出しても『貴族がオークに頭を下げて頼んだ』という話になるのだ。10年間は、それで冷やかされる事、間違いないだろうな。だから、このような鍵を使って『オークが出向いてきたから精神支配して使った』という形式をとっている」
「め、面倒くせえ……」
さすがにペルとレブンにジャディまで含めた、生徒と先生〔分身〕が揃って呆れた顔になった。サムカも苦笑する。
「雑談はこの程度にして、授業に戻ろう。レブン君、その鍵に何か見つけたかね?」
レブンがうなずく。
「はい、テシュブ先生。鍵の持ち手に『透かし彫り』があります。50倍に拡大表示したところ、何かの建築設計図のような模様だと分かりました」
サムカが風で乱れ始めた錆色の短髪を、軍手をした両手で整えた。今はパリー先生もいるので、必要最低限の〔防御障壁〕しか展開していない。
「うむ。鍵によっては、その『透かし彫り』が出る条件を色々と設定している場合がある」
サムカがそういって説明したのは、前回の鍵と似たような条件だった。暦や月齢、潮の干満に惑星の配置、死霊術場の濃度にも触れる。
「貴族の館や城の中で、作業をさせるわけだからね。ある程度の死霊術場に対する耐性も条件に入っている事が多いな。では、『それらの条件を全て満たした』として、話を進めよう。レブン君、その鍵の『透かし彫り』を地面に投影してみなさい」
レブンがいわれるままに、地面に『透かし彫りの絵』を投影してみる。ちょうど薄曇が切れて、直射日光が運動場に差し込んできた。
ペルが首を少しかしげて見ている。
「……普通の『塔の設計図』かな。高さは20メートルちょうど。鉄筋は不使用で、木材と積み石をコンクリートで固めた構造だね。耐震性はないけど……テシュブ先生、本当にこんな脆い構造で構わないんですか?」
サムカが山吹色の瞳を細めて、錆色の短髪を軍手でかく。
「うむむ。さすがは魔法工学が得意なペルさんだな。若干、ネタばれしてしまったか。うむ、このままで構わないぞ。では、実際に作ってみてくれ」
【塔を建てよう】
ペルたち生徒がパリー先生から許可をもらって、森の中から倒木や朽木、天然石を、シャドウや紙製のゴーレム、〔式神〕を使って集めてきた。
運動場の一角に山積みになった資材を、ペルが設計図に従って製材化、石材化する。上手に〔闇玉〕をナイフのように駆使して、音やノコクズを一切出さずに静かに木と石を切っていく。
ミンタが感心した様子でペルの肩を「ポンポン」叩いた。
「へえ……やるわね。ペルちゃん。闇の精霊魔法ってこういう使い方もできるのね」
「えへへ……」と照れているペル。
石材で作る塔の壁に必要なコンクリートについては、ムンキンが大地の精霊魔法とソーサラー魔術を使って、運動場の土から大量に生み出していた。レブンが感心しているので、少しドヤ顔になって胸を張る。
「へへ。〔石化〕魔法の応用だぜ。土の成分は珪素やアルミに鉄で、石灰成分が無い。だから、普通なら錬金系の〔元素転換〕魔法を使わないといけないんだけどな。コレが面倒なんだ。なので、〔石化〕で楽をしている。どうせすぐに土に戻す予定だしな」
学校がある地域は自然洞窟がない事からも分かるように、石灰成分が乏しい赤土の大地だ。そのため、魔法で土の成分元素に対して、『石灰のような性質』を〔付与〕している。魔力が切れれば、元に戻ってしまうので、自動的に〔石化〕も解除されてしまう。
有機物の〔石化〕の場合は、生体組織を〔樹脂化〕して石化状態に疑似的に変化させるが、無機物の場合はこのような手法になる。有機物の石化よりも簡単なので、こうして大量生産も可能だ。
ちなみに、以前にバジリスク幼体が無差別の〔石化〕攻撃をした際の、本当の〔石化〕とは別物である。
施工に必要な作業員は、ミンタが作成した土製の簡易型ゴーレムと、ラヤンが作成した紙製の〔式神〕で間に合わせる手筈になっていた。
塔の上部では高所作業も必要になるため、ジャディが風の精霊を呼び出して、ゴーレムと〔式神〕を飛行できる状態にする。その分、〔旋風〕が多数発生する事になるのだが、ペルが闇の精霊魔法の〔防御障壁〕を用いて、建築現場が風で倒壊しないように守っている。
塔の基礎部分は、設計図面では何も書かれていない。そのため、ムンキンによる大地の精霊魔法で〔頑健化〕していた。これも〔石化〕と同じで、魔力が切れれば効果を失ってしまう。建築作業用に必要になる水は、ミンタが水の精霊魔法を使って、地下水や近くの河沼から〔召喚〕して用意済みだ。
ノーム先生〔分身〕が資材の調整や、アドバイスをしたおかげもあるのだが、それでもあっという間に建築準備が完了してしまった。『基礎工事もどき』まで終了しているので、感心するサムカである。
「オーク作業員もかなりの腕利きだが、上には上がいるものだな。事実上の無人作業で全自動になるのか。すごいな」
ノーム先生〔分身〕が銀色の口ヒゲの先を手袋をした指でピコピコ弾きながら、不敵な笑みをサムカに向けている。
「これまで、何度も何度も校舎が破壊されたからね。ノウハウも蓄積するよ。しかし、僕の授業以外では、この規模の建築は初めてじゃないかな」
少々、耳が痛いサムカであった。それでも一応聞いてみる。
「ラワット先生。ここまでできるのであれば、地下施設にする必要は無いのではないかね?」
ノーム先生〔分身〕が大きな三角帽子を被り直して、垂れ眉を意味深に上下させた。
「今は帝国全土で復旧工事の最中だろ。僕たちが学校をこんなに『手軽に復旧』しては、苦労している被災地の被災者から色々と文句が出てしまうよ。これまでの卒業生を含めても、魔法学校の出身者は1000人もいない。これが10万人にまで増えれば、帝国全土に一斉〔テレポート〕して、このような復旧工事ができるようになるんだけれどね。今はまだ、時期尚早だよ」
エルフ先生〔分身〕も微妙な笑顔で、ノーム先生〔分身〕に同意している。
「復旧事業の主導権争いもあるようです。帝国工務省と軍、それに大手土建会社に魔法協会などが関わっていると、情報部の前大将から聞きました。私も、あまり生徒たちをそういう場に出すのは良くないと思いますよ。それに、この魔法は精霊魔法を主に使っていますから、サーバー依存ではありません。精霊や妖精に任せきりというのも考え物です」
「なるほど……」と素直に納得するサムカであった。サムカもドラゴン襲撃被害の復旧で、ステワやピグチェン卿から色々といわれている身の上だ。確かに口うるさい連中である。
そのような雑談をしている間に、塔が出来上がってしまった。設計図の通りであるかどうか、ペルとレブンがシャドウを使って〔検査〕している。それもすぐに終わって、満足そうな笑みを浮かべるペルだ。薄墨色の瞳がキラリと輝いている。
「うん、完成。耐震性は全くないから、住むのは無理だけどね」
学校のある地域は安定した地盤上にあるため、大きな地震は起きにくい。それでも、大地の精霊や妖精が希少金属などを求めて襲い掛かる危険性があるので、耐震性の確保は必要なのだ。
完成した塔は、高さ20メートルの筒状の単純な造りだった。製材で骨組みを組み、それに沿って自然石を切った石材を積み上げて、コンクリートで目詰めをしただけだ。
耐震性を強めるには、丈夫な格子状の鉄筋で塔の壁を支える必要があるが……今回はすぐに取り壊す予定なので採用していない。設計図にも記されていなかった。
塔には窓は1つもなく、入口の石製の扉があるだけであった。当然ながら、塔の内部は真っ暗である。
2階や3階があるような階層構造にもなっておらず、塔の頂上まで吹き抜けだ。頂上まで登る階段もついていない。
ペルが検査を終えて、少し呆れ顔になりながら黒毛交じりの尻尾で地面を掃いた。
「塔というよりは、穀物貯蔵庫よね。私の村にも小さいのがあるけど、そっくり」
一方のレブンは海中住まいなので、こういった建築物に興味津々の様子だ。
「漏斗型にして水平に設置すれば、潮流発電の整流器になりそうだなあ。後で役場に提案しておこうかな。窓をたくさん作れば、漁礁にもなりそうだし」
ここで、ペルの視線に気がついて我に返る。「コホン」と軽く咳払いをして、『鍵の透かし彫り』に簡易杖を当てた。
先生〔分身〕も含めた授業参加者全員の手元にある小型の〔空中ディスプレー〕画面に、ウィザード語の術式が数秒間ほど洪水のような勢いで流れていく。
そして、実際の塔の映像が重なった設計図面上に、15個の魔法陣を描く場所が記号で提示された。魔法陣の詳細情報も、『鍵の透かし彫り』にリンクしていた〔結界〕が開いて公開される。このあたりのシステムは、前回の扉の時と同じだ。
魔法陣の情報を、他の生徒たちと〔共有〕する。
レブンがサムカに軽く手を挙げて質問した。
「テシュブ先生。この魔法陣ですが、ゴーレムやシャドウに任せても構いませんか? 僕たちが直接塔の中に入って魔法陣を手作業で描くのは、ちょっと危険な気がします」
サムカが山吹色の瞳を細めて了承した。無骨なベルトに差してある長剣の鞘が、何かに当たって鈍い音を立てる。
「さすがに用心深いな。まあ、普通のオークを選定するための試験は、これで合格だ。なので、後は、この魔法陣を介して合格者のオークを〔テレポート〕して呼び寄せればいい」
予想外にあっけなく合格したので、キョトンとしている生徒たちだ。サムカが含み笑いを浮かべる。
「だが、オークではなく、君たちのような魔法使いであった場合は別だな。君たちの能力を鍵を通じて〔評価〕して、『貴族にとって有害』だと判定された場合、どうなると思うかね?」
いきなり空気が緊迫化してくる。しかし、サムカは穏やかな表情と口調のままだ。
「シャドウやゴーレム、〔式神〕を中へ送り込んで作業をさせても、君たち術者まで追いかけてくる〔ロスト〕魔法や〔呪い〕があるかも知れないな。この塔を作り上げる際に、術者の情報は鍵が入手しているだろうからね」
「ええ~……そんな面倒な罠なんか作ってるのかよ」とジト目になるラヤンとムンキンである。
しかし、ミンタがドヤ顔で金色の毛が交じる尻尾を優雅に振った。
「そんな事は想定内よ、テシュブ先生」
簡易杖を取り出して、大きめの〔空中ディスプレー〕画面を出現させる。ちょうど、この場にいる先生〔分身〕と、ペルたちが楽に見る事ができる画面サイズと解像度だ。
「前回の『呪い騒動』で分かった事は、〔呪い〕が襲い掛かる相手を〔認識〕する方法よね。遺伝子情報と魔法場情報、まあ、まとめて生体情報って呼ばれているけど、それを基に〔認識〕してる。だったら、それを〔呪い〕発動後に変えれば済む話じゃないかしら」
ラヤンが難しい表情をして、腕組みして尻尾を細かく地面に打ちつけている。
「『生体情報の偽装』って事? 幻導術でも行使する気?」
ミンタがラヤンを少しバカにしたような視線で見た。
「それは、前回やってみて効果なしだったわよ、ラヤン先輩。ちなみに、自身の姿を〔変化〕させる招造術も効果なしだった」
レブンが素直に同意する。口元が魚みたいになっている。
「まあ……姿を変えたところで、遺伝子情報や魔法場情報は変わらないよね。ただの擬態だし」
ミンタがレブンをニヤニヤしながら見つめた。かなり上機嫌のようで、金色の毛が交じる両耳がヒョコヒョコ動いて、鼻先と眉にあたる上毛がツンツン上を向いている。尻尾も相変わらず優雅に振られたままだ。
「じゃあ、その遺伝子情報と、魔法場情報を〔変化〕させる招造術だったらどうする?」
先生〔分身〕を含めた、ペルとラヤン、ムンキンとジャディにサムカまでもがキョトンとした顔になった。唯一、レブンだけがピンと来たようだ。思わず魚顔に戻って、声を上げた。
「あ。大ダコの応用かっ」
柄にもなく大声を上げて両手を大きく広げたので、慌てて口を閉じて両手を下げるレブン。
ミンタが嬉しそうに微笑んで、栗色の瞳を輝かせる。
「大ダコの場合は脳が3つもあるし、遺伝子も自由度が非常に高い。多分、脚1本1本に人格を持たせているおかげだと思うけどね。私たちは、そんな体の構造じゃないから、そのまま応用する事は無理よ」
だからこそ、実験動物としては全く意味がなく、だからこそ、実験実習の授業で使われていた。今は禁止になったが。
「大ダコの生体情報って、何度も変化しているでしょ。だから、発見できていないんだけど。それって、何かを取り込んでいるって事よね。私たち、獣人の進化の歴史もそうでしょ。獣から原獣人になって、それから獣人になった。何かを取り込んだのよね」
いきなりの『ミンタ先生の講義』になって、面食らっている先生〔分身〕とサムカである。しかし、ペルたち生徒はいつもの事のようで、当然のように素直に聞いている。もちろん、ジャディを除いてだが。
「それじゃあ、何を取り込んだのか。それは野生の狐と、犬種の原獣人族、近縁の狼族、それと狐族を比較すれば分かるわよね。結論からいうと『魔力』」
もう完全に先生の口調になっている。
「獣人族は基本的に魔法は使えないけれど、潜在魔力は高いのよ。だから魔法具は使えるでしょ。何かの拍子で、潜在魔力が顕在魔力に切り替わったのが私たち。同じことが、竜族や魚族、他の獣人族にも言えるのよ」
話を聞くうちに、「なるほど」と納得していく先生〔分身〕とサムカ、それに生徒たちだ。
ジャディは最初から聞く耳を持っていないようで、大あくびをしている。黒い冬羽毛を膨らませていて、顔と首が真ん丸だ。
レブンに続いて、ムンキンが何かを察したようだ。難しい表情になってきて、得意気に話すミンタに聞く。
「ミンタさん。もしかすると、生体情報の〔変化〕って『先祖返り』するって事か?」
「え!?」
ムンキンの質問に、目が点になる先生〔分身〕と生徒たちだ。さすがにジャディも大あくびを途中で一時停止してミンタを見た。そのミンタはドヤ顔のままだ。
「さすがムンキン君ね。その通りよ。このヒントは以前にハグ人形が教えてくれたんだけどね」
声を失って口をパクパクさせているムンキンに、ミンタが講義を進める。
「もちろん、サーバーに生体情報は全て複製して保存しておくわよ。そうしてから招造術を使って、狐に戻るってわけ。ムンキン君の場合はオオトカゲよね。レブン君の場合は、陸上でもある程度呼吸ができる肺魚なんかに変える必要があるけど」
そして、呆気にとられているサムカにドヤ顔を向けた。
「どう? これなら『呪いの標的』から外れるでしょ」
1秒ほど間を置いてから、サムカが腕組みをして考え込みながら唸った。
「……うむ。理屈ではその通りだ。人ではなく、普通の野生生物までも〔呪い〕の対象にする事はないな。そんな事をすると、死者の世界の主マズドマイニュの怒りを買ってしまう。この世界でも、墓所やパリー先生の怒りを間違いなく買うことになる」
そのパリー先生は同じ運動場の一角で木々を次々に生やして、生徒たちに花を咲かせるように命じながら、嬉々としている。そんなヘラヘラ笑いを満面に浮かべているパリー先生の横顔をチラリと見てから、サムカが腕組みをしたままでうなずいた。
「想定外の手法だが……良かろう、やってみなさい。生体情報の更新が完全かどうか、きちんと確認しておくようにな。しかし、ハグめ……そんな情報まで口にしていたのかね」
ノーム先生〔分身〕が、銀色の口ヒゲを片手でつまみながらサムカに聞く。
「テシュブ先生は、どのような対抗策が講じられると予想していたんだい? 前回同様に、クローンに任せれば大丈夫だと思えるが」
エルフ先生〔分身〕もノーム先生に同意して、サムカの答えを促した。サムカが錆色の短髪を軍手でかく。
「うむ。私も、その手でくると予想していた。生徒たちがクローンを作成する際に、作成に用いた術式や〔ログ〕を〔消去〕しておけば、呪いはそれ以上追跡できないからね。いわば持ち主不明の自律クローンになる。そうしておけば、生徒たちを呪いが襲う事はない。まあ、ここは学校だから、策が失敗して〔呪い〕を食らって本人が死んでも、すぐに〔蘇生〕や〔復活〕できるから問題あるまい」
ジト目になっているラヤンの肩を、そっと押さえるエルフ先生〔分身〕。視線をサムカに向けて、やや冷たい口調で指摘する。
「死者〔復活〕は、軽々しく行うようなものではありませんよ、サムカ先生。〔蘇生〕や〔復活〕時にエラーが起こりやすいのです。精神状態を含めたエラー〔修復〕に半日ほどかかりますから、他の授業に支障が出ますよ」
エルフ先生〔分身〕の指摘に、ラヤンが追加する。彼女もエルフ先生〔分身〕と同じようなジト目視線だ。
「短期記憶や死亡直前の感情も失われる事になります。生体情報の更新頻度は、今の法力サーバーでも、せいぜい半日に1回程度です。〔蘇生〕〔復活〕すればするほど短期記憶が飛んで、バカになりかねないですよ」
「なるほど」と、素直に聞き入るサムカである。しかし、それほど反省してはいない様子だ。
「指摘を感謝する。今回の〔呪い〕は前回と異なり、制限を大きくかけてある。それに、このミンタさんの策で、発動する事は無いだろう」
ミンタからの〔先祖返り〕魔法の術式を受け取って、無事に自動起動モードにした生徒たちに、サムカが山吹色の瞳を向けて細めた。錆色の短髪が森からの涼しい風にサラサラとなびく。
「準備は良さそうだな。では、やってみなさい」
ミンタが颯爽と簡易杖を振り上げて、20メートルの塔の石造りの扉に向けた。扉が自動で開く。片開きの簡素な扉なのだが、かすかに石がこすれる音がしただけで、流れるような動きで全開となった。
「それじゃあ、各自、突撃~」
真っ先にジャディのカラス型シャドウが、扉の入口に飛び込んで塔内に侵入していった。
「遅えぜっ!」
続いて、レブンのアンコウ型シャドウと、ペルの子狐型シャドウが突入する。
ムンキンが少し悔しそうに尻尾を軽く地面に叩きつけた。
「くっそー。やっぱりシャドウは素早いな。だが、俺の紙ゴーレムも負けないぜっ」
ムンキンとミンタ、ラヤンは紙製のゴーレムと〔式神〕だ。さすがに紙製なので高速行動は苦手なようである。ジェット噴射は、起動までに時間がかかってしまうので使っていない。
それでも、すぐにシャドウに続いて塔内へ飛び込んでいった。ちなみに、ムンキンとラヤン作はトカゲ型、ミンタ作は狐型である。
シャドウとゴーレムと〔式神〕が突入すると石の扉が閉まり、二度と開かないように扉枠ごと〔石化〕し始めた。そして、ものの15秒で扉が、完全に塔の外壁の一部と化してしまった。
それを見たムンキンがジト目になって、「フン」と鼻息を漏らす。
「やっぱり、閉じ込めて出さないようにする〔罠〕だったか。こんな仕掛けだったら、塔ごと魔法で破壊してしまった方が面倒が無くて良いかもな」
レブンがセマン顔のままで同意する。
「だよね。僕たちはテシュブ先生の館工事をするつもりは無いし。塔を粉砕してから、じっくりと魔法場の痕跡を調べた方が良いかもしれない」
サムカが腕組みをしたまま、中古マントの裾を風に揺らしながら微笑んだ。
「一理あるな。まあ、基本的にこのような〔罠〕に突き進むような魔法使いは、思慮が足らない。君たちがしているように、遠隔操作で〔調査〕するのが基本だ。ただ、塔を破壊してしまうと、これを仕掛けた敵貴族につながる情報も途絶えてしまう恐れがある。敵の策に乗りながら、敵の情報を収集する事も大切だよ」
突如、塔の中で爆発音が連続して起き始めた。明らかに戦闘をしている。先生〔分身〕と6人の生徒たちが緊張する中、サムカが穏やかな声で解説した。
「塔内で魔法陣を描き始めたら作動するように、迎撃用のアンデッド群を100体ほど用意しておいた。シャドウだが魔力量は低い。さすがに、このような場所にスペクターを配置する訳にはいかなくてね。自我もそこそこあるから、待遇に不満を覚えてストライキを起こす可能性が高い」
レブンがおもわず口元を魚に戻して、堪えきれずに笑い声を吹き出した。
「ぷ。ストライキですか、テシュブ先生。でもまあ僕でも、こんな狭くて暗い場所で待機して、侵入者を排除しろなんていう命令には従えないと思います」
エルフとノーム先生〔分身〕も、微妙な表情で口元を両手で押さえている。少し肩が震えているようだ。
「……そうなんですか、サムカ先生。アンデッドでもストライキを起こすのですね」
「た、確かに自我がある程度あるなら、当然の行動じゃな。しかし、ぷぷ。親近感がわくじゃないか」
ラヤンだけは、仏頂面のままだ。
「ぶつぶつ……アンデッドの分際で、ストライキですって? 舐めているのかしら。ぶつぶつ……」
サムカが軍手で錆色の短髪をかく。
「また、我が悪友ステワに冷やかされそうだな。どうも私は口が軽いようだ」
そして、不意に塔内の戦闘音が収まったので、聞き耳を立てる。
「……ほう。守備隊のシャドウが、生徒側に寝返ったか。上手なシャドウの使い方だな、レブン君」
レブンが照れてセマン顔の髪をかきながら、明るい深緑色の瞳を細める。
「ありがとうございます、テシュブ先生。シャドウでも意識はありますし、自我の欠片もあります。説得交渉ができると思ってやってみました。これで、僕たちにはシャドウが100余り使えます」
「おお……」
感心している先生〔分身〕と生徒たちに、サムカが心配そうな顔を向ける。
「いきなり100体もシャドウを君の指揮下に置くのは、魔力の負荷が高いぞ。大丈夫かね? 魔力のバランスが崩れそうであれば、迷わずに指揮を放棄するようにな」
「はい」と力強くうなずくレブン。
一方で、大暴れさせていたジャディは、大いに不満そうである。顔と首の冬毛の羽毛を盛大に膨らませて、琥珀色の瞳をギラギラさせてレブンを睨みつけている。顔は羽毛で丸くなっているせいか、凶悪度が半減してしまっているが。
「放棄しちまえよ、レブン。オレ様の『ブラックウィング改』に任せろ。こんなゴミ鳥の100羽なんか一撃で〔消去〕してやるぜ」
いきり立つジャディにムンキンがジト目を向けて、≪パシン≫と鋭く1回、尻尾で地面を叩いた。
「バカ鳥。目的をもう忘れたのかよ。守備兵の鳥シャドウと戦っても意味なんかないだろ。さっさと早く魔法陣を描き終わる事が優先だ。分かってるのかよ、このバカ鳥」
さすがに、その点はジャディも理解しているようだ。文句をこぼしながらも、素直に魔法陣を描く作業に戻るように、自身のシャドウに命令を出した。
戦闘はそれっきりで終わったので、ほどなくして、塔内各所に所定の魔法陣が描かれた。
塔内は真っ暗なのだが、ソーサラー魔術の〔照明〕魔術をミンタとムンキン、ラヤンの紙ゴーレムと〔式神〕が提供してくれたおかげで正確に描かれている。シャドウには〔照明〕のような光が関わる機能は期待できないので、鬼火を照明代わりに使用している。
サムカが手元の〔空中ディスプレー〕画面で、魔法陣の状況を確認する。
「……うむ。きちんと描き終えたな。これで塔内で〔錬成〕魔法を使える準備が整った。後は、鍵を〔修復〕させるための〔錬成〕魔法を起動させるだけだ」
レブンが緑錆だらけの銅製のボロ鍵を、すっかり塔の壁の一部に同化してしまった石製の扉に押しつける。鍵が壁の中に飲みこまれて見えなくなった。
「そうか。この塔は鍵を〔修復〕させるための『錬成器』なんですね」
レブンの言葉をサムカが肯定する。
「そうだ。鍵を塔内に持ち込んでいれば、魔法陣が描かれた時点で〔錬成〕が開始される。今回はレブン君が用心して塔の中へ鍵を持ち込んでいなかったので、一時停止がかかっていた。こういう時間的な猶予を得ながら事を進めるのは、良い事だ」
レブンが照れている横で、ムンキンが手を挙げてサムカに質問してきた。
「テシュブ先生。それでは、僕たちが送り込んだシャドウやゴーレムに〔式神〕を、塔内から脱出させても構いませんか?」
サムカが素直にうなずく。
「うむ、そうだな。脱出させた方が良いだろう。このまま塔内に残っていると、守備兵のシャドウと共に、『鍵の錬成』に巻き込まれてしまうからな」
すぐに塔の周辺の運動場の地面から、シャドウ3体と紙製ゴーレム2体、紙製〔式神〕1体が、にょっきりと這い出てきた。100体の守備兵シャドウは脱出できなかったようである。
ノーム先生〔分身〕が、銀色の口ヒゲの先を手袋の指で爪弾きながら、満足そうな笑みを浮かべた。
「うむ、土中の〔遊泳〕魔法は合格点だな。塔内は外界と接触が無いと思われがちだが、地面だけには接しているからね。塔内からの〔テレポート〕や〔壁の通り抜け〕魔法が無効でも、この手は有効だ。レブン君には気の毒だったかも知れないが、ただのシャドウではここの地面に潜り込むのは無理だったな」
実際に塔内は真っ暗で、死霊術場や闇の精霊場が強い。そのため、他の魔法や精霊魔法が使いにくい環境になっている。この2つの魔法場は、他の魔法場と相性が悪いためだ。
しかし、完全に使えないようになってしまうと、塔の建築や〔錬成〕魔法陣の描写と起動もできなくなってしまう。なので、強引に〔テレポート〕などで塔内から外へ脱出しようと思えばできるのだが……
「もちろん、そういう『予測できる行動』に対しては、貴族側も仕掛けを用意するものだ。〔テレポート〕魔法や塔壁面の〔通り抜け〕、それに魔法攻撃に対しては、自動で壁が〔反射〕攻撃をするように罠を仕掛けてある。今回は、単純に〔闇玉〕による塔内部への飽和攻撃に設定しておいた」
生徒たちが冷や汗をかいてサムカの話を聞いている。ムンキンが柿色のウロコを汗で濡らして、それを制服の袖で拭った。
「やばかったな……ゴーレムに任せておいて正解だった。塔内で〔闇玉〕に穴だらけにされるのは嫌過ぎる」
ラヤンやミンタも同じような表情をしているのを、凶悪な笑みを満面に浮かべてバカにしているのは、やはりジャディであった。背中の黒い鳶色の翼を広げてバサバサさせて、戻ってきたカラス型のシャドウを出迎える。すぐに左手の拳の上にシャドウを留まらせて、損傷がない事を素早く確認した。
「殿の凄さを思い知ったか、バカどもっ。殿っ! 更新されたシャドウ、使い勝手が良いッスねっ。地面の中でも自由に飛べるッスよ」
レブンが同意する。
「そうだよね、ジャディ君。大地の縛りがほとんど感じられなくなってる。僕のシャドウがこんなに簡単に、地面の中を泳ぐ事ができるなんて想像していなかったよ。他の100羽の通常シャドウは、地面に潜り込めなかったのになあ」
ペルも薄墨色の瞳を輝かせて、ジャディとレブンに尻尾を振り回して賛同している。
「だよね、だよねっ」
サムカが生徒たちの反応を、山吹色の瞳を細めて見ている。塔内から轟音が響き始めたので、話を進める事にしたようだ。
「ん。〔錬成〕が開始されたか。ちなみに、塔内から脱出できなかった場合には、一緒に『鍵の一部』になってもらう事になる。守備兵シャドウのようにね。もしも、君たちが塔内へ入り込んでいたら、地面の中へ潜って逃げない限り、今頃は死んでいただろう」
サラリと酷い事を言うサムカである。
「時として、危険の中へ飛び込む勇気は称賛されるべきだが、むやみに飛び込むのは、やはり推奨できない。シャドウやゴースト、ゴーレムや〔式神〕を使って遠隔操作する事が基本だな」
ミンタたちがジト目になって聞いている。「そういう事は最初に言え」とでも怒り出しそうだ。