アダチェイヤーの魔法使い
魔法の国にも、
春、夏、秋、冬、
四つの季節のある国と同じに、
秋の季節が訪れます。
『アダチェイヤー魔法学園』
という魔法使いの学校に、
秋がやってきました。
モーリスたちが
『大魔法博物館』に集まって書いた「学級新聞」が、展覧ロビーに貼り出されます。
始業式の翌日。
こんなニュースになりました。
『大きな大きな
カーダナダムの雪だるまが
溶け始めてから七年目の今年の春。
プルク町の町外れにある湖には、
雪どけ水が一杯に溢れ、そろそろ
「危なくなってきたなぁ」と言われ始めている。
カブールトレニの壁
と呼ばれている堤防が決壊し、
マベット国がカーダナダムの流水に沈む、
災害の恐れが出てきている』
ダンテがロビーで
新聞を読んでいます。
昼休みになると、
子供たちの教室の扉の前までやってきて、
モーリスに呼びかけました。
「君たちの書いたニュースのこと、
モーリスが記事にしたプルク町のことは、
本当なのか? 」
「嘘を書くとステラ先生の魔法で
梟の姿にされてしまうよ。
プルク町の記事は
みんなで調べたことだ。
モーリスは、僕だが?」
モーリスは兎の耳をそばだてて、
ダンテに自己紹介をしました。
ダンテは最初、目を丸くして
驚いていました。
アダチェイヤーの秘密の言葉と
カーダナダムの雪だるまのニュースを、
学級新聞の端っこに書いたモーリスのことを、一体誰が、訪ねてきたんだろう?
ダンテは恐らく、
モーリスの話を疑って尋ねてきたのだろう、と教室のみんなが、噂しました。
少年の顔を見て、とても不思議な気分がしています。
礼儀正しく、
魔法学園での信頼があつい少年に話しかけられて、誰も悪い気はしないのです。
モーリスは手招きされて、
毛がふさふさの仔犬に変身し、ロビーへと走っていきました。
学級新聞が、一面に、貼られています。
モーリスの書いたニュースの前に来ると、二人で並んで「魔法ニュース」を見ます。
それから一つ、質問をされました。
「カーダナダムってなんなんだ?」
とても早口で喋るダンテは、
次の授業までの時間をさっそく気にして、
時計を見ています。
「カーダナダムはカーダナダムだよ」
モーリスが朴訥に教えると、
「見たことも、聞いたこともないなぁ」
とダンテはもっと考え込んでいます。
その言葉にモーリスは、気持ちを
「へし折られそう」な気分です。
彼が信じていないだろう、
と思うと何故か朴念仁の「人参」にしか、なれません。
「知らないのは遠くからでは、
見えなくなってきているせいじゃないかな?」
モーリスが答えると、ダンテは苦笑いして言いました。
「例え、それが本当だったとしても。
モーリスくんがその雪だるまを見たことがないんじゃあ、噂でしかない。
そんなんではきみは滑稽だぞ」
滑稽なのはダンテのほうだ、とモーリスは思っているようです。
魔法使いの言葉を聞いたモーリスは、
孔雀の羽ぼうきで、丁寧に魔法の書をなぞりながら、
「賢者たち」が、「嘘をつかない」魔法を学んでいるのを見ました。
でもダンテは
「魔法教室で、注意されてからでは遅いんだ。
分かったなら、
ちゃんと返事をしてくれないか?」
と、忠告しました。
モーリスは、
「本当のこと、だろ!
自分で調べてみれば、いいじゃないか!」
と、ちょっとだけ、
やけくそになって心の中で叫びました。
「ぼく、ダンテの言いたいことが、分かった。
きみももっと、確信することが出来るように、なるだろうね。」
と答えると、
ダンテの注意を時計に向けることを、
やってみました。
「時計が気になるの?
教室に戻らないと
もう時間だよ。 」
上級生の、お兄さんのように、モーリスは
「ぼくは、
教室が近いから、きっと大丈夫です」と
丁寧にダンテを見て、
挨拶しました。
カーダナダムの雪だるまのお話を終わらせると、少しだけ深く、ぺこりとお辞儀をし、廊下を歩き出し……。
魔法の国。
そこに住む人はみな、
魔法使いになります。
飛行能力の魔法を習って、
全員が箒を使って、
空を飛ぶ。
プルク町の空の上を大きな箒で飛び、雪だるまの周辺を囲む魔法をかけます。
その魔法のことをみな、
「巨人の雪だるまとの戦い」
と呼んでいました。
モーリスが聞いた
「アダチェイヤーの魔法使い」の予言は、
本当だったと、魔法使いだけが知っています。
おわり
まだまだ夏が続きますが笑
涼しい雰囲気を楽しんで頂けたなら、
幸いです。紺乃貘