八・女子たちは注目する
千尋と学校関係者との交渉の末、女子高である天照女学院へ男子高校生である二宮が立ち入ることが許可された。犯行現場のトイレへ二宮へ来た時、トイレのすぐ外では多くの女子生徒が二宮に注目していた。
「ねえ、あの男子、なんでこの学校に居るんだろう」
「噂だと、さっきの講演会の刑事さんお付きの探偵なんだって」
「うっそお。そんなドラマみたいな男子高校生居る訳ないでしょ」
「だけどさ、彼、それっぽい感じの美男子だよ」
「それは言えるかも。神木隆之介と山田涼介を足して、二で割ったような感じ」
「ねえ、誰かあの人に話しかけてみてよ」
きゃあきゃあと騒ぐ生徒たちを見て、浩太郎の本性を知ったら幻滅するだろうなと現場へ同行した涼香は思った。
「何だろうね、モテモテって感じで照れるなあ」
二宮は千尋にそう言って生徒たちに振り返って手を振ると、女子たちからキャーッ、という歓声が聞こえた。
「出来の悪い漫画のワンシーンみたいね。そんな事をして何が楽しいの?」
「女子高に入るなんてこの先一生無さそうだから、記念に」
現場に入る前に二宮はもう一度生徒たちに手を振ると、またもや女生徒たちからキャーッ、と歓声が出た。
現場に入ると、制服警官が日沙里の遺体を運び出していた。千尋が一旦遺体を置いて、と指示を出すと警官たちは遺体を床に置き、遺体にかかっていたブルーシートを外した。遺体の首には絞状痕が付いていた。
「被害者の名前は升野日沙里さん、この学校の二年生で新聞部の部長だったわ」
「新聞部ねえ。新聞部の部長さんってことは、取材用のカメラとか持ってなかったの?」
「さっき生徒会室で撮影に使ったカメラがこっちにあるけど」
千尋が証拠品を入れているビニール袋からカメラを出した。
「ちょっといじっていい?」
「手袋は付けといてね」
千尋が二宮にゴム手袋を渡した。手袋を着けた二宮はカメラの電源を点けて、写真をチェックした。
「あれ? 大川さん、さっき生徒会室で撮影をしたとか言ってたよね」
「そうだけど」
「これ見て。”画像はありません”ってなってる」
二宮は千尋たちにカメラのモニターを見せて、その表示されているメッセージを見せた。
「あれ、本当だ」
「メモリーカードが抜けてるんじゃないかな」
二宮はそう言って、カメラのメモリースロットを開けた。
「カードが抜けてる」
「じゃあ、犯人の目的はこのメモリーカードだった……ってこと?」
「恐らく、人様に見られてはまずい写真とかが入ってたんじゃないかなあ。それをネタに被害者から脅迫されていた人物が、この事件の犯人だと思うよ」
二宮の推理は現場の外に居る生徒たちに聞こえていた。彼女たちはその推理を聞きながら、二宮に憧れの視線を向けていた。二宮の洞察力が付き合っていた頃から全く鈍っていない事を、涼香は感じることができた。
「ねえ、あれって……二宮くんだよね」
涼香の近くに日沙里に脅迫されていた磯見が来て、涼香に話しかけた。
「どうして彼がこんな所に居るの……?」
「私が浩太郎を呼んだからよ」
「えっ?」
涼香の言葉に、磯見が動揺した。
「何? 別に別れたからって、仲が険悪だったわけじゃないのよ。呼んできたって問題は無いじゃない」
「いや、あたしが言いたいことはそういう事じゃなくって……」
磯見が涼香に向かって言いづらそうな顔をした。
「まさか、あの人を殺したの、涼香じゃ……ないよね?」
「……」
「そんな、殺すことなかったのに」
「声が大きい。周りが聞いたらどうするのよ」
「……ご、ごめん。だけど、だったらどうして二宮くんを呼んだの? あの人が妙に鋭いことは、涼香が一番知っているのに」
「そんなこと、あんたが気にすること無いわ」
心配をする磯見をよそに、涼香は捜査をする二宮たちを見ていた。




