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二宮浩太郎の独断推理ノート 〜高校生探偵の推理〜  作者: スズキ
最終話 「最後のあいさつ」 VS名門女子校生徒会役員/澄川涼香
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三・放課後の物理室



 翌日の放課後、涼香は生徒会室へ行かずに、例の伝言にあった物理室へと向かった。


 無人の物理室に入った涼香は、部屋の中の机の上にある画用紙や書類やカメラを見た。画用紙には様々な図形や”見出し”、”コピー”、”写真”、といった走り書きがあった。書類のほうは年間行事予定などが記載されている。


「あの伝言、読んでくれたのね。届いてなかったらどうしようかと思ってた」


 画用紙や書類を見ていた涼香の後ろから声が聞こえた。涼香はその人物に振り向く。


「あなたが私を呼び出したんですか」


 涼香の所へ部屋の扉から女子生徒が近づいてきた。


「二年五組の升野日沙里(ますのひさり)です。以後、お見知りおきを」


 日沙里は涼香に手を差し出して握手を求めた。涼香はどうも、と言ってその握手に応じる。


「あの会議のあとから、学校の話題はあなたでもちきりよ。次期生徒会長は澄川涼香しかいないって」


「先の選挙より、今の会計の方が重要ですよ。気にしてなんかいられません」


「ふうん、そう」


 日沙里の反応は淡白なものだった、期待していた答えではなかったのだろう。


「それにしても――あの机にある画用紙などを見るに、ここは新聞部でしょうか」


 涼香の問いに対して、日沙里は頷いた。


「そう。部員はわたし一人だけど、月一で昇降口前の掲示板に学校新聞を出していたりするわ」


 日沙里は机から一枚の学校新聞を出して、それを涼香に見せた。


「先月の新聞ですか。そういえば、何度か目にしたことが」


「ええ、これが新聞部の主な活動。この他にも、県のコンクールに作品を出したりとかしてるわ」


 そう言って壁にかかっている表彰状を日沙里は指差した。去年、この部は県のコンクールに入賞したようだ。


「まさか、自分の部活の自慢をしに私を呼び出した、なんて訳ありませんよね」


 日沙里は机の上にあるカメラを持って、電源を点けた。


「一年三組の須和磯見(すわいそみ)……澄川さんの親友だとか」


「中学校時代からの友達ですけど、それが何か」


「これを」


 そう言って日沙里は涼香に(ふところ)から出したカメラの画面を見せた。


 画面に映った画像は、親友の磯見と男子高校生が口づけを交わしている画像だった。ファストフード店の窓際の席に座っているふたりは、幸せそうにふたりだけの世界に浸っている。


「この磯見の写真、どこで手に入れたんですか」


「先月のことだったかしら。放課後に散歩していたら、ふと目にしてね」


「こんな写真なんか撮って、どうするつもりなんですか」


 日沙里はカメラを机に戻すと、涼香に向かってにやりと笑った。


「この学校は男女交際禁止……生徒会の澄川さんなら、その位知ってるわよね」


「ええ」


「だけど、あなたの親友はご覧の通り不純性異性間交流をしていた。これはれっきとした校則違反ね」


「まさかとは思いますが、その写真をやましいことに使っていたりしていないでしょうね」


「この写真を須和さんに見せたら、それはもう怯えていたわ……それから彼女は定期的に、わたしにお金をくれるようになったの」


「脅迫……していたんですか」


「言っておくけど、わたしは彼女に金を渡せなんて一言も言ってないわ。向こうから出してきたのよ」


「本当にそれだけだったら、私をここへ呼び出したりはしないはずです」


「はぁーっ、流石学年トップのコは察しが良いねえ」


 そう言って、日沙里はけらけらと笑い出した。


「須和さんが口を滑らせていたけど、あなた、彼女の交際を黙認してたらしいわね……生徒会の生徒が友人の校則違反を見逃していた、なんて学校に広まったら、どうなるかしらね」


「どうなろうが、私は知ったこっちゃありません」


「須和さんも、あなたもただじゃ済まないと思うわよ」


 涼香はにたにたした顔をする日沙里を睨んだ。


「わたしはどうなっても構いません。だけど、これ以上磯見を追い詰めるような真似は止めて」


「ふーん、じゃあ、あなたが生徒の校則違反を黙認しているって教師に知られてもいいのね」


「磯見のことを黙ってくれるのなら」


「それを知ったら須和さん、どう思うかしらね。親友が自分を庇って処分を受けるなんて聞いたら」


「何が言いたいんですか」


「とにかく、彼女が変な事をしでかす前に、よおく考えた方が良いわよ。お互いが幸せになるためにね」


 そう言われた涼香は部屋の扉の方へと行った。


「失礼します」


「良い答えを待っているわ」


 部屋を出た涼香は、バタンと力強く扉を閉めた。


 人の弱みを握って金を取るなんて――彼女に怒りが募る。


「……あの、涼香ちゃん」


 壁にもたれる涼香に生徒が声を掛けてきた、磯見だ。


「ごめんなさい、あの人に涼香ちゃんのことを言っちゃって……」


「磯見、聞いてたの?」


「……こっそり」


「どうして私に相談してくれなかったの」


「だって、涼香ちゃんを巻き込みたくなかったから」


「バカ」


 磯見が涼香にごめんなさい、と言って泣き出した。


「これからどうしよう。涼香ちゃんがあたしのせいで酷い目に遭うくらいなら、あたし……」


「止めて」


「これからあたし、職員室へ行って……」


「だから止めてって言っているでしょう!」


 涼香の声で磯見の歩き出していた足が止まった。


「大丈夫、絶対あんたを巻き込んだりなんかさせない。あの女に罪を償わせてやるのよ」


 そう言った涼香の目には、唾棄すべき相手への憎悪の炎が燃えていた。


「涼香ちゃん……?」


 磯見は涼香の行く末に、言葉にならないような不安を感じた。



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