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二宮浩太郎の独断推理ノート 〜高校生探偵の推理〜  作者: スズキ
第四話 「名探偵の殺人」 VS高校生探偵/霧矢栄一
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解決編・二人ぼっちの解決



 翌日、学校を終えて家に帰ってきた栄一は玄関の鍵を開けて家に入り、階段を上って自分の部屋に入った。


 暗い部屋の中の電気を点けると、何者かが栄一の勉強机の椅子に座っていた。部屋が明るくなって椅子に座っている人物が、くるりと椅子を栄一のほうへ回した。椅子に座っている人物は二宮だった。


「お帰りなさい。お待ちしていました」


「どうやって家に入った」


「あなたのお母様に友達ですと言ったら、入れさせてもらえました」


 いけしゃあしゃあと答える二宮に呆れた栄一は、二宮を睨みつけた。


「それで、わざわざこの家に来て何の用だ」


「判ったんです、あなたが密室を作り出した方法が。だからここへ来たんです」


「じゃあ言ってみてごらんよ。出来るもんならね」


「はい、では説明を」


 二宮は席を立って、推理を始めた。


「まず……あなたは市井さんの部屋へ行き、彼女を殺害、その後逃走を図るも、表には被害者の妹さんがいました。だから玄関から逃げるのは非常に危険です。

 ある種の密室に閉じ込められたあなたは、咄嗟に機転を利かせて現場から逃げる方法を思いつき、向こう側の部屋の窓を開けて、この部屋まで飛び越えた。こうやってあなたは現場から逃走したわけです」


「その根拠は」


「もし、一階に降りて逃げた場合、犯人は庭の雑草を踏みつけていたはずです。しかし雑草を踏みつけた跡なんて無かったんです。第一妹さんに見つかってしまいます」


「屋根に登って逃げた場合は」


「そんな事をしたら、ご近所の人に目撃されてしまいます。そんな危険な方法を取るのは、ちょっと現実的ではありません。とにかく、この逃走方法が可能なのは、家と部屋が被害者と隣同士だという、あなたしかいないんです」


「それで終わっちゃ、密室はできないじゃないか。それじゃ推理が成立しないじゃないか」


「肝心なのはここからです。あなたはこの部屋に飛び込む前に、市井さんの部屋で適当に一冊ノートを選んで持ち出しました。

 そしてこの家をすぐに出て、外に居る被害者の妹さんに、『君のお姉さんにノートを返しに来たから、家に入れさせてくれ』と言ってもう一度この家に入った。そして妹さんにお姉さんの死んでいる姿を目撃させ、警察に電話を掛けろと言って部屋から立ち退かせました。

 そしてあなたは部屋の窓の鍵を閉め、警察が来るまでの間に家中の鍵を全て閉めた。これで密室の完成です。まさしく、幼馴染だからこそできた犯罪です」


 推理を聞き終えた栄一は二宮に向かって拍手した。


「感服するのはこっちだ、二宮さん。さすがだ」


「お認めになるんですね。ご自身の罪を」


「いや、俺の言いたいことはそういう事じゃない」


「はい?」


「あなたには推理作家としての才能はあるが、探偵としての才能はからっきしだ」


「と、言うと」


「確かにその方法を使えば、俺は密室を作ることができたのかもしれない。だけど動機はどうなんだ、早紀は死ぬ前に誰かと揉み合っていたそうだけど、その争いの火種が判らなきゃ、俺を犯人だって告発することはできない。そんなの、分かる訳が無い」


 栄一は自分の勝ちを確信した。証拠の捏造について知っていたのは死んだ早紀だけ。ましてや前の事件に何ら関わりの無い二宮は分かる訳が無い。


「では、お引き取りを」


 しかし二宮は部屋から出ようとせずに、余裕の笑みを浮かべていた。


「動機なら判っているんです」


 その言葉を聞いて、栄一は頭が真っ白になった。


「まさか……まさか、判る訳が無い」


「それが判ってしまったんですよ」


「嘘だ、ただの言いがかりだ」


「言いがかりではありません。これを見てください」


 二宮はポケットから一枚の折りたたんでいる紙を出し、それを広げて栄一に見せた。


「これは何だ」


「科研で調べてもらったある検査の結果です。覚えていますね、龍門寺家の連続殺人事件」


「どうしてその事件を知っている」


「昨日言いましたよね? 例のハイヒールの件で色々と警察の大川さんから聞いたと」


「そこまで知ってたら、色々というより全部だ」


「そう言われてみればそうですが、とにかくこの文章を読んでみてください。“伊都美薫殺害に使われた凶器のハイヒールに付着していた血液は、霧矢栄一のものである”と……」


 霧矢栄一のものである、と二宮が読み上げたとき、嘘だっ、と栄一は声を上げた。


「そんなの嘘だっ、検査に使われた俺の血液のサンプルはどこから採ってきたんだ。血液を抜いた覚えなんて無いぞ」


 二宮は小さい透明な袋に入った絆創膏を出して栄一に見せた。それを見て、栄一ははっ、となった。


「それは……」


「もうお判りですね? 昨日、ファミレスであなたから拝借した絆創膏です。あのハイヒールに血が付着していれば、何としても事件を解決しなければならなかったあなたにはメリットがあるのだと思ったので、血液のサンプルを採るためにこの絆創膏を頂きました」


 あの時、水をこぼしたのはわざとだったのか……栄一は二宮を見て絶句した。


「あなたは市井さんにこのことを追及され、争った結果彼女を死なせてしまった。言いたいことはありますか?」


 もう終わりだ、これ以上逃げても証拠の捏造が発覚してしまった以上、どうしようにもない。


「お見事……全部二宮さんの言う通りだ」


 栄一は二宮に負けを認めた。


「はい、どうも」


 二宮はそう言って、哀しみを含んだ目で栄一を見た。


 栄一が二宮に尋ねた。


「いつから俺のことを疑ってた」


「ううん、そうですねえ。強いて言えば事件が発火したとき、犯行現場にパトカーが何台も来ていたんですが、救急車が一台もなかったことが気がかりで。普通、あの現場を見たら第一発見者は一一九番して救急車を呼ぶはずです。しかし当のあなたはそうしなかった。それが気になったんです」


「そうか」


 部屋が暫く静まった後、栄一は口を開いた。


「二宮さん、一つ思ったことがある」


「何でしょう」


「今まで色んな犯人を見て、どうしてこんなドジをやらかすんだろう、とか、俺ならもっとうまくやれると何度も思った。だけど……」


「犯人は必ずへまをする。完全犯罪なんてこの世には無いんです」


「その通りだな。ハハハ……」


 そう言って栄一は虚しさと、ばかばかしさの気持ちが混じった笑い声を出したのだった。



第四話「名探偵の殺人」完



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