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二宮浩太郎の独断推理ノート 〜高校生探偵の推理〜  作者: スズキ
第四話 「名探偵の殺人」 VS高校生探偵/霧矢栄一
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三・疑惑



 ファミレスを出て、家に向かって歩いている栄一の隣には、考え事をしながら歩いている早紀がいる。家が隣同士の二人は、帰る方向が一緒だ。


 ずっと考え事をしている早紀を見て不審に思った栄一は家の前まで来た時、早紀に話をした。


「さっきからどうしたんだ、刑事さんが帰ってからお前、変だぞ」


「……いや、別に、何でもない」


「なにかあるんだったら話せよ、そんなに重大な事なのか?」


「――家に来て、私の部屋で話すから」


 栄一は自分の家に向かっていた足の方向を変え、隣の早紀の家に入った。


「おじさんとおばさんは仕事か?」


「うん、登美のとみは友達の家に遊びに行ってる。もうそろそろ帰って来ると思うけど」


 早紀の言った登美という人物は、彼女の妹のことだ。当然栄一も彼女の事を知っている。


 家に入って、階段を上った二人は早紀の部屋に入った。早紀が単刀直入に栄一に話を聞いてきた。


「……あのハイヒール、栄一が小細工したんでしょ」


 やはり、判ってしまったか――溜息をついた栄一はベッドにずしりと座った。


「根拠を聞こうか。どうしてそう思ったんだ?」


「その絆創膏の傷、うっかりじゃなくてわざと自分でつけたんでしょう」


「わざわざ自分で自分を傷つける理由は何だ」


「ハイヒールに気付いた栄一は千枚通しで指を刺して、こっそり盗み出したハイヒールを検査に引っかかるようにするため、自分の血を付けた後由香ちゃんの所へ戻した――わたしはこれまでの話を聞いてそう思うの」


 早紀の話を聞き終えた栄一は彼女に向かって拍手をした。


「お見事、さすがいつも一緒に事件を見ているからか、流石の推理だ」


 栄一の言葉を聞いた早紀は大きなショックを受けた。


「どうして? どうして証拠の捏造だなんて……」


「……由香が凶器にハイヒールを使って、それを身に付けていたのが判り、そのことを証明するためにはハイヒールに血の痕跡が残っている必要があった。だけど伊都美さんの頭はあまり出血してなかったんで、ハイヒールに血が確実に付いているという自信が無かった。もし、素直に自供せずに逃げようとした時は検査をして罪を認めさせようとしたんだ……その後、誰の血液かを調べることになるなんて、思いもしなかったけど」


 いけしゃあしゃあと話す栄一を見て、早紀は呆然とするばかりだった。


「……早紀も知ってるかもしれないけど、これまでいつも事件を解決したおかげで、世間に俺の名前が知られるようになった。ここで事件を解決できなかったら、これまで事件を解決できたことはただのまぐれで、霧矢栄一は大したことないヤツだったと周りから認識されてしまう――それを思うと怖かったんだ。だからこんなことしたんだよ」


 栄一の話を聞き終えた早紀は深呼吸をして、栄一のほうを見て口を開いた。


「変わったね、栄一……昔はそんなこと考えもせずに、ただ正義のために推理をしていたのに」


「月日の流れってのは、残酷なもんだよ」


 栄一の冷たい一言を聞いた早紀は栄一に背を向けて、静かに涙を流した。


「……わたし、今から警察に行って話してくる」


「何言ってんだ。今言ったように、俺は保身のためにやったんだ。警察に話させるわけにはいかない」


 早紀は栄一の方を見て、栄一の胸倉を掴んだ。


「栄一、あんた探偵とかそういうものの前に、人として最低よ!」


 お前に俺の何が分かるんだ! 栄一の頭に血がのぼる。


「うるさいっ」


 栄一は自分を掴んでいる早紀の肩を力強く突き放した。


 突き飛ばされた早紀は後ろにある棚の角に頭を激しくぶつけると、そのまま倒れ込んで床にうつ伏せになってしまった。


 倒れて頭から血が流れ出し、すまん、やりすぎた、大丈夫かと呼びかけてもに反応しない早紀を見た栄一は、顔が青くなった。早紀の手首を掴んで、栄一は彼女の脈を測った。脈が動いていないことを感じ、栄一は彼女の死を確信した。


 殺人――当然ながら事件の証拠の捏造に較べて遥かに重い罪だ。何としてでも自分が殺した事を隠さなければならない。


 自分を容疑者という立場から遠ざけるために、栄一は急いで家から出ようとした。


 栄一は家から立ち去ろうと部屋を出て玄関へ向かい、靴を履いた。玄関を開けて家を出ようとした時、外から女の話し声が聞こえた。


「……あの課題って、明日提出だっけ?」


「いや、明後日まで」


「良かったあ。あれ、まだ全然手を付けてないんだよね」


 栄一は外で話している人物のうちの一人の声に聞き覚えがあった、早紀の妹の登美の声だ。栄一は彼女がもうすぐ帰って来るという話を、早紀から聞いたことを思い出した。


 どうしたものだろうか。このまま外に出たら登美に自分の姿を見られてしまう。そうなると自分が犯人だとすぐに判ってしまう――


 どうすればこの家から誰にも見られることなく脱出できるだろうか。頭を回転させ、解決策を思いついた栄一は、玄関の鍵をかけた後、靴を持って物音を立てないように静かに階段で二階へ上り、早紀の部屋へ戻った。


 部屋に入ると、早紀の死体がさっきと同じ場所に横たわっていた。


 そして栄一は、初めに早紀の鞄から適当なノートを一冊出し……




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