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二宮浩太郎の独断推理ノート 〜高校生探偵の推理〜  作者: スズキ
第一話 「事件を運ぶ列車」 VS復讐者/葉桜香織
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二・連絡通路内の復讐



 駅の中では珍しい、人が全く通らない連絡通路で、香織はある一人の女子高校生を待ち伏せていた。


 さて、その女子高生のことを少女Aと呼ぼう。


 一年前、とある男性会社員が電車で通勤中、痴漢の冤罪をかけられた。その時、彼を痴漢だと叫んだのが少女Aだった。


 その後、哀れなサラリーマンは警察へ連行され、そのまま容疑者として裁判へかけられた。裁判では彼の主張はことごとく無視され、被害者として出廷した少女Aの証言が採用された。

 

 弁護士も彼に、もう諦めて素直に罪を認める方が良いと告げ、弁護側は彼が痴漢をしたことを前提に弁護をし、そして彼は有罪となった。家族以外、彼を信用する人間は誰一人として居なかったのだ。

 

 その後の彼らの生活は散々なものだった。男は初犯ということで執行猶予がついて釈放されたが、会社から解雇され、次の就職先も前科があるということでどこも彼を採用しなかった。男の妻も、働いていたスーパーを追い出された。


 それから半年ほど経ったある日、男は自宅で首を吊って自殺した。死体となった彼の姿を最初に見つけたのは、彼の娘である香織だった。その時から彼女は、父親を死に追いやった少女への、やり場のない怒りを糧に生きてきたのだった。


 一か月前の朝のことだった。香織は通学している途中、駅でのホームでぼんやりと電車を待っていると、下品な声色で話す女たちの話し声が聞こえた。


「ねぇ、あんたがはめたあのオヤジ一家、自殺したんだってね」


 ハッとなって前を見ると、目の前に少女Aとその取り巻きがいた。


「へえ、あのオヤジ死んだの。まあ、偉そうにあたしに説教してきたんだ。死んだ方が社会のためだよな。いい気味だよ、アハハハ……」


 その笑い声が香織の頭の中に響いた時、彼女に少女Aへの殺意が芽生えた。家族を破滅させたこの女に復讐をするのだと。


 それからの殺害計画が立てられていった。少女Aは毎朝何時に駅へ来るのか、入り口から改札までどのルートを通るのか? そのルートに監視カメラが設置されている場所は? 人はどの位通るのか――


 そして今日、香織は計画を決行する。まだ引き返すことはできる、しかし今の彼女を止めることは誰もできないだろう。


 連絡通路に大きな声が響いた、少女Aが来たのだ。


 香織は手袋を嵌めた状態でポケットからナイフを取り出して折り畳んである刃を出し、電話をしている少女Aへ一目散に向かった。


 少女Aの背中へ接近し、香織はナイフを持つ腕を肩の高さまで挙げて深呼吸をする。


 ――今だ!


 香織は少女Aの首を後ろからナイフで切り裂いた。切れ目の入った少女Aの首から血が噴き出す。


 少女Aは呻き声を上げて苦しみながら首に手を当て、そして倒れこんで地面にうずくまり、バタバタと醜くもがいた。

  

 その姿に香織は冷たい視線を向け、再びナイフを握りしめて瀕死の彼女の背中に突き刺す。


 少女Aにとどめを刺した香織は、走ってその場をあとにした。彼女の後ろからは、少女Aの電話の相手の慌てた声だけが聞こえた。


 ここまで来たらもう後戻りはできない。手袋を外して鞄の奥に押し込み、香織は全力で駅のホームへ走った。早く電車に乗り、一刻も早くこの駅から離れなければいけない。


 ポケットから財布を出してICカードを改札にかざすと、そのままホームへ向かった。


 ホームへ到着した香織は、電光時刻表を見た。次の電車は一分後だった。そして予告通り一分後にはホームに電車が来た。


 電車の中に人はそれほど居なかった。乗り込んだ香織は二人並んで座るタイプの座席に座り、深呼吸をして気分を落ち着かせた。もう後は学校へ向かうだけだ。恐らく事件が発覚したら、連絡を受けた駅員が手荷物検査を始めるだろう。しかし手袋くらいならどうにでも誤魔化せる。計画は完了だ――


 そう思った時だった。


「あの、あなたは……」


 香織は声をかけられた。その声の主は――


「ああ、やっぱりあなたでしたか。さっき道案内してもらった者です。二宮(にのみや)といいます。隣に座ってもよろしいですか」


 座席の近くに立っている二宮を見た時、香織は恐ろしく嫌な予感がした。



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