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二宮浩太郎の独断推理ノート 〜高校生探偵の推理〜  作者: スズキ
第三話 「完璧すぎたアリバイ」 VS人気生配信者/堀部唯
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五・事態は思わぬところへ



 二宮と一緒に部屋の中に入ると、唯は部屋のベッドの下に隠してある、パソコンを含む録画機器一式の入った段ボール箱を出した。


「ちょっと待ってて」


 唯は二宮にそう言って机の上にノートパソコンを置き、充電ケーブルのプラグをコンセントに刺して、パソコンの電源を点けた。


 準備を終えた唯は、ベッドの横に置いてある電話の子機を観察している二宮を見た。


「その電話がどうかしたんですか」


 電話を見ている二宮を奇妙に思った唯は、二宮に声を掛けた。


「あ、いえ、今時珍しいですね。電話の子機なんて」


「ああ、リダイヤルのボタンは押さないでください。警察にかかって大変な事になりますから」


「判ってます。ああ、こちらの電話で警察に通報を?」


「そうですけど」


「携帯とかは持っていないんですか?」


「父に禁じられていましたから」


「そうですか」


 そう言った二宮は、唯が準備したパソコンを見た。


「そのパソコンは?」


 パソコンには昨夜の生放送のアーカイブが再生されていた。画面には目隠しの仮面を付けている唯が映っている。


『はいっ、皆さん今晩は。ゆいのオールナイトスタジオ、今日は緊急生放送。土曜日だけど、配信しちゃいます! さて、もう九月中旬だっていうのにまだまだ暑い今日この頃、皆さんいかがお過ごしでしょうか……』


 仮面を付けた唯の声を聴いた二宮は驚いた表情をした。


「あれ、この仮面を付けた人の声、唯さんじゃないですか」


 その言葉を聞いた唯は、一旦動画を止めた。


「半年前から毎週やってるんです。父に内緒でパソコンを買って……生放送の動画を初めて見た時から虜になったんです。そうしてると、自分でもやりたくなって始めたんです」


 二宮は動画を再生し、その続きを観た。


『……夏バテにならない為に夜はぐっすりと寝て、体を休めてくださいね。いや、今寝られたら誰も見てくれなくなっちゃうので、体を壊さない程度に……』


「しかし、奇妙なものですね。同じ人なのに、いま僕と話しているあなたと少し違って見えます」


 そう言われた唯は溜息を吐いた。


「たぶん、これを始めて本当の自分が見えた気がするんです。政治家の娘じゃなくて、明るく振る舞うただの高校生なんだって」


「これまで随分と無理をされていたんですね」


 二宮の言葉に唯はそうかも、と言って相槌を打った。


「だけど……父にこの事がばれて、すぐに辞めろと言われたんです。その時、おまえは俺の言うことに従っていればいいなんて言われて、心底腹が立ちました。わたしは奴隷なんかじゃない――それが父に対して一番許せない事です」


「そうですか。ごめんなさい、辛いこと思い出させちゃって」


「良いですよ。気にしないでください」


 会話が終わり、二宮は息を吐いて、席を立った。


「では、ありがとうございました。そろそろ退散します」


 二宮が部屋を出ようと扉を開けた時、彼は一歩手前で部屋を出るのを止めた。


「そうだ、一つお願いしたい事があります」


「何ですか」


 唯は少々しつこい二宮に、ややうんざりとした口調で返事をした。


「放送は何時やってるんですか」


「日曜日の朝一時から三時間」


「つまり今日の深夜、やるんですか」


「ええ」


「そうですか」


「あの、それがどうかしたんですか」


「ええとですね」


 二宮は次の言葉まで少し間を開けた。


「今日の放送、横で拝見させて頂いても宜しいでしょうか」


「はい?」


「今夜、こちらにお邪魔しても宜しいでしょうか」


 唯はそれを聞いて唖然とした。一体この男は何を考えているんだろう?


「ちょっと見てみたいんです。お願いします」


 下手に断ったら、かえって怪しまれるかもしれない。そう思った唯はイエスと返事をすることにした。


「……いいですけど」


「ありがとうございます。じゃあ、夜食の差し入れ持ってきますので。では、失礼します」


 そう言って二宮は部屋から出ていった。


 事態は全く想像もしなかった方向に進んでいる。唯はその事に恐怖と不安を感じた。



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