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二宮浩太郎の独断推理ノート 〜高校生探偵の推理〜  作者: スズキ
第三話 「完璧すぎたアリバイ」 VS人気生配信者/堀部唯
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三・捜査現場での脅迫



 家に上がった二宮は、現場検証を行っているリビングへ入ろうとした。


「あの、リビングに入ったら怒られると思うから、わたしの部屋に行った方が……」


 唯が現場に入ろうとする二宮を止めようとした。


「大丈夫です。怒られませんよ」


「何が大丈夫なんですか。まず第一、二宮さんって何者なんですか」


「まあ、その話は後でゆっくりしますから」


「後でって……あのっ」


 唯を押し切るような形で、二宮はリビングへ入った。その様子に呆れた唯も、二宮に続いてリビングへ入る。


 リビングでは既に監察医が仕事を終えたようで、鑑識官が証拠品の指紋を採っていた。


「皆さん、お疲れ様です」


 二宮がリビングで捜査している千尋たちに声を掛けた。


「ちょっと、また捜査の邪魔をしにきたの! 君は唯さんと部屋に一緒に居てよ」


 千尋がリビングに勝手に入った二宮を注意した。


「また、って……前にこの人、何か悪いことしたんですか?」


「そんな、悪いことなんて、邪魔どころか事件を解決してあげたじゃないですか」


 二宮が千尋に抗議した。


「いや、まあ、あの時は助かったけどさあ」


「なら良いじゃないですか、でしょ?」


「……ああ、もう分かったよ! 今度は周りに迷惑かけないように!」


「やっぱり二宮さん、前に何かやらかしたんじゃ……」


「誤解ですって」


 二宮が唯にそう言った後、部屋の中をうろうろしだした。


「あの、どうしたんですか、二宮さん」


 唯が二宮に声を掛けた。


「いえ、ちょっと探し物を……」


「何を探しているんですか」


「テレビのリモコンです」


「はあ?」


 唯は二宮の言葉に呆気にとられた。


「こら、勝手にテレビなんか見るんじゃないの!」


 さすがに千尋が二宮に対して怒り始めた。


「いや、いつもならこの時間は家で『にじいろジーン』を見ているもんで……本当にリモコン、どこかなあ」


 人が仕事をしている横で、テレビを見るなんて……千尋が愚痴を吐いた。こういった行動が警察の人たちに嫌われる原因じゃないのかなあ、と唯は思った。


「うーん、リモコン無いなあ。そうだ、この家、録画ができるDVDデッキありませんか」


「ありますけど、それが何か」


「デッキのリモコンでテレビが点けられるかもしれません。ええと、リモコン置き場みたいな物ありませんか」


「一応、リモコンを入れる籠があるんですけど、父はいい加減な人で……いつもここに入れないで、どっかに放り出しちゃうんです」


 唯はテレビの横にあるリモコン入れの籠を指さした。その籠にはエアコンのリモコンしか無かった。


「そんな人にこれまで県政を任せていたのかあ。恐ろしい話です」


 二宮はそう言って暫くリモコンを探し回っていたが、結局見つからなかったのでテレビを見るのを諦めた。


「仕方ないです。テレビは諦めましょう」


 二宮はそう言った後、検案を終えた雄作の死体を見た。


「穏やかな死に顔だ。寝ている間に死んだんですか?」


「ある意味、そう言えるかも」


「ある意味、と言うと?」


「台所に空になった睡眠薬の瓶があったの。その薬の過剰摂取による自殺ね。死亡推定時刻は午前五時から七時、ここから睡眠薬を服用した時刻を逆算すると、午前二時から四時になるわね。動機は最近話題になってる政治資金の横領疑惑のマスコミの報道と、県議会での追及による精神的重圧ってところね」


「遺書はあったんですか」


「パソコンのワープロソフトに書いてあったわ」


「ちょっと、文章見せてくれませんか」


 二宮の言葉を聞いた千尋が二宮に振り向いて、舌を出して「あかんべー」した。


「やーだ。現場に入れただけでもありがたいと思いなさい」


 そっぽを向いた二宮が、籠にあるリモコンでエアコンの電源を点けた。


 エアコンが動き出した途端、熱風が部屋中に吹きわたった。


「ちょっ、誰よ、こんな暑い中で暖房点けたの」


「あっ、二宮さんがエアコンのリモコンを……」


 部屋中の人間がリモコンを掲げている二宮を見た。


「遺書を見せてください、見せてくれたら止めます」


 二宮が暑さでストレスが溜まっている千尋たちを脅迫した。


「判ったわよ! 見せるから早くリモコンを渡して!」


「では遺書を見せてください」


「いーえ、先にリモコンを」


「駄目です、渡したら絶対見せてくれないでしょう」


「警察を信用しないの!?」


「“人を見たら泥棒と思え”がポリシーなんです」


 その後、醜い言い争いは何分も続き、最終的に千尋の方が折れて二宮はプリントアウトした遺書を読むことができた。


「……報道されている私の疑惑は全て事実であり、更にこれ以上のメディア、議会での追及に私の良心はもう、耐えられません。私を応援してくださった有権者の皆様、お詫びの言葉もありません。では、さようなら」


 二宮が淡々と遺書を読み上げた。


「もう満足でしょ。じゃあ、返させてもらいます」


「ああ、ちょっと待ってください、この文章がいつ書かれたのか判りますか」


「文章ファイルの保存時刻が紙の裏にメモしてあるから、それ読んだら返してよ」


 千尋の言葉を聞いて、二宮は紙の裏を読んだ。


「今日の午前零時五十四分……」


「それがどうかしたんですか?」


 唯が頭を抱えだした二宮に話しかけた。


「いえ、別に気にしないでください」


 ソファに座った二宮は、考え事を始めた。


 二宮が大人しくしている間に唯は片づけをしている千尋を見て声を掛けた。


「あの、コーヒー飲みませんか。お礼にご馳走します」


「え、いいの、そんなに気を使わなくていいのに」


「いいんです、少しゆっくりしてください」


「あ、どうも、じゃあご馳走になろうかしら」


 唯は台所の冷蔵庫から900ミリリットルサイズのボトルコーヒーを出した。ボトルの中のコーヒーはコップに一杯入れると、すぐに切れてしまった。


「あ、もう切れちゃった」


「もう、とは?」


 唯の独り言に二宮が反応した。


「昨日買ったばかりなんですけど、もう父が殆ど飲んじゃったんです」


「ふうん、その量を」


 唯は千尋の所へコーヒーを運んだ。


「どうぞ」


「ありがとね、じゃあ頂きます」


 コーヒーを飲み始めた千尋に唯が話しかけた。


「刑事さん。聞きたいことがあるんですけど」


「どうしたの」


「この後、父の遺体はどうするんですか」


 唯はそう言って、雄作の死体を指差した。


「ああ、わたしたちが帰るときに一緒に連れて行って、お葬式の時まで霊安室に置いておくわ」


「あの……解剖とかはするんですか」


「解剖?」


「ええ、司法解剖って言うんでしたっけ」


「いや、今回の場合は事件性の無い、ただの自殺だから検案ってことになるけど。たぶん血液検査くらいはすると思うけどね」


「その検案っていうのも解剖の一種なんですか」


「ええ、それがどうかしたの」


「頼みたいんですけど、父の検案はしないでくれませんか?」


「はい?」


「最低な父親でしたけど、バラバラにされるのは可哀想ですから……」


「大丈夫、今回はご遺体におかしい所が無かったから解剖はしないわ」


「つまり、これから解剖をすることは無いんですね?」


「そうだけど、それがどうかしたの」


「いえ、ごめんなさい。こんなこと聞いて」


「いいわよ、ご遺体を解剖しないで欲しいって希望する遺族の方は、多く居るから」


 千尋がカップを空にしたところで、警察の人間は家を出る準備をした。


「では、お父様のご冥福を祈ってるわ。じゃあ、ニノも家に帰って良いよ」


 しかし二宮は意外なことを言った。


「いや、もう少し僕は残っています」


「は?」


 二宮の言葉に唯と千尋は戸惑った。


「唯さんにいくつか聞いておきたいことがあるんです。ちょっと」



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