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二宮浩太郎の独断推理ノート 〜高校生探偵の推理〜  作者: スズキ
第三話 「完璧すぎたアリバイ」 VS人気生配信者/堀部唯
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二・夢の中の回想



 リビングで父親の死体を見て、彼の脈を測って本当に死んていることを確認した後、唯は自分の部屋のベッドに入って仮眠をとった。


ベッドで眠っている間、唯は父親を殺すことになった経緯、そして殺害時の夢を見た。


 三日前の朝……秘書の調査で唯が勝手に生放送をしている事を知った父親の雄作は激怒した。ただでさえ汚職問題でメディアからの風当たりが強い政治家の娘が、ちゃらちゃらとしたネット番組をしていると世間に知られたらどうなる?


 何時間も唯に厳しく説教という名のストレス発散をした雄作は、ただちにパソコンを含む機器を捨て、二度とこんな真似をするなと唯に言った。


 そして最後に「おまえは俺の言うことに従っていればいい。とにかく俺を困らせなければそれでいいんだ」と吐き捨て、仕事場へ行った。


 おまえは俺の言うことに従っていればいい――雄作の言葉に、唯は初めて父親に対して怒りを感じた。


 自分はあんたの人形じゃない! 番組を始めてから半年、唯の中には人並みの自尊心が生まれていたのだ。


 怒りと同時に、屈辱、そして雄作への殺意が沸いた唯は、すぐさま殺害計画を立てた。何があろうと自分の生きがいを守らなければいけないと、計画はすぐに実行することになった。


 昨夜、唯は自宅に帰ってきた雄作に睡眠薬入りのコーヒーを飲ませて雄作を眠らせた後、眠った雄作の口に、致死量に達するほどの量の睡眠薬を押し込んで水で流し込ませた。


 そして、雄作のパソコンのワープロソフトに雄作の偽の遺書を入力した。文面は、自分の汚職は事実で、マスコミの報道、議会での追及に耐えられなくなったからだ、というものだ。


 文章を保存した後、部屋に戻って放送を始めた――


 その時、セットしておいた目覚まし時計の音で、唯は目を覚ました。


 時刻は午前七時半、唯は自分の部屋のベッドの横にある電話の子機に一、一、0と電話番号を押し、警察を呼んだ。


 電話に対応した女性に、朝起きたら父親が死んでいた、と伝えた。電話を切った後、唯はベッドに横たわり、ゆっくりと警察の到着を待った。


 十五分後、玄関のチャイムが鳴る音が聞こえた。玄関へ行きドアを開けると、スーツを着た若い女性と、数人の警官と鑑識官が居た。


「あなたが通報した堀部唯さん?」


 女性が唯に話しかけた。


「ええ」


 女性は警察手帳を出し、唯にそれを見せた。警察手帳には、“警部補 大川千尋”とあった。


「警察の大川千尋です。捜査の為、お宅にお邪魔してもいいかしら」


「はい、大丈夫です」


「ありがとうございます。じゃあ皆、入って」


 千尋に続いて、後ろに警官と鑑識官が家に入った。


 リビングに入った警察の人間は雄作の前に立った後、手を合わせて礼をした後捜査を始めた。


「では、まず死体の診察からお願いします」


 白衣を着た監察医が雄作の診察を始めた。


「あの……大川さん、でしたっけ」


 唯が検案を見守っている千尋に声を掛けた。


「ええ、どうしたの」


「ちょっと……気分が悪いので自分の部屋に居ていいですか?」


 唯は世間に見せる、清楚でおとなしい少女として振舞いながら千尋に話した。


「判ったわ。ゆっくり休んでて」


 千尋は唯を部屋に行かせることを了承した。


「では、頑張ってください」


 唯は彼女たちにそう言って、自分の部屋へ行った。


 部屋に入り、扉を閉めた唯は扉に耳をくっつけて捜査状況を盗み聞きした。


 最初に聞こえたのは男の警官の声だった。


「……そういえばガイシャの娘さん、美人でしたねえ」


「まあ、あたしには劣るけど、可愛い子ね」


 それを聞いて警官は沈黙した。顔は見えなくても、彼がが気まずい気分を味わっている事が唯には判った。


「……何、その目は」


「いえ、すいません」


 沈黙が暫く続いた後、最初に声を出したのは千尋だった。


「それにしてもあの子、可哀想ね」


「そりゃ、まだ高校生で父親が死んじゃったんですからねえ」


 ……別に、わたしは悲しんでなんかいない。千尋たちの声を聞いて、唯はそう思った。


「……ちょっとオレ、娘さん、慰めてきます」


 警官が千尋に提案したらしい。失礼だが、大きなお世話だ。


「このスケベ。女子高校生と話がしたいだけでしょ」


「ちぇっ」


 警官が舌打ちをする音が聞こえた。


「うーん。だけどあの子には話し相手が必要かもね。だけど、アテが無いしなあ」


 別に話し相手なんていらない、と唯は千尋に言いたくなったが、盗み聞きをしていると知られたら少し面倒な事になる。諦めるしかないようだ。


「……そうだ、先月の作家の事件の学生はどうですか」


 さっきとは別の警官の声が聞こえた。学生とは、どういう事だろう?


「その学生って、ニノ?」


 ニノ? その学生のあだ名だろうか。だとしたら刑事とはかなり親しい仲なのだろうか?


「……いや、それはまずいでしょ。わたし、ニノ、苦手だし。それに彼、男子でしょ」


「じゃあ、オレが慰めに」


 さっきのスケベ警官が口を挟んだ。


「君よりはマシかあ。仕方ないから君、ニノと連絡とって」


「……はあ」


 そうして、彼らが“ニノ”という学生に連絡をとってから数十分経った。


 窓の外からチャリンチャリンと自転車の走る音が聞こえた。


 部屋の窓から顔を出した唯は、ふらふらと走る自転車に乗っている、詰襟を着た学生を見た。学生はそれなりに整ったルックスを持っていたが、髪は伸びてくしゃくしゃだった。休日にも制服を着ている辺り、お洒落には全く気を使ってないようだ。


 堀部家の前で自転車を停めて鍵をかけた後、家に入った。


 唯は部屋を出て、玄関に行った。扉を開けると、さっきの学生が唯の前に現れた。


「……どちら様ですか?」


 唯は恐る恐る学生に話しかけた。


「二宮です、二宮浩太郎と申します。警察の大川さんに呼ばれて、こちらへ参上したのですが……」


 二宮だからニノ……唯は納得した。


「お聞きしました。お父様の事、この度はご愁傷さまです」


 唯の後ろから千尋が現れた。


「やっと来たかあ。じゃあ、この子の相手、宜しくね」


 そう言って、千尋はリビングへ戻った。


「あの人、勝手だなあ。折角の休日だから、気持ちよく寝ていたのにさあ」


 二宮はそう愚痴を吐いた。


 まさか、この“ニノ”が計画の邪魔をすることは無いだろう。とその時の唯は思っていた。

 

 その考えが間違っていたことに唯が気付くのは、少し後の事だ。



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