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二宮浩太郎の独断推理ノート 〜高校生探偵の推理〜  作者: スズキ
第三話 「完璧すぎたアリバイ」 VS人気生配信者/堀部唯
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一・堀部唯の生配信


 夏に欠かせないものといえばエアコンですが、みなさんは部屋を出るときはきちんとエアコンを消してますか?


 家をしばらく空けるときは当然消さなければいけませんが、逆に少しだけ家を空けるときはエアコンを消さないように。点けっぱなしにするより、一旦消してまた部屋を冷やしなおすほうが電気を多く食ってしまうからです。


 ぜひ覚えておいてください。




 近頃、汚職問題でメディアを騒がせている県議会議員の堀部雄作ほりべゆうさくの自宅は、三楽さんらく町の高級住宅街にある。


 その少々周りより大きく、目立っている家では、雄作と一緒に彼の娘の堀部唯ほりべゆいが一緒に暮らしている。ちなみに唯の母親は、数年前に雄作の不倫が原因で別居している。離婚していない理由は、政治家である雄作の世間からのイメージを下げない為だった。唯としてはそれまで母親からの愛を受ける事無く暮らしていたので、別に母親との別居に不満は無かった。


 さて、その唯は自宅の二階にある自分の部屋で、ベッドの下にある段ボール箱を引っ張り出すと、そこから有線のマイクを取り出し、父親に内緒で買ったパソコンに装着した。そしてパソコンに内蔵されているカメラを起動し、カメラとマイクの動作テストをした。


 全ての準備を終え、唯は動画サイトの自分のページを開き、生配信の開始時刻の設定をした。開始は三分後の午前一時だ。


 設定をした後、唯は自分のツイッターのページを開き、生放送の開始予告のツイートをした。


『今日は特別放送!ゆいのオールナイトスタジオ、間もなく午前一時より開始!』


 そのツイートは投稿された瞬間、数人のユーザーにリツイートされた。そしてそのリツイート数は、須秒のうちに急激に増加していった。


 そして放送開始一分前、唯は顔に目隠しの仮面とヘッドホンを付けてカメラの前にスタンバイをし、開始時刻を待った。


 三十秒前……唯は口を大きく動かし、顔の筋肉を柔らかくした。


 十五秒前……印刷しておいた放送スケジュールを呼んで再確認した。


 五秒前……気分を落ち着かせるため、深呼吸をする。


 三秒前……二……一……


 午前一時、開始時刻になった。時刻を確認した唯は第一声を発した。


「はいっ、皆さん今晩は、ゆいのオールナイトスタジオ、今日は緊急生放送。土曜日だけど、配信しちゃいます! さて、もう九月中旬だっていうのにまだまだ暑い今日この頃、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

夏バテにならない為に夜はぐっすりと寝て、体を休めてくださいね。いや、今寝られたら誰も見てくれなくなっちゃうので、体を壊さない程度に、夜更かしに付き合ってくださいね。では、今回最初の話題は……」


 パソコンに向かって唯ははきはきとした声で画面越しの視聴者に向けて語りだした。

 

 県議会議員である父親に命じられ、世間からのイメージアップを理由に、周りに対して清楚で大人しい女性として振る舞ってきた唯に転機が訪れたのは、一年前の事だ。高校に入学してできた友人にコンビニのアルバイトを誘われ、父親に秘密で夏休みの間、アルバイトをしたのが始まりだ。


 そして夏の終わりに、アルバイトの報酬として唯は学生が持つにはかなりの大金を手にした。


 その金で唯は最初、本当はスマートフォンを買いたかったが、いろいろと親の同意が必要だと判り、その代わりに以前から気になっていたパソコンを買った。


 初めてインターネットの世界に足を踏み入れた唯はカルチャーショックを受けた。厳格な世界で生きてきた唯にとって、インターネットで見るもの、聞いたものは全く新しいものだったのだ。


 そして、その中で唯が見たもので一番衝撃を受けたのが動画サイトの生配信だ。


 配信者の人の心を掴む軽妙な語り口、魅力的で愉快なコーナー、視聴者へのサービス精神あふれる演出、それをきっかけに唯は一気に生配信に夢中になった。


 冬休みになって、唯はもう一度こっそりとアルバイトをした。今度の目的は、マイクやヘッドホンなど、配信に使う機器を購入するための資金の確保だ。


配信を見ていく内に、唯は自分で生放送をしたいという欲望が溢れてきたのだ。


 全ての準備が整った唯は、父親が出張という名目で週に一日、愛人の家に行く土曜日の深夜、正確にいえば土曜日が終わって間もなくの日曜日の午前一時に、唯は初めての生放送を始めた。


 放送が始まり、次第に唯はそれまでの殻を破って清楚な少女から、エネルギッシュな女性に生まれ変わった。


その変わり様には彼女自身も驚くばかりだった。しかし彼女は初めてこれが本当の自分の姿だったのだと気が付いた。


 そして、その自分の姿を包み隠さず楽しく視聴者に語りかける唯の姿は、瞬く間に多くの視聴者の心を掴み、新鋭生放送者として動画サイトの人気ユーザートップテン入りを果たした。


 政治家の優秀な娘とインターネットの人気者という全く違う生き方、こんな生活も悪くない、と唯は思ったのだった。

 

 放送開始から三時間、番組の終了の時間が迫ってきた。


「では、番組終了前に皆さんに宿題です。今回の宿題は……大喜利! さて、お題を発表します。

 ある晴れた日、道を歩いていたら、向こうから赤い洗面器を頭にのせた男が歩いてきました。男は洗面器の中の水を一滴もこぼさないように、ゆっくり歩いてきました。私は『ちょっとすいませんが、あなたどうしてそんな赤い洗面器なんか頭にのせて歩いているんですか?』と聞いてみました。すると男は答えました……

 はいっ、では男はどう答えたのでしょうか。いい答えを思いついた方はツイッターのわたしのアカウントにダイレクトメールを送ってください。採用された答えは次回の放送で紹介します」


 全てのコーナーを終え、唯は視聴者に別れの挨拶をする。


「次回は明日の同じ時間からスタートです。では、お付き合いくださってありがとうございました。ではまたお会いしましょう、さようならっ」


 その言葉と共に、十秒ほど唯は画面に手を振った。


 そして放送終了のアイコンを押し、放送が止まったのを確認すると、唯は仮面とヘッドホンを外して、ふうと息を吐いた。


 仮面とヘッドホンをパソコンの上に置き、唯は部屋を出てリビングに入った。


 リビングに入った唯は電気を点け、テーブルを見た。


 そのテーブルにはノートパソコンと、その持ち主である父親の姿がある。しかし彼はうつ伏せになって、二度と醒めることのない眠りについていた。


 父親を殺した唯はその姿を見て、安堵の表情を浮かべた。



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