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二宮浩太郎の独断推理ノート 〜高校生探偵の推理〜  作者: スズキ
第二話 「影か、女か」 VSライトノベル作家/極英フミヤ
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五・下には下がある



『えーっ、極英先生のお宅に泥棒が入ったんですか』


「そうなんですよ。それに勝手に部屋の中で死んじゃったから。それはもう大騒ぎで……」


 買い物中、フミヤは京佳に電話を掛けた。流石に死人が出た家に、何も言わずに招待する訳にはいかないからだ。


 明日、京佳に振る舞うパスタの材料を買い物かごに入れながら、フミヤは通話を続けた。


「まあ、部屋は今、警察の人に頼んで片づけてもらってるんだけど……それでも明日来ます?」


 電話の向こうで、京佳は数秒間黙った後、返事をした。


『うーん、大丈夫ですよ。私、祟りとか、そういうの信じませんから』


「それは良かった。じゃあ、また明日」


『はい、それではまた明日、お願いします』


 フミヤは電話を切って、買い物を続けた。暑いからアイスでも買っておこうか、と思って彼はアイス売り場へ向かった。


 フミヤがアイス売り場に行くと、そこにはなんと二宮が居た。アイス用冷蔵庫を開けっ放しで、色んな種類のアイスを出し入れしながら選んでいる。マナー違反だ。


「うん、これにしよう」


 そう言って二宮はソフトクリームを選び、冷蔵庫を閉めた。


 二宮に見られたら面倒だ、と思ってフミヤはさっさとレジへ向かおうとした。


「先生! 極英先生じゃないですか!」


 フミヤの背後から二宮の声が聞こえた。


「いやあ、こんな所で会えるとは思いませんでした」


「二宮さん、現場はどうしたんですか」


「片づけに参加したくなかったので逃げてきました」


 あれだけ現場を騒がせておいて逃げてきたとは、最低の男だ、とフミヤは思った。


「またそんなに甘いものを……あんたの味覚神経どうなってるんですか」


 フミヤは二宮が持っているアイスクリームを見て、そう言った。


「いやあ、先生のお部屋の冷蔵庫にあった明太子があまりにも辛くて」


「二宮さん、人んちの冷蔵庫勝手に開けて、その中の物を食べるなんてあんたねえ、今日一体幾つマナー違反を犯したんですか。その明太子、明日使おうと思っていたのに……」


「それはまあ、置いといて」


「置いとけませんよ!」


 二宮の言動に、フミヤは帰りたくなる気持ちが強まる一方だった。


「それじゃあぼくは買い物が終わったので、また」


 フミヤはそう言って立ち去ろうとしたが、二宮に止められた。


「先生、実は幾つか聞いておきたいことがあるんですけど」


「嫌ですよ。ぼくはもう帰ります」


「まあ、そう言わずにお願いしますよ」


 この男にはどう言ったって無駄だ、と悟ったフミヤは二宮に言った。


「……分かりましたよ、三分だけなら」


「それだけあれば大丈夫です。ではまず……」


 二宮は一旦、言葉を止めて、次に続けた。


「先生のお宅に良く来る方、あの、確かガールフレンドでしたね」


 そういえば、そんな話もあったな、フミヤはアパートでの大家との会話を思い出した。


「彼女とはどれ程のお付き合いで?」


 その質問を受けて、フミヤは大急ぎで架空の彼女を考えた。全く、作家だとこういう面で本当に役に立つ。


「……彼女は市川っていって、中学の時からの付き合いなんですよ」


「先生と市川さんが付き合い始めたのは中学校何年生からですか」


「……中学二年生の時に、教室に朝早くに来てコンクールに出す為の原稿をこっそり書いてたら彼女に見られましてね。その原稿を読んで絶賛して、応援までしてくれたんですよ」


 よくもまあ、こんなにもいけしゃあしゃあと嘘が付けるもんだな、とフミヤは我ながら感心した。


「素敵な話です、その後は」


「それがきっかけで付き合い始めて、何回かデートを……」


「デートというと」


「……映画館とか水族館」


「ディズニーランドは」


「卒業の時に、記念で」


「スプラッシュマウンテンには乗りました?」


「ええ」


「あの急降下の時に撮影される写真は?」


「買いましたよ、それが何なんですか」


「今度見せてくれませんか」


「嫌ですよ! それに、どっかに失くしちゃったし……」


 二宮の言動にフミヤは呆れるしかなかった。


「……もういいですか。もう三分経っただろうし」


「あとひとつだけ」


「今度は何?」


「先生、あの泥棒、竹崎巧の顔に心当たりはありませんか」


「はあ?」


「いや、これまでに竹崎さんを見たり、会ったりしたこと、ありませんか」


 二宮が鋭い目でフミヤを見て尋ねた。


「……部屋で刑事さんに言った通りですよ。ぼくはその竹崎なにがしとは会ったことも、話した事もない」


 フミヤの言葉を聞いた二宮は満足そうな顔をした。


「そうですか、では」


 そして二宮は手に持っている、溶けてしまったソフトクリームを、冷蔵庫の中にある別のソフトクリームと入れ替え、その場を立ち去った。


 二宮の姿を見てフミヤは、ばれるもんかと心の中で呟いた。自分と巧の関係を示す証拠なんて、何一つ残していないのだから。


 それにしても今日は人生最悪の日だ、その時のフミヤはこの先の人生でこれ以上ひどい目に遭う日はないだろうと思った。


 しかし、フミヤは判っていなかった。上には上があるように、下には下があるということが……



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