客人
「これって、もしかして、、」
エニシが言った。
「うん、俺もそう思う~」
蜻蛉が言った。
目の前には白いモサモサの毛があった。それはとても大きくエニシから見ると白いモサモサの壁のようだった。
「兎だね」
「兎だよね~」
エニシと蜻蛉は同時に言った。
「大きいね。僕が見てる部分はどこ何だろう?」
「んー分かんないけど分かることがあるよ」
蜻蛉はなぞなぞを出すように言った。
「何?それは」
「アマツがハズレかーと嘆いていること」
「・・確かに。それは明確だね」
それよりもとエニシは前置きをすると近付いて白いモサモサの毛に触った。
「どうしようか?このモサモサ」
気持ち良いのかモサモサをずっと撫でてるエニシ。
「話し掛けてみれば~?兎さーん!おーい」
蜻蛉はエニシの返事を待たずに白いモサモサに話し掛けた。だが、返事はない。
「無視かーい」
嘆く蜻蛉。
「寝てる?もしかして」
「えーまさか~」
エニシは手にある松明を躊躇無く白いモサモサにあてた。チリチリ。
「ふぎゃあーーーー!!」
「あ、起きた」
「おおーやるぅ~」
冷静なエニシと蜻蛉。慌てたのは白いモサモサの持ち主だけだった。モサモサは火を消そうと上下左右に動いた。大きなモサモサはあちこちに当たり、洞窟はゴゴゴと嫌な音を立てる。すぐ火は消え燃えた部分は黒く焦げていた。だが、モサモサの持ち主は消えていることに気付かずまだ動いてた。
「火!山火事だー!!」
「あの、今晩は」
「!主、人か?」
「はい。お忙しいところ悪いのですが貴方は兎で宜しいでしょうか?」
忙しくしてる張本人が質問を投げ掛ける。
「そ、そうだが。兎と呼ぶな!それは名称だ、失礼だぞ」
口調は上からだが声は可愛いく小さい子供が背伸びして話しているようだ。
「そうですか。では名は?」
「ふん!人になんて誰が言うものか」
「、、、、」
「出た、面倒臭がり屋ー」
「まぁでも教えてやらんでもないぞ!我は寛大だからじゃな。では、先に主から名乗れ」
「僕はエニシと申します」
「俺は蜻蛉~よろしくー」
自分が燃えていたことはもう頭に無いらしく尻尾は喜びを示す動きに変わっていた。エニシは犬みたいな動きだなと思った。
「そうか。我は因幡じゃ」
「ハズレ?どういうことだ?」
ナオがアマツに質問をする。
「おっと、君からの質問は望んでないよ。俺っちの質問にだけ答えて欲しいなー」
「、、えらい我儘だな」
「まぁ仕事だしねー俺っちの質問が終わったら君も質問してもいいよーただし終わったらね」
緩い口調だが逆らえない、上下関係がはっきりとしていた。ナオは汗がゆっくりと自分の頬に垂れるのが分かった。
「んじゃあ、ひとつめー君がここに来たときからの記憶全部ーかなー」
「俺が来たのは分かってるだけで三日前だ。どのくらい寝たかは分からないしな。洞窟は、、果てが無かった。行き止まりにはない、帰ろうとしても元の道が無かった。そして、」
そこでナオの話が止まった。小刻みに震えてることがアマツにも分かったが早く帰って寝ることの方が重要だった。
「うん。そしてー?」
「・・・アイツが現れた。兎だよ。アイツが仲間たちを次々と殺していった。一人は多分逃げきれたと思う。時計塔のお前が俺を迎えに来たしな」
「ふーん」
「何だよ!その反応は?お前が聞いたんだろう!?」
「いや別にー?想像通りだと思ってさ。じゃあ次、ふたつめー」
自分の気持ちを押さえるナオ。ーーくそが!舌打ちしたいが目の前の人物が自分を助けに来てるのも事実で強くは出れなかった。
「君はさ、兎を見たの?」
「、、、は?」
「兎を見たの?君は。どんな色だった?どんなふうに恐ろしかった?お仲間さん兎に殺されたんでしょ?」
違和感にナオは気付いた。そういえば、何で兎だと思ったんだ?分からないじゃないか。だって俺は、、
「俺は、、兎、、を見てない」
「あーあ。ツマンナネェ~賭け負けたし!サイヤク」
上から声が聞こえた。ナオでもアマツでもないその声は人をゾッとさせるような嫌な声だった。
「誰ー?お前。お呼びじゃないんだけど」
「坊っちゃん駄目だよ?人に名前聞くとき自分から名乗れって習わなかった?」
その人物は上の壁に張り付いている。ここが地上とでも言っているように当然にいた。
「あっそ。じゃあ別にいいやー」
「もう!つれないなーまぁいいし。知ってるから」
「は?」
「坊っちゃんアマツくんでしょ?」
ーーコイツヤバイな。アマツは焦りを感じた。名を知られるのは一番阻止したかったことだ。さっきも俺っちはナオに名前を言わなかった。だとするならば、その前から俺っちの名前を知ってる、、?
「あらあら。そんなコワイ顔しないでよ」
ふわっと回りながら地面についた。白いマントに不気味な杖、全身で不信感を伝えてくる。
「お、お、お前が仲間を殺したのか、、、?」
ナオの本能がコイツはヤバイと告げている。黙ってるの最善の策だが死んでいった仲間の顔がそれを止めた。
「何お前?弱いやつにはキョウミナイだけど。でも、私の前で発言出来たのを褒めてあげる」
まさに蛇と兎の状態だった。アマツは黙って見てることにした。情報を欲しいのはこっちもだった。
「そうね。お前さんのお仲間さん?だっけ。殺したのは私よ。念とため言っとくけどお前ともう一人のやつ逃したのはわざとだから。」
「な、なんで?」
「別に誰でも良かったの。兎が犯人と本部に伝えるヤツがいれば」
誰でも良かったという言葉にナオは恐怖を感じた。ーー死んでいったのは俺だったかもしれない。醜い自分がそんなことを考えることが一番の恐怖だ。
「なるほどーねーうん、良く分かった。でもさー何で俺っちに教えたのー?」
「それは、坊っちゃんが一番分かってんじゃない?」
「俺っちを始末すれば関係ないってことでしょーどうせー」
「大正解ーー!!さぁ遊びましょう。坊っちゃんが笑い死にするまで、ね」