第1話 三人の死神と落し物
高校生活が始まって一ヶ月、梅雨が近づいてきて、
少し蒸し暑さを感じるようになってきた。
そんなある日、俺、風間颯太は屋上で、白い髪と青い目をした少女に出会った。
そして、屋上から落ちた俺は死んだ。
・・・と、思ったんだが。
翌日、目を覚ました俺は、自分のベットに横になっていた。
ケータイを手に取って日付を見たが、やっぱり日付は俺が屋上から落ちた日の1日後だった。
(夢、だった、のか・・・?)
それにしてはリアルなものだった。
いつもより30分も早く目覚めてしまたので、普段よりゆっくりと歩いて学校に向かった。
「よっ、颯太。ん?珍しいね、颯太が朝から眠たそうな顔してないなんて。
今日の天気予報は晴れだったけど、午後はヤリが降るかもね」
そう言ってアトムが後ろから話しかけてきた。
全く、朝っぱらからこいつのイケメン顔を見ないといけないとは・・・
「俺が眠たい顔をしてないのがそんなに珍しいか?」
「そりゃあねえ。僕は颯太とは13年間も一緒にいるけど、颯太は小学生ぐらいからずっと眠たそうな顔してたと思うけどな〜」
「なんだそりゃ。今日は変な夢見たんだよ、多分そのせいだ。」
「へ〜どんな夢?」
「俺が、屋上から落ちて死ぬ夢」
「正夢にならないといいね〜」
「やめろ、縁起でもない」
そんな当たり前の平穏な日常の会話が、あんな夢のあとだからだろうか、心地よく感じた。
全く俺らしくもない・・・
学校に着いて、珍しくアトムが絡んでこなかったので、
机に突っ伏していた俺の眠気を覚ましたのは、小夜の騒々しい声だった。
「こらー、颯太の薄情者‼︎朝練がない日は、一緒に行こうって言ったじゃん。なんで先に行っちゃうの‼︎ダッシュして5分で来たのに追いつけなかった‼︎」
小夜の家から学校までは、歩いて15分はかかるはずなんだがな・・・
うちの陸上部のエースは将来有望だな。
「別に約束はしてないんだが・・・。今日はたまたま早起きしただけだ」
「へ?そうなの、珍しいね。天気予報は晴れだったけど、午後はやりが降るかもね」
「それは朝、アトムからも言われた」
「なんと、先を越されたか・・・」
「なんで悔しがってんだよ・・・」
「あ、そうそう。一時間目数学だよね?宿題うつさせて〜」
「たくっ、たまには自分でやれよ。テスト近いぞ。」
「大丈夫。一夜漬けするから‼︎」
「それでお前、毎回赤点ギリギリだろ・・・ほらよ」
俺は昨日の昼休みに、アトムから写させてもらった数学のノートを小夜に渡した。
「サンキュー‼︎」
小夜は、満面の笑みで自分の席にもどって行った。
その日、三時間目が体育でサッカーだったので俺たちは外に向かった。
なんでこんな暑い時期に、外で体育をすんのかね・・・
そんなことを思いながら、俺は靴を取り出すために自分のロッカーを開けた。
そこに、ピンク色の紙が入っていた。
俺は思わず、開けたばかりのロッカーを勢いよく閉じた。
「‼︎‼︎‼︎」
(な、なんだ今の?)
「颯太〜早く行くよ〜」
「お、おう・・・」
とりあえず手紙はポケットにしまっておくことにしよう。
早く行かないと体育の熱血教師に怒られてしまう。
教室に戻った俺は早速手紙を読んでみた。
(ちなみに、サッカーはアトムの活躍で圧勝だったよ。まったく面白くもない)
手紙にはこう書かれていた。
『あなたに話がある。3階の空き教室に一人で来て。」
健全な高校男子なら、これは告白かなんかだと思うだろう。俺も健全な高校男子の一人だし。
だが、そんな浮かれた考えは、手紙の続きを見て吹き飛んだ。
『あなたは昨日死んだ。これは夢じゃない。』
可愛らしい丸文字には似合わない内容に、俺は昨日の出来事を思い出した。
(やっぱり夢じゃなかったんだな。じゃあなぜ俺は、生きてるんだ?)
その日は一日中、手紙のことを考えていたので、あっという間に放課後になっていた。
「颯太、今日部活ないから一緒に帰ろ」
アトムにしては珍しい提案だが、俺には大事な用事がある。
「悪いな。今日は俺が用事があるから、先に帰ってくれ」
そう断って、俺は空き教室に向かった。
3階空き教室・・・使わなくなった机や椅子などをしまっている。
普段は先生の許可なく入ることはできないのだが、この日はすでにあいていた。
しばらく使われていなかったのか、教室のドアは少し重く、開けにくくなっていた。
ドアを開けると、きのうの屋上と同じような光景がそこにあった。
そこにまた、白い髪をした少女がいた。
少なくとも学校の女子ではない。
まじまじと見るのは初めてだが、美少女だ。
少し眠たそうな青い目はとても綺麗で、腰まである長い髪は、風に揺られてサラサラと舞っている。
「この手紙はお前が俺に書いたのか?」
俺は、ポケットに入れておいたピンク色の封筒を取り出した。
「(こくり)」
少女は同じように無言で頷く。
「何の用だ?俺は、お前のことなんて知らないんだが・・・」
「あなたを探していた」
今にも消えそうな小さい声で、少女は答えた。
「なんで俺を探していたんだ?」
「あなたが昨日死んだから」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
こっちから質問をしないと答えないようだ。
「俺は死んだんだよな?」
「(こくり)」
彼女はまた、無言で頷く。
「つまり、ゾンビみたいなものか?」
「(ふるふる)」
首を横に振った。どうやら違うようだ。
「あなたは生き返った。私が生き返らせた」
「そういえば、お前は何なんだ?」
「死神」
「は?」
「死神」
「な、なるほど・・・」
なんてなるかい‼︎
「にわかには信じがたいんだが・・・」
「証拠を見せる」
そう言って、しばらくの間目を閉じていた少女は、ゆっくりと目を開け、
「パンダのユイユイが死んだ。今さっき」
と言った。って、今なんて?
「は?」
「パンダの・・・」
「いや、二回も言わなくても聞こえたから」
少女が何を言っているのか、わからずにいると俺のポケットに入れておいた携帯電話が、震えた。
確認してみると、妹からのメールだった。
内容は『パンダのユイユイ死んだんだって!』というものだった。
そういえば、うちの妹ユイユイ好きだったもんな・・・
「マジかよ・・・」
「これで信じた?」
「ああ、わかったわかった・・・」
どうやら夢じゃないらしい。
「死神は魂をかるんだろ?なんで生き返らせてんだ?」
「間違えた」
「は?」
「間違えた」
「何を?」
「魂をかる相手」
「おい・・・」
「間違えた」
「3回も言わなくても聞こえたから‼︎」
何だよそれ、俺、被害者じゃん‼︎
「つまり俺は、死んだが閻魔さんの手違いだったから生きかえらしてくれたと・・・」
「そう」
「もういい、もういい。とにかく俺は帰るからな」
俺はそう言って、少女に背を向けた。
「明日、文芸部の部室に来て」
そんな声が聞こえたので、後ろを振り返ってみたが、そこに少女はいなかった。
(そういえば名前聞いてなかったな・・・)
その日の風はなぜかすこし暖かく感じた。
翌日、俺はいつも通りの一日を過ごしていた。
死んだことを知らされても、あまりそのことを意識することもない。
(まあ、角に小指ぶつけても痛くなかったことぐらいだった)
その日はアトムも小夜も部活で、放課後は一人になれたので丁度いい。
昨日少女に言われた通り、俺は校舎の向かい側にある旧校舎の文芸部室に向かった。
旧校舎は、この学校が昭和時代だった時のもので、
新校舎が建った今でも、同好会や部活の部室として使われている。
部活動生のほとんどがそこを利用しているため、通称<部室棟>と呼ばれている。
(文芸部って、部室棟の一番奥だよな・・・もう潰れたかと思ってた)
何しろこの学校にはたくさんのクラブがあるから、部員が五人以上じゃないと廃部になるのだ。
俺はめんどくさい気持ちと、少しの期待を胸に文芸部室の前に到着した。
とても入りづらい・・・
文芸部前には無事に着いたが、とても入りづらい。
「え〜新しい部員って男なの?ありえないよ〜。ガールズだけでいいじゃん」
「あらあらいいじゃありませんか。殿方がいると、気も引き締まる感じがします」
「もう決定事項」
おっと、やっと知っている声が聞こえたな。昨日の少女だ。
「今からでも間に合うよ〜男子なんていらないよ〜」
「茜、もう諦めなさい。モロちゃんが部長なのだから」
「部長命令」
なんか入りたくない。このまま帰ろう。
俺が、くるりとドアに背を向けた瞬間、ガラガラっと後ろでドアの開く音がした。
「こんの覗き魔が〜〜〜〜〜〜‼︎‼︎」
「グボアーーーーーーーぶへェ‼︎」
な、何が起こった⁉︎
突然、背中を押されたと思ったら、目のまえに床があった。
どうやら俺は後ろから蹴り飛ばされたらしい。
「この変態が‼︎こいつ今部屋の中覗いてたよ。悪党は成敗だ‼︎」
「いやいやお前、俺の背中を蹴っただろ‼︎どうやって後ろ向きで、部屋の中のぞくんだよ。頭の後ろに目ん玉でもついてると思ったか‼︎」
倒れた俺の前に、仁王立ちしている少女の頭にあるのは、猫耳?うん、確かに猫耳だ。
いや、よく見ると茶色の髪の毛の両側が三角形になっていて、耳みたいに見えた。
身長は目測155センチ。
幼い体型に皮肉ながら似合っている小さな胸を、一生懸命に張っている。
おい、この位置からだとパンツ丸見えなんだが・・・って水玉かよ。
見た目そのまんまだな。
「おい、どこ見てんだよ‼︎」
「い、いや、なんでもない」
「なんで、こんな場末のバーみたいな部室の前にいたんだ‼︎」
「お前そこの部員だろ・・・そこの女の子に呼ばれたんだよ」
俺はドアの開いた部室の中で、パイプ椅子に座っていた少女を指さす。
「モロに?こいつ、もしかして新しい部員?」
「(こくり)」
少女が頷いたということは、どうやら俺は新入部員ということになっているらしい。
「て、おい。なんだ、新しい部員って。俺は聞いてないぞ?」
「決定事項」
「『決定事項』、じゃないから‼︎俺の意見は反映されないの⁉︎」
「こらこら、新入部員さんが困っているじゃないの。二人とも、事情をしっかりお話ししませんと」
俺たちがもめていると、大人な魅力を放つ女子生徒が部室から出てきた。
リボンが赤色ということから、二年生だとわかる。
長く黒い髪を、後ろでひとつ結びにしている。
いわゆるポニーテールというやつだ。
その大人の女性らしい姿によく似合っている。
何と言っても目を引くのは、その大きな胸である。
メロンでも詰まってんじゃないか?
身長は170センチの俺と同じぐらいだろう。
透き通るような綺麗な声で話しかけられて、一瞬、どきっとした。
ありがとうございます。
一応フォローしてくれたつもりかもしれませんが、あなたも俺が入部すること決定してますよね?
「とにかく一度説明しませんとね。どうぞお入りください」
俺は美女に促されるままに部屋の中に入った。
俺も高校男子だ。綺麗な女の人には弱い。
いつも使っている教室の半分ぐらいの大きさの部室には、長机が二つ並べてあり、その周りに会議室のようなつくりでパイプ椅子が四つ置いてある。
その三つは、俺と一騒動起こした三人で、すでに埋まっている。
「座って」
なんか三人の女の子に囲まれるというのは、かなり緊張する。
「まずは自己紹介からですね」
「いやいや、こんな奴の名前なんか知らなくていいでしょ」
こいつだけは好きになれん。なんか生意気なんだもん。
俺は、冷たい目で猫耳女をにらんだ。
「何見つめてんだよ。目ん玉くり抜くよ?」
なんて怖いこと言うのこの子‼︎
「まず、茜から」
「ええ〜〜‼︎なんでよ〜〜‼︎」
「部長命令」
「うぐっ‼︎まあいいや」
いいんかい
「あたしは三毛茜、お前と同じ一年だ。言っとくけど、お前が生意気な態度とったら、即刻退部な」
ずいぶんサバサバしてるやつだ。すこし好感度が上がったぞ。
「実は猫又」
「ちょっ、なんで先に言っちゃうんだよ‼︎ここはあたしが言って、驚きの真実が明らかにされるところだろ‼︎」
「別に隠すことでもない。似た者同士」
「こんな死に損ないと、メジャー妖怪のあたしが、一緒なわけないじゃん」
ずいぶんな言い草じゃないか。
「次、アイラ」
「私の番ですね。二年の東堂アイラです。あなた達のひとつ上の二年生よ。わからないことがあったらなんでも聞いてね」
アイラさんに、にっこり笑いかけられて俺も頬が緩みそうになる。
「私は、実は吸血鬼ですね。定期的に血を吸わないと具合が悪くなること以外は、普通の人間と変わらないので、あまりお気になさらないでください」
な、なるほど・・・
「おわかりいただけたでしょうか?」
「ま、まあ・・・」
「では、モロちゃん、あなたの番ですよ」
「知ってると思うけど、ハデス・タナトス・モロス。私は死神」
「うん、知ってる」
「むう」
なんか知らないけど、モロがむくれている。
「つまり、茜が猫又。アイラさんが吸血鬼。モロが死神、と」
「そう」
「昨日、モロから見せてもらったから一応信じるけどさ」
「最後はあなた」
おっと、俺の番が来たようだ。
「えーっと、一年の風間颯太です。よろしく」
「なんか、名前負けだよね。田中太郎って感じの顔なのにさ」
「そうですか?かっこいい名前だと私は思いますよ」
「名前なんてどうでもいい」
「なんか理不尽に傷つけられてるんだけど・・・で?用事ってなんだ?」
「私たちの仕事を手伝って欲しい」
相変わらずの無表情でモロはそんなことを言ってきた。
「なんだそりゃ」
「私たちの仕事を手伝って欲しい」
「いや、二回も言わなくてもわかってるから」
「いやいや、こんな奴に手伝ってもらわなくても私たちだけで大丈夫じゃん‼︎今からでも遅くないから退部させようよ。ほら、本人も乗り気じゃなさそうだし」
「しかし最近辛くなってきましたよね。もう少し人手が欲しいと思っていたので、私は構いませんよ」
仕事ってなんだ?なんかしないといけないのか?
「ここって文芸部だよな、することなんてないんじゃないか?」
「何言ってんのお前。文芸部なんて嘘に決まってんじゃん」
「は?」
「ここは正式名称を<魔界異端粛正会人間界日本支部>と言います」
「すみません、長すぎて覚えられなかったんですが・・・」
「長いようでしたら<粛正会>と呼べばいいですよ」
「なんか物騒ですね」
「まあ、やっていることは警察とあまり変わりませんよ」
なるほどわかりやすい。
「それならなおさらやることないぞ。戦力にもならないし」
「お前は盾役でもしてればいいんだよ」
「まあいいけど・・・」
「早速きた」
突然、モロが声を上げた。
「何が?」
「異端者。魔界のルールに背いたやつ」
「おっしゃ。そんじゃ向かいますか」
三人は慣れたように席を立ち、部屋から出ようとしている。
え、俺も行くの?
そんなわけで、初めての異端者討伐向かいます。




