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虹の彼方に響く歌 ~とある魔法少女達のモノガタリ~  作者: 漆篠
闇から這い上がる少女
5/6

柑子色の前奏曲(プレリュード) 5

 私は軽く息を吐き、眉間に右手の人差し指を当てた。目を閉じ眉間と指先に集中。魔力を集め、そして色を思い浮かべながらその名前を呟く。


「《(ルーフス)》」


 すると指先に温かい感触が現れた。そっと目を開き眉間から離した指先には赤い光が灯っている。私は左手の掌にその赤色を使って炎の形の絵を描いた。絵の完成した左手に魔力を籠めると、炎が現れメラメラと燃え始める。


「へぇ、『虹色(カラー)』か。珍しい魔法ね、初めて見たわ……それってどういう仕組みなの?」

「『虹色(カラー)』は魔力で描いた絵を操る魔法です。魔力を集め色に変換してそれで絵を描き、更にその絵に魔力を籠め実体化させて使います。しかし一回一回攻撃の度に絵を描くのはタイムロスなので、こうやって自身の身体に描き込むことで連続して発動できるようにするんです。簡易的な術式を描いている、という表現が近いかもしれません」

「成る程。それって何でも描けるの?」

「描けるには描けます。しかし『虹色(カラー)』で使う色には、(ルーフス)には火、(フラーウム)には雷、(カエルレウム)には氷、とそれぞれ属性が宿っておりその属性以外に変換することはできません。例えば青で火を描いたとしても火を象った氷になるだけで青い炎が出来上がる訳ではないんです。色の持つ属性以外にも像に変換し幻として使うことは可能なのですが、複数の色を同時に操らなければならなくなる為魔力の消耗が激しくあまり使うことはありません」


 成る程成る程、と呟きながらミネルヴァは椅子から腰を浮かし私の左手を食い入る様に覗き込んだ。彼女は無類の魔法マニアとしても有名である。珍しい魔法に目がないのだ。『虹色(カラー)』の使い手はとても少なかった。様々な制限を持つ魔法を会得しようという魔導士は少ない。私のプロフィールを聞く前にまずメインの魔法を聞いてきたのはギルドを守るマスターとしてではなくミネルヴァの純粋な興味からなのだろう。この時ばかりは彼女のプレッシャーは消え去っていた。ずっと緊張状態なのは正直辛かったので『虹色(カラー)』の使い手で良かったと心底思う。

 幾らか和らいだ空気の中ミネルヴァは視線を私の左手から目へと移し次の質問を口にした。


「次に自己紹介をして頂戴。名前、年齢、属星(ぞくせい)、それと簡単に経歴も教えて欲しいわ」

「はい」

「ちなみにだけれど」


 そこで一旦言葉を区切り、ミネルヴァは踵で床を打った。ヒールがカツンと音を鳴らし、―――――次の瞬間、私とミネルヴァの足元に大きな魔方陣が現れる。


「っ!?」

「この魔方陣の上にいる間、貴方は絶対に嘘が吐けない。私が解くまで魔方陣の外にも出られない。大丈夫、防音の魔方陣も張ってあるから私達の会話は外に漏れないわ。安心して――――全てをさらけ出しなさい」


『嘘を見破る』『閉じ込める』『防音』という三つの魔法を重ね合わせた、かなり高度な三重魔方陣。もし嘘を吐けば……一巻の終わりだろう。勿論二巻には続かない。

 柔和な雰囲気を残しながらも射抜くような鋭い目で私を見るミネルヴァに背筋が粟立つ。今はまだ見逃されているだけで、私は既に敵だと仮認定されているのだ。どんなに私が望んでもこの体に染み付いた血の匂いは消えない。この体に纏わり付く負の感情は消えない。10年前のあの日、ある一人の男によって私の日常は壊された。全てが変わってしまったのだ。








『アネキっ!』








 過去の記憶が脳裏を掠める。大好きなアイツに会いたい。今すぐアイツの所に行って、この腕でキツく抱き締めたい。でも………アイツとはもう二度と会えない。会ってはいけない。それが悔しくて、悲しくて……苦しい。

 私はミネルヴァの問い掛けに答えようと口を開くが、声が出ない。手が震えていた。喉も貼り付きそうな程渇いている。私は目を瞑り、軽く(かぶり)を振り、気持ちを落ち着けた。冷静になれ。感情が昂ると言葉が出なくなるのは私の悪いところだ。今は彼女に私の事を話さなければいけない。過去を振り返る時では、ない。






「………アリア・レイティス。齢、17。属星は……」


 属星(ぞくせい)というのは魔導士が生まれつき持つ魔力の種類だ。この世界では太陽、月、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の10の星々が魔力の根源となっていると云われている。属星は大きく太陽と月の2つに分かれ、更に水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の8つに分類される。金星、地球、火星、土星は太陽から、水星、木星、天王星、海王星は月から魔力を受け私達魔導士に力を与え、それを星の加護と呼ぶ。つまり通常魔導士達は太陽と金星、月と木星、といった様に二つの属星を持っているのだ。しかしその場合太陽、月の力を直接引き出せる事はない。8つの星々は太陽、月の魔力を各々の魔力に変換してから発するからだ。だから太陽、月の属星は持っていないに等しいと考えられ、主に属星を尋ねられた際は細かく分けられた方の星を答える。

 だが私は、極少数の"特例"であった。


「太陽です」

「! ……へぇ、太陽か」


 "特例"――――即ち太陽、月の魔力を直接受け取る魔導士。数多く存在する魔導士の中でも数は少なく、特に強力な魔法を使えたり、生まれつき魔法とは別に特殊な異能力を持っていたり、ヒトではない特別な存在と心を通わせる事ができる者もいるらしい。勿論全ての太陽、月属星の魔導士がそうである訳ではないが、歴史に名を残す魔導士や組織のトップに立つ者が太陽、月属星であるのが多いのもまた事実である。

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