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虹の彼方に響く歌 ~とある魔法少女達のモノガタリ~  作者: 漆篠
闇から這い上がる少女
3/6

柑子色の前奏曲(プレリュード) 3

「名前は?」


 マスター・ミネルヴァは私が近付くや否やそう問い掛けてきた。


「…………え、えっと、アリア・レイティスと申します。ギルド加入の申請をしに伺わせて頂きました」

「そう」


 少し戸惑いながらぎこちなくそう答えるが、ミネルヴァは短く返事をしただけで私から目を離しグラスを煽り、再びカウンターに置く。カラン、とガラスと氷がぶつかる高い音が響いた。

 最初に見た時から片時も笑みを絶やさないミネルヴァ。その顔からは何を考えているのか全く読み取れない。(もしかしたら何も考えていないのかもしれない、なんて思ってしまうくらいに。)


「…………………」


 続く沈黙に、私は思わず生唾を飲み込んだ。周りは煩いと感じた程に賑やかだった筈なのに今は喧騒が遠く離れているように感じる。まるで私と彼女だけが世界から切り離されている様な感覚だ。

 とてつもないプレッシャーと圧倒的な存在感。きっと"これ"がカリスマ性という物で、彼女が世界一大きなギルドと謳われるここを纏め上げる事が出来る所以なのだろう。独特の張り詰めた空気感。初めての感覚に背中が粟立っている。









「「マスター、ただいまっ!!」」

「っ!?」

「あら、お帰りなさい」


 その緊張感を破ったのは突如私の真横に現れた二人の幼い少年少女だった。突如現れたというのは私がミネルヴァに圧倒されていたから接近に気付かなかった、という意味では無い。彼等は文字通り、"何も無かった空間から突如として現れた"のだ。少年少女は互いの顔を見合せると「マスターびっくりしなかったねー」「しなかったねー失敗だねー」と残念そうな声を上げた。

 同じくらいの背丈で同じ髪色、そしてシンクロする動き。



(双子、だろうか)



 そして今の魔法は……。


「『悪戯魔法(トリック)』……」

「あれー? このおねーさんだーれ?」

「みたことないねー? だーれ?」


 そう言いながら双子が不思議そうに首を傾げながら私の事を見上げていたが、驚きの余りそれに反応が出来ない。

悪戯魔法(トリック)』とは魔力を持って産まれた幼い子供達がその名の通り悪戯目的に覚える魔法だ。魔力が高まるにつれて徐々に使えなくなるという特性を持っており幼少の間しか使えない魔法だが、少ない魔力で扱え身体への負担が少ない為魔法のコントロールを覚えるのには適していると云われている。しかし。



(『悪戯魔法(トリック)』は体内に魔力を持つ人間なら発動に勘付ける簡易レベル魔法だ。それを、私が見破れなかった……?)



 簡易魔法である以上姿は消せても気配までは消せない。気配を消すには魔力が必要で、だが魔力が高まると『悪戯魔法(トリック)』は扱えなくなる。目の前の幼子達は克服不可能なその矛盾(パラドックス)をどうして克服出来ているのだろうか。………とここまで考えて、一つ思い当たる魔法を見つけた。


「違うわアリア。彼等の使う魔法は『妖精魔法(ピクシーマジック)』よ」


 それが『妖精魔法(ピクシーマジック)』だ。『悪戯魔法(トリック)』と似ているが全く異なる魔法で、生まれながらにして非常に高い魔力を有する子供が『悪戯魔法(トリック)』を会得しようとした際極稀に発生すると云われているが発現方法は定かではない。この魔法を会得する子供は本当に稀な為条件がわからず、発現した子供は幼過ぎてそもそも魔法というがよくわかっていない事が殆ど。発現者に説明出来ないものを外部の人間が把握出来る筈もなく現在わかっている事は皆無に等しい……と本当に謎が多く珍しい魔法なのである。


「凄い……」

「ほんとーすごいー!?」

「ほめてもらったねーうれしいねー!!」


 双子はそう言いながらぴょんぴょんと交互に跳び跳ねる。そんな二人を見たミネルヴァはくすりと柔らかく笑った。


「良かったわね二人共」

「よかったーおねーさんいい人ー!」

「いい人だねー仲良くしよーねー!」

「あのねーおとこのこはトルっていうのー」

「おんなのこはポルっていうのよー」

「「おねーさんは??」」


 まるでデュエットを歌うかの様に交互に話す双子、トルとポル。小さな体で跳び跳ねる二人は妖精の様だと頭の隅で思った。実際に見たことは無いが。


「私はアリア。ギルドに加入申請をしに来たの」

「アリアーいい名前ー!」

「いい名前ねーすてきねー!」

「あ、ありがとう……」


 純粋に誉められる、という事は本当に久しぶりで少しくすぐったい。双子はにぱっと私に明るい笑顔を向けてからミネルヴァに向き直った。


「マスターあのねー」

「お客さんがいるのよー」

「ギルドの前にいたのー」

「呼んでもいいー?」

「あら、またお客様が。じゃあここにご案内してくれる? 二人共」

「「わかったー!」」


 刹那。双子の表情がほわほわした柔らかいものから悪戯っ子の"それ"へと変貌する。二人は「いくよ、ポル」「いいよ、トル」と顔を合わせてにやりと笑った。


「「せーの……《妖精魔法(ピクシーマジック)、トランスファっ!》」」

「―――――ひぇあぁっ!?」


 そう呪文を唱えながら双子がハイタッチをすると、ぽんっという音と共に星が弾け飛び……突然少女が悲鳴を上げながら現れた。前髪を青い六亡星の飾りが付いたピンで分けた浅葱色の髪の少女。突然の事に理解が追い付かないらしい彼女はオロオロと周囲を見渡す。(挙動不審な動きと共に自身の口から「うえぇ……!? ふぇっ!?」と驚きの声が漏れ続けている事にはどうやら気が付いていない様だ。)

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