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虹の彼方に響く歌 ~とある魔法少女達のモノガタリ~  作者: 漆篠
闇から這い上がる少女
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柑子色の前奏曲(プレリュード) 2

 この世界では人口の約20分の1が魔法の力――――魔力を持っているといわれている。魔力を持たぬ人間は自分の力でどうにもならない仕事を魔法ギルドに依頼し、魔導士達はギルドに所属して自身の持つ魔力を活かし仕事をこなす。『Sun&Moon』は魔法ギルドの中でも最も信頼が厚く有名で人気なギルドだ。そんなギルドに………果たして私が受け入れて貰えるのだろうか。こんな……私が。



(…………何を今更不安になっているのだろう)



 もうギルドは目の前だというのに。




 ………………目の、前?



(………いつの間に)



 気が付くと、もうそこは大きな大きな建物の門前だった。門に取り付けられたこれまた大きな看板には『Sun&Moon』の文字。世界中の魔導士達が憧れていると言われるギルドの名が書かれてある。


「………」


 新聞や雑誌で見るより遥かに大きく感じ、私は圧倒された。こんなに大きくて目立って、他のギルドに狙われたりしないんだろうか。一瞬そんなことが頭を過ぎったが考えてみれば世界一有名で強大な力を持つこのギルドを襲う輩なんてそうそういないだろう。いたとしたらそれはただの馬鹿だ。


 ここで止まっていても仕方がない。それはわかっているのだが、こんなに大きな建物に足を踏み入れた事の無い私はなかなか一歩を踏み出すことができずにいた。だからといって帰ることも出来ない。所属しているギルドから逃げ出して来たのだ。あのギルドの規則でこれは逃亡罪に当たる。帰れば良くて半殺し、最悪粉塵にされることになるだろう。というかそもそも帰る気は無い。帰りたくない。私は息を飲み、門を潜って建物の扉に手を掛けた。


「…………っ」


 しかし少し手が震え、なかなか開ける事が出来ない。











『アネキっ!』











 ふと、懐かしい少年のまばゆいほど無邪気な笑顔が思い浮かんだ。




 そうだ、私は…………。私はあの闇から這い上がる為に、この扉を開くんだ。

 私は胸元に下げた『思い出』を服の上からギュッと握り、押す力を込め――――――。








 ガサッ




「っ!!」


 ――――――ようとした時近くの草むらから物音がした。咄嗟に身構える。が、そこには誰もいないようだった。



(………警戒し過ぎ、か)



 そろそろ『あの男』でも現れそうだが……それにしても気を張り過ぎかもしれない。私は溜め息を一つ吐き、今度こそ扉を開けた。









(………………うるさい)



 それが『Sun&Moon』に対する第一印象だった。なんかこう……もっと無いのか。…………無いな。

 流石世界一有名なギルド、といったところか。たくさんの人が思い思いに騒いでいる。



(そういえばここは酒場も経営していてギルドメンバー以外も自由に出入りできるんだったっけ)



 ずっと犯罪ギルドに所属していた身としては正直異質な光景にしか見えないが…………きっとこれが本来のギルドの姿なのだろう。私は恐る恐るギルドに足を踏み入れる。端から見たらただの変質者だろう。自覚はしていたが緊張しているのかなかなか堂々と歩く事が出来ない。


「――――――お客様かしら? お好きな席へどうぞー!」

「っ!!? あっ……どうも」


 突然ウェイトレス姿の女性に話し掛けられ、驚きのあまり思わず少し飛び上がってしまう私。先程も言ったがこのギルドは酒場も経営している。恐らく私も客の一人だと思われたのだろう。心臓がバクバクと胸を叩く。ビックリした………。



(………というか、私未成年なんだけど)



 と一瞬思ったが、そういえばこの街では15歳から飲酒が可能なのであった。治安が良く飲酒による若者の犯罪が少ないのだろう。それに周りを見ると酒は飲まず食事をしているだけの者も多い。私と年の近そうな女の子の集団がケーキを頬張っているのを視界の端に捉え、一人そう納得した。






 それにしてもここのギルドマスターは何処だろう。ギルドに加入申請を出したい私はそれらしき案内が無いか探してみるが、全く見当たらない。

 ギルドに入る為にはギルドマスターに直接申請するのが一般的だ。例え人数が多くとも、ギルドマスターはギルドメンバーを全て把握しなければならないと法律で決まっているからだ。

 ……………そうだ、さっきのウェイトレスに聞いてみよう。


「あの、すみません」

「はい! ご注文でしょうか?」

「いえそうじゃなくて……ギルドマスターはいらっしゃいますでしょうか」

「………あ、加入希望の方でしたか。失礼しました! マスターは……っと」


 そう言うとキョロキョロと辺りを見回すウェイトレス。釣られて私も周りを見る。




 ふと、カウンター席に座る一人の女性が目に入った。頬杖をつき面白いものを見つけた子供のような目で私を見ている茶髪の美しい女性。その人と目が合う。女性はエメラルド色の双眼を少し細めてカウンターに置いてあったグラスに口を付けた。


「あ! いたいた。あちらの方がうちのギルドのマスターです!」


 ウェイトレスの声にハッとなり、女性に一瞬見惚れていた事に気が付く。慌てて彼女の指し示す方を見るとそこには先の女性が座っていた。

 『Sun&Moon』のギルドマスターはとても美しい女性魔導士だというのは有名な話だ。彼女目当てに酒場に通う者も少なくないとか。確かに美しい女性だ。纏う空気が周りとは違う。そしてとても高い魔力を感じる。




 私はウェイトレスに礼を言い女性―――マスター・ミネルヴァへと歩を進めた。



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