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あの日の夜の記憶

「八つ目の不思議?」


 それは真由美達と学校の帰り道を歩いていた時、この学校の七不思議について話していた事がきっかけだった。

 どこにでもあるような荒唐無稽で根も葉もないような話。そんなものが私の通う小学校にもあった。

 今になって思えばくだらないと一蹴出来るものばかりだったが、当時の私達にとってはそれでも刺激的で怖くて、それでいてそそられるものがあった。

 誰々ちゃんが実際に見た、だなんて友達がまことしやかに言っていたが、それも思えば怪しいものだ。しかしその七不思議の話をしている時に、誰かがこう言ったのだ。


“八つ目の不思議があるらしいよ”


 七不思議については私も聞いた事があったが、八つ目の不思議があるだなんて話を聞いたのはその時が初めてだった。

 なんでも七不思議全てを自分の目で確かめると、八つ目の不思議が現れるという事だった。だがそれには条件があり、夜の十時以降に一人で夜の校舎を訪れ、七不思議を巡らなければならない、というものだった。

 それを聞いて私達はそんなのできっこないじゃんと非難した。小学生にとって夜の十時だなんてまず外に出てはいけない時間で、ましてや夜の学校だなんてそれだけでも不気味極まりない恐怖そのものでしかなかった。


「でもね」


 八つ目の不思議を持ち出したその女の子は、得意気な顔をして見せた。


「八つ目の不思議はね――」








 私は学校の暗い廊下を歩いていた。

 大人になって多少は平気かと思っていたが、やはり夜の学校というのはなかなかに怖いものだ。


 八つ目の不思議。

 あの日、私がここを訪れた理由。


“八つ目の不思議は、出会うと願いが叶うの”


 私はその話を思い出し、嘘をついて家を抜け出し、夜の学校へと向かった。

 願いが叶う。

 願う事は一つ。


 宮下先生。


 私は、先生が戻ってくる事を願いに決めた。

 夜の暗闇は怖くて仕方がなかった。学校に踏み入った瞬間、来るんじゃなかったと心底後悔するほどに恐ろしいものだった。

 でも、駄目だ。頑張らなきゃ。


“みんな、頑張れ”


 私は自分を奮い立たせた。

 でもまさかあんな事が起きるだなんて、微塵も想像していなかった。



 がらららら。



 奥の方から聞こえた扉の音と、誰かの人影。

 その人影は、ゆっくりと私の方へと近づいてきた。


 怯えながらも廊下を歩いていた私の先に、宮下先生がいた。


 死んだはずの先生が、当たり前のようにそこにいた。

 驚いたなんてものじゃなかった。心臓がとまるかと思った。

 近付いてくる先生は間違いなく先生だった。

 なんだ、願うまでもなかった。先生は、いるじゃないか。

 そう思って嬉しさが込み上げ笑顔になりかけた瞬間、先生はこう言った。


「君、こんな時間にどうしたの?」


 笑顔は一瞬で引っ込んだ。


 ――キミ?


 先生は、私の事を君と呼んだ。それはあり得ない事だった。

 先生は必ず生徒の事を下の名前で呼んだ。私の事を先生はいつも、千恵とちゃんと名前で呼んでくれた。


 目の前にいる先生の顔は間違いなく先生で、優しい声は紛れもなく先生の声だった。

 でも、違う。

 本当に先生なら、君だなんて呼び方は絶対にしない。


 私は、とてつもなく悲しくなった。

 今目の前にいる先生の中に、私の記憶は全く残っていない。


「何をしに来たんだい?」


 複雑な思いに振り回されながらも、私は八つ目の不思議を探しに来た事を告げた。先生は手伝ってくれると言ってくれた。そういう優しさは、とても先生らしかった。

 

 その時私は、やっぱりちゃんと願わなくちゃと思った。

 そして先生と七不思議を巡った。結局何一つ七不思議にある内容は実際に起きなかった。しかし、現れると言われた八つ目の不思議。それはまさしく先生の事じゃないかと、私は思った。

 だから私は、先生に願ったのだ。


「戻ってきてくださいね」


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