真意の行方
何とも変な事に巻き込まれたものだと思いながらも、僕は少女に付き添い、いや、少女を引き連れて七不思議巡りを行った。
当然といえば当然なのだが、どの不思議も実際立ち会うと何も起こらなかった。
そういうものだ。本当にそんな怪奇が起これば大騒ぎものだろう。
というか、僕の横にいる少女こそ一番の不思議なのだが。
「さてと、これで全て回ったわけだけど」
七不思議巡りを終えた僕らは下駄箱の前で立ち尽くしていた。ひょっとしたら七不思議自体は何も起きなくても、巡り終えた後に現れる八つ目の不思議は本当の怪異として何か起きるのではないか、と少し思っていたのだが、今の所何も起きていない。
「これで、良かったのかい?」
僕は少女に改めて尋ねる。
少女の瞳が僕を見つめる。なぜだか悲しそうな目をしている。
という事は、やはり失敗だったのだろうか。そう思っていたのだが、少女はうんと首を縦に振った。
「八つ目の不思議は、何だったんだい?」
結局僕には分からなかった答え。
改めて聞いてみたが、やはり少女は答えてくれなかった。
「そっか。秘密ってわけか」
何か事情があるのだろう。幽霊とはいえ、あまり詮索するのも良くはない。
「先生」
いきなり掛けられたその声があまりにもはっきりとしすぎていて、始めそれが少女のものだと自分の中で結びつかなかった。
少し驚いて少女の顔を見たが、その顔は悲しいままだった。
「ありがとう」
何に感謝されたのだろうと思ったが、それが今日の夜の事かと思い声を返そうとしたところに、少女の言葉が続いた。
「戻ってきてくださいね」
「え?」
頭の中に一気に疑問符が散らばった。
戻ってきてくださいとはどういう事だ。
「どういう意味だい?」
全く意味が分からなかった僕は、素直にその疑問を少女に投げかけた。
ところが途端に少女は泣き出してしまった。
悲しみを抑えきれず、堪え切れず、溢れ出した涙が顔を濡らしていた。
「どうして泣いているんだい?」
止めどない涙のせいで、少女は喋る事すらままならない状態になっていた。
僕は混乱した。
少女は何を悲しんで泣いているのか分からない。
少女が何故、八つ目の不思議を求めたのかも分からない。
少女といた夜の時間、おかしくも不思議な時間。
すべては、一体何だったのだろう。
戻ってきてくださいとは、どういう事なのだろう。
「あれ……?」
急に視界がぼやけ始めた。
まるで涙で前が見えなくなるように。
急激に世界がアクセルをかけたかのように、僕の前で何かが起ころうとしている。
「待ってるから」
霞んでいく視界の中で、少女の声が耳の奥で響いた。
僕の意識は、瞬く間に遠くなっていった。