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七不思議巡り

「ふーん、色々あるんだね」

「……はい」


 紙に書かれた内容を夜の光に当てて見ると、そこには箇条書きで少女らしいつたなさと可愛げのある字体で七つの不思議が書き出されていた。

 しかし七不思議と言えばどれも恐怖と呼べるような怪奇ばかりが並んでいるものかと思っていたのだが、中身を見ているとなんだこれと思うようなものも含まれていた。

 

・真夜中にグラウンドの真ん中に立つと、死神に囁かれる。

・二宮金次郎像に「その本を貸して下さい」と囁くと、持っている本に返事が現れる。OKの場合は全ての成績があがるが、NGの場合は成績が下がる。

・深夜音楽室のベートーベンの肖像画の前で指揮を振ると、その良し悪しによって表情が変わる。良ければ笑顔になり何も起きないが、悪い場合は怒りの形相になり音楽の才能を全て奪われる。


 一部だけ見てみても、変わっているなと思った。

 死神なんかは七不思議らしいと思ったが、二宮金次郎やベートーベンといった七不思議の常連組を使いながらもその内容は通常聞くようなものとはまるで異なっている。


「とりあえず、これを全部回ればいいんだね?」

「……はい」


 こうして僕と幽霊少女の七不思議巡りが始まった。

 少女は見た目の穏やかさ通り、静かな子だった。まあ騒がしい幽霊というのも困りものではあるし、それはそれでいいのだが。

 

「一つ聞いていいかい?」

「……はい」

「八つ目の不思議って何なの?」

「……」


 そう言うと何故か少女は顔を伏せ、悲しげな顔を見せた。

 少女の言い方からすれば、七不思議はあくまで前菜でメインはその先にある八つ目の不思議だ。

 少女はその答えを知っているようだが、結局その答えが少女から語られる事はなかった。

 まあいい。


「じゃあ最初は、音楽室から行こうか」


 最初の目的地をベートーベンに決め、僕達は音楽室へと向かった。








「着いたね」


 静かに後ろをついてくる少女と共に音楽室の扉を開けた。

 暗がりにそびえるグランドピアノは普段見る荘厳さとはまた違い、何をしに来たと言わんばかりに、夜の力を借りて異様な威圧感を放っていた。そして部屋の壁に飾られた錚々たる顔ぶれたちもまた、部屋に入った僕達に睨みをきかせていた。

 偉大なる音楽家として崇められ、敬われている彼らも夜の学校では怪奇の一つとして扱われ、恐怖の対象とされている。そんな扱いを考えれば、彼らが僕らを睨むのにも納得がいくというものか。


「彼だね」


 僕らはその中でも一際威圧的な視線を向けてくる存在の前に立った。

 ベートーベン。偉大な作曲家の一人。あまりにも有名な運命のフレーズ。今なおこの世で圧倒的な存在感を示し続ける音楽家。

 こうまじまじと見ると、失礼な物言いだが昔の人物にしてはオシャレだなと思う。

 現代でも通用するような無造作にうねるヘアースタイル、彼を象徴する一つとも言えるこじゃれた赤いスカーフや白いシャツ(?)といった一つ一つのアイテムも洒落ている。


「さて、君の才能を試す時だ」


 少女はゆっくりと頷いた。

 僕は体を少し横にずらし、ベートーベンの正面から外れ、その位置にすっと少女が両足を置いた


 少女はふうと息を吐くと、両腕を構えた。そしてふわりとその手が弧を描き始めた。

 僕は少々驚いた。指揮棒はその手に握られていないし、やはり幼い女の子の頼りなさもあるが、なかなか様になっている。ひょっとするとこの為に練習でもしていたのではないかと思う程だ。

 しばらく振り続けられた少女の両腕は、やがて指揮を終え静かに降ろされた。

 

「さて、先生の評価はどうかな」


 僕と少女はベートーベンの顔を見つめた。


「んー」

「……」


 無表情。

 笑顔でもないが、怒っているわけではなさそうだ。

 まあ、当然の結果といえば結果か。

 

「先生は結構良かったと思ったんだけどな。やっぱり偉大なる音楽家は厳しいね」

「……」


 少女は特に残念がる様子もなかった。

 こんな感じでいいのだろうか。

 七不思議の体験というか、ただ七不思議を巡っているだけなのだが、これで果たして少女の求める八つ目の不思議に出会えるのだろうか。


「まあ、音楽の才能はおそらく無事だろうし、次、行こうか」


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