第五話 師匠との出会い
二週間お待たせして申し訳ございませんでした!中間テストという地獄があったんです・・・留年したくない・・・。
前回のあらすじ:王女は国(首都)へ帰った。
・・・そうして、一年と少しが経った。
俺は四歳になり、家の書庫にある魔導書の上級編まで読み終えて、全て無詠唱で使えるようにした。もはや、あの時のように人さらいにあっても無事に撃退できそうだとは思うが・・・・念には念を入れてひたすらに魔法を使いまくって魔力量を増やすようにしている。・・・もっとも、上級魔法をバカスカ撃ちまくっても地形が変動するくらいやばいことになるので飛行で重いものを持ち上げたり、森にいる魔物に魔法を撃ちまくったりしていた。
もちろん、それだけではない。新しい魔法を発明した。魔法と魔法を組み合わせる合成魔法はもちろんのこと、現代の知識を用いてちょっとしたこともした。・・・・そのちょっとしたことですごい量の魔力を消費し、スタミナ切れになったりした。・・・あ、別に放射能とか原子力とかそっち系には手を出してないよ?制御しきれなかった時の反動が怖すぎる。
そして、一年は立つが世の中の情勢はまだまだ安定していない。国が崩壊するほどではないが、激しい権力争いが行われているらしい。第二王女はいい隠れ家が見つかったのか話には出てこない。そして、それと同時に第三王女――ローズの情報が全く入ってこなかった。生死すら不明だが、便りなきは元気な知らせとも言うので、生存を信じている。
だが、エレナとガランドは何かを知っている気がする。ローズのことを聞いても、「まあ、心配スンナ」と言われるだけだからな。
それ以外は特に変わりなく、今思えばあっという間と言えるくらい時間が過ぎた。もっとも、それは暇だからではなく、やるべきことがたくさんあるからだ。・・・・決して友達がいないわけでは・・・・・・・・・ないんだからな。
まあ、とにかく。そう、ローズがいなくなってから一年と少し経ったときのことだ。運命がノックしたのは。
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それは俺がエレナと朝食を摂っていた時だ。
コンコン
普通にドアはノックされた。
「誰かしら?は~い」
それにエレナは反応してドアに近づく。その時、無意識のうちに使った『気配感知』によってドアの向こうの相手が隠密で姿を隠しているのか、『隠密』を使っているのが分かった。脳内に継承が鳴り響く。
だが、それを警告する前にエレナはドアを開ける。そして、膨大な魔法の反応が出た。だが、それ先んじて防御魔法『反射障壁』をかけることに成功していた。
そして、完全にドアが開いた瞬間、『炎球』の魔法が打ち込まれ、『反射障壁』が吸収する。そして、倍の威力となって大きくなった『炎球』が術者へと飛んでいく。
「・・・!?」
息を飲むような気配とともに、術者の前に魔法陣が展開され、何かの魔法――俺の見たことのないものだ――が発動し、反射された『炎球』は消え去った。
だが、相手の怯んでいる隙に俺はエレナの前に出て、襲撃を掛けたローブのに向けて魔法を放つべく、魔力を練り上げる。すると、その気配を察知したのか相手は・・・・手に何かをもって振り始めた。あれは・・・・・・女性用下着・・・?しかも純白である。白旗のつもりなのだろうか?
とりあえず、俺は警戒心はそのまま誰何を問うことにした。
「・・・で、どなたですか?」
「そ、その前にキミはケインジス・ラーデンスくんかな!?」
こっちが質問しているというに・・・・。しかし、フードの下から聞こえたのは子供のような声だった。・・・ま、まさか、俺と同じ境遇の人だろうか?だって、普通に考えて、子供があんな風な魔法を放てるはずがないだろ。ましてや人に向かってだなんて・・・俺には無理だ。
「・・・ええ、そうですが?」
100%怪しんでます的な目で相手を見る。だが、相手はその気配には反応を示さず、普通に返事をした。
「そっかそっか。それはよかった。あ、ボクはレイ・スーランって言うんだ。よろしくね」
「レイ・スーラン!?そんなわけありません!」
「・・・母上?」
だが、レイ・スーランと名乗った瞬間、我が母は突然相手を追求し始めた。・・・・なんで?
「ムッ!失礼しちゃうね!この通り身分証だってあるのさ!」
そう言ってローブを着た子供は懐からなにやらカードのようなものを取り出してこちらに見せて、胸を張った。もちろん、そのローブの下からメロンが浮き出たりはしない。航空力学的にも徹底的に洗練された独特なシルエットである。
そのカードは一年ほど前に見た、魔法ギルドのメンバーカードで、名前の欄に「レイ・スーラン」と書いてあり、写真欄には14,5歳ほどの少女が満面の笑みでダブルピースをしていた。
「・・・あの、フードをとらないと顔を確認できないんですが?」
「おっと、ボクとしたことがやっちゃった!」
軽くこぶしを握りコツっと自身の頭に当ててレイ・スーランなる人物は言った。・・・なんかイラっとした。思わず、上級闇魔法をブッ飛ばしそうになったが、その前にレイ・スーランは慌てだしたのでそれで溜飲を下げた。
「わわわ!!ちょっと待って!!フード脱ぐから!!待って待って!!!」
そう言って割と必死にフードを取った彼女を見て、写真と同じであることをよく確認してから、無詠唱で、中級水魔法の『破幻』を使用した。
「わぷっ!?」
『破幻』は、幻術系の魔法を破るための魔法であり、主に、幻術で顔を変えていたりしていないかを確認するときに使う。要は別人の身分証を持ってきて、幻術でごまかそうと考えてる連中をあぶりだすための魔法である。ただ、この魔法は水魔法であるため、顔に向かって水球が飛んでいきそれによって幻術が破られるという仕組みである。ちなみに、他属性の場合は光魔法があるがこっちは結構眩しい光がでるだけなのでフォーマルな場なんかではこちらが使われることが多いと魔導書には書いてあった。ちなみに、俺が水属性の方をあえて使った理由は、うっぷん晴らしである。母親を狙われたのだ。このくらいしても罰は当たるまい。
ちなみに、この時、レイ・スーランの顔は水でびしょ濡れになり、ローブも水を浴びて肌に張り付いていた。・・・エロスの欠片もないお子様ボディであった。
まあ、そんなことはさておき、もう一度写真の顔と見比べてみると・・・ふむ、同じに見える。これでまだ幻術をはっつけている――俺の『破幻』を抵抗されている――ならもう打つ手は存在しないが。
「どうやら、本物みたいですね」
「・・・・四歳の割には冷静過ぎない・・?」
本物であることを確認すると、彼女からジト目で抗議されたがスルーする。
「よく言われます。さて、母上。この方、知り合いなのですか?」
「え?ケイン、あなた知らないの?」
「・・・・?あれ、あったことありましたっけ?」
エレナからきょとんとされた顔でそんなこと言われ、俺は頭を捻って考えた。(こっちに)生まれてこの方、こんなボクっ子見たことないな・・・ってか、こんな状況じゃなきゃボクっ子きたー!!とか喜んでるのに・・とか考えていると拗ねた声でレイ・スーランは言った。
「・・・ボク、有名人だと思ってたんだけどね」
そんな風に哀愁漂う風な姿で言われても覚えていないものは覚えていない。・・・ン?有名人?ふと、メンバーカードを確認してみる。すると、そこにはランクSと書かれていて、なんと職業は、王宮魔法使いだった。魔法使いたちのあこがれの職である。
「ん~、じゃあ、改めましてボクは王宮魔法使いのレイ・スーラン。『竜殺し』とか『燃える乙女』なんて呼ばれてるけど本当に知らないかな?」
それが、俺と師匠の出会いだった。
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「すまん、遅くなった!」
レイ・スーラン訪問からしばらくして、我が家の大黒柱であるガランドが急いで帰宅した。どうやら畑仕事を手伝ってたらしく泥まみれである。正直、客の前に出る姿ではない。
「父上、少しお待ちを。『洗浄』」
初級水魔法、『洗浄』。効果は単純、体を洗い清めるのだ。もちろん洗濯にも使えるが、普通の洗濯に比べて汚れは落ちやすいがその分、服の繊維が痛みやすいのであんまり日常使用はおすすめしない。とはいえ、さすがに今回は例外だろう。
「うおっ・・・便利だな、こりゃ。どうしていつもは使わないんだ?」
「それはあとで説明します。とりあえず、お客様がお待ちです」
そう言ってガランドを急かして居間へと入り込んだ。
そして、応接セットのソファで、エレナの隣にガランドは座り、俺はエレナの膝の上に座った。我が母上の膝の上は至高の座り心地である。
「まあ、今日は非公式だからいいけれど次からはお客さんを待たせちゃダメだよ、ガランド」
「馬鹿言え。公式なら何日も前に訪問の連絡が送られてくるだろうが。それとそもそも俺は中央なんかに行く気はねえから、その忠告は要らねえ」
目を合わすなりそう言葉を交わすガランドとレイに、俺とエレナは目を丸くした。
「父上、知り合いですか?」
「おうよ。王女護衛の時の護衛責任者がこいつだったんだよ」
「はあ・・・護衛責任者ですか?」
ガランドの言葉を聞いてから俺もレイの方を見るが・・・どう見ても子供である。まあ、確かに?十二三才くらいの外見だから+三歳くらいまでは許容しても三年前は十二三才くらいである。どう考えても護衛責任者という立場をあずかれる年齢には思えないんだが。・・・もしかしなくても、この人は俺みたいなパチモンではなく、本物の天才というやつなんだろう。
「・・・で、そんな話は置いといて一体どうしたんだ?ただ、茶を飲みにこんなとこまで来たわけじゃないだろ?」
こんなところって、おい。
「アハハ、分かっちゃう?」
「そりゃな。王宮魔法使いは暇な時がないほど忙しいからな。休日にやることはじっくり休むか研究か、弟子のスカウトか、相場は決まってる」
「いやいや、さすがに数日に一回は休日はあるからね?仕事中は確かに忙しいけれども、休日は結構暇だからね?」
「いや、そんなのはどうでもいいわ。それで、何の用だ?」
話が脱線しそうだったところをガランドは本題に戻すと、レイはにっこりと笑った。
「ああ、簡単な話。弟子をとりに来たの」
「ん?仮にも王宮魔法使いのお前が注目するくらい有名な凄腕魔法使いがここらにいたか?」
首を捻ってそう言うガランドと引き換え、エレナは察したようで「まさか・・・」と呟いた。レイはガランドに若干呆れたような目を送って告げた。
「居るじゃん、あなたの前に。これ以上ない才能の塊が」
そして、俺ににっこりと笑いかけた。
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当然ガランドは難色をしめした。だが、その理由は貴族のよくある理由の、長男をなんだかんだ・・・・・・・・・・・ってわけではなく、四歳の息子を手放したくなかったからだ。普通にありがたい話である。ちなみに、普通は前者だろうと聞いたところ
「俺は別に中央にいるのと同じわけじゃないからな。家の利益なんかより、息子の願いを優先してやるのがいいんだよ」
という嬉しい言葉を貰った。だからこそ、
「で、お前はどうしたいんだ?こいつに付いて行くのか?行かないのか?」
と聞いてきた。なるほど、自由意思を尊重するつもりなのだろう。
そして俺は考えた。その時に脳に浮かんだのは一年ちょっと前の記憶。人攫いに攫われた時のことだ。あの時、俺に力があれば魔法使いの男を殺さずとも制圧でき、そもそも誘拐されることもなかっただろうと。
だったら、どうするかなんて決まってる。
「行きます。行って己を鍛えます」
真っ直ぐにガランドの目を見てそう告げる。それを聞いたガランドは苦々しい顔をして
「なら、仕方ねぇな」
とだけ言った。そして、レイの方を見て頭を下げる。
「レイ。お前みたいなやつに息子を任せるのはどうかと思うが、腕だけは一流だ。だからこそ、頼む。コイツに魔法を教えてやってくれ。絶対にてきとうな仕事をするんじゃねえぞ。その時は、お前のとこに殴り込みに行くからな」
「何言ってんの。ボクは魔法に関しては妥協しない主義だからね。当然、ボクと同じ超一流の魔法使いにして見せるさ。…というか、お前みたいなって何さ」
そう言ってむくれるレイを横目に、俺はガランドを見る。すると、彼はニヤッとした。
「なに、心配すんな。長男がいなけりゃ次男に継がせるのも手だし、継ぎたくねえなら継がなくてもいい。娘がいるならそいつの婿に継がせたっていい。もっとも、その男がいいやつであることは絶対条件だがな!」
・・・まだ娘も生まれてないのに親馬鹿・・・?なんて器用な真似を・・・。そんな失礼なことを考えながら、俺は最近、この家に響く異音のことを考えていた。・・・ちなみに、その異音はギシギシ・・・ミシミシ・・・という・・・まあ、なんだ。夫婦の営みというやつだ。なるほど、こやつはもう少しで子供もできるから心配するなといってるのか・・・。少し見直して損した気分である。
まあ、そんないろいろなことがあり、レイが来て三日後出発と相成った。
三日後。森の入り口にはたくさんの村人が集まっていた。みんな俺を見送りに来てくれた人々である。そんな皆に一人一人お別れを言っていくとかなりの時間をかけること受けあいなので俺は、大声で皆にお礼を言ってから、レイと・・・いや、師匠と森へ入って行った。
ちなみに、俺らは今『魔法の荷馬車』という馬がいないのに動いている馬車を連れている。・・・早い話が自動車のようなものだが、形は普通の馬車と一緒であるし、スピードはそこまで出ない。とはいえ、馬を休ませる必要がないというのはメリットだろう。まあ、この世界には自動車がないので自動車に比べて遅くても気にすることはないのだろうが。・・・しかし、この馬車には自動車より優れている点が一つある。それは・・・・・車輪がなく宙に浮いてるため悪路だろうとなんだろうと関係ないことだろう。極端だな、異世界。ちなみに、なぜ宙に浮かしたのかと質問を師匠に投げかけたところ
「・・・仕方ないじゃん。空中浮かせた方が便利だと思ったんだもん」
と、帰ってきた。
「え?師匠が作ったんですか?」
「ボクがアイデアで友人が制作・・・・かな?アイデア料として無料でもらったけど、本体は高いんだよ?」
「ん?あれ、ていうかこれあるならなんで僕たちは歩いているんですか?」
「これ、生物は乗れないんだよね」
馬車なのに人が乗れないとはこれは如何に?とんだ欠陥品じゃねえか。
ちなみに、師匠が言うには、これは魔道具と呼ばれる、魔力をエネルギー源として動かせる道具の一種であるため、人が何人か乗るために必要なエネルギーが莫大すぎて普通は荷物を載せるのだとか。あと、さらに消費魔力を節約するために、魔法袋と呼ばれる、いわゆるゲームのバックみたいな見た目とは裏腹にかなりの量のにアイテムが入る袋の魔道具の理論を利用した馬車であるため、馬車の中は時間が止まっており、かつ、生物が入れば酸素もなく死ぬらしい。・・・なにそれこわい。
「え、じゃあもしかして歩き!?」
最悪の結論にたどりついた俺がそう叫ぶと師匠に笑われた。
「この森を抜けたところにある村に馬を一頭預けてあるから、森の中だけ歩きだね」
「え?うま・・・?」
やばい、俺は馬に乗ったことがないんだ。そんな俺の内心を見透かしたかのように師匠は笑っていった。
「まあまあ、馬に乗るのは得意だから、泥船に乗った気でいなよ」
「沈むじゃん!?」
まあ、さすがに師匠の発言は場を和ますためのジョークだったのだろうと捉え(ジョークだよな?)、俺はふと思った。・・・乗馬とかバイクとかで二人乗りとかって大抵、男が前に乗って女の子に抱き付かれてドキドキしたり、逆に女の子の後ろに乗って、発進した瞬間慌てて女の子に抱き付き胸をモミモミしたりできるアレなイベントだけと思うのだが・・・
チラリと師匠の航空力学的に徹底的に洗練された独特なシルエットを誇る大峡谷・・・もとい、谷すらない平野を眺め、貧乳、という言葉が脳裏が過るとともに、師匠から『炎球』を投げつけられた。俺は、それを『水球』で相殺しつつ、ジトーッと師匠を睨む。
「師匠、いきなり危ないじゃないですか?」
「いや、君がなにか失礼なことを考えているんじゃないかと思ってね」
・・・鋭い。だが、逆にこの鋭さこそが師匠の貧乳っぽさを――
「炎神よ、焼き払え『炎球』・・・・とぉ!!」
「あぶなっ!?」
師匠が詠唱を短縮して飛ばしてきた『炎球』また『水球』で相殺しもう一度師匠をジト目で睨む。
「また失礼なこと考えてたね?」
「そんなわけないですよってか、そんな理由で弟子を焼殺しようとしないでください」
「む~、気のせいかな~?」
そう言って追求をやめた師匠に俺は安堵の息を漏らす。まあ、道中そんな感じに馬鹿話をしていると師匠が急に話し始めた。
「そうそう、ケイン」
「はい?なんですか?」
「ほら、ここにヌシって呼ばれるモンスターがいるでしょ?」
「あ~、まあいますね」
師匠の問いに俺は苦々しい思い出の残るモンスターの姿を思い出す。正直、あの頃より強くなった今でも戦いたくない気持ちは変わらない。だが、そのモンスターがいったいどうしたのだろうか・・?
「それ狩りに行こう」
「んーあー・・・・・・いやいやいやいや!!」
「えー、ケチー」
さらっと出てきたとんでもない言葉に俺は全身で拒否を示すと師匠は口を尖らせて拗ねる師匠。だが、この三日、師匠を見て来た俺は大体この馬鹿・・・・もとい師匠の性格を見抜いていた。よく言えば好奇心旺盛、悪く言えば子供のように無鉄砲。下手したら一人で突撃するかもしれないし、場合によってはそれで死んであっさりと俺の魔法の師匠が死ぬ羽目になる。そして、下手すれば俺の強くなるという目標が叶わず巡り巡ってダメ人間に・・・ああ、恐ろしい恐ろしい。
だが、この師匠は簡単には止まらない。・・・よし、こうなれば
「そんなことをしたら師匠、ここらの生態系が崩れて下手したら村の方へ魔物が殺到することになりますって!!!」
作戦だ。名づけて、人に迷惑かかっちゃうよそれでもいい?作戦。結構黒いが致し方あるまい。なにより、本当に起こりうるかもしれないのだから。
「え~、そうかな」
「そうですって、ほら行きますよ!!」
・・・四歳の子供に背中押される中学生くらいの女子。・・・どっちが大人なんだか・・・。まあ、精神年齢的には俺の方が上であることは間違いないのだが。
はあ、と俺は疲労のにじむため息をついた。