第三話 ローズとの『お遊び』
お待たせしました最新話です
前回のあらすじ:姫様を家に連れてきたらお父さんがおじさまとよばれました。
魔物。それは大気中にあふれる魔法の元である魔力を、生物が過剰に摂取した結果生まれる生物である。いわゆる、突然変異体とも言えるかもしれない。一応、魔物の中でも同じ生物が元となった魔物同士なら子ももうけられるがその子供もまた魔物である。
一般に魔物は気性が荒く、凶暴で肉を好むのだが、中には好戦的ではない個体も存在するらしいが、ほとんどが例外なく自然のバランスを崩したり、もしくは人間を襲って食すので、冒険者たちや騎士たちが日々討伐にいそしんでいる(というか、冒険者の主な仕事は魔物退治である)。ちなみに、冒険者には年齢制限があり、十三歳以上の者しかなれないのだが。
まあ、要するに。二歳児が討伐するような存在ではないのだ。俺にとっては、ローズを助けるために交戦した以前から戦っているから今更感もあるのだが。ちなみに、これも怒られた要因である。
しかし、俺はエレナにしっかり怒られたあとにガランドたちと魔物を狩りに来ていた。
なぜ彼が俺を連れてきたかについては二つ理由があるらしい。まず、一つは狩りは危ないんだゾと俺に諭すことなのだとか。二つ目はそれなりに危なくなってもエレナとガランドがいればちゃんと切り抜けられるからだとか。まあ、つまりは俺は戦力として期待されてるわけではない。
ちなみにローズは執事と二人でお留守番である。
さて、まあ、そんな感じで俺は『飛行』を気づかれない程度で進んでいた。ちなみに、ガランドは前衛、エレナは後衛で俺の隣である。だが、正直、エレナは必要なのかなと俺は首をひねっていた。そう、なぜなら・・・
「食らえ、『ロ-リングスマッシュ』!!!」
「爆ぜろ、『エクスプロージョナルソード』!!!」
「『ブラインドアタック』・・・お前は既に、死んだ」
・・・ガランドがあほ強いからである。出てきた魔物をバッタバッタと一撃でなぎ倒し、瞬時にアイテムパックに仕舞っていくのだから。本を見たとこによると、アイテムパックは迷宮とかいうところのレアドロップ品らしくて、持ってるやつは相当な金持ちか、かなり強い冒険者であるのだとか。見た目・・・というか、外見はただの腕輪なのに、その腕輪でポチポチと何かを操作すると虚空に穴が開き、そこが倉庫になるとか。まじふぁんたじー。・・・パックってなにさとは言わない。
ちなみに、容量は使用者の内包魔力量に依存するらしい。詳しくはいつか言うが、この内包魔力は高位の魔法使いであればあるほど多いらしく、生粋の剣士であるガランドは内包魔力量に自信はないらしいが、家一軒は余裕で入るらしい。ちなみに本には、普通の戦士系の人々は倉庫一個分の内包量があれば十分立派らしい。何者なんだ、俺の父親は。
ちなみに、エレナも同じものを持ち合わせており(同じ迷宮で手に入れたらしい)、しかも彼女は昔高位な魔法使いとして名を馳せたらしく、内包量は家五軒くらいは入るのだとか。・・・四人パーティー、いや、六人パーティーでもそうそうくいっぱぐれることのない量の食料を詰めれそうだな。ただ、彼女の言によると、冒険者時代はこれでも容量パンパンまで詰め込んだ時もあったらしい。・・・どれだけ名を馳せていたのか限りなく気になる話であります。
そんなことを考えていた時に俺の『気配感知』に魔物反応が引っかかったのでそれをエレナたちに言った。
「父上、母上、大きい魔物がこちらに来ています」
「えっ?」
俺の気配感知ギリギリの位置(あまり今回は広めな感知はやっていない)で引っかかった魔物は、昨日見たウルフよりは魔力量が多かった。この『気配感知』は、相手の魔力量を『気配』として索敵するのでこれで魔物の強さがまあ、ある程度判別できる。ちなみに、魔力量が多いほど強い魔物である。あと、それでもガランドの半分以下の量だったから、ガランドには楽勝だと思った。だが・・・
「!!本当よ、これは・・・ルージュ・ベア!?」
「何!?それは・・・少々きつそうだな」
・・・あれ?二人が厳しい顔で見合わせているゾ?なぜかね?
二人に尋ねると、どうやらルージュ・ベアーとは魔法を多少扱う魔物らしく、魔物ランクは高いのだとか。この魔力ランクというのは冒険者ギルド監修のもと定められているもので大体の魔物の強さが分かるんだとか。
魔法を使う魔物はその内包魔力量に比べてありえないほど高くなると俺は学んだ。
そして、彼のルージュ・ベアーが現れる。後ろ足で立ち上がり全長4.5mの大きい赤毛のくまさん・・・といえば可愛らしくも思えるかもしれないが、その顔は凶悪であるし、そもそも強さがBランクのベテラン冒険者でも手を焼くほどなのだとか。もっとも、Bランクなる者たちの強さが一切わからないので何とも言えないわけだが。
「来たわ!!」
「チッ、仕方ねえ!!」
親父が覚悟を決めたかのように舌打ちをした後、熊は口を大きく開きその口の奥から炎が噴き出す。その瞬間、俺は無意識に、無詠唱で上級無属性魔法の『反射障壁』を使用していた。
この魔法は、相手の魔法を吸収し、その魔法の半分の魔力を支払うことによって威力が倍加した魔法を打ち返すといったカウンター限定の魔法だ。むろん、受けた攻撃すべてをはじき返せるわけでなく、ちゃんと打ち返し用の魔力が自分の身に残っていたらの話である。ない場合は、障壁などなかったかのようにあっさりと攻撃を受けるわけだが・・・今回は・・・。
スゥーッと炎が障壁に吸い込まれた直後、先ほどより威力の増した炎がルージュ・ベアーを焼く。
「ギャオオォォオ!!」
ジュッと肉が焼ける音とともに焼肉のようなにおいが漂う。だが、ルージュ・ベアーの魔力反応は、消えていなかった。つまり、奴は生きてる。ウーという低い声で鳴きながら、俺をにらみつけるルージュ・ベアー。しかし・・・
「命の源流を、煌めけ!!」
次の瞬間、青い光を宿した剣によってあっさりと首を跳ねられた。
「ねえ、ケイン!!さっきのはなに!?」
「母上、落ち着いてください」
戦闘が終わった直後、俺は胸元をエレナに掴まれぶんぶんと前後に首を揺さぶられていた。がくんがくんと首が・・・あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~(危ない意味で)
「エレナ、落ち着け」
「でも、アナタ・・・」
「分かってるだろ?反射障壁が発動して、それが奴の炎を跳ね返して熊はひるんだ。で、俺がそれにとどめを刺した。それだけだ」
「でも・・・」
「でもじゃない。家に帰るぞ。ここはまだ森の中だ。またルージュ・ベアーが出ても俺の今の装備だけでは心もとない」
その言葉にはっとしたエレンは頷いて家に帰ると俺に告げる。俺はなにも邪魔せず、ただうなずいた。
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「お帰りなさいませ、旦那様、奥様、ぼっちゃま・・・どうかなされましたか?」
「悪い。サヴァン、緊急の家族会議だ」
「・・・かしこまりました」
ガランドの言葉の裏を読み取ったのか、サヴァンはすぐに部屋の奥へと引っ込む。どうやら、ローズの様子を見に行ったようだな。しかし・・・よくできた執事である。
「・・・で、ケイン。お前はどれだけ魔法が使える?」
ラウンドテーブルに座ってそうそう、ガランドはそう切り出した。なので、俺は淡々とその質問に答える。
「全属性中級以下はマスターしてます。上級魔法は各属性一つか二つずつです」
俺の言葉にガランドはピクリと眉を反応させる。だが、すぐに質問を、平常通りの声でかけてきた。
「いつ、修練をしていた?」
「ご飯と寝る時以外です」
「どこでだ?」
「森です」
その時、はっきりとわかるほど、ガランドの眉が吊り上がる。
「森だと・・・?あそこがどんなに危険かわかってるのか?」
ガランドの声には怒気が混じっており少し背筋が震える。だが、俺はそれをおくびにも出さずに答えた。
「ええ。森の主と呼ばれる巨大な熊がいるんですよね?」
「何?・・・まさか戦ったのか?」
「二、三回魔法を撃って敵わないと分かったので即座に逃げました」
その時、俺の中には勝てない悔しさより、若さゆえに過ちの苦々しさが残っていた。ガランドも似たような顔をしており、少し気になった。
「まあいい、ケイン。今後森に一人で行くのは禁止する。魔法の修業は禁止しないが、森には入るな。上級魔法の練習をしたいなら、俺らの都合があうときに森でやらせてやる。それでいいな?」
「はい、父上」
俺はガランドの言いつけにコクリと頷いた。
「ならば、いい。さて、エレナ。俺は魔物の皮などを売ってくる」
俺が頷くのをみたガランドはそう言って、家から出ていった。
「ケイン、あなた、さっきの無詠唱だったわよね?」
「・・・はい、母上」
「そう・・・」
ガランドが出て行ったあと、エレナはそう質問して、俺の答えを聞いた後、愁いを含んだ表情で窓の外を見つめた。そして、しばらくして・・・
「駄目ね。才能に嫉妬してしまいそうだわ。さて、ケイン。無詠唱を使える人間は本当に少数よ。かくいう私もその中の一人だけど、せいぜい中級の、光魔法くらいなものよ。それでも十分ちやほやされるけれど、上級魔法の無詠唱の使い手は本当に一握りだけよ。だから、できれば隠しておいた方がいいわね」
「隠す・・・ですか?」
「ええ。上位の貴族ほど、そういった才能の人間を手元に置きたがるものだから。私も、そのようなこともあったけど、その時はガランドや、仲間に守ってもらったわ」
「なるほど、経験則ですか」
「あと、無詠唱でなくても上級魔法より上の魔法は、知っててもあまり出さない方がいいわ。それも狙われる要因だからね」
「物騒ですね」
「皆が皆きれいではないのよ・・・って、私ッたら二歳児に何を言ってるのかしら、フフ・・・」
そういってエレナは肩をすくめた。
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その翌日、昨日のルージュ・ベアーが高く売れたとのことでしばらくは狩りに行かなくても大丈夫だとのことで俺は家にいた。
というか、ローズの世話係に任命された。まあ、要するは遊び相手ということなのだが。
三人の大人たちは食料などの買い出しに行っているらしく二人っきりである。生前?というか以前の俺であれば、二人っきりという言葉に数多のロマンを感じ取っただろうが、今の俺は二歳児で、相手は王女様であらせられる。どう見ても間違いなど起こりそうにないだろ。
そもそも、俺の夜戦用特殊決戦兵器は未だ覚醒の時を迎えていないので本番などしたくてもできないのだが。それは相手にも言えるだろう。
さて、そんなわけで、俺は王女殿下と年相応に遊ぶこととした。
「ねえね、ローズ、あそぼー!」
「さまをつけなさい!おうじょのごぜんよ!!」
・・・どうやら彼女はツンデレさんだったようだ。正統派のツンデレさんなら攻略しないとデレないが、俺は、特にそう言う気になってないのでおそらくこのままだろうなーとふと思った。しっかし、こんな性格だったのか。憧れのおじさまの前では仮面をかぶっていたようだ。
「じゃあ、姫様、魔法やろ~」
「貴方、まほうで私に勝とうとはいいどきょうね!!」
そして、プライドも高いらしい。ツンデレ・・・姫・・・プライド高い・・・うっ頭が。
「見よ!命の源なる水よ、我が前に姿を現したまえ『産水』!!」
水を手のひらから噴出しながらドヤ顔する彼女。もうロリコンで・・・・・・・・おっと、危ない。不覚にも一瞬可愛いと思って魔の道に落ちるところだった。
「わ~、すごいですね~」
思わず棒読みになりながら俺はぱちぱちと手をたたきつつ称賛する。すると・・・
「でしょでしょ!!」
あ、喜んだ。うわ、にっこりと笑ってるのがまた・・・おっと危ない。いや、待て。俺は今二歳児。幼女に惚れてもロリコンでは・・・・いや待て待て。危ないぞ・・・・。
「あ、そういえば、貴方も魔法を使えたはず。私に見せなさいよ!」
「へ?」
ぽかんと俺がしていると、王女はきれいな形の眉を吊り上がらせていった。
「何よ、私のめいれい、聞けないの!?」
「は、はあ・・・わかりました」
怒り心頭といった王女に付き合うような気持になって俺は魔法を使う準備をするふりをする。無詠唱でばっかやってたからな。詠唱忘れたのも多い。え~っと、じゃあ、この前覚えたやつでまだ呪文を覚えているやつを・・・。
「世界を駆け抜ける大いなる風よ、我をかの地へ運びたまえ、『飛行』!!」
ふわっとした浮遊感とともに俺の体は宙に浮く。それを見た王女様は・・・
「おおー!!」
きらきらと目を輝かせながら俺のことを見ていた。・・・なにこのかわいい生き物。
再び魔の道へと引きずられかけたが紳士の誓いを立てている俺は、その誓いを守るためにぐっと耐え抜いた。・・・よし、山場はこしたか。
「・・・この程度、私もすぐにできるようになるんだから!!私にもまほうを教えなさい!!」
そんな風に気が緩んだ時にこの攻撃!?デレか!?くっ・・・あ、もうロリコンでいいや。
鼻息荒くして志を高く持つ王女に俺は屈し、ロリコンの称号を甘んじて受け入れた。
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それから五か月ほど時は流れる。俺とローズ殿下の『お遊び』もずっと続けていた。あの後もいくつかの魔法を彼女に教えていたが、初級魔法でドヤ顔する彼女の保有魔力量は大したものではなかったが、長期間の特訓の末、中級魔法を放ってもある程度は余裕ができるくらいの魔力を身に着けた。いやあ、一生懸命なロリっ子、かわいいよね。
そして、今日。
「やった!やったわケイン!!『炎矢』が撃てたわ!!」
彼女は炎属性中級魔法の超難関、『炎矢』を放てるようになっていた。これ、中級魔法とは言うが、屋外で飛ばすときは当然風も起きる時もあるので、その時に炎が消し飛ばされないようにそれなりの魔力を消費するため、実質の消費量は上級魔法レベルである。
「ああ、おめでとうローズ。上級魔法に挑めそうだね」
そして、俺はそんなローズをほめた。王女相手に上から目線っぽいがこれも彼女に許されたことだ。彼女は俺を先生として親しみ、俺は彼女を生徒として扱う。結構、彼女は生真面目だった。
「え!?上級魔法!?ってことは・・・」
「うん、そうだね。飛行魔法・・・いよいよ覚えられるね」
『飛行』は、その扱いの難しさからそれなりの魔力を消費する。実際は中級に位置づけられているが実質の消費魔力量は上級魔法に並ぶために俺は、彼女が一番覚えたがっていたこの魔法を上級魔法に挑めるまで魔力量を上昇させてからということにしていた。
「やったー!!・・・あ、これは別に・・その・・・ほら、今までの努力が実ったからよ!!」
相変わらずのツンデレさんで俺はほっこりしてます。敬語は使ってくれないが、この方が親しんでる気がしておじさんとってもいい感じである。
だが、その時、俺は嫌な予感がして後ろを振り返る。そこには、黒ローブの男と屈強な男がいた。そして、黒いローブは何やら呪文を唱えつつ、ローズの方へ手のひらを向ける。
その瞬間俺は走って、ローズの前へ飛び出し、背中に熱を感じる。・・・・熱い、熱い熱い熱い熱い!!!
そのあまりの熱さに俺は気を失った。
※一部書き直し、および誤字訂正を行いました。2015.8.25
飛行魔法は高難度魔法ということで『炎矢』と同じ様に上級魔法なみの魔力消費ということにしました。