第一話 誕生
第一話更新。誤字脱字は・・・ないと思います。
「・・・あ・・・」
微睡みから無理矢理引き離されるような感じがして、俺は意識を覚醒した。全身を襲う気怠さに全身が濡れている感覚。何があったか考える間もなく急激に疲労感と眠気が襲って来た。そして、俺は気を失った。・・・ただ、何か、暖かいものに抱かれているような気がした。
そして、しばらくして目を覚ました俺は困惑した。体の自由が・・・・というか、全身上手く動かせない。
・・・なので、仰向けのまま天井にぶら下がる赤ちゃん用のおもちゃを見ていた。
(なんで俺の直上なんだ?俺は赤ん坊じゃないのに・・・。あ、そういえば今日は重大な会議があったんだ!!会社に行かないとクビに・・・!!!)
そう思って体を動かそうとしても起き上がることは愚か、何もすることが出来なかった。というか、さっきから気になっていたが、天井がアレだ。知らない天井と言うやつだ。たしか俺の住んでるアパートの天井はこんな綺麗なものではなかった。ぼろアパートだし。それに赤ちゃん用のおもちゃも下がってなかったし。・・・あれ、ここマジでドコだ?
こうなる前の記憶を脳内でひっくり返してみるか・・・えーと、確か、昨日はいつもより残業が遅くなってふらふらだったが確かに家にたどり着いた筈だ。そして、帰宅早々眠りにつこうとして、今日の重大な会議に遅れぬよう目覚まし十個をセットした筈だ。
と、そこまで考えてようやく俺は、俺の寝ている周りに柵が置かれているのが分かった。・・・もしかして監禁?でも俺には大した身代金はかけれんぞ?そう思った所、ふと思った。寝る布団があって、その周りを柵が囲ってるなんてまるでベビーベッドみたいだなHAHAHA・・・・あれ?これ、マジにそれじゃね?・・・え、ウソ?マジ?・・・。
そんな風に呆然としていると、そのベッドの上から見下ろすように、覗いてくる人物がいた。それは男性だった。
「ふむ、実に元気そうな男の子だな」
金髪で鼻が高く、目も青いという金髪碧眼の超イケメン男は、俺を見て何語かでそう言った。・・・ってか、え?え?アイエエエ!!イケメン!?イケメンナンデ!?
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そして、四ヶ月が過ぎた。庭にあったらしい桜の花は散り今は太陽眩しき夏。なんか学生は夏休みとかあるんだろう季節だが、自分が赤ん坊だとちゃんと認識した今の俺には関係なかった。
あ、そうそう。ついに俺は首が据わったのだ。それで、母親にねだって外に連れ出してもらった。そして、その先で見た魔物とか呼ばれる生物の存在や地球では見たことのない野菜の存在によって、俺はここが俺にとって『異世界』なのだと実感した。
いやまあ、この世界で生まれて異世界って言うのもなんかアレだが。前世の記憶を持っている俺からすればそうなのだ。
ぶっちゃけた話、庭で剣を振っているこの世界の父、ガランドを見たときは、あ・・・こいつ廚二病患者かと冷たい視線を送っていたものだが、その後に、斧の訓練中に負傷したと言う男性を見た時に考えは変わった。
腕に大きい裂傷をした人間が一人運ばれて来たがこの世界の母、エレナはその血を怖がること無くその人に近づき、そして手をかざして呪文を唱えたのだ。
「大いなる光の精霊よ、この者に癒しの力を・・・《治癒》」
へ?と間抜けな顔をして俺は、自分の目を疑った。見る見るうちにその男性の傷は塞がって行きついにはその男は腕を動かせるようにまで成ったのだ。ダラダラと流れていた血は今や、皮膚や服にこびり付いているものだけで流れ出てはいなかった。
「エレナさん、ありがとうございます!!」
そう男性が感謝の言葉を口にした時、俺は現実に復帰しようやく理解したのだった。そう、ラノベとかでよくある異世界転生を己が体験していることに。
「バウアアア(ウソだ)ーーーーーーーーーー!!!???」
俺はそう叫び、両親や怪我人だった男性を驚愕させたのは言うまでもない。
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さて、そんなこんなで異世界転生をやっちゃった俺の家族の紹介をしよう。
まずは、ラーデンス家の大黒柱で家長である父親のガランド・ラーデンスだ。金髪碧眼の細マッチョ系のイケメン。着やせするタイプなので、ぶっちゃけ服着てる時はそこまでマッチョであることは分からない。あと、イケメンは前世での俺の最大の敵だったが、今世ではこの父の血を引いたお陰でかなりのイケメンに生まれたらしい(そうエレナに言われた)。ので、父親にはマジ感謝である。ちなみに、度々自慢してくれるが、昔は相当名を馳せた冒険者だったらしい。今はしがない騎士爵家らしい。俺にとっては親バカだ。
ああ、そうそう。話に出たから説明しておこう。冒険者とはよくラノベとかで見る冒険者と同じように、なんでも屋のようなものだ。魔物の討伐を依頼されればその討伐に赴くし、薬草の採取を頼まれれば森に入って行くというような。もちろん、報酬がなければ動かないが。
俺もガランドに薦められたもんさ。・・・一応なるとは思ってみたが、騎士爵家の長男ならそういう危ないことはするなとか言われないか?まあ、そこらへん緩いのかもしれんが。
次は、母親のエレナ・ラーデンス。こちらも金髪でその瞳は蒼、その長い髪を結ぶことなく風に吹かれるままにしていた。もちろん、目鼻顔立ちは整っており、ガランドと並べばお似合いのイケメンと美女の夫婦だ。この家ではそれとなくガランドを尻に敷いているが、その所作は俺から見て、上品なものでとてもこんな騎士爵家に相応しくないと思うのだが・・・実はこの世界で要求される上品さは彼女の上を行くのだろうか?
ちなみに、彼女も昔は、ガランドと同じパーティーに所属しかなり有名だった《治癒士》だったのだとか。あと、回復魔法を扱える人材はあまりいなく貴重らしい。ガランドの冒険者時代の話でも度々「あの時、エレナが居なかったらどうなってたことか」とか言っている。
そして、血縁上の繋がりはないがこの家の一員のように両親と仲のいい家政婦、バーラさん。すっかり真っ白になった髪を後ろで一本に結び、人好きのする笑顔を浮かべる愛嬌のある・・・御歳65の婆さんで二人の冒険者時代の知り合いらしい。とはいえ、子供も居ない彼女は歳老いて力も衰え一人で生活するのも不安がっていた折りにガランドの誘いに乗って家政婦として雇われたらしい。
・・・最初、家政婦といわれた時は美少女メイドを想像したのは誰にも言えない。・・・おい、そこの、家政婦はメイドとか言うな。確かにそうかもしれんが、この婆さんがメイド服なんて着たら俺は冥土に行っちまう。
そして、最後にラーデンス家長男の俺、ケインジス・ラーデンス。愛称は『ケイン』。今は生後四ヶ月の可愛い赤ん坊だ。どうしてこうなったのかは分からないが生まれ変わった以上、この人生、楽しく生き抜いてやることを決めた。ハーレムとか良さそうだよね。ちなみに、俺が猛烈な眠気を感じたあの時、実は俺は母親から生まれ落ちたのだが、そのとき泣かずにどえらく心配をかけたらしい。まあ、その後に健康体と分かって大変喜ばれたのだとか。
えーと、それで。現住所はタラポッカ村とか言う農村で、俺はそこの領主の息子という肩書きだ。一応、この村が我がラーデンス家の領地らしい。
・・・で、タラポッカ村は清浄な空気と未来を待ちわびる作物の種たちに囲まれた夢溢れる農村だ・・・・・・・・。本音を言えば、田舎の農村。どうせ生まれ変わるなら都会がいいとも思ったが都会だと貴族の覇権争いやら、平民は平民で街行く貴族にへこへこする毎日らしい。そう考えると、案外ここの生活も悪くないものだ。
そして、生後八ヶ月が過ぎる頃俺は這い這い・・・もといハイハイをマスターした。・・・それまでは赤ちゃんの体って上手く出来てないから普通に座るのも困難なのよ。あと、どうでもいいけど、這い這いってかくとなんかホラーな感じがするけどハイハイなら可愛らしい感じしない?
まあ、ハイハイできるようになったスーパー俺は屋敷(といっても、少し広いくらいの一軒家)の中を駆け巡っ・・・た?これでいいのかな、ハイハイだが。そして、階段に苦労して二階へとたどり着き書庫を見つけた時は筆舌しがたい喜びの余り舞い踊りそうになった。・・・まだ、立てないが。
で、その後父親に見つかり階段は危ないと怒られて一階に戻された。・・・まあ、しかられるのは子供の特権だと思い気にしないことにする。
そして翌日、俺は書庫の中に入って驚喜した。・・・ん?エロ本があったから?いやいや、確かに部屋にある本の大半はエロ本だったがソレは関係ない。赤ちゃんだから発情しても意味ないし。ムスコは元気にならないもの。・・・病気じゃないよな?赤ちゃんだからだよな???
さて、では何を見つけたかというとソレは・・・『初心者用魔導書』と書かれた本であった。題名は後々知ったが、挿絵から見て魔法の本だと思って見ると・・・字が読めなかった。俺はショックを受けた。そう、最初にガランドの言葉が分からなかったことを思い出せばすぐにそれを想定できた筈なのに忘れていた。今は、理解してるがね、言葉の意味。読み書きは出来ないが。
・・・と、そのとき、頭の中でピコン!と電球が光るイメージとともに俺は名案を思いついた。そうだ、文字を習おう!と。・・・そこ、名案じゃなくて普通じゃねえかとか言わない。
で、そうと決めれば早速行動と言う時に書庫のドアが開いた。
「もう、ケイン。また勝手に居なくなって。探したのよ?」
母親に捕まり強制撤退を余儀なくされた。だが、俺は母親に抱きかかえられ全身を包むような柔らかい感触を受けて抵抗はしなかった。相変わらずムスコは反応しないが、まあいいだろう。いや、別に性転換してない。俺は男だし何度も風呂に入って自分が男だと確認している。まあ、反応しないのは俺が赤ちゃんだし、そもそも相手が母親だからだろう。そんなことより重要なのは・・・この柔らかい二つの存在だ。デュフフ。
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そして半年ほどが経ち、俺は一歳と成った。俺はこの世界の、或いはこの国の言語たるエテノック語の読み書きをマスターし、再び書庫の前にいた。ちなみに、俺はもう立てる。ムスコの方ではない。
「フフフ、待たせたな、書庫よ!!」
ジョジョという偉人のジョジョ立ち。手のひらを顔の前にかざしてもう一方の手は下に伸ばす。詳しいポーズはジョジョ◯奇妙な冒険第四巻の表紙で確認してほしい。
まあ、そんな格好をしながら書庫の前の扉に俺はいた。これがアニメならゴゴゴゴゴ・・・という擬音が背景から立ち上っている所だろう。
さて、満足したところでドアを開けて中に入るとカビ臭い古書の香りが鼻に吸い込まれる。・・・ふぅむ、これはいい古書のかほり。そんなことを考えつつ目的の書物を探すとすぐに見つかった。
『初心者用魔導書』。そう、こやつが今回の俺の目的だ。ゴクリ、と生唾を飲んで開く。そして俺は爆笑しそうになった。読める、読めるぞ!ファハハハハハハ!!!面白いほどに読める。
さて、そんな魔導書の最初のページには何やら書いてあった。
「え〜っと、『諸君も知っての通り、魔法使いは遺伝しない才能だ。諸君の父兄が魔法使いで、それを目指して魔法使いを目指しても才能さえ無ければ成れぬものである。だが、遺伝せぬが故に突然、平民の中に生まれることのある才能でもある。だから、一代限りの魔法使いの家系など珍しくもない。だが、魔法の知恵を知らぬまま一生のほとんどをすごした、実は魔法の才能があった人物の話などはよくあるものだ。私は、そういった才能がある者に行き届くよう、この魔導書を安く発行する。才能ある若者に栄光あれ・・・・・・・ベルデリン・クライス』・・・か」
どうやら魔法使いの才能とは遺伝するものではないらしい。だが、エレナは魔法が使える。ということは親子続けて魔法の才を持った珍しい人間なのだろうか、俺は。それとも、それなりにある話なのだろうか?まあ、二代目だからってボーナスが発生する訳でも無さそうだし、別にいいか。
ペラリ、とページをめくると目次があった。たくさんの項目に分かれ、『火を灯す魔法』だとか『飲み水を生成する魔法』だとか、そんな感じであった。どうやら、魔法は七つの属性に別れているらしく、炎、水、風、土、光、闇、無の七つで章が別れていた。で、ずらーっと見ていると最初のページに魔法使いの才能を測る魔法と言うものがあるらしいことが分かり、俺はためしにそれをやってみることにした。
「創造神ゼインよ・・・我が才の価値を、我が眼前に示したまえ」
この呪文を唱えると人差し指の腹から煙が出てくるらしい。もちろん、魔法が使えない者には出ないのだが。そして、俺はただひたすらに人差し指を注視した。周りのものは一切目に入らず、一分見つめ続けたが何も出なかった。・・・・ちえっ。
そう思ってガッガリして肩を落とすと、手の甲から煙が出ていることに気付いた。・・・あれ?その煙の色は黄金だった。
「な、なんじゃこりゃ・・・」
右手の甲から煙が出ているので、利き手ではない左手を駆使し、魔法使いの才能を測る魔法の才能の度合いという欄を探し出して、そこを指差しつつ読んだ。
「・・・『色付きの煙が出たものはおめでとう、君は魔法使いとなれる才能があるようだ。この本を読みながらその才能を磨いて行ってほしい。さて、その色によって大体の魔法使いの器・・・というものが決まる。どのくらいすごい魔法使いになれるかと言うものだ。・・・それで、まず赤色の煙なら大器晩成型。歳を取って凄まじく成長するだろう。だからといって、若い頃からサボっていればその成長もないのだが。次に青い煙なら早熟だ。・・・しかし、早熟とはいえ老後に少しずつ成長する可能性も秘めているのでいつも鍛錬は怠るわけにはいかない。茶色いならば、器用貧乏。多くの属性の魔法を扱えるが、究極魔法には届かないだろう。だが、使えるすべての属性を上級まで上げたのなら、素晴らしい魔法使いとなることだろう。白なら、逆に、あまり多くの属性は扱えないが、その限定された魔法の究極魔法まで届く可能性を秘めている。・・・そして、最後に黄色、あるいは黄金の煙を出したのなら、その者には無限の可能性がある。その努力次第では英雄にもなれるし、さぼれば普通以下の魔法しか使えぬまま終わってしまうだろう』・・・か。んんん!?」
黄金の煙が人差し指ではなく手の甲から上がっている俺は一体なんなんだ?!これは『英雄』とやらに慣れる可能性の煙なのか?!それとも色は同じだけで別種なのか!?・・・まあ、とりあえずは魔法の才能はあるようだけどさあ!!
だが、俺はここで脳裏に伝説の言葉リピートした。KOOLになれ、KOOLになるんだケインジス・ラーデンス!!俺は中学校時代、男子にありがちな勘違いで有名になってしまった男。その経験から生まれた慎重さは会社でもそれなりに当てにされていたではないか!!・・・いや、されてねーな。せいぜいうさんくさいセールスマンを追い払うときくらいしか役に立ってない。マジに自慢にならねえな!!
そう内心でセルフ突っ込みを加えているとバンという音とともにドアが開いた。ビクリと体を震わせて、俺は・・・
たたかう
→振り向く
無視する
逃げる
振り向くを選択。ギギギ・・・と音が鳴りそうなくらいぎこちない動きで振り返るとそこにはエレナがいた。
「魔力の波動を感知したと思ったら・・・」
そう呟いて歩いてくるエレナを、俺は滝のような汗を流しつつ硬直しながら見ていた。そして、彼女が目の前に立ったとき、想像される怒る彼女の恐ろしさに肩を落とした瞬間、彼女に抱きかかえられた。
「あなた、魔法が使えたのね!!優秀だと思ってたけどここまでなんて!!」
え?と怒られると思っていた俺は、急に柔らかい感触に包まれながらも硬直していた。ムスコは・・・いえ、なんでもありません。
「お父さんにも知らせなきゃね。あなたー」
エレナは俺を抱きかかえたまま一階へと降りて、そしてガランドを呼ぶと、・・・彼はすぐさま飛んで来た。調教された犬みたいだな。・・・ごめんよ、父さん。
「どうしたんだ、エレナ?」
やって来た彼は服のところどころが泥で汚れていて、外で何かしらの作業をしていたのが伺える。・・・なのになんでこんなに早く来れるんだ?と、俺は疑問に思った。
だが、そんなことはどうでもいい。俺はエレナに抱かれたまま、彼女が嬉しそうに口を開くのを見ていた。
「それがね、ケインったら勝手に『魔法才能鑑定』の魔法を使って、しかも金色の煙を出したのよ。すごいと思わない?」
「なんだって、それはすごいな!」
そんな風に会話が続き、俺の知らぬ間になんかの話が進んで危機感を覚えた俺はついつい口を挟んだ。
「母様。『英雄』とはなんなのですか?」
ちょうど、そのとき、両親は俺が将来どんなことを成し遂げるかという話をしていたのでタイミング的には大丈夫な筈だ。
だが、彼女はキョトンとしていた。・・・あれ?選択ミスった?え?これ某聖杯戦争みたいに少しミスったら死ぬとかいうやつじゃないよね?大丈夫だよね?
「ケインは『英雄』のことを知らないの?」
「食べ物か何かですか?」
内心汗をだらだら流しながら子供っぽく首をかしげて見せる。かわいく見えるはずだ・・・。
それを見たエレナは苦笑していった。
「違うわよ。『英雄』っていうのはね、歴史にのこるくらい素晴らしい功績を遺した人のことを言うのよ。ほら、おととい『セリヤタローの鬼退治』を聞かせたでしょう?」
そういわれて思い出すのは、この世界版の桃太郎である。セリヤという名のフルーツからうまれたセリヤタローが犬猿雉を連れてオニーガ島へ鬼退治に行く話だ。・・・なんか名前だけ見るとパチモンっぽいな。
ちなみに、この世界に絵本などという子供用本など存在しない。紙は貴重だし、基本的に本は手作りだからだ。だから、この場合聞かせたというのは『読み聞かせた』でなく、『口伝を聞かせた』ってことだ。
・・・ちなみに、金持ちが道楽で本を出版していることもあるが、大抵少数しか刷ってないし、道楽だから大概がエロ本だ。そう、書庫にあったのもそれである。・・・ガランド、何やってんのさ。
「はい、そうです」
「それの中に出てきたセリヤタローも『英雄』って呼ばれる人なのよ」
・・・あれ、実話だったのか?そう俺は思った。そして、そのあとにもいくつか例を挙げられて大概のおとぎ話・・・っぽい話は全て実話であることが判明した。恐ろしい・・・恐ろしいよ、昔々の人々。
「ケインもいつかそうなるのかな~」
少なくとも、俺はドラゴンをソロで倒せるどっかの伝説の魔法使いにはなれないなと思った。
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そして、一年が経った。俺は『上級者用魔道書』と題されたクライス氏の安い本を抱えて家から少し離れた空き地にいた。
「水を司る水神アクリアよ、我が前に立ちはだかる障害をはらいたまえ!!《水刃》!!」
俺の詠唱とともに俺の手から細いが威力のある水が放出された。そして、まるで剣を持っているかのように腕を振ると眼前の岩が真っ二つになった。
その後、先ほど感じた、体内の魔力の動きを再現していると再び手から細く水が放出された。そして、もう一度腕を振るうと、先ほどの半分になった岩はさらに半分になった。
「よし、大体感覚がつかめたな」
ぐっとこぶしを握って俺は呟いた。
無詠唱・・・。例のクライス氏の本の中でもやり方はのっていなかったが、それを俺は自力で習得した。コツは感覚を覚えるということだ。実は、魔法を使うとき、体の中を魔力が巡る。だが、その巡り方や巡る範囲などは魔法ごとに違うため、この感覚を自力で再現できれば無詠唱魔術とかできるんじゃね?と思ってやってみた。・・・そしたら、できた。
「んん・・・?こんなに簡単なら普通の魔法使いも使えるんじゃないか?」
案外、魔道書に載ってなかったのは簡単すぎるゆえか、と俺は結論付ける。無詠唱、できたらかっこいいと思ったんだが、みんなできるなら、ねえ・・・・と思ったが、便利であることは間違いなかった。
「・・・あれ、でも待てよ、なぜ母上は無詠唱で《治癒》を使わないんだ・・・?」
だが、俺はその疑問については答えはわからなかった。なぜなら、そう・・・。
「まあ、治癒魔法だけ無詠唱できないのかもな・・・あれ、俺できるよな?」
答えを見つけ出したと思えば普通に自分で論破する・・・なんとも頭の悪そうなことをしている人物がいた。・・・俺である。
「・・・もしかして、俺が異世界産ってのも関係しているのか?」
異世界には魔力など存在しない。で、その異世界の記憶のある俺だからこそ、体内になかった魔力の流れをいとも簡単に感じ取れるのではないかという仮説だが・・・他人の心でものぞけない限り本当の意味で解明できなさそうな問題である。
ちなみに、俺は他にも発見したことがある。それは魔力量に関することだ。魔力量・・・それはどれだけのMPがあるかということだ・・・ゲーム的に言えばね(別に正式名称じゃなく俺が便宜上名づけただけだ)。
とはいってもあんまりすごいものではないのかもしれないが。だって、単純な話、使えば使うほど魔力量が増えるというだけのことだ。これは、魔法を使い始めた初日に気づいたことだった。
その日、エレナとガランドの目を盗んで二階の書庫へ行き、俺は入門編の水を生み出す魔法を使った。一発目を使ったとき微妙にくらっとして、確か五回使ったあたりで気絶したのだ。いわゆる魔力切れだろうと思いつつ、次の日は四回使う。・・・しかし、前日とは違いフラフラとならず、十回魔法を使ったら再び気絶した。
そして、気づいた。魔法を使えば使うほど、魔力量は上がることに。だから、俺は日々、気絶寸前まで魔法を使って、家に帰りついてから最後に魔法を使って気絶しながら休む、ということをしていた。すると、飛躍的に魔力量は増えて、今や上級魔法数発を放った程度では気絶しなくなっていた。・・・もっとも、これがこの世界の普通なら俺はもう少し精進せねばなるまい。
あと、ほかにも、繰り返し使う魔法は、まるで使い続けた道具が手になじむように使い勝手がよくなるということを発見した。つまるところ、無詠唱の時に魔力を巡らせ易くなったのだ。これは戦闘の時には非常に便利で、今のところ俺は初級魔法の焚火などに使える『火種』や、飲み水に使える『産水』を息をするように使えるようになった。『火種』で、敵の動きを鈍らせたり、目元に水を浴びせてひるませたりなど、それなりに窮地を救ってくれていた。
ちなみに、ほかの魔法についてだが、普段使わない魔法が多いのでそこまでの域に達しているのはあまりないが、使えるというレベルであるのなら、『中級者用魔道書』に書かれている中級魔法までなら無詠唱で使えて、上級魔法は先ほどの『水刃』を合わせて数種類が無詠唱で使える。
ここでさらに付け加えると、魔法の詠唱には、魔力の流れを統制する働きがあるが、無詠唱にはそれがないため自力でせねばならない。・・・だが、逆に流す量を増やしたり減らしたりするとそれに応じて魔法の威力を変化させることができる。だが、流す量を少なくして使うより、多く流して使い込んだほうが手になじむ速度が早いので、俺は多く流しているわけなのだが、魔法の質によって少し威力を変化させるだけでそれなりに魔力を持ってかれることもあって、上級魔法に入ってから、俺の学習速度は遅くなっていた。まあ、もととなる魔法にそれなりに魔力を持ってかれるから仕方ないね。
そして、俺はこの時、どういう風に魔力を流してやろうかと考えていた。流し方によっても強化される内容は違うからな。・・・で、その時馬のいななき声が聞こえ、さらに「キャー!!」という悲鳴が、森の方向から聞こえた。その瞬間、俺は使い慣れた魔法の一つである『気配感知』を使用した。頭の中に広がる地図の上に、生命反応2と、それを囲む複数の生命反応を確認した。何かが襲われているのは推測できるが、俺は苦笑いをした。俺はまだ二歳を迎えてない赤ん坊である。この身を危険にさらしても助けられる自信はなかった。だが、同時に俺は見殺しにはできないと思い、葛藤した。
しかし、一度は自分の力量を量るのも必要だろうと言い訳をして現場に向かうことを決意した。もし、無理なら逃げればいい。などと、できもしないことを思いながら。
「『飛行』」
中級魔法の風に属する『飛行』を使用し、俺はふわりと宙に浮く。そして、目的地へと一気に飛んだ。すると空を飛ぶ分早く移動できて、俺はその場にたどり着き、状況を分析する。
七歳くらいの少女が一人、さらに白髭を生やした、執事っぽいスーツの初老男性が一人、そして地面に倒れている屈強な男の一人の計三人の人間が、ウルフというゴールデンレトリバーを二回りほど大きくして毛の色を黒くしたような魔物の群れに囲まれていた。だが、屈強な男性は先ほど生命反応が感じられなかったことからすでに死んでいることを察して、俺はズキリと胸が痛くなった。だが、今は止まってられない。
俺は少女たちとウルフたちの間に割り込むように着地し、中級炎魔法『炎球』を複数個、無詠唱で作って放つ。すると、不意を突かれたのかウルフたちにすべてヒットし、黒焦げにした。
再度、『気配感知』を使い、あたりに魔物らしき生命反応がないのを確認すると、初老男性の方を見て口を開いた。
「おじさん、大丈夫?」
ちなみに、かわいく見えるよう首も傾げておいた。
というわけで、どうも作者です。ほかに書いている作品を読んいる皆さんはこんにちは。そうでない方々は初めまして、樹実源峰です。
えーっと、これから頑張って書いていきたいと思います。よろしくお願いします。第二話は近日中、早くて明日遅くて来週の週末あたりを予定しています。お楽しみに。
感想、誤字脱字報告、ブクマ登録などお待ちしています。
※誤字修正と家族紹介で容姿の描写を追加しました。2015.8.25