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第十二話 王都までの旅路 その3

前回のあらすじ:王家の人間が襲われていたので助けるために飛び込む。


三週間ぶりの投稿です。

「ケイン、光魔法で一発頼むよ」

「了解です!」

「グンダイン、そっちの指揮は任せた!前衛を頼むよ!!」

「へい、スーラン殿!」


 師匠の号令に俺は走る速度を下げ、逆にグンダインたち三兄弟は速度を上げる。


「うぉぉぉぉぉぉぉ、こっちを見やがれぇっ!」


 グンダインたちが雄たけびを上げて吸血鬼に襲い掛かる。数の有利はあっちにある。そして力の有利もあっちだ。だが、俺たちも退けない理由はある。


 現在、吸血鬼たちが目標としている馬車に翼を持つ獅子(グリフォン)の紋章が描かれているのだ。その紋章があるのは王家の証拠。ならば、王宮魔法使いの弟子として彼らを見捨てることはできない。


「くらぇっ、『聖光線』!!」


 そして、俺は魔法名だけを唱えて上級光属性魔法『聖光線』を放つ。この魔法は聖属性を含んだものだ。つまり、対アンデッドには効果が高い。だが、実のところ、聖属性は光属性の一部・・・という位置づけである。というのも、昔は光属性と聖属性は分けられていたらしいのだが、光属性の一部の魔法にもアンデッドに有効だったらしいため一緒にしたのだとか。


 まあ、そんな聖属性攻撃は吸血鬼に当たり・・・「キィィィィ」という甲高い悲鳴を上げさせる。


「よし、有効みたいだね・・・ということはそこそこの吸血鬼ということか!」


 そして、師匠は俺の一撃を喰らった吸血鬼の体が、まるで炎に炙られたかのように爛れているのをみてそう呟く。


「だけど、油断はするな!相手は生半可な攻撃では死なないアンデッド!油断すればやられる!」


 だが、師匠の言葉にわずかに安堵したかのように肩の力を若干抜きかけたグンダインたちに、すぐに師匠は叱咤するように言葉を続けてかける。その言葉にグンダインたちの動きに再び力強さが加わる。


「・・・・・『清浄加護』!!」


 そして、そんなグンダインたちにアリンダが光属性上級魔法の『清浄加護』をかける。この魔法は、アンデッドから生者を守るためのもので、さらに剣士たちの武器に聖属性を付与できるという効果を持っている。そのため、対アンデッド戦では役に立つものだ。俺も使えるには使えるのだが、こういった他者を強化する魔法はその人物との相性などが大切なのだ。そのため、チームメイトである彼女が前衛への支援を担っている。


「『聖炎弾』!!」


 ゲンダインが蹴りで大きく吸血鬼を突き放したとき、俺はその吸血鬼にそれなりに魔力を込めた、光属性と炎属性の混合上級魔法『聖炎弾』を放つ。この魔法は、白く燃える炎を相手に放つ魔法だ。炎属性であるため物を燃やすことも可能だし、聖属性によってアンデッドへのダメージも期待できるものだ。もちろん、相手がアンデッドの場合、炎属性の威力も追加されてかなり高威力だ。


 それでダメージの許容量を超えたのか吸血鬼は灰になる。


「よし、一体!」

「おらっ、次だ次ィ!」


 ゲンダインは次に近かった吸血鬼に襲いかかる。だが、その吸血鬼は盾を構えていた。そのため、彼の獲物である大槌は盾に受け流され、そのまま吸血鬼は剣でゲンダインを切り付けようとするが、無詠唱で放つ闇属性上級魔法『引力』によりゲンダインを引き寄せる。・・・ぐ、重い。


「おっとー助かるぜー坊主ー」

「気を付けてくれよ・・・アンタらが倒れちゃ終わりなんだから」

「おうよー」


ゲンダインは俺の声にそう答えて腕を回しつつ前に進む。その前に吸血鬼が立ちはだかる。


「ふんっ!」

「・・・!!」


 ゲンダインはその吸血鬼に大槌を振り下ろす。その速度に驚いたのか、盾で衝撃を受け流すことができずもろに受け止める。しかし、その衝撃によって盾じゃ砕け散った。そのことに吸血鬼は動揺し、その瞬間俺は無詠唱で『聖炎弾』を放つ。・・・しかし、吸血鬼はそれを間一髪で避ける。・・・いや、違う。


 その避け方は後ろから何者かに引っ張られたようだった。そう、まるで先ほどのゲンダインのように。


「・・・魔法も使う吸血鬼?・・・高位吸血鬼がなぜここに・・・?」


 俺だって魔物などに関する資料などを読み漁っているために吸血鬼に関する知識も少しは知っていた。そう、吸血鬼が本能のみで生きて・・・いや、動いていることくらいは。基本は単独で行動しているか、もしくは自身を吸血鬼へと変貌させた存在の命令に従っていたりすることも知っている。だが、基本的には何らかの要因で発症し吸血鬼化するため後者の存在はないことが多い。なぜなら、後者の存在は本能で生きる(・・・・・・)吸血鬼でなく、意識をはっきりと持った吸血鬼、つまり高位吸血鬼とひとくくりに呼ばれる存在に吸血されることによって生まれるからだ。そして、当然ながら高位吸血鬼というのは数が少ない・・・というより、おとぎ話の中ぐらいでしか存在しない。そう現実的な話ではないのだ。


 さて、そのおとぎ話の中の話なのだが、その意識ある高位吸血鬼の中に魔法を扱うものも存在する。・・・逆に言えば、それ以外に魔法を扱う吸血鬼は存在していない。つまり、そう。


 目の前にいるローブを着てフードをかぶった、俺と同い年(・・・・・)くらいの(・・・・)子供が(・・・)、高位吸血鬼ということだ。フードの下から覗く肌は普通の吸血鬼よりは青白くはないが、その口元には吸血鬼である何よりの証拠である長い犬歯――牙が覗いている。


 と、突如、その子供が無詠唱で(・・・・)《火球》を放ってきた。その大きさは普通より二回りほど大きい。つまり、高威力なそれだ。


 俺はそれに対して無詠唱で《反射障壁》を使用し防御する・・・と同時にごっそりと俺の中の魔力を削られるのを感じた。まだ残ってはいるが、これほどの魔力を奪われるということは今の『火球』はそうとうな威力だったのだろう。跳ね返った《火球》が子供へと飛んでいく。そして・・・


「へえ。今の無詠唱だね。僕以外にも使える人がいたのか。ふーん」


 火に包まれたはずの彼は無事だった。・・・当然だ、あれはただの《火球》であり聖属性は含んでいない。つまり、アンデッドに対する威力はそこまででない。これが、ゾンビなら多少なりともダメージを見込めたが吸血鬼相手にはダメージなど無に等しかった。


 ローブは燃えてしまったのか一部が残っているだけだった。外にさらされた彼の素顔は、ただ青白いだけの普通の人と言えよう。ただ、一点その髪が、この世界では珍しい黒髪ということを除けば。


「しかも、今のは《反射障壁》。たしか、相手の使用した量の魔力の二倍ほど使って倍返しするんだったっけ、よく覚えてないけど。でも、まあ。そんな威力出せるってことはかなりの魔力を持っているのか」


 子供はぶつぶつと何事かつぶやくとやがて納得したかのようにこくりと頷き言う。


「誰だか知らないけど、君のおかげで僕の目的は達成できないみたいだ。今日のところはここで引く。・・・もう二度と会いたくないね」


 そういって彼は踵を返し歩き出す。


「僕ども。帰るぞ」


 そして、彼に行き従うかのように吸血鬼たちは後を追った。俺はその後姿をただ見るしかできなかった。


####


「ケイン、大丈夫かい!」


 吸血鬼が去ったあと師匠が俺の気配を探したのかこっちへ近づいてくる。それに気づいてようやく俺は我に返った。


「・・・ゲンダイン?」

「兄貴たちがこっちに来てるなー」


 視界の隅で何か合図をしているゲンダインに気づき、その意図を問おうとするとゲンダインはほかの二人が来ていることを知らせる。・・・もしかして三つ子には互いの位置を感知する能力でもあるのだろうか?


「ゲン!」

「よー、兄貴ー、ゴン、アリンダ」


 やがて『黒狼の牙』メンバーは全員来た。そしてアリンダはクーと手をつないでいた。


「師匠?」


 だが、それはさておき師匠たちもたしか、吸血鬼の相手をしていたはずなのだが・・・。


「急に吸血鬼が退いたから合流しに来たんだよ。『不死(アンデッド)感知』で他にいた吸血鬼たちがいなくなったのも確認したからクーと合流してきたんだ」


 そう聞いて俺も『不死(アンデッド)感知』をしてみたら確かにこのあたりからアンデッドでもある吸血鬼の反応はなくなっていた。・・・どうなってるんだ?


「助かった・・・のか・・・いてっ!」

「ケイン、気を抜くのはまだ。王家の無事を確認してないわ」

「あっ」


 忘れていたつもりなどないのだが、そもそも俺たちは王家を助けるために吸血鬼との戦いに臨んだのであった。俺は心の中で自分を一喝し『気配感知』を使う。・・・俺たち以外の生命反応は果たしてある。もっとも、人間とも限らないのだが・・・希望はある。


「こっちですね」


 俺はそう言って『飛行』を使用し、そのまま生命反応のあった地点へと急行する。生命反応は馬車の中だった。馬車のドアを開けると・・・そこには、一人の男が気絶していた。


 髪は淡い青で、同じ色の鼻ひげがあり端正な顔立ちをしていた。その身を前世の軍服のようなもので包み、細マッチョという言葉が似合いそうなイケメンだった。


「・・・ガイアス殿下」

「え?」


 俺の後ろに追随していたらしい師匠がポツリとつぶやいた。なるほど、ガイアスというのがこの男・・・いや、王族の名前なのだろう。というか、俺も聞いたことがある。ガイアスというのは第二王子の名前だったはずだ。


 側室の一人から生まれた王家の次男。軍事に関して才能が開花した男で、一応は軍属になる師匠の上司でもある。だが、政治の手腕はそこそことの評価であったはずだ。


「・・・そういえば、師匠。伝えたいことがあります」

「・・・なんだい?」


 そこである疑念を抱いた俺は先ほどの吸血鬼の話をすることにした。俺と同じく無詠唱を扱う、強力な彼のことを。それを聞いた師匠はうーむと唸る。


「つまり、ケイン。君はこう言いたいわけだ。彼と敵対する誰かが彼に吸血鬼を嗾けたのだと」

「・・・」


 そう、彼は紛れもなく現在の王の後継争いの張本人でもある。その政敵が彼に暗殺者を差し向けるくらいはあっても当然なのだが・・・。


「いや、それはないと思うよケイン。いくらなんでも政敵が憎いとはいえ自国にアンデッドを迎い入れる王族はいないはずさ」

「・・・そうですね」


 師匠は俺の疑問を即座に否定する。まあ、確かに、アンデッドを自国に迎い入れるのは王として失格だろう。なぜなら、アンデッドは生者を憎んでいる。つまり、彼らを招き入れても自身が無事とは限らないからだ。それに、人民をも危険にさらす時点で王の資格などないだろう。


「さて、でも王子を起こしちゃ悪いからね。このままボク達の馬車に乗せてしまおう」

「え?この馬車を使わないんですか?」


 『浮遊』の詠唱を始めた師匠に、この馬車のことを聞くと、やれやれという顔をして一点を指さした。その先は馬車を引く馬がいるべき場所なのだが・・・


「うわ・・・」


 馬がミイラ化していた。どうやら吸血鬼に血を吸われてしまったようだ。これでは馬車は動かせないと思ったところでグンダインたちの馬が使えるはずだと思って師匠を見ると今度は違う一点を指していた。


 そちらに目を向けるとそこには壊れた車輪が・・・。


「なるほど、これは無理ですね」


 この馬車を動かせないことが分かり俺は納得した。


「ですけども、その、王族を師匠の馬車に乗せて大丈夫なのでしょうか?」


 だが、同時にもう一つの疑問が沸き師匠に尋ねた。


「いや、大丈夫だよ。確かにボクは貴族ではないけれど今回は緊急事態だし。それに王族的には及第点レベルには作られているから」

「へぇ・・・」


 なんでも、師匠が言うには。王族が緊急避難用に使うかもしれないので、王宮魔法使いの馬車は最低でも、王族を乗せるに値するという品質のものであるらしい。実によく考えられているようだ。


「昔、王宮魔法使いなどの馬車に乗れるかと言って討たれた人もいるからね。その時の反省を活かしてさ」


 命の瀬戸際でそんなことを気にするのかと俺は思ったが、どうにも王族にはそういうことが必要なのだろう。


 そんな話をしている間に、師匠はガイアス殿下を馬車へと運び、座席に寝かせる。と、そこで俺ははたと気づいた。


「そういえば、師匠。俺たちが殿下と同じ馬車に乗るわけにはいきませんよね?そこらへんはどうするんですか?」

「え?何言ってるんだいケイン。ボク達は『飛行』で馬と同じ速度で並走するのさ」

「いや、それはそれとしてクーは?」

「仕方ないから使用人たちの馬車に乗せるけど?」

「ああ・・・はい」


 どうやら馬車への人員分けも既に考えてあったらしい。この辺は流石、王宮魔法使いということだろう。


「じゃ、ケイン。周囲警戒よろしく。ボクは主に殿下の周りで警戒に当たるから、使用人たちの方をよろしく」

「はい」

「『黒狼の牙』にはそのまま馬車の周りで警戒をよろしく頼むよ」

「了解」


 かくして警戒態勢も整ったところで、俺たちはそこを離れた。

*ガイアスが第三王子になってたので第二王子に修正しました。

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