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第十一話 王都までの旅路 その2

あらすじ:山賊を倒し、新たな御者を雇い王都を目指す。

 ガタン・・・ゴトン・・・ゴタン・・・ゴトン・・・。


 王都行き馬車の中でゆられつつ俺たちは王都を目指していた。早朝に出発をしたので皆昨日の疲れが取れていないようで、欠伸をかみ殺している執事がいたが今は恐らく、俺の目の前の師匠とクー同様、眠りに落ちているのだろう。かく言う俺も、疲れが取れておらずとても眠いのだが、昨日あんなことがあったばかりなので寝ずの番というものを敢行している。正直、眠気という奴は、魔法である程度は緩和できるので保っているがこういう日が数日続くとやはり厳しいだろう。


 馬車に備え付けられたカーテンを少し開けて外を見る。辺り一面は森林で、馬車に追随するように走る、昨日はいなかった三人の屈強な男と、一人の女性が馬に乗っている。彼らは冒険者グループ『黒狼の牙』。三人の男戦士と、一人の女魔法使いから構成されている。彼らは昨日のうちにクランさんが雇ってきた者たちで、王都までの旅の間護衛をしてもらうこととなっていた。まあ、山賊に襲われたら嫌だしな。普通はこのくらいするのだが、師匠の家からサイグまでが近いこともあり、いつもはサイグで合流するということもあり、昨日はいなくても問題なかった(だから、クランの偽物(スラン)が冒険者を連れていなかったが気づけなかった)。彼らの冒険者メンバープレート――前に見た魔法研究ギルドのそれと同じようなつくりであった――を見せてもらって一応確認はとってあるので今回は山賊の心配はないと思われる。


 ぼーっとしながら視線を車内に戻すが、同乗者二名はぐっすりなので再び外を見ると、『黒狼の牙』のリーダー、グンダインと顔があった。彼はその厳つい顔に人懐っこくみえるように笑顔を浮かべている・・・と思うのだが、普通の子供からしたら恐ろしい顔だろうな、と俺は思った。


 『黒狼の牙』、魔法研究ギルドと同じ様な方法でランクしている冒険者ランクによるとCランクである。冒険者ランクはしたがEから上がSまである・・・というか、全てのギルドのランク分けはしたがE、上がSというのは共通していた。内訳としては、Eがビギナー、つまり駆け出しで、Dは魔物の退治ができるようになった駆け出し以上一人前未満、Cは大抵の依頼をこなす一人前で、Bはとても手ごわい魔物を討伐できる熟練者、Aは軍の中隊単位がかかってようやく一頭討伐できるくらい強い魔物を1~4人で討伐できる超越者だとか。

 ただ、ここまではある程度の努力と頭と才能があれば上り詰められるらしいが、Aの一つ上のSは文字通り格が違うらしい。ドラゴンとかの伝説的魔物を討伐できる雲の上の存在なのだとか。現在、この国には6パーティーほどしかいないらしい。それでも、二大国は三パーティーしかいないと聞けば、このSランクというのがどれだけの偉業なのかがわかることだろう。


 まあ、それからすると『Cランクなんて、へっ』なんて思いがあるかもしれないが、実のところ、DとCの違いはとても大きい。そもそも、Eで100人入ったとして、Dにあがれるのが90、その上のCに上がれるのは40人程度なのだ。約二人に一人は上がれるじゃないかと言えばそれまでだが、約二人に一人は上がれないと言えばそれがどれだけの割合かがわかるだろう。一般的に、冒険者というのは金を求めてなるものが多いという背景から、年老いて引退以外の引退はないと考えていい。つまり、ほぼ半数は成績不良で登れないのではなく、単純に死んで・・・終わりなのだ。

 そう考えるとCランクはどれだけすごいのだという話だ。ちなみに、Bに上がれるのは10人、Aに上がれるのは一人いればいい方と言われる。Sとなると小数点の彼方だ。


 これを聞いて俺はふと、俺の親父は何ランクだったんだろうと思った。王宮魔法使いとともに王女の護衛を務められるくらいだったのだから・・・B、か?こうして考えると凄い男である。貴族にも片足突っ込んでもいるし。


 まあ、それはさておき、暇だから『黒狼の牙』の説明でもしておこう。・・・と言ってもとっても簡単なものである。三つ子に一人の女性のパーティーだ。パーティーリーダーは長男グンダイン、他の二人は次男のゲンダインに三男のゴンダインというらしい。それに三人との間柄がよく分からない謎の女性、アリンダを加えた四人パーティーだ。このアリンダという女性、三人とたまたまクエストで共闘した時に意気投合して以来のパーティーメンバーなのだとか。

 ちなみに、各々の役割・・・というか戦闘方法は、三つ子が前衛でアリンダが後衛という比較的バランスの取れているパーティーだそうだ。実際、アリンダが入ってからはクエストの安定度も増し、さらに昇格スピードも上がっているようだ。


そして彼ら自身の特徴だが、やはりというかなんというか三つ子は全員似ている。がっしりとした大柄の体につるりと剃りあげた頭、黄色い目など身体的特徴がほぼ一致している。だが、3人は腕に色付きの布を巻くことにより己らの差別化をはかっている。青い布を巻いてるのがグンダイン、黄色い布がゲンダイン、赤い布がゴンダインである。

ちなみに、彼らは武器も違っていた。グンダインは大剣、ゲンダインは大槌、ゴンダインは大斧だ。見た目は同じなのにこういうところは違うのかと変な感心をした。


アリンダは冷静沈着な秘書タイプの見た目の女性だ。実際、彼女は戦闘時には冷静に臨機応変に使う魔法を変えるタイプである。単体の敵相手には『炎球』、多数相手には『豪炎』を放ったりしているところも何度か目にしている。師匠も、それを見て「なかなか素晴らしい腕を持った子じゃないか」と言っていた。・・・あと、どうでもいいが、師匠が『子』とか言っても師匠は見た目が子供なので違和感がすごかったりする。


「冒険者か・・・」


 この世界では俺のもといた世界より大きな日常的脅威がある。魔物だ。そりゃあ、元の世界でも人間を襲う動物という奴はいたが、人間が過度の挑発行為(本人の意図がどうあろうと)や、運が悪かったりしない限り動物に襲われることはないだろうが、魔物は人間=エサを見つけるととりあえず追っかけてくるのだ。つまり、アグレッシブな分、動物よりも脅威である。しかも、大概の魔物は動物などが相手にならないくらいには強いため、それもまたより一層脅威となる。


 だが、偶然というべきか、あるいは必然か、この世界の人間は『魔法』という武器を持っている。『魔力』という俺のいた世界にはない物質(?)が存在しておりその分、体は頑強にできているようだ。だが、それでも魔物に敵う者は少ない。


 そんな中でその魔物を専門的に狩る業者、あるいはその集まりが発生するのは必然だ。そして、その結果『冒険者』が生まれた。

 彼らの仕事は自らの生命を賭して魔物を狩ることだろう。その報酬として少々高いお金を貰える。とはいえ、その金はほぼ装備代や酒代に消えていくのだが。


「おいおい、坊主。窓から顔を出してちゃ危ないぜ?」


 考え事をしていたら誰かに話しかけられた。そちらに目を向けてみると・・・えーっと青い布を巻いてるからグンダインか。


「もし僕が怪我したらグンダインさんのせいですね。師匠に怒られますよ?」

「だから、窓から顔出すなよってのによ」

「あはは」


 俺の言葉にやれやれと肩をすくめるグンダイン。だが、この男がやると「仕方ねえな、面倒だが力づくでいくか」みたいなニュアンスを感じるような気がする。・・・まあ、そんなことないんだろうが。


「まあ、確かに俺らは怪我させねーよーに付いてるんだがよ。だが、まあ、不測の事態ってやつはおこるんだぜ?」

「そうですね。しかし、それを跳ね返せないと死ぬ職業ですよ、冒険者って」

「ああいやこういう・・・ったく、いけすかねえ坊主だぜ」


 俺の言葉にふてくされたような言葉を返すが、顔が笑っているあたりそんな悪いやつではないだろう・・・と思う。男臭いという言葉が似合うような笑みだ。


「まあ、坊主の言うことは最もだ」

「へ?」

「ん?いや、ほれ言ってたろ?不測の事態ってやつを跳ね返せなきゃ死ぬ職業ってな。実際その通りだ。旅の道中に魔物に襲われるなんざざらだしな。ま、今回はかなり強い王宮魔法使い様もいるし、そんな大事にもなんねーだろ」

「ふんふん・・・え?」


 グンダインの言葉にふんふん頷いて聞いていたら後半に聞き捨てならない・・・つか、気のせいであってほしい言葉があったような・・・。これ、フラg・・・・まて、みなまで言うな。もしかしたら、まだ間に合うかもしれないぞ。


「・・・む?なんか騒がしいな」

「・・・。」


 まさか、もう回収されるのか・・・・!?


####


 剣劇の音が森の中に響く。その音の原因は数人だった。


「ちっ、きりがねえっ!!!」

「・・・」


 黒いローブに身を纏った者と、鎧甲冑に身を包んだ者がそれぞれの得物を手に切り結ぶ。その技量はほぼ互角であった。


「くそっ、てめえ、この馬車が誰のもんか分かってねえんじゃねえだろうなぁっ!?」

「・・・」


 白い鎧に身を包んだ男は自分の相手にそう問いかけるが、答えは何も返ってこない。さきほどから黒ローブたちは無言のまま襲撃し、攻撃を繰り返していたからその反応は予想していたが、実際にされると怒りが沸いてきた白い鎧の男だ。

 その男の背後にあるのは鷲の羽を持つ獅子(グリフォン)が描かれた豪華な馬車であった。どこかの貴族だろうと普通の人間は考えるだろうが、この国の人間ならば、その獅子をみるだけでどの家の人間かがわかる。この、獅子はサイトニス王国の旗にも描かれる聖獣だ。つまり、この獅子を描かれた馬車に乗る者は・・・サイトニス王家の人間だ。


「ぐあっ!!」

「ちっ、グライズ!!」


 その時、男の視界の隅で白に唐草模様を描いている特徴的な鎧を着たものが倒れるのが目に入る。白い鎧を汚すかのように首筋から流れる赤いそれは、おそらく彼の血だろう。その姿を見て、白い鎧の男は激昂する。


「ちきしょう!あいつはなあ、先月結婚したばかりなんだぞっ!!」


 一層苛烈になる彼の剣に対し、黒ローブは冷静に対処する。いきなりペースが変わったのにそれでも反応できることに彼は少なからず不気味さを覚えた。だが、そんなものを気にするくらいならば敵を排除するとばかりに攻撃は次第に苛烈になっていき、やがて。


「おらぁっ、死に晒せっ!!」


 黒ローブの心臓の位置に剣を突き刺す。だが、まだ油断はできないとばかりに彼は死体を蹴り距離を取る。だが、次の瞬間彼は驚きに目を見開いた。


「な・・・なに・・・!?」


 心臓を確実に穿ったはずの黒ローブは何事もなかったかのように立ち上がる。・・・と、その時にふと強風が吹き男のフードが外れた。


 死人のように青白い肌、爛々と不気味にひかる赤い瞳、そして口元から覗く、明らかに普通より長い犬歯。その容貌に加え、先ほど死ななかったという事実から彼は黒ローブの正体に気が付いた。


「・・・吸血鬼だと!?」


 愕然と目を見開く鎧の男に、黒フード・・・いや、吸血鬼は無造作に近づき、そして鎧の男のヘルムを奪い去り・・・その首筋に噛みつく。


「あ・・・あ・・・ぁ・・・」


 体中の血液を吸われる感覚とともに彼の意識は闇に閉ざされた。


####


「・・・あれは、吸血鬼だね」

「・・・マジかよ、ついてねえぜ・・・」


 草の茂みの中で森の中の激闘を見守っていた俺たちは、師匠がポツリと漏らした言葉に戦慄する。それほどの相手がそこにいるのだから。


 吸血鬼。地球上でも伝えられる通り、人の血を吸って生きる怪物である。彼らも魔物と呼ばれる生き物の一員だが、もともとは人間だった。だが、普通の人間に何らかの影響があって、発症(・・)。そして吸血鬼になるというのが通説だが、そのメカニズムはほぼ解明されていない。


 分かっているのは、彼らが普通の人間だったにもかかわらずその膂力は人間を軽く上回ること、剣で刺しても死なないこと、蝙蝠に姿を変えること、そしていくつかの弱点である。


 弱点というのもまた、地球でも伝えられていたように銀を恐れたり、十字架を嫌い、聖水で火傷を負い、杭を心臓に打ち付けると死んだり、流水を渡れなかったり、日を浴びると灰と化したり、そしてこの世界ならではの聖属性攻撃によって死傷を与えられるといったものだ。


 だが、人間を軽く超える膂力を持ち、普通の手段では殺せず、並大抵の聖属性攻撃では死に至らない吸血鬼は相当に強いものだ。冒険者ランクBのものが10人ほどで相手してようやく一人二人倒せるものだという。しかも、頭の良い個体は魔法まで使いこなし、その場合はAランクの者が複数相手にならないと討伐できない。そんな化け物が目の前にいるのだ。


「・・・師匠、どうします?」

「・・・彼らがこっちに気づかないのを期待するしかない・・・って言いたいところだけどねえ」


 俺の質問に師匠は言いよどむ。だから何か問題があるのかと師匠に先を促すと師匠はある一点に目を向けて「あれを」とだけ言う。


 師匠の目線の先には、グリフォンが描かれた豪華な馬車がある。・・・俺でもその意味は分かった。あれは王族の乗っていることを示している。つまり・・・


「はあ、王宮魔法使いとして、いや、王国民として見捨てられない・・・けど、勝ち目の薄い戦いだ・・・王族の人が逃げれればいいんだけどね」

「逃げ切れるよう体を張るしかないでしょう・・・。やるしかないですか」


 その言葉とともに俺は覚悟を決める。できる限り応戦し、王族が逃げたのを見計らって逃げる。俺の脳は生存が絶望的だと告げてくるが、ここで王族を見殺しにすれば後味の悪さと、そして王族を見殺しにしたというレッテルが張られる。もちろん、他の人が見てないのだから見殺しにしてもばれないという意見があるかもしれないが、だとしても俺は良心の呵責に耐えられる気がしない。それほどに、俺はこの国に染まったのかと漠然と思った。


「・・・グンダイン」

「はい、なんでしょうかいスーラン殿」

「クーを連れて逃げてくれ。報酬は救出した・・・」

「お言葉だけど、スーラン殿。俺らは行けねえ」

「・・・は?」


 師匠は依頼を拒否した冒険者たちをぽかんとした目で見つめる。普通なら、ここでその依頼を受けてこれ幸いと逃げ出すはずなのだが・・・。


「俺らとて王国民。王族を見捨てちゃお天道様の下をあるけねえってもんだ。・・・たとえ死ぬことになろうと参戦する」

「おう、よく言ったぜ兄貴」

「それでこそグン兄ぃだど」

「・・・僭越ながら私も戦列に加わりましょう」


 参戦を表明する『黒狼の牙』に師匠は「本気かい?」と問いかける。それに四人ともコクリと頷く。


「じゃあ、ケイ・・・」

「師匠、俺も戦いますよ?こうなれば一人でも多い方が生存率が上がりますし」

「だったら誰がクーを・・・!」

「師匠、勘違いしてますよ?」

「なに・・・?」

「僕らは死にに行くのではありません。王族を助けてクーを連れて帰る。それだけですよ」


 発破をかけるような俺の言葉に、グンダインたちは「言うねえ」と呟き、師匠は再びぽかんとしてからニヤリと笑う。


「そうだね。・・・・じゃあ、行くよ!」


 師匠の号令に俺たちは一気に茂みから飛び出した。

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