第十話 王都までの旅路 その1
前回のあらすじ:師匠の驚きの性癖が明らかに
注意:やや過激なシーンが見られるかもしれません。殺人などが苦手な方はあとがきのまとめをみてください。
昼過ぎ。午後のうららかな太陽光がさす中庭にて俺たちは集合する。今回の出発メンバーは、俺、クー、師匠、俺のお付きメイドのリルン、他五人の執事とメイドを連れて出る。これを聞いて少ないと思う貴族はあまりいない。これはあくまで旅の間の世話係・・・のようなものなのだから。王都にも別荘というか・・・王都で生活するための家があるらしく、そっちはそっちで使用人がいるので今回はこの数でいいのだ。あまりに大人数で行けば途中の宿代とか馬車代とか食費とかかさむしな。
「おお、お久しぶりでございますスーラン様」
「あ、お久しぶり~」
と、そこで師匠に話しかけた人物がいた。初老の白髪男性。頬が少しこけているようだが、半そでから見える腕には、一目で鍛え上げたとみえる筋肉があった。
「師匠、この方は?」
「ああ、ケイン君。こっちは御者のクランさんだよ。クランさん、こっちはボクの弟子のケインジス・ラーデンスという子だ」
師匠にそう紹介され、クランに向けて軽く会釈する。
「よろしくお願いします」
「おお、礼儀正しい子だ。こちらこそ、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げてくる彼の顔はにこやかだった。その顔を見る限り彼は信用できる人物だと思える。・・・まあ、師匠が何度も依頼している人物らしいので信頼には置けるのだろうが。ちなみに、前世では友人が詐欺に合いかけて大変だったこともあって、こういう笑みは怪しいものと心の中にインプットされてたりする。・・・うむ、怪しい。まあ、別に警戒しておくだけでいいかな。それで何もなければそれでいい。
「じゃあ、出発~」
荷物も馬車に詰め終わり全員が乗り終わったら師匠の号令で馬車は進みだす。ガタゴトと少し揺れているのはご愛嬌というやつだろう。でも・・・ま、それなりに高級車なのかすこし眠気が襲って・・・。
は。危ない危ない。眠ったら危なすぎるだろ。ここは異世界。油断したら何されるかわからない場所なんだぜ。しかし、なぜこんなに眠気があるんだ・・・ってまた瞼が・・・・。無詠唱で水属性初級魔法『洗顔』を使用する。これは、顔に水をぶっかけることによって眠気を覚ますことも出来るのだが・・・魔力制御間違えてすごい量の水・・・溺れる。
「ぷはぁっ!!はぁっ、はぁっ!!」
息を荒くして空気を確保する。すると・・・
「なっ、ガキが起きてやがる!?」
出口の方には御者のはずのクランと最初にはいなかった粗野な・・・というか風呂とか洗濯なにそれ?みたいな汚い格好の連中がたくさんいた。各々武器を持ち、こちらを睨みつけている。
「・・・はぁ、やはりか」
俺はため息をついて周りを見渡す。ちょうど、俺たちとは違い二台目にいたメイドたちはつかまってしまったらしく、全身を縛られて猿ぐつわも噛まされて地面に転がっている。師匠とクーは眠ったままだ。・・・そりゃそうだろう、あんな風に信頼している相手からの攻撃は予想できないだろうし、急な眠気に対抗できるとしたら俺のように無詠唱とか、少なくとも詠唱短縮した魔法だけだろう。しかし・・・
「・・・な、なに?!」
馬車の中に充満している睡眠ガス・・・のようなものを風魔法で散らす。・・・ふう、ようやく眠気が収まった。手をパキポキと・・・鳴らない。まあ、四歳だし。
「ふふふ・・・」
「な!?」
「ふくくく・・・」
「な、何だこいつ!?」
「くふぁーっはっはっは!!!」
笑いの三段活用をしてると敵方からドン引いたような視線を感じた。だが、これでいいのだ。剣の師匠であるクリフにも常々言われてたことだ。
『度胆を抜いて相手を油断させることも戦闘では重要になる』
その言葉通り、相手の度胆を抜いた・・・と思える。さて
「ぐわっ・・・!?」
「ぎゃっ・・・!?」
風属性中級魔法『鎌鼬』を飛ばし数人の首を飛ばす。その様子に相手はどよめきだす。
「な、どこから魔法が!?」
「お、お頭・・・あぶ・・・ぐっ!!!」
ボーっとしている奴、仲間を庇う奴、あたりを警戒している奴の首をも斬り飛ばしていき、犠牲者の数はさらに増す。それでようやく頭と呼ばれていた・・・クランは俺を睨みつける。
「ま、まさか・・・このガキか!?」
「ああ・・・気づくのが遅かったな、木偶の坊」
その俺の言葉にクランはさらに目を鋭くして来る。俺はあえて、それに口角を釣り上げるようにして笑う。と、そこでついに敵はクラン一人になった。
「この・・・・ガキャアッ!!!」
かっときたのだろう、クランは背中に背負っていたらしい大きいアックスをこちらに振り下ろす。だが、
ガキンッ!
アックスの横から叩き付けられた剣によって狙いは逸れる。もちろん、剣を振るったのは俺である。魔力を腕にまとうことによって身体能力を若干強化したのだ。とはいえ、体重が増えるわけではないので、剣の重量に四歳児の体は振り回される。だが、相手のアックスは、ドォンと微かな地響きとともに地面に突き刺さり大した隙とはなってない。
「なんだと!!」
それに対してクランは目玉が飛び出さんとばかりに目を見開き、顔を真っ赤にして怒る。そして、即座に斧から手を離し後ろに跳び退った。その直後、俺が体を回転させた勢いのままに振った剣がクランのいたところの空を裂いた。
「てめぇ・・・どうやって・・・」
「・・・はぁ?そんくらい自分で考えてみろよ」
クランが疑問を口にしようとしたのを遮り、挑発の言葉を投げかける。すると、思った通り奴は激昂した。ちょろいちょろい。そして、奴は怒りのままに俺に突進してくる。行動が読みやすくて欠伸が出そうだ。
「近づいてくんじゃ、ねーよっ!」
突進してくるクランに向かって俺は右手を媒介に中級風属性魔法『風衝』を放つ。クランは腹に衝撃をモロに喰らって吹き飛ぶ。
「おぶぅっ!!!」
そんな汚い悲鳴を上げて吹き飛ぶクランに追随するかのように『鎌鼬』は飛んでいく。そして、大きな木にぶつかり飛ぶ勢いのなくなったクランの首を跳ね飛ばした。シンと静まり返る。『気配感知』を使用し、このあたりの生命反応を探る。俺たち九人以外の反応はなし。つまり、危険は去ったということだ。ジロリとあたりを睥睨すると、山賊たちの血の匂いを感じた。だが、俺の中に嫌悪感はなかった。
・・・ローズが去って以後、どこから情報を得たのかタラポッカ村にローズを浚いに来た刺客たちを退治しているうちに人を殺す・・・いや、己と周りを害する敵を殺すことに関する嫌悪感はすでになくなっていた。なにせ、この世界のルールは『やらなきゃやられる』。それだけなのだから。
そんなことを思うのは最近、こうやって賊を退治することがなかったからだろうかと感傷に浸りそうになったところ、頭をブンブンと振ってその思いをかき消した。今、やるべきことは師匠達を起こすことなのだから。
「師匠、起きてください。師匠!」
肩を揺らして師匠を起こそうとする。・・・中々起きないな。結構強力な魔法だったんだろうか?しかし、睡眠ガスのような魔法なんて聞いた覚えがないぞ。だけれど、風で払えたってことは気体とかそっち関連だろうし・・・。
「んん・・・ああっ、ご主人様・・・そんなに激しく・・・・んっ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・あ?」
さっきの魔法について考察をしていた俺の耳元に、師匠の寝言が聞こえた瞬間、軽く殺意が沸いた。こいつは一体何の夢を見ているんだ、と。
「・・・あぁっ!!ケイン様・・・、そんな・・・そんな・・・水責めなんて興h・・」
「プッチン」
続けて出た『ケイン様』という言葉に俺の堪忍袋の緒が切れる。無詠唱で大量の水を召喚した。
「ほ、ほほぅ・・・水責めがお好みか・・・この豚野郎が・・・・」
そんな風に俺は口をひくひくさせつつ思いっきり師匠の顔に水をぶつける。
「ぶごっ!?・・・!?!?!?!・・・ぶくぶく・・・」
「ああ、遠慮はいらねえぜ?まだ、あるわ」
「・・・・!!!!!・・・・ぶふぁっ・・・」
完全に師匠が目を覚ましても尚、水を浴びせ続けているとついに師匠は気絶した・・・・って何やってんだ俺は。そこで、俺は冷静さを取り戻していったん水を止める。そして、
「起きろ師匠!!」
バシャッと勢いよくバケツ型に固定した水を師匠の顔にぶつける。すると師匠は一発で目が覚めた。
「はっ!!今、なんか水責めという興奮するような事象が・・・」
「・・・師匠、起きましたか?」
ガバッという勢いで何かを口走ろうとしていた師匠の目の前ににこりとした俺が現れる。目はこれっぽちも笑っていないが。
「あ、い・・・いや?なんでもないよ??」
俺の顔を見てから視線を逸らす師匠。わざとらしく口笛を吹いているのだが、ほんとへたくそだ。それを少し冷たい目で見ているとぶるぶると師匠が震えて頬を赤らめた。・・・処置なしである。
「クー、起きて」
そんなどうしようもない師匠はほっておいてクーやメイドたちを起こしにかかる。ついでに言うと師匠は全く役に立たなかった。ので、師匠の代わりにリルンたちを集めた。
「えーっと、師匠は現在役に立た・・・・ゴホン、体調が悪いので僕が代わりに指示を出そうと思います」
「体調が・・・?ご主人様に何かありましたか!?」
「なんと・・・我々が役立たずなばかりに!!」
師匠が役に立たないとは言えないので体調が悪いと誤魔化した結果なんかすごいことになってしまいそうだったので、慌てて信頼していた人に騙されて云々という話で納得させた。
「・・・それで、ですね。今から次の町まで歩いていかないといけないのですが、ここからどのくらいかわかる人はいますか?」
「次の町なら確か、サイグでしたな。それならここから10キロメートルほどだったかと」
俺の質問に答えてくれたのはジルジさんだった。まあ、彼ほどの古参なら信頼できるだろう。だが、まだ問題が残っている。
「・・・でも、ここはサイグへの道中なのか?」
「ケイン様、それはどういう・・・?」
俺の口から突いて出た言葉にジルジさんが質問を口にする。それに対して俺は答えた。
「いえ、奴らは山賊ですから素直にサイグに向かうのではなく、彼らのアジトへと向かっていたのではないのか、と思いまして。・・・考え過ぎ、ですかね?」
「む・・・それは・・・」
ここは町への道から外れているのではないかという俺の疑念にジルジさんは「確かに」と唸る。
「しかし、それを確かめる術は・・・」
「あ、ではパっと飛んでいきます」
ジルジさんにそう告げて『飛行』の魔法を使い上空へと飛ぶ。木よりも高く上った後、くるりと、ダンスしているかのように一回転する。周りの様子を見渡して・・・町が近くにあるのを確認する。
風魔法を使って、雲を集めて町の方向へと矢印マークを描く。そうして俺は下に降りる。
「ケイン様・・・あれは・・・?」
降りてきた俺にジルジさんは、上空の矢印を指さしてそれを何か問う。それに対して俺は簡潔に答えた。
「あの矢印の方向に町があります。それが、サイグかどうかまでは分かりませんがとりあえずはそちらの方を目指しましょう」
その俺の指示にみんなが従い馬車の確認をする。どうやら馬たちは逃げ出さなかったらしく二台の馬車で移動できるようだ、だが、御者はもういない。
「ジルジさん達の中で御者できる人はいますか?」
「はい。私と、あとガイができると思います」
「では、二グループに分かれます。申し訳ありませんが、ジルジさんは師匠たちの馬車を担当してください。そして、ガイさんは召使の皆さんの馬車をお願いします」
「わかりました」
そのまま二手に分かれて馬車で町へと向かう。その道中、それなりに魔物が襲ってきたがすべて俺が撃退した。そこまで強いレベルの魔物ではなかったので数多く来ても余裕で対処できたのが幸いだった。
そのまま、馬車を走らせること数十分、少し火が傾きかけたころに俺たちはようやく最寄りの町に着いた。どうやら、その最寄りの町はサイグだったようだ。どうにかこうにか、元の進路へ戻れたというべきだろうか。
町の外の門にはたくさんの人がズラーッと並んでおり、待つのが大変そうだなと思っていると馬車は何故か人の並んでいないもう一つの門――貴族用の門――の方へ向かっていた。
「あれ?こっちでいいんですか?」
「ええ。スーラン家は王宮魔法使いの家なので半ば貴族のような扱いもされるのです。王宮魔法使いがもつ特権ですね。貴族門の使用もその特権の一つに当たりますね」
俺の質問にジルジさんは間もおかずに答える。ついでだからその特権とやらも聞いてみると意外と多くのことを聞けた。
特権その一、貴族門を使える。これは先も言った通り、貴族専用の門である貴族門の使用が可能だということだ。この門はほとんどの町に設置してあり、通門税などがかからずに済む門なのだとか。つまるところ、平民は通門税というのがかかるが貴族はそれがないということだな。かなり昔に大貴族相手に莫大な通門税をかけてむしり取ろうとした愚か者がいたらしく、それの対策らしい。・・・馬鹿じゃねえの?と俺は思った。
特権その二、通門税がかからない。これには俺も「ん?」と頭を傾げたがジルジさん曰く、
「小さい町などは門を一つ作るだけで精いっぱいというところもございますからね。その場合は貴族門がないので門兵から通門税を要求されることもありますが、その場合はその要求を受けないことができるという権利ですな」
とのこと。まあ、その一、その二を合わせて王宮魔法使いは通門税を払わなくてもいいということだな。ちなみに、ジルジさんや俺は「王宮魔法使いとその一行」というくくりなので同じく通門税が免除されているらしい。
特権その三、これは今回はあまり関係ないのだが、魔法具ショップで割引があるんだとか。魔法具ショップというのは、文字通り魔法具を売るショップである。そして、魔法具というのは魔法の力を込めた道具のことである。よくゲームであるような無限容量のアイテムバックとかもあるらしい・・・とんでもなく高価なものだが。ちなみに、師匠の発明した『魔法の荷馬車』も魔法具らしい。あと、魔法具ショップには何も魔法具しか売ってないわけではない。魔法の儀式に関する触媒やらなんやらも売って居たりするため師匠も割とお世話になることが多いらしい。特権の有効活用、いいとも思います。
特権その四、戦場における魔法使い部隊の指揮。これは特権というよりは義務のようなものだが、実際は自由意志であるのだとか。過去に、一騎当千な王宮魔法使いがいたが、その時代は魔法使い部隊の指揮が義務だったのでその魔法使いをうまく使えなかったらしくすぐに義務から特権になったのだとか。
そして、最後に今回に割と重要となる特権その五、王宮招集時の国民の協力の義務化。もともと、クランが早めに予約できたのはこれのおかげもあるらしい。今回、師匠は王宮へと「緊急招集」がかかっているため、クランは予定をできるかぎり開けて師匠の元へ駆けつけたらしい。もっとも、今となっては単純に山賊がいい機会だからこれを機に・・・とか考えたのかもしれないという思いがあるわけだが。
さて、この特権は他にも特徴があり、これは王宮魔法使いから王宮までの道のりで通る町の最高の宿が提供されるというものだ。王国が招集をかけてみたはいいものを、王宮魔法使いが疲弊しきっていても使い物にならないからという事情によるものらしい。あとは、道中で宿を取ろうとしてもすべて埋まっていては王宮魔法使いも休めず、これもまた疲弊してしまう原因になるから。という理由もあるのだとか。
以上が王宮魔法使いの特権である。もっとも、これ以外にも細かいのはいくらかあるらしいのだが、普段関係するのはこれくらいなのだとか。結構いろいろあるんだなと感心する。ちなみに今回はこれらの特権をフルに活用して王都への道を急ぐらしい。大変だね。
「と、つきましたね。ここが、この町の最高級の宿、『サイグの宴』でございます」
特権の話が終わるとちょうどいいタイミングで今夜泊まる予定の宿だ。本来なら、この町には寄らずに次の町で一泊とする予定だったが山賊騒ぎでそういうわけにもいかなかった。この時間でこの町を出ると次の町へ着くのは既に日も落ちて門も閉まってしまう頃合いなのだ。さて、一仕事するか。
「ジルジさんはここにいてください。僕は師匠たちを呼んできますので」
「分かりました。よろしくお願いします、ケイン様」
ジルジさんに声をかけて俺は御者席の隣からおりて後ろの馬車の扉を開ける。
「クー、師匠、つきましたよ」
「うんー」
「・・・・」
彼女らに声をかけるとクーは元気よく返事を返したが師匠は沈黙したままだった。それを見て俺はクーに声をかける。
「クー、ジルジさんたちが外にいるから彼らと一緒にいてくれないかな?僕は師匠を話があるから」
「・・・わかったー」
俺の頼みにクーはしぶしぶと外へ出る。それを見送った後、風魔法の上級魔法『静寂空間』を使った。この魔法を張った空間からは外へと音が漏れないという魔法でもっぱら秘密の会合などで使用されることが多い。それがちゃんと張られていることを確認し、師匠に改めて声をかける。
「師匠、大丈夫ですか?」
「・・・ああ」
俺の問いに師匠は暗い声音で返事をする。その顔は暗く、とんでもなくショックを受けている様子だった。・・・やれやれ、再出発したことはおかしい状態の師匠だったのに。
「師匠、今回のことは気にしても仕方ありませんよ。僕らは被害者、それだけが事実ですよ」
「・・・」
「師匠が知り合いから襲われた事実なんて忘れるんです。彼のことは記憶からさっぱりと消し去る。それがいいですよ」
「・・・」
「思いつめたって仕方ない。そうやって忘れないと。前へ進めま・・・」
「ねえ、ケイン君」
師匠を説得していると話をさえぎるように師匠が俺を呼ぶ。その声は暗いままだった。
「なんですか?」
「ケイン君は、ボクと彼の間柄を知ってるかい?」
「いえ、知りませんけども」
師匠の質問に俺は淡々と返す。それに対して師匠も淡々と返す。
「ボクが昔、この町で住んでいた時にお世話になっていた人なのさ。・・・まさか、あんなことになるなんてね・・・」
「師匠・・・」
予想以上に深い、師匠とクランの関係に俺は沈黙するしかなかった。それから師匠はとつとつと彼との思い出を話して俺は聞く・・・そういう時間が流れた。そして。話が終わると師匠は自分から馬車を出て行った。それに俺もついていく。しかし、馬車の外には予想外の人物がいた。
その人物は、服の上からでもわかるほど鍛え上げられた筋肉を持つ、人のいい笑顔を浮かべる男だった。・・・クランだ。
「は?・・・クラン、でも死んで・・・?」
「申し訳ございません、スーラン様!!」
思わいがけない人物に俺と師匠が呆然としていると、クランは突然地面に土下座した。それも頭を思いっきり打ちつけるすさまじいものだった。師匠はそれを見てうろたえる。
「え?え、なんで・・・?」
「うちの愚息がとんだご迷惑をおかけして、本当に申し訳ございません!!!」
・・・彼の話によると、だ。彼が帰って来たのは今朝がたのことらしい。しかも、出かけていたのは四日ほど前で俺たちの予約のことなど知らなかったらしい。が、近所の人から昨日一昨日に自分がいたという話と車庫からお得意様であるスーラン家の家紋が入った馬車がなくなっていたことからすべてを察したらしい。・・・ちなみに、今回山賊であったのは彼が絶縁した息子のスランというらしい。なんらかの不祥事を起こしたらしく絶縁に至ったらしい。似すぎだというと、彼は大変恐縮し、「本当にお騒がせしました」と頭を再び下げた。
・・・結果論だが、師匠は以前の状態に戻った。さっきの馬車の中のシリアスを返してもらいたいもんだと思ったが、まあ、実際に悲しみは少ない方がいい。
しかし、まあ・・・世界には同じ顔の人間が三人いるとか言うが・・・こんなやばいことで体験するとは思わなかった。こんな目には二度と会いたくないものだってこれはフラグかな?
その夜、俺たちは宿で夜を明かし、朝に町を出ることとなった。御者はクランさんとその弟子たちである。・・・もちろん、迷惑料などを込みで無料で王都まで届けてもらえるようになった。
だが、俺にはこの先にも何かがあるような気がしてならなかった。
まとめ:屋敷出発→御者は師匠の知り合い→御者が実は山賊→退治→師匠落ち込む→シリアス→実は御者は知り合いじゃなく似ている奴