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ぽっちゃり少年と旅するご近所の神様  作者: とっぷパン
一章 ”アルバス王国と騒乱” の段
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11話~龍帝の巫女とは

其々の場所で思惑が絡み合う中、我らがぽっちゃり少年は王都へと急ぐ!

「そう、そう言う事だったの……」


 僕達は今山越えの真っ最中。夜天にはこの世界でもう一週間程も見てきた双月が輝き、その二つの輝き星に照らされた山々には長い影と夜の闇が広がっている。

 闇に紛れて獣達の寝息と寝込みを狙う気配が交差する命の営み。その真っ只中を僕はアルバス王国第二王妃で在られるエルヴィーラさんを背中に担ぎ、頭には龍帝さんを乗せてひた走っている訳なんだ。


「ええ。僕ともう一人の連れが到着した頃には雲龍帝さんは虫の息、ドルゲさんも瀕死の状態で気力だけで踏ん張っていました」


 一応僕達が旅人である事意外は全て伏せ、偶々モレク山を通りかかった所で助ける事ができたと今話している途中。霊力に関しては触りだけ話してあるけども、魔力よりも邪気に対して有効な力くらいしか言う事も無い。大体、魔法と霊力の出来る事柄は似通っている場合が多い。唯その力の種類が違うだけであって、行き着く先の結果は似通っているんだよね。


「それで命からがらの状態から形勢逆転、雲龍帝様も命を繋いで新たな龍帝様が後継として御生まれになった……か。龍帝の巫女として実際にこの目で確かめねば、一笑に帰す話だわ」


「でしょうね~っと。……うん、この辺りにも邪気は居ないようですね」


 そう言って背中で朗らかに笑うエルヴィーラさん。確かに事情を知らない人が聞けば一笑に帰す話題だ。

 雲龍帝――つまりは志乃さんが生きている事だけなら何の問題も無いが、次代の龍帝さんが生まれたとなれば王国、邪気共々に大変な意味を持つ。それの良し悪しは互いの陣営にとって変わる所ではあるが、やはり追い詰められている王国にとっては吉祥の出来事であろう。


 木々の間を駆け抜け、邪魔な岩場を跳び、小山の天辺に着いた所で頭からずり落ちそうな龍帝さんを手で抑える。寝ている時の龍帝さんは湯たんぽもなんのそのと言わんばかりに暖かく、暖を取るのなら最適な暖かさで夜の冷えから僕達を守ってくれている。僕は動いているからそうでもないけど、背中のエルヴィーラさんは寒いだろうからね。

 晴れの日は逆に放射冷却で熱気が空へと逃げて肌寒い事この上なし。ましてや妙齢の女性ならば寒さも一入に感じる筈だし。先程まで邪気に侵されていた身体、風邪でも引かれたら事だよ。


「フォルカ王子は先に雲龍帝さんと共に王都へ送りました。娘さんが行方知れずになったと言う報告を伝令の方が命を賭して伝えてくれましたので、僕の連れが先導を勤めて今頃王城へと入っている事でしょう」


「そうね……そうある事を今は祈る他無いわ」


 どうやらこの王妃様。王族にありがちな”自分の子供や地位さえ良ければ他の王妃が子供など如何でも良い” みたいな、とてもありがちな人ではなく。其々の王妃が生んだ子供であっても愛情を注げる、立派な心掛けを持つ女性みたい。

 意識が戻り落ち着いて話が出来るようになってから、いの一番に質問された事は勿論龍帝さんの事だったけど。その次に聞かれたの御自身の娘さんの行方じゃ無かった、先に旅立ち雲龍帝さんの所へ向かった腹違いの息子さんの動向だったんだ。


『貴方、雲龍帝様を知っているのならば教えて頂戴……! フォルカは、私の息子であるフォルカ王子は生きているのですか!?』


 この言葉が出てきた時に考えられる事は二つ。一つは世間一般の噂の如く彼女が黒幕である事。これは至極単純で生死を確認すれば邪気達にとって優位な立場につけるからである。存命する王子は二人である以上、どちらかを先に亡き者にしてしまえば王国の崩壊など容易い物。血の襷渡しが途絶えた時、それは王朝が滅びる事を意味するのだからね。


 そしてもう一つは、彼女がとても愛情深い母親であるという事だった訳なんだ。如何やら今回は二つ目の方が正解で良かったけど、これが他の国でそうですかと聞かれたら一概には言えないよね?

国が違えば、場所が違えば、人であるのかそうでないのか……条件が違えば考え方は幾億通り。今回はそれが良い様に働いてくれたから御の字ってね。


「大分気温が下がってきましたね……寒くないですか?」


「ええ、龍帝様御自身の体温がとても暖かいし、何より貴方の背中がとっても暖かいから大丈夫よ。気を使ってくれてありがとう」


 とは言いつつも若干肌が冷たいご様子。着ていた服もボロボロな彼女が今纏っているのは、毎度お馴染みな僕の作務衣さんで御座います。今回は上下ともにお貸ししている状況で、通年で着れる一品なのである程度は大丈夫だけど。


「やはり大事を取って結界を張ります。な~に、病み上がりなのですから遠慮は無用ですよ!」


 それでも申し訳なさそうな態度をとるエルヴィーラさんを押し切る形で、笑顔を見せながら一旦背中ら下りて頂く。唯の結界術では冷気を凌げないので結界術式一ノ形、霊思結界の応用で対処しようか。

 結局は風呂敷結界の縮小版で対応も可能なんだ。でも、それよりもちょこっとばかし順位が上の霊思結界・暖と言う優れものがあるんだな~。熱を内部に閉じ込めながらも空気の巡回が出来、尚且つほんわか暖かいお昼寝気分を味わえる。積雪時の緊急避難目的で開発されたこの術は、今まで雪国の邪気討伐に際して大いに活躍してくれたんだ。


「”空より結ぶは霊思の界、内に包めしは春の陽だまり……” 結界術式一ノ形二番、霊思結界・暖」


 橙色の暖かな光がエルヴィーラさんの周りを包み込み、光が半透明な膜を作り上げ頂点を結んで結界となす。後は担ぎ易い様にっ……と、これで良し。

 結界の一部を指で掴み引っ張る。すると結界はみょ~んと餅の如くに伸び、しゃがんで背負う体勢にしてから首後ろより持ってきた。これを蝶々結びで結えば泥棒担ぎの風呂敷結界の完成。


「あぁ……暖かいわ、これ。王宮で採用している寝具よりも暖かい……寝ちゃいそう」


「寝て下さっても構いませんよ。中には外の振動が伝わらない様にしてありますから、僕も全力で走れますし。それに、龍帝さんもこれならゆっくり出来るでしょうしね」


 朝から戦闘を経て頑張ってくれた龍帝さんも、出来ればゆっくりと休んで欲しいものさ。龍帝とは言え、彼はまだまだ生まれたばかりの幼帝さんだ。きちんと睡眠をとらなきゃ成長できないと同時に、僕も保護者の立場として夜更かしは看過できない。

 世界の秩序を担う龍の帝に育って貰う為にも、もっちもちなお腹を夜風で冷やさない為にも! 夜は暖かな場所で寝てもらうのが一番である。そんな訳だから、僕も協力を惜しまず病み上がりの王妃さんと共に今は御休み。


「……良し! ほいじゃあ、またまた寝台列車風呂敷超特急と洒落込みますか」


 暖かな結界の中で二人共に深い眠りに入ったのを確認した後、僕は結界を背負い込んで走り出す。夜の野山に湿った風が吹き荒び、夜天に輝くは満天の星空。瞬く光の粒星が広がる下を、僕達は王国目指して駆け抜ける……。









 何の邪魔も無いままに走り続けて夜明け刻。地平線の彼方から差し込む太陽の光が夜空を照らし始め、明るさと共に大地に溢れる生命の営みが徐々に熱を帯び始める。

 其処彼処で動物達が目を覚まし、鳥さんの鳴き声が野山に木霊する中を早朝散歩気分で相も変わらず走ってます。最小限の足音だけで動いているからか、僕達に気付く物は居れど感心を引くまでには至って居ないご様子。


 途中小川を見つけたので水分補給をしてから再び走るが、数キロ走り抜けた所で視界が開け始め朝日が結界の中にも差し込む。

 やはり相当に疲れていたのだろう。一度も目を覚ます事無く休んでいたエルヴィーラさんの金髪に陽光が反射し、金糸の刺繍が煌く様が美しく暖かで穏やかな目覚めを促す。


「う~ん……!」


 ゆっくりと目蓋が開き始めた彼女は、結界の中で暫しぼ~っとした後に思い切り伸びをして欠伸を一つ。軽く頭を振って目元を擦りながらも覚醒した彼女は、まだ寝ている龍帝さんを抱き寄せると若干うとうとしつつ締まりの無い笑みを浮かべているね。


「……あら~、奏慈君おはよう~。今日もいい天気ね~」


「お早う御座います、エルヴィーラさん。良く眠れたみたいですね」


 起床時独特の和やかな挨拶を楽しみ、僕らはとりあえずの朝食を取る事に。


 起き抜けにまず水分を取る事から始め。口内の殺菌を兼ねて野草で効果のありそうな物を幾つか採取、鑑定をエルヴィーラさんにお願いしてから大丈夫な奴を選出。ハーブの様な物を噛み締めて口の中をさっぱりとした後に御飯の準備へと取り掛かる。


 始めに巾着袋から取り出したのは焼肉さん。これを指に霊力を纏わせた簡易ナイフでスライス、お皿は無いので無害な葉っぱの上に乗せて盛り付け。野菜チップスも軽く盛り付け、新鮮な果実であるメジェの実を一盛り。飲み物は近くの川原で酌んだ水を霊力の焔で煮沸、小さな結界の中に入れて簡易コップを作り上げればご機嫌な朝食だ。


 野原にある岩場に配膳し、準備が出来た所で待っている間に龍帝さんと戯れるエルヴィーラさんを呼び朝食の始まり。恐らく拉致監禁されてから殆ど何も食べてなかったのだろう、王族としての食事マナーをフル活用してがっつきこそしないものの結構な勢いで食べ進めていく彼女。

 その隣にお座りした龍帝さんも骨付きのまま焼肉を一本二本と食べ進めている中、僕は既に完食。食後の待ったりとした雰囲気に和みつつも、メジェの実を齧っているエルヴィーラさんに話の続きをしようかなと思っている訳でして……。


「ところで昨日の話の続きなんですけど。このまま行けば僕達は事件現場に直接乗り込む事になります。推測にはなりますが、王都内部での戦闘か王城内部での戦闘もあり得ますね」


「私が襲われた所は城内、それも雲龍帝様への儀式を執り行う祭場だったわ。娘も同じ所に居たのだけれど、あの子は龍帝の巫女だから易々と死にはしない筈だけれど……でも――」


 ふ~む、娘さんと言うと件のアルフェルカさんか。


 母親且つ先代龍帝の巫女であるエルヴィーラさんの話によると、巫女となる者には特殊な力が芽生えるんだって。それは雲龍帝であった志乃さんとある契約を交わす事で代々の巫女が受け継いできた力であるらしく。それが故に、モレク山の戦いにおいて五大龍帝の一角である彼女が力の殆どを契約者に注いだ結果、低級の邪気相手に苦戦する位激しく衰弱していた原因でもあるらしい。


 だが、力を発現した巫女の能力は絶大であり、並みの邪気では迂闊に手を出せないとの事。ある種、自身の力を削り契約者に分け与えるものである為に、幾ら五大龍帝の一角であっても数百代も続いた龍帝の巫女が負担は大きかったと言う話だね。


 因みに、龍帝の巫女は必ず王家にである必然性は無く、過去には平民や貧民街出身の人も居た。王国の民であれば誰がしかに発現し、発現した者は身分の如何は関係なくすべからく巫女となり平和の礎と身を奉げた。

 逆に王族はと言うと。現在の王家の証でもある魔法玉石を志乃さんから授かり、王家の血脈にだけ反応する玉石を代々継承して今上国王まで続く……。


「代々の巫女に継承される力、それは邪を封じ大地を清める神秘の行。力は邪を遠ざけ巫女を守る盾にもなるの。だから、力がある内は命を失う確立が殆ど無いのよ」


 言わば結界の役割も担える力がある、か。力の源は志乃さんからの譲渡で、感応して力を受け取っている訳ではないから龍帝の代替わりがあっても大丈夫って事かな。

 だけども、その程度で邪気に抗えるかと言えば……。


「あくまでも推測の域を出ませんが、王都に巣食う邪気は少なくとも下位以上中位未満である可能性が高いと思います。モレク山で王子達御一行を襲っていたのは、僕の基準からすれば下位中段の邪気。弱りきっていた志乃さんを屠るには十分で、この位を当ててくる事から推察しても更に上位の中位が居ても何ら可笑しくはありません」


 若い頃は志乃さんも邪気を滅する力は十分あったそうだから、力を譲渡された巫女はかなり強かったのだろう。

 しかして、近年の志乃さんは晩年も最晩年。ほぼ今わの際と言っても差し支えの無き力の衰えだったみたいだし、力の譲渡も歴代と差し支えは無いにしろ質の面から見て宜しくは無かった筈。故に、幾ら龍帝の巫女と言えどあまり時間をかけては邪気に飲み込まれかねない状況である事には変わらない様だね。


「ですので、娘さんが現状何処にいるのか無事なのかは断定できません。時間をかけすぎると命の保障が出来兼ねない状況なんです」


 僕の言葉で表情をを暗くするエルヴィーラさん。せめて居所さえ分かれば対処の仕様もあるだけれど……。

 暗い雰囲気で沈み込む僕達。食後の和やかな雰囲気も何処へやら、悲痛な顔で黙り込む彼女を心配そうに覗き込む龍帝さんに顔を舐められた時。はっとした様子で顔を上げたエルヴィーラさんの口から零れ出たのは――――


「――そうよ、何故今まで忘れていたのかしら……! 理由も無く力だけで化け物達からは逃れはしないのは分かりきっている事。それを当然様に無事だと言い切っている言動に、さっきから可笑しくは思っていたのよ! 私は見たのよ、娘が――――」


 成る程。ならば、まだ手はありそうだね!


 打開策を見出した僕達。膳は急げで後片付けを済ませ、再び風呂敷超特急の体勢に入る。起死回生の一手を決めるのは時間と僕の足、それにエルヴィーラさんの情報。高まる期待を胸に飯の余韻もそのまま、大地を駆け抜ける僕達であった。




本日はこれにて御仕舞い!

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